特許第5989511号(P5989511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989511
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】電線と端子の接続方法
(51)【国際特許分類】
   H02G 1/14 20060101AFI20160825BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20160825BHJP
   H01B 13/012 20060101ALI20160825BHJP
   H01R 4/02 20060101ALI20160825BHJP
   H01R 43/02 20060101ALI20160825BHJP
   B23K 11/00 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   H02G1/14
   H01B7/00 307Z
   H01B13/00 513A
   H01B7/00 306
   H01R4/02 C
   H01R43/02 B
   B23K11/00 561
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-251097(P2012-251097)
(22)【出願日】2012年11月15日
(65)【公開番号】特開2014-100019(P2014-100019A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年8月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】596008817
【氏名又は名称】ナグシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167977
【弁理士】
【氏名又は名称】大友 昭男
(72)【発明者】
【氏名】長嶺 政隆
(72)【発明者】
【氏名】和田 圭司
【審査官】 木村 励
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−9794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/14
H01B 7/00
H01B 13/012
H01R 4/02
H01R 43/02
B23K 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアルミニウム製の細線を束ねた電線の接続部を、アルミニウム製の帯材により覆って、この帯材を加圧しながら帯材および帯材内の電線をアルミニウム材料についての通常の半田およびフラックスを用いない抵抗溶接よりも長時間で低電力の通電により軟化させ、これらの絶縁性皮膜を部分的に破壊することにより、前記帯材と導通可能な状態にする熱処理工程と、
前記帯材がアルミニウム製または銅製の端子板に、前記導通可能な状態で、前記熱処理工程よりも短時間で高電力の通電による前記通常の抵抗溶接を行なう溶接工程とを備えている、端子と電線の接続方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の金属製の細線を束ねた電線を端子に接続する電線の端子構造、および電線と端子の接続方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電線としては、銅や銅合金などが多く用いられている。その一方、アルミニウムは電導性もよく、銅などに比べて軽量かつ安価であるので、電線にアルミニウムやアルミニウム合金などを用いることができれば利点が多い。
【0003】
複数のアルミニウム製の細線を束ねた電線を端子に接続する方法としては、一般にアルミニウム製の電線を端子に半田付けして接続することが多い。この場合、アルミニウム表面には強固な絶縁性の酸化皮膜(酸化アルミニウム)が存在するため、この半田付けにおいて電線を加熱する時に、フラックスで電線表面を活性化し酸化皮膜が生成されるのを防止して、半田付けすることが知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
ところで、従来から一対の電極で金属材料を挟み、加圧しながら大電流を短時間流して、金属の抵抗発熱を利用し、ナゲット(合金層)を生成して溶融接続する抵抗溶接が知られている。この方法では短時間で効率的に溶接して、仕上がり外観の良い溶接が可能となり、半田やフラックスを不要とすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−182566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のように、アルミニウム製の電線表面に絶縁性の酸化皮膜が存在するため、半田やフラックスを用いない抵抗溶接では、電極間でアルミニウム電線と端子とが導通しないことから、この溶接部分で爆飛を発生する場合があり、抵抗溶接を使用してアルミニウム製の電線の端子接続を実現するのが困難であった。また、アルミニウム製の電線を直接加圧すると、銅に比べて強度が低いため、電線が当該加圧により折れてしまう場合もあった。
【0007】
本発明は、絶縁性皮膜のある電線であっても、抵抗溶接を使用して、強固に複数の金属製の細線を束ねた電線を端子に接続する電線の端子構造、および電線と端子の接続方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一構成に係る電線の端子構造は、複数の金属製の細線を束ねた電線の接続部が、前記細線と同一種の金属からなる帯材により覆われて、この帯材を加圧しながら帯材および帯材内の電線を熱処理により軟化させ、これらの絶縁性皮膜を部分的に破壊することにより、前記帯材と導通可能な状態にされている。前記帯材は、前記金属と同一種または異種の金属からなる端子板に、前記導通可能な状態で、抵抗溶接により溶接されている。
【0009】
この構成によれば、帯材を加圧しながら帯材および帯材内の電線の絶縁性皮膜を熱処理により軟化させて部分的に破壊して、導通可能な状態で、抵抗溶接により溶接するので、従来実現不能であった抵抗溶接による電線の端子構造を実現することができる。また、電線は帯材を介して加圧されるので、電線の折れを防止できる。これにより、絶縁性皮膜のある電線であっても、電線と端子を、抵抗溶接によって短時間で効率的に溶接して、仕上がり外観が良く強固に溶接できる。
【0010】
好ましくは、前記細線と帯材がアルミニウム製である。また、前記端子板がアルミニウム製または銅製である。したがって、異種金属であっても、電線と端子の強固な溶接が可能となる。
【0011】
本発明の他の構成に係る端子と電線の接続方法は、複数の金属製の細線を束ねた電線の接続部を、前記細線と同一種の金属からなる帯材により覆って、この帯材を加圧しながら帯材および帯材内の電線を長時間で低電力の通電により軟化させ、これらの絶縁性皮膜を部分的に破壊することにより、前記帯材と導通可能な状態にする熱処理工程と、前記帯材が前記金属と同一種または異種の金属からなる端子板に、前記導通可能な状態で、前記熱処理工程よりも短時間で高電力の通電により抵抗溶接する溶接工程とを備えている。
【0012】
この構成によれば、熱処理工程により、帯材を加圧しながら帯材および帯材内の電線の絶縁性皮膜を熱処理により軟化させて部分的に破壊して、導通可能な状態とし、溶接工程により、この導通可能な状態で、抵抗溶接により溶接するので、従来実現不能であった抵抗溶接による端子と電線の接続方法を実現することができる。また、電線は帯材を介して加圧されるので、電線の折れを防止できる。これにより、絶縁性皮膜のある電線であっても、電線と端子を、抵抗溶接によって短時間で効率的に溶接して、仕上がり外観が良く強固に溶接できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、絶縁性皮膜のある電線であっても、電線と端子を、抵抗溶接によって短時間で効率的に溶接して、仕上がり外観が良く強固に溶接できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(A)は本発明の一実施形態にかかる電線の端子構造を示す展開図、(B)は電線と端子の接続前の状態を示す斜視図、(C)は完成した電線の端子構造を示す斜視図である。
図2】電線の端子構造を実現するための抵抗溶接装置を示す模式図である。
図3】(A)、(B)は電線の端子構造を説明する斜視図である。
図4】(A)〜(C)は、本発明の他の実施形態にかかる端子と電線の接続方法を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。図1(A)は本発明の一実施形態にかかる電線の端子構造を示す展開図、(B)は電線と端子の接続前の状態を示す斜視図、(C)は完成した電線の端子構造を示す斜視図である。図1(A)のように、電線接続用の端子1は、電線4と同一種の金属の材質からなり、コネクタ部2および端子板3を有する。図1(B)のように、電線4は、その接続部5が端子1の端子板3に接続される。コネクタ部2と電線4の接続部5は、電線4の長手方向と合致した方向に沿って並んでいる。
【0016】
図1(A)のように、電線4は複数の金属製の細線、例えばアルミニウム製の細い(外径1〜3mm程度)丸線を多数束ねたものからなる。なお、外径30mm程度までの丸線にも適用できる。端子1は、これと同一種のアルミニウムの1枚の板材からなり、電線4の接続部5も、これと同一種のアルミニウムからなる例えば円筒状の帯材(以下、パイプという)6により覆われている。この例では、金属材料としてアルミニウムを使用しているが、アルミニウム合金またはアルミニウム系複合材料を使用してもよい。
【0017】
図2は、この実施形態で使用される抵抗溶接装置の模式図を示す。この周知の装置は、上下方向にそれぞれ移動自在な一対の抵抗溶接電極10、11と、溶接用電源12と、電極10、11に通電する通電制御部13とを備えており、電極10、11間にアルミニウム製の電線4および端子1を挟んで、通電制御部13の制御により、溶接用電源12から溶接電流を流して抵抗溶接を行う。抵抗溶接では、通常、電極10、11間で加圧しながら溶接電流を数十アンペア〜数万アンペアの大電流で、数msec〜数百msecの短時間流して行われる。この場合、電圧は数ボルトである。アルミニウムの抵抗発熱を利用してナゲット(合金層)が生成され、アルミニウム製の電線4および端子1が溶融接続される。
【0018】
まず、この抵抗溶接装置を使用して、図1(B)のパイプ6が加圧された状態で、パイプ6およびパイプ6内の電線4は長時間で低電力の通電による熱処理で加熱されて軟化される。ここで、長時間とは、アルミニウム材料についての通常の抵抗溶接の時間に対して数百倍ほど長い時間をいう。また、低電力とは、アルミニウム材料についての通常の抵抗溶接の電力よりも低い電力をいい、通常の大電流よりも低い数千アンペアの大電流で、かつ通常の電圧よりも若干低い電圧からなる電力をいう。この加圧および軟化により、アルミニウム製のパイプ6およびパイプ6内の電線4は、変形して酸化皮膜が部分的に破壊されることにより、導通可能な状態にされる。図1(C)のように、加圧および軟化により、パイプ6およびアルミニウム電線4は、略U字状に押しつぶされた状態で変形している。
【0019】
抵抗溶接装置は、図3(A)のように、例えば上方の電極10が平坦な接触面をもつ通常の形状を有し、下方の電極11の先端部11aがパイプ6を略U字状に押しつぶすための形状を有しており、先端部11aの長さL1はパイプ6の長手方向長さLよりも若干短く設けられている(L1<L)。図3(B)のように、この電極11の先端部11aによりパイプ6(およびパイプ6内の電線4)が押しつぶされて、押しつぶされる底面7と立上る両側面8、8とで、縦断面が略U字状に形成される。
【0020】
この熱処理による加熱により、アルミニウムの再結晶温度150〜200℃を超えて、アルミニウム製の電線4およびパイプ6に再結晶による軟化が発生したものとみられる。そして、アルミニウム製の電線4およびパイプ6は、この軟化に伴う膨張によってこれらの酸化皮膜に大きな引張力が付加され、電極10、11による加圧と相俟って変形して、酸化皮膜が部分的に破壊され、導通可能な状態になったものと想定される。
【0021】
また、この熱処理および後述の抵抗溶接において、図1(B)のアルミニウム製の電線4はパイプ6を介して加圧されるので、パイプ6内の電線4は直接加圧されないことから、電線4を折れにくくできる。また、電線4は多数の細線からなるため、ばらけやすいところ、パイプ内でまとまった状態を保持するので、取り扱いが容易となる。さらに、電線4と電極10、11間にパイプ6が介在していることから、電極10、11にアルミニウム製の電線4が固着するのを防止できる。
【0022】
そして、アルミニウム製の電線4とパイプ6が導通可能な状態で、パイプ6が、アルミニウム製の端子板3に、前記熱処理よりも短時間で高電力の通電により抵抗溶接される。ここで、短時間とは、アルミニウム材料についての通常の抵抗溶接の時間をいう。また、高電力とは、アルミニウム材料についての通常の抵抗溶接の電力をいい、通常の大電流、かつ通常の電圧からなる電力をいう。
【0023】
上記抵抗溶接により、電線4の各丸線間にナゲット(合金層)が形成されて、電線4の接続部5が、パイプ6を介して端子1の端子板3に強固に溶接される。
【0024】
このように、この実施形態では、パイプ(帯材)を加圧しながらパイプおよびパイプ内の電線の絶縁性皮膜を熱処理により軟化させて部分的に破壊して、導通可能な状態で、抵抗溶接により溶接するので、従来実現不能であった抵抗溶接による電線の端子構造を実現することができる。また、電線はパイプを介して加圧されるので、電線の折れを防止できる。これにより、絶縁性皮膜のある電線であっても、電線と端子を、抵抗溶接によって短時間で効率的に溶接して、仕上がり外観が良く強固に溶接できる。
【0025】
なお、この例では、アルミニウム製の電線4は多数の丸線の束を使用しているが、これに代えて、角線の束、撚り線の束およびアルミ箔被覆線の束などを使用してもよい。また、角線の束の場合、パイプ6を略四角筒状に形成してもよい。
【0026】
また、帯材としてパイプ6を使用しているが、板材を電線に巻き付けたものを使用してもよい。
【0027】
図4(A)〜(C)は、他の実施形態にかかる端子と電線の接続方法を示す側面図である。まず、図4(A)のように、抵抗溶接装置の両電極10、11間に、電線4を覆うパイプ6および端子1が挟まれて保持される。
【0028】
つぎに、図4(B)のように、熱処理工程では、電極10、11によりパイプ6が例えば1000Nで加圧され、この加圧状態で、パイプ6およびパイプ6内の電線4は、例えば3〜4secの長時間で、5000Aのような低電流および3〜4Vのような低電圧からなる低電力の通電による加熱により軟化されて、導通可能な状態となる。
【0029】
この熱処理工程とつぎの溶接工程の時間間隔は、例えば10〜20msecのような短時間が好ましい。つまり、アルミニウム製の電線4およびパイプ6は加熱状態を維持し、ほとんど冷まされないで、抵抗溶接される。
【0030】
最後に、図4(C)のように、溶接工程では、パイプ6およびパイプ6内の電線4が導通可能な状態で、電極10、11によりパイプ6が例えば1000Nで加圧され、この加圧状態で、パイプ6およびパイプ6内の電線4は、例えば10〜30msecの短時間で、14000〜15000Aのような大電流および37Vのような高電圧からなる高電力の通電により、抵抗溶接される。これにより、電線4の各丸線間にナゲットが形成されて、電線4の接続部5が、パイプ6を介して端子1の端子板3に強固に溶接される。
【0031】
このように、この実施形態では、抵抗溶接装置を用いて、熱処理工程により、パイプ(帯材)を加圧しながらパイプおよびパイプ内の電線の絶縁性皮膜を熱処理により軟化させて部分的に破壊して、導通可能な状態とし、溶接工程により、この導通可能な状態で、抵抗溶接により溶接するので、従来実現不能であった抵抗溶接による端子と電線の接続方法を実現することができる。また、電線はパイプを介して加圧されるので、電線の折れを防止できる。これにより、絶縁性皮膜のある電線であっても、電線と端子を、抵抗溶接によって短時間で効率的に溶接して、仕上がり外観が良く強固に溶接できる。
【0032】
なお、上記実施形態では、抵抗溶接装置の抵抗溶接電極10、11を使用して、熱処理を行っているが、別の装置で同等の熱処理を行うようにしてもよい。
【0033】
なお、上記実施形態では、電線4がアルミニウム、アルミニウム合金またはアルミニウム系複合材料で、端子板3も同一種の材料としているが、端子板3を異種の銅、銅合金または銅系複合材料としてもよい。この場合、電線4と端子3間で電触が生じて電線が腐食するおそれがあるが、例えば銅製の端子板3をすずメッキすることにより、電触を防止することができる。また、電線4を銅、銅合金または銅系複合材料としてもよい。
【符号の説明】
【0034】
1:電線接続用の端子
2:コネクタ部
3:端子板
4:電線
5:電線の接続部
6:帯材(パイプ)
10、11:抵抗溶接電極
12:溶接用電源
13:通電制御部


図1
図2
図3
図4