特許第5989433号(P5989433)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5989433-表面保護シート 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989433
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】表面保護シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/02 20060101AFI20160825BHJP
   C09J 123/22 20060101ALI20160825BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   C09J7/02 Z
   C09J123/22
   C09J11/06
【請求項の数】6
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2012-159196(P2012-159196)
(22)【出願日】2012年7月18日
(65)【公開番号】特開2014-19775(P2014-19775A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 健史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊隆
(72)【発明者】
【氏名】若山 尚央
【審査官】 佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−186257(JP,A)
【文献】 特開2008−248115(JP,A)
【文献】 特開2001−019926(JP,A)
【文献】 特開平10−025455(JP,A)
【文献】 特開2010−090185(JP,A)
【文献】 特開2010−095610(JP,A)
【文献】 特開2005−263917(JP,A)
【文献】 特開平09−157598(JP,A)
【文献】 特開2011−068713(JP,A)
【文献】 特開平10−140113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
B32B 1/00− 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基材と該支持基材上に配置された粘着剤層とを有する表面保護シートであって、
前記粘着剤層を構成する粘着剤は、
ベースポリマーとしての非架橋のゴム系ポリマーと、軟化点120℃以上の粘着付与樹脂(T)と、軟化点120℃未満の粘着付与樹脂(T)と、を含み、
前記ベースポリマーはイソブチレン系ポリマーであり、
前記粘着付与樹脂(T)と前記粘着付与樹脂(T)とは、軟化点が30℃以上異なり
前記粘着付与樹脂(T)の含有量に対する前記粘着付与樹脂(T)の含有量の質量比(T/T)は、1.0以上30以下である、表面保護シート。
【請求項2】
前記粘着付与樹脂(T)と前記粘着付与樹脂(T)との合計含有量は、ベースポリマー100質量部当たり、1.0質量部以下である、請求項1に記載の表面保護シート。
【請求項3】
前記粘着付与樹脂(T)はロジン系樹脂である、請求項1または2に記載の表面保護シート。
【請求項4】
前記粘着付与樹脂(T)のSP値は8.5以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の表面保護シート。
【請求項5】
前記粘着剤層の厚さは1μm以上10μm未満である、請求項1〜のいずれか一項に記載の表面保護シート。
【請求項6】
定荷重剥離試験における保持時間が200秒以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の表面保護シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被着体の表面を傷や汚れ等の損傷から保護する表面保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
金属板や塗装鋼板、合成樹脂板等を加工したり運搬したりする際に、これらの表面の損傷(傷や汚れ等)を防止する目的で、該表面に保護シートを接着して保護する技術が知られている。かかる目的に使用される表面保護シートは、一般に、樹脂製のシート状基材(支持基材)の片面に粘着剤(感圧接着剤ともいう。以下同じ。)層を有し、その粘着剤層を介して被着体(保護対象物)に接着されることで保護目的を達成し得るように構成されている。例えば、表面保護シートの粘着剤層を構成する粘着剤として、ポリイソブチレン系の粘着剤を用いることが知られている(特許文献1)。また、特許文献2には、高極性の誘引剤を配合したゴム系粘着剤層を支持基材に設けてなる表面保護用シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2832565号公報
【特許文献2】特開平9−3420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、表面保護シートは被着体に対し、該被着体の保護が必要とされる期間(例えば、上記加工や運搬等が行われる期間)を含めて一時的に貼り付けられる。その後、保護の役目を終えた保護シートは被着体から除去(再剥離)される。かかる態様で使用される表面保護シートには、保護の役割を終えた後に該表面保護シートに由来する成分を被着体表面に残留させることなく(すなわち、被着体表面を表面保護シート由来の成分で汚染することなく)再剥離し得る性質(非汚染性)が求められる。
【0005】
かかる非汚染性を実用上良好なレベルに維持しつつ、被着体への貼付け後、短時間のうちに十分な密着性を発揮する性質(初期密着性)を向上させることができれば有益である。表面保護シートの初期密着性が不十分であると、被着体への貼付け作業性が低下したり、貼り付けられた表面保護シートの一部が被着体から浮き上がって保護の役目を果たせなくなったりする場合があるためである。表面形状が平面ではない被着体に貼り付けられる場合や、貼付面積が比較的大きい場合等には、表面保護シートの初期密着性を向上させることが特に有意義である。
【0006】
ところで、非架橋のゴム系ポリマーをベースポリマーとする粘着剤は、実質的に歪を蓄積しない(一時的に歪みが生じたとしても該歪を容易に解消し得る)ので被着体表面にストレスを与えにくい等、表面保護シート用の粘着剤として好適な性質を有する。しかし、一般に非架橋の粘着剤は凝集力の低いものとなりがちであるため、上記初期密着性の向上が殊に困難であった。
【0007】
また、表面保護シートには、保護の役目を終えた表面保護シートを被着体表面から剥離(除去)する際に該シートに由来する付着物(典型的には粘着剤層を構成する粘着剤の一部)が該被着体表面に残留する事象(糊残り)を起こさない性質が求められる。かかる要求は、商品の価値向上の一環としての外観意匠向上に対する意識の高まりから、さらに高度化している。例えば、平滑性の高い被着体表面のみならず、細かい凹凸のある表面(例えば研磨補修された被着体表面)のように糊残り防止の観点からは不利な表面状態の被着体に接着されて該被着体表面の保護に使用される場合等においても、より良好な糊残り防止性(耐糊残り性)を発揮し得る表面保護シートが提供されれば有益である。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、非架橋のゴム系ポリマーをベースポリマーとする粘着剤を備え、初期密着性および非汚染性がいずれも良好であり、かつ被着体表面への糊残り防止性に優れた表面保護シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、高軟化点を有する粘着付与樹脂と低軟化点を有する粘着付与樹脂の2種類の粘着付与樹脂を非架橋のゴム系ポリマーに配合し、かつ該2種類の粘着付与樹脂の配合比率を特定の範囲とすることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0010】
すなわち、この明細書によると、支持基材と該支持基材上に配置された粘着剤層とを有する表面保護シートが提供される。前記粘着剤層を構成する粘着剤は、ベースポリマーとしての非架橋のゴム系ポリマーと、軟化点120℃以上の粘着付与樹脂(T)と、軟化点120℃未満の粘着付与樹脂(T)と、を含む。前記粘着付与樹脂(T)の含有量に対する前記粘着付与樹脂(T)の含有量の質量比(T/T)は、1.0以上30以下である。かかる構成の表面保護シートは、被着体に対する初期密着性と非汚染性とがいずれも良好であり、かつ被着体表面への糊残り防止性に優れる。前記粘着付与樹脂(T)と前記粘着付与樹脂(T)とは、軟化点が30℃以上異なることが好ましい。
【0011】
ここに開示される表面保護シートの好ましい一態様では、前記粘着付与樹脂(T)と前記粘着付与樹脂(T)との合計含有量は、ベースポリマー100質量部当たり、1.0質量部以下である。かかる表面保護シートは、良好な初期密着性および実用に適した非汚染性に加えて、より良好な糊残り防止性を示す。
【0012】
ここに開示される表面保護シートの好ましい一態様では、前記ベースポリマーがイソブチレン系ポリマーである。かかる組成の粘着剤を有する表面保護シートは、被着体表面に貼付け跡を残しにくいので好ましい。
【0013】
ここに開示される表面保護シートの好ましい一態様では、前記粘着付与樹脂(T)はロジン系樹脂である。かかる粘着付与樹脂(T)を用いることにより、初期密着性と非汚染性とをより高レベルで両立させた表面保護シートが実現され得る。
【0014】
ここに開示される表面保護シートの好ましい一態様では、前記粘着付与樹脂(T)のSP値は8.5以上である。かかる粘着付与樹脂(T)を用いることにより、良好な粘着特性が実現され得る。ベースポリマーがイソブチレン系ポリマーである場合には、上記SP値を有する粘着付与樹脂を用いることが特に有意義である。
【0015】
ここに開示される表面保護シートの好ましい一態様では、前記粘着剤層の厚さは1μm以上10μm未満である。かかる厚さを有する粘着剤は糊残りが生じやすいが、本発明の構成を適用することにより、糊残り防止性が向上する。
【0016】
ここに開示される表面保護シートの好ましい一態様では、表面保護シートは、定荷重剥離試験における保持時間が200秒以上である。かかる表面保護シートは優れた初期密着性を発揮し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る表面保護シートの一形態例を模式的に示す断面図である。
図2】定荷重剥離試験の方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0019】
本発明に係る表面保護シートは、例えば、自動車塗膜保護シートを除く種々の用途の表面保護シートでもあり得る。かかる表面保護シートは、シート状の支持基材上に粘着剤層を有する。本発明の一形態例に係る表面保護シートの断面構造を図1に示す。この表面保護シート10は、支持基材1の一方の面1Aに粘着剤層2が設けられた構成を有し、粘着剤層2の表面2Aを被着体に貼り付けて使用される。ここでいう「被着体」とは、保護対象物品のことをいう。使用前(すなわち、被着体への貼付前)の保護シート10は、粘着剤層2の表面(粘着面、すなわち被着体への貼付け面)2Aが、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー(図示せず)によって保護された形態であり得る。あるいは、支持基材1の他方の面(背面)1Bが剥離面となっており、保護シート10がロール状に巻回されることにより該他面に粘着剤層2が当接してその表面(粘着面)2Aが保護された形態の保護シート10であってもよい。
【0020】
[支持基材]
ここに開示される表面保護シートの支持基材としては、樹脂フィルム、紙、布、ゴムシート、発泡体シート、金属箔、これらの複合体等を用いることができる。樹脂フィルムの例としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等)フィルム、ポリエステルフィルム、塩化ビニル樹脂フィルム、酢酸ビニル樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、フッ素樹脂フィルム、セロハン等が挙げられる。紙の例としては、和紙、クラフト紙、グラシン紙、上質紙、合成紙、トップコート紙等が挙げられる。布の例としては、各種繊維状物質の単独または混紡等による織布や不織布等が挙げられる。上記繊維状物質としては、綿、スフ、マニラ麻、パルプ、レーヨン、アセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維等が例示される。ゴムシートの例としては、天然ゴムシート、ブチルゴムシート等が挙げられる。発泡体シートの例としては、発泡ポリウレタンシート、発泡ポリクロロプレンゴムシート等が挙げられる。金属箔の例としては、アルミニウム箔、銅箔等が挙げられる。
【0021】
ここに開示される技術は、ポリオレフィン、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート(PET))等の樹脂成分を主体とする樹脂シートを支持基材とする表面保護シートに好ましく適用され得る。ここで「樹脂シート」とは、典型的には、上述の樹脂成分を主体とする樹脂組成物を膜状に成形してなる樹脂フィルムであり得る。上記樹脂シートは、典型的には、非多孔質の樹脂フィルムである。また、ここでいう「非多孔質の樹脂フィルム」は、いわゆる不織布とは区別される(すなわち、不織布を含まない)概念である。特に好ましい適用対象として、支持基材を構成する樹脂成分のうちの主成分がポリオレフィン系樹脂である表面保護シートが挙げられる。換言すれば、かかる表面保護シートは、ポリオレフィン系樹脂シートを支持基材とするものである。かかる組成の支持基材は、リサイクル性等の観点からも好ましい。例えば、支持基材全体の50質量%以上がポリエチレン(PE)樹脂またはポリプロピレン(PP)樹脂であるポリオレフィン系樹脂シートを好ましく採用することができる。換言すれば、上記ポリオレフィン系樹脂シートはPE樹脂とPP樹脂との合計量が支持基材全体の50質量%以上を占めるものであり得る。
【0022】
上記ポリオレフィン系樹脂シートとしては、該シートを構成する樹脂成分が主としてPP樹脂である樹脂シート(以下「PP樹脂シート」ともいう。)を好ましく採用することができる。上記ポリオレフィン系樹脂シートは、典型的には、樹脂成分が50質量%を超えてPP樹脂を含む樹脂シートを指し、例えば、樹脂成分の凡そ60質量%以上(より好ましくは凡そ70質量%以上)がPP樹脂である樹脂シートが好ましい。樹脂成分が一種または二種以上のPP樹脂から実質的に構成される樹脂シートであってもよい。すなわち、樹脂成分としてPP樹脂を単独で含む樹脂シート、例えば、PP樹脂以外の樹脂成分の含有割合が全樹脂成分の1質量%未満である樹脂シートであり得る。
【0023】
耐熱性等の観点から、PP樹脂による連続構造(連続相)が形成されている樹脂シートを好ましく採用することができる。このようにPP樹脂の連続構造を有する樹脂シートを支持基材に用いた表面保護シートは、例えば、屋外養生中の温度上昇等の熱履歴によって被着体から表面保護シートが浮く事態の発生を防止しやすいので好ましい。
【0024】
支持基材は、単層構造であってもよく、二層以上の多層構造であってもよい。多層構造の場合、少なくとも一つの層は上記PP樹脂の連続構造を有する層であることが好ましい。上記樹脂成分の残部は、エチレンまたは炭素原子数4以上のα−オレフィンを主モノマーとするオレフィン系ポリマーを主成分とするポリオレフィン樹脂(例えばPE樹脂)であってもよく、ポリオレフィン樹脂以外の樹脂であってもよい。ここに開示される表面保護シートの支持基材として好ましく使用し得る樹脂シートの一例として、樹脂成分が実質的にPP樹脂およびPE樹脂からなるポリオレフィン系樹脂シートが挙げられる。かかるポリオレフィン系樹脂シートは、典型的には、樹脂成分のうちの主成分がPP樹脂であり、残部がPE樹脂であるPP樹脂シートであり得る。
【0025】
上記PP樹脂は、プロピレンを成分とする種々のポリマー(プロピレン系ポリマー)を主成分とするものであり得る。一種または二種以上のプロピレン系ポリマーから実質的に構成されるPP樹脂であってもよい。ここでいうプロピレン系ポリマーの概念には、例えば、以下のようなポリプロピレンが包含される。
プロピレンのホモポリマー(ホモポリプロピレン)。例えばアイソタクチックポリプロピレン。
プロピレンと他のα−オレフィン(典型的には、エチレンおよび炭素原子数4〜10のα−オレフィンから選択される一種または二種以上)とのランダムコポリマー(ランダムポリプロピレン)。好ましくは、プロピレンを主モノマー(主構成単量体、すなわち単量体全体の50質量%以上を占める成分)とするランダムポリプロピレン。例えば、プロピレン96〜99.9モル%と上記他のα−オレフィン(好ましくはエチレンおよび/またはブテン)0.1〜4モル%とをランダム共重合したランダムポリプロピレン。
プロピレンに他のα−オレフィン(典型的には、エチレンおよび炭素原子数4〜10のα−オレフィンから選択される一種または二種以上)をブロック共重合したコポリマー(プロピレンを主モノマーとするものが好ましい。)を含み、典型的には副生成物としてプロピレンおよび上記他のα−オレフィンのうち少なくとも一種を成分とするゴム成分をさらに含むブロックコポリマー(ブロックポリプロピレン)。例えば、プロピレン90〜99.9モル%に上記他のα−オレフィン(好ましくはエチレンおよび/またはブテン)0.1〜10モル%をブロック共重合したポリマーと、副生成物としてプロピレンおよび上記他のα−オレフィンのうち少なくとも一種を成分とするゴム成分をさらに含むブロックポリプロピレン。
【0026】
上記PP樹脂は、このようなプロピレン系ポリマーの一種または二種以上から実質的に構成されるものであってもよく、該プロピレン系ポリマーに多量のゴム成分を共重合させて得られるリアクターブレンドタイプもしくは該ゴム成分を機械的に分散させて得られるドライブレンドタイプの熱可塑性オレフィン樹脂(TPO)や熱可塑性エラストマー(TPE)であってもよい。また、重合性官能基に加えて他の官能基を有するモノマー(官能基含有モノマー)とプロピレンとのコポリマーを含むPP樹脂、かかる官能基含有モノマーをプロピレン系ポリマーに共重合させたPP樹脂等であってもよい。
【0027】
上記PE樹脂は、エチレンを成分とする種々のポリマー(エチレン系ポリマー)を主成分とするものであり得る。一種または二種以上のエチレン系ポリマーから実質的に構成されるPE樹脂であってもよい。上記エチレン系ポリマーは、エチレンのホモポリマーであってもよく、主モノマーとしてのエチレンに、副モノマーとして他のα−オレフィンを共重合(ランダム共重合、ブロック共重合等)させたものであってもよい。上記α−オレフィンの好適例としては、プロピレン、1−ブテン(分岐1−ブテンであり得る。)、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等の、炭素原子数3〜10のα−オレフィンが挙げられる。例えば、上記副モノマーとしてのα−オレフィンが10質量%以下(典型的には5質量%以下)の割合で共重合されたエチレン系ポリマーを主成分とするPE樹脂を好ましく採用し得る。
【0028】
また、重合性官能基に加えて別の官能基を有するモノマー(官能基含有モノマー)とエチレンとのコポリマーを含むPE樹脂、かかる官能基含有モノマーをエチレン系ポリマーに共重合させたPE樹脂等であってもよい。エチレンと官能基含有モノマーとのコポリマーとしては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン−アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、エチレン−(メタ)アクリル酸(すなわち、アクリル酸および/またはメタクリル酸)共重合体が金属イオンで架橋されたもの、等が挙げられる。
【0029】
PE樹脂の密度は特に限定されず、例えば0.9〜0.94g/cm程度であり得る。好ましいPE樹脂として、低密度ポリエチレン(LDPE)および直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が挙げられる。上記PE樹脂は、一種または二種以上のLDPEと、一種または二種以上のLLDPEとを含むものであってもよい。各LDPEまたはLLDPEのブレンド比や、LDPEとLLDPEとのブレンド比は特に限定されず、所望の特性を示すPE樹脂となるように適宜設定することができる。
【0030】
特に限定するものではないが、支持基材を構成する樹脂材料としては、MFR(melt flow rate)が0.5〜80g/10分(例えば0.5〜10g/10分)程度の樹脂材料を好ましく使用することができる。ここでMFRとは、JIS K7210に準拠して、温度230℃、荷重21.18Nの条件でA法により測定して得られる値をいう。上記樹脂材料は、MFRが上記範囲にあるポリオレフィン系樹脂(例えば、PP樹脂、PE樹脂、PP樹脂とPE樹脂とのブレンド樹脂等)であり得る。
【0031】
ここに開示される表面保護シートの基材として用いられる樹脂シート(好ましくはポリオレフィン系樹脂シート)は、遮光性、耐候性、耐熱性、製膜安定性、粘着特性等の要求特性に応じて、当該基材への含有が許容される適宜の成分を必要に応じて含有するものであり得る。例えば、顔料(典型的には無機顔料)、充填材、酸化防止剤、光安定剤(ラジカル捕捉剤、紫外線吸収剤等を包含する意味である。)、スリップ剤、アンチブロッキング剤等の添加剤を適宜配合することができる。顔料または充填材として好ましく使用し得る材料の例として、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム等の無機粉末が挙げられる。無機顔料や充填材の配合量は、該配合により得られる効果の程度や樹脂シートの成形方法(キャスト成形、インフレーション成形等)に応じた基材の成形性等を考慮して、適宜設定することができる。通常は、無機顔料および充填材の配合量(複数種類を配合する場合にはそれらの合計量)を、樹脂成分100質量部に対して凡そ2〜20質量部(より好ましくは凡そ5〜15質量部)程度とすることが好ましい。各添加剤の配合量は、例えば、表面保護シートの支持基材等として用いられる樹脂シートの分野における通常の配合量と同程度とすることができる。
【0032】
上記樹脂シート(好ましくはポリオレフィン系樹脂シート)は、従来公知の一般的なフィルム成形方法を適宜採用して製造することができる。例えば、上記樹脂成分(好ましくは、PP樹脂を単独で含むかまたはPP樹脂を主成分とし副成分としてPE樹脂を含む樹脂成分)と必要に応じて配合される添加剤等とを含む成形材料を押出成形する方法を好ましく採用することができる。
【0033】
図1に示す支持基材(典型的には樹脂シート)1のうち粘着剤層2が設けられる側の面(前面)1Aには、酸処理、コロナ放電処理、紫外線照射処理、プラズマ処理等の表面処理が施されていてもよい。また、支持基材1のうち粘着剤層2が設けられる面とは反対側の面(背面)1Bには、必要に応じて剥離処理が施されていてもよい。かかる剥離処理は、例えば、一般的なシリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系等の剥離処理剤を、典型的には0.01μm〜1μm(例えば0.01μm〜0.1μm)程度の薄膜状に付与する処理であり得る。かかる剥離処理を施すことにより、表面保護シート10をロール状に巻回したものの巻き戻しを容易にする等の効果が得られる。
支持基材の厚みは特に限定されず、目的に応じて適宜選択し得る。通常は、厚みが凡そ300μm以下(例えば凡そ10μm〜200μm)の基材を用いることが適当である。ここに開示される表面保護シートの好ましい一態様では、基材の厚みが凡そ10μm〜100μm(例えば凡そ20μm〜60μm、典型的には凡そ20μm〜50μm)である。
【0034】
[粘着剤層]
<ベースポリマー>
ここに開示される表面保護シートに具備される粘着剤層は、ゴム系ポリマーをベースポリマーとする粘着剤組成物から形成されたゴム系粘着剤層である。ここでベースポリマーとは、典型的には、粘着剤組成物中のポリマー成分のうち最も含有割合の多い成分(ポリマー成分の全部を占める成分であり得る。)であり、通常はポリマー成分の50質量%より多く(例えば70質量%以上)を占める成分である。上記ベースポリマーの例としては、天然ゴム;スチレンブタジエンゴム(SBR);ポリイソプレン;ブテン(1−ブテン、cis−またはtrans−2−ブテン、および2−メチルプロペン(イソブチレン)を包含する意味である。)を主モノマーとするブテン系ポリマー;A−B−A型ブロック共重合体ゴムおよびその水素化物、例えばスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体ゴム(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体ゴム(SIS)、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体ゴム(SIBS)、スチレン−ビニル・イソプレン−スチレンブロック共重合体ゴム(SVIS)、SBSの水素化物であるスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体ゴム(SEBS)、SISの水素化物であるスチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体ゴム(SEPS);等の種々のゴム系ポリマーが挙げられる。上記ブテン系ポリマーの好適例として、イソブチレン系ポリマーが挙げられる。上記イソブチレン系ポリマーの具体例として、ポリイソブチレン、イソブチレンとイソプレンとの共重合体等が例示される。
【0035】
ここに開示される技術は、上記ベースポリマーが非架橋である粘着剤(非架橋タイプの粘着剤)からなる粘着剤層を備えた表面保護シートに好ましく適用され得る。ここで、「非架橋タイプの粘着剤からなる粘着剤層」とは、該粘着剤層を形成する際に、ベースポリマー間に化学結合を形成するための意図的な処理(すなわち架橋処理、例えば架橋剤の配合等)が行われていない粘着剤層をいう。かかる粘着剤層は、実質的に歪が蓄積されない(一時的に歪みが生じたとしても容易に解消し得る)ので被着体表面にストレスを与えにくい等、表面保護シート用の粘着剤層として好適な性質を有する。
【0036】
非架橋タイプの粘着剤としては、上述のようなA−B−A型ブロック共重合体ゴムまたはその水素化物をベースポリマーとする粘着剤、イソブチレン系ポリマーをベースポリマーとする粘着剤等が例示される。なかでも、イソブチレン系ポリマーをベースポリマーとする粘着剤組成物から形成された粘着剤(ポリイソブチレン系粘着剤)からなる粘着剤層が好ましい。かかる粘着剤層は弾性率が高く、表面保護シートのように再剥離される態様で使用される粘着シート用の粘着剤(再剥離型粘着剤)として好適である。また、かかる粘着剤のSP値と被着体表面のSP値との差異は1以上(例えば2以上、典型的には3以上)であることが好ましい。これによって、両者の間で物質移動が生じ難い。
【0037】
ここに開示される表面保護シートの好ましい一態様では、粘着剤に含まれるポリマー成分の50質量%より多く(例えば70質量%以上、さらには85質量%以上)がイソブチレン系ポリマーである。イソブチレン系ポリマー以外のポリマー成分を実質的に含有しない粘着剤であってもよい。かかる粘着剤は、例えば、ポリマー成分のうちイソブチレン系ポリマー以外のポリマーの割合が1質量%以下、あるいは検出限界以下であり得る。
【0038】
なお、本明細書において「イソブチレン系ポリマー」とは、イソブチレンのホモポリマー(ポリイソブチレン)に限定されず、イソブチレンを主モノマーとするコポリマーをも包含する用語である。かかるコポリマーには、上記イソブチレン系ポリマーを構成するモノマーのうち最も多くの割合を占める成分がイソブチレンであるコポリマーが含まれる。典型的には、該モノマーの50質量%より多くを占める成分、さらには70質量%以上を占める成分がイソブチレンであるコポリマーであり得る。上記コポリマーは、例えば、イソブチレンとノルマルブチレンとの共重合体、イソブチレンとイソプレンとの共重合体、これらの加硫物や変性物等であり得る。上記共重合体としては、レギュラーブチルゴム、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴム、部分架橋ブチルゴム等のブチルゴム類が例示される。また、上記加硫物や変性物としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基等の官能基で変性したものが例示される。接着強度の安定性(例えば、経時や熱履歴によって接着強度が過剰に上昇しない性質)の観点から好ましく使用されるイソブチレン系ポリマーとして、ポリイソブチレン、イソブチレンとノルマルブチレンとの共重合体等が挙げられる。かかる共重合体は、例えば、ノルマルブチレンの共重合割合が30モル%未満であるイソブチレン/ノルマルブチレン共重合体であり得る。
ここに開示される技術におけるイソブチレン系ポリマーの好適例として、ポリイソブチレンが挙げられる。本明細書において「ポリイソブチレン」とは、イソブチレン以外のモノマーの共重合割合が10質量%以下(好ましくは5質量%以下)であるポリイソブチレンをいうものとする。なかでもホモポリイソブチレンが好ましい。
【0039】
上記イソブチレン系ポリマー(典型的にはポリイソブチレン)の分子量は特に制限されず、例えば重量平均分子量(Mw)が凡そ10×10〜150×10のものを適宜選択して使用することができる。互いにMwの異なる複数のイソブチレン系ポリマーを組み合わせて使用してもよい。ベースポリマーとして用いられるイソブチレン系ポリマー全体のMwは、凡そ20×10〜150×10(より好ましくは凡そ30×10〜100×10)の範囲にあることが好ましい。
また、上記イソブチレン系ポリマー(典型的にはポリイソブチレン)の数平均分子量(Mn)は、凡そ10×10〜40×10であり得る。互いにMnの異なる複数のイソブチレン系ポリマーを組み合わせて使用してもよい。ベースポリマーとして用いられるイソブチレン系ポリマー全体のMnは、凡そ10×10〜40×10(より好ましくは凡そ12×10〜30×10)の範囲にあることが好ましい。
MwまたはMnが上記範囲よりも大きすぎると、粘着剤の溶液粘度が高くなりすぎて、粘着剤液のハンドリング性(例えば塗工安定性)が低下傾向となり得る。MwまたはMnが上記範囲よりも小さすぎると、粘着剤の凝集力が不足しがちとなり、厳しい条件で使用された場合(例えば、研磨補修面に貼り付けられた場合)に糊残りを生じやすくなる場合があり得る。
【0040】
上記イソブチレン系ポリマーの一部または全部は、より高分子量のイソブチレン系ポリマーをシャク解処理することにより低分子量化(好ましくは、上述した好ましい質量平均分子量となるように低分子量化)してなるイソブチレン系ポリマー(シャク解処理体)であってもよい。上記シャク解処理は、シャク解処理前の凡そ10%〜80%のMwを有するイソブチレン系ポリマーが得られるように行うことが好ましい。また、数平均分子量(Mn)が凡そ10×10〜40×10のイソブチレン系ポリマーが得られるように行うことが好ましい。かかるシャク解処理は、例えば、特許第3878700号公報の記載等に基づいて実施することができる。
【0041】
なお、ここでイソブチレン系ポリマーのMwおよびMnとは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定に基づいて求められる、ポリスチレン換算の値をいう。GPC測定装置としては、例えば、東ソー(TOSOH)社製、型式「HLC−8120GPC」を使用することができる。具体的には、後述する実施例に記載の方法でGPC測定を行うことにより、粘着剤のMwおよびMnを求めることができる。
【0042】
粘着剤のベースポリマー(例えばイソブチレン系ポリマー、典型的にはポリイソブチレン)としては、互いに分子量分布の異なる二種以上のポリマーが配合されていることが好ましい。ここで分子量分布が異なるとは、GPC測定における溶出ピークの位置および/または形状が異なることをいう。かかる組成の粘着剤によると、上記二種以上のポリマーの選択およびそれらの配合割合によって、粘着剤のMwおよびMnを所定範囲としつつ、該粘着剤の分散度(Mw/Mn)および粘度の少なくとも一方(好ましくは両方)をここに開示される好ましい範囲に容易に調整することができる。ベースポリマーとして、互いにMwの異なる二種以上のポリマーが配合されていることが特に好ましい。Mwの異なる二種以上のポリマーが配合されていることは、例えば、GPC測定において頂点の位置の異なる二つ以上の溶出ピークを有する(すなわち、バイモーダル(二峰性)またはそれ以上の)分子量分布がみられることにより把握され得る。なお、上記二種以上のポリマーの各々は、典型的にはユニモーダルな(単峰性の)分子量分布を示す。
【0043】
上記Mwの異なる二種以上のポリマーとしては、例えば、Mwが1×10〜130×10の範囲にあるポリマーを適宜組み合わせて使用することができる。上記二種以上のポリマーは、最も高分子量のポリマーと最も低分子量のポリマーとでMwが5倍以上(例えば5〜20倍、典型的には8〜12倍程度)異なるように組み合わせることが好ましい。各ポリマーの分散度(Mw/Mn)は、例えば1.5以上(より好ましくは2以上、例えば2〜5)であることが好ましい。
【0044】
好ましい一態様では、ベースポリマーとして、Mwが70×10〜130×10(好ましくは70×10〜120×10、例えば70×10〜100×10)の範囲にある少なくとも一種の高分子量ポリマーPと、Mwが3×10〜20×10(典型的には4×10〜10×10)の範囲にある少なくとも一種の低分子量ポリマーPとを組み合わせて使用する。上記高分子量ポリマーPとしては、分散度(Mw/Mn)2〜5のものを好ましく使用することができる。上記低分子量ポリマーPとしては、分散度(Mw/Mn)1.5〜3.5のものを好ましく使用することができる。MwがPとPとの間にあるポリマーがさらに配合されたベースポリマーであってもよい。PとPとの合計量がベースポリマー全体の70質量%以上(例えば80質量%以上、典型的には90質量%以上)であることが好ましい。ベースポリマーが実質的にPとPとからなる粘着剤であってもよい。
【0045】
上記二種以上のポリマーの配合比は、ここに開示される好ましい分子量分布(MwおよびMn、好ましくはさらに分散度(Mw/Mn))または粘度が実現されるように適宜設定することができる。例えば、PとPとの質量比(P/P)を95/5〜50/50(例えば95/5〜70/30、典型的には90/10〜75/25)とすることが好ましい。より高い糊残り防止性を実現するためには、Pがベースポリマー全体の60質量%以上(典型的には60〜95質量%、例えば70〜95質量%)を占める組成とすることが好ましい。好ましい一態様では、P,Pがいずれもイソブチレン系ポリマー(典型的にはポリイソブチレン)である。
【0046】
好ましい一態様では、上述のベースポリマー全体としての分散度(Mw/Mn)は3.5以上であり、より好ましくは5以上である。かかるベースポリマーを含む粘着剤を備えた表面保護シートによると、より高レベルの糊残り防止性が実現され得る。また、一般にベースポリマーのMwが大きくなると該粘着剤の溶液粘度は上昇する傾向にあるところ、上記のように分散度を所定値以上とすることにより、Mwの割に溶液粘度の低い粘着剤とすることができる。このことは、粘着剤組成物のハンドリング性(例えば、粘着剤組成物の調製、送液、塗工等の際におけるハンドリングしやすさ)の観点から有利である。ベースポリマー全体の分散度は、5以上であってもよく、5.5以上、さらには6以上であってもよい。ベースポリマー全体の分散度の上限は特に限定されないが、通常は7.5以下(例えば7以下)であることが好ましい。
【0047】
<粘着付与樹脂>
上記粘着剤は、必要に応じて粘着付与樹脂を含むことができる。好ましく使用し得る粘着付与樹脂の例として、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油樹脂、フェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、キシレン樹脂、クマロンインデン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、それらの水素添加物等が挙げられる。このような粘着付与樹脂は、一種を単独で、あるいは二種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0048】
上記「ロジン系樹脂」の例としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の未変性ロジン(生ロジン);これらの未変性ロジンを水素化(水添)、不均化、重合等により変性した変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、その他の化学的に修飾されたロジン等);各種のロジン誘導体;等が挙げられる。
【0049】
上記「ロジン誘導体」の例としては、未変性ロジンをアルコールによりエステル化したもの(すなわち、ロジンのエステル化物)、変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)をアルコールによりエステル化したもの(すなわち、変性ロジンのエステル化物)等のロジンエステル;未変性ロジンや変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジン;ロジンエステルを不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジンエステル;未変性ロジン、変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)、不飽和脂肪酸変性ロジンまたは不飽和脂肪酸変性ロジンエステルにおけるカルボキシル基を還元処理したロジンアルコール;未変性ロジン、変性ロジン、各種ロジン誘導体等のロジン(特にロジンエステル)の金属塩;ロジン(未変性ロジン、変性ロジン、各種ロジン誘導体等)にフェノールを酸触媒で付加させ熱重合することにより得られるロジンフェノール樹脂;等が挙げられる。
【0050】
上記「テルペン系樹脂」の例としては、α−ピネン重合体、β−ピネン重合体、ジペンテン重合体等のテルペン樹脂(以下、後述する変性テルペン樹脂との区別を明確にするために「未変性テルペン樹脂」ということもある。);テルペンまたはテルペン樹脂を変性(フェノール変性、スチレン変性、水素添加変性、炭化水素変性等)した変性テルペン樹脂;等が挙げられる。上記変性テルペン樹脂の例としては、テルペンフェノール樹脂、スチレン変性テルペン樹脂、水素添加テルペン樹脂等が挙げられる。
【0051】
上記「テルペンフェノール樹脂」とは、テルペン残基およびフェノール残基を含むポリマーを指し、テルペンとフェノール化合物との共重合体(テルペン−フェノール共重合体樹脂)と、テルペンの単独重合体または共重合体(テルペン樹脂、典型的には未変性テルペン樹脂)をフェノール変性したもの(フェノール変性テルペン樹脂)との双方を包含する概念である。上記テルペンフェノール樹脂におけるテルペンの好適例としては、α−ピネン、β−ピネン、リモネン(d体、l体およびd/l体(ジペンテン)を包含する。)等のモノテルペンが挙げられる。
【0052】
<軟化点120℃以上の粘着付与樹脂(T)>
ここに開示される技術における粘着剤は、上記粘着付与樹脂として、軟化点が120℃以上の粘着付与樹脂(T)を含有する。かかる組成の粘着剤によると、初期密着性と非汚染性とをより高レベルで両立させた表面保護シートが実現され得る。軟化点125℃以上(より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは140℃以上)の粘着付与樹脂(T)によると、より高い効果が達成され得る。粘着付与樹脂(T)の軟化点の上限は特に限定されない。入手容易性やコスト等の観点から、軟化点200℃以下(典型的には120℃〜200℃)、さらには180℃以下(例えば140℃〜180℃)の粘着付与樹脂(T)を好ましく採用し得る。ここに開示される技術は、例えば、上記粘着剤が軟化点150℃以上(例えば150℃〜200℃、より好ましくは150℃〜180℃)の粘着付与樹脂(T)を含む態様で好ましく実施され得る。
【0053】
粘着付与樹脂(T)としては、上述のような各種粘着付与樹脂のうち、所望の軟化点を有するものを適宜採用することができる。粘着付与樹脂(T)は、一種を単独で、あるいは二種以上を適宜組み合わせて用いることができる。例えば、水添ロジン、ロジンエステル等のロジン系樹脂や、テルペンフェノール樹脂等のテルペン系樹脂等を、粘着付与樹脂(T)として用いることができる。好ましい一態様では、粘着付与樹脂(T)としてロジンエステル(未変性ロジンのエステル化物、重合ロジンのエステル化物、不均化ロジンのエステル化物、水添ロジンのエステル化物等であり得る。)を使用する。かかる粘着付与樹脂(T)によると、初期密着性と非汚染性とをより高レベルで両立させた表面保護シートが実現され得る。
【0054】
粘着付与樹脂(T)としては、酸価が50mgKOH/g以下(例えば40mgKOH/g以下、典型的には30mgKOH/g以下)のものを好ましく採用し得る。かかる粘着付与樹脂(T)の使用は、表面保護シートの耐候性の観点から有利である。通常は、酸価が5mgKOH/g以上(例えば5〜50mgKOH/g)の粘着付与樹脂(T)を用いることが好ましい。かかる粘着付与樹脂(T)によると、剥離強度の上昇がよりよく抑制され得る。
【0055】
ここで、粘着付与樹脂の酸価とは、以下の方法で測定される値を指すものとする。中和滴定には、例えば、平沼(HIRANUMA)社製の滴定装置、型式「COMTITE−550」を用いることができる。
[酸価(AV)]
トルエンとイソプロピルアルコールと蒸留水とを50:49.5:0.5の質量比で含む混合溶媒を調製する。測定対象の粘着付与樹脂約0.5g(固形分基準)を精密に秤量し、上記混合溶媒50gに溶解して滴定用サンプル溶液を調製する。そのサンプル溶液を0.1規定のKOH水溶液により中和滴定する。得られた結果から、以下の式(I)により粘着付与樹脂の酸価を算出する。
酸価[mgKOH/g]=(a−b)×5.611×F/S (I)
ただし、
a:サンプル溶液の滴定に要したKOH水溶液の量[mL]
b:ブランク(混合溶媒)の滴定に要したKOH水溶液の量[mL]
F:KOH水溶液の力価
S:滴定に供したサンプル溶液に含まれる粘着付与樹脂の質量[g]
【0056】
ここに開示される粘着剤における粘着付与樹脂(T)の含有量は、ベースポリマー100質量部に対して1.0質量部以下(すなわち、0質量部より多く1.0質量部以下、典型的には0.01〜1.0質量部)とすることが適当である。本発明者らの知見によれば、高軟化点の粘着付与樹脂(T)は、より低軟化点(典型的には軟化点120℃未満)の粘着付与樹脂に比べて、より少ない使用量で初期密着性を効果的に改善することができる。換言すれば、高軟化点の粘着付与樹脂(T)によると、より低軟化点の粘着付与樹脂に比べて、所望の初期密着性を実現し得る粘着付与樹脂の使用量を少なくすることができる。粘着付与樹脂の使用量を少なくし得ることは、被着体表面の非汚染性の観点から有利である。したがって、ベースポリマー100質量部に対して1.0質量部以下の割合で粘着付与樹脂(T)を含む上記構成の粘着剤によると、初期密着性と非汚染性とをより高レベルで両立させた表面保護シートが実現され得る。ベースポリマー100質量部に対する粘着付与樹脂(T)の使用量は0.8質量部以下としてもよく、0.6質量部以下(例えば0.01〜0.6質量部)としてもよい。ここに開示される技術は、ベースポリマー100質量部に対する粘着付与樹脂(T)の使用量が0.5質量部未満(例えば0.3質量部以下、さらには0.2質量部以下)である態様で好ましく実施され得る。粘着付与樹脂(T)の含有量の下限は、粘着付与樹脂(T)の作用を好適に発現させる観点から、ベースポリマー100質量部に対して0.05質量部以上(例えば0.1質量部以上)とすることが好ましい。
【0057】
<軟化点120℃未満の粘着付与樹脂(T)>
上記粘着剤は、軟化点120℃未満の粘着付与樹脂(T)を含み得る。ここに開示される技術は、上記粘着剤が上記粘着付与樹脂(T)に加えて粘着付与樹脂(T)を含む態様で好ましく実施され得る。粘着付与樹脂(T)と粘着付与樹脂(T)とを組み合わせて含む上記態様によると、初期密着性および非汚染性がいずれも良好であり、かつ被着体表面への糊残り防止性に優れた表面保護シートが実現され得る。粘着付与樹脂(T)としては、軟化点が60℃以上(典型的には60℃〜110℃)のものを好ましく採用し得る。好ましい一態様では、軟化点が60℃〜100℃(例えば70℃〜100℃)の粘着付与樹脂(T)を使用する。かかる粘着付与樹脂(T)によると、より高い効果が実現され得る。
【0058】
粘着付与樹脂(T)としては、上述のような各種粘着付与樹脂のうち、所望の軟化点を有するものを適宜採用することができる。粘着付与樹脂(T)は、一種を単独で、あるいは二種以上を適宜組み合わせて用いることができる。例えば、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂等を、粘着付与樹脂(T)として用いることができる。
【0059】
粘着付与樹脂(T)としては、粘着付与樹脂(T)の軟化点との差(T−T)が10℃以上であるものを好ましく採用することができる。上記軟化点の差(T−T)が15℃以上であることがより好ましく、20℃以上(例えば30℃以上)であることがより好ましい。好ましい一態様では、上記軟化点の差(T−T)が40℃以上の粘着付与樹脂(T)を使用する。
【0060】
なお、本明細書において、粘着付与樹脂の軟化点は、JIS K 5902およびJIS K 2207に規定する軟化点試験方法(環球法)に基づいて測定された値として定義される。具体的には、試料をできるだけ低温ですみやかに融解し、これを平らな金属板の上に置いた環の中に、泡ができないように注意して満たす。冷えたのち、少し加熱した小刀で環の上端を含む平面から盛り上がった部分を切り去る。次に、径85mm以上、高さ127mm以上のガラス容器(加熱浴)の中に支持器(環台)を入れ、グリセリンを深さ90mm以上となるまで注ぐ。次に、鋼球(径9.5mm、重量3.5g)と、試料を満たした環とを互いに接触しないようにしてグリセリン中に浸し、グリセリンの温度を20℃±5℃に15分間保つ。次に、環中の試料の表面の中央に鋼球をのせ、これを支持器の上の定位置に置く。次に、環の上端からグリセリン面までの距離を50mmに保ち、温度計を置き、温度計の水銀球の中心の位置を環の中心と同じ高さとし、容器を加熱する。加熱に用いるブンゼンバーナーの炎は、容器の底の中心と縁との中間にあたるようにし、加熱を均等にする。なお、加熱が始まってから40℃に達したのちの浴温の上昇する割合は、毎分5.0±0.5℃でなければならない。試料がしだいに軟化して環から流れ落ち、ついに底板に接触したときの温度を読み、これを軟化点とする。軟化点の測定は、同時に2個以上行い、その平均値を採用する。
なお、軟化点100℃以下の粘着付与樹脂については、上記軟化点試験方法において、グリセリンの代わりに水を用いてもよい。
【0061】
粘着付与樹脂(T)の重量平均分子量(Mw)は、300以上(より好ましくは400以上、さらに好ましくは500以上、例えば1000以上)とすることが好ましい。また、Mwは3×10以下(より好ましくは0.5×10以下)とすることが好ましい。これによって、被着体への良好な粘着力が得られる。
【0062】
上記粘着剤が粘着付与樹脂(T)を含む場合において、その含有量は、ベースポリマー100質量部当たり、通常は15質量部以下(例えば5質量部以下)とすることが適当である。非汚染性の観点からは、粘着付与樹脂(T)の含有量をベースポリマー100質量部に対して5質量部以下(さらには3質量部以下)とすることが有利である。ここに開示される技術は、上記粘着剤における粘着付与樹脂(T)の含有量がベースポリマー100質量部に対して1.0質量部以下(より好ましくは0.8質量部以下、例えば0.5質量部以下)である態様で好ましく実施され得る。また、粘着付与樹脂(T)の含有量の下限は、粘着付与樹脂(T)の作用を好適に発現させる観点から、ベースポリマー100質量部に対して0.05質量部以上(例えば0.1質量部以上、典型的には0.2質量部以上)とすることが好ましい。
【0063】
ここに開示される技術は、低軟化点の粘着付与樹脂(T)の含有量が高軟化点の粘着付与樹脂(T)と同等以上である態様で好ましく実施することができる。例えば、粘着付与樹脂(T)の含有量に対する粘着付与樹脂(T)の含有量の質量比(T/T)が1.0以上であることが好ましい(すなわち(T/T)≧1.0)。質量比(T/T)が1.25以上(典型的には1.25〜5.0)であることが好ましく、より好ましくは1.5以上(1.5〜5.0)である。かかる組成の粘着剤によると、より糊残り防止性の良い表面保護シートが実現され得る。質量比(T/T)の上限は特に限定されないが、粘着付与樹脂(T)と粘着付与樹脂(T)とを併用することによる効果をよりよく発揮させるという観点から、通常は質量比(T/T)を30以下とすることが適当であり、10.0以下(典型的には5.0以下)とすることが好ましい。
【0064】
上記粘着剤における高軟化点の粘着付与樹脂(T)と低軟化点の粘着付与樹脂(T)との合計含有量(すなわち、該粘着剤に含まれる全粘着付与樹脂の量)は、ベースポリマー100質量部に対して、例えば10質量部以下とすることができ、通常は5質量部以下(例えば3質量部以下)とすることが適当である。ここに開示される技術は、上記粘着剤における全粘着付与樹脂の含有量が1.0質量部以下(例えば0.5質量部以下)である態様で好ましく実施することができる。上記合計含有量を0.5質量部未満とすることがより好ましい。かかる態様によると、良好な初期密着性および実用に適した非汚染性に加えて、より良好な糊残り防止性を示す表面保護シートが実現され得る。
【0065】
ここに開示される技術において、上記粘着剤に含まれる全粘着付与樹脂の量に占める高軟化点の粘着付与樹脂(T)の量の割合は、例えば20質量%以上とすることができ、30質量%以上であってもよい。
また、全粘着付与樹脂に占める低軟化点の粘着付与樹脂(T)の割合(すなわち、(T)/(T+T)の割合)は50質量%以上とすることが適当であり、60質量%以上(典型的には60質量%〜90質量%、例えば70質量%〜85質量%)とすることが好ましい。かかる組成の粘着剤によると、粘着付与樹脂(T)と粘着付与樹脂(T)とを併用することによる効果がよりよく発揮され得る。
【0066】
<SP値8.5以上の粘着付与樹脂(Ths)>
ここに開示される技術の好ましい一態様として、上記粘着剤がSP値8.5(単位[(cal/cm1/2]。以下同じ。)以上の粘着付与樹脂(Ths)を含む態様が挙げられる。粘着付与樹脂(Ths)としては、例えば、SP値が8.5〜15の範囲にあるものを好ましく採用し得る。例えば、かかるSP値を有するフェノール系化合物、アミン系化合物、ロジン系樹脂(例えば未変性ロジン)等を、ここに開示される技術における粘着付与樹脂(Ths)として用いることができる。粘着付与樹脂(Ths)は、一種を単独で、あるいは二種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0067】
ここでSP値とは、化合物の溶解性を示すものであって、フェドーズ(Fedors)が提案した方法で化合物の基本構造から計算される値である。具体的には、25℃における各原子または原子団の蒸発エネルギーΔe(cal)と、同温度における各原子または原子団のモル容積Δv(cm)とから、以下の式にしたがってSP値が計算される。
SP値(δ)=(ΣΔe/ΣΔv)1/2
(参考文献:山本秀樹著、「SP値 基礎・応用と計算方法」、第4刷、株式会社情報機構出版、2006年4月3日発行、第66〜67頁)。
【0068】
かかる粘着付与樹脂(Ths)によると、少量の添加によって粘着特性(例えば、難接着性の被着体表面に対する粘着力)を効果的に向上させることができる。したがって、ここに開示される技術は、上記粘着剤における粘着付与樹脂(Ths)の含有量が、ベースポリマー100質量部当たり例えば0.01〜5質量部(好ましくは0.01〜1.0質量部)である態様で好ましく実施され得る。ここで、難接着性の被着体表面とは、例えば、表面に対するn−ヘキサデカンの接触角が15度以上である表面をいう。上記接触角は、被着体表面を水平に保持し、その表面上に23℃、65%RHの雰囲気下で約2μLのn−ヘキサデカンの液滴を滴下し、液滴端部の接線と該表面とのなす角度を液滴の滴下から1分以内に測定することにより得られる。
【0069】
上記SP値を有する粘着付与樹脂(Ths)は、非架橋のゴム系ポリマー(典型的にはイソブチレン系ポリマー、例えばポリイソブチレン)をベースポリマーとする粘着剤に添加されて、該粘着剤と被着体との界面付近に偏在する特異な相溶状態を形成することで、該被着体への粘着力向上に寄与するものと考えられる。かかる場合、被着体表面のSP値は、ベースポリマーのSP値より高い(典型的には1以上高い、例えば2以上高い)ものであり得る。例えば、上記SP値は8.5〜15(例えば9.5〜15)の範囲であり得る。上記相溶状態の形成性および粘着力向上性等の観点から、通常は、重量平均分子量(Mw)300以上(より好ましくは400以上、さらに好ましくは500以上、例えば1000以上)の粘着付与樹脂(Ths)を用いることが好ましい。また、Mwが3×10以下(より好ましくは0.5×10以下)の粘着付与樹脂(Ths)が好ましい。
【0070】
粘着付与樹脂(Ths)として使用し得るフェノール系化合物の好適例として、フェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、ロジン変性フェノール系樹脂およびテルペン変性フェノール樹脂が挙げられる。アルキルフェノール樹脂としては、例えば、tert−ブチルフェノール樹脂、tert−アミルフェノール樹脂、tert−オクチルフェノール樹脂のように、炭素原子数が3以上のアルキル基(典型的には、炭素原子数が3〜18、例えば5〜12のアルキル基)を側鎖に有するものを好ましく採用し得る。
ここに開示される技術における粘着剤に用いられる粘着付与樹脂(Ths)の一好適例として、SP値9.5以上(典型的には9.5〜15、例えば10〜15)のフェノール系化合物が挙げられる。かかるフェノール系化合物として、住友デュレズ社製の商品名「デュレズ(Durez)19900」が例示される。
なお、粘着付与樹脂(Ths)は、典型的には、これを含有する系中の光劣化反応における紫外線の吸収や、ラジカルのトラップや安定化を目的としない材料である。したがって、一般に酸化防止剤や光安定剤として用いられる材料は、ここでいう粘着付与樹脂(Ths)とは区別される。
【0071】
上記粘着付与樹脂(Ths)の軟化点は、120℃以上であってもよく、120℃未満であってもよい。すなわち、粘着付与樹脂(Ths)は、例えば、粘着付与樹脂(T)に該当するものであってもよく、粘着付与樹脂(T)に該当するものであってもよい。非汚染性等の観点から、例えば、軟化点40℃以上(より好ましくは60℃以上)の粘着付与樹脂(Ths)を好ましく採用し得る。
【0072】
上記粘着剤が高SP値の粘着付与樹脂(Ths)を含む場合において、その含有量は、ベースポリマー100質量部当たり、通常は5質量部以下(例えば2.5質量部以下)とすることが適当である。非汚染性の観点からは、粘着付与樹脂(Ths)の含有量をベースポリマー100質量部に対して1.0質量部以下(典型的には0.01〜1.0質量部)とすることが有利である。ここに開示される技術は、上記粘着剤における粘着付与樹脂(Ths)の含有量がベースポリマー100質量部に対して0.8質量部以下(より好ましくは0.5質量部以下、例えば0.01〜0.4質量部)である態様で好ましく実施され得る。また、粘着付与樹脂(Ths)の含有量の下限は、粘着付与樹脂(Ths)の作用を好適に発現させる観点から、ベースポリマー100質量部に対して0.05質量部以上(例えば0.1質量部以上、典型的には0.2質量部以上)とすることが好ましい。
【0073】
ここに開示される技術は、上記粘着剤における高SP値の粘着付与樹脂(Ths)の含有量が高軟化点の粘着付与樹脂(T)の含有量と同等またはそれ以上である態様で好ましく実施することができる。例えば、粘着付与樹脂(T)の含有量に対する粘着付与樹脂(Ths)の含有量の質量比(Ths/T)が1.0以上であることが好ましい(すなわち(Ths/T)≧1.0)。質量比(Ths/T)が1.25以上(典型的には1.25〜5.0)であることが好ましく、より好ましくは1.5以上(1.5〜5.0)である。かかる組成の粘着剤によると、剥離強度の上昇防止性、初期密着性、非汚染性および糊残り防止性を高レベルでバランスさせた表面保護シートが実現され得る。質量比(Ths/T)の上限は特に限定されないが、粘着付与樹脂(T)と粘着付与樹脂(Ths)とを併用することによる効果をよりよく発揮させるという観点から、通常は質量比(Ths/T)を30以下とすることが適当であり、10.0以下(典型的には5.0以下)とすることが好ましい。
【0074】
<粘着付与樹脂(T)と(ThsL)との組合せ>
ここに開示される技術は、上記粘着剤が、SP値8.5以上かつ軟化点120℃未満の粘着付与樹脂(Ths)(すなわち、粘着付与樹脂(T)に該当する粘着付与樹脂(Ths);以下「粘着付与樹脂(ThsL)」と表記することもある。)を含む態様で好ましく実施され得る。粘着付与樹脂(T)に加えて粘着付与樹脂(ThsL)を含む組成の粘着剤によると、貼付後の経時や熱履歴による剥離強度の上昇が少なく(すなわち、剥離強度の上昇防止性に優れ)、かつ初期密着性の良い表面保護シートが実現され得る。
【0075】
ここに開示される技術を限定する意図ではないが、このように高軟化点の粘着付与樹脂(T)と高SP値かつ低軟化点の粘着付与樹脂(ThsL)とを組み合わせて含有させることにより初期密着性の向上と剥離強度の上昇防止とを同時に達成し得る理由は、例えば以下のように考えられる。すなわち、被着体(保護対象物)に貼り付けられる前の表面保護シートは、通常、その粘着面に剥離面(剥離ライナーの表面、表面保護シートの背面等であり得る。)が貼り合わされて該粘着面が保護された状態にある。通常、上記剥離面は低極性の表面(例えば、シリコーン系剥離剤により剥離処理された表面、ポリエチレン等のポリオレフィン製の表面等)であり、被着体の表面は上記剥離面に比べて高極性である。このため、上記剥離面から表面保護シートの粘着面を剥がして被着体に貼り付けると、粘着剤層に含まれる高SPかつ低軟化点の粘着付与樹脂(ThsL)が粘着面と被着体との界面に集まろうとする。その結果、被着体に貼り付けてからある程度の時間が経過すると、粘着面と被着体との界面付近の粘着剤は、該界面に集まった粘着付与樹脂(ThsL)の影響により、貼付直後に比べて柔らかくなる。このことが、貼付直後における特性(例えば初期密着性)と、経時後の特性(剥離強度の上昇抑制、糊残りの防止等)との高レベルでの両立に寄与しているものと考えられる。
【0076】
かかる効果は、高軟化点の粘着付与樹脂(T)が低SP(例えば8.5未満)である場合にも、該粘着付与樹脂(T)が高SP(例えば8.5以上)である場合にも実現され得る。一般に高軟化点の粘着付与樹脂は低軟化点の粘着付与樹脂に比べて移動しにくいため、高SPの高軟化点粘着付与樹脂(T)を含む場合にも、高SPかつ低軟化点の粘着付与樹脂(ThsL)のほうが上記界面に集まりやすく、該界面付近の粘着剤を効果的に柔らかくすることができる。通常は、粘着付与樹脂(ThsL)と粘着付与樹脂(T)とのSP値の差((ThsL)−(T))が0より大であることが好ましく、0.5以上(例えば1以上)であることがより好ましい。
【0077】
上記界面への粘着付与樹脂(ThsL)の移動しやすさの観点から、Mwが4000以下(より好ましくは3000以下、例えば2000以下)の粘着付与樹脂(ThsL)を好ましく採用することができる。好ましい一態様では、Mwが500〜3000(例えば1000〜2000)の粘着付与樹脂(ThsL)を使用する。例えば、かかるMwを有するアルキルフェノール樹脂(例えば、SP値が10〜15であって炭素原子数3以上のアルキル基を側鎖に有するアルキルフェノール樹脂)を好ましく採用することができる。
【0078】
粘着付与樹脂(ThsL)としては、粘着付与樹脂(T)の軟化点との差(T−ThsL)が15℃以上であるものを好ましく採用することができる。上記軟化点の差(T−ThsL)が20℃以上(例えば30℃以上)であることがより好ましい。好ましい一態様では、上記軟化点の差(T−ThsL)が40℃以上の粘着付与樹脂(ThsL)を使用する。
【0079】
上記粘着剤が低軟化点かつ高SP値の粘着付与樹脂(ThsL)を含む場合において、その含有量は、ベースポリマー100質量部当たり、通常は5質量部以下(例えば2.5質量部以下)とすることが適当である。非汚染性の観点からは、粘着付与樹脂(ThsL)の含有量をベースポリマー100質量部に対して1.0質量部以下(典型的には0.01〜1.0質量部)とすることが有利である。ここに開示される技術は、上記粘着剤における粘着付与樹脂(ThsL)の含有量がベースポリマー100質量部に対して0.8質量部以下(より好ましくは0.5質量部以下、例えば0.01〜0.4質量部)である態様で好ましく実施され得る。また、粘着付与樹脂(ThsL)の含有量の下限は、粘着付与樹脂(ThsL)の作用を好適に発現させる観点から、ベースポリマー100質量部に対して0.05質量部以上(例えば0.1質量部以上、典型的には0.2質量部以上)とすることが好ましい。
【0080】
ここに開示される技術は、上記粘着剤における低軟化点かつ高SP値の粘着付与樹脂(ThsL)の含有量が高軟化点の粘着付与樹脂(T)の含有量と同等またはそれ以上である態様で好ましく実施することができる。例えば、粘着付与樹脂(T)の含有量に対する粘着付与樹脂(ThsL)の含有量の質量比(ThsL/T)が1.0以上であることが好ましい(すなわち(ThsL/T)≧1.0)。質量比(ThsL/T)が1.25以上(典型的には1.25〜5.0)であることが好ましく、より好ましくは1.5以上(1.5〜5.0)である。かかる組成の粘着剤によると、剥離強度の上昇防止性、初期密着性、非汚染性および糊残り防止性を高レベルでバランスさせた表面保護シートが実現され得る。質量比(ThsL/T)の上限は特に限定されないが、粘着付与樹脂(T)と粘着付与樹脂(ThsL)とを併用することによる効果をよりよく発揮させるという観点から、通常は質量比(ThsL/T)を30以下とすることが適当であり、10.0以下(典型的には5.0以下)とすることが好ましい。
【0081】
ここに開示される技術は、上記粘着剤に含まれる全粘着付与樹脂の量に占める低軟化点かつ高SP値の粘着付与樹脂(ThsL)の量の割合が50質量%以上(例えば、50質量%〜90質量%)である態様で好ましく実施され得る。例えば、全粘着付与樹脂の量に占める粘着付与樹脂(ThsL)の量の割合が60質量%(典型的には60質量%〜90質量%、例えば70質量%〜85質量%)である態様が好ましい。かかる組成の粘着剤によると、剥離強度の上昇防止性、初期密着性、非汚染性および糊残り防止性を高レベルでバランスさせた表面保護シートが実現され得る。
【0082】
上記粘着剤が粘着付与樹脂(T)と粘着付与樹脂(ThsL)とを含む場合において、該粘着剤に含まれる粘着付与樹脂(T)と粘着付与樹脂(ThsL)との合計量は、ベースポリマー100質量部に対して、例えば3質量部以下とすることができ、1.0質量部以下(例えば0.5質量部以下)とすることが好ましく、0.5質量部未満とすることがより好ましい。かかる粘着剤によると、初期密着性、非汚染性および糊残り防止性をより高レベルでバランスよく実現する表面保護シートが提供され得る。
【0083】
<その他の添加剤>
ここに開示される表面保護シートに用いられる粘着剤は、上記ベースポリマー、粘着付与樹脂(T)および粘着付与樹脂(T)、必要に応じて用いられる(Ths)のほかに、当該粘着剤への含有が許容される適宜の成分(添加剤)を必要に応じて配合したものであり得る。かかる添加剤の例として、軟化剤、剥離助剤、顔料、充填材、酸化防止剤、光安定剤(ラジカル捕捉剤、紫外線吸収剤等を包含する意味である。)等が挙げられる。軟化剤の例としては、低分子量のゴム系材料、プロセスオイル(典型的にはパラフィン系オイル)、石油系軟化剤、エポキシ系化合物等が挙げられる。剥離助剤の例としては、シリコーン系剥離助剤、パラフィン系剥離助剤、ポリエチレンワックス、アクリル系重合体等が挙げられる。剥離助剤を使用する場合の配合量は、ベースポリマー100質量部に対して例えば凡そ0.01〜5質量部とすることができる。あるいは、かかる剥離助剤を添加しない組成の粘着剤であってもよい。顔料または充填材の例としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、シリカ等の無機粉末が挙げられる。
【0084】
このような添加剤は、それぞれ、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。各添加剤の配合量は、例えば、表面保護シート用粘着剤の分野における通常の配合量と同程度とすることができる。上記粘着付与樹脂および添加剤の合計量は、ベースポリマー100質量部当たり30質量部以下(より好ましくは15質量部以下、例えば5質量部以下)とすることが好ましい。
【0085】
<形成方法、構成および特性>
粘着剤層の形成は、公知の粘着シートにおける粘着剤層形成方法に準じて行うことができる。例えば、ポリマー成分と必要に応じて配合される添加剤とを含む粘着層形成材料が適当な溶媒に溶解または分散した粘着剤組成物を、支持基材に直接付与(典型的には塗付)して乾燥させることにより粘着剤層を形成する方法(直接法)を好ましく採用することができる。また、上記粘着剤組成物を剥離性のよい表面(例えば、剥離ライナーの表面、離型処理された支持基材背面等)に付与して乾燥させることにより該表面上に粘着剤層を形成し、その粘着剤層を支持基材に転写する方法(転写法)を採用してもよい。粘着剤組成物の塗付は、例えば、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等の、公知ないし慣用のコーターを用いて行うことができる。架橋反応の促進、製造効率向上等の観点から、粘着剤組成物の乾燥は加熱下で行うことが好ましい。通常は、例えば凡そ40℃〜120℃程度の乾燥温度を好ましく採用することができる。粘着剤層は、典型的には連続的に形成されるが、目的および用途によっては点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成されてもよい。
【0086】
粘着剤組成物の形態は特に限定されず、例えば、上述のような組成の粘着剤(粘着成分)を有機溶媒中に含む形態(溶剤型)の粘着剤組成物、粘着剤が水性溶媒に分散した形態(水分散型、典型的には水性エマルション型)の粘着剤組成物、ホットメルト型粘着剤組成物等であり得る。塗工性および基材の選択自由度等の観点から、溶剤型または水分散型の粘着剤組成物を好ましく採用し得る。より高い粘着性能を実現するためには、溶剤型の粘着剤組成物が特に好ましい。かかる溶剤型粘着剤組成物は、典型的には、上述した各成分を有機溶媒中に含む溶液の形態に調製される。上記有機溶媒は、公知ないし慣用の有機溶媒から適宜選択することができる。例えば、トルエン、キシレン等の芳香族化合物(典型的には芳香族炭化水素);酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル;ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素;1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化アルカン;メチルエチルケトン、アセチルアセトン等のケトン;等から選択されるいずれか一種の溶媒、または二種以上の混合溶媒を用いることができる。特に限定するものではないが、通常は、上記溶剤型粘着剤組成物を固形分(NV)5〜30質量%(例えば10〜25質量%)に調整することが適当である。NVが低すぎると製造コストが高くなりがちであり、NVが高すぎると塗工性等の取扱性が低下することがある。
【0087】
ここに開示される技術における粘着剤は、その10質量%トルエン溶液の30℃における粘度が10mPa・s以下であることが好ましく、5mPa・s以下であることがより好ましく、1.5mPa・s以下であることがより好ましい。かかる粘着剤は、固形分濃度(NV)の割に溶液粘度が低いのでハンドリング性が良い。このことは、表面保護シートの生産性向上や、溶剤使用量低減等の観点から好ましい。粘度の下限は特に限定されないが、通常は0.2mPa・s以上(例えば0.4mPa・s以上)が好ましい。なお、ここでは粘着剤の10質量%トルエン溶液を基準として該粘着剤の溶液粘度を規定しているが、表面保護シートの作製時(特に粘着剤層の形成時)に用いられる粘着剤組成物のNVは10質量%に限定されず、塗工安定性や生産性等を考慮して適宜のNV(例えば5〜30質量%、好ましくは10〜25質量%)とすることができる。
【0088】
粘着剤層の厚みは特に限定されず、目的に応じて適宜決定することができる。通常は凡そ100μm以下(例えば2μm〜100μm)とすることが適当であり、凡そ3μm〜30μmとすることが好ましく、凡そ4μm〜20μmとすることがより好ましい。
【0089】
ここに開示される技術は、粘着剤層の厚みが10μm未満である表面保護シートの態様で特に好ましく実施され得る。通常、粘着剤層の厚みが小さくなると、粘着力が低くなる傾向にあること、粘着剤層全体が一体となりやすくなること等から、該粘着剤層が被着体表面に残る現象(糊残り)は起こりにくくなるものと考えられる。ところが、本発明者らの検討によれば、非架橋のゴム系ポリマーをベースポリマーとする表面保護シートにおいて、粘着剤層の厚みが10μmを下回ると(例えば8μm以下になると)、該厚みが10μm以上(例えば10μm〜15μm程度)の場合に比べて、むしろ糊残りが生じやすくなる(すなわち、糊残り防止性が低下する)ことが認められた。これは、ベースポリマーが非架橋であることにより、表面保護シートを剥離する際の急激な変形により粘着剤層内にズレが生じ、これにより一部の粘着剤が残部の動きに追随できず、被着体表面に残りやすくなるためと考えられる。
【0090】
ここに開示される技術によると、粘着剤層の厚みが10μm未満の表面保護シートにおいても、良好な非汚染性および初期密着性と、高い糊残り防止性とが両立され得る。なお、非架橋のゴム系ポリマーをベースポリマーとする表面保護シートにおいても、粘着剤層の厚みが2μm未満になると、上記ズレにより糊残りが生じやすくなることよりも粘着力が弱くなることの影響のほうが勝り、糊残りは起こりにくくなる傾向にある。したがって、ここに開示される技術は、糊厚2μm以上10μm未満(典型的には3μm以上8μm以下、例えば4μm以上6μm以下)の粘着剤層を備えた表面保護シートに適用されることが特に有意義である。上記粘着剤層の厚みとしては、5点の厚みの算術平均値を採用することができる。例えば、粘着剤層と支持基材とを含む表面保護シートの総厚を5点測定し、次いで該表面保護シートから粘着剤層を除去した後の厚さを5点測定し、それらの厚み測定結果の差として上記粘着剤層の厚みを求めることができる。表面保護シートから粘着剤層を除去する方法としては、トルエン等の適当な有機溶剤に溶解させる方法、該有機溶剤で膨潤させて掻き落とす方法等を適宜採用することができる。厚みの測定には、例えば、1/10000ダイヤルゲージを好ましく使用し得る。
【0091】
ここに開示される技術の好ましい一態様によると、次の特性(A):鋼板に酸エポキシ架橋型アクリル系塗料を塗装した被着体に25mm幅の表面保護シートを圧着してから5分後に剥離角度が90度となるように100gの荷重を加える定荷重剥離試験(より具体的には、後述する参考実験例1に記載の定荷重剥離試験に準じて実施され得る。)において、該表面保護シートが初期状態から5cm剥がれるまでの保持時間が200秒以上である;を満たす表面保護シートが提供される。この保持時間が長いことは、より定荷重剥離特性が良く、初期密着性がより高いことを意味する。より好ましい態様に係る表面保護シートでは、上記保持時間が300秒以上(さらに好ましくは600秒以上、例えば900秒以上)である。
【0092】
また、ここに開示される技術の他の好ましい一態様によると、ここに開示される表面保護シートは、次の特性(B):後述する参考実験例1の記載に準じて行われる糊残り防止性評価において、糊残り面積が30%未満(より好ましくは20%未満、さらに好ましくは10%未満)である;を満たす表面保護シートが提供される。例えば、上記特性(A)および上記特性(B)を同時に満たす表面保護シートが提供され得る。
【0093】
また、ここに開示される技術の他の好ましい一態様によると、次の特性(C):後述する参考実験例1の記載に準じて測定される剥離強度が、23℃で48時間保存した後および70℃で48時間保存した後のいずれにおいても6.0N/25mm以下(より好ましくは5.0N/25mm以下、例えば4.5N/25mm以下)かつ0.3N/25mm以上(好ましくは0.5N/25mm以上、より好ましくは1.0N/25mm以上、さらに好ましくは2.0N/25mm以上、例えば3.0N/25mm以上)である;を満たす表面保護シートが提供される。例えば、上記特性(A)および上記特性(C)を同時に満たす表面保護シートが提供され得る。上記特性(A),(B)および(C)を同時に満たす表面保護シートが特に好ましい。
【0094】
以下、本発明に関連するいくつかの実験例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明中の「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0095】
<参考実験例1>
(サンプル1−1の作製)
プロピレンのホモポリマー(日本ポリプロ株式会社製品、商品名「ノバテックPP FY4」)70部、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)(日本ポリエチレン株式会社製品、商品名「カーネル KF380」)20部、ルチル型二酸化チタン(石原産業製品、商品名「タイペーク(TIPAQUE) CR−95」)10部を含む基材成形材料をフィルム成形機にて溶融混練し、該成形機のTダイから押し出して、厚さ40μmのPP樹脂フィルムを成形した。このPP樹脂フィルムの背面(粘着剤層を設ける側とは反対側の面)に、長鎖アルキル系の剥離処理剤を乾燥後の厚みが約0.05μmとなるように塗工する剥離処理を施して、支持基材を得た。
【0096】
ベースポリマーとしてのイソブチレン系ポリマー100部と、粘着付与樹脂として住友デュレズ社の商品名「デュレズ(Durez)19900」(p−tert−オクチルフェノール樹脂、重量平均分子量1300、SP値11.2、軟化点90℃)0.2部と、紫外線吸収剤としてBASF社製の商品名「チヌビン(Tinuvin) 326」(ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤)0.5部と、光安定剤として日本チバガイギー社製の商品名「キマソーブ(Chimassorb)9444FDL」(ヒンダードアミン系光安定剤)0.02部と、酸化防止剤として日本チバガイギー社製の商品名「イルガノックス(Irganox)1010」(ヒンダードフェノール系酸化防止剤)0.25部とをトルエンに溶解して、NV12%の粘着剤溶液を調製した。イソブチレン系ポリマーとしては、BASF社製の商品名「Oppanol B−80」(Mw約90万、Mn約25万、Mw/Mn約3.6)と、同社製の商品名「Oppanol B−12SFN」(Mw約7万、Mn約2.6万、Mw/Mn約2.7)との二種を、85:15の質量比で使用した。
上記粘着剤溶液を上記支持基材の前面(剥離処理されていない側の面)に塗付し、乾燥させて、厚さ5μmの粘着剤層を形成した。このようにして粘着シートサンプル1−1を作製した。
なお、このサンプル1−1の粘着剤層を構成する粘着剤は、上記粘着剤溶液の組成に由来して、ベースポリマー100部に対して低軟化点の粘着付与樹脂(T)(低軟化点かつ高SP値の粘着付与樹脂(ThsL)にも該当する。)0.2部を含み、高軟化点の粘着付与樹脂(T)を含まない粘着剤である。
【0097】
(サンプル1−2の作製)
サンプル1−1の作製における粘着付与樹脂として、「Durez19900」0.2部に加えて、荒川化学工業株式会社製の商品名「スーパーエステル A−18」(液状ロジンエステル、酸価15〜30mgKOH/g)0.5部を使用した。その他の点はサンプル1−1の作製と同様にして、サンプル1−2を作製した。
このサンプル1−2の粘着剤層を構成する粘着剤は、ベースポリマー100部に対して低軟化点の粘着付与樹脂(T)0.7部を含み、高軟化点の粘着付与樹脂(T)を含まない粘着剤である。
【0098】
(サンプル1−3〜サンプル1−8の作製)
サンプル1−2の作製における粘着付与樹脂として、「スーパーエステル A−18」0.5部の代わりに、サンプル1−3では荒川化学工業株式会社製の商品名「スーパーエステル A−75」(軟化点約75℃のロジンエステル、酸価10mgKOH/g)を、サンプル1−4では同社製の商品名「スーパーエステル A−100」(軟化点約100℃のロジンエステル、酸価10mgKOH/g)を、サンプル1−5では同社製の商品名「スーパーエステル A−115」(軟化点約115℃のロジンエステル、酸価20mgKOH/g)を、サンプル1−6では同社製の商品名「スーパーエステル A−125」(軟化点約125℃のロジンエステル、酸価20mgKOH/g)を、サンプル1−7では同社製の商品名「ペンセル D−135」(軟化点約135℃の重合ロジンエステル、酸価13mgKOH/g)を、サンプル1−8では同社製の商品名「ペンセル D−160」(軟化点約160℃の重合ロジンエステル、酸価13mgKOH/g)を、それぞれ0.5部使用した。その他の点はサンプル1−2の作製と同様にして、サンプル1−3〜サンプル1−8を作製した。
なお、サンプル1−8の粘着剤層を構成する粘着剤は、ベースポリマー100部に対して、高軟化点の粘着付与樹脂(T)を0.5部含み、さらに低軟化点かつ高SP値の粘着付与樹脂(T)(かつ(ThsL))0.2部を含む粘着剤である。したがって、この粘着剤における質量比(T/T)および(ThsL/T)は0.4である。また、該粘着剤に含まれる粘着付与樹脂の合計量(TとTとの合計含有量)は、ベースポリマー100部に対して0.7部である。
【0099】
(サンプル1−9、サンプル1−10の作製)
サンプル1−8の作製において、「ペンセル D−160」の使用量を、サンプル1−9では0.3部に、サンプル1−10では0.15部に変更した。その他の点はサンプル1−8の作製と同様にして、サンプル1−9、サンプル1−10を作製した。
【0100】
得られた粘着シートサンプル1−1〜1−10について、以下の評価試験を行った。それらの結果を、各例に係る粘着剤の概略とともに表1、表2に示す。
【0101】
[定荷重剥離試験]
各例に係る粘着シートサンプルを、幅25mm、長さ150mmの帯状に裁断して試験片を作製した。23℃、50%RHの環境下において、鋼板に酸エポキシ架橋型アクリル系塗料(関西ペイント株式会社製品、商品名「KINO1210TW」)を塗装してなる被着体の表面を石油ベンジンで拭いて脱脂した。図2に示すように、その被着体56の片面に試験片54の粘着面を貼り付けた。該貼付けは、JIS Z 0237:2000に規定する2kgゴムローラを3m/分の速度で一往復させて圧着することにより行った。圧着から5分後に、試験片54が貼り付けられた面を下方にして被着体56を水平に保持し、試験片54の剥離角度が90度となるように該試験片の一端52に100gの荷重58をかけた。そして、荷重58をかけてから試験片54が5cm剥がれるまでの保持時間(秒)を測定した。この保持時間が長いことは、より定荷重剥離特性が良く、初期密着性がより高いことを意味する。
【0102】
[非汚染性試験]
各例に係る粘着シートサンプルを幅25mmの帯状に裁断して試験片を作製した。23℃、50%RHの標準環境において、鋼板に酸エポキシ架橋型アクリル系塗料(関西ペイント株式会社製品、商品名「KINO1210TW」)を塗装してなる被着体の表面を乾いた布で軽く拭いた後、これに上記試験片を貼り付けた。該貼付けは、JIS Z 0237:2000に規定する2kgゴムローラを3m/分の速度で一往復させて圧着することにより行った。この試験片を上記標準環境下に7日間保持した。その後、同環境下において、試験担当者が被着体から試験片を、剥離角度約90度、剥離速度約100mm/分の条件で、手剥離にて引き剥がした。その後、下記の目視観察による評価を行った(23℃7日後)。
上記と同様にして酸エポキシ架橋型アクリル系塗料を塗装してなる被着体に貼り付けた試験片を、70℃の乾燥オーブン中にて7日間保持した後、該オーブンから試験片を取り出し、上記標準環境に2時間以上放置した。次いで、同標準環境において、試験担当者が被着体から試験片を、剥離角度約90度、剥離速度約100mm/分の条件で、手剥離にて引き剥がした。その後、下記の目視観察による評価を行った(70℃7日後)。
剥離後の被着体表面を目視で観察し、該表面が白く汚染された程度(白色度)を、4点(全く汚染が認められない)〜1点(非汚染性が低い)の間で、0.5点刻みで評価した。なお、この評価において2.5点は、僅かな汚染が認められるものの実用上の問題はないレベル(すなわち合格レベル)である。
【0103】
なお、上記非汚染性試験による被着体表面の汚染の程度は、粘着シートサンプルを貼り付ける前の被着体表面の色と、粘着シートサンプルを剥離した後の被着体表面の色とを適宜の機器により測定し、それらの被着体表面の色の違い(例えば、明度Lの違い)を検出することによっても評価することができる。
上記測定は、例えば、エックスライト(X−Rite)社製のマルチアングル分光測色計、商品名「MA68II」を用いて、光源D65、視野10°の条件で、正反射角に対する受光角15°、25°、45°、75°、110°について行うことができる。上述した目視観察による評価が2.5点であることは、上記測定条件において、受光角15°でのL値の差が3.5以上5.0未満であることに概ね相当する。上記L値の差が5.0以上になると目視による評価は概ね2.0点以下となり、上記L値の差が3.5未満になると目視による評価は概ね3.0点以上となる。
【0104】
[剥離強度測定]
JIS Z 0237:2000に準拠して剥離強度を測定した。すなわち、各例に係る粘着シートサンプルを幅25mmの帯状に裁断して試験片を作製した。23℃、50%RHの標準環境において、鋼板に酸エポキシ架橋型アクリル系塗料(関西ペイント株式会社製品、商品名「KINO1210TW」)を塗装してなる被着体の表面を石油ベンジンで拭いて脱脂し、これに上記試験片を貼り付けた。該貼付けは、JIS Z 0237:2000に規定する2kgゴムローラを3m/分の速度で一往復させて圧着することにより行った。この試験片を上記標準環境(23℃)に48時間保持した後、同環境において、引張試験機を用いて、剥離速度(クロスヘッドスピード)30m/分、剥離角度180度の条件で剥離強度[N/25mm](23℃48時間後)を測定した。
上記と同様にして酸エポキシ架橋型アクリル系塗料を塗装してなる被着体に貼り付けた試験片を、70℃の乾燥オーブン中に48時間保持した後、該オーブンから試験片を取り出し、上記標準環境に2時間以上放置した。次いで、上記と同様に標準環境にて、剥離速度(クロスヘッドスピード)30m/分、剥離角度180度の条件で剥離強度[N/25mm](70℃48時間後)を測定した。
測定はそれぞれ3回行った。表1〜表6にはそれらの算術平均値を示している。
【0105】
[糊残り防止性評価]
糊残りが生じやすい表面状態を意図的に作り出すため、45cm×30cmの鋼板にアルキドメラミン系塗料(関西ペイント株式会社製品、商品名「TM13RC」)を塗装してなる被着体の表面を、羊毛バフ(日立工機株式会社製品、商品名「959−721」)を取り付けた電動ポリッシャー(マキタ株式会社製品、型番「PV7001C」)により、研磨剤(住友スリーエム社製品、商品名「ハード5982−1−L」)を用いて、1500rpmの運転条件で上下左右に5分間研磨した。その後、仕上げ用ネル地により表面の研磨剤を除去したものを被着体とした。以上の操作は、23℃、50%RHの標準環境下にて行った。
各例に係る粘着シートを幅50mmの帯状に切断して試験片を作製した。該試験片を上記被着体に圧着し、上記標準環境下に4日間保持した後、糊残りが生じやすい−5℃の環境下に1時間保持し、同温度環境下において、試験担当者が被着体から試験片を、剥離角度約90度、剥離速度約100mm/分の条件で、手剥離にて引き剥がした。剥離後の被着体表面を目視で観察し、被着体表面に粘着剤層が残っていた面積を、上記粘着シートが貼り付けられた面積に対する百分率(%)として算出した。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
表1、表2に示されるように、ベースポリマー(ここではポリイソブチレン)100部に対して粘着付与樹脂(T)として軟化点120℃以上のロジンエステルを1.0部以下(より具体的には0.15部〜0.5部)含有させたサンプル1−6〜1−10は、いずれも、定荷重剥離試験における保持時間が200秒以上(より具体的には300秒以上)であり、粘着付与樹脂(T)を含まないサンプル1−1に比べて上記保持時間は2倍以上に向上した。また、サンプル1−6〜1−10の非汚染性は、23℃および70℃のいずれにおいても合格レベル(2.5点以上)であった。このように、サンプル1−6〜1−10によると、サンプル1−1の非汚染性を大きく損なうことなく、初期密着性を大幅に向上させることができた。なかでも、サンプル1−10は、非汚染性および糊残り防止性が特に優れていた。
これに対して、粘着付与樹脂(T)を使用せず、軟化点120℃未満のロジンエステルを用いたサンプル1−2〜1−5は、定荷重剥離試験における保持時間200秒以上の初期密着性と合格レベルの非汚染性(2.5点以上)とを両立させることができず、表面保護シートとしての性能バランスに難のあるものであった。
【0109】
<実験例>
(サンプル2−1、サンプル2−2の作製)
サンプル1−1の作製において、「Durez19900」の使用量を、サンプル2−1では0.3部、サンプル2−2では0.4部に変更した。その他の点はサンプル1−1の作製と同様にして、サンプル2−1および2−2を作製した。
【0110】
(サンプル2−3)
サンプル1−1の作製における粘着付与樹脂として、「Durez19900」0.2部の代わりに、「ペンセル D−160」0.3部を使用した。その他の点はサンプル1−1の作製と同様にして、サンプル2−3を作製した。
【0111】
(サンプル2−4〜サンプル2−7)
サンプル1−1の作製における粘着付与樹脂として、表4に示す量の「Durez19900」および「ペンセル D−160」をそれぞれ使用した。その他の点はサンプル1−1の作製と同様にして、サンプル2−4〜2−7を作製した。
【0112】
得られた粘着シートサンプル2−1〜2−7について、参考実験例1と同様にして定荷重剥離試験、非汚染性評価、剥離強度測定および糊残り防止性評価を行った。それらの結果を、各例に係る粘着剤の概略とともに表3、表4に示す。また、参考実験例1に係るサンプル1−1、サンプル1−9およびサンプル1−10の評価結果を併せて示す。
【0113】
【表3】
【0114】
【表4】
【0115】
表3に示されるように、粘着付与樹脂(T)を使用せず、軟化点120℃未満の粘着付与樹脂の含有量をサンプル1−1よりも増やしたサンプル2−1、2−2は、定荷重剥離試験における保持時間200秒以上の初期密着性と合格レベルの非汚染性(2.5点以上)とを両立させることができなかった。
【0116】
表4に示されるように、粘着付与樹脂(T)の含有量に対する粘着付与樹脂(T)の含有量の質量比(T/T)が1.0以上であるサンプル1−10および2−4〜2−7は、質量比(T/T)が1.0未満であるサンプル1−9と比べて、より良好な糊残り防止性を示した。
【0117】
<参考実験例2>
(サンプル3−1〜サンプル3−3)
サンプル1−2の作製における「スーパーエステル A−18」0.5部の代わりに、荒川化学工業株式会社製の商品名「ペンセル D−125」(軟化点約125℃の重合ロジンエステル、酸価13mgKOH/g)を、サンプル3−1では1.2部、サンプル3−2では2.0部、サンプル3−3では5.0部使用した。その他の点はサンプル1−2の作製と同様にして、サンプル3−1〜サンプル3−3を作製した。
【0118】
(サンプル3−4〜サンプル3−6)
サンプル1−2の作製における「スーパーエステル A−18」0.5部の代わりに、「ペンセル D−135」を、サンプル3−4では1.2部、サンプル3−5では2.0部、サンプル3−6では5.0部使用した。その他の点はサンプル1−2の作製と同様にして、サンプル3−4〜サンプル3−6を作製した。
【0119】
(サンプル3−7〜サンプル3−9)
サンプル1−2の作製における「スーパーエステル A−18」0.5部の代わりに、「ペンセル D−160」を、サンプル3−7では1.2部、サンプル3−8では2.0部、サンプル3−9では5.0部使用した。その他の点はサンプル1−2の作製と同様にして、サンプル3−7〜サンプル3−9を作製した。
【0120】
得られた粘着シートサンプル3−1〜3−9について、参考実験例1と同様にして定荷重剥離試験、非汚染性評価、剥離強度測定および糊残り防止性評価を行った。それらの結果を、各例に係る粘着剤の概略とともに表5、表6に示す。
【0121】
【表5】
【0122】
【表6】
【0123】
表5、6に示されるように、粘着付与樹脂(T)の含有量に対する粘着付与樹脂(T)の含有量の質量比(T/T)が1.0未満のサンプル3−1〜3−9は、非汚染性が低い、剥離強度が高すぎる、あるいは糊残り防止性が低すぎる等、表面保護シートとしての性能に難のあるものであった。また、サンプル3−1〜3−9は、ベースポリマーに対する粘着付与樹脂(T),(T)の合計含有量が1部を超えるものでもあった。このことも、剥離強度が高すぎる、あるいは糊残り防止性が低すぎることに至った原因の一つと考えられる。
【0124】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明に係る表面保護シートは、例えば、金属板(鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板等)、その表面に塗膜が設けられた塗装金属板(例えば、住宅材料、建築材料等に用いられる塗装鋼板)、合成樹脂板、それらの成形品等の被着体(保護対象物)に貼り付けられて該被着体の表面を損傷から保護する役割を果たし、かかる保護の役割を終えた後には上記被着体から再剥離される態様で用いられる表面保護シートとして好適である。
【符号の説明】
【0126】
1 :支持基材
1A:一方の面(前面)
1B:他方の面(背面)
2 :粘着剤層
2A:粘着面
10 :表面保護シート
52 :一端
54 :試験片
56 :被着体
58 :荷重
図1
図2