(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転軸に取り付けられてこの回転軸と一体的に回転するハブ側回転体と、その外周側に同心的に配置されると共に前記ハブ側回転体と円周方向相対変位可能なプーリと、前記ハブ側回転体の外周面及びプーリ側の内周面のうちいずれか一方に設けられ山部と谷部が円周方向交互に形成された波状スリーブと、前記ハブ側回転体の外周面及びプーリ側の内周面のうちいずれか他方に前記山部と同ピッチで設けられた円周方向ストッパと、前記波状スリーブにおける各谷部と前記ハブ側回転体の外周面及びプーリ側の内周面のうちいずれか他方との間に介在された転動体と、を備え、前記転動体は、伝達トルクが所定以上に上昇した時に前記円周方向ストッパと当接状態で前記波状スリーブの山部を弾性変形させながら乗り越え可能であることを特徴とするトルク変動吸収ダンパ。
ハブ側回転体が、回転軸に取り付けられるハブと、このハブに同心的に配置された環状質量体と、前記ハブと環状質量体を弾性的に連結する弾性体からなることを特徴とする請求項1に記載のトルク変動吸収ダンパ。
ハブ側回転体又はプーリに、このハブ側回転体とプーリの軸方向相対変位を規制するプレートが設けられたことを特徴とする請求項1又は2に記載のトルク変動吸収ダンパ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のトルク変動吸収ダンパは、プーリと、これをハブの外周に弾性的に連結している低ばねの第一の弾性体によって、共振点(共振周波数)の低い振動系を構成しているため、内燃機関を起動又は停止する過程でクランクシャフトの回転変動が前記共振点を通過することによってプーリが捩り方向(円周方向)へ大きく振動し、プーリとこれに巻き掛けられたベルトとの間にスリップを生じてしまう問題が指摘される。また、常用回転域で急激なトルク変動が発生した場合も、同様なベルトスリップが発生することがあった。
【0007】
そして上述のようなベルトスリップの発生は、「ベルト鳴き」と呼ばれる異音が発生する原因となるほか、ベルトの摩耗によってその耐久性が低下し、走行に支障を来たすおそれがあった。
【0008】
また、常用回転域でのトルク変動吸収性は、弾性体の捩り方向ばね定数を低くすることで向上させることができるが、この場合は逆に弾性体の耐久性が低下するので破損しやすくなる問題がある。
【0009】
さらにベルトスリップは、プーリとベルトのミスアライメントによっても起こる。このようなミスアライメントは、トルク変動吸収ダンパのプーリと補機のプーリの軸心の相対的な傾斜などによって、ベルトのリブがプーリのV溝に斜めに咬み込まれて行く過程で、連続的に擦れ合ってスティック−スリップを生じるものである。
【0010】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、回転変動を吸収しながらトルクを伝達するトルク変動吸収ダンパにおいて、ベルトスリップの発生を有効に防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係るトルク変動吸収ダンパは、回転軸に取り付けられてこの回転軸と一体的に回転するハブ側回転体と、その外周側に同心的に配置されると共に前記ハブ側回転体と円周方向相対変位可能なプーリと、前記ハブ側回転体の外周面及びプーリ側の内周面のうちいずれか一方に設けられ山部と谷部が円周方向交互に形成された波状スリーブと、前記ハブ側回転体の外周面及びプーリ側の内周面のうちいずれか他方に前記山部と同ピッチで設けられた円周方向ストッパと、前記波状スリーブにおける谷部と前記ハブ側回転体の外周面及びプーリ側の内周面のうちいずれか他方との間に介在された転動体と、
を備え、前記転動体は、伝達トルクが所定以上に上昇した時に前記円周方向ストッパと当接状態で前記波状スリーブの山部を弾性変形させながら乗り越え可能であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の発明に係るトルク変動吸収ダンパは、請求項1に記載された構成において、ハブ側回転体が、回転軸に取り付けられるハブと、このハブに同心的に配置された環状質量体と、前記ハブと環状質量体を弾性的に連結する弾性体からなるものである。
【0013】
請求項3の発明に係るトルク変動吸収ダンパは、請求項1又は2に記載された構成において、ハブ側回転体又はプーリに、このハブ側回転体とプーリの軸方向相対変位を規制するプレートが設けられたものである。
【0014】
請求項4の発明に係るトルク変動吸収ダンパは、請求項1〜3のいずれかに記載された構成において、転動体が、波状スリーブの一つおきの谷部に配置されたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るトルク変動吸収ダンパによれば、転動体の転動によってハブ側回転体とプーリの円周方向相対変位が許容されており、ハブ側回転体に対するプーリの遅角差動時には、これによって転動する転動体が波状スリーブの山部を圧縮することで、その反力でハブ側回転体からプーリへ正回転方向のトルクを伝達し、伝達トルクの変動を、ハブ側回転体とプーリの反復的な円周方向相対変位によって吸収してプーリの回転を平滑化するものである。また、過大なトルク変動の入力の際には、これによって転動する転動体が波状スリーブの山部を圧縮しながら乗り越え、ハブ側回転体とプーリの大きな円周方向相対変位を許容するので、プーリの外周に巻き掛けられるベルトの滑りが防止される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るトルク変動吸収ダンパの好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1及び
図2は、本発明に係るトルク変動吸収ダンパの好ましい第一の実施の形態を示すもので、参照符号1は、自動車の内燃機関のクランクシャフト(不図示)に取り付けられるハブ側回転体である。
【0019】
ハブ側回転体1は、内径の軸孔においてクランクシャフトの軸端に取り付けられるハブ11と、このハブ11の外周側に同心的に配置され密度(比重)の高い金属材料からなる環状質量体12と、耐熱性、耐寒性及び機械的強度に優れたゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)で成形されハブ11と環状質量体13を弾性的に連結する弾性体13からなる。
【0020】
ハブ11は、金属材料の鋳造等により製作されたものであって、回転軸であるクランクシャフトに固定される内筒部11aと、そこから外径側へ展開する円盤部11bと、その外径端部から軸方向へ延びる外筒部11cを有する。
【0021】
そして上記構成のハブ側回転体1は、クランクシャフトの捩り振幅が大きくなる所定の振動周波数域において、弾性体13及び環状質量体12からなるばね−マス系が共振し、その振動変位によるトルクが入力振動によるトルクと逆方向へ生じることによって、動的吸振効果を発揮するものである。
【0022】
ハブ側回転体1における環状質量体12の外周側には、プーリ2が同心的にかつハブ側回転体1と円周方向相対変位可能な状態で配置されている。このプーリ2の外周面にはポリV溝2aが形成されており、不図示の無端ベルトが巻き掛けられるようになっている。
【0023】
ハブ側回転体1における環状質量体12の外周面には、
図3に示すような山部3aと谷部3bが円周方向交互に形成された金属製の波状スリーブ3が嵌着されており、プーリ2の内周面には、波状スリーブ3の山部3a(又は谷部3b)と同ピッチの円周方向ストッパ4aを有する金属製のスリーブ4が嵌着されている。
【0024】
波状スリーブ3における各谷部3bと、プーリ2側であるスリーブ4の各円周方向ストッパ4a,4a間の内周面との間には、それぞれ球体(例えば鋼球)からなる転動体5が一個ずつ介在されている。この転動体5は、波状スリーブ3とスリーブ4の間で円周方向及び軸方向に転動可能となっている。すなわち、ハブ側回転体1とプーリ2の円周方向相対変位が生じることによって、転動体5が、波状スリーブ3の山部3aを環状質量体12の外周面へ押し付けるように弾性変形させながら波状スリーブ3とスリーブ4の間で円周方向へ転動するようになっている。
【0025】
ハブ側回転体1におけるハブ11の外筒部11cには、このハブ側回転体1に対するプーリ2の軸方向相対変位を制限する一対のプレート6が設けられている。詳しくは、各プレート6は内径の嵌合筒部6aがハブ11の外筒部11cの内周面に嵌着され、この嵌合筒部6aから展開する円盤部6bの外径がプーリ2の軸方向両側の位置に達している。
【0026】
以上のように構成された第一の実施の形態のトルク変動吸収ダンパは、ハブ11の内筒部11aがクランクシャフトの一端に固定され、エンジンの駆動時に、クランクシャフトと共に回転されるものである。また、プーリ2の外周面のポリV溝2aには不図示のベルトが巻き掛けられ、クランクシャフトの回転力が、オルタネータや冷却水ポンプなど不図示の補機へ伝達されるようになっている。
【0027】
詳しくは、まずクランクシャフトが停止した状態では、
図4(A)に示すように、転動体5が波状スリーブ3における各谷部3bのほぼ中間位置でかつスリーブ4の円周方向ストッパ4a,4a間のほぼ中間位置にある。
【0028】
そしてこの停止状態から、エンジンの起動によってハブ側回転体1が不図示のクランクシャフトと共に正回転方向(
図4における反時計回りの方向)へ回転すると、この時点ではプーリ2にはハブ側回転体1の正回転方向のトルクtは伝達されていないので、ハブ側回転体1及びその環状質量体12の外周面に嵌着された波状スリーブ3は、プーリ2に対して進角差動状態になり、このため
図4(B)に示すように、波状スリーブ3と、プーリ2側のスリーブ4との間で転動体5が円周方向へ転動する。そして、円周方向への転動体5の転動は波状スリーブ3の山部3aを環状質量体12の外周面へ押し付けるように弾性変形させながら行われるので、その反力によって、正回転方向のトルクtが転動体5を介してスリーブ4へ伝達され、プーリ2の回転が開始される。
【0029】
ここで、
図5に波状スリーブ3に対する転動体5の円周方向位置とトルクtの関係を示すように、伝達トルクtが大きくなるほど転動体5は波状スリーブ3の山部3aをつぶすように変形させながら大きく変位することになる。なお、
図5に示す符号A〜Dは、
図4(A)〜(D)に示す転動体5の位置と対応するものである。
【0030】
また、入力されるトルクtが急激に増大したような場合、
図4(C)に示すように、転動体5はスリーブ4の円周方向ストッパ4aに当接した状態となって、前記トルクtが所定値t
1に達した時点で、波状スリーブ3の山部3aを完全につぶすように変形させながらこれを乗り越え、
図4(D)に示すように変位されることによって、プーリ2へのトルクtの伝達を遮断するトルクリミッタとして作動する。そして、山部3aが完全につぶれて転動体5が乗り越えるためのトルク値t
1は、プーリ2とこれに巻き掛けられたベルトとの間にスリップ(ベルトスリップ)を発生させるトルクt
2よりも小さくなるように、山部3aの剛性が設定されているので、トルクtの急激な上昇などによるベルトスリップの発生や、それによるベルト鳴きやベルトの摩耗を防止することができる。
【0031】
また、常用回転域において、クランクシャフトからハブ11を介して入力される捩り振動の周波数が、クランクシャフトの振幅が極大となる帯域付近になると、環状質量体12と弾性体13によって構成されるばね−マス系が入力振動と異なる位相角をもって共振し、その振動変位によるトルクが入力振動のトルクと逆方向に生じることによる動的吸振効果を発揮する。このため、クランクシャフトの捩り振動のピークを有効に低減することができる。
【0032】
またこの場合、等速回転しようとするプーリ2に対して、環状質量体12は上述のような捩り方向の共振によって遅角差動と進角差動を周期的に繰り返すため、環状質量体12の外周面に嵌着された波状スリーブ3と、プーリ2の内周面に嵌着されたスリーブ4は円周方向へ反復的に相対変位し、これに伴い、両者間で転動体5が円周方向へ反復的に転動する。そしてこの転動体5の転動によって環状質量体12の周期的な回転変動が吸収されるので、プーリ2は円滑な回転を維持することができる。
【0033】
さらに、当該トルク変動吸収ダンパのプーリ2と不図示の補機のプーリの軸心の相対的な傾斜などによって、プーリ2とベルトのミスアライメントがある場合、このようなミスアライメントによって、ベルトのリブがプーリ2のポリV溝2aに斜めに咬み込まれて行く過程で、軸方向への転動体5の転動を伴いながらハブ側回転体1とプーリ2の軸方向相対変位が許容されるので、ミスアライメントに起因するベルト鳴きやベルトの摩耗も有効に防止される。
【0034】
なお、ハブ側回転体1からのプーリ2及び転動体5の脱落は、プレート6によって防止される。
【0035】
次に
図6は、本発明に係るトルク変動吸収ダンパの好ましい第二の実施の形態を示すもので、上述した第一の実施の形態と異なるところは、波状スリーブ3における各谷部3bと、プーリ2側であるスリーブ4の各円周方向ストッパ4a,4a間の内周面との間に、それぞれ球体からなる転動体5が複数個(図示の例では三個)ずつ介在されている点にある。この構成によれば、一個の転動体5に作用する負荷を小さくすることができる。
【0036】
次に
図7は、本発明に係るトルク変動吸収ダンパの好ましい第三の実施の形態を示すもので、上述した第一の実施の形態と異なるところは、波状スリーブ3における各谷部3bと、プーリ2側であるスリーブ4の各円周方向ストッパ4a,4a間の内周面との間に、それぞれ円柱状の「ころ」からなる転動体5が介在されている点にある。転動体5が球体からなるものである場合は波状スリーブ3及びスリーブ4に対して点接触となるのに対し、この構成によれば、転動体5が線接触となるので、一個の転動体5に作用する負荷を小さくすることができる。
【0037】
次に
図8は、本発明に係るトルク変動吸収ダンパの好ましい第四の実施の形態を示すもので、上述した第一の実施の形態と異なるところは、転動体5が、波状スリーブ3の一つおきの谷部3bに配置されたことにある。したがってこの実施の形態では、波状スリーブ3における各谷部3bと、スリーブ4の各円周方向ストッパ4a,4a間の内周面との間には、転動体5が介在された部分と、転動体5が介在されていない部分が円周方向交互に存在する。
【0038】
このため、第四の実施の形態のトルク変動吸収ダンパによれば、波状スリーブ3における山部3aが転動体5によってつぶされる時の応力が、隣接する山部3aの隆起変形によって吸収されるため、波状スリーブ3に顕著な弾性を与えることができる。
【0039】
詳しくは、
図9(A)に示すように、転動体5が波状スリーブ3における谷部3b
1のほぼ中間位置でかつスリーブ4の円周方向ストッパ4a,4a間のほぼ中間位置にある状態から、エンジンの起動等によってハブ側回転体1へ正回転方向(
図9における反時計回りの方向)へのトルクtが入力され、ハブ側回転体1及びその環状質量体12の外周面に嵌着された波状スリーブ3が、プーリ2に対して進角差動状態になると、
図9(B)に示すように、波状スリーブ3と、プーリ2側のスリーブ4との間で転動体5が谷部3b上から山部3a
1へ向けて円周方向へ転動する。そして、円周方向への転動体5の転動は波状スリーブ3の山部3a
1を環状質量体12の外周面へ押し付けるように弾性変形させながら行われるので、その反力によって、正回転方向のトルクtが転動体5を介してスリーブ4へ伝達され、プーリ2の回転が開始される。このとき、転動体5によって山部3a
1がつぶされることによる応力が、円周方向に隣接する山部3a
2(転動体5によるつぶしを受けない山部3a
2)を隆起させるように作用し、すなわち前記応力を吸収するように変形するため、ハブ側回転体1とプーリ2が顕著に円周方向相対変位して、伝達トルクの変動を、一層良好に吸収することができる。
【0040】
そして、入力されるトルクtが急激に増大したような場合、
図9(C)に示すように、転動体5はスリーブ4の円周方向ストッパ4aに当接した状態となって、前記トルクtが所定値に達した時点で、波状スリーブ3の山部3a
1を完全につぶすように変形させながらこれを乗り越え、
図9(D)に示すように、隣の谷部3b
2上へ変位されることによって、プーリ2へのトルクtの伝達を遮断するトルクリミッタとして作動する。そしてこのときも、山部3a
1が完全につぶれるような変形が山部3a
2の隆起変形によって確実に行われるので、動作の信頼性が確保される。
【0041】
また、上記第四の実施の形態による構成は、
図6に示す第二の実施の形態や、
図7に示す第三の実施の形態についても適用することができる。
【0042】
なお、上述した各実施の形態では、波状スリーブ3がハブ側回転体1における環状質量体12の外周面に嵌着され、プーリ2の内周面に嵌着したスリーブ4に円周方向ストッパ4aを設けたが、これとは逆に、波状スリーブ3をプーリ2の内周面に嵌着し、外周に円周方向ストッパ4aを設けたスリーブ4を前記環状質量体12の外周面に嵌着した構成とすることもできる。