特許第5989393号(P5989393)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5989393マスクブランク用基板の製造方法、マスクブランクの製造方法および転写用マスクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989393
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】マスクブランク用基板の製造方法、マスクブランクの製造方法および転写用マスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/60 20120101AFI20160825BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   G03F1/60
   C03C19/00 Z
【請求項の数】18
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-105661(P2012-105661)
(22)【出願日】2012年5月7日
(65)【公開番号】特開2013-235041(P2013-235041A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103676
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 康夫
(72)【発明者】
【氏名】西村 貴仁
【審査官】 佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−066781(JP,A)
【文献】 特開2010−274336(JP,A)
【文献】 特開2011−224702(JP,A)
【文献】 特開平05−008178(JP,A)
【文献】 特開2004−303281(JP,A)
【文献】 特開2005−149668(JP,A)
【文献】 特開2004−303280(JP,A)
【文献】 特開2003−346316(JP,A)
【文献】 特開2004−243445(JP,A)
【文献】 特開2013−198969(JP,A)
【文献】 特開2013−082612(JP,A)
【文献】 特開2004−249444(JP,A)
【文献】 特開2007−213020(JP,A)
【文献】 特開2002−307293(JP,A)
【文献】 特開2008−207319(JP,A)
【文献】 特開2007−054944(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/115131(WO,A1)
【文献】 特開2009−012164(JP,A)
【文献】 特開2005−043830(JP,A)
【文献】 特開平11−333700(JP,A)
【文献】 特開2002−166357(JP,A)
【文献】 特開2010−201534(JP,A)
【文献】 特開2008−307631(JP,A)
【文献】 特開2010−082703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 3/00 − 3/60 、21/00 −39/06 、
C03C15/00 −23/00 、
G03F 1/00 − 1/86 、
H01L21/027、21/30 、21/304、21/46 、
21/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転面に研磨パッドを備える上下両定盤の両研磨パッド間に、キャリアで保持された基板を挟持し、研磨液を供給しつつ、前記研磨パッドの研磨面に対して基板を相対移動させ、前記基板の両主表面を研磨する研磨工程を備えるマスクブランク用基板の製造方法であって、
前記下定盤の回転面は、基準平面からの高さが下定盤の回転中心側よりも外周側が高い凹形状であり、
前記研磨パッドは、少なくとも、基材と、前記基材上に形成され、表面に開孔を有する発泡した樹脂からなるナップ層とからなり、
前記研磨パッドの圧縮変形量が135μm以上であり、
前記ナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスが11MPa以上18MPa以下であることを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項2】
前記ナップ層は、ポリカーボネート系樹脂を含有する材料からなることを特徴とする請求項1記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項3】
回転面に研磨パッドを備える上下両定盤の両研磨パッド間に、キャリアで保持された基板を挟持し、研磨液を供給しつつ、前記研磨パッドの研磨面に対して基板を相対移動させ、前記基板の両主表面を研磨する研磨工程を備えるマスクブランク用基板の製造方法であって、
前記下定盤の回転面は、基準平面からの高さが下定盤の回転中心側よりも外周側が高い凹形状であり、
前記研磨パッドは、基材と、前記基材上に形成される緩衝層と、前記緩衝層上に形成され、表面に開孔を有する発泡した樹脂からなるナップ層とからなり、
前記研磨パッドの圧縮変形量が135μm以上であり、
前記ナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスが11MPa以上18MPa以下であることを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項4】
前記緩衝層の厚さは、100μm以上700μm以下であることを特徴とする請求項記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項5】
前記緩衝層およびナップ層のいずれか一方又は双方の層は、ポリカーボネート系樹脂を含有する材料からなることを特徴とする請求項3または4に記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項6】
前記研磨液は、酸化セリウム砥粒を含有していることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項7】
前記研磨液は、上定盤側から基板に供給されることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項8】
前記基板は、主表面の形状が矩形であることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項9】
前記基板は、合成石英ガラスまたは低熱膨張ガラスであることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項10】
前記ナップ層の厚さは、300μm以上1000μm以下であることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項11】
前記ナップ層の開孔の径は、40μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項12】
前記基材は、樹脂フィルム、又は、不織布であることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項13】
前記基材は、ポリエチレンテレフタレートからなる樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項14】
前記研磨工程で研磨された基板の両主表面に対し、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液による研磨を行う超精密研磨工程を有することを特徴とする請求項1から13のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の主表面上に、転写パターン形成用の薄膜を形成することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【請求項16】
請求項14に記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の一方の主表面上に導電性膜を形成し、他方の主表面上に多層反射膜と転写パターン形成用の薄膜をそれぞれ形成することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【請求項17】
請求項15に記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクにおける前記薄膜をパターニングして、転写パターンを形成することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【請求項18】
請求項16に記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクにおける前記薄膜をパターニングして、転写パターンを形成することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランク用基板の製造方法、マスクブランクの製造方法および転写用マスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マスクブランク用基板の製造は、大まかに分けて、(1)合成石英インゴットからマスクブランク用基板の形状に切り出す工程、(2)切り出した基板の主表面、端面および面取り面に対して研削を行う研削工程、(3)研削工程後の基板の主表面、端面および面取り面に対して研磨を行う工程を経て製造される。
主表面の研磨は、両面研磨装置を用いて両面同時に行われる。また、主表面の研磨は多段階の研磨工程を経て、表裏2つの主表面が所定値以下の平坦度、表面粗さを有し、所定値以上の大きさの表面欠陥(凸状欠陥または凹状欠陥)のないマスクブランク用基板が製造される。主表面の研磨では、酸化セリウム等の研磨剤を用いる粗研磨および精密研磨が行われ、さらにコロイダルシリカ等の研磨剤を用いる超精密研磨が1〜2段階行われる。
両面研磨装置の上下研磨定盤の研磨面には研磨パッド(研磨布)が貼り付けられている。研磨される基板は、キャリアに保持され、上下定盤の両研磨パッド間に所定の圧力で挟まれる。そして、キャリアによって、基板は定盤上を自転かつ公転させられ、両主表面が研磨される。
【0003】
超精密研磨工程後、すなわち所定の研磨がすべて行われた基板の主表面には、所定値以下の高い平坦度、所定値以下の高い表面粗さ、所定値以上の大きさの表面欠陥が存在しないことが求められる。また、この基板から製造されたフォトマスクが、露光装置で使用されるとき、すなわち露光装置のマスクステージにセット(チャック)されたときに基板が変形することは以前より知られている。近年では、その変形後の基板主表面にも高い平坦度が求められる。そして、マスクステージにセットされたときに基板主表面の平坦度が高くなるようにするには、セット前の基板主表面の表面形状が、基板中心付近から外周に向かって高さが下がっていく凸形状が望ましいとされている。ただし、マスクステージのセット後の基板主表面の平坦度がいかに良好でも、セット前の基板主表面の平坦度が悪ければ、セット前後の主表面の変形量が大きいことになる。このような基板から製造されたフォトマスクは、基板主表面上にある転写パターンのセット前後の移動量が大きい。このような基板は、非常に微細な転写パターンを有するフォトマスクを作製するには適さない。よって、セット前の基板主表面においても、所定値以下の高い平坦度であることも、凸形状であることと同時に求められる。
【0004】
一般に、マスクブランク用基板の主表面は矩形や方形が主流である。主表面の研磨時、基板は、主表面の中心を軸に自転する。通常、研磨レートは、定盤研磨面に対する被研磨面の相対移動速度が速くなるほど大きくなる。基板の中心から最も遠い基板外周側、特に隅部近傍は、相対移動速度が大きくなる傾向があり、優先的に研磨されやすい傾向がある。前記の複数段階の研磨工程の全てで、基板外周側が研磨されやすい傾向の研磨の仕方を行ってしまうと、所望の高い平坦度に仕上げることが難しい。このため、特許文献1に記載のように、複数段の研磨工程のうちの中間の段階では、基板主表面の形状を主表面の外周側、特に4隅が高くなる形状である凹形状にしておき、超精密研磨の段階で、所望の高い平坦度を有する凸形状に仕上げることが行われている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−43830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
基板主表面の形状を凹形状にするのは、精密研磨の段階で行うことが望ましい。精密研磨後の基板主表面の形状における対称性(基板の中心を通る端面に平行な仮想線に対する線対称性)が高いことが望ましい。コロイダルシリカ砥粒による超精密研磨では、研磨取り代が比較的少ない。精密研磨後の基板が主表面形状の対称性が低い場合(例えば、基板主表面が捩じれた形状)、超精密研磨で基板の対称性を修正することは難しい。
【0007】
従来、マスクブランク用基板を製造する際、精密研磨工程で使用されている研磨パッドは、基材である不織布の上に、発泡させた樹脂の表面をバフ研磨して開孔を露出させてナップ層を形成させたものが用いられる場合が多い。しかし、前記の研磨パッドは、研磨時の加工圧力で基板主表面に押されたときの沈み込み量(圧縮変形量)が大きい。また、経時変化によるナップ層や不織布のへたれ(劣化により意図した規格から外れてしまうこと)が早い。これらの要因が、対称性の高い主表面形状の基板を安定して製造することを容易ではなくしていることを本発明者は突き止めた。
【0008】
圧縮変形量が大きくなる要因には、ナップ層に起因する部分と不織布に起因する部分がある。ナップ層に使用する樹脂のモジュラスを高くする(硬さを上げる)と、ナップ層自体の沈み込み量が小さくなり、また耐久性も向上する。しかし、研磨剤が固化した異物や研磨によって生ずる加工片をナップ層内に取り込むことが難しくなる。異物や加工片が基板主表面に強く接触し、傷等の表面欠陥の発生率が増大してしまい、問題となることを本発明者は突き止めた。他方、基材を樹脂シートに代えた場合、基材のへたれは抑制できる。しかし、樹脂シートは弾性が低いため、前記の異物や加工片が基板主表面に接触したときに掛かる力を吸収する特性に欠け、傷等の表面欠陥の発生率が増大してしまい、問題となることも本発明者は突き止めた。
【0009】
一般に、精密研磨工程等で用いられる両面研磨装置の場合、上定盤および下定盤のいずれも、研磨パッドが貼り付けられ、基板に対する研磨面となる回転面は、平坦な表面形状が望まれる。上定盤の回転面に設けられた供給口から研磨液が供給される場合、上定盤側の研磨パッドと基板の主表面との間には、十分な量の研磨液を介在させ続けることが可能である。一方、下定盤の研磨パッドに存在する研磨液は、上定盤側から流下したものになる。しかし、研磨中の下定盤は回転しているため、下定盤の研磨パッドに流下した研磨液は遠心力の影響を受け、定盤の外周側に向かって流れだす傾向が強くなる。基板の主表面と研磨パッドとの間に十分な量の研磨液が介在していないと、基板主表面における研磨ムラやキズが発生してしまう。このため、上定盤側からの研磨液の供給量を必要以上に多くする必要があった。
【0010】
本願発明者は、研磨液の供給量を過剰としなくとも、基板の研磨ムラやキズの発生を抑制できる手段を鋭意検討した結果、下定盤の回転面の表面形状を回転中心側よりも外周側が高い凹形状とするとよいということを見出した。しかし、下定盤の回転面を凹形状とし、上定盤の回転面を比較的平坦な形状とした場合、両面研磨後における基板が、上定盤で研磨された主表面よりも下定盤で研磨された主表面の方が、凸形状になりやすいという問題があることが新たに判明した。前記の通り、精密研磨の段階では、基板主表面の形状を凹形状の傾向に仕上げることが望ましい。このため、下定盤の回転面が凹形状であり、上定盤の回転面が比較的平坦な形状である両面研磨装置で精密研磨を行った後の基板が、下定盤で研磨された側の主表面は凹形状あるいは凹形状に極力近づくように、上定盤で研磨された側の主表面は凹形状の傾向が強くなり過ぎないようになるような特性を有する研磨パッドが求められる。
【0011】
近年、露光光にEUV(Extreme Ultraviolet)光を適用するリソグラフィの研究が活発に行われている。このリソグラフィで使用されるEUV光は、波長が非常に短い(0.0〜100nmの波長帯から選ばれる波長、特に13nm〜14nmの波長)ことから、露光光を反射させることを繰り返して転写対象物に露光転写する反射型リソグラフィが適用されている。このため、反射型リソグラフィで使用される転写用マスク(反射型マスク)は、基板上にEUV光を高反射率で反射する多層反射膜と、転写パターンを有する吸収体膜とを少なくとも備えた構造を有している。反射型リソグラフィ用の露光装置は、転写用マスクをセットするマスクステージが、基板の多層反射膜が形成されている主表面とは反対側の主表面を全面チャックする構造となっている。この反対側の主表面の形状が、対称性が低かったり、凸形状の傾向が強すぎたり(平坦度が悪すぎる)すると、マスクステージに全面チャックされたときに、多層反射膜と吸収体膜が形成されている側の主表面の形状変化が大きくなり問題となる。このように、反射型リソグラフィが適用される転写用マスク(反射型マスク)の製造に使用される基板の場合、転写パターンが形成される側の主表面の形状だけでなく、反対側の主表面の形状に対しても、高い対称性と高い平坦度が求められる。
【0012】
本発明は、対向する2つの主表面を有する基板を研磨するマスクブランク用基板の製造方法であって、2つの主表面がともに高い平坦度であり、主表面の対称性が高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を安定して製造することができるマスクブランク用基板の製造方法を提供することを目的とする。また、その製造方法で製造された基板を用いたマスクブランクの製造方法および転写用マスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ナップ層と基材からなる研磨パッド(研磨布)の各種物性と、ナップ層の各種物性と、その研磨パッドを用いて両面研磨された基板の主表面の平坦度(TIR)との関係を調べた。その結果、ナップ層を形成する樹脂のモジュラスと、研磨パッドの圧縮変形量との組み合わせを適正に選定することによって、下定盤の回転面の表面形状を回転中心側よりも外周側が高い凹形状である両面研磨装置を用いて研磨した基板であっても、上定盤側および下定盤側のどちらで研磨された主表面とも、平坦度(TIR)を極めて高く正負に制御できることを見出した。
また、ナップ層のモジュラスと、研磨パッドの圧縮変形量との組み合わせを選定することにより、研磨後の基板における主表面の対称性が高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を安定して製造することができる研磨パッド、並びにこの研磨パッドを用いたマスクブランク用基板の製造方法等が得られることを見出した。
【0014】
本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
回転面に研磨パッドを備える上下両定盤の両研磨パッド間に、キャリアで保持された基板を挟持し、研磨液を供給しつつ、前記研磨パッドの研磨面に対して基板を相対移動させ、前記基板の両主表面を研磨する研磨工程を備えるマスクブランク用基板の製造方法であって、
前記下定盤の回転面は、基準平面からの高さが下定盤の回転中心側よりも外周側が高い凹形状であり、
前記研磨パッドは、少なくとも、基材と、前記基材上に形成され、表面に開孔を有する発泡した樹脂からなるナップ層とからなり、
前記研磨パッドの圧縮変形量が135μm以上であり、
前記ナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスが11MPa以上18MPa以下であることを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【0015】
(構成2)
回転面に研磨パッドを備える上下両定盤の両研磨パッド間に、キャリアで保持された基板を挟持し、研磨液を供給しつつ、前記研磨パッドの研磨面に対して基板を相対移動させ、前記基板の両主表面を研磨する研磨工程を備えるマスクブランク用基板の製造方法であって、
前記下定盤の回転面は、基準平面からの高さが下定盤の回転中心側よりも外周側が高い凹形状であり、
前記研磨パッドは、基材と、前記基材上に形成される緩衝層と、前記緩衝層上に形成され、表面に開孔を有する発泡した樹脂からなるナップ層とからなり、
前記研磨パッドの圧縮変形量が135μm以上であり、
前記ナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスが11MPa以上18MPa以下であることを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【0016】
(構成3)
前記研磨液は、酸化セリウム砥粒を含有していることを特徴とする構成1または2記載のマスクブランク用基板の製造方法。
(構成4)
前記研磨液は、上定盤側から基板に供給されることを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【0017】
(構成5)
前記基板は、主表面の形状が矩形であることを特徴とする構成1から4のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
(構成6)
前記基板は、合成石英ガラスまたは低熱膨張ガラスであることを特徴とする構成1から5のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【0018】
(構成7)
前記緩衝層の厚さは、100μm以上700μm以下であることを特徴とする構成2から6のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
(構成8)
前記ナップ層の厚さは、300μm以上1000μm以下であることを特徴とする構成1から7のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【0019】
(構成9)
前記ナップ層の開孔の径は、40μm以上100μm以下であることを特徴とする構成1から8のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
(構成10)
前記緩衝層およびナップ層のいずれか一方又は双方の層は、ポリカーボネート系樹脂を含有する材料からなることを特徴とする構成1から9のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【0020】
(構成11)
前記基材は、樹脂フィルム、又は、不織布であることを特徴とする構成1から10のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
(構成12)
前記基材は、ポリエチレンテレフタレートからなる樹脂フィルムであることを特徴とする構成1から11のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【0021】
(構成13)
前記研磨工程で研磨された基板の両主表面に対し、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液による研磨を行う超精密研磨工程を有することを特徴とする構成1から12のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
(構成14)
構成13に記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の主表面上に、転写パターン形成用の薄膜を形成することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【0022】
(構成15)
構成13に記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の一方の主表面上に導電性膜を形成し、他方の主表面上に多層反射膜と転写パターン形成用の薄膜をそれぞれ形成することを特徴とするマスクブランクの製造方法。
(構成16)
構成14に記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクにおける前記薄膜をパターニングして、転写パターンを形成することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【0023】
(構成17)
構成15に記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクにおける前記薄膜をパターニングして、転写パターンを形成することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、対向する2つの主表面を有する基板であって、2つの主表面がともに所定値以下の高い平坦度であり、主表面の対称性が高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】ナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスおよび圧縮変形量と上定盤で研磨された側の基板主表面の平坦度(TIR)との関係を示す図である。
図2】ナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスおよび圧縮変形量と下定盤で研磨された側の基板主表面の平坦度(TIR)との関係を示す図である。
図3】研磨パッドの圧縮変形量の測定方法を説明するための模式図である。
図4】両面研磨装置の一態様を説明するための模式的断面図である。
図5】実施例で使用した研磨パッドの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施の形態により詳細に説明する。
本発明のマスクブランク用基板の製造方法は、研磨パッドを備える上下両定盤の両研磨パッド間に、キャリアで保持された基板を挟持し、研磨液を供給しつつ、前記研磨パッドの研磨面に対して基板を相対移動させ、前記基板の両主表面を研磨する研磨工程を備えるマスクブランク用基板の製造方法であって、前記下定盤の回転面は、基準平面からの高さが下定盤の回転中心側よりも外周側が高い凹形状であり、前記研磨パッドは、少なくとも、基材と、前記基材上に形成され、表面に開孔を有する発泡した樹脂からなるナップ層とからなり、前記研磨パッドの圧縮変形量が135μm以上であり、前記ナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスが11MPa以上18MPa以下であることを特徴とする(構成1)。
上記構成により、対向する2つの主表面を有する基板であって、2つの主表面がともに所定値以下の高い平坦度であり、研磨後の基板の主表面の対称性が高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を安定して製造することが可能となる。
【0027】
また、本発明のマスクブランク用基板の製造方法は、回転面に研磨パッドを備える上下両定盤の両研磨パッド間に、キャリアで保持された基板を挟持し、研磨液を供給しつつ、前記研磨パッドの研磨面に対して基板を相対移動させ、前記基板の両主表面を研磨する研磨工程を備えるマスクブランク用基板の製造方法であって、前記下定盤の回転面は、基準平面からの高さが下定盤の回転中心側よりも外周側が高い凹形状であり、前記研磨パッドは、基材と、前記基材上に形成される緩衝層と、前記緩衝層上に形成され、表面に開孔を有する発泡した樹脂からなるナップ層とからなり、前記研磨パッドの圧縮変形量が135μm以上であり、前記ナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスが11MPa以上18MPa以下であることを特徴とする(構成2)。
上記構成により、対向する2つの主表面を有する基板であって、2つの主表面がともに所定値以下の高い平坦度であり、研磨後の基板の主表面が対称性の高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を、平坦度の正負を制御しつつ安定して製造することが可能となる。
【0028】
本発明者らは、上記の両面研磨装置で研磨された後における基板の主表面の形状および平坦度を制御するには、研磨面に装着されている研磨パッドの特性を調整することが重要と考えた。特に、ナップ層を有する研磨パッドを用いる場合においては、ナップ層の100%モジュラスと圧縮変形量の調整が必要と考えた。そこで、ナップ層を有する研磨パッドについて、ナップ層の100%モジュラスと、研磨パッド全体での圧縮変形量のパラメータを様々な数値に変えたものを準備した。そして、準備した各研磨パッドを両面研磨装置の上定盤および下定盤の回転面に装着し、複数の基板について主表面の両面研磨を行った。さらに、研磨された各基板の2つの主表面の平坦度(TIR)をそれぞれ測定して平均の平坦度(TIR)を算出した。その上で、ナップ層の100%モジュラスと、研磨パッドの圧縮変形量と、研磨後における基板の主表面の平坦度(TIR)について、上定盤で研磨された側の主表面の場合と、下定盤で研磨された側の主表面の場合について、それぞれ相関性の有無を検証した(図1図2)。図1および図2において、基板の平坦度(TIR)は、円の大きさで示した。
【0029】
なお、後述の通り、この検証で使用された研磨パッドには、基材とナップ層との間に緩衝層を備えるタイプのものと緩衝層を備えないタイプのものが混在している。しかし、緩衝層は、研磨パッド全体での圧縮変形量を調整するために設けられているものである。このため、ナップ層の100%モジュラスが同じであり、かつ研磨パッド全体での圧縮変形量が同じである場合、緩衝層を備えないタイプの研磨パッドと、緩衝層を備えるタイプの研磨パッドとでは、研磨された基板の表面の形状および平坦度はともに同様の傾向を示す。
【0030】
ここでは、基板の平坦度をTIR(Total Indicated Reading)で示した。TIRは、基板表面の反り(変形量)を表す値で、基板表面を基準として最小自乗法で定められる平面を焦平面とし、この焦平面より上にある基板表面の最も高い位置と、焦平面より下にある基板表面の最も低い位置との高低差の絶対値である。また、この明細書では、特に断りがない限り、平坦度は、研磨後に測定した主表面形状から研磨前に予め測定した基板の主表面形状を差し引いた主表面形状から算出したものである。この検証では、研磨対象の基板には、半導体デバイス用のマスクブランク基板で広く用いられている一辺が6インチ(約152mm形)の四角形のガラス基板(合成石英ガラス基板)を使用した。そして、基板の平坦度(TIR)は、基板の外周縁5mmを除く一辺が142mmの四角形内の領域で算出されたものである。また、平坦度(TIR)が正(+)の場合は、主表面の形状が外周側の高さよりも中央側の高さの方が高い凸形状であることを示す。逆に、平坦度(TIR)が負(−)の場合は、主表面の形状が外周側の高さよりも中央側の高さの方が低い凹形状であることを示す(以下、本発明において同様)。
【0031】
また、研磨パッドの圧縮変形量とは、図3の下側の図に示すように、研磨パッドの厚み方向に、F=100g/cmの荷重をかけたときの研磨パッドの厚みをtとし、次いで、F=1120g/cmの荷重をかけたときの研磨パッドの厚みをtとしたときに、圧縮変形量(μm)=t−tで表されるものである。また、圧縮率(%)=[(t−t)/t]×100で表される。このとき、図3の上側の図に示すように、定盤上に研磨パッドを載置し、研磨パッド上部から圧子(φ10mm)をストロークスピード0.1mm/minで押圧する、圧縮試験器を用いて測定を行う。なお、この検証の上記以外の条件については後述する。
【0032】
これらの検証の結果、以下のことが判明した。上定盤側で研磨された主表面の平坦度の傾向(図1)で検証した場合、ナップ層の100%モジュラスが11.0MPa以上であると、基板の主表面の平坦度(TIR)が−1.0μm以上となり、主表面の平坦度が悪い凹形状にはならないという相関性があることが判明した。また、ナップ層の100%モジュラスが13.5MPa以上であると、基板の主表面の平坦度(TIR)が−0.6μm以上となり、主表面の平坦度が悪い凹形状にはならないという相関性があることも判明した。さらに、ナップ層が同じ100%モジュラス(24MPa)であっても、研磨パッドの圧縮変形量によって、基板の主表面の平坦度が変化することも同時に判明した。通常、この研磨パッドによる基板の主表面の平坦度を制御することを主目的とする研磨工程(精密研磨工程)後に、基板の主表面の表面粗さを向上することを主目的とする研磨工程(超精密研磨工程)が行われる。この超精密研磨工程では、研磨速度は遅いが、基板の中央側よりも外周側の方が研磨されやすい傾向がある。この点を考慮すると、この研磨パッドによる研磨工程(精密研磨工程)で研磨された基板の主表面は、凸形状であれば、その平坦度(TIR)が少なくとも+0.3μm以下となるように制御することが望まれる。また、一方、研磨パッドの圧縮変形量が小さくなり過ぎると、研磨パッドと基板との間に入り込んだ研磨砥粒由来の異物や加工片等が基板の主表面に接触したときの当たりが強くなり、表面欠陥の発生率が上昇してしまうという問題もある。これらのことを総合的に考慮すると、研磨パッドの圧縮変形量は、少なくとも40μm以上は必要である。
【0033】
次に、基準平面からの高さが下定盤の回転中心側よりも外周側が高い凹形状の回転面を有する下定盤側で研磨された主表面の平坦度の傾向(図2)で検証した場合、ナップ層の100%モジュラスが8.3MPa以上であると、基板の主表面の平坦度(TIR)が−1.0μm以上となり、主表面の平坦度が悪い凹形状にはならないという相関性があることが判明した。また、ナップ層の100%モジュラスが12.3MPaよりも大きいと、基板の主表面の平坦度(TIR)が−0.5μm以上となり、主表面の平坦度が悪い凹形状にはならないという相関性があることも判明した。さらに、ナップ層が同じ100%モジュラス(18MPa)であっても、研磨パッドの圧縮変形量によって、基板の主表面の平坦度が変化することも同時に判明した。前記の通り、この研磨パッドによる研磨工程で研磨された基板の主表面は、凸形状であれば、その平坦度(TIR)が少なくとも+0.3μm以下となるように制御することが望まれる。この点を考慮すると、研磨パッドの圧縮変形量は、少なくとも135μm以上は必要である。
【0034】
下定盤の回転中心側よりも外周側が高い凹形状の回転面を有する下定盤を備えた両面研磨装置で研磨された基板は、2つの主表面がともに、平坦度(TIR)が所定値以上(−1.0μm以上)の凹形状であるか、所定値以下(+0.3μm以下)の凸形状であることが望まれる。これらの条件を同時に満たすには、上定盤および下定盤に取り付けられる研磨パッドは、ナップ層の100%モジュラスが11.0MPa以上18.0MPa以下であり、かつ研磨パッドの圧縮変形量が135μm以上であることが必要であることを見出し、前記の本発明を完成させるに至った。
【0035】
なお、このマスクブランク用基板の製造方法において、精密研磨後の基板主表面の平坦度(TIR)が、2つの主表面ともに、所定値以上(−1.0μm以上)の凹形状となるようにすることが望まれる場合には、ナップ層を有する研磨パッドに求められる条件としては、ナップ層の100%モジュラスが11.0MPa以上14.4MPa未満であることが必要である。この場合において、研磨パッドの圧縮変形量については、40μm以上あることが必要であり、135μm以上であると好ましく、200μm以上であるとより好ましい。
【0036】
本発明において、発泡した樹脂としては、例えば、合成樹脂中にガスを細かく分散させ、内部に細かな泡を無数に含む、発泡状または多孔質形状に成形されたものを指し、固体である合成樹脂と気体との不均一分散系とも定義できる。
本発明において、発泡樹脂(ナップ層)としては、ウレタンが広く利用されている。発泡樹脂(ナップ層)がポリウレタン樹脂である場合は、ポリウレタン樹脂を構成する原料樹脂として、ポリカーボネート系、ポリエステル系、ポリエーテル系などの樹脂や、これらの樹脂をブレンドした樹脂を用いることができる。
【0037】
樹脂モジュラスとは、樹脂自体の硬さを表す。無発泡の樹脂フィルムを2倍に伸ばした際にかかる力(引張り応力)で表し、硬い樹脂ほど、伸ばすのに力が必要なので数値が大きくなる。柔らかい樹脂ほど、数値が小さくなる。モジュラスの測定方法を以下に示す。
(1)樹指溶液を薄く引き延ばし熱風乾燥し、50μm程度の厚みの乾式フィルムを作製する。
(2)フィルム作製後しばらく養生する。
(3)測定部の長さ20mm、幅5mm、厚さ0.05mmの短冊状試料を、引っ張り速度300mm/分で引っ張る。
(4)100%伸長特(2倍延伸時)の張力を試料の初期断面積で割り、100%モジュラス(MPa表示)を求める。
(5)試料数n=7の平均値を求める。
【0038】
樹脂モジュラスは、樹脂の系統(ポリカーボネート系、ポリエステル系、ポリエーテル系などの樹脂の種類)ではなく、基本的にハードセグメントの含有量で決まる。詳しくは、ポリウレタンは、ソフトセグメントとハードセグメントとを有しミクロ相分離構造をとっているため、そのハードセグメントの割合(量)で樹脂の硬さは決まる。ハードセグメントは、イソシアネートおよび低分子ジオールであり、樹脂(高分子)が強く凝集している箇所で、高分子=ソフトセグメントの動きが固定されている箇所である。ソフトセグメントは、高分子ポリオールであり、樹脂(高分子)が弱く凝集している箇所である。ソフトセグメントは、樹脂の系統(ポリカーボネート系、ポリエステル系、ポリエーテル系などの樹脂の種類)と樹脂のブレンド比で調整できる。
【0039】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法では、上記の研磨パッドを用い、かつ基準平面からの高さが下定盤の回転中心側よりも外周側が高い凹形状の回転面を有する両面研磨装置によって、基板の両主表面を研磨することを特徴としており、この構成によって初めて本願発明の効果が発揮される。
上記構成1および構成2のマスクブランク用基板の製造方法では、本願発明の研磨パッドを用いて、基板の両主表面を両面研磨すると、研磨後の基板は、2つの主表面がともに対称性の高く、主表面の中心から外周縁に向かって高くなる(厚さが厚くなる)凹形状あるいは微小な凸形状であり、かつ所定値以下の高い平坦度であり、さらに、主表面の表面欠陥が抑制された基板を製造することができる。これによって、次工程の超精密研磨工程を行って製造されたマスクブランク用基板は、主表面が対称性の高く、基板の中心から外周縁に向かって低くなる(厚さが薄くなる)凸形状であり、かつ所定値以下の高い平坦度であり、さらに、主表面の表面欠陥が抑制されたものにできる。
【0040】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法における下定盤の回転面は、基準平面からの高さが下定盤の回転中心側よりも外周側が高い凹形状を有する。この下定盤の回転面における平坦度は、27μm以上の凹形状であることが好ましく、30μm以上の凹形状であるとより好ましい。一方、上定盤の回転面は、凹形状および凸形状の何れの傾向も有さない形状であることが好ましい。また、下定盤の回転面の平坦度は、17μm以下の高い水準であると好ましく、15μm以下であるとよりに好ましい。
【0041】
本発明において、緩衝層は、選定するナップ層の物性の違いによって変化する研磨パッド全体の圧縮変形量を135μm以上になるように調整するために基層とナップ層の間に設けられている。緩衝層は、研磨パッド全体の圧縮変形量が135μm以上という条件を満たすのであれば、どのような材料で形成してもよい。緩衝層は、好ましくは発泡した樹脂で形成される。発泡した樹脂としては、例えば、合成樹脂中にガスを細かく分散させ、内部に細かな泡を無数に含む、発泡状または多孔質形状に成形されたものを指し、固体である合成樹脂と気体との不均一分散系とも定義できる。発泡した樹脂で形成される緩衝層によって、研磨パッドの圧縮変形量を上げる方向に調整するには、緩衝層に用いる樹脂の100%モジュラスがナップ層に用いる樹脂の100%モジュラスよりも低くする、あるいは緩衝層の発泡度を上げる(緩衝層の密度を下げる)ようにすることが望ましい。
【0042】
本発明において、発泡樹脂層としては、ウレタンが広く利用されている。基層(基材)と発泡樹脂層を備える研磨パッドとしては、スウェードタイプや、発泡ウレタンタイプが挙げられる。スウェードタイプ研磨パッドは、例えば、図5(1)、(2)に示すように、基層(ベース層)にポリウレタンをコート(積層)し、ポリウレタン内に発泡層を成長させ、表面部位を除去し発泡層に開口部を設けたものである。発泡の跡である空孔をポアと呼び、ポリウレタン層におけるポアの存在する部分をナップ層、基層付近のポアの存在する部分をマイクロレイヤと呼ぶ。発泡ウレタンタイプの研磨パッドは、発泡したウレタンのブロックをスライスしたもので、これを基層と接合することによって、基層と発泡樹脂層を備える研磨パッドとする。発泡樹脂層が複数層である場合は、各発泡樹脂層どうしを接合する。発泡樹脂層がポリウレタン樹脂である場合は、ポリウレタン樹脂を構成する原料樹脂として、ポリカーボネート系、ポリエステル系、ポリエーテル系などの樹脂や、これらの樹脂をブレンドした樹脂を用いることができる。
【0043】
なお、本発明のマスクブランク用基板の製造方法では、上定盤と下定盤の各回転面に取り付ける研磨パッドを異なるものを選定してもよい。この場合における本発明のマスクブランク用基板の製造方法は、回転面に研磨パッドを備える上下両定盤の両研磨パッド間に、キャリアで保持された基板を挟持し、研磨液を供給しつつ、前記研磨パッドの研磨面に対して基板を相対移動させ、前記基板の両主表面を研磨する研磨工程を備えるマスクブランク用基板の製造方法であって、前記下定盤の回転面は、基準平面からの高さが下定盤の回転中心側よりも外周側が高い凹形状であり、前記研磨パッドは、基材と、前記基材上に形成され、表面に開孔を有する発泡した樹脂からなるナップ層とからなり、前記上定盤に設けられた研磨パッドは、圧縮変形量が40μm以上であり、前記上定盤に設けられた研磨パッドのナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスが11MPa以上24MPa以下であり、前記下定盤に設けられた研磨パッドは、圧縮変形量が135μm以上であり、前記下定盤に設けられた研磨パッドのナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスが8.3MPa以上18MPa以下であることを特徴とする(構成1A)
【0044】
また、上定盤と下定盤の各回転面に取り付ける研磨パッドを異なるものを選定する場合における、構成1Aとは異なる構成の本発明のマスクブランク用基板の製造方法は、回転面に研磨パッドを備える上下両定盤の両研磨パッド間に、キャリアで保持された基板を挟持し、研磨液を供給しつつ、前記研磨パッドの研磨面に対して基板を相対移動させ、前記基板の両主表面を研磨する研磨工程を備えるマスクブランク用基板の製造方法であって、前記下定盤の回転面は、基準平面からの高さが下定盤の回転中心側よりも外周側が高い凹形状であり、前記研磨パッドは、基材と、前記基材上に形成される緩衝層と、前記緩衝層上に形成され、表面に開孔を有する発泡した樹脂からなるナップ層とからなり、前記上定盤に設けられた研磨パッドは、圧縮変形量が40μm以上であり、前記上定盤に設けられた研磨パッドのナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスが11MPa以上24MPa以下であり、前記下定盤に設けられた研磨パッドは、圧縮変形量が135μm以上であり、前記下定盤に設けられた研磨パッドのナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスが8.3MPa以上18MPa以下であることを特徴とする(構成2A)
【0045】
なお、本発明において、上記構成1、構成2、構成1Aおよび構成2Aで説明した事項は、後述する構成3〜17に記載の発明においても同様に適用される。また、後述する構成3〜17で説明した事項は、上記構成1、構成2、構成1Aおよび構成2Aに記載の発明においても同様に適用される。
【0046】
本発明において、前記研磨液は、酸化セリウム砥粒を含有していることが好ましい(構成3)。
酸化セリウム砥粒を含有する研磨液は、超精密研磨工程の前の精密研磨工程で用いられる。
また、本発明において、前記研磨液は、上定盤側から基板に供給されることが好ましい(構成4)。
【0047】
両面研磨の代表的なものとしては、図4の両面研磨装置を用い、粗研磨工程、精密研磨工程、超精密研磨工程を行う。この両面研磨装置を用いる基板主表面の研磨では、基板100はキャリア50の保持孔50a内で保持される。そして、キャリア50の外周歯を両面研磨装置の太陽歯車30と内歯歯車40にかみ合わせ、キャリア50を自転及び公転させる。さらに、研磨液供給桶61に貯留されている研磨液を供給管62を経由して上定盤20の供給穴20aから供給し、回転面に研磨パッド11,21がそれぞれ貼りつけられた下定盤10および上定盤20を回転させ、相対摺動運動によって基板100の両主表面の研磨を行う。また、図4の両面研磨装置では、下定盤10の回転による遠心力やキャリア50の回転による押し出す力によって下定盤10の外周側から外に押し出される研磨液を回収する回収部材70が下定盤10の外周に設けられている。回収部材70で回収された研磨液は、タンク81に一時貯留される。そして、タンク81内の研磨液は、ポンプ83から途中でろ過フィルタ84によって不純物をろ過し、返送管82を経由して、研磨液供給桶61に返送される。
【0048】
本発明の両面研磨装置は、下定盤10の回転面が基準平面からの高さが下定盤10の回転中心側よりも外周側が高い凹形状としていることから、下定盤10の外周から回収部材70に流れ落ちる研磨液の量を低減することができている。このため、研磨液の循環も適正な量に抑制させることができている。
【0049】
使用する研磨剤の種類や粒径は、基板材料や得ようとする平坦度に応じて適宜選定することができる。研磨剤としては、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、コロイダルシリカなどが挙げられる。研磨剤の粒径は、数十nmから数μmである。本発明のマスクブランク用基板の製造方法は、酸化セリウムを含有する研磨液で基板を研磨する場合に最適な構成である。
【0050】
粗研磨工程は、研削工程で形成された基板主表面の傷を除去し、研削工程で得られた平坦度を維持する目的として行われるもので、研磨砥粒の平均粒径が約1〜3μmの比較的大きな研磨砥粒を用いて研磨する工程である。研磨砥粒の材質は、基板の材料に応じて適宜選択される。
粗研磨工程で使用する研磨パッドは、平坦度の維持の点から、硬質ポリシャを使用することが好ましい。
【0051】
精密研磨工程は、傷等の表面欠陥がなく、基板の鏡面化を目的として行われるもので、研磨砥粒の平均粒径が約1μm以下(例えば、10nm〜1μm)の比較的小さな研磨砥粒を用いて研磨する工程である。研磨砥粒の材質は、上述と同様に基板の材料に応じて適宜選択される。平均粒径が小さく平滑な基板表面が得られる点から酸化セリウムが好ましい。精密研磨工程で使用する研磨パッドは、鏡面化の点から、軟質または超軟質ポリシャを使用することが好ましい。
【0052】
超精密研磨工程は、基板の更なる鏡面化(表面粗さの向上)を目的として行われるもので、研磨砥粒の平均粒径が約500nm以下(例えば、10nm〜500nm)の非常に小さな研磨砥粒を用いて研磨する工程である。研磨砥粒の材質は、上述と同様に基板の材料に応じて適宜選択される。平均粒径が小さく平滑な基板表面が得られる点からコロイダルシリカが好ましい。超精密研磨工程で使用する研磨パッドは、更なる鏡面化の点から、軟質または超軟質ポリシャを使用することが好ましい。
【0053】
本発明において、最終的な完成段階のマスクブランク用基板として求められる主表面における平坦度の所望の値は、露光光を透過させる光透過型マスクに用いられるマスクブランク用基板と、露光光を反射させる反射型マスクに用いられるマスクブランク用基板とでは異なる。光透過型マスクに用いられるマスクブランク用基板の場合では、主表面形状自体の平坦度(主表面形状から算出される平坦度(TIR))が0μmを超え+0.4μm以下(0.0<平坦度≦+0.4μm)の範囲とすることが求められる。さらに、基板における主表面形状自体の平坦度(TIR)が0μmを超え+0.3μm以下(0.0<平坦度≦+0.3μm)であると好ましく、基板における主表面形状自体の平坦度(TIR)が0μmを超え+0.2μm以下(0.0<平坦度≦+0.2μm)であるとより望ましい。また、露光光を反射させる反射型マスクに用いられるマスクブランク用基板の場合では、主表面形状自体の平坦度(TIR)が0μmを超え+0.1μm以下(0.0<平坦度≦+0.1μm)の範囲とすることが求められる。さらに、基板における主表面形状自体の平坦度(TIR)が0μmを超え+0.05μm以下(0.0<平坦度≦+0.05μm)であると好ましい。
基板における主表面形状自体の平坦度の絶対値が小さくなるに従って、フォトマスクにしたときのパターン位置精度が向上し、フォトマスクを使ってパターン転写したときのパターン転写精度が向上する。所望の値は、これらの要求されるパターン位置精度、パターン転写精度に応じて決めることができる。
【0054】
本発明において、前記基板は、主表面の形状が矩形であることが好ましい(構成5)。
前記基板の主表面の形状が矩形である場合に上述した本発明の課題が特に問題となるからであり、また、本発明は、主表面の形状が矩形である基板の研磨に適しているからである。
【0055】
本発明において、前記基板は、合成石英ガラスまたは低熱膨張ガラスであることが好ましい(構成6)。
本発明は、合成石英ガラスや低熱膨張ガラスからなる基板の研磨に特に適しているからである。なお、本発明は、石英ガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ソーダライムガラス等の基板の研磨に適用できる。また、本発明は、例えばアモルファスガラスであれば、SiO−TiO系ガラス、結晶化ガラスであれば、β石英固溶体を析出した結晶化ガラス等の基板の研磨に適用できる。
【0056】
本発明において、前記緩衝層の厚さは、100μm以上700μm以下であることが好ましい(構成7)。
研磨後における2つの主表面がともに、所定値以下の高い平坦度(TIR)(−1.0μm以上かつ+0.3μm以下、好ましくは、−1.0μm以上かつ0μm以下)であり、対称性が高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を、安定して製造するためである。
【0057】
本発明において、前記ナップ層の厚さは、300μm以上1000μm以下であることが好ましい(構成8)。
研磨後における2つの主表面がともに、所定値以下の高い平坦度(TIR)(−1.0μm以上かつ+0.3μm以下、好ましくは、−1.0μm以上かつ0μm以下)であり、研磨後の基板の主表面の対称性が高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を、安定して製造するためである。
【0058】
本発明において、前記ナップ層の開孔の径は、40μm以上100μm以下であることが好ましい(構成9)。
研磨後における2つの主表面がともに、所定値以下の高い平坦度(TIR)(−1.0μm以上かつ+0.3μm以下、好ましくは、−1.0μm以上かつ0μm以下)であり、研磨後の基板の主表面の対称性が高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を、安定して製造するためである。
【0059】
本発明においては、例えば、前記緩衝層の厚さは前記ナップ層の厚さの約1/2〜1/10程度にできる。前記緩衝層の空孔の平均孔径は、前記ナップ層の空孔の平均孔径より小さく(例えば1/2〜1/30程度に)できる。
【0060】
本発明において、前記緩衝層およびナップ層のいずれか一方又は双方の層は、ポリカーボネート系樹脂を含有する材料からなることが好ましい(構成10)。
前記ナップ層の100%モジュラス、並びに、前記研磨パッドの圧縮変形量を、所定範囲に制御しやすいためである。
【0061】
本発明において、前記基材は、樹脂フィルム、又は、不織布であることが好ましい(構成11)。
前記基材が樹脂フィルムであると、前記研磨パッドの圧縮変形量を、所定範囲に制御しやすいためである。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられる。前記基材が不織布であっても、不織布にボンド剤等の樹脂を含浸させることによって、前記研磨パッドの圧縮変形量を、所定範囲に制御することは可能である。
【0062】
本発明において、前記基材は、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる樹脂フィルムであることが好ましい(構成12)。
前記研磨パッドの圧縮変形量を、所定範囲に制御しやすいためである。
【0063】
本発明において、前記研磨工程で研磨された基板の両主表面に対し、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨液による研磨を行う超精密研磨工程を有することが好ましい(構成13)。
前記のとおり、精密研磨工程で研磨された基板の主表面を鏡面化するには、超精密研磨工程を行うことが望ましいためである。
【0064】
本発明のマスクブランクの製造方法は、上記構成13に記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の主表面上に、転写パターン形成用の薄膜を形成することを特徴とする(構成14)。
上記構成により、研磨後における2つの主表面がともに、所定値以下の高い平坦度(主表面形状自体の平坦度(TIR))であり、対称性が高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を有するマスクブランクを製造することが可能となる。
【0065】
本発明のマスクブランクの製造方法は、上記構成13に記載のマスクブランク用基板の製造方法で製造されたマスクブランク用基板の一方の主表面上に導電性膜を形成し、他方の主表面上に多層反射膜と転写パターン形成用の薄膜をそれぞれ形成することを特徴とする(構成15)。
【0066】
上記構成により、研磨後における2つの主表面がともに、所定値以下の高い平坦度(主表面形状自体の平坦度(TIR))であり、対称性が高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を有するマスクブランクを製造することが可能となる。特に、この構成15のマスクブランク(反射型マスクブランク)は、転写パターン形成用の薄膜を形成する側とは反対側の主表面にも導電性膜を形成する。そして、この導電性膜を形成した側の主表面は、反射型リソグラフィ用の露光装置のマスクステージにセットする際、全面がチャックされる。このため、導電性膜を形成する側の主表面の表面形状を、転写パターン形成用の薄膜を形成する側の主表面の表面形状と同様の水準にすることが可能な本発明のマスクブランク用基板の製造方法で得られる効果は、光透過型のマスクブランクの場合よりも大きい。
【0067】
本発明の転写用マスクの製造方法は、上記構成14に記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクにおける前記薄膜をパターニングして、転写パターンを形成することを特徴とする(構成16)。
上記構成により、研磨後における2つの主表面がともに、所定値以下の高い平坦度(主表面形状自体の平坦度(TIR))であり、対称性が高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を有する転写用マスクを製造することが可能となる。
【0068】
本発明の転写用マスクの製造方法は、構成15に記載のマスクブランクの製造方法で製造されたマスクブランクにおける前記薄膜をパターニングして、転写パターンを形成することを特徴とする(構成17)。
上記構成により、研磨後における2つの主表面がともに、所定値以下の高い平坦度(主表面形状自体の平坦度(TIR))であり、対称性が高く、しかも、主表面の表面欠陥が抑制された基板を有する転写用マスクを製造することが可能となる。また、構成17の転写用マスク(反射型マスク)は、前記の構成15のマスクブランク(反射型マスク)と同様の理由から、光透過型の転写用マスクの場合よりも、本発明のマスクブランク用基板の製造方法によって得られる効果が多い。
【実施例】
【0069】
以下、実施例および比較例に基づき、本発明をさらに具体的に説明する。
【0070】
(1)粗研磨工程
端面を面取加工し、両面ラッピング装置によって研削加工を終えた合成石英ガラス基板(約152mm×約152mm×約6.3mm)を、上述の両面研磨装置に12枚セットし、以下の研磨条件で粗研磨工程を行った。尚、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨液 :酸化セリウム(平均粒径2〜3μm)+水
研磨パッド:硬質ポリシャ(ウレタンパッド)
上記粗研磨工程後、ガラス基板に付着した研磨砥粒を除去するため、ガラス基板を洗浄槽に浸漬(超音波印加)し、洗浄を行った。実施例1〜6、比較例1〜10でそれぞれ12枚ずつ使用するため、このガラス基板12枚を16セット研磨した。この研磨したガラス基板の全てに対し、対向する2つの主表面の表面形状を平坦度測定器(Corning Tropel社製 UltraFlat200M)で測定した。
【0071】
(2)精密研磨工程
両面研磨装置に12枚セットし、以下の研磨条件で精密研磨工程を行った。尚、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。なお、この精密研磨工程で使用された両面研磨装置は、上定盤の回転面の表面形状は、平坦度が14μmであり、上定盤の回転面における直径が2000mmであることを考慮すると高水準であり、凸形状・凹形状いずれの傾向ともいえないものであった。一方、下定盤の回転面の表面形状は、平坦度が33μmであり、回転中心側よりも外周側が高い凹形状の傾向を有していた。
研磨液 :酸化セリウム(平均粒径1μm)+水
研磨パッド:研磨パッドとしては、表1〜表3に記載の実施例1〜6、比較例1〜10の研磨パッドを各々使用した。
ナップ層はポリウレタン樹脂からなり、ポリウレタン樹脂を構成する原料樹脂として、表1〜表3に示す、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系の樹脂を使用した。
【0072】
実施例1〜6、および比較例1〜7、9は、PET(基材)上に緩衝層とナップ層をこの順で積層した研磨パッドである(図5(3)参照)。なお、各緩衝層の材質や厚さは、研磨パッド全体の圧縮変形量が求められる数値になるように適宜調整した。比較例10は、不織布(基材)上にナップ層(単層)を積層した研磨パッドである(図5(1)参照)。比較例8は、PET(基材)上にナップ層(単層)を積層した研磨パッドである(図5(2)参照)。
上記精密研磨工程終了後、ガラス基板に付着した研磨砥粒を除去するため、ガラス基板を洗浄槽に浸漬(超音波印加)し、洗浄を行った。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
精密研磨工程が行われた後の実施例1〜6、および比較例1〜10の基板(各12枚)に対し、粗研磨工程後の場合と同様、平坦度測定器(Corning Tropel社製 UltraFlat200M)で、対向する2つの主表面の表面形状をそれぞれ測定した。そして、粗研磨工程後に予め測定しておいた精密研磨工程前の基板の表面形状のデータから、精密研磨工程によって形状変化量の面内分布を表面形状として算出し、その表面形状を基に主表面の一辺が142mmの四角形の内側領域における平坦度(TIR)を算出した。測定した基板12枚の平均値の平坦度(TIR)を上定盤側と下定盤側の各主表面について、それぞれ表1〜表3に示す。また、この各実施例・比較例の研磨パッドのナップ層における100%モジュラスを横軸に、研磨パッドの圧縮変形量を縦軸にとり、基板の平坦度(TIR)を円の大きさで示したバブル図を、上定盤側と下定盤側の主表面についてそれぞれ作成(図1図2)し、相関性を調べた。
【0077】
その結果、図1および図2から、ナップ層を形成する樹脂の100%モジュラスが11.0MPa以上であると、上定盤側および下定盤側のいずれの主表面の平坦度(TIR)も−1.0μm以上となることがわかった(実施例1〜6)。また、100%モジュラスが18.0MPaよりも大きいと、上定盤側の主表面の平坦度(TIR)は+0.3μmを超えることはないが、下定盤側の主表面の平坦度(TIR)が+0.3μmを超えてしまうことがわかった(比較例2〜7)。さらに、100%モジュラスが14.4MPa以上であると、下定盤側の主表面の平坦度(TIR)が0μmを超えてしまう(凹形状にはならない)ことがわかった(実施例1〜3)。
【0078】
また、ナップ層の100%モジュラスが同じ18.0MPaの場合(実施例1、比較例1)で比較すると、圧縮変形量が135μm以上であると、下定盤側の主表面の平坦度(TIR)が+0.3μmを超えることがないこともわかった。
以上のことから、精密研磨工程で基板を研磨するために用いる研磨パッドは、ナップ層の100%モジュラスが11.0MPa以上18.0MPa以下であり、かつ研磨パッドの圧縮変形量が135μm以上であることが必要条件であることが確認された。
【0079】
また、精密研磨工程後における基板の上定盤側および下定盤側の主表面のいずれも凹形状であることが求められる場合においては、精密研磨工程で基板を研磨するために用いる研磨パッドは、ナップ層の100%モジュラスが11.0MPa以上14.4MPa未満であることが必要条件であることが確認された。
【0080】
(3)超精密研磨工程
上述の両面研磨装置に12枚セットし、以下の研磨条件で超精密研磨工程を行った。尚、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨液 :コロイダルシリカ(平均粒径100nm)+水
研磨パッド:超軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
超精密研磨工程終了後、ガラス基板に付着した研磨砥粒を除去するため、ガラス基板を洗浄槽に浸漬(超音波印加)し、洗浄を行った。この超精密研磨工程は、実施例1〜6、比較例1〜10の各研磨パッドで研磨された各12枚の基板に対して行われた。
【0081】
(4)平坦度測定工程
超精密研磨工程が行われた後の実施例1〜6、および比較例1〜10の基板(各12枚)について、主表面の一辺が142mmの四角形の内側領域における平坦度(TIR)を平坦度測定器(Corning Tropel社製 UltraFlat200M)で測定した。その結果、実施例1〜11の基板については、2つの主表面形状自体の平坦度(平坦度測定器で測定した主表面形状自体から算出した平坦度(TIR))は、いずれも0μm以上かつ+0.2μm以内の範囲の凸形状となっていた。これに対し、比較例1〜10の基板については、2つの主表面の形状は、主表面形状自体の平坦度(TIR)が+0.2μmよりも大きい凸形状のものが大多数を占め(平均9枚)、歩留りが悪いという結果となった。
【0082】
(マスクブランクおよびフォトマスクを作製しての評価)
上記の実施例1〜6の基板について、2つの主表面形状自体の平坦度(TIR)がいずれも0μm以上かつ+0.2μm以下であり、表面欠陥が検出されなかったものからそれぞれ1枚ずつ選定した。選定した各ガラス基板の一方の主表面上に、モリブデン、ケイ素および窒素を含有する遮光層(MoSiN膜)と、モリブデン、ケイ素および窒素を含有する反射防止層(MoSiN膜)が2層積層した構造の遮光膜(合計膜厚60nm)をそれぞれスパッタリング法によって形成し、バイナリ型のマスクブランクを製造した。
次に、製造した各マスクブランクの遮光膜上にスピンコート法でレジスト膜を塗布形成した。続いて、レジスト膜に所望の微細パターンを露光・現像することで形成した。さらに、レジスト膜をマスクとして、遮光膜に対してドライエッチングを行うことで、遮光膜に転写パターンを形成し、バイナリ型の転写用マスクを作製した。
【0083】
実施例1〜6の基板から作製された各転写用マスクを用い、露光装置のマスクステージにセットし、転写対象物(ウェハ上のレジスト膜等)にArFエキシマレーザー光を照射する露光転写を行った。その結果、転写対象物に所望のパターンが正常に転写されていることが確認された。
【0084】
(反射型マスクブランクおよび反射型マスクを作製しての評価)
上記の実施例1〜6の基板について、2つの主表面形状自体の平坦度(TIR)がいずれも0μm以上かつ+0.05μm以下であり、表面欠陥が検出されなかったものからそれぞれ1枚ずつ選定した。選定した各ガラス基板の一方の主表面上に、モリブデン(Mo層)とケイ素(Si層)を交互に積層した多層反射膜を形成した。具体的には、ガラス基板側からSi層を4.2nm、Mo層を2.8nmそれぞれ成膜し、これを40周期繰り返し、最後にSi層を4.0nm成膜して多層反射膜を形成した。次に、多層反射膜上に、ルテニウムを含有する材料からなる保護膜を2.5nm形成した。最後に、保護膜上に、タンタルを主成分とする吸収体膜を形成し、反射型マスクブランクを製造した。
【0085】
次に、製造した各反射マスクブランクの遮光膜上にスピンコート法でレジスト膜を塗布形成した。続いて、レジスト膜に所望の微細パターンを露光・現像することで形成した。さらに、レジスト膜をマスクとして、吸収体膜に対してドライエッチングを行うことで、吸収体膜に転写パターンを形成し、反射型マスクを作製した。
【0086】
実施例1〜6の基板から作製された各反射型マスクを用い、EUVリソグラフィ用の露光装置のマスクステージにセットし、転写対象物(ウェハ上のレジスト膜等)にEUV光を照射する露光転写を行った。その結果、転写対象物に所望のパターンが正常に転写されていることが確認された。
【符号の説明】
【0087】
10 下定盤
20 上定盤
11,21 研磨パッド
50 キャリア
100 基板
図3
図4
図5
図1
図2