(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0014】
本発明の加熱炉は、炉壁と炉床とを有し、炉壁および炉床に囲まれ、被加熱物を収容するための収容空間が形成された収容部と、収容空間内の雰囲気の温度を昇温する加熱部と、を備える。よって、本発明の加熱炉では、収容部の収容空間内に被加熱物を収めておき、加熱部によって収容空間内の雰囲気の温度を昇温することにより、被加熱物を加熱することが可能である。
【0015】
さらに、本発明の加熱炉では、収容部の炉壁および炉床の表面においては、一部の領域の表面を形成する部材の熱放射率が、他の領域の表面を形成する部材の熱放射率とは異なる。こうして熱放射率の異なる部材の組み合わせによって収容部の炉壁および炉床の表面を形成する場合には、収容部の収容空間内の場所ごとで、炉壁および炉床からの放射伝熱によって被加熱物が受ける熱量の大きさを異なるようにすることが可能になる。
【0016】
したがって、本発明の加熱炉によれば、熱放射率の異なる部材の組み合わせによって収容部の炉壁および炉床の表面を形成することにより、炉壁および炉床からの放射伝熱以外の態様により被加熱物が受ける熱量が小さい場所では、炉壁および炉床からの放射伝熱量を大きくすることが可能になる。また、本発明の加熱炉によれば、熱放射率の異なる部材の組み合わせによって収容部の炉壁および炉床の表面を形成することにより、炉壁および炉床からの放射伝熱以外の態様により被加熱物が受ける熱量が大きい場所では、炉壁および炉床からの放射伝熱量を小さくすることが可能になる。これらの結果、本発明の加熱炉では、炉壁および炉床からの放射伝熱による熱量と当該放射伝熱以外の態様による熱量とを合計した熱量は、収容空間内の場所ごとで差が拡がりにくくなる。すなわち、本発明の加熱炉によれば、被加熱物の受ける熱量が加熱炉内の場所ごとにばらつくことを抑制することが可能になる。
【0017】
本発明の加熱炉では、収容部の炉壁および炉床の表面は、第一の領域と、第一の領域に接する雰囲気よりも高温の雰囲気に接する第二の領域とを有し、第一の領域の表面を形成する部材の熱放射率が、第二の領域の表面を形成する部材の熱放射率よりも大きいことが好ましい。
【0018】
こうした熱放射率についての条件を満たすように、第一の領域の表面を形成する部材および第二の領域の表面を形成する部材を選択する場合、第一の領域の表面の近傍にある被加熱物においては、収容部の炉壁および炉床からの放射伝熱によって受ける熱量が大きくなり、かつ、当該被加熱物の周囲の雰囲気から受ける熱量は小さくなる。また、第二の領域の表面の近傍にある被加熱物においては、収容部の炉壁および炉床からの放射伝熱によって受ける熱量が小さくなり、かつ、当該被加熱物の周囲の雰囲気から受ける熱量は大きくなる。よって、第一の領域の表面の近傍にある被加熱物と第二の領域の表面の近傍にある被加熱物との間では、炉壁および炉床からの放射伝熱による熱量と被加熱物の周囲の雰囲気から受ける熱量とを合計した熱量の差を小さくすることができる。すなわち、第一の領域の表面の近傍にある被加熱物と第二の領域の表面の近傍にある被加熱物との間において、被加熱物の受ける熱量の差を小さく抑えることが可能になる。
【0019】
本発明の加熱炉では、加熱部は、炉壁または炉床に開口し、高温のガスを収容空間内に流入させるガス流入口を有するものであってもよい。こうした加熱部を本発明の加熱炉が有する場合、収容部の炉壁および炉床の表面においては、ガス流入口に隣接する領域の表面を形成する部材の熱放射率が、ガス流入口に隣接しない領域の表面を形成する部材の熱放射率よりも大きいことが好ましい。
【0020】
高温のガスを収容空間内に流入させることにより、収容空間内の雰囲気を昇温する場合、ガス流入口から流入した高温のガスは、熱を奪われながら収容空間内を流れ、再びガス流入口に戻るように環流する傾向がある。よって、ガス流入口の周辺には、収容空間内を環流したガスが戻ってくる場所、言い換えると、熱を奪われたガス、すなわち他の場所を流れるガスの温度よりも低温のガスが流れる場所がある。上述したように、ガス流入口に隣接する領域の表面を形成する部材の熱放射率が、ガス流入口に隣接しない領域の表面を形成する部材の熱放射率よりも大きい場合、ガス流入口の周辺の低温のガスが流れる場所において、炉壁および炉床からの放射伝熱による熱量を大きくすることが可能になる。その結果、収容空間内における低温のガスが流れる場所と、高温のガスの流れる場所との間において、被加熱物の受ける熱量の差を小さく抑えることが可能になる。
【0021】
以下、本発明に関する理解をより深めるべく、本発明の加熱炉の具体的な実施形態について図面を参照しつつ述べる。
【0022】
図1は、本発明の加熱炉の一実施形態を示す模式図である。本実施形態の加熱炉10aでは、収容部20が炉壁30および炉床50によって作られている。そして、炉壁30および炉床50によって収容空間70が形成されている。
【0023】
ここで、本実施形態の加熱炉10aでは、図示されるように、上下方向に沿って複数段ある棚300を収容空間70内に設置し、この棚300の各段に被加熱物350a〜350cを置くとよい。この棚300を用いることにより、収容空間70内で被加熱物350a〜350cを上下に並べることができ、その結果、収容空間70内を無駄なく利用することが可能になる。
【0024】
さらに、本実施形態の加熱炉10aでは、炉壁30および炉床50が、耐熱材110の内側に内張材150を張り付けて作られた二重構造になっている。したがって、本実施形態の加熱炉10aでは、炉壁30および炉床50の表面が内張材150により形成されていることになる。
【0025】
また、本実施形態の加熱炉10aでは、ヒーター80が側方の炉壁30の手前に設置されている。このヒーター80は、収容空間70内の雰囲気を昇温し、加熱部100としての役割を担う。
【0026】
ここで、ヒーター80によって収容空間70内の雰囲気を昇温すると、収容空間70内の雰囲気に対流が生じ、収容空間70内の上方の場所の雰囲気の温度が下方の場所の雰囲気の温度よりも高くなる。
【0027】
図1には、収容空間70内における温度T
1(℃)および温度T
2(℃)(但し、T
1<T
2)の等温線を示す。図示されるように、本実施形態の加熱炉10aでは、収容空間70内が、下方から上方に向かって、雰囲気の温度がT
1(℃)未満の場所、雰囲気の温度がT
1〜T
2(℃)の場所、雰囲気の温度がT
2(℃)超の場所、という大きく3つの場所に区分される。
【0028】
よって、本実施形態の加熱炉10aの収容空間70内に棚300を設置し、この棚300の下段に被加熱物350aを置き、棚300の上段に被加熱物350cを置く場合、被加熱物350aの周囲の雰囲気の温度がT
1(℃)未満となり、その一方で、被加熱物350cの周囲の雰囲気の温度がT
1(℃)以上、特に被加熱物350cの周囲の大半の雰囲気の温度がT
2(℃)超となる。そのため、被加熱物350aが雰囲気から受ける熱量は、被加熱物350cが雰囲気から受ける熱量よりも小さくなる。
【0029】
そこで、本実施形態の加熱炉10aでは、炉床50および下部の炉壁30[T
1(℃)未満の雰囲気に接する部分]の内張材150aの熱放射率が、上部の炉壁30[T
2(℃)超の雰囲気に接する部分]の内張材150cの熱放射率よりも大きくなっている。
【0030】
こうして内張材150aの熱放射率を内張材150cの熱放射率よりも大きくすることにより、内張材150aの近くにある被加熱物350aにおいては、内張材150cの近くにある被加熱物350cに比べ、炉壁30や炉床50からの放射伝熱によって受ける熱量を大きくすることができる。
【0031】
その結果、雰囲気から受ける熱量と炉壁30や炉床50からの放射伝熱量との総和という観点からみた場合、被加熱物350aと350cとの間における雰囲気から受ける熱量の差は、炉壁30や炉床50からの放射伝熱量の差によって相殺される。すなわち、本実施形態の加熱炉10aでは、棚300の下段に置かれた被加熱物350aと、棚300の上段に置かれた被加熱物350cとの間で、雰囲気から受ける熱量と炉壁30や炉床50からの放射伝熱による熱量との総和については差を小さく抑えることが可能になる。
【0032】
なお、本実施形態の加熱炉10aでは、中間部の炉壁30[T
1〜T
2(℃)の雰囲気に接する部分]の内張材150bの熱放射率については、内張材150aの熱放射率と比べて大きくても、あるいは小さくても構わない。上述したように、棚300の下段に置かれた被加熱物350aと、棚300の上段に置かれた被加熱物350cとの間で、それぞれが受ける熱量の差を小さく抑えることが可能になれば、少なくとも、本発明の目的は達成されるからである。
【0033】
特に、本実施形態の加熱炉10aでは、雰囲気の温度の分布と対応する形で、炉床50および下部の炉壁30[T
1(℃)未満の雰囲気に接する部分]の内張材150a、中間部の炉壁30[T
1〜T
2(℃)の雰囲気に接する部分]の内張材150b、および上部の炉壁30[T
2(℃)超の雰囲気に接する部分]の内張材150cの熱放射率については、内張材150aの熱放射率が最も大きく、次に内張材150bの熱放射率が2番目に大きく、残る内張材150cの熱放射率が最も小さくなっていることが好ましい。
【0034】
すなわち、炉壁30や炉床50の内張材150(換言すると、炉壁30や炉床50の表面)において領域ごとに接している雰囲気の温度が異なる場合、各領域の内張材150(表面)に接する雰囲気の温度の昇順と、各領域の内張材150(表面)の熱放射率の降順とが一致することが好ましい。
【0035】
図1に示す例では、内張材150a〜150cのそれぞれが接している雰囲気の温度の昇順は、内張材150a[T
1(℃)未満の雰囲気に接する部分]、内張材150b[T
1〜T
2(℃)の雰囲気に接する部分]、内張材150c[T
2(℃)超の雰囲気に接する部分]という順番となる。よって、内張材150a〜150cの熱放射率の降順については、内張材150a、内張材150b、内張材150cの順番になる形にして、上述の内張材150a〜150cが接している雰囲気の温度の昇順と一致させることが好適である。
【0036】
このように内張材150a〜150cの熱放射率の降順を定めることにより、雰囲気から受ける熱量と炉壁30や炉床50からの放射伝熱量との総和という観点からみた場合、被加熱物350a〜350cの間では、雰囲気から受ける熱量の差を、炉壁30や炉床50からの放射伝熱量の差によって相殺させることが可能になる。すなわち、本実施形態の加熱炉10aでは、棚300の下段、中段、上段に置かれた被加熱物350a〜350cの間で、雰囲気から受ける熱量と炉壁30や炉床50からの放射伝熱量との総和については差を小さく抑えることが可能になる。
【0037】
したがって、本実施形態の加熱炉10aによれば、複数段ある棚300を収容空間70内に設置して収容空間70内を無駄なく利用した場合であっても、棚300の各段に置かれた各被加熱物350が受ける熱量をばらつきにくくすることが可能である。
【0038】
なお、本実施形態の加熱炉10aでは、炉壁30や炉床50の耐熱材110としては、耐熱性の高い材質で作られていれば特に制限されないが、例えば、アルミナ質材料や、酸化チタン(TiO
2,TiOなど)と酸化珪素(SiO
2)との複合材料から作られたものを挙げることができる。
【0039】
本実施形態の加熱炉10aでは、内張材150a〜150cとしては、耐熱性が高くかつそれぞれの熱放射率を異なるようにできる材質で作られていれば特に制限されないが、例えば、炭化珪素(SiC)、酸化チタン(TiO
2,TiOなど)、およびシリカ(SiO
2)(クリストバライト、トリジマイト、シリカなど)からなる群より選ばれる1種または2種以上を成分とする材質で作られているものを挙げることができる。
【0040】
さらに、本実施形態の加熱炉10aでは、内張材150としては、複数枚の板状の部材からなり、さらに、これらの複数枚の板状の部材が、熱放射率の異なる板状の部材の群を構成するとともに、炉壁30および炉床50に張り替え可能な状態で設けることが好ましい。こうして内張材150を張り替え可能にする場合には、収容空間70内に被加熱物350を収める態様によって、収容空間70内の温度分布が異なる事態が生じてしまっても、内張材150を構成する複数枚の板状の部材を張り替えることにより、炉壁30や炉床50の表面の各領域における熱放射率を自在に最適化することが可能になる。
【0041】
本実施形態の加熱炉10aでは、例えば、焼結SiCの板状部材を内張材150として用いることが好ましい。焼結SiCは、加熱を繰り返しても、熱放射率が変化しにくい性質があるためである。
【0042】
図2は、本発明の加熱炉の他の実施形態の模式図である。本実施形態の加熱炉10bでは、収容部20が炉壁30および炉床50によって作られている。そして、炉壁30および炉床50によって収容空間70が形成されている。さらに、本実施形態の加熱炉10bでは、炉壁30および炉床50が、耐熱材110の内側に内張材200を張り付けて作られた二重構造になっている。したがって、本実施形態の加熱炉10bでは、炉壁30および炉床50の表面が内張材200により形成されていることになる。
【0043】
さらに、図示されるように、本実施形態の加熱炉10bでは、炉壁30のうちの一箇所にバーナー250が挿入されており、バーナー250のガス流入口270が炉壁30の表面に開口している。そして、本実施形態の加熱炉10bでは、バーナー250のガス流入口270から高温のガスを収容空間70内に流入させることにより、収容空間70内の雰囲気を昇温することができる。よって、本実施形態の加熱炉10bでは、バーナー250が加熱部100としての役割を担う。
【0044】
本実施形態の加熱炉10bのように、バーナー250から発した高温のガスによって収容空間70内の雰囲気を昇温する場合、高温のガスは、
図2に示されるように、ガス流入口270から収容空間70内を巡り、再びガス流入口270の周辺に戻るように環流する傾向がある。
【0045】
図2には、収容空間70内における温度T
1(℃)および温度T
2(℃)(但し、T
1<T
2)の等温線を示す。本実施形態の加熱炉10bの場合、高温のガスは熱を奪われながら収容空間70内を環流するので、収容空間70内における高温のガスの流れの中で、上流の場所では雰囲気の温度が高く、中流の場所、さらに下流の場所へと行くにつれて雰囲気温度が低くなっていく傾向にある。より詳しく述べると、収容空間70内におけるガスの流れの中で、上流の場所は雰囲気の温度がT
2(℃)超、中流の場所は雰囲気の温度がT
1〜T
2(℃)、下流の場所は雰囲気の温度がT
1(℃)未満、という形でおおよそ区分することができる。
【0046】
特に、バーナー250のガス流入口270に隣接する領域の炉壁30の周辺は、高温のガスが収容空間70内を一通り巡った後に辿り着く場所に該当する。よって、このバーナー250のガス流入口270に隣接する領域の炉壁30の周辺の場所では、雰囲気の温度がT
1(℃)未満という具合に、収容空間70内の他の場所よりも雰囲気の温度が低くなり易い。これにより、バーナー250のガス流入口270に隣接する領域の炉壁30の周辺の場所(内張材200aの周辺の場所)では、収容空間70内の他の場所と比べ、雰囲気から被加熱物が受ける熱量が小さくなる。
【0047】
そこで、本実施形態の加熱炉10bでは、バーナー250のガス流入口270に隣接する領域の炉壁30の表面を形成する内張材200aの熱放射率が、他の領域の炉壁30および炉床50の表面を形成する内張材200bの熱放射率よりも大きくされている。これにより、バーナー250のガス流入口270に隣接する領域の炉壁30の周辺の場所(内張材200aの周辺の場所)では、収容空間70内の他の場所と比べ、炉壁30および炉床50からの放射伝熱によって被加熱物が受ける熱量が大きくなる。
【0048】
その結果、雰囲気から受ける熱量と炉壁30や炉床50からの放射伝熱量との総和という観点からみた場合、バーナー250のガス流入口270に隣接する領域の炉壁30の周辺の場所[内張材200aの周辺の場所、雰囲気の温度がT
1(℃)未満の場所]と、収容空間70内の他の場所[雰囲気の温度がT
1(℃)以上の場所]との間では、被加熱物が受ける総熱量の差を小さく抑えることが可能である。
【0049】
なお、本実施形態の加熱炉10bでは、炉壁30や炉床50の耐熱材110としては、耐熱性の高い材質で作られていれば特に制限されないが、例えば、アルミナ質材料や、酸化チタン(TiO
2,TiOなど)と酸化珪素(SiO
2)との複合材料から作られたものを挙げることができる。
【0050】
本実施形態の加熱炉10bでは、内張材200a,200bとしては、耐熱性が高くかつそれぞれの熱放射率を異なるようにできる材質で作られていれば特に制限されないが、例えば、炭化珪素(SiC)、酸化チタン(TiO
2,TiOなど)、およびシリカ(SiO
2)(クリストバライト、トリジマイト、シリカなど)からなる群より選ばれる1種または2種以上を成分とする材質で作られているものを挙げることができる。