(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記多孔質炭酸カルシウム粉粒体が貝殻粉粒体であり、前記軟化温度が600℃以上675℃以下であるガラスが、ストロンチウム若しくはバリウムを含有するガラス、または、ブラウン管パネルガラスである請求項1又は請求項2に記載の造粒体。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
なお、数値範囲を示す表現において、「〜」で表される数値範囲における上限と下限の数値は、当該数値範囲の範囲内に包含される。
【0019】
<造粒体>
本発明の造粒体は、多孔質炭酸カルシウム粉粒体と、前記多孔質炭酸カルシウム粉粒体と結合し、軟化温度が600℃以上675℃以下であるガラスと、を含有する。
本発明の効果を損なわない限度において、更に粘着剤等を含有していてもよい。
本発明の造粒体を、上記構成とすることでリン酸の吸着性に優れた造粒体とし得る理由は定かではないが、次の理由によるものと推察される。
以下、「軟化温度が600℃以上675℃以下であるガラス」を、『特定ガラス』と称する。
【0020】
カルシウムは、リン酸と反応してリン酸カルシウムを生成するため、カルシウムを含む化合物、および、カルシウムを含む化合物を含有する材料は、リン酸とを吸着する作用を有する。カルシウムを含む化合物、および、カルシウムを含む化合物を含有する材料におけるリン酸とムの吸着量は、カルシウムの量、および、カルシウムの表面積の大きさに依存し、カルシウム含有量が多いほど、そして、カルシウムの比表面積が大きいほど、リン酸との吸着量が大きくなる傾向にある。
ここで、多孔質炭酸カルシウム粉粒体は、リン酸と反応してリン酸カルシウムを生成し易い炭酸カルシウムであり、多孔質かつ粉粒体であることで、リン酸と反応する炭酸カルシウムの比表面積が非常に大きい構造である。
【0021】
ところで、リン酸を吸着する造粒体は、一般に、造粒体を、リン酸を含有する水に投入した後、回収して用いられる。なお、リン酸を含有する水であって、本発明の造粒体によりリン酸が吸着されていない水を、以下、単に「被処理水」ともいう。また、被処理水を本発明の造粒体と接触させ、水中の少なくとも一部のリン酸を吸着して取り除くことを「処理」ともいい、処理された水を「処理水」とも称する。
【0022】
このとき、造粒体は、通常、網やフィルターを用いて回収されるが、造粒体の粒径が小さいと、網目やフィルターの目をくぐり抜けるため、回収することができず、新たな水質汚濁を引き起こしてしまうおそれがある。一方、回収を容易にするために、多孔質炭酸カルシウムの粒径を大きくすると、炭酸カルシウムの比表面積が小さくなる傾向にある。
これに対し、多孔質炭酸カルシウムの形状を粉粒体としたまま、当該粉末を結合する結合剤を用いることで、多孔質炭酸カルシウム粉粒体を大径化することができる。
【0023】
多孔質炭酸カルシウム粉粒体の結合剤としては、有機系、無機系等の種々の結合剤が考えられるところ、有機系の結合剤を用いた場合、本発明の造粒体を水質改善用途に用いた場合に、リン酸を回収しつつも、有機系の結合剤に起因する新たな水質汚染を引き起こしかねない。また、無機系の結合剤の中でも、軟化温度が600℃以上675℃以下である特定ガラス粉末を用いることで、炭酸カルシウムが分解する温度(700℃以上)よりも低い温度で多孔質炭酸カルシウム粉粒体を結合し得るので、炭酸カルシウムの量を減少させずに、多孔質炭酸カルシウム粉粒体を大径化した造粒体が得られ易い。
従って、本発明の造粒体は、炭酸カルシウムの含有量が多く、かつ、炭酸カルシウムの比表面積が大きいと考えられる。
【0024】
以上より、本発明の造粒体を、多孔質炭酸カルシウム粉粒体と、軟化温度が600℃以上675℃以下であるガラス(特定ガラス)と、を含有し、特定ガラスが多孔質炭酸カルシウム粉粒体と結合している構成とすることで、リン酸の吸着性に優れた造粒体とし得ると考えられる。
【0025】
なお、既述の特許文献1および特許文献2に代表される炭酸カルシウムを発泡剤として用いたガラス発泡体は、炭酸カルシウムを分解して用い、一方、本発明の造粒体は、炭酸カルシウムを分解せずに、多孔質の炭酸カルシウムを用いる点で大きく異なる。特に、特許文献4に示されるガラス発泡体は、発泡材粉を800〜1100℃の高温で焼成しているため、炭酸カルシウムが大きく分解し、ガラス発泡体中のカルシウム含有量を減少させている。特許文献3における固化成型体は、貝殻の多孔質構造をアルカリ水溶液の添加により破壊しており、カルシウムの比表面積が減少している。また、特許文献5に記載の焼結体は、本発明における特定ガラス粉末とは、軟化温度が大きく異なる水ガラスを用いており、本発明の造粒体と大きく異なる。
以下、本発明の造粒体について、説明する。
【0026】
〔特定ガラス〕
特定ガラスは、多孔質炭酸カルシウム粉粒体と結合し、軟化温度が600℃以上675℃以下であるガラスである。
本発明の造粒体の製造方法の詳細は、後述するが、多孔質炭酸カルシウム粉粒体と特定ガラス粉末との混合物を600℃以上675℃以下で焼成することにより得られる。既述のように、700℃以上に加熱すると、炭酸カルシウムが発泡し、リン酸を吸着するカルシウムの量が減少する。従って、多孔質炭酸カルシウム粉粒体を結合する結合剤として機能するガラスは、炭酸カルシウムが発泡し難い温度で軟化し、多孔質炭酸カルシウム粉粒体と結合することで、多孔質炭酸カルシウム粉粒体同士を結合することが可能なガラスである必要がある。
本発明における特定ガラスは、600℃以上675℃以下で軟化するガラスであるので、炭酸カルシウムが発泡し難い温度で軟化し、多孔質炭酸カルシウム粉粒体と結合することで、多孔質炭酸カルシウム粉粒体同士を結合することができる。
【0027】
特定ガラスとしては、より具体的には、ストロンチウム若しくはバリウムを含有するガラス、または、ブラウン管パネルガラスが挙げられる。
ブラウン管〔CRT(Cathode Ray Tube)ともいう〕は、いわゆるブラウン管テレビに用いられる映像を映し出すガラスであり、ブラウン管テレビの全重量の約60重量%を占める部材である。
日本では、テレビの電波がアナログ波からデジタル波に移行することに伴い、ブラウン管テレビから、薄型テレビへの買い替えが進み、ブラウン管テレビの廃棄が急速に進んでいる。また、世界各国においても、ブラウン管テレビから薄型テレビへの移行が進みつつあり、ブラウン管(CRT)パネルガラスの回収およびリサイクルの必要性が高まってきている。
【0028】
CRTパネルガラスは、通常、再利用品であり、廃棄されたCRTを回収し、パネルガラスを取り外して粉砕し、溶融加工して、再度、新たなCRTパネルガラスを再生する。回収されたCRTパネルガラスは、家電メーカー各社のCRTパネルガラスが混在しているため、CRTパネルガラスを再生するたびに、CRTパネルガラスの物性が平均化されてきている。そのため、近年の家電メーカー各社のCRTパネルガラスの軟化温度は、一般に、600℃以上675℃以下である。
【0029】
また、CRTパネルガラスは、一般に、ストロンチウムまたはバリウムを含有している。CRTパネルガラスの成分組成は、製品によって異なるものの、二酸化ケイ素(SiO
2)を45重量%〜55重量%、酸化ストロンチウム(SrO)を10重量%〜20重量%、酸化バリウム(BaO)を8重量%〜18重量%の範囲で含有していることが一般的である。CRTパネルガラスには、さらに、ナトリウム、カリウム、亜鉛、アルミニウム等が、酸化物として含まれる。
従って、特定ガラスとして、ストロンチウムまたはバリウムを含有するガラスを用いてもよい。特定ガラス中のストロンチウムまたはバリウムの含有量は、特に制限されないが、例えば、特定ガラスの全重量中に、ストロンチウムについては、酸化ストロンチウム(SrO)の形態で10重量%〜20重量%含有し、バリウムについては酸化バリウム(BaO)の形態で8重量%〜18重量%含有する態様が挙げられる。
【0030】
本発明の造粒体中の特定ガラスの含有量は、造粒体の全重量に対して、60重量%〜80重量%であることが好ましい。特定ガラスの含有量を60重量%以上とすることで、造粒体の強度を上げることができ、外的負荷に強い造粒体とすることができる。また、特定ガラスの含有量を80重量%以下とすることで、造粒体中により多くの多孔質炭酸カルシウム粉粒体を含有することができ、造粒体のリン酸吸着性能を向上することができる。
特定ガラスは、1種のみで構成されていてもよいし、2種以上の混合物であってもよい。
【0031】
〔多孔質炭酸カルシウム粉粒体〕
本発明の造粒体は、多孔質炭酸カルシウム粉粒体を含有する。
既述のように、カルシウム含有量が多いほど、また、カルシウムの露出面積が大きいほど、造粒体は、リン酸の吸着量が多くなる傾向にある。炭酸カルシウムが多孔質であることで、カルシウムの比表面積は大きくなり、さらに、大きさが小さいほど比表面積が大きくなる。
多孔質炭酸カルシウムが粉粒体であるとは、多孔質炭酸カルシウムの最大径が、500μm以下であることを意味する。多孔質炭酸カルシウムの最大径は、多孔質炭酸カルシウム粉粒体の単位重量あたりのリン酸吸着量の観点から、小さければ小さいほどよいが、通常、45μm〜250μmである。なお、多孔質炭酸カルシウム粉粒体の最大径は、各種メッシュ径の篩を組み合わせて使うことにより把握することができる。
具体的には、500μm、250μm、150μm、90μm、及び45μmの各メッシュのステンレス製の篩を、この順で上から重ね、多孔質炭酸カルシウム粉粒体を最上部の篩(すなわち500μmのメッシュの篩)に投入し、ふるう。これにより、各メッシュの篩上に、500μm超の粉粒体、500μm以下250μm超の粉粒体、250μm以下150μm超の粉粒体、150μm以下90μm超の粉粒体、90μm以下45μm超の粉粒体、及び45μm以下の粉粒体が残る。また、各範囲の粉粒体の重量を測定することで、各粒径範囲の粉粒体の重量分布が得られる。
【0032】
また、本発明では、多孔質炭酸カルシウムとは、炭酸カルシウムの柱状結晶が束なっている状態の炭酸カルシウムをいい、炭酸カルシウムが多孔質であることは、炭酸カルシウムの粉粒体を電子顕微鏡で観察することにより確認することができる。
【0033】
多孔質炭酸カルシウム粉粒体は、合成により多孔質構造とした炭酸カルシウムを粉砕して用いてもよいし、多孔質炭酸カルシウムを含有する天然素材を用いてもよい。
多孔質炭酸カルシウムを含有する天然素材としては、例えば、貝殻が挙げられる。
貝殻は、炭酸カルシウムを主成分として構成されており、貝殻の全重量に対して、カルシウム含有量は約40重量%ときわめて高い。さらに、貝の成長過程において、貝の生物的作用により多孔質炭酸カルシウムの結晶構造を形成する傾向にある(参考文献:小山・奥田・笹谷(2002)「ホタテ貝殻セラミックスの機能性とその実用化、ホタテ貝殻のバイオニックデザイン」、未来材料、Vol.2, No.4, pp.43〜51)。
【0034】
図2及び
図3に、貝の多孔質炭酸カルシウムの結晶構造を示す。
図2は、貝殻を粉砕して得た粉末を走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)〔日本電子株式会社製、JSM−6610LV〕で観察したときのSEM写真(250倍)であり、
図3は、拡大したSEM写真(1000倍)である。
従って、貝殻を粉砕し粉粒体とすれば、カルシウムを多く含有し、かつ比表面積が大きいという2つの要素を同時に併せ持つ炭酸カルシウムを得ることができる。
【0035】
ホタテ、蛎等の食用の貝は、日本各地で水産食品廃棄物として貝殻の処理は課題となっており、この再資源化も求められていた。本発明の造粒体において、多孔質炭酸カルシウム粉粒体として食用の貝の貝殻を用いることで、廃棄された貝殻を再利用することができる。
貝殻の種類は特に制限されず、例えば、本発明を実施する地域で捕獲され、消費される食用の貝殻を用いればよい。いわば、地産池消である。
【0036】
多孔質炭酸カルシウム粉粒体として貝殻を用いるときは、600℃以上675℃以下で焼成した貝殻を用いることが好ましい。
貝殻の表面は、通常、有機物質により被覆されている。有機物質で被覆された表面は、リン酸と反応しにくい。貝殻を粉砕することで、有機物質が被覆していない面が露出するため、貝殻の粉粒体を用いることで、粉砕前の貝殻よりもリン酸の吸着性が上がるが、よりリン酸吸着性を向上するためには、貝殻を焼成し、有機物質を排除しておくことが好ましい。貝殻の表面を被覆する有機物質は、600℃以上で揮発または燃焼することから、貝殻は600℃以上で焼成することが好ましい。
なお、貝殻の焼成は、貝殻の粉粒体と特定ガラス粉末との混合物を焼成する前に、予め貝殻のみを焼成しておいてもよいが、造粒体の製造効率の観点からは、貝殻の粉粒体と特定ガラス粉末との混合物を焼成の際に、同時に貝殻表面の有機物質を焼き飛ばしてしまうことが好ましい。
【0037】
また、貝殻の焼成時間は、10分〜20分が好ましい。焼成時間を10分以上とすることで、貝殻の表面を被覆する有機物質を取り除くことができ、焼成時間を20分以下とすることで、貝殻が脆くなり、貝殻の強度が低下することを防止することができる。
【0038】
図4に、貝殻の焼成と、リン酸吸着率との関係を示す棒グラフを示す。
図4の左側の棒グラフが、焼成しなかった貝殻のリン酸吸着率であり、
図4の右側の棒グラフ650℃で20分焼成した貝殻のリン酸吸着率である。
図4に示すリン酸吸着率確認試験は、次のようにして測定したものである。
貝殻の粉末を、90μm〜150μmに篩別し、最大径が90μm〜150μmである貝殻粉粒体を、小型電気炉にて650℃で20分間の条件で焼成した。未焼成の貝殻粉粒体と、650℃で20分間焼成した貝殻粉粒体をそれぞれ1g用い、各貝殻粉粒体1gに対し、水溶液1L中のリン濃度が1mgであるリン酸二水素カリウム水溶液100mLを添加した。室温にて24時間浸漬した後のリン酸濃度を測定し、リン酸濃度の低下率を算出した。
図4の縦軸に示される「リン酸吸着率(%)」は、貝殻粉粒体にリン酸二水素カリウム水溶液を添加する前のリン酸二水素カリウム水溶液中のリン酸が全て吸着された場合の計算上の吸着量を100重量%としたときの、貝殻のリン酸吸着量の重量比を表す。
【0039】
なお、
図4では、焼成しなかった貝殻のリン酸吸着率、及び、650℃で20分焼成した貝殻のリン酸吸着率は、それぞれ10回測定したときの平均値を棒グラフとして示した。棒グラフ上に伸びる「T」字のバーは、縦線が、各測定におけるリン酸吸着率の変動を示し、頂点の横棒が各測定における最大値を示す。
【0040】
図4からわかるように、貝殻を焼成しない場合には、リン酸吸着率が5重量%〜10重量%にとどまるものの、貝殻を650℃で20分焼成した場合には、60重量%〜80重量%にまで飛躍する。貝殻の焼成条件が、600℃以上675℃以下、かつ、10分〜20分の範囲であれば、貝殻の多孔質形状を損なわず、高カルシウム含有率を保持したまま、リン酸の吸着量を高めることができる。
従って、貝殻表面を被覆する有機物質を十分に取り除き、造粒体のリン酸吸着性を高める観点から、貝殻の焼成は600℃以上で行なうことが好ましい。
【0041】
一方、貝殻の焼成は、675℃以下であることが好ましい。
炭酸カルシウム〔CaCO
3〕は、下記反応式(1)に示すように、加熱により炭酸ガス〔CO
2〕を発生して分解する。
CaCO
3 + 熱 → CaO +CO
2↑ 反応式(1)
炭酸カルシウムの分解により得られる酸化カルシウム〔CaO〕は、反応式(2)に示すように、加熱、および、空気中の水分により、水酸化カルシウム〔Ca(OH)
2〕を生成する。
CaO + H
2O → Ca(OH)
2 反応式(2)
水酸化カルシウムは炭酸カルシウムと異なり水溶性であるため、造粒体を被処理水に投与した際に、被処理水中に流出してしまい、リン酸吸着能を低下する場合がある。
【0042】
図5に、貝殻粉粒体の加熱温度と貝殻の重量減少との関係を示すグラフを示す。
図5からわかるように、貝殻粉粒体を加熱することで、炭酸カルシウムが分解し、貝殻の重量が減少している。貝殻の重量の減少は、すなわち、上記反応式(1)に示すように、炭酸カルシウムが酸化カルシウムに変化し、ひいては、上記反応式(2)に示すように水溶性の水酸化カルシウムに変化していくことを示している。
従って、炭酸カルシウムが分解し、さらには、酸化カルシウムから水酸化カルシウムに変化して水に溶け出すことに起因する造粒体のリン酸吸着性の低下を防止するため、貝殻の焼成は675℃以下で行なうことが好ましい。
【0043】
本発明の造粒体中の多孔質炭酸カルシウム粉粒体の含有量は、造粒体の全重量に対して、20重量%〜40重量%であることが好ましい。多孔質炭酸カルシウム粉粒体の含有量を20重量%以上とすることで、造粒体中により多くの多孔質炭酸カルシウム粉粒体を含有することができ、造粒体のリン酸吸着性能を向上することができる。また、特定ガラス粉末の含有量を40重量%以下とすることで、造粒体の強度を上げることができ、外的負荷に強い造粒体とすることができる。
【0044】
〔他の成分〕
本発明の造粒体は、本発明の効果を損なわない限度において、更に他の成分を含有していてもよい。
本発明の造粒体の製造方法の詳細は後述するが、本発明の造粒体は、例えば、多孔質炭酸カルシウム粉粒体と、特定ガラス粉末との混合物を加圧成形して焼成することで得ることができる。このとき、多孔質炭酸カルシウム粉粒体と、特定ガラス粉末との混合物の加圧成形体を得るためのつなぎとして、粘着剤(例えば、でんぷん)が、多孔質炭酸カルシウム粉粒体と、特定ガラス粉末との混合物中に含有されていてもよい。
【0045】
〔造粒体の大きさ〕
本発明の造粒体の大きさは、本発明の造粒体を、被処理水に投与し、網ないしフィルターを用いて回収する場合に、造粒体の最大径が網の目(孔径)またはフィルターの目(孔径)よりも大きければよく、造粒体の回収に用いる器具の孔径に応じて、制御すればよい。例えば、網の目の最大径が2mmである場合には、本発明の造粒体の最大径を3mm以上とすればよい。
一方、リン酸の吸着性を高めるためには、造粒体の最大径は小さい方が好ましく、8mm以下であることが好ましい。より好ましくは、本発明の造粒体の最大径は、1mm〜8mmである。
本発明の造粒体の最大径は、1mm未満である場合には、顕微鏡を用いて測定し、1mm以上である場合には、定規等を用いて測定する。
【0046】
<造粒体の製造方法>
本発明の造粒体の製造方法は、多孔質炭酸カルシウム粉粒体および軟化温度が600℃以上675℃以下であるガラス粉末を含む混合物を、加圧して成形体を得る加圧成形工程と、前記成形体を600℃以上675℃以下の温度で焼成する焼成工程とを有して構成される。
本発明の造粒体の製造方法は、本発明の効果を損なわない限度において、さらに、他の工程を有していてもよい。
【0047】
〔加圧成形工程〕
加圧成形工程は、多孔質炭酸カルシウム粉粒体および軟化温度が600℃以上675℃以下であるガラス粉末(特定ガラス粉末)を含む混合物を、加圧して成形体を得る工程である。
【0048】
加圧成形工程において用いられる多孔質炭酸カルシウム粉粒体は、本発明の造粒体が半有する多孔質炭酸カルシウム粉粒体と同義である。
加圧成形工程において用いられる特定ガラス粉末は、既述の特定ガラスの粉末が用いられる。ここで、特定ガラス粉末は、最大径が250μm以下である特定ガラスを指し、通常、150μm未満である。特定ガラス粉末の最大径は、各種メッシュ径の篩を組み合わせて使うことにより把握することができる。
具体的には、250μm、150μm、90μm、及び45μmの各メッシュのステンレス製の篩を、この順で上から重ね、特定ガラス粉末を最上部の篩(すなわち250μmのメッシュの篩)に投入し、ふるう。これにより、各メッシュの篩上に、250μm超の粉末、250μm以下150μm超の粉末、150μm以下90μm超の粉末、90μm以下45μm超の粉末、及び45μm以下の粉末が残る。また、各範囲の粉末の重量を測定することで、各粒径範囲の粉末の重量分布が得られる。
【0049】
多孔質炭酸カルシウム粉粒体および特定ガラス粉末を含む混合物(以下、「特定混合物ともいう」)を焼成する前に、当該混合物を加圧して成形体を形成しておくことで、造粒体中に、より多くの多孔質炭酸カルシウム粉粒体を含有することができる。
また、多孔質炭酸カルシウム粉粒体として、貝殻を用いる場合は、貝殻の表面を被覆する有機物質を焼成して取り除くことが好ましいが、この場合、貝殻の強度が低下し、脆くなる傾向にある。これに対し、特定混合物を加圧して成形体としておくことで、焼成工程にて成形体を加熱しても、貝殻の脆さを補完し、外的負荷に強い造粒体を得ることができる。
【0050】
特定混合物中の、多孔質炭酸カルシウム粉粒体および特定ガラス粉末の各含有量は、本発明の造粒体中の好ましい含有量として示した数値範囲であることが好ましい。また、既述のように、特定混合物には、更にでんぷん等の粘着剤を添加してもよい。
なお、特定混合物中に添加した粘着剤は、加圧成形工程の後の焼成工程にて、焼き飛んでしまってもよいし、焼成で得られる造粒体中に残存していてもよい。
【0051】
加圧成形工程では、特定混合物を、例えば、半球状の凹部を有する一対の金型に収容し、凹部と凹部とを対峙させて金型を加圧することで、球状の成形体を得ることができる。
例えば、新東工業株式会社製造粒機BGS−0Lを用いる場合は、加圧条件を、0.1t/h〜5t/hとすることで、最大径が5mm〜70mmの成形体を得ることができる。
金型の凹部の形状や、加圧条件は、特に制限されず、目的とする造粒体の形状、大きさに合わせて適宜変更すればよい。
【0052】
〔焼成工程〕
焼成工程は、加圧成形工程で得られた成形体を600℃以上675℃以下の温度で焼成する工程である。
特定混合物の成形体を600℃以上675℃以下の温度で焼成することで、成形体中に含まれる特定ガラス粉末が軟化し、粘着性を帯びるため、多孔質炭酸カルシウム粉粒体同士を結合する結合剤として作用し、造粒体が形成される。また、多孔質炭酸カルシウム粉粒体として貝殻の粉粒体を用いた場合には、焼成工程における成形体の焼成により、貝殻表面を被覆している有機物質を取り除くことができる。
また、特定ガラス粉末には、ストロンチウム若しくはバリウムを含有するガラス粉末、または、ブラウン管パネルガラス粉末を用いてもよいし、ストロンチウム若しくはバリウムを含有するガラス粉末とブラウン管パネルガラス粉末との混合物を用いてもよい。
【0053】
成形体の焼成は、600℃以上675℃以下の温度で、10分間〜20分間行なうことが好ましく、625℃以上650℃以下の温度で、10分間〜20分間行なうことがより好ましい。
なお、焼成温度は、成形体を加熱する加熱炉の設定温度、すなわち、加熱炉内の温度を指す。また、焼成時間は、焼成温度を維持する時間を指す。具体的には、焼成温度を維持する時間は、成形体を加熱炉に入れ、10℃/分にて昇温し、焼成温度に達したときを起点、焼成温度から10℃/分にて降温させるときを終点として、算出される。
【0054】
特定混合物の成形体を焼成して得られる造粒体は、大気内に静置して冷却してもよいし、室温の気体(例えば、窒素ガス等の不活性ガスや空気等)を吹きかけて冷却してもよい。
以上の工程を経ることで得られる本発明の造粒体の一例を、
図1に示す。
図1に示す造粒体は、後述する実施例において、貝殻粉粒体を30重量%含む成形体を650℃で20分間焼成して得た造粒体3−cである。
【0055】
次に、本発明の造粒体を用いた水質浄化装置、並びに、リン酸を吸着した本発明の造粒体を利用したリン酸肥料および土壌改良資材について説明する。
【0056】
<水質浄化装置>
本発明の水質浄化装置は、本発明の造粒体を含有して構成される。
本発明の水質浄化装置の形態は特に制限されず、例えば、本発明の造粒体を収納する容器を有し、当該容器には、被処理水を導入する導入口、および、処理済の水を取り出す排出口が設けられていればよい。
本発明の水質浄化装置の一例を、
図6を用いて説明する。
【0057】
図6には、本発明の造粒体2を収納し、リン酸を吸着濾過する濾過槽12と、被処理水または処理水が流れる流路20とを少なくとも有する水質浄化装置100が示されている。流路20は、20a〜20gに分かれ、被処理水または処理水は、矢印a〜hの方向に流れる。水質浄化装置100の構成について、より具体的に説明する。
【0058】
流路20aは、水質浄化装置100に被処理水を導入する流路であり、矢印aから被処理液が水質浄化装置100内に導入される。流路20aは、例えば、被処理水が貯蔵された貯水池(図示せず)や、被処理水収納容器(図示せず)に通じている。
被処理水は、流路20aから、一次流量調節弁22を通じて矢印b方向に流れ、流路20bに導かれるが、流路20bの先に結合している濾過槽14および濾過槽12の目詰まりを防止するために、20aには、溢流用の流路20g(オーバーフロー流路ともいう)を連結しておいてもよい。一次流量調節弁22の流量調節により流路20bに導かれなかった被処理水は、流路20gを通じて矢印g方向に導かれ、水質浄化装置100から排出される。また、流路20gは、貯水池(図示せず)や、被処理水収納容器(図示せず)に循環する構成であってもよい。
【0059】
流路20bは、濾過槽14と結合している。濾過槽14は、被処理水のリン酸を吸着する前に、例えば、被処理水中の砂利や木片、落ち葉等の物理的要素を取り除く物理的濾過槽とすることができる。濾過槽14は、一般的な濾過材4を含んでいればよく、目の粗い格子や濾紙等であってもよい。濾過槽14は、濾過槽12と結合しており、濾過槽14の底部に設けられた孔を通じて、被処理水は、濾過槽12に導かれる。なお、濾過槽14の底部に設けられた孔は、被処理水を通過し、濾過材4を通過させない孔径であればよい。
【0060】
濾過槽12は、本発明の造粒体2を収納する筒状の容器である。濾過槽12は造粒体2の最大径よりも目の細かいフィルター16と結合している。濾過槽14で物理的要素が取り除かれた被処理水は、濾過槽12を矢印c方向に通過することで、リン酸が取り除かれる。濾過槽12はリン酸吸着槽であり、いわば、物理的濾過槽である濾過槽14に対し、化学的濾過槽の位置づけとなる。
濾過槽12に収納する造粒体2の収納量は特に制限されないが、より効率のよいリン酸吸着を行なう観点から、濾過槽12の容量1Lに対し、1.2kg〜1.3kgの割合で、本発明の造粒体2を収納することが好ましい。
【0061】
また、濾過槽12中の温度は、特に制限されず、室温(例えば、20℃)でもよいが、リン酸とカルシウムとの反応を進み易くするため、40℃〜60℃に加熱してもよい。
【0062】
図6においては、リン酸を吸着する濾過槽は、濾過槽12の1つのみであるが、濾過槽12を、例えば3つに分けて、流路で連結してもよいし、リン酸以外の化学物質を吸着ないし濾過可能な他の化学的濾過槽(図示せず)を濾過槽12に連結してもよい。
【0063】
濾過槽12を通過して処理された処理液は、フィルター16を通じて流路20cに排出される。流路20cから排出された処理水の大部分は、矢印e方向に流れ、二次流量調節弁24を介して流路20eに導かれる。流路20cは、二叉としてもよく、濾過槽12の水抜弁26を通じて濾過槽12のドレインに通じる流路20dと連結していてもよい。流路20dに導かれた処理水は、矢印d方向に流れ、濾過槽12のドレイン(図示せず)に導かれる。
【0064】
流路20eは、流量計18を介して流路20fと連結しており、流路20fは、例えば、処理水の収納容器(図示せず)に導入されている。流路20cから流路20eに導かれた処理水は、流量計を通過することにより処理水の流量が測定されると共に、流路20fを矢印f方向に流れて、水質浄化装置100から排出され、例えば、処理水の貯水容器に収納される。
より高いリン酸吸着を望む場合は、水質浄化装置100で処理された被処理水は、再度、流路20aを介して濾過槽12で処理を行なってもよい。
【0065】
被処理水を流路20a〜20fに絶えず流すことで、連続的に被処理水を処理することができる。
一方、流路20aおよび20bを通じて濾過槽12に被処理水を導いた後、一次流量調節弁22、二次流量調節弁24、及び水抜弁26の各弁を閉じることにより、濾過槽12内に被処理水を閉じ込め、例えば5時間静置して、処理水を流路20cに排出し、再度、濾過槽12に被処理水を導入するといった方法を行なうことにより、断続的に被処理水を処理してもよい。
より多くのリン酸を吸着する観点からは、リン酸吸着反応が収束するまで、濾過槽12の系内を閉じておくことが好ましい。なお、リン酸吸着反応が収束することは、モリブデン青法等の常法により濾過槽12内のリン酸濃度を測定することにより確認することができる。
【0066】
<リン酸肥料、土壌改良資材>
本発明のリン酸肥料、及び、土壌改良資材は、それぞれ、本発明の造粒体およびリン酸を含有して構成される。
すなわち、本発明の造粒体を用いて被処理水のリン酸吸着を行なった後の使用済み造粒体ともいうべき造粒体を、今度は、リン酸を放出する材料として用いることができる。本発明の造粒体は、高いリン酸吸着性を有するため、植物を栽培するためのリン酸肥料として用いることができる。また、植物を栽培する等の目的が特に定まっていない場合でも、荒地に、リン酸を吸着している本発明の造粒体を埋設しておくことで、土壌を肥沃にすることができ、改良することができる。さらに、ガラス粉末を含む本発明の造粒体は、通水性に優れるため、本発明の造粒体が埋設された土壌は、水はけに優れる等の機能も併せ持つことができる。
【実施例】
【0067】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
また、以下において、実施例1、5は参考例である。
【0068】
<実施例1〜実施例5>
〔造粒体の製造〕
−材料−
多孔質炭酸カルシウム粉粒体および特定ガラス粉末(軟化温度が600℃以上675℃以下であるガラス粉末)として、次のものを用意した。
1)多孔質炭酸カルシウム粉粒体
貝殻粉(青森エコリサイクル産業協同組合製「ホタテで元気」)
粒径分布(最大径の分布)は次のとおりである。
・250μm超; 0.8重量%
・250μm〜150μm;61.5重量%
・150μm〜 90μm;25.0重量%
・ 90μm〜45μm; 11.1重量%
・ 45μm未満; 1.6重量%
【0069】
貝殻粉の各粒径の重量分布は、500μm、250μm、150μm、90μm、及び45μmの各メッシュのステンレス製の篩を、この順で上から重ね、貝殻粉を最上部の篩(すなわち500μmのメッシュの篩)に投入し、ふるって、各メッシュ上に残った貝殻粉の重量および45μmのメッシュを通過した貝殻粉の重量を測定することにより求めた。
【0070】
2)特定ガラス粉末
CRTパネルガラス粉砕物
a)CRTパネルガラス粉砕物の粒径分布(最大径の分布)は次のとおりである。
・150μm超; 0.4重量%
・150μm〜90μm; 24.3重量%
・ 90μm〜45μm; 34.1重量%
・ 45μm未満; 48.8重量%
【0071】
b)CRTパネルガラス粉砕物の成分組成は表1に示す通りである。
【0072】
【表1】
【0073】
CRTパネルガラス粉砕物の各粒径の重量分布は、150μm、90μm、及び45μmの各メッシュのステンレス製の篩を、この順で上から重ね、CRTパネルガラス粉砕物を最上部の篩(すなわち150μmのメッシュの篩)に投入し、ふるって、各メッシュ上に残ったCRTパネルガラス粉砕物の重量、および、45μmのメッシュを通過したCRTパネルガラス粉砕物の重量を測定することにより求めた。
上記表1に示すCRTパネルガラス粉砕物の成分組成は、波長分散型蛍光X線分析装置〔理学電機工業(株)製、Primus II〕を用いて測定した。
【0074】
−加圧成形工程−
上記貝殻粉と、CRTパネルガラス粉砕物とを混合して特定混合物を得た。なお、特定混合物は、特定混合物中の貝殻粉の混合割合が、10重量%であるもの(実施例1)、20重量%であるもの(実施例2)、30重量%であるもの(実施例3)、40重量%であるもの(実施例4)、および50重量%であるもの(実施例5)、の5種類を用意した。
次に、各特定混合物を、新東工業株式会社製造粒機BGS−0Lを用いて加圧成形し、最小径が3mm〜4mmであり、最大径が5mm〜8mmである楕円形の成形体を得た。成形体の具体的な大きさ(最小径)は、後述する表5の「未焼成」欄に示す大きさである。
なお、加圧成形条件は、ロール回転数12rpm、ロール圧力14N〜22N、フィーダ回転数33rpm〜36rpm、ロール形状φ4.8mmとした。
【0075】
−焼成工程−
得られた5種の成形体を、小型電気炉Yamato社製FO−710を用いて、焼成し、造粒体を得た。なお、造粒体は、焼成温度が600℃であるもの、625℃であるもの、650℃であるもの、及び、675℃であるものを、それぞれ作製した。
焼成時間は、いずれも20分間で固定した。すなわち、成形体を電気炉に格納してから10℃/分にて上記各温度まで昇温し、20分間上記温度を維持した後、10℃/分にて降温させた。
【0076】
なお、各造粒体について、貝殻粉の含有割合と焼成温度に応じて、次のように称する。
・貝殻粉含有割合が10重量%で、焼成温度が600℃である造粒体;造粒体1−a
・貝殻粉含有割合が10重量%で、焼成温度が625℃である造粒体;造粒体1−b
・貝殻粉含有割合が10重量%で、焼成温度が650℃である造粒体;造粒体1−c
・貝殻粉含有割合が10重量%で、焼成温度が675℃である造粒体;造粒体1−d
実施例2〜実施例4の造粒体も同様に称する。例えば、貝殻粉含有割合が30重量%で、焼成温度が650℃である造粒体は造粒体3−cである。
実施例の造粒体および、比較例で製造を試みた造粒体(焼成物)の名称を表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
<造粒体の評価>
1.造粒体の外観1
各造粒体について、崩れている否かを目視で確認して、成形体が焼成して造粒体となっていること、および、貝殻が発泡していないこと(炭酸カルシウムが分解していないこと)を確認した。
結果を、表3に示す。焼成した成形体が焼結して造粒体となっている場合は「+」で表し、焼成した成形体が崩れて造粒体となっていない場合は「−」で表す。
【0079】
【表3】
【0080】
表3に示すとおり、いずれも「+」であり、崩れず、造粒体が得られていることがわかった。
【0081】
2.造粒体の外観2
各造粒体について、造粒体同士が結合していないか、造粒体間の結合の有無を目視で確認した。
結果を、表4に示す。造粒体同士が結合している場合は「+」で表し、造粒体同士が結合していない場合は「−」で表す。
【0082】
【表4】
【0083】
表4からわかるように、いずれの造粒体も「−」であり、造粒体間で結合しておらず、大量生産が可能であることがわかった。
なお、貝殻粉の含有割合が30重量%であり(実施例3)かつ焼成温度が650℃である造粒体3−cの外観を
図1に示す。
図1に示す造粒体3−cは、いずれもバラけており、造粒体間で結合していないことがわかる。
【0084】
3.造粒体の寸法変化
各造粒体の寸法(最小径)を定規で測定した。測定は5回行い、その平均値(mm)と標準誤差を表5に示した。表5中、かっこ内の数値が標準誤差である。また、参考のため、造粒体の焼成前の寸法、すなわち、成形体の寸法も同様に測定し、平均値(mm)と標準誤差を表5に示した。
【0085】
【表5】
【0086】
表5からわかるように、貝殻粉の含有量が異なっても寸法はさほど変わらず、また、成形体と造粒体とで、すなわち、焼成の前後で、顕著な寸法変化は確認されなかった。なお、造粒体の最大径も、焼成の前後で、顕著な寸法変化は確認されず、成形体と同様に5〜8mmであった。
従って、かさが異常に増大し強度低下、輸送コストの増大を招き難いと考えられる。
【0087】
4.造粒体の強度(指触試験)
各造粒体を人差し指で押し付け、造粒体の崩壊の有無を確認することで、造粒体の外的負荷に対する強度を確認した。結果を表6に示す。
なお、表6中の数値は、30個の造粒体について指触したとき、全ての造粒体が崩壊した場合を100として、下記式により算出した指触崩壊率(%)である。
指触崩壊率(%)=崩壊した造粒体数/総検体数(n=30)×100
【0088】
また、指触試験前後の造粒体の状態を示す図を、
図7に示す。
図7(A)は、指触試験を行なう前の造粒体を示し、
図7(B)は、指触試験により造粒体が崩壊した状態を示す。
【0089】
【表6】
【0090】
造粒体の強度の傾向としては、焼成温度が低いほど、そして、造粒体中の貝殻粉の含有量が多いほど、強度が低下した。これは焼成温度が低い場合は、特定ガラスであるCRTパネルガラスが十分に軟化しないために、特定ガラスと貝殻粉との融着が起きにくいためと考えられる。一方、造粒体中の貝殻粉の含有量が多いと、相対的に特定ガラスの量が低下してしまい、特定ガラスと貝殻粉との融着が起きにくいためと考えられる。
また、焼成温度が高いとかえって強度が低下する傾向が認められるのは、貝殻粉中の炭酸カルシウムの熱分解が進み、結晶構造がもろくなるためと考えられる。
上記各造粒体の中でも、貝殻粉の含有割合が30重量%であり(実施例3)、650℃で20分間焼成した造粒体3−cは、強度を損なわず、最も炭酸カルシウム分を造粒体中に含有させることができた。
【0091】
5.リン酸吸着量(最大リン酸吸着容量の測定)
造粒体1−c、造粒体2−c、及び造粒体3−cについて、リン酸吸着量(最大リン酸吸着容量)を測定した。
各造粒体1gに対し、リン酸濃度が1000ppmであるリン酸水溶液(KH
2PO
4水溶液、pH7)を添加し、試料を得た。試料を50℃で24時間保持し、上清中のリン酸濃度をモリブデン青法(1000倍希釈液)にて測定した。
算出されたリン酸の減少量から、造粒体のリン酸吸着量を求めた。次いで、試料の上清をデカントにて除去し、新たにリン酸濃度が1000ppmであるリン酸水溶液を添加し、リン酸吸着反応が収束するまで、同様の操作を繰り返した。
リン酸濃度の減少量を合算して、造粒体の最大リン酸吸着容量を求めた。結果を表7に示す。
【0092】
また、リン酸吸着後の造粒体について、農林水産省農業環境技術研究所の肥料分析法〔(1992年版)平成4年12月、著作者;農林水産省農業環境技術研究所、発行者;財団法人日本肥糧検定協会〕に基づいて、ク溶性リン酸(クエン酸可溶性リン酸)を測定し、各造粒体の植物可給態リン酸量を算出した。
【0093】
【表7】
【0094】
以上の結果から、貝殻粉の含有量が30重量%である造粒体3−cが、造粒体1−c〜3−cの中で、最大のリン酸吸着容量を示した。
【0095】
【表8】
【0096】
また、表8からわかるように、貝殻粉の含有量が30重量%である造粒体3−cは、造粒体に吸着したリン酸が、高い割合で植物可給態である。市販されるリン酸肥料は、通常、植物可給態リン酸量が10重量%前後であるから、リン酸を吸着した造粒体3−cは、市販のリン酸肥料に匹敵し、実用的なリン酸肥料として利用可能であることがわかった。
【0097】
<比較例1>
特許文献1(特開2009−274040号公報)の段落番号[0053]に記載の方法に準じてガラス発泡体Aを作製し、比較用の造粒体101とした。
上記「5.リン酸吸着量(最大リン酸吸着容量の測定)」において、造粒体3−cに代えて、造粒体101を用いた他は同様にして、造粒体101の最大リン酸吸着容量および植物可給態リン酸量を測定した。
造粒体101の最大リン酸吸着容量は、1.2重量%であり、植物可給態リン酸量は、1.2重量%であった。
【0098】
<比較例2>
特許文献2(特開2011−026141号公報)の段落番号[0040]〜[0051]に記載の方法に準じてガラス発泡体を作製し、比較用の造粒体102とした。
上記「5.リン酸吸着量(最大リン酸吸着容量の測定)」において、造粒体3−cに代えて、造粒体102を用いた他は同様にして、造粒体102の最大リン酸吸着容量および植物可給態リン酸量を測定した。
造粒体102の最大リン酸吸着容量は、2.2重量%であり、植物可給態リン酸量は、2.2重量%であった。
【0099】
上記比較例の造粒体101及び102と、実施例の造粒体3−cとを比較すると、実施例の造粒体3−cは、従来のガラス発泡体に比べ、リン酸吸着性に優れ、肥料としての実用性にも長けていることがわかった。
【0100】
<比較例3〜比較例7>
実施例1〜実施例5の成形体を、それぞれ焼成温度575℃で焼成し、造粒体103−e〜造粒体107−eの製造を試みたところ、いずれも焼結せず、指触崩壊率が100%であり、造粒体を得ることができなかった。
【0101】
<比較例8〜比較例12>
実施例1〜実施例5の成形体を、それぞれ焼成温度700℃で焼成し、造粒体108−f〜造粒体112−fの製造を試みた。貝殻粉含有率が20重量%までの焼成物108−fと109−fは、焼成物の表面がガラス化してビー玉のようなガラス玉の状態となり、造粒体が得られなかった。得られた焼成物は、焼成物内部への吸水が阻害される状態となった。これは、ブラウン管ガラスが、焼成温度(700℃)よりも低い融点であることによるものと考えられた。
貝殻粉含有率が30重量%〜50重量%の成形体は、貝殻粉の熱分解により焼結せず、造粒体を得ることができなかった。