特許第5989345号(P5989345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989345
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】大麦選抜方法及び麦芽発泡飲料
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20060101AFI20160825BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20160825BHJP
   C12C 1/00 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   C12Q1/68 ZZNA
   C12N15/00 A
   C12C1/00
【請求項の数】10
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-10051(P2012-10051)
(22)【出願日】2012年1月20日
(65)【公開番号】特開2013-146237(P2013-146237A)
(43)【公開日】2013年8月1日
【審査請求日】2015年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】飯牟礼 隆
(72)【発明者】
【氏名】木原 誠
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−279260(JP,A)
【文献】 特開2011−139669(JP,A)
【文献】 特開2011−045260(JP,A)
【文献】 Theor. Appl. Genet., 2011, Vol. 122, pp. 199-210
【文献】 J Agric Food Chem,2008年,Vol.56, No.18,Page.8664-8671
【文献】 J. Agric. Food, Chem., 2008, Vol. 56, pp. 1458-1464
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
C12C 1/00
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
泡持ちの優れる麦芽発泡飲料用の大麦を選抜する選抜方法であって、
被検大麦について、
(a)GroupI型の大麦二量体α−アミラーゼ阻害剤−1(Barley dimeric alpha−amylase inhibitor−1)遺伝子座周辺領域の塩基配列と、(b)GroupII型の大麦二量体α−アミラーゼ阻害剤−1遺伝子座周辺領域の塩基配列とを多重整列することにより特定されるDNAマーカーの少なくとも一つについて遺伝子型を同定し、GroupI型の遺伝子型に一致する被検大麦を泡持ちの優れる麦芽発泡飲料用の大麦として選抜するものであり、
前記大麦二量体α−アミラーゼ阻害剤−1遺伝子座周辺領域が、開始コドンに相当するATG配列の上流5cM以内、かつ終止コドンに相当するTAG配列の下流5cM以内の領域である、選抜方法。
【請求項2】
前記(a)及び(b)の塩基配列が、それぞれ配列番号1及び配列番号2で特定される塩基配列である、請求項1に記載の選抜方法。
【請求項3】
前記DNAマーカーが、配列番号1で特定される塩基配列の第60番目の塩基、第124番目の塩基、第160番目の塩基、第220番目の塩基、第475番目の塩基、第490〜491番目の塩基の間、第1181番目の塩基又は第1238番目の塩基に相当する塩基部位であり、
遺伝子型の同定が、
前記被検大麦のゲノムDNAを鋳型として、前記DNAマーカーの少なくとも1つを含むポリヌクレオチドをポリメラーゼ連鎖反応法により増幅するステップと、
前記ポリヌクレオチドを、認識配列中に前記DNAマーカーの少なくとも1つを含む1種又は2種以上の制限酵素により消化するステップと、
前記制限酵素により消化して得られるDNA断片の数及び/又はサイズに基づいて、前記遺伝子型を同定するステップと、を含む方法により行われる、請求項1又は2に記載の選抜方法。
【請求項4】
前記DNAマーカーが、配列番号1で特定される塩基配列の第490〜491番目の塩基の間に相当する塩基部位であり、かつ前記制限酵素が、AfaI、RsaI又はTaqIから選択されるか、又は、
前記DNAマーカーが、配列番号1で特定される塩基配列の第1181番目の塩基に相当する塩基部位であり、かつ前記制限酵素が、AccI、Bst1107I又はDdeIから選択される、請求項3に記載の選抜方法。
【請求項5】
前記DNAマーカーが、配列番号1で特定される塩基配列の第319〜320番目の塩基の間、又は第402〜422番目の塩基に相当する塩基部位であり、
遺伝子型の同定が、
前記被検大麦のゲノムDNAを鋳型として、少なくとも一方のプライマーが前記DNAマーカーの少なくとも一部にアニーリングする塩基配列を有するプライマー対により、ポリメラーゼ連鎖反応を行うステップと、
前記ポリメラーゼ連鎖反応による増幅産物の有無に基づいて、前記遺伝子型を同定するステップと、を含む方法により行われる、請求項1又は2に記載の選抜方法。
【請求項6】
前記DNAマーカーが、配列番号1で特定される塩基配列の第402〜422番目の塩基に相当する塩基部位である、請求項5に記載の選抜方法。
【請求項7】
前記プライマー対が、配列番号13で特定される塩基配列を有するプライマーと、配列番号14で特定される塩基配列を有するプライマーと、からなる、請求項5又は6に記載の選抜方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の選抜方法により大麦を選抜する工程と、選抜された大麦同士を交配し、泡持ちの優れる麦芽発泡飲料用の交配後代系統の大麦を得る工程とを含む方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の選抜方法により大麦を選抜する工程、又は請求項8に記載の方法により大麦を得る工程と
当該大麦を製麦する製麦工程と、を含む麦芽製造方法。
【請求項10】
求項1〜7のいずれか一項に記載の選抜方法により大麦を選抜する工程、又は請求項8に記載の方法により大麦を得る工程と、
当該大麦を原料の少なくとも一部として使用する仕込工程と、を備える、麦芽発泡飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麦芽発泡飲料用大麦の選抜方法及び麦芽発泡飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
ビール等の麦芽発泡飲料の泡は、薄い液体の膜に包まれた炭酸ガスの気泡の集合体であり、気が抜けたり、香味が変化したりするのを防ぐ蓋の役目をするほか、香り立ちを向上させる働きがある。このため、泡持ちはビール等の麦芽発泡飲料の品質を左右する重要な要因の一つである。
【0003】
泡持ちには様々な要因が関与しているが、その要因の一つとしてタンパク質の関与が示唆されている。例えば、特許文献1には、NIBEM値の高い泡持ちの良いビールでは、酵母チオレドキシン濃度が低く、プロテインZ濃度及び大麦二量体α−アミラーゼ阻害剤−1(Barley dimeric alpha−amylase inhibitor−1。以下「BDAI−1」ともいう。)濃度が高いことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−216208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
麦芽発泡飲料用の大麦育種において、泡持ちの優れた大麦の当該形質を確実に後代へと伝えていくことは必須かつ重要な課題である。すなわち、泡持ちと正の相関があるタンパク質(例えば、BDAI−1)含有量の高い大麦を効率よく選抜できる技術は有用である。しかしながら、泡持ちに関与するタンパク質の含有量をタンパク質レベルで測定する方法は、特に大麦育種の初期段階に近いほど、数百もの大麦個体をスクリーニングする必要があるため、実用上採用することはできない。
【0006】
近年、作物の育種において、様々な形質に関して、DNAマーカーを利用した当該形質を有する作物の選抜技術が開発されているが、これまでのところBDAI−1含有量に関して有効なDNAマーカーは報告されていない。
【0007】
そこで、本発明は、簡易な操作で多検体を短時間で処理することができ、かつBDAI−1含有量の高い大麦を信頼性よく選抜することができる、大麦育種への応用に適した、大麦の選抜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、泡持ちの優れる麦芽発泡飲料用の大麦を選抜する選抜方法であって、
被検大麦について、
(a)GroupI型の大麦二量体α−アミラーゼ阻害剤−1(BDAI−1)遺伝子座周辺領域の塩基配列と、(b)GroupII型のBDAI−1遺伝子座周辺領域の塩基配列とを多重整列することにより特定されるDNAマーカーの少なくとも一つについて遺伝子型を同定し、GroupI型の遺伝子型に一致する被検大麦を泡持ちの優れる麦芽発泡飲料用の大麦として選抜する選抜方法を提供する。
【0009】
本明細書において、「GroupI型(以下、「グループI型」ともいう。)」とは、BDAI−1遺伝子座周辺領域に存在する上記DNAマーカーの遺伝子型が、大麦CDC Kendall種の遺伝子型と一致する大麦を表す。「GroupI型」のBDAI−1遺伝子座周辺領域の塩基配列の一例としては、配列番号1で示される塩基配列が挙げられる。
【0010】
同様に、本明細書において、「GroupII型(以下、「グループII型」ともいう。)」とは、BDAI−1遺伝子座周辺領域に存在する上記DNAマーカーの遺伝子型が、大麦りょうふう種の遺伝子型と一致する大麦を表す。「GroupII型」のBDAI−1遺伝子座周辺領域の塩基配列の一例としては、配列番号2で示される塩基配列が挙げられる。
【0011】
グループI型及びグループII型のBDAI−1遺伝子座周辺領域の塩基配列を多重整列することにより、塩基が一致しない塩基部位をDNAマーカーとして特定することができる。被検大麦において、上記DNAマーカーのうちから1つ以上について遺伝子型を同定し、同定した遺伝子型がグループI型の遺伝子型に一致する被検大麦を選抜することによって、BDAI−1含有量の高い大麦を選抜することができる。
【0012】
上述した選抜方法は、大麦組織中のBDAI−1含有量と相関する新規なDNAマーカーを利用しているため、産地や産年度による自然環境の変動の影響を受けることなく、BDAI−1含有量の高い大麦を信頼性よく選抜することができる。また、遺伝子型の同定には、分子生物学的手法を採用できるため、上述した選抜方法は、簡易な操作で多検体を短時間で処理できる。これにより、大麦育種現場で採用することができ、効率よく所望の形質を有する大麦を選抜することが可能となる。また、大麦育種の初期段階(例えば、雑種第2世代)での選抜も可能となる。
【0013】
上記(a)及び(b)の塩基配列は、それぞれ配列番号1及び配列番号2で特定される塩基配列とすることができる。すなわち、上記DNAマーカーは、配列番号1で特定される塩基配列の第9番目の塩基(M1;図1に示した「M1」に相当する。以下同様である。)、第32番目の塩基(M2)、第60番目の塩基(M3)、第124番目の塩基(M4)、第160番目の塩基(M5)、第208番目の塩基(M6)、第220番目の塩基(M7)、第319〜320番目の塩基の間(M8;図1中のギャップに対応する)、第402〜422番目の塩基(M9)、第475番目の塩基(M10)、第490〜491番目の塩基の間(M11;図1中のギャップに対応する)、第557〜558番目の塩基の間(M12;図1中のギャップに対応する)、第1098番目の塩基(M13)、第1181番目の塩基(M14)、第1197番目の塩基(M15)、第1226番目の塩基(M16)、第1233番目の塩基(M17)、第1238番目の塩基(M18)、又は第1274番目の塩基(M19)に相当する塩基部位とすることができる。
【0014】
上記選抜方法において、遺伝子型の同定は、Cleaved Amplified Polymorphic Sequence(CAPS)法、又はギャップを利用したポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を用いて行うことが好ましい。CAPS法、又はギャップを利用したPCR法を用いて遺伝子型の同定を行うことにより、より一層簡易な操作で、かつより一層短時間で多検体を処理することができる。また、処理する検体数をより多くすることも可能となる。したがって、より一層大麦育種への応用に適した選抜方法になる。
【0015】
CAPS法による遺伝子型の同定は、例えば、配列番号1で特定される塩基配列の第60番目の塩基、第124番目の塩基、第160番目の塩基、第220番目の塩基、第475番目の塩基、第490〜491番目の塩基の間、第1181番目の塩基又は第1238番目の塩基に相当する塩基部位をDNAマーカーとし、被検大麦のゲノムDNAを鋳型として、上記DNAマーカーの少なくとも1つを含むポリヌクレオチドをPCR法により増幅するステップと、上記ポリヌクレオチドを、認識配列中に当該DNAマーカーの少なくとも1つを含む1種又は2種以上の制限酵素により消化するステップと、上記制限酵素により消化して得られるDNA断片の数及び/又はサイズに基づいて、遺伝子型を同定するステップと、を含む方法により行うことができる。
【0016】
CAPS法による遺伝子型の同定は、配列番号1で特定される塩基配列の第490〜491番目の塩基の間に相当する塩基部位をDNAマーカーとし、かつAfaI、RsaI又はTaqIから選択される制限酵素を用いる方法、又は、配列番号1で特定される塩基配列の第1181番目の塩基に相当する塩基部位をDNAマーカーとし、かつAccI、Bst1107I又はDdeIから選択される制限酵素を用いる方法により行うことが好ましい。
【0017】
ギャップを利用したPCR法による遺伝子型の同定は、例えば、配列番号1で特定される塩基配列の第319〜320番目の塩基の間、又は第402〜422番目の塩基に相当する塩基部位をDNAマーカーとし、被検大麦のゲノムDNAを鋳型として、少なくとも一方のプライマーが当該DNAマーカーの少なくとも一部にアニーリングする塩基配列を有するプライマー対により、PCRを行うステップと、PCRによる増幅産物の有無に基づいて、遺伝子型を同定するステップと、を含む方法により行うことができる。
【0018】
ギャップを利用したPCR法による遺伝子型の同定は、配列番号1で特定される塩基配列の第402〜422番目の塩基に相当する塩基部位をDNAマーカーとする方法で行うことが好ましい。また、上記プライマー対として、配列番号13で特定される塩基配列を有するプライマーと、配列番号14で特定される塩基配列を有するプライマーとからなる、プライマー対を用いることがより好ましい。
【0019】
本発明はまた、上記選抜方法により選抜された大麦同士を交配し、泡持ちの優れる麦芽発泡飲料用の交配後代系統の大麦を得る方法、及び上記選抜方法により選抜された大麦同士を交配して得ることのできる交配後代系統の大麦を提供する。
【0020】
本発明の選抜方法により選抜された大麦は、麦芽発泡飲料の泡持ちに影響を及ぼすBDAI−1遺伝子座中のDNAマーカーの遺伝子型が一致している。そして、これらの大麦同士を交配することにより得られる交配後代系統の大麦は、上記DNAマーカーに関して両親と同じ遺伝子型を有することから、BDAI−1含有量の高い大麦となる。
【0021】
麦芽発泡飲料の泡持ちは、例えば、20℃の麦芽発泡飲料を泡注ぎ出し機で標準グラスに注いで生じる泡の高さが30mm降下するのに要する時間(秒)(NIBEM値)を判定基準とすることができる。
【0022】
本発明はまた、上記選抜方法によって選抜された大麦、又は上記交配後代系統の大麦を製麦する製麦工程を含む麦芽製造方法を提供する。また、該麦芽製造方法により得ることのできる麦芽を提供する。
【0023】
本発明の麦芽は、上記選抜方法により選抜された大麦又は上記交配後代系統の大麦を製麦して得られるものであるため、BDAI−1含有量が高く、泡持ちの優れる麦芽発泡飲料の原料として有用である。
【0024】
本発明はまた、仕込工程を少なくとも備え、上記仕込工程において、原料の少なくとも一部として、上記選抜方法により選抜された大麦、若しくは上記交配後代系統の大麦、又は上記麦芽を使用する、麦芽発泡飲料の製造方法を提供する。また、該製造方法により得ることのできる麦芽発泡飲料を提供する。
【0025】
本発明の麦芽発泡飲料の製造方法では、原料の少なくとも一部として、上記選抜方法により選抜された大麦、上記交配後代系統の大麦又は上記麦芽を使用するため、泡持ちの優れる麦芽発泡飲料を製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の選抜方法は、簡易な操作で多検体を短時間で処理することができ、かつゲノムDNA情報に基づく選抜方法であるためBDAI−1含有量の高い大麦を信頼性よく選抜することができる。したがって、大麦育種の初期段階での選抜に応用することができる。
【0027】
麦芽発泡飲料用の大麦育種では、育種した品種には大麦、麦芽、麦芽発泡飲料(例えば、ビール等)の全ての面において高い品質が求められる。しかしながら、例えば、ビール品質の評価には一定量以上の試料が必要となるため、育種過程後期の段階でしか評価できないのが現状である。例えば泡持ちに関しては、醸造試験において泡持ちの良し悪しが判断されることとなるが、醸造試験に到達するまでにおよそ10年の歳月を要するのが一般的である。そのため育種の初期段階で泡持ちに関する性質について大麦の選抜ができる本発明の選抜方法は非常に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】配列番号1及び配列番号2で特定される塩基配列の多重整列結果である。
図2】実施例2における電気泳動の結果を示す写真である。
図3】実施例2における電気泳動の結果を示す写真である。
図4】グループI型及びグループII型の大麦のBDAI−1含有量を測定した結果を示すグラフである。
図5】グループI型及びグループII型の大麦から得られた麦芽を用いて醸造したビールのNIBEM値を示すグラフである。
図6】実施例4における電気泳動の結果を示す写真である。
図7】実施例5における電気泳動の結果を示す写真である。
図8】実施例5における電気泳動の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
〔大麦の選抜方法〕
本発明の選抜方法は、BDAI−1含有量の高い大麦を選抜することができる。上記選抜方法では、まず、グループI型及びグループII型のBDAI−1遺伝子座周辺領域の塩基配列を多重整列することにより特定されるDNAマーカーを得る。被検大麦において、上記DNAマーカーについて1つ以上の遺伝子型を同定し、その遺伝子型が、グループI型の遺伝子型と一致する被検大麦をBDAI−1含有量の高い大麦として選抜する。グループII型の遺伝子型と一致しない被検大麦をBDAI−1含有量の高い大麦として選抜してもよい。
【0030】
BDAI−1遺伝子座周辺領域とは、BDAI−1遺伝子のエキソン、イントロンが存在する領域のみならず、転写制御に関わるDNA配列が存在する領域及びその周辺領域をも含むものである。具体的には、BDAI−1遺伝子座周辺領域として、開始コドンに相当するATG配列の上流5cM以内の範囲とすることができ、1cM以内の範囲とすることが好ましく、0.01cM以内の範囲とすることがより好ましく、0.0001cM以内の範囲とすることが更に好ましい。また、終止コドンに相当するTAG配列の下流5cM以内の範囲とすることができ、1cM以内の範囲とすることが好ましく、0.01cM以内の範囲とすることがより好ましく、0.0001cM以内の範囲とすることが更に好ましい。
【0031】
ここで、cM(センチモルガン)とは、遺伝学的方法によって定まる染色体上での遺伝子間の距離を表す単位である。具体的には、減数分裂1回当たり、相同染色体間に平均1回の交叉が起こる距離を1Mとし、その1/100の距離を1cMという。
【0032】
すなわち、BDAI−1遺伝子座から5cM以内であれば、組換えが生じる確率が5%以下となり、1cM以内であればその確率が1%以下となり、0.01cM以内であればその確率が0.01%以下となり、更に0.0001cM以内であればその確率が0.0001%以下となる。したがって、この範囲内にあるDNAマーカーとBDAI−1含有量との相関関係は、高い確率で保たれることになる。すなわち、上記DNAマーカーをこの範囲内で設定することで、統計上有意に、BDAI−1含有量に基づいて被検大麦を選抜することができる。
【0033】
BDAI−1遺伝子座周辺領域の塩基配列情報は、例えば、大麦から抽出したゲノムDNAを鋳型としたPCR法によりBDAI−1遺伝子座周辺領域からポリヌクレオチドを増幅し、増幅したポリヌクレオチドを必要に応じて精製し、このポリヌクレオチドの塩基配列のシークエンス解析により決定することで、得ることができる。
【0034】
ゲノムDNAは大麦のどの部位から抽出されてもよく、例えば、大麦の葉、茎、根、種子等をDNAソースとして利用することができる。これらの組織からのゲノムDNA抽出方法としては、植物のDNA抽出に汎用されている抽出方法を用いることができる。また、市販されているDNA抽出キット類も好適に使用することができる。
【0035】
抽出されたゲノムDNAを鋳型としたPCRに用いるプライマー対の塩基配列は、NCBI、Gene Bank等のデータベースに登録されているBDAI−1遺伝子座周辺領域に相当するゲノムの(部分)塩基配列を入手し、その塩基配列情報に基づいて設計することができる。各プライマーの塩基配列長、塩基配列、GC含有量等のパラメーター設定については、当業者の通常の試行錯誤の範囲内であり、適宜決定され得る。また、PCR法、増幅したポリヌクレオチドの精製法、シークエンス解析法については、当該技術分野で汎用されている手法が適用可能であり、常法に従って実施することができる。
【0036】
また、データベースに登録されている(部分)塩基配列を基にBDAI−1遺伝子配列特異的プライマーを設計し、ランダムプライマーと組み合わせてThermal Asymmetric Interlaced(TAIL)PCR法等を実施することによって、塩基配列が未知である隣接領域に対応するポリヌクレオチドを増幅することができる。増幅されたポリヌクレオチドのシークエンス解析により、データベースに登録されていない塩基配列情報の取得が可能である。塩基配列が未知の隣接領域を取得する方法としては、TAIL PCR法以外にも、例えば、Inverse PCR等の方法が挙げられる。
【0037】
上記DNAマーカーは、グループI型及びグループII型のBDAI−1遺伝子座周辺領域の塩基配列を多重整列することにより特定することができる。
【0038】
グループI型のBDAI−1遺伝子座周辺領域の塩基配列は、代表的には大麦CDC Kendall種を用いて、上述した塩基配列情報を決定する方法により得ることができる。また、CDC Kendall種以外の大麦種を用いることも可能であり、そのような大麦種として、これらに限定されるものではないが、CDC Copeland、Scarlett種等を例示できる。
【0039】
グループII型のBDAI−1遺伝子座周辺領域の塩基配列は、代表的には大麦りょうふう種を用いて、上述した塩基配列情報を決定する方法により得ることができる。また、りょうふう種以外の大麦種を用いることも可能であり、そのような大麦種として、これらに限定されるものではないが、CDC Reserve、Schooner種等を例示できる。
【0040】
本明細書において、多重整列(マルチプルアラインメント)とは、複数の塩基配列を相互に比較可能なものにするため、一致する塩基が可能な限り多くなるように、適宜空白(ギャップ)を入れて塩基配列を整列させることをいう。多重整列は、公知の多重整列作成プログラム(Clustal W、Clustal X)を用いて行うことができる。
【0041】
多重整列の結果、グループI型及びグループII型間で塩基種が一致しない塩基部位をDNAマーカーとして特定する。本発明においては、上記ギャップ部分もDNAマーカーとして特定する。
【0042】
図1は、配列番号1及び配列番号2で特定される塩基配列の多重整列結果である。配列番号1で特定される塩基配列(図1中、「GroupI」と表示する。)はグループI型の塩基配列である。配列番号2で特定される塩基配列(図1中、「GroupII」と表示する。)はグループII型の塩基配列である。図1中、「*」を付した塩基部位は、上記2つの塩基配列が一致する塩基部位を示し、「−」はギャップを表す。
【0043】
図1より、DNAマーカーの一例として、配列番号1で特定される塩基配列(グループIの塩基配列)の第9番目の塩基(M1)、第32番目の塩基(M2)、第60番目の塩基(M3)、第124番目の塩基(M4)、第160番目の塩基(M5)、第208番目の塩基(M6)、第220番目の塩基(M7)、第319〜320番目の塩基の間(M8;図1中のギャップに対応する)、第402〜422番目(M9)、第475番目の塩基(M10)、第490〜491番目の塩基の間(M11;図1中のギャップに対応する)、第557〜558番目の塩基の間(M12;図1中のギャップに対応する)、第1098番目の塩基(M13)、第1181番目の塩基(M14)、第1197番目の塩基(M15)、第1226番目の塩基(M16)、第1233番目の塩基(M17)、第1238番目の塩基(M18)、又は第1274番目の塩基(M19)に相当する塩基部位を特定することができる。
【0044】
被験大麦においてDNAマーカーの遺伝子型を同定する方法としては、当該DNAマーカーの塩基種を判別する方法を用いることができる。具体的には、例えば、Restriction fragment length polymorphism(RFLP)法、シークエンス法、CAPS法及びギャップを利用したPCR法等が挙げられる。中でも、操作がより簡易で、より多検体を処理でき、低コストで、かつより短時間で判別できるとの観点から、CAPS法及びギャップを利用したPCR法が好ましい。
【0045】
CAPS法による塩基種の判別は、例えば、次のように行うことができる。まず、上記DNAマーカーの少なくとも1つを含むポリヌクレオチドを増幅可能なプライマー対を用い、被検大麦のゲノムDNAを鋳型としたPCRを行う。得られた増幅DNA断片(PCR産物)を、認識配列中に上記DNAマーカーを含む1種又は2種以上の制限酵素により消化処理する。そして、制限酵素処理DNA断片の数及び/又はサイズを解析し、制限酵素の認識配列の有無を判定する。これにより、当該DNAマーカーの塩基種(例えば、「A(アデニン)」又は「A以外」)を判別でき、遺伝子型を同定することができる。
【0046】
CAPS法には、例えば、上記DNAマーカーのうち、M3、M4、M5、M7、M10、M11、M14及びM18を用いることができる。このとき、制限酵素としては、それぞれのDNAマーカーに対して、例えば、以下に示すものを使用することができる。
M3 :AfaI、BanI、KpnI、NcoI、RsaI又はStyI
M4 :AccI又はBst1107I
M5 :AccII又はHhaI
M7 :MnlI
M10:FokI又はPstI
M11:AfaI、RsaI又はTaqI
M14:AccI、Bst1107I又はDdeI
M18:AccII、AviII、BssHII、FspI又はHhaI
【0047】
被検大麦からのゲノムDNAの抽出方法は、特に限定されるものではなく、常用される方法を一般に適用可能である。また、市販されているキット類も好適に使用可能である。一方、ゲノムDNAは被検大麦の葉、茎、根、種子等の部位から抽出されてもよいが、育種段階での選抜を考慮すれば、葉から抽出するのが好ましい。葉から抽出することにより、早い段階で望ましい形質を有する大麦を選抜することができる。
【0048】
上記ゲノムDNAを鋳型としたPCRに用いるプライマー対は、例えば、DNAマーカーを特定する際に決定したBDAI−1遺伝子座周辺領域の塩基配列を基に設計すればよい。該プライマーにより増幅されるポリヌクレオチドの長さとしては、制限酵素で消化した後に、DNA断片をサイズ分画によって検出することを考慮すれば、上限値は、5000bpとするのが好ましく、より好ましくは3000bpであり、更に好ましくは2000bpである。同様に下限値は、100bpが好ましく、より好ましくは200bpであり、更に好ましくは300bpである。PCR法に用いるポリメラーゼの種類を当業者によく知られたものの中から適宜選択することにより、上述した長さを有するポリヌクレオチドを増幅することができる。
【0049】
PCRに用いるプライマー及びプライマー対としては、特に制限されるものではないが、後述の実施例において例示するプライマー及びプライマー対を好適に用いることができる。
【0050】
制限酵素による反応は、各制限酵素に至適な緩衝液を用い、至適な反応温度において実施することができる。また、制限酵素反応後のDNA断片をサイズ分画して、制限酵素処理DNA断片の数及び/又はサイズを解析する方法としては、当業者に常用されるアガロースゲル電気泳動による方法を好適に採用することができる。また、公知の適切なカラムを用いたHPLC法により、DNA断片をサイズ分画して検出する方法であってもよい。
【0051】
ギャップを利用したPCR法による塩基種の判別は、例えば、ギャップ部分として特定したDNAマーカーを利用して、次のように行うことができる。少なくとも一方のプライマーが上記DNAマーカーにアニーリングする塩基配列を有するプライマー対を用い、被検大麦のゲノムDNAを鋳型としたPCRを行う。上記プライマー対は、少なくとも一方のプライマーを、当該DNAマーカーとなるギャップ部分の塩基配列を含むように設計すればよい。
【0052】
ここで「ギャップ部分の塩基配列」とは、グループI型が有する塩基配列をグループII型が有しない場合(グループII型にギャップがある場合)、グループI型が有する当該塩基配列のことをいい、グループII型が有する塩基配列をグループI型が有しない場合(グループI型にギャップがある場合)、グループII型が有する当該塩基配列のことをいう。
【0053】
次に、例えば、ゲル電気泳動によりPCR産物の有無を判定する。これにより、当該DNAマーカーの塩基種(例えば、ギャップの有無)を判別でき、遺伝子型を同定することができる。このPCR法においては、PCR産物が得られる陽性対照、すなわち、グループI型(又はII型)にギャップがある場合はグループII型(又はI型)の大麦種をそれぞれ陽性対照として用いることにより、判定をより簡便に行うことができる。
【0054】
ギャップを利用したPCR法には、例えば、上記DNAマーカーのうち、M8及びM9の少なくとも1つを用いることができる。
【0055】
ギャップを利用したPCR法に用いるプライマー及びプライマー対としては、上記の条件を満たすものであれば特に制限されないが、例えば、配列番号13で特定される塩基配列を有するプライマーと、配列番号14で特定される塩基配列を有するプライマーと、からなる、プライマー対が挙げられる。
【0056】
〔交配後代系統の大麦〕
本発明の交配後代系統の大麦は、上記選抜方法により選抜された大麦同士を交配して得ることができる。上記選抜方法により選抜された大麦は、BDAI−1含有量が高いグループI型の大麦であることから、それらを交配して得られる交配後代系統の大麦もBDAI−1含有量が高いグループI型の大麦となる。
【0057】
〔麦芽製造方法〕
本発明の麦芽製造方法は、上記選抜方法により選抜された大麦又はその交配後代系統の大麦を用いて麦芽を得る製麦工程を含む方法である。BDAI−1含有量の高い大麦として選抜された大麦又はその交配後代系統の大麦を用いて製麦が行われることから、この方法により得られる麦芽はBDAI−1含有量の高いものとなる。製麦は公知の方法で行うことができ、例えば、浸麦度が40%〜45%に達するまで浸麦後、10〜20℃で3〜6日間発芽させ、焙燥することによって麦芽を得ることができる。
【0058】
〔麦芽発泡飲料の製造方法〕
本発明の麦芽発泡飲料の製造方法は、仕込工程を少なくとも備え、上記仕込工程において、原料の少なくとも一部として、上記選抜方法により選抜された大麦、上記交配後代系統の大麦又は上記麦芽を使用するものである。これらの大麦及び麦芽はBDAI−1含有量が高いため、本発明の麦芽発泡飲料の製造方法により、泡持ちの優れる麦芽発泡飲料を得ることができる。
【0059】
麦芽発泡飲料は、大麦又は麦芽を原料の一部として製造される発泡性の飲料であればよい。麦芽発泡飲料としては、例えば、仕込工程で得られた麦汁を酵母により発酵させた麦芽発酵飲料、及び仕込工程で得られた麦汁に炭酸を含ませた麦芽炭酸飲料が挙げられる。具体的には、麦芽発酵飲料としては、ビール及び発泡酒等が挙げられ、麦芽炭酸飲料としては、いわゆるノンアルコールビール及びノンアルコール発泡酒等が挙げられる。
【0060】
麦芽発酵飲料は、例えば、仕込工程と、発酵工程とを少なくとも備える製造方法により製造することができる。
【0061】
麦芽炭酸飲料は、例えば、仕込工程と、発泡性付与工程とを少なくとも備える製造方法により製造することができる。また、必要に応じて他の原料を混合する混合工程を更に備えていてもよい。
【0062】
仕込工程は、麦芽を糖化させて麦汁を得る工程である。より具体的には、麦芽や大麦を含む原料と仕込用水とを混合し、得られた混合物を加温することにより麦芽や大麦を糖化させ、糖化された麦芽や大麦から麦汁を採取する工程である。
【0063】
仕込工程で使用される麦芽としては、製麦工程において大麦に水分と空気を与えて発芽させ、乾燥して幼根を取り除いたものが好ましい。麦芽は、麦汁製造に必要な酵素源であると同時に、糖化の原料として主要なデンプン源となる。麦芽発泡飲料特有の香味と色素を与えるために、発芽させた麦芽を焙燥したものを麦汁製造に使用するのが好ましい。また、原料の一部として、麦芽以外に、大麦、コーンスターチ、コーングリッツ、米、糖類等の副原料を添加してもよい。また、原料の一部として、一般大麦より調製されたモルトエキス、大麦分解物、大麦加工物等を使用してもよい。
【0064】
仕込用水は、製造する麦芽発泡飲料に応じて好適な水を選択すればよい。また、糖化は一般的な条件で行えばよい。こうして得られた麦芽糖化液をろ過した後、香り、苦味等を付与できる原料(ホップ、ハーブ等)を添加して煮沸を行い、それを冷却することによって冷麦汁が得られる。
【0065】
発酵工程は、仕込工程で得られた冷麦汁に酵母を添加して発酵させ、麦芽発酵飲料を得る工程である。ここで用いられる酵母としては、例えば、サッカロミセス・パトリアヌス、サッカロミセス・セレビシェ、サッカロミセス・ウバルム等が挙げられる。
【0066】
発泡性付与工程は、仕込工程で得られた冷麦汁に炭酸を含ませ、麦芽炭酸飲料を得る工程である。炭酸を含ませる方法としては、例えば、炭酸水を冷麦汁に加える方法、炭酸ガスを冷麦汁に吹き込む方法を採用することができる。
【0067】
混合工程は、冷麦汁に他の原料を添加し混合する工程である。混合工程は発泡性付与工程の前に実施することが好ましい。添加する他の原料としては、例えば、糖類、食物繊維、酸味料、苦味料、色素、香料及び甘味料が挙げられる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
(実施例1:BDAI−1遺伝子座領域の未知配列の決定及び多型解析)
大麦CDC Kendall種、CDC Copeland種、Scarlett種、りょうふう種、CDC Reserve種及びSchooner種の6品種を用いた。
【0070】
[ゲノムDNAの抽出]
上述の大麦種それぞれについて、以下の方法でゲノムDNAを抽出した。葉に抽出バッファー(200mM Tris−HCl,250mM NaCl,25mM EDTA,pH7.5)とジルコニアボールを添加し、振とうした後、60℃で30分間保持した。遠心分離し、得られた上清に等量のイソプロパノールを添加してDNAを析出させた。遠心分離し、得られた沈殿に70%エタノールを添加して、再び遠心分離した。得られたDNAの沈殿を滅菌水に溶解させ、このDNA溶液をPCRの鋳型に用いた。
【0071】
[TAIL PCR法]
BDAI−1遺伝子座領域の未知配列を取得するため、TAIL PCR法を行った。TAIL PCR法には以下のプライマーを用いた。なお、特異的プライマー1〜3はNCBIデータベースに登録されているBDAI−1遺伝子の塩基配列情報(NCBI accession No.AJ009801)に基づいて設計した。
【0072】
ランダムプライマー(配列番号3):
5’−GTNCGA(G/C)(A/T)CANA(A/T)GTT−3’
特異的プライマー1(配列番号4):
5’−CCAAGGGCCACTGTTATCACTCCG−3’
特異的プライマー2(配列番号5):
5’−GCGCCCGTCATTGGAGTCACCATG−3’
特異的プライマー3(配列番号6):
5’−CCACATTGCTCCCATTCCCATCTAC−3’
特異的プライマー2−1(配列番号7):
5’−GTATATTTTGTGTACAGGGCGGGGA−3’
特異的プライマー2−2(配列番号8):
5’−CAGGGCGGGGACAGAAATTGTTTC−3’
特異的プライマー2−3(配列番号9):
5’−CTTTGGTTCGGGCCTGACCGCCCA−3’
【0073】
まず、抽出したゲノムDNAを鋳型とし、ランダムプライマーと特異的プライマー1を用い、以下に示すPCRプログラムに従って、1回目のPCRを行った。
94℃で1分間保持後、更に95℃で1分間保持した。次に、94℃で1分熱変性し、65℃で1分間アニーリングした後、72℃で3分間伸長反応を行うサイクルを5サイクル実施し、94℃で1分間熱変性、30℃で3分間アニーリング、72℃で3分間伸長反応を行うサイクルを1サイクル実施した。次に、94℃で30秒間熱変性、68℃で1分間アニーリング、72℃で3分間伸長反応、94℃で30秒間熱変性、68℃で1分間アニーリング、72℃で3分間伸長反応、94℃で30秒間熱変性、44℃で1分間アニーリング、72℃で3分間伸長反応、という9ステップで構成されるサイクルを、15サイクル実施した。最後に72℃で5分間伸長反応を実施した。
【0074】
1回目のPCRで得られたPCR産物を鋳型とし、ランダムプライマーと特異的プライマー2を用い、以下に示すPCRプログラムに従って、2回目のPCRを行った。
94℃で30秒間熱変性、68℃で1分間アニーリング、72℃で3分間伸長反応、94℃で30秒間熱変性、68℃で1分間アニーリング、72℃で3分間伸長反応、94℃で30秒間熱変性、44℃で1分間アニーリング、72℃で3分間伸長反応、という9ステップで構成されるサイクルを、13サイクル実施した。最後に72℃で5分間伸長反応を実施した。
【0075】
2回目のPCR産物を鋳型とし、ランダムプライマーと特異的プライマー3を用い、2回目のPCRと同様のPCRプログラムに従って、3回目のPCRを行った。
【0076】
3回目のPCRで得られたPCR産物の電気泳動を行い、出現したバンドを切り出し、精製後、塩基配列を解析した。これにより、BDAI−1遺伝子の翻訳開始コドン(ATG)から上流約840bpの塩基配列を新規に取得した。さらに上流の塩基配列を取得するため、この新規な塩基配列の情報に基づいて、特異的プライマー2−1、2−2及び2−3を設計した。特異的プライマー1、2及び3に代えて特異的プライマー2−1、2−2及び2−3をそれぞれ用いて、上述したTAIL PCR法を再度行った。この結果、さらに約370bp上流の塩基配列を新規に取得した。
【0077】
[BDAI−1遺伝子座領域の塩基配列の多重整列]
大麦CDC Kendall種、CDC Copeland種、Scarlett種、りょうふう種、CDC Reserve種及びSchooner種の6品種について、上記で決定した塩基配列を多重整列した。多重整列の結果、これらの大麦品種は塩基配列によって2つのグループ(グループI型及びグループII型)に分類できることが判明した。
【0078】
グループI型には、CDC Kendall、CDC Copeland及びScarlettの3品種が分類され、グループII型には、りょうふう、CDC Reserve及びSchoonerの3品種が分類された。同一のグループに分類された大麦品種は、同一の塩基配列を有していた。なお、配列番号1はグループI型のBDAI−1遺伝子座領域の塩基配列であり、配列番号2はグループII型のBDAI−1遺伝子座領域の塩基配列である。
【0079】
[DNAマーカーの特定]
図1に示した多重整列の結果、グループI型及びグループII型間で塩基種が一致しない塩基部位が合計19ヶ所存在しており、これらをDNAマーカーとして特定した。具体的には、配列番号1で特定される塩基配列(グループIの塩基配列)の第9番目の塩基(M1)、第32番目の塩基(M2)、第60番目の塩基(M3)、第124番目の塩基(M4)、第160番目の塩基(M5)、第208番目の塩基(M6)、第220番目の塩基(M7)、第319〜320番目の塩基の間(M8;図1中のギャップに対応する)、第402〜422番目(M9)、第475番目の塩基(M10)、第490〜491番目の塩基の間(M11;図1中のギャップに対応する)、第557〜558番目の塩基の間(M12;図1中のギャップに対応する)、第1098番目の塩基(M13)、第1181番目の塩基(M14)、第1197番目の塩基(M15)、第1226番目の塩基(M16)、第1233番目の塩基(M17)、第1238番目の塩基(M18)、又は第1274番目の塩基(M19)に相当する塩基部位である。
【0080】
(実施例2:CAPSマーカーの構築)
DNAマーカーM1〜M19のうち、グループI型及びグループII型のいずれかに制限酵素の認識配列が存在するものを下記表1にまとめた。
【表1】
【0081】
表1から明らかなように、M3、M4、M5、M7、M10、M11、M14及びM18は、制限酵素で消化して得られるDNA断片の数及びサイズのいずれか一方又は両方に基づいて、グループI型及びグループII型を峻別できる可能性がある。そこでM11及びM14について、CAPSマーカーの構築を行った。
【0082】
[M11を利用したCAPSマーカー]
塩基配列情報からグループI型に分類された大麦とグループII型に分類された大麦を用いて、CAPSマーカーの検証を行った。
【0083】
BDAI−1遺伝子の翻訳開始コドン(ATG)の上流1186〜1162bp付近の塩基配列にアニーリングするBD−T14プライマーと、終止コドン(TAG)の下流85〜106bp付近の塩基配列にアニーリングするBD2−2プライマーを設計した。このプライマーセットを用い、各品種のゲノムDNAを鋳型としたPCRを行った。プライマー配列及びPCR条件は以下のとおりである。
【0084】
BD−T14プライマー(配列番号10):
5’−CGTGACGGACCGCTAAATCTAGAC−3’
BD2−2プライマー(配列番号11):
5’−CATGACGCATGCGTCGCATAGG−3’
【0085】
94℃で1分間熱変性、62.5℃で1分間アニーリング及び72℃で5分間伸長反応の3ステップで構成されるサイクルを、35サイクル実施した。最後に70℃で5分間伸長反応を実施した。
【0086】
得られたPCR産物に制限酵素TaqIを添加して一晩反応させた。その後、電気泳動を行い、出現したバンドパターンを比較した。図2に電気泳動で得られたバンドパターンの写真を示す。図2中、「I」又は「II]と記載したレーンは、それぞれ、グループI型又はグループII型の大麦に対応する。グループI型及びグループII型は、増幅DNA断片中にそれぞれ3個及び2個のTaqI認識配列を有する。この違いにより、出現するバンドパターンに違いが見られた(図2)。この結果から、M11をCAPSマーカーとして利用できることが示された。
【0087】
[M14を利用したCAPSマーカー]
BD−T14プライマーに代えてBD2−3プライマーを用いたこと、制限酵素TaqIに代えて制限酵素DdeIを用いたこと以外は上記と同様にCAPSマーカーの検証を行った。
【0088】
BD2−3プライマー(配列番号12):
5’−GTAGATGGGAATGGGAGCAATGTGG−3’
BD2−2プライマー(配列番号11):
5’−CATGACGCATGCGTCGCATAGG−3’
【0089】
図3に電気泳動で得られたバンドパターンの写真を示す。図3中、レーン1及び3〜6はグループI型の大麦に対応しており、レーン2、7及び8はグループII型の大麦に対応している。図3に示した結果のとおり、出現するバンドパターンによってグループI型とグループII型を判別することができた。M14もCAPSマーカーとして利用できることが示された。
【0090】
(実施例3:DNAマーカーの検証)
上述のM11を利用したCAPSマーカーを用いて、大麦31品種をグループI型又はグループII型に分類し、BDAI−1含有量を比較した。また、これらの大麦を原料としてビールを製造し、その泡持ちを比較した。
【0091】
[CAPSマーカーによる被検大麦の分類]
大麦31品種(はるな二条、みょうぎ二条、さきたま二条、さつき二条、新田二条23号、ゴールデンメロン、ほしまさり、りょうふう、りょううん、CDC Kendall、AC Metcalf、Harrington、CDC Copeland、CDC Reserve、CDC PolarStar、Betzes、SloopSA、Schooner、Flagship、Gairdner、Lofty Nijo、Barke、Scarlett、Braemar、Triumph、Prior、Alexis、Optic、Sebastian、Power、Chevallier種)について、上述した方法と同様にして、BD−T14プライマー及びBD2−2プライマーを用いたPCR、制限酵素TaqIによるPCR産物の消化、並びに電気泳動を行い、これらの大麦をグループI型とグループII型に分類した。
【0092】
[BDAI−1含有量]
上記大麦31品種について、2000年、2004年、2008年及び2009年に群馬県のサッポロビール社圃場で栽培された大麦の種子をそれぞれミルで粉砕し、ELISA法でBDAI−1含有量を定量した。
【0093】
BDAI−Iの特異的抗体は、BDAI−1タンパク質の一部のアミノ酸配列(GCQKDVMKLLVAGV)のペプチドを合成し、ウサギを感作して作製した。96 well EIA/RIA Plate Flat Bottom(Corning Incorporated)に適宜希釈したサンプル溶液100μLを添加し、4℃で一晩静置した。サンプルを破棄後、200μLのブロッキングバッファー(カゼイン 10g,NaCl 8g,NaHPO・12HO 2.9g,KHPO 0.2g(/L))を添加しブロッキングした。2回洗浄後、精製抗体(500倍希釈)100μLを添加し、室温で2時間反応させた。3回洗浄後、1000倍希釈した二次抗体(goat anti−rabbit IgG−AP(Santa Cruz Biotechnology))100μLを添加し、室温で2時間反応させた。3回洗浄後、p−ニトロフェニルリン酸1mg/mL(10%(v/v)ジエタノールアミン)150μLを添加し、十分な発色が得られた時点で3M NaOH 50μLを添加し反応を停止させ、405nmの吸光度を測定した。各タンパク質の定量は抗体作成時に用いたペプチドを標準とした検量線を作成して行った。
【0094】
図4に、BDAI−1含有量の測定結果を示した。図4に示した測定結果は、(A)から(D)それぞれに示した各年産のグループI型の大麦の平均値、及びグループII型の大麦のBDAI−1含有量の平均値である。調査した全ての産年度のサンプルにおいて、グループI型の大麦の方が、危険率1%又は5%で有意にBDAI−1含有量が高かった。「*」及び「**」は、有意差(危険率:それぞれ5%及び1%)があることを示す。有意差の有無は、t−検定を用いて判定した。以上の結果から、本CAPSマーカーで判別したBDAI−1遺伝子型(グループI及びグループII)は種子中BDAI−1含有量を判別するのに有効なDNAマーカーであることが示された。
【0095】
[泡持ち]
400Lパイロットスケールでの大麦品種単用醸造試験のNIBEM値から、BDAI−1遺伝子型と泡持ちの関係を調査した(図5)。NIBEM値の解析にはグループI型の大麦としてCDC Kendall(n=4)、CDC Copeland(n=3)、AC Metcalfe(n=1)及びミカモゴールデン(n=1)の4品種、グループII型の大麦としてあまぎ二条(n=2)、りょうふう(n=4)北育39号(n=2)、北育41号(n=2)、CDC Reserve(n=2)及び新田二条23号(n=1)の6品種を用いた。解析の結果、グループI型の大麦は危険率5%で有意にNIBEM値が高いことが示された。このことから、本CAPSマーカーで判別したBDAI−1の遺伝子型は泡持ちを判別するのに有効なDNAマーカーであることが示された。
【0096】
(実施例4:PCRマーカーの構築)
図1に示した多重整列におけるギャップに位置するDNAマーカーM9を利用し、PCR産物の有無のみによって、BDAI−1の遺伝子型の判別を試みた。PCR用プライマーとして、BD−pat1プライマー及びBD−T1プライマーを設計した。BD−pat1プライマーは、3’末端の6塩基を除いてM9のギャップ(グループIIが欠損している塩基配列)にアニーリングするように設計されている。
【0097】
BD−pat1プライマー(配列番号13):
5’−GCCCACAAGACACTCATGCAAGCCC−3’
BD−T1プライマー(配列番号14):
5’−CCAAGGGCCACTGTTATCACTCCG−3’
【0098】
図6に電気泳動で得られたバンドパターンの写真を示す。レーン1のサンプルはCDC Kendall種(グループI型)、レーン2のサンプルはりょうふう種(グループII型)に対応する。グループI型でのみPCR産物の増幅が確認できた。このことから、本PCRマーカーによってBDAI−1の遺伝子型を判別できることが示された。PCRマーカーは制限酵素処理工程が不要であるため、より迅速かつ簡易に遺伝子型の判別が可能である。同様に、図1に示した多重整列におけるギャップに位置するDNAマーカーM8を利用したPCRマーカーの構築が可能である。
【0099】
(実施例5:プライマー対の検証)
上記のCAPSマーカー(M11)を用い、種々のプライマー及びプライマー対を用いて検証を行なった。使用したプライマーの配列は以下のとおりである。
【0100】
BD−T1プライマー(配列番号14):
5’−CCAAGGGCCACTGTTATCACTCCG−3’
BD−T3プライマー(配列番号15):
5’−CCACATTGCTCCATTCCCATCT−3’
BD−T5プライマー(配列番号16):
5’−CCTTTCCTCACGCATTGCTAATT−3’
BD−T6プライマー(配列番号17):
5’−GTGGGGTTCACTCAACACTCGG−3’
BD−T13プライマー(配列番号18):
5’−ACGGGGACGGGGCGTGACGG−3’
BD−T14プライマー(配列番号10):
5’−CGTGACGGACCGCTAAATCTAGAC−3’
【0101】
図7及び8に、PCR産物を制限酵素TaqIで消化した後、電気泳動して得られたバンドパターンの写真を示す。図7及び8の双方において、奇数レーン(レーン1、3、5及び7)のサンプルはCDC Kendall種(グループI型)、偶数レーン(レーン2、4、6及び8)のサンプルはりょうふう種(グループII型)に対応する。また、図7及び8の双方において、フォワードプライマーとして、レーン1及び2はBD−T14プライマー、レーン3及び4はBD−T13プライマー、レーン5及び6はBD−T5プライマー、並びにレーン7及び8はBD−T6プライマーを用いた。さらに、リバースプライマーとして、図7においてはBD−T3プライマー、及び図8においてはBD−T1プライマーを用いた。図7及び8に示した結果のとおり、いずれのプライマー及びプライマー対を用いた場合であっても、出現するバンドパターンによってグループI型とグループII型を判別することができた。
【0102】
以上の結果より、本発明の選抜方法における遺伝子型の同定には、例えば、下記表2に示すプライマー対と、CAPSマーカー又はPCRマーカーの組み合わせを好適に用いることができる。
【表2】

表2中、「BD−T14」等はプライマーの名前を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0103】
配列番号3〜18;合成プライマー
図1
図4
図5
図2
図3
図6
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]