【実施例】
【0027】
以下に説明する各実施例は、外面が球面、内面が累進面で、かつ、非球面形状の累進屈折力レンズ1であり、屈折率nが1.662、累進帯長が14mmである。
ここで、
図1において、累進開始点PS及びフィッティングポイントは(X,Y)=(0,4mm)であり、累進終了点PEは(X,Y)=(−2.5mm,−10mm)であり、遠用測定ポイントDPは(X,Y)=(0,8mm)であり、近用測定ポイントNPは(X,Y)=(−2.5mm,−13mm)であり、プリズム測定ポイントOは(X,Y)=(0,0)である。装用時のレンズ前傾角が6度(degree)である。
【0028】
[実施例1]
実施例1では、外面カーブが2.50ディオプトリーであり、レンズ中心厚が1.1mmである。
処方は球面度数Sが−5.00ディオプトリーであり、加入度ADDが2.50ディオプトリーである。実施例1では、乱視度数が設定されていない。
処方される球面度数Sと乱視度数Cとの式「S+C/2」からなる処方値Tは、T=−5.00+0=−5.00である。つまり、実施例1は処方値Tがマイナスとなるマイナスレンズである。
【0029】
実施例1では、
図2に示されるグラフの通り、眼鏡装用時の等価球面度数Dを設定した。
図2は実施例1の眼鏡装用時の等価球面度数Dを示すx座標とy座標との関係を示すグラフである。
図2のy座標は
図1のY軸に対応している。つまり、
図2のy座標において、0は
図1のY軸における0と同じであり、y座標の数値はY軸の数値と同じである。例えば、y座標における4mmの位置は累進開始点PSのY軸上の位置であり、y座標の−10mmの位置は累進終了点PEのY軸上の位置である。累進開始点PSの位置である4mm以上のエリアは遠用領域にある。各y座標における眼鏡装用時の等価球面度数Dは、レンズ上の各Y軸上の位置を通り、かつ装用者の眼の回旋中心を通る光線の等価球面度数Dである。
実施例1では、遠用領域2に位置する等価球面度数Dの処方値Tに対する度数差ΔDがマイナスとなる領域が一部に含まれるように処方値Tに対してマイナス側にシフトして設定される。つまり、y座標が4mm以上8mm以下の範囲において、等価球面度数Dが−5.00ディオプトリーより小さな領域が遠用領域2に含まれ、y座標が8mmを超えると、処方値Tに対してプラス側になるように等価球面度数Dが設定される。
例えば、y座標が4mmにある累進開始点PSの位置では、座標(x,y)は(−5.09ディオプトリー,4mm)であり、y座標が8mmの位置では、座標(x、,y)は(−5.02ディオプトリー,8mm)であり、y座標が12mmの位置では、(x,y)は(−4.89ディオプトリー,12mm)である。
図1より、度数差ΔDは最大でも−0.1ディオプトリー以下である。
また、遠用領域2であって累進開始点PSよりもy座標が大きい領域では、等価球面度数Dが処方値Tと同じ値となる点ycがあり、この点ycの座標(x,y)は(−5.00ディオプトリー,8mm)である。点ycの累進開始点PSに対する位置は4mmであり、点ycの遠用測定ポイントDPに対する位置は0mm(同じ位置)である。
【0030】
図3は実施例1の非点収差とy座標との関係を示すグラフである。
図3において、遠用領域2における非点収差は最大でも0.11ディオプトリーである。例えば、y座標が4mmでの非点収差が0.02ディオプトリーであり、y座標が8mmでの非点収差が0.05ディオプトリーであり、y座標が12mmでの非点収差が0.10ディオプトリーである。
ここで、実施例を評価する基準としてボケ指数について説明する。
ボケ指数とはレンズ装用時に度数誤差や非点収差によるボケの程度を示すものである。レンズの倍率及び個人の感度により、ボケか否かの客観的な判定は難しいが、ボケ指数が大きいほどレンズ装用時の分解能は落ちていく傾向にある。
レンズを通して点光源を見たとき、その度数誤差や非点収差によって、網膜上では点ではなく円や楕円に結像する。この円を錯乱円といい、錯乱円に外接する四角形の対角線の長さに相当するものがボケ指数である。つまり、錯乱円(楕円)の長軸の長さをa、短軸の長さをbとすると、ボケ指数は錯乱円の対角線の長さ(a
2+b
2)
1/2となる。実施例1では、無限遠を無調節で見ると言う条件でボケ指数を計算した。
実施例1のボケ指数とy座標との関係が
図4に示されている。
図4において、y座標が4mmでのボケ指数は0.10であり、y座標が8mmでのボケ指数が0.04であり、y座標が12mmでのボケ指数が0.13である。
図4からボケ指数は点ycの近くで最も小さな値となっており、遠用領域2の周縁で相対的に大きな値となっていることがわかる。
【0031】
[実施例2]
実施例2では、外面カーブが1.00ディオプトリーであり、レンズ中心厚が1.1mmである。
処方は球面度数Sが−8.00ディオプトリーであり、加入度ADDが2.50ディオプトリーである。実施例2では、乱視度数が設定されていない。
処方される球面度数Sと乱視度数Cとの式「S+C/2」からなる処方値Tは、T=−8.00+0=−8.00である。つまり、実施例2は処方値Tがマイナスとなるマイナスレンズである。
【0032】
実施例2では、
図5で示されるグラフの通り、眼鏡装用時の等価球面度数Dを設定した。
図5は実施例2の眼鏡装用時の等価球面度数Dを示すx座標とy座標との関係を示すグラフである。
実施例2では、遠用領域2に位置する等価球面度数Dの処方値Tに対する度数差ΔDがマイナスとなる領域が一部に含まれるように処方値Tに対してマイナス側にシフトして設定される。つまり、y座標が4mm以上9mm以下の範囲において、等価球面度数Dが−8.00ディオプトリーよりマイナス側の領域が遠用領域2に含まれ、y座標が9mmを超えると、処方値Tに対してプラス側になるように等価球面度数Dが設定される。
例えば、y座標が4mmにある累進開始点の位置では、座標(x,y)は(−8.06ディオプトリー,4mm)であり、y座標が8mmの位置では、座標(x、,y)は(−8.04ディオプトリー,8mm)であり、y座標が12mmの位置では、(x,y)は(−7.87ディオプトリー,12mm)である。
図5より、度数差ΔDは最大でも−0.1ディオプトリー以下である。
また、遠用領域2であって累進開始点PSよりもy座標が大きい領域では、等価球面度数Dが処方値Tと同じ値となる点ycがあり、この点ycの座標(x,y)は(−8.00ディオプトリー,9mm)である。点ycの累進開始点PSに対する位置は5mmであり、点ycの遠用測定ポイントDPに対する位置は1mmである。
【0033】
図6は実施例2の非点収差とy座標との関係を示すグラフである。
図6において、遠用領域2における非点収差は最大でも0.11ディオプトリーである。例えば、y座標が4mmでの非点収差が0.02ディオプトリーであり、y座標が8mmでの非点収差が0.04ディオプトリーであり、y座標が12mmでの非点収差が0.10ディオプトリーである。
実施例2のボケ指数とy座標との関係が
図7に示されている。
図7において、y座標が4mmでのボケ指数が0.04であり、y座標が8mmでのボケ指数が0.03であり、y座標が12mmでのボケ指数が0.10である。ボケ指数は点ycの近くで最も小さな値となっており、遠用領域2の周縁側に向けて相対的に大きな値となっていることがわかる。
【0034】
[実施例3]
実施例3では、外面カーブが2.50ディオプトリーであり、レンズ中心厚が1.1mmである。
処方は球面度数Sが−5.00ディオプトリーであり、乱視度数Cが−2.00ディオプトリーであり、乱視軸が45度(degree)であり、加入度ADDが2.50ディオプトリーである。
処方される球面度数Sと乱視度数Cとの式「S+C/2」からなる処方値Tは、T=−5.00+(−2.00/2)=−6.00である。つまり、実施例2は処方値Tがマイナスとなるマイナスレンズである。
【0035】
実施例3では、
図8で示されるグラフの通り、眼鏡装用時の等価球面度数Dを設定した。
図8は実施例3の眼鏡装用時の等価球面度数Dを示すx座標とy座標との関係を示すグラフである。
実施例3では、遠用領域2に位置する等価球面度数Dの、処方値Tに対する度数差ΔDがマイナスとなる領域が一部に含まれるように処方値Tに対してマイナス側にシフトして設定される。つまり、y座標が4mm以上9mm以下の範囲において、等価球面度数Dが−6.00ディオプトリーよりマイナス側の領域が遠用領域2に含まれ、y座標が9mmを超えると、処方値Tに対してプラス側になるように等価球面度数Dが設定される。
例えば、y座標が4mmにある累進開始点の位置では、座標(x,y)は(−6.02ディオプトリー,4mm)であり、y座標が8mmの位置では、座標(x,y)は(−6.03ディオプトリー,8mm)であり、y座標が12mmの位置では、(x,y)は(−5.90ディオプトリー,12mm)である。
図8より、度数差ΔDは最大でも−0.08ディオプトリー以下である。
また、遠用領域2であって累進開始点PSよりy座標が大きい領域では、等価球面度数Dが処方値Tと同じ値となる点ycがあり、この点ycの座標(x、,y)は(−6.00ディオプトリー,9mm)である。点ycの累進開始点PSに対する位置は5mmであり、点ycの遠用測定ポイントDPに対する位置は1mmである。
【0036】
図9は実施例3の非点収差とy座標との関係を示すグラフである。
図9において、遠用領域2における非点収差は最大でも0.32ディオプトリーである。y座標が4mmでの非点収差が0.02ディオプトリーであり、y座標が8mmでの非点収差が0.13ディオプトリーであり、y座標が12mmでの非点収差が0.24ディオプトリーである。
実施例3のボケ指数とy座標との関係が
図10に示されている。
図10において、y座標が4mmでのボケ指数が0.02であり、y座標が8mmでのボケ指数が0.03であり、y座標が12mmでのボケ指数が0.10である。ボケ指数は点ycの近くで最も小さな値となっており、遠用領域2の周縁が相対的に大きな値となっていることがわかる。
【0037】
[実施例4]
実施例4では、外面カーブが7.00ディオプトリーであり、レンズ中心厚が4.1mmである。
処方は球面度数Sが+4.50ディオプトリーであり、加入度ADDが1.50ディオプトリーである。実施例4では、乱視度数が設定されていない。
処方される球面度数Sと乱視度数Cとの式「S+C/2」からなる処方値Tは、T=+4.50+0=+4.50である。つまり、実施例4は処方値Tがプラスとなるプラスレンズである。
【0038】
実施例4では、
図11で示されるグラフの通り、眼鏡装用時の等価球面度数Dを設定した。
図11は実施例4の眼鏡装用時の等価球面度数Dを示すx座標とy座標との関係を示すグラフである。
実施例4では、遠用領域2に位置する等価球面度数Dの処方値Tに対する度数差ΔDにプラスとなる領域が一部に含まれるように処方値Tに対してプラス側にシフトして設定される。つまり、y座標が4mm以上9mm以下の範囲において、等価球面度数Dが+4.5ディオプトリーよりプラス側の領域が遠用領域2に含まれ、y座標が9mmを超えると、処方値Tに対してマイナス側になるように等価球面度数Dが設定される。
例えば、y座標が4mmにある累進開始点の位置では、座標(x,y)は(4.56ディオプトリー,4mm)であり、y座標が8mmの位置では、座標(x,y)は(4.51ディオプトリー,8mm)であり、y座標が12mmの位置では、(x,y)は(4.43ディオプトリー,12mm)である。
図11より、度数差ΔDは最大でも0.06ディオプトリー以下である。
また、遠用領域2であって累進開始点PSよりy座標が大きい領域では、等価球面度数Dが処方値Tと同じ値となる点ycがあり、この点ycの座標(x,y)は(4.5ディオプトリー,9mm)である。点ycの累進開始点PSに対する位置は5mmであり、点ycの遠用測定ポイントDPに対する位置は1mmである。
【0039】
図12は実施例4の非点収差と座標yとの関係を示すグラフである。
図12において、遠用領域2における非点収差は最大でも0.06ディオプトリーである。例えば、y座標が4mmでの非点収差が0.02ディオプトリーであり、y座標が8mmでの非点収差が0.02ディオプトリーであり、y座標が12での非点収差が0.00ディオプトリーである。
実施例4のボケ指数と座標yとの関係が
図13に示されている。
図13において、y座標が4mmでのボケ指数が0.08であり、y座標が8mmでのボケ指数が0.02であり、y座標が12mmでのボケ指数が0.08である。ボケ指数は点ycの近くで最も小さな値となっており、遠用領域2の周縁が相対的に大きな値となっていることがわかる。
【0040】
[実施例5]
実施例5では、外面カーブが5.00ディオプトリーであり、レンズ中心厚が3.3mmである。
処方は球面度数Sが+3.00ディオプトリーであり、加入度ADDが1.50ディオプトリーである。実施例5では、乱視度数が設定されていない。
処方される球面度数Sと乱視度数Cとの式「S+C/2」からなる処方値Tは、T=+3.00+0=+3.00である。つまり、実施例5は処方値Tがプラスとなるプラスレンズである。
【0041】
実施例5では、
図14で示されるグラフの通り、眼鏡装用時の等価球面度数Dを設定した。
図14は実施例5の眼鏡装用時の等価球面度数Dを示すx座標とy座標との関係を示すグラフである。
実施例5では、遠用領域2に位置する等価球面度数Dの処方値Tに対する度数差ΔDにプラスとなる領域が一部に含まれるように処方値Tに対してプラス側にシフトして設定される。つまり、y座標が4mm以上7mm以下の範囲において、等価球面度数Dが+3.0ディオプトリーよりプラス側の領域が遠用領域2に含まれ、y座標が7mmを超えると、処方値Tに対してマイナス側になるように等価球面度数Dが設定される。
例えば、y座標が4mmにある累進開始点の位置では、座標(x,y)は(3.08ディオプトリー,4mm)であり、y座標が8mmの位置では、座標(x、y)は(2.99ディオプトリー,8mm)であり、y座標が12mmの位置では、(x,y)は(2.92ディオプトリー,12mm)である。
図14より、度数差ΔDは最大でも0.08ディオプトリー以下である。
また、遠用領域2であって累進開始点PSよりy座標が大きい領域では、等価球面度数Dが処方値Tと同じ値となる点ycがあり、この点ycの座標(x、y)は(3.0ディオプトリー,7mm)である。点ycの累進開始点PSに対する位置は3mmであり、点ycの遠用測定ポイントDPに対する位置は−1mmである。
【0042】
図15は実施例5の非点収差と座標yとの関係を示すグラフである。
図15において、遠用領域2における非点収差は最大でも0.05ディオプトリーである。y座標が4mmでの非点収差が0.03ディオプトリーであり、y座標が8mmでの非点収差が0.02ディオプトリーであり、y座標が12mmでの非点収差が0.00ディオプトリーである。
実施例5のボケ指数と座標yとの関係が
図16に示されている。
図16において、y座標が4mmでのボケ指数が0.15であり、y座標が8mmでのボケ指数が0.03であり、y座標が12mmでのボケ指数が0.14である。ボケ指数は点ycの近くで最も小さな値となっており、遠用領域2の周縁が相対的に大きな値となっていることがわかる。
【0043】
[比較例1]
比較例1は従来の累進屈折力レンズであり、度数差ΔDを設けていない点を除けば実施例1と同じである。
つまり、比較例1では、外面球面、内面累進及び非球面形状の累進屈折力レンズ1であり、屈折率nが1.662、累進帯長が14mmである。
累進開始点PS及びフィッティングポイントは(X,Y)=(0,4mm)であり、累進終了点PEは(X,Y)=(−2.5mm,−10mm)であり、遠用測定ポイントDPは(X,Y)=(0,8mm)であり、近用測定ポイントNPは(X,Y)=(−2.5mm,−13mm)であり、プリズム測定ポイントは(X,Y)=(0,0)である。装用時のレンズ前傾角が6度(degree)である。
比較例1では、外面カーブが2.50ディオプトリーであり、レンズ中心厚が1.1mmである。
処方は球面度数Sが−5.00ディオプトリーであり、加入度ADDが2.50ディオプトリーである。比較例1では、乱視度数が設定されていない。
処方される球面度数Sと乱視度数Cとの式「S+C/2」からなる処方値Tは、T=−5.00+0=−5.00である。つまり、比較例1は処方値Tがマイナスとなるマイナスレンズである。
【0044】
比較例1は
図17のグラフのように眼鏡装用時の等価球面度数Dを設定する。
図17は比較例1の眼鏡装用時の等価球面度数Dを示すx座標とy座標との関係のグラフである。
比較例1では、y座標が4mmにある累進開始点PSでの等価球面度数Dが−4.94ディオプトリーであり、y座標が8mmでの等価球面度数Dが−4.95ディオプトリーであり、y座標が12mmでの等価球面度数Dが−4.84ディオプトリーである。比較例1では、等価球面度数Dと処方値Tとが一致することがなく、累進開始点PSの近傍の値が処方値Tに最も近い値となる。
図18は比較例1の非点収差とy座標との関係を示すグラフである。
図18において、遠用領域2における非点収差は最大でも0.07ディオプトリーである。例えば、y座標が4mmでの非点収差が0.02ディオプトリーであり、y座標が8mmでの非点収差が0.03ディオプトリーであり、y座標が12mmでの非点収差が0.06ディオプトリーである。
比較例1のボケ指数とy座標との関係が
図19に示されている。
図19において、y座標が4mmでのボケ指数が0.07であり、y座標が8mmでのボケ指数が0.06であり、y座標が12mmでのボケ指数が0.19である。
【0045】
実施例1と比較例1とを比較すると、実施例1には眼鏡装用時の等価球面度数Dが処方値Tに対してマイナスの度数差ΔDとなる領域が遠用領域2にあるのに対して、比較例1では、マイナスとなる度数差ΔDがない点で相違するが、他の条件は同じである。
実施例1と比較例1とのボケ指数を比較すると、実施例1は比較例1に比べて、累進開始点PSの近傍ではボケ指数が高くなっているが、遠用領域2のほとんどの領域でボケ指数が低いものとなっている。ここで、実施例1が比較例1に比べて累進開始点PSの近傍のボケ指数が高いものとなってはいるが、その数値0.10はレンズ装用者に大きな負担をかけるものではない。これに対して、比較例1では、y座標が9mm以上となった領域でボケ指数が0.10以上となっており、遠用領域2の周辺部であるy座標が12mmを超えた値となると、ボケ指数が0.20以上となり、レンズ装用者にかなりの負担をかけることになる。
【0046】
従って、本実施形態では、次の作用効果を奏することができる。
(1)遠用領域2、近用領域3及び累進領域4を有し、かつ、内面が非球面形状とされた累進屈折力レンズ1において、処方される球面度数Sと乱視度数Cとの式「S+C/2」から得られる処方値Tがマイナスである場合では、等価球面度数Dの処方値Tに対する度数差ΔDがマイナスとなる領域が遠用領域2での主注視線6の上にあるので、等価球面度数Dが遠用領域の周辺部に向かうに従ってプラス側に変化しても、遠用領域2の周辺での等価球面度数Dと処方値Tとの度数誤差が従来の度数誤差より小さくなる。一方、処方値Tがプラスとなる場合では、等価球面度数Dの処方値Tに対する度数差ΔDがプラスとなる領域が遠用領域2にあるから、等価球面度数Dが遠用領域の周辺に向かうに従ってマイナス側に変化しても、遠用領域の周辺での等価球面度数Dと処方値Tとの差が従来の差より小さくなる。
そのため、非球面設計がされることで遠用領域2の周辺部の非点収差が低減され、しかも、遠用領域2の全体の度数をシフトすることにより、遠用領域2の周辺の度数誤差を低減することができる。
【0047】
(2)度数差ΔDを0.25ディオプトリー未満としたことにより、従来と同様に累進屈折力レンズを製造することができる。つまり、球面度数Sと乱視度数Cの処方が0.25ディオプトリーピッチで製作される従来の累進屈折力レンズと度数差ΔDの範囲を合わせたので、従来の方法を利用することができる。仮に、遠用測定ポイントDPにおいて、処方値Tに近い値が得られるとしても、遠用測定ポイントDPから数ミリしか離れていない累進開始点PSで0.25ディオプトリーピッチ以上の度数のシフトが存在することは、隣接する処方のレンズを作製するようなものなので、処方する側の要求に反することになり、好ましいとはいえない。
【0048】
(3)処方値Tと遠用領域2で眼鏡装用時の等価球面度数Dとが一致する点ycが1つ存在するため、この点ycを中心に等価球面度数Dを設定することで、点ycの周辺において度数誤差が少なく、周辺部における度数誤差が従来よりも少ない累進屈折力レンズを容易に製造することができる。
【0049】
(4)眼鏡装用時の等価球面度数Dを、処方値Tがマイナスの場合とプラスの場合とで分けて設定したから、遠用領域2の周辺部で非点収差と度数誤差との双方を容易に改善することができる。
【0050】
(5)累進屈折力レンズ1の枠入れの際には遠用測定ポイントDPを中心とした直径8mm程度の円がフレーム内に収まるように枠入れすることが望ましいが、本実施形態では、点ycは遠用測定ポイントDPの位置に対して±4mmの位置(実施例1〜4は1mmの位置、実施例5は−1mmの位置)にあるので、一般的な枠入れの方法で本実施形態の累進屈折力レンズを有する眼鏡を容易に製造することができる。つまり、本実施形態の効果を有する眼鏡を提供することができる。
【0051】
(6)遠用測定ポイントDPと累進開始点PSが4mm以上離れていないレイアウトの場合では、累進開始点PSの近傍が点ycとなれば、累進開始点PSで度数のシフトが存在することと矛盾し、従来の累進屈折力レンズと何ら変わりのないものとなってしまうが、本実施形態では、点ycが累進開始点PSより2mm以上(実施例1〜4では9mm、実施例5では7mm)離れているので、前述の不都合を回避することができる。
【0052】
(7)内面に非球面設計と累進面との双方が形成され、外面に球面が形成されるから、外面カーブを一定にすることで、揺れや歪みの発生要因が減少することになるため、光学性能を向上させることができる。
【0053】
なお、本発明は、上述した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲で以下に示される変形をも含むものである。
例えば、前記実施形態では、遠用領域2、近用領域3及び累進領域4を有する標準的な累進屈折力レンズを例として説明したが、遠用領域2と、この遠用領域2とは異なる他の領域とを有するレンズであれば、いかなる構造のレンズにも本発明を適用することができる。
【0054】
前記実施形態では、内面に累進面と、累進面に合成される非球面設計(乱視を矯正するトーリック面を含む)の双方が形成され、外面に球面が形成された構成としたが、本発明では、眼鏡装用時の等価球面度数Dが前述のように設定されていれば作用効果が得られる。したがって、非球面設計(トーリック面を含む)は内面及び外面の双方あるいは外面のみに形成されるものでもよく、累進面は内面及び外面の双方あるいは外面のみに形成されるものでもよい。また、内面及び外面の双方が非球面形状であって、これらが組み合わさることにより眼鏡装用時に累進屈折力レンズとしての機能を得られるものでもよい。