(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を説明する。保護シートを構成する炭素膜としては、種々の炭素膜を使用することができるが、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜が好ましい。DLC膜を用いると、中性化抑制効果が一層高い。また、DLC膜は、酸素や水蒸気の透過を抑制することができる。炭素膜は、種々の気相成膜法(例えば、プラズマCVD法、スパッタ法等)により形成できる。また、プラズマCVD法として、大気圧プラズマCVD法、又は高真空下でのプラズマCVD法を用いることができる。
【0011】
前記炭素膜の膜厚は、例えば、0.01〜20μmの範囲が好ましく、0.1〜5μmの範囲が一層好ましい。この範囲内であることにより、中性化抑制効果が一層高い。
前記基材としては、例えば、フィルム状のものが好ましい。基材の膜厚は、例えば、1〜1000μmの範囲が好ましく、10〜500μmの範囲が特に好ましい。この範囲内であることにより、中性化抑制効果が一層高い。基材を構成する樹脂としては、各種樹脂を用いることができ、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ブタジエン等が挙げられる。
【0012】
前記保護シートは、樹脂から成る基材と、炭素膜のみから構成されていてもよいし、さらに炭素膜以外の膜を、基材と炭素膜との間、又は、炭素膜よりも上層に備えていてもよい。
【0013】
前記保護シートは、例えば、接着剤により、前記コンクリート構造物の表面に接着されることが好ましい。この場合、コンクリート構造物の中性化を抑制する効果が一層高い。接着剤としては、例えば、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、シリコン系接着剤、ゴム系接着剤等を使用できる。接着力の点から、特に、エポキシ系接着剤が好ましい。エポキシ系接着剤としては、例えば、日本ペイント株式会社製のタフガードEパテ−2(商品名)等が挙げられる。接着剤は、例えば、コテ等を用いて、保護シートを貼る領域全面に塗布することが好ましい。接着剤は、コンクリート構造物側に塗布してもよいし、保護シート側に塗布してもよいし、両者に塗布してもよい。
【0014】
保護シートは、コンクリート構造物の表面に直接接着してもよいし、コンクリート構造物の表面に何らかの層を形成し、その層の上に接着してもよい。
前記保護シートは、例えば、その基材側(炭素膜が存在する側とは反対側)をコンクリート構造物に接着してもよいし、炭素膜が存在する側をコンクリート構造物に接着してもよい。特に、前者の接着方法をとれば、保護シートとコンクリート構造物との接着力が一層高くなる。
【0015】
前記コンクリート建造物は特に限定されず、例えば、コンクリート高架橋(特に梁、柱)、コンクリート桁橋、電架柱、ビル、住宅等が挙げられる。なお、上側や近傍を列車(例えば新幹線等)や車両が通過するコンクリート構造物(例えばコンクリート高架橋の梁)には振動やひび割れの開閉が発生し易いが、そのようなコンクリート構造物に本発明のコンクリート構造物の保護構造及びコンクリート構造物の保護工法を適用すると、上述したように、振動やコンクリート構造物に存在するひび割れの開閉があっても保護シートにひび割れや破断等が生じ難いため、中性化抑制効果を維持できる。
<実施例>
1.保護シートの製造
ポリエチレンテレフタレート(PET)のフィルム(以下、PETフィルムとする)として、東レ株式会社製のルミラーシリーズを用意した。このPETフィルムには、膜厚50μmのものと、膜厚100μmのものとの2種類がある。PETフィルムは、樹脂から成る基材の一実施形態である。
【0016】
PETフィルムの片面に、大気圧プラズマCVD装置を用いて、DLC膜を形成した。DLC膜は、炭素膜の一実施形態である。DLC膜の形成方法としては、特開2010−208277号公報に記載されている公知の方法を用いることができる。具体的には、以下のようにしてDLC膜を形成することができる。
【0017】
図1に、大気圧プラズマCVD装置1の概略構成を示す。大気圧プラズマCVD装置1は、互いに平行に配置された銅製の対向電極3、5と、それらの表面に配置された誘電体7、9を備える。対向電極3、5間には、図示しない供給配管から、雰囲気ガス11が、所定の流速で供給される。雰囲気ガス11は、原料ガスであるC
2H
2と希釈ガスであるN
2との混合ガスである。対向電極3、5間には、パルス電源13により高周波電圧が印加され、雰囲気ガス11はプラズマ化されてプラズマ化雰囲気ガスとなる。
【0018】
PETフィルム15は、対向電極3、5の間に挿入され、一方の面を誘電体7に当接させた状態で、対向電極3、5と平行に移動する。このとき、PETフィルム15の反対面(対向電極5側の面)に、DLC膜が形成される。
【0019】
以上のようにしてDLC膜を形成したPETフィルムを、保護シートとする。
図2に示すように、保護シート103は、PETフィルム15と、その片面に形成されたDLC膜17とから構成される。
【0020】
保護シートにおけるDLC膜の膜厚は、0.2μm、1μm、2μmの3種類とした。上記のように、PETフィルムの膜厚には2種類あるので、保護シートの層構成には、以下の6種類がある。
(i)PETフィルムの膜厚:50μm、DLC膜の膜厚:0.2μm
(ii) PETフィルムの膜厚:50μm、DLC膜の膜厚:1μm
(iii)PETフィルムの膜厚:50μm、DLC膜の膜厚:2μm
(iv)PETフィルムの膜厚:100μm、DLC膜の膜厚:0.2μm
(v) PETフィルムの膜厚:100μm、DLC膜の膜厚:1μm
(vi)PETフィルムの膜厚:100μm、DLC膜の膜厚:2μm
なお、DLC膜の膜厚は、走査型電子顕微鏡(SEM)で断面を観察する方法で測定した。
【0021】
2.コンクリート構造物の保護構造(その1)
水平断面が1辺70cmの正方形であるコンクリート高架橋の柱(コンクリート構造物の一実施形態)を施工対象とした。まず、コンクリート高架橋の柱の表面における脆弱層、付着物、及び粉塵をブラスト又は電動工具により除去した。次に、コンクリート高架橋の柱の表面を完全に乾燥させてから、その表面に、エポキシ系接着剤(日本ペイント株式会社製、商品名:タフガードEパテ−2)を、ヘラ又はコテを用いて塗布した。塗布量は、0.5Kg/m
2とした。エポキシ系接着剤は、後に保護シートを貼る領域全体に塗布した。
【0022】
次に、
図3(a)に示すように、長さ3m、幅1mの長方形の保護シート(PETフィルムの膜厚:50μm、DLC膜の膜厚:1μm)103を、コンクリート高架橋の柱101の周囲に巻き回し、接着した。このとき、保護シート103のうち、DLC膜17が形成されていない面を接着面とした。そのため、
図3(a)に示すように、コンクリート高架橋の柱101の表面に、接着剤層19を介して、保護シート103のうちのPETフィルム15側が接着され、DLC膜17は外側となる。
【0023】
また、保護シートを貼り付けるときは、保護シートの長手方向が、コンクリート高架橋の柱の周方向となるようにした。このとき、
図3(a)に示すように、保護シート103の長手方向における一方の端部103aは、コンクリート高架橋の柱101の1つの辺における中央部に位置し、保護シート103の長手方向における反対側の端部103bは、端部103aと約20mm重なっている。
【0024】
さらに、
図3(b)に示すように、複数の保護シート103を、上述した方法で、それぞれ高さを変えてコンクリート高架橋の柱101に貼り、コンクリート高架橋の柱101の下端から上端まで、表面全体を複数の保護シート103で覆うようにした。このとき、上下方向に隣接する保護シート103は、約20mmの重複部分105において重複している。なお、各保護シート103とコンクリート高架橋の柱101との接着強度は充分に高かった。
【0025】
3.コンクリート構造物の保護構造(その2)
図4(a)に示すコンクリート高架橋301(コンクリート構造物の一実施形態)を施工対象とした。コンクリート高架橋301は、梁303、柱101、跳ね出しスラブ305、及び中央スラブ307を備えている。なお、梁303には、コンクリート高架橋301の長手方向(列車等の進行方向)に沿うものと、短手方向に沿うものとがあるが、両方を施工対象とした。
【0026】
まず、梁303、柱101、跳ね出しスラブ305、及び中央スラブ307の表面における脆弱層、付着物、及び粉塵をブラスト又は電動工具により除去した。次に、梁303、柱101、跳ね出しスラブ305、及び中央スラブ307の表面を完全に乾燥させてから、それらの表面に、エポキシ系接着剤(日本ペイント株式会社製、商品名:タフガードEパテ−2)を、ヘラ又はコテを用いて塗布した。塗布量は、0.5Kg/m
2とした。エポキシ系接着剤は、後に保護シートを貼る領域全体に塗布した。
【0027】
次に、
図4(b)に示すように、長方形の保護シート(PETフィルムの膜厚:50μm、DLC膜の膜厚:1μm)103を、梁303、柱101、跳ね出しスラブ305、及び中央スラブ307の表面に接着した。梁303の場合は、その底面303a、及び一対の側面303b、303cに跨るように(すなわち保護シート103がコの字型となるように)保護シート103を接着した。このとき、保護シート103のうち、DLC膜17が形成されていない面を接着面とした。そのため、梁303の表面に、接着剤層を介して、保護シート103のうちのPETフィルム15側が接着され、DLC膜17は外側となる。
【0028】
梁303の表面には、隙間無く複数の保護シート103を貼り付け、隣接する保護シート103同士は、約20mmの重複部分において重複している。なお、各保護シート103と梁303との接着強度は充分に高かった。
【0029】
また、柱101については、前記「2.コンクリート構造物の保護構造(その1)」の場合と同様に施工した。
また、跳ね出しスラブ305、及び中央スラブ307については、それらの下面に、隙間無く保護シート103を接着した。隣接する保護シート103同士は、約20mmの重複部分において重複している。このとき、保護シート103のうち、DLC膜17が形成されていない面を接着面とした。そのため、跳ね出しスラブ305、及び中央スラブ307の表面に、接着剤層を介して、保護シート103のうちのPETフィルム15側が接着され、DLC膜17は外側となる。なお、各保護シート103と跳ね出しスラブ305、及び中央スラブ307との接着強度は充分に高かった。
【0030】
4.コンクリート構造物の保護構造の評価
(1)耐疲労性の評価
(1−1)評価方法
JIS A1436−2006「建築用被覆材料の下地不連続部における耐疲労性試験方法」を準用し、保護シートの耐疲労性を評価した。具体的には、以下のように評価を行った。
【0031】
保護シートを、150mm×50mmの大きさに切り出し、これを試験体とした。
図5に示すように、0.2mmの隙間をおいて配置された一対の基板203、205に跨るように試験体201を設置し、基板203、205の両方に対し試験体201を接着した。そして、基板203は固定した状態で、基板205を、
図5に示す矢印方向に沿って、振幅0.04mm、周期0.1secで、600万回往復移動させた。試験は、20℃、60℃、−10℃においてそれぞれ行った。また、試験は、以下の保護シートのそれぞれについて行った。
【0032】
PETフィルムの膜厚が50μmであり、DLC膜の膜厚が1μmであるもの
PETフィルムの膜厚が50μmであり、DLC膜の膜厚が2μmであるもの
PETフィルムの膜厚が100μmであり、DLC膜の膜厚が1μmであるもの
PETフィルムの膜厚が100μmであり、DLC膜の膜厚が2μmであるもの
(1−2)評価結果
いずれの保護シートについても、ひび割れや破断は見られなかった。この評価結果から、保護シートに対し、コンクリート構造物の振動やひび割れの開閉に起因する応力が繰り返し加わっても、保護シートにひび割れや破断等が生じ難いことが確認できた。
(2)中性化抑止性の評価
(2−1)評価方法
JIS R5210−1997「セメントの物理試験方法」の10.4「試供体の作り方」に規定される方法で、水、セメント、標準砂の質量比が0.65:1:2であるモルタルを、100×100×400mmの型枠を用いて成型した。そのモルタルを、23±2℃、湿度80%以上の状態で24時間養生したのち脱型し、材令7日まで、23±2℃の下、水中養生した。その後、上記のモルタルから、1片が100mmの立方体を切り出した。この立方体のモルタルにおいて、成型時に型枠の側面に接しており、互いに対向する2面に、エポキシ系接着剤(日本ペイント株式会社製、商品名:タフガードEパテ−2)を用いて保護シートを接着するとともに、他の4面には、エポキシ樹脂(コニシ製、商品名:クイックメンダー)を塗装し、試験体とした。なお、保護シートを接着するときは、DLC膜が形成されていない面を接着面とした。その後、14日間養生した。
【0033】
次に、試験体を、温度23±2℃、湿度60%、CO
2濃度5%の中性化促進環境下で70日間静置した後、保護シートを貼った2面を含み、試験体を2等分する断面において、試験体を割裂した。割裂後、直ちに、断面にフェノールフタレイン1%溶液を噴霧し、赤色に変化しない部分(中性化した部分)の、保護シートを貼った表面からの最大深さを測定した。試験は、以下の保護シートのそれぞれについて行った。
【0034】
PETフィルムの膜厚が50μmであり、DLC膜の膜厚が1μmであるもの
PETフィルムの膜厚が50μmであり、DLC膜の膜厚が2μmであるもの
PETフィルムの膜厚が100μmであり、DLC膜の膜厚が1μmであるもの
PETフィルムの膜厚が100μmであり、DLC膜の膜厚が2μmであるもの
(2−2)評価結果
いずれの保護シートを用いた場合でも、断面全体が赤く変化し、中性化の進行は皆無であった。この評価結果から、保護シートでコンクリート構造物の表面を覆うことで、その中性化を抑制できることが確認できた。
(3)耐候性の評価
(3−1)評価方法
JIS K5600(塗料一般試験方法)7−7:1999促進耐候性(キセノンランプ法)に基づき耐候性を評価した。具体的には、以下のように行った。
【0035】
保護シートを、DLC膜が形成されていない面が接着面となるように、コンクリート基盤に貼り付けた。そして、その保護シートに対し、キセノンランプを用い、紫外線を3000時間照射した。その後、保護シートの割れ、はがれ、変色の程度を目視により観察した。試験は、以下の保護シートのそれぞれについて行った。
【0036】
PETフィルムの膜厚が50μmであり、DLC膜の膜厚が1μmであるもの
PETフィルムの膜厚が50μmであり、DLC膜の膜厚が2μmであるもの
PETフィルムの膜厚が100μmであり、DLC膜の膜厚が0.2μmであるもの
PETフィルムの膜厚が100μmであり、DLC膜の膜厚が1μmであるもの
PETフィルムの膜厚が100μmであり、DLC膜の膜厚が2μmであるもの
(3−2)評価結果
いずれの保護シートを用いた場合でも、保護シートの割れ、はがれ、変色は見られなかった。
(4)耐アルカリ性の評価
(4−1)評価方法
モルタル板(70×70×20mm)の上面に、エポキシ系接着剤(日本ペイント株式会社製、商品名:タフガードEパテ−2)を用いて保護シートを接着し、これを試験体とした。試験体を、
図6に示すように、飽和水酸化カルシウム溶液に、30日間、半浸漬した。その後、試験体を引き上げ、引き上げから2時間後に、保護シートの割れ、はがれ、軟化、溶出を目視により評価した。 また、上記のように飽和水酸化カルシウム溶液に浸漬後、引き上げた試験体において、JSCE K531−1999「表面保護材の付着強さ試験方法」により、保護シートとモルタル板との接着性を評価した。試験は、以下の保護シートのそれぞれについて行った。
【0037】
PETフィルムの膜厚が50μmであり、DLC膜の膜厚が1μmであるもの
PETフィルムの膜厚が100μmであり、DLC膜の膜厚が1μmであるもの
(評価結果)
いずれの保護シートにおいても、割れ、はがれ、軟化、溶出は見られなかった。また、保護シートとモルタル板との接着力は、約1MPaであり、充分に高かった。
(5)ひび割れ追従性の評価
(評価方法)
JSCE K532−1999「表面被覆材のひび割れ追従性試験方法」に基づき、保護シートのひび割れ追従性を評価した。具体的には、以下のように評価を行った。
【0038】
図5に示すように、一対の基板203、205に跨るように試験体201を設置し、基板203、205の両方に対し試験体201を接着した。そして、基板203、205を、毎分5mmの速度で遠ざけていった。保護シートの一部又は全部が破断したときの試験体の伸びを追従性の評価値とした。試験は、以下の保護シートのそれぞれについて行った。
【0039】
PETフィルムの膜厚が50μmであり、DLC膜の膜厚が1μmであるもの
PETフィルムの膜厚が100μmであり、DLC膜の膜厚が1μmであるもの
また、評価は、標準条件と、低温(10℃)条件とのそれぞれにおいて行った。
(評価結果)
追従性の評価値は、標準条件で0.68mm以上、低温条件で0.70mm以上であり、非常に高かった。
【0040】
なお、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
例えば、保護シートで表面を覆うコンクリート構造物は、コンクリート高架橋の代わりに、コンクリート桁橋、電架柱、ビル、住宅等であってもよい。
【0041】
また、保護シートの基材は、PET以外の樹脂であってもよい。また、保護シートの炭素膜は、DLC膜以外の炭素膜(例えばアモルファスカーボン等)であってもよいし、高真空下でのプラズマCVD法により形成されたDLC膜であってもよい。
【0042】
また、保護シートの接着に用いる接着剤は、ウレタン系接着剤、シリコン系接着剤、ゴム系接着剤であってもよい。