(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989484
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】玉掛け作業体験装置
(51)【国際特許分類】
G09B 9/00 20060101AFI20160825BHJP
【FI】
G09B9/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-211380(P2012-211380)
(22)【出願日】2012年9月25日
(65)【公開番号】特開2014-66829(P2014-66829A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年5月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000203977
【氏名又は名称】日鉄住金テックスエンジ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512249250
【氏名又は名称】有限会社ディーサイン
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(72)【発明者】
【氏名】大森 靖一
(72)【発明者】
【氏名】團上 一博
【審査官】
櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】
3 玉掛け作業における危険体感,危険体感教育テキスト《講師用》 危険体感教育指導員養成講習 平成23年度,(社)日本労働安全衛生コンサルタント会,2012年 3月31日,P.25-36
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00〜9/56、17/00〜19/26
B66C13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持手段に蝶番機構を介して起伏可能に取り付けられた吊り荷部材と、前記吊り荷部材に係止した紐状体を介して前記吊り荷部材を起伏動作させる昇降機構と、を備えた玉掛け作業体験装置。
【請求項2】
前記蝶番機構を中心とする前記吊り荷部材の起伏動作に伴って当該吊り荷部材の一部が接近離隔する位置に障害部材を設けた請求項1記載の玉掛け作業体験装置。
【請求項3】
前記吊り荷部材の一部が前記障害部材に接近したとき両者間に挟まれる被圧部材を設けた請求項2記載の玉掛け作業体験装置。
【請求項4】
前記吊り荷部材の倒伏速度を緩和する緩衝機構を設けた請求項1〜3のいずれかに記載の玉掛け作業体験装置。
【請求項5】
前記吊り荷部材の倒伏動作に伴って警報音を発する警報機構を設けた請求項1〜4のいずれかに記載の玉掛け作業体験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉掛け作業の講習会などにおいて、受講者が玉掛け作業の模擬実習を行う際に使用する玉掛け作業体験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤーロープやチェーンなどで荷物をクレーンやチェーンブロックなどのフックに掛ける玉掛け作業は、誤った吊り方をすると、危険性を伴う作業である。このため、危険性に対する作業者の予知能力を高めることにより事故防止を図ることを目的として、玉掛け作業に従事しようとする者に対する事前の安全教育である玉掛け講習会や玉掛け技能講習などが開催されている。
【0003】
玉掛け講習会などにおいては、所定のプログラムなどに従って、専門講師による学科講習が行われるとともに、実際の玉掛け作業に供されているクレーン、ワイヤーロープ及び荷物(吊り荷)などを使用して受講者が玉掛けの模擬作業を体験するようになっていることが多い。
【0004】
一方、本発明に関連する先行技術として、例えば、特許文献1記載の「吊荷ハンドリング模擬実習装置」がある。この「吊荷ハンドリング模擬実習装置」は、製造ラインなどに供されているクレーンやホイストなどの実機を使用することなく、玉掛け模擬実習を行うことを目的として開発されたものであり、実機と同様のクレーンやチェーンブロックなどが備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−5621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の玉掛け講習会などで行われている、実機クレーンなどを用いた玉掛け模擬作業は実際の玉掛け作業と同様の状態で玉掛け作業を体験することができる点は長所である。しかしながら、
図8に示すような、玉掛け作業上の禁則作業である「1本吊り作業」を実行すると、危険な状況が生じるおそれがある。即ち、
図8に示すように、鋼管などの吊り荷80の周囲に1本のワイヤーロープ81を巻き付け、このワイヤーロープ81をクレーン(図示せず)などのフック82に掛けて吊り上げる作業(「1本吊り作業」)を受講者が実行すると、実際の現場にて「1本吊り作業」を行ったときと同様に、吊り荷80が傾斜したり、回転したりする危険な状況が生じることがある。
【0007】
従って、玉掛け講習会において、実機クレーンなどを使用して、禁則作業である「1本吊り作業」を受講者に体験させることは、安全確保の面から回避せざるを得ないのが実状である。このため、禁則作業の危険性に対する作業者の予知能力を高めて事故防止を図るという観点からは十分な教育効果が得られていないという指摘がある。
【0008】
一方、特許文献1に記載されている「吊荷ハンドリング模擬実習装置」を使用して「1本吊り作業」を行った場合も同様に、
図8に示すように、吊り荷80の傾斜や回転などの危険な現象が発生する可能性が高いので、模擬実習として受講者に「1本吊り作業」を体験させることは回避されている。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、玉掛け作業における禁則作業である1本吊り作業を安全に体験し、その危険性に対する予知能力を確実に習得することができる玉掛け作業体験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の玉掛け作業体験装置は、支持手段に蝶番機構を介して起伏可能に取り付けられた吊り荷部材と、前記吊り荷部材に係止した紐状体を介して前記吊り荷部材を起伏動作させる昇降機構と、を備えたことを特徴とする。ここで、支持手段とは、地盤、床面、支持部材、支持盤、支持構造体、車体、船体、機体あるいは建築物の躯体など蝶番機構を介して前記吊り荷部材を起伏可能に支持することができるものをいい、紐状体とは、ワイヤーロープ、チェーンなど、吊り荷部材に係止して、これを吊り上げることのできる可撓性の部材をいう。
【0011】
このような構成とすれば、玉掛け講習会の受講者などが、前記紐状体を前記吊り荷部材に係止して、前記昇降機構を用いて吊り荷部材を吊り上げると、吊り荷部材は蝶番機構を中心に起き上がり、傾斜した状態となるので、所謂「1本吊り作業」の状態とすることができる。このとき、吊り荷部材は蝶番機構を介して支持部材上に取り付けられているので、一定の傾斜姿勢に安定保持され、搖動したり、回転したりすることがない。
【0012】
このため、受講者は、玉掛け作業における禁則作業である1本吊り作業を安全に体験することができる。また、前述したように昇降機構で吊り荷部材を吊り上げたとき、紐状体及び吊り荷部材などは「1本吊り作業」を行ったときと同じ状況となり、「1本吊り作業」が再現されるので、受講者は、「1本吊り作業」の危険性に対する予知能力を確実に習得することができる。
【0013】
ここで、前記蝶番機構を中心とする前記吊り荷部材の起伏動作に伴って当該吊り荷部材の一部が接近離隔する位置に障害部材を設けることが望ましい。
【0014】
このような構成とすれば、「1本吊り作業」を行った場合、吊り上げられる吊り荷部材と障害部材との間に、身体の一部や物品などが挟まれる事故が発生する危険性があることを、視覚をもって認識することができるので、受講者が「1本吊り作業」の危険性に対する予知能力を習得する上で有効である。
【0015】
この場合、前記吊り荷部材の一部が前記障害部材に接近したとき両者間に挟まれる被圧部材を設けることが望ましい。
【0016】
このような構成とすれば、吊り上げられる吊り荷部材と障害部材との間に、身体の一部や物品などが挟まれたときの状況をさらにリアルに再現することができるので、「1本吊り作業」の危険性を、より確実に習得することができる。
【0017】
一方、前記吊り荷部材の倒伏速度を緩和する緩衝機構を設けることができる。このような構成とすれば、昇降機構で吊り上げられた吊り荷部材を元の姿勢に戻すとき、遅い速度で倒伏させることができるので、安全性が向上する。
【0018】
さらに、前記吊り荷部材の倒伏動作に伴って警報音を発する警報機構を設けることもできる。このような構成とすれば、昇降機構で吊り上げられた吊り荷部材の倒伏動作が開始したことを周囲に居る者に警報音で通報して、注意を喚起することができるので、安全性確保の観点から有効である。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、玉掛け作業における禁則作業である1本吊り作業を安全に体験し、その危険性に対する予知能力を確実に習得することができる玉掛け作業体験装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態である玉掛け作業体験装置を示す一部省略正面図である。
【
図2】
図1に示す玉掛け作業体験装置の一部省略平面図である。
【
図5】
図1に示す玉掛け作業体験装置を構成する吊り荷部材の起伏機能を示す正面図である。
【
図6】
図1に示す玉掛け作業体験装置の一部切欠正面図である。
【
図7】
図1に示す玉掛け作業体験装置の一部切欠正面図である。
【
図8】玉掛け作業における禁則作業である一本吊り作業を示す一部省略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、
図1〜
図7に基づいて本発明の実施形態について説明する。
図1〜
図5に示すように、本実施形態の玉掛け作業体験装置100は、支持手段の一つである支持部材10上に蝶番機構11を介して起伏可能に取り付けられた吊り荷部材12と、吊り荷部材12に係止した紐状体13を介して吊り荷部材12を起伏動作させる昇降機構14と、を備えている。なお、支持手段は支持部材10に限定しないので、蝶番機構11を介して吊り荷部材12を起伏可能に支持することができるものであれば、例えば、地盤、床面、支持部材、支持盤、支持構造体、車体、船体、機体あるいは建築物の躯体などを用いることもできる。
【0022】
支持部材10はH形鋼を縦横に組み合わせて接合して形成された平面視形状が梯子状の部材であり、吊り荷部材12は、所定長さの円筒体12xの両端の開口部12yを円板状の隔壁12a,12bで閉塞することによって形成された空洞状の部材である。吊り荷部材12の外周面には、紐状体13を巻き付けて係止するのに適切な領域を示すための破線状の標線L1,L2が周方向に沿って描かれている。標線L1,L2は吊り荷部材12の軸心12c方向の中心付近に所定間隔をおいて表示され、標線L1,L2の間に吊り荷部材12の重心(図示せず)が位置している。
【0023】
また、蝶番機構11を中心とする吊り荷部材12の起伏動作に伴って当該吊り荷部材12の一部をなす隔壁12bが接近離隔する位置に一対の障害部材15が設けられている。二つの障害部材15は支持部材10の蝶番機構11側の端部10bに吊り荷部材12の軸心12cを挟んで互いに平行をなし、起立した状態で固定されている。
【0024】
吊り荷部材11の隔壁12bが障害部材15に接近したとき両者間(隔壁12bと障害部材15との間)に挟まれる半円柱形状の被圧部材16が障害部材15に複数のネジ19を用いて着脱可能に取り付けられている。被圧部材16は、隔壁12b及び障害部材15よりも軟質の材料で形成されている。なお、障害部材15に限定しないので、被圧部材16を保持できるものであれば、障害部材15以外のもの、例えば、建築物の躯体や壁面あるいは構造体などを用いることもできる。
【0025】
図3及び
図5〜
図7に示すように、吊り荷部材12の倒伏速度を緩和する緩衝機構であるエアシリンダ17が、支持部材10の蝶番機構11と反対側の端部10aに、支持部材10とエアシリンダ17とを互いに接近離隔可能に連接する状態で配置されている。エアシリンダ17の下端部17bは支持部材10の端部10a上に固定された取付部材18bに回動可能に軸支され、エアシリンダ17の上端部17a側は、吊り荷部材12の最下部に開設された孔部12zを貫通して吊り荷部材12内に挿入され、吊り荷部材12内周面の最上部に固定された取付部材18aに上端部17aが回動可能に軸支されている。
【0026】
図6,
図7に示すように、蝶番機構11を中心とする吊り荷部材12の起伏動作に伴い、エアシリンダ17はその長手方向に伸縮可能であり、伸展したエアシリンダ17が収縮するときに減衰機能を発揮する。また、吊り荷部材12の倒伏動作に伴って音声を発する警報機構である警笛20がエアシリンダ17の下端部17b側に付設されている。警笛20は、吊り荷部材12の倒伏動作に伴ってエアリンダ17が収縮する際に、当該エアシリンダ17から排出されるエアによって吹鳴して警報音を発する機能を有する。
【0027】
図1,
図6に示すように、玉掛け作業体験装置100において、玉掛け講習会の受講者などが、紐状体13を吊り荷部材12の周囲に巻き付けて係止し、その上端部を昇降機構14のフック14aに引き掛けた後、昇降機構14を作動させ、
図7に示すように、吊り荷部材12を吊り上げると、吊り荷部材12は蝶番機構11を中心に起き上がり、傾斜した状態となり、所謂「1本吊り作業」の状態を再現することができる。このとき、吊り荷部材12は蝶番機構11を介して支持部材10上に取り付けられているので、吊り荷部材12は一定の傾斜姿勢に安定保持され、搖動したり、回転したりすることがない。
【0028】
このため、受講者は、玉掛け作業における禁則作業である「1本吊り作業」を安全に体験することができる。また、昇降機構14で吊り荷部材12を吊り上げたとき、紐状体13及び吊り荷部材12などは「1本吊り作業」を行ったときと同じ状況となり、「1本吊り作業」が再現されるので、受講者は、「1本吊り作業」の危険性に対する予知能力を確実に習得することができる。
【0029】
また、蝶番機構11を中心とする吊り荷部材12の起伏動作に伴って当該吊り荷部材12の一方の隔壁12bが接近離隔する位置に障害部材15を設けたことにより、「1本吊り作業」を行った場合、吊り上げられる吊り荷部材12の隔壁12bと障害部材15との間に、身体の一部や物品などが挟まれる事故が発生する危険性があることを、視覚をもって認識することができるので、受講者が「1本吊り作業」の危険性に対する予知能力を習得する上で有効である。
【0030】
さらに、玉掛け作業体験装置100においては、吊り荷部材12の隔壁12bが障害部材15に接近したとき両者間に挟まれる被圧部材16を設けているので、吊り上げられる吊り荷部材12と障害部材15との間に、身体の一部や物品などが挟まれたときの状況をさらにリアルに再現することができ、「1本吊り作業」の危険性を、より確実に習得することができる。
【0031】
一方、吊り荷部材12の倒伏速度を緩和するエアシリンダ17を設けたことにより、昇降機構14で吊り上げられた吊り荷部材12を元の姿勢に戻すとき、遅い速度で倒伏させることができるので、安全性の確保に有効である。
【0032】
また、吊り荷部材12の倒伏動作に伴って警報音を発する警笛20を設けたことにより、昇降機構14で吊り上げられた吊り荷部材12の倒伏動作を開始したとき、そのことを周囲に居る者に警報音で通報して、注意を喚起することができるので、安全性確保の観点から有効である。
【0033】
なお、
図1〜
図7に基づいて説明した玉掛け作業体験装置100は、本発明の一例を示すものであり、本発明の玉掛け作業体験装置は前述した玉掛け作業体験装置100に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の玉掛け作業体験装置は、各種機械金属産業あるいは様々な製造業などの分野において玉掛け作業を行う従業員などが受講する玉掛け講習会や玉掛け技能講習などにて広く利用することができる。
【符号の説明】
【0035】
10 支持部材
10a,10b 端部
11 蝶番機構
12 吊り荷部材
12a,12b 隔壁
12c 軸心
12x 円筒体
12y 開口部
12z 孔部
13 紐状体
14 昇降機構
14a フック
15 障害部材
16 被圧部材
17 エアシリンダ
17a 上端部
17b 下端部
18a,18b 取付部材
19 ネジ
20 警笛