特許第5989343号(P5989343)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5989343薬剤含浸体の使用方法及び薬剤拡散器の使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989343
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】薬剤含浸体の使用方法及び薬剤拡散器の使用方法
(51)【国際特許分類】
   A01M 29/12 20110101AFI20160825BHJP
【FI】
   A01M29/12
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-3532(P2012-3532)
(22)【出願日】2012年1月11日
(65)【公開番号】特開2013-141445(P2013-141445A)
(43)【公開日】2013年7月22日
【審査請求日】2015年1月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000112853
【氏名又は名称】フマキラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 和之
(72)【発明者】
【氏名】山里 圭
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−55105(JP,A)
【文献】 意匠登録第1370467(JP,S)
【文献】 特開2008−194034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00 − 99/00
A61L 9/00 − 9/04
A61L 9/14 − 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色によって着色されるとともに通気性を有し、かつ、気化する薬剤を含浸した薬剤含浸体を用意し、
上記薬剤含浸体を屋外の日光が当たる場所で使用することを特徴とする薬剤含浸体の使用方法。
【請求項2】
気化する薬剤を含浸するとともに通気性を有する薬剤含浸体と、上記薬剤含浸体を保持するための保持部材とを備えた薬剤放散器の使用方法において、
上記保持部材を黒色によって着色するとともに、上記薬剤含浸体に接触させた状態とし、屋外の日光が当たる場所で使用することを特徴とする薬剤放散器の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば害虫の忌避剤等のような気化する薬剤を含浸させた薬剤含浸体の使用方法及びその薬剤含浸体を備えた薬剤放散器の使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば害虫の忌避剤を含浸させた薬剤含浸体を屋外に吊り下げて使用する薬剤放散器が知られている(例えば特許文献1参照)。薬剤含浸体に風があたることによって薬剤が屋外に放散されて屋内への虫の侵入が抑制される。
【0003】
また、例えば、特許文献2に開示されているように、プラスチック等から形成される縦長の捕虫容器に液状の薬剤を収容し、その薬剤を捕虫容器から徐々に放散させるように構成された害虫駆除装置も知られている。
【0004】
特許文献2の捕虫容器は黒色に着色されている。これにより、太陽光を吸収させて捕虫容器を加温し、もって、薬剤の気化、放散量を増加させることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−19507号公報
【特許文献2】特開2004−16151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、虫は様々な性質を持つものがおり、なかには朝方から活動し始める虫もいる。このような虫に対しても忌避効果や殺虫効果を得たいという要求がある。
【0007】
そこで、特許文献2の害虫駆除装置のように捕虫容器を黒色に着色して太陽光を吸収させて薬剤の気化を促進させることが考えられる。ところが、このようにしたとしても、朝方からの薬剤による効果が十分に得られるとは限らず、また、直射日光が強い場合では薬剤の気化を促進させることの弊害として薬剤が早く減少してしまうという問題がある。
【0008】
その結果について図4に示す実験結果に基づいて詳細に説明する。この実験は、樹脂製の黒色容器に液状の薬剤(害虫忌避剤)を入れ、それを屋外の直射日光があたる所に放置して薬剤の温度がどのように変化したかを示したものである。
【0009】
実験日は2011年10月27日であり、場所は広島県廿日市市である。この日の日の出は6時25分であり、日の入りは17時23分である。また、天気は晴れ時々曇りであり、風速は微風であった。
【0010】
グラフの縦軸は、薬剤の温度と雰囲気温度(容器周囲の気温)との差を表し、横軸は時刻を表している。薬剤は捕虫容器に入れた状態で日の出前から放置して薬剤の温度と雰囲気温度とは同じにしておいた。
【0011】
薬剤の温度は、日の出から8時くらいまで殆ど変化せず、日の出から2時間以上経過した9時に雰囲気温度から0.5℃上昇した。従って、日の出から2時間以上経過するまで、薬剤の温度は雰囲気温度と殆ど変わらないので、捕虫容器を黒色に着色したことの効果は期待できず、朝方に活動する虫に対しては効力が十分でないことが考えられる。
【0012】
一方、日差しが強くなる12:00前から16時くらいまでは雰囲気温度も上昇するが、薬剤の温度がそれ以上に急激に上昇していき、雰囲気温度との差が最大で16℃以上になった。薬剤の温度がこのように上昇すると、気化速度が速くなって単位時間当たりの放散量が多くなるので、その分、効力が高まると考えられる。しかしながら、薬剤の放散量は多ければ多いほどよいというわけではなく、ある程度の放散量を確保できれば、それ以上多くなっても効力はさほど変化せず、薬剤の消費が無駄に多くなってしまうだけである。また、夕方については、日の入りから1時間程度で薬剤の温度は雰囲気温度とほぼ等しくなる。
【0013】
つまり、捕虫容器を黒色に着色しても、朝方の効力向上は期待できず、しかも、昼間の薬剤の消費が無用に上昇して薬剤が早くなくなり、さらに、夕方の効力向上も期待できない。
【0014】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、直射日光の弱い時間帯においても薬剤の放散量を向上でき、しかも、直射日光の強い時間帯では薬剤の無用な放散を抑制できるようにし、もって、薬剤による十分な効力を長期間に亘って得ることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明では、薬剤含浸体が通気性を有するものとし、太陽光による加熱が適切に行われるようにした。
【0016】
第1の発明は、黒色によって着色されるとともに通気性を有し、かつ、気化する薬剤を含浸した薬剤含浸体を用意し、上記薬剤含浸体を屋外の日光が当たる場所で使用することを特徴とするものである。
【0017】
この構成によれば、朝方の弱い直射日光下であっても薬剤含浸体の温度が上昇しやすくなり、薬剤の放散量が十分に確保される。
【0018】
また、強い直射日光を受けた場合には、薬剤含浸体に雰囲気温度の空気が流通することによって冷却されるので、従来例の捕虫容器に収容するものに比べて温度の過度な上昇が抑制される。
【0019】
第2の発明は、気化する薬剤を含浸するとともに通気性を有する薬剤含浸体と、上記薬剤含浸体を保持するための保持部材とを備えた薬剤放散器の使用方法において、上記保持部材を黒色によって着色するとともに、上記薬剤含浸体に接触させた状態とし、屋外の日光が当たる場所で使用することを特徴とするものである。
【0020】
この構成によれば、薬剤含浸体を所望箇所で保持して薬剤による効果を得ることが可能になる。
【0021】
また、朝方の弱い直射日光下であっても保持部材の温度が上昇しやすくなる。そして、保持部材の熱が接触部を介して薬剤含浸体に伝達して薬剤含浸体の温度が上昇する。よって、薬剤の放散量が十分に確保される。
【0022】
また、強い直射日光を受けた場合には、保持部材の温度がさらに高まって薬剤含浸体がより一層加熱されることになるが、薬剤含浸体には雰囲気温度の空気が流通することによって冷却されるので、従来例の捕虫容器に収容するものに比べて温度の過度な上昇が抑制される。
【発明の効果】
【0023】
第1の発明によれば、直射日光が弱い場合には薬剤含浸体の温度を早期に上昇させて薬剤の気化を促進させることができ、また、直射日光が強い場合には過度な温度上昇を抑制して薬剤の無用な放散を抑制できる。よって、薬剤による十分な効力を長期間に亘って得ることができる。
【0024】
第2の発明によれば、薬剤含浸体を所望箇所で保持して薬剤による効果を得ることができる。また、直射日光が弱い場合には保持部材の温度を早期に上昇させて薬剤含浸体の薬剤の気化を促進させることができ、また、直射日光が強い場合には薬剤含浸体の過度な温度上昇を抑制して薬剤の無用な放散を抑制できる。よって、薬剤による十分な効力を長期間に亘って得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態1にかかる薬剤放散器の斜視図である。
図2】実施形態1にかかる薬剤放散器の正面図である。
図3】薬剤含浸体の温度変化を示したグラフである。
図4】従来例の薬剤の温度変化を示したグラフである。
図5】実施形態2にかかる薬剤放散器を表側から見た斜視図である。
図6】実施形態2にかかる薬剤放散器を裏側から見た斜視図である。
図7】実施形態2にかかる薬剤放散器の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0027】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1にかかる薬剤含浸体1を備えた薬剤放散器10を示すものである。この薬剤放散器10は、薬剤含浸体1の他に、薬剤含浸体1を大気中の所定箇所に吊した状態で保持しておくための保持具20を有している。
【0028】
薬剤含浸体1は、多数の繊維からなるネット状の基材に、気化する薬剤を含浸させてなるものである。基材を構成する繊維間には、空気が通るようになっており、これにより薬剤含浸体1に通気性が付与される。また、基材には、多数の通気孔1a,1a,…が全体に亘って形成されている。通気孔1aの開口径は例えば0.5mm以上に設定されている。この通気孔1aによっても薬剤含浸体1に通気性が付与されている。
【0029】
薬剤含浸体1の基材を構成する繊維は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリサルフォン、レーヨン、メタアクリル酸樹脂等の樹脂からなる合成繊維であってもよいし、ガラス繊維等であってもよいし、パルプ、綿、羊毛、麻、絹等の天然繊維であってもよい。基材の目付量としては、50g/m以上1000g/m以下が好ましい。
【0030】
また、薬剤含浸体1は、JIS K5602に基づいて測定された日射反射率が40%以下の色に着色されている。この実施形態では黒色であるが、例えば、紺色、濃いねずみ色、濃い緑色、濃い茶色等であってもよい。
【0031】
尚、薬剤含浸体1に含浸させる薬剤としては、蚊等の害虫に対する忌避剤や殺虫剤等を挙げることができ、具体例としては、例えばトランスフルトリン、メトフルトリン、エムペントリン、テフラメトリン等が挙げられる。また、薬剤は、忌避剤及び殺虫剤の両方としてもよい。
【0032】
保持具20は、樹脂製の板状部21と、吊り下げ部材25とを備えている。板状部21は、薬剤含浸体1を囲んで収容可能な中空状に形成されており、図2に示す正面視では略矩形で、平面視ではS字を描くように緩やかに湾曲している。板状部21は、薬剤含浸体1の一方の側面を覆うように延びる第1部材22と、他方の側面を覆うように延びる第2部材23とを有している。第1部材22における薬剤含浸体1の側面に対向する部位は開放されており、薬剤含浸体1は、この開放部分から露出するようになっている。第1部材22には、開放部分を横切るように多数の棒状部22a,22a,…が上下方向に間隔をあけて形成されている。
【0033】
また、第1部材22には、薬剤含浸体1の側面に接触する多数の接触部22b,22b,…が形成されている。接触部22bは、上下方向に隣り合う棒状部22a,22aを連結するように、該棒状部22a,22aに一体成形されている。接触部22bは板状部21の厚み方向に延びる円筒状をなしており、中心線方向の端面が薬剤含浸体1に接触するようになっている。また、接触部22bの内部には、薬剤が注入されるようになっている。第1部材22の周縁部も薬剤含浸体1に接触する接触部となっている。
【0034】
第2部材23は、第1部材22と同様に構成されている。第1部材22の周縁部と第2部材23の周縁部とは、例えば爪嵌合等によって結合するようになっている。この結合状態では、薬剤含浸体1は、第1部材22の接触部22bと第2部材23の接触部(図示せず)とによって挟持されるとともに、第1部材22及び第2部材23の周縁部によっても挟持される。
【0035】
吊り下げ部材25は、板状部21の上端部に係合する係合部25aと、係合部25aから上方へ延びる連結部25bと、連結部25bの上端に連結された略C字状のフック25cとを備えている。フック25cを棒材等に引っ掛けることが可能となっている。
【0036】
尚、保持具20は白色に着色されている。
【0037】
上記薬剤放散器10を製造する場合には、まず、薬剤含浸体1となる基材に薬剤を含浸させない状態で第1部材22と第2部材23との間に配置し、両部材22,23を結合して板状部21で保持する。その後、第1部材22の接触部22b内に薬剤を注入する。接触部22b内に注入された薬剤は、薬剤含浸体1の基材に接触し、毛細管現象によって基材の全体に広がっていく。これにより、薬剤含浸体1が得られる。
【0038】
次に、上記のように構成された薬剤放散器10を使用した場合について説明する。吊り下げ部材25のフック25cを屋外にある棒材等に引っ掛ける。これにより、薬剤放散器10が屋外で大気中に保持される。
【0039】
薬剤含浸体1が板状部21の開放部分から露出した状態となっているので、薬剤放散器10に直射日光が当たると薬剤含浸体1にも直射日光が当たる。また、板状部21の開放部分から空気の出入りが可能なので薬剤含浸体1には空気が流通する。
【0040】
薬剤放散器10の温度変化についての実験結果を図3に示すグラフに基づいて説明する。実験日は2011年10月27日であり、場所は広島県廿日市市である。この日の日の出は6時25分であり、日の入りは17時23分である。また、天気は晴れ時々曇りであり、風速は微風であった。
【0041】
グラフの縦軸は、薬剤含浸体1の温度と雰囲気温度(薬剤含浸体1の周囲の気温)との差を表し、横軸は時刻を表している。薬剤含浸体1は保持具20で保持した状態で日の出前から放置して薬剤含浸体1の温度と雰囲気温度とは同じにしておいた。実施例1は、薬剤含浸体1を黒色に着色し、保持具20を白色に着色した薬剤放散器10である。
【0042】
実施例1では、日の出から30分程度経過した7時には、薬剤含浸体1の温度が雰囲気温度よりも0.4℃上昇した。0.4℃の上昇により、トランスフルトリンの蒸散上昇率は、0℃のとき(薬剤含浸体1の温度と雰囲気温度との差がないとき)を100として126となる。つまり、トランスフルトリンは26%も蒸散量が多くなる。
【0043】
薬剤含浸体1の色が、JIS K5602に基づいて測定された日射反射率が40%よりも大きい値となる色である場合には、薬剤含浸体1の温度上昇が不十分となり、トランスフルトリンの蒸散上昇率が低下してしまう。
【0044】
そして、8時になると図3に示す実施例1では、薬剤含浸体1の温度が雰囲気温度よりも2.1℃上昇した。2.1℃の上昇により、トランスフルトリンの蒸散上昇率は、145となる。
【0045】
一方、図4に示す従来例の場合は、7時〜8時では薬剤の温度は雰囲気温度と同じであり、直射日光による効力向上は認められない。
【0046】
また、図3に示す比較例は、薬剤含浸体1を白色に着色し、保持具20も白色に着色しており、この場合、7時〜8時では薬剤の温度は雰囲気温度と同じであり、直射日光による効力向上は認められない。
【0047】
直射日光が弱い場合に実施例1の温度が上昇するのは、薬剤含浸体1自体が黒色に着色されているからである。
【0048】
10時以降15時までは直射日光が強く、これによって図3に示す実施例1では、薬剤含浸体1の温度が雰囲気温度よりも最大で7.2℃上昇した。7.2℃の上昇により、トランスフルトリンの蒸散上昇率は、218となる。
【0049】
一方、図4に示す従来例の場合は、直射日光が強くなると薬剤の温度は雰囲気温度よりも最大で16.2℃上昇した。16.2℃の上昇により、トランスフルトリンの蒸散上昇率は、346となる。このように従来例の場合はトランスフルトリンの蒸散上昇率が300を越えることになるが、300を越えても効力はさほど変化せず、薬剤の消費が無駄に多くなってしまう。
【0050】
また、図3に示す比較例では、直射日光が強くても、最大で0.7℃しか上昇していないので、昼間における薬剤の効力が不十分である。
【0051】
直射日光が強い場合に実施例1の温度上昇が抑制されているのは、薬剤含浸体1の周囲の空気が薬剤含浸体1を適度に流通して冷却効果が得られるからである。
【0052】
以上説明したように、実施例1の薬剤放散器10によれば、薬剤含浸体1を日射反射率が40%以下の黒色に着色したので、朝方の弱い直射日光下であっても薬剤含浸体1の温度が上昇しやすくなり、薬剤の放散量が十分に確保される。
【0053】
また、強い直射日光を受けた場合には、薬剤含浸体1に雰囲気温度の空気が流通することによって薬剤含浸体1が冷却されるので、従来例の捕虫容器に収容するものに比べて温度の過度な上昇が抑制される。
【0054】
したがって、直射日光が弱い場合には薬剤含浸体1の温度を早期に上昇させて薬剤の気化を促進させることができ、また、直射日光が強い場合には過度な温度上昇を抑制して薬剤の無用な放散を抑制できる。よって、薬剤による十分な効力を長期間に亘って得ることができる。
【0055】
また、図3に示す実施例2では、薬剤含浸体1を白色に着色し、保持具20を黒色に着色しており、この場合は、9時において薬剤含浸体1の温度が雰囲気温度よりも1.0℃上昇した。これは、保持具20が黒色に着色されていることによって保持具20の温度が上昇し、保持具20の熱が接触部22bを介して薬剤含浸体1に伝達して薬剤含浸体1の温度が上昇するためである。1.0℃の上昇により、トランスフルトリンの蒸散上昇率は、129となる。
【0056】
また、実施例2では、直射日光が強い場合でも、薬剤含浸体1の温度が雰囲気温度よりも最大で1.8℃の上昇に抑えられている。1.8℃の上昇により、トランスフルトリンの蒸散上昇率は、141となる。
【0057】
したがって、実施例2の場合も、直射日光が弱い場合には薬剤含浸体1の温度を早期に上昇させて薬剤の気化を促進させることができ、また、直射日光が強い場合には過度な温度上昇を抑制して薬剤の無用な放散を抑制できる。
【0058】
また、図3に示す実施例3では、薬剤含浸体1を黒色に着色し、保持具20も黒色に着色しており、この場合は、7時において薬剤含浸体1の温度が雰囲気温度よりも0.3℃上昇した。0.3℃の上昇により、トランスフルトリンの蒸散上昇率は、119となる。
【0059】
実施例3では、8時において薬剤含浸体1の温度が雰囲気温度よりも2.3℃上昇し、9時において薬剤含浸体1の温度が雰囲気温度よりも7.5℃上昇した。
【0060】
一方、従来例の場合は、上記したように7〜9時では薬剤の温度は雰囲気温度と同じであり、直射日光による効力向上は認められない。
【0061】
また、実施例3では、直射日光が強い場合でも、薬剤含浸体1の温度が雰囲気温度よりも最大で8.0℃の上昇に抑えられている。8.0℃の上昇により、トランスフルトリンの蒸散上昇率は、229となる。
【0062】
したがって、実施例3の場合も、直射日光が弱い場合には薬剤含浸体1の温度を早期に上昇させて薬剤の気化を促進させることができ、また、直射日光が強い場合には過度な温度上昇を抑制して薬剤の無用な放散を抑制できる。
【0063】
(実施形態2)
図5図7は、本発明の実施形態2にかかる薬剤放散器10を示すものである。この実施形態2の薬剤放散器10は、保持具30が薬剤含浸体1を網戸に保持させることができるように構成されている点で実施形態1のものと異なっており、薬剤含浸体1については実施形態1と同じであるため、以下、保持具30の構造について詳細に説明する。
【0064】
保持具30は、樹脂材を板状に成形してなるものであり、実施形態1のものと同様に第1部材31と第2部材32とを組み合わせて構成されている。薬剤含浸体1は、第1部材31と第2部材32との間で挟持されている。
【0065】
第1部材31には貫通孔31aが形成され、また、第2部材32にも第1部材31の貫通孔31aに対応して貫通孔32aが形成されている。貫通孔31a,32aを介して空気の流通が可能となっている。
【0066】
図6に示すように、第2部材32の外面には、面ファスナ33が取り付けられている。面ファスナ33を構成するフック側テープが第2部材32の外面に両面テープによって貼り付けられている。そして、保持具30を網戸に取り付ける場合には、保持具30を網戸の屋外側に配置した後、第2部材32のフック側テープのフックを網戸の網目に通し、網戸の屋内側からループ側テープをフック側テープに押し付ける。これにより、フックとループとが絡み合って面ファスナの機能を利用して保持具30簡単に取り付けることができる。面ファスナ33を利用することで保持具30の取り外しも簡単にできる。
【0067】
この実施形態2の薬剤放散器10においても、実施形態1のものと同様に、朝方の弱い直射日光下であっても薬剤含浸体1の温度が上昇しやすくなり、薬剤の放散量が十分に確保され、また、強い直射日光を受けた場合には、薬剤含浸体1に雰囲気温度の空気が流通することによって冷却されるので、従来例の捕虫容器に収容したものに比べて温度の過度な上昇が抑制される。よって、薬剤による十分な効力を長期間に亘って得ることができる。
【0068】
尚、上記実施形態1、2では、薬剤含浸体1に害虫の忌避剤や殺虫剤を含浸させるようにしているが、これに限らず、例えば、芳香剤や消臭剤等を含浸させてもよい。
【0069】
また、保持具20,30の構造は上記した構造に限られるものではなく、例えば、屋外に置くことができるように構成してもよい。
【0070】
また、JIS K5602に基づいて測定された日射反射率が40%以下の色に着色された薬剤含浸体1のみを屋外に吊したり、置いたりして使用してもよい。
【0071】
また、例えば集合住宅等の建物の壁やドアは、茶系等の濃い色に着色されていることが多いが、JIS K5602に基づいて測定された日射反射率が40%以下の色に着色した薬剤含浸体1及び薬剤拡散器10は、壁やドアの色と近い色合いとなり、目立ちにくくなるという効果もある。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、本発明にかかる薬剤含浸体及び薬剤拡散器は、例えば、害虫の忌避剤等を放散させるのに使用できる。
【符号の説明】
【0073】
1 薬剤含浸体
1a 通気孔
10 薬剤放散器
20 保持具
25 吊り下げ部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7