特許第5989518号(P5989518)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大日精化工業株式会社の特許一覧 ▶ 浮間合成株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989518
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】2液型塗工剤および合成擬革
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/14 20060101AFI20160825BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20160825BHJP
   C09D 175/04 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   D06N3/14 102
   C08G18/10
   C09D175/04
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-258019(P2012-258019)
(22)【出願日】2012年11月26日
(65)【公開番号】特開2014-105250(P2014-105250A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2014年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000238256
【氏名又は名称】浮間合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100175787
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 龍也
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100169812
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛志
(72)【発明者】
【氏名】柏村 雅司
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一弥
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩正
【審査官】 久保田 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−133020(JP,A)
【文献】 特開2007−126510(JP,A)
【文献】 特開昭60−161415(JP,A)
【文献】 特開2010−144066(JP,A)
【文献】 特開平04−055420(JP,A)
【文献】 特開昭60−092363(JP,A)
【文献】 特開2010−189797(JP,A)
【文献】 特開2003−073984(JP,A)
【文献】 特開2010−059362(JP,A)
【文献】 特表2012−522063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06N 3/14
C08G 18/00− 18/87
C09D 4/00−201/10
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成擬革の表皮層或いは接着剤層を形成するための、ウレタンプレポリマー組成物と、ポリイソシアネート架橋剤とからなる2液型塗工剤であり、
前記ウレタンプレポリマー組成物が、
その成分中の活性水素に前記架橋剤を反応させて高分子量化されるものであり、
少なくとも、水酸基価10〜100mgKOH/gの水酸基末端ウレタンプレポリマーを20〜80質量%含有し、さらに、該プレポリマーの媒体として、前記架橋剤と架橋し得る、水酸基価20〜400mgKOH/gのウレタン結合をもたないオリゴマーを20〜80質量%を含有してなり、かつ、実質的に不揮発分100%で、少なくとも30℃の温度で液状のものであり(ただし、炭酸カルシウムを15〜68質量%含む場合を除く)
前記ウレタンプレポリマー組成物の平均水酸基価に対して、NCO含有量が5〜35質量%のポリイソシアネート架橋剤を90〜150当量%含有してなることを特徴とする2液型塗工剤。
【請求項2】
前記水酸基末端ウレタンプレポリマーが、オリゴマーと、グリコール成分とイソシアネート化合物との反応物である請求項1に記載の2液型塗工剤。
【請求項3】
前記水酸基末端ウレタンプレポリマーが、1分子当たりの官能基数が2又は3、前記ウレタン結合をもたないオリゴマーが、1分子当たりの官能基数が2又は3、の少なくともいずれかである請求項1又は2に記載の2液型塗工剤。
【請求項4】
基材と表皮層とからなり、該表皮層が、請求項1〜3のいずれか1項に記載の2液型塗工剤によって形成されてなることを特徴とする合成擬革。
【請求項5】
基材と接着剤層と表皮層とからなり、接着剤層および表皮層が、請求項1〜3のいずれか1項に記載の2液型塗工剤によって形成されてなることを特徴とする合成擬革。
【請求項6】
前記表皮層の表面に、さらに水系表面処理剤を塗布してなる請求項4又は5に記載の合成擬革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタンプレポリマー組成物、該組成物とポリイソシアネート架橋剤とからなる2液型塗工剤および該塗工剤を用いてなる合成擬革に関する。さらに詳しくは、環境に対して影響が大きい、有機溶剤を使用しない実質的に不揮発分100%の、ウレタンプレポリマー組成物、該組成物を用いた2液型塗工剤および該塗工剤を用いてなる合成擬革に関する。本発明において、合成擬革とは、人工皮革、合成皮革、レザーのいずれかのことである。
【背景技術】
【0002】
従来、環境対応型のウレタン樹脂としては、例えば、水系タイプ(特許文献1参照)、TPU(熱可塑性ポリウレタン樹脂エラストマー)タイプ、湿気硬化型等のホットメルトタイプ(特許文献2参照)、NCO基ブロックタイプ(特許文献3参照)、紫外線(エネルギー線)硬化タイプ(特許文献4参照)などが公知である。これらは、いずれも合成擬革の製造に使用されている。
【0003】
しかしながら、上記した環境対応型のウレタン樹脂は、それぞれ以下のような課題がある。水系タイプは、皮膜を形成するに当たり、塗工液中に含まれる水を蒸発除去する工程が必須である。また、ホットメルトタイプやTPUタイプは、それぞれ100〜150℃、200〜250℃で、加熱溶融することが必要である。このため、塗工液として使用可能な、いわゆる可使時間についての制約を受けるという課題もある。また、紫外線硬化タイプは、常温で塗工液として扱うことができるため、上述したような問題はないものの、塗装膜への紫外線透過が不充分な場合には硬化むらが発生し、特に厚膜を良好な状態で作製するのが困難であるという課題がある。また、NCO基ブロックタイプの場合は、硬化時にブロック剤が解離することで塗膜が形成されるため、解離したブロック剤が放出するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−088662号公報
【特許文献2】特開2003−049147号公報
【特許文献3】特開2006−070058号公報
【特許文献4】特開2010−189797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、上記した従来技術の課題を解決したウレタンプレポリマー組成物を提供することである。より具体的には、紫外線硬化タイプやNCO基ブロックタイプにおける課題を生じることのない、その成分中の活性水素に架橋剤を反応させて高分子量化して用いられるタイプのウレタンプレポリマーであり、しかも、有機溶剤や水を使用せず無溶剤で、30℃から液状で、30℃〜80℃の温度で取り扱うことが可能な、可使時間における制約が少なく、さらに大気中への揮発性有機物質の放出が殆ど起こらない、環境対応型のウレタンプレポリマー組成物を提供することである。また、本発明の別の目的は、上記特性を有するウレタンプレポリマー組成物と、特にポリイソシアネート架橋剤とからなる2液型塗工剤、該塗工剤によって表皮層や接着剤層を形成してなる合成擬革を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、その成分中の活性水素に架橋剤を反応させて高分子量化して用いられるウレタンプレポリマー組成物であって、少なくとも、水酸基価10〜100mgKOH/gの水酸基末端ウレタンプレポリマーを20〜80質量%含有し、さらに、該ポリマーの媒体として、上記架橋剤と架橋し得る、水酸基価20〜400mgKOH/gのウレタン結合をもたないオリゴマーを20〜80質量%を含有してなり、かつ、実質的に不揮発分100%で、少なくとも30℃の温度で液状であることを特徴とするウレタンプレポリマー組成物。
【0007】
上記において好ましいウレタンプレポリマー組成物の形態としては、前記水酸基末端ウレタンプレポリマーが、オリゴマーと、グリコール成分とイソシアネート化合物との反応物であること;少なくとも、前記水酸基末端ウレタンプレポリマーが、1分子当たりの官能基数が2又は3、前記ウレタン結合をもたないオリゴマーが、1分子当たりの官能基数が2又は3、の少なくともいずれかであること;前記ポリマーの媒体として用いるオリゴマーに、さらに、短鎖グリコールを混合させることが挙げられる。
【0008】
本発明は、別の実施形態として、上記のウレタンプレポリマー組成物の平均水酸基価に対して、NCO含有量が5〜35質量%のポリイソシアネート架橋剤を90〜150当量%含有してなることを特徴とする2液型塗工剤を提供する。
【0009】
本発明は、別の実施形態として、基材と表皮層とからなり、該表皮層が、上記の2液型塗工剤によって形成されてなることを特徴とする合成擬革を提供する。
【0010】
本発明は、別の実施形態として、基材と接着剤層と表皮層とからなり、接着剤層および表皮層が、上記の2液型塗工剤によって形成されてなることを特徴とする合成擬革を提供する。上記において好ましい合成擬革の形態としては、前記表皮層の表面に、さらに水系表面処理剤を塗布してなることが挙げられる。
【0011】
また、本発明のウレタンプレポリマー組成物を架橋剤とともに用いてなる2液型塗工剤は、当該塗工剤を離型紙に塗布し、加熱硬化後に合成擬革中間製品の表面に加熱圧着して表皮を造面する合成擬革の製造方法、或いは、直接塗布後に塗工剤を加熱硬化して表皮層を形成する合成擬革の製造方法に好適に用いることができる。また、本発明のウレタンプレポリマー組成物を架橋剤とともに用いてなる2液型塗工剤は、該塗工剤を離型紙に塗布し、加熱硬化後に形成された表皮層表面(離型紙に接している面の反対側の面)に、さらに、接着剤層として、当該塗工剤を塗布し、これを、不織布、織物、編み物などの基材に貼り合わせた後、加熱硬化して合成擬革を作製する合成擬革の製造方法に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、有機溶剤や水を使用することなく無溶剤で、さらには、少なくとも30℃の温度で液状であり、30℃〜80℃の温度で取り扱うことができる、可使時間による制約が少なく作業性に優れ、かつ、得られる塗膜が安定した良好な品質のものになる塗工剤が得られ、該塗工剤を用いることで環境対応型の合成擬革製品の提供を可能にする、有用なウレタンプレポリマー組成物が提供される。本発明のウレタンプレポリマー組成物は、有機溶剤や水が配合されていないので、例えば、合成擬革の製造に用いた場合に、溶剤の蒸発除去工程を省くことができ、これを、例えば、合成擬革の表皮層や接着剤層の形成に用いれば、その製造の際に問題となっていた揮発性有機物が大気中に放出されることが殆ど起こらないため、環境対応型の製品が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。
本発明のウレタンプレポリマー組成物は、その成分中の活性水素に、例えば、ポリイソシアネート等の架橋剤を反応させて高分子量化して用いられるウレタンプレポリマー組成物であり、水酸基価10〜100mgKOH/gの水酸基末端ウレタンプレポリマーを20〜80質量%含有し、さらに、該ポリマーの媒体として、水酸基価20〜400mgKOH/gのウレタン結合をもたないオリゴマーを20〜80質量%を少なくとも含有してなり、かつ、実質的に不揮発分100%で、少なくとも30℃の温度で液状であることを特徴とする。ここで、本発明で言う「実質的に不揮発分100%」とは、従来のポリウレタン溶液で使用する反応や希釈のための溶剤は使用していないが、残留する未反応モノマーなどの揮発成分を含むことを意味し、残留する揮発成分が5%以下の状態を言う。
【0014】
本発明者らは、先述した従来技術の課題を解決すべく鋭意検討した結果、その固形分が実質的に100質量%で無溶剤の、上記特有の水酸基価を有するオリゴマー/ウレタンプレポリマーからなる組成物は、これらの成分中の活性水素に、ポリイソシアネート架橋剤等の架橋剤を反応させて高分子量化する2液型塗工剤の材料とした場合に、得られる塗工剤は、例えば、合成擬革の接着剤層や表皮層の形成用として極めて有用なものになることを見出し、本発明に至った。すなわち、当該組成物は、少なくとも30℃の温度で液状であり、より具体的には30℃〜80℃の温度で液状であるので、上記塗工剤とした場合に、その可使時間が長く、塗工を良好な状態に行うことができ、形成される接着剤層や表皮層は特性に優れたものになり、この結果、諸性能に優れる合成擬革が得られる。
【0015】
以下、本発明を達成した経緯について説明する。
一般に、固形分100%(すなわち、無溶剤)の水酸基を含有するウレタンプレポリマーに、例えば、ポリイソシアネート架橋剤を含有させた組成物を塗布する場合には、該組成物の粘度を塗布可能な粘度まで下げる目的で、80℃〜130℃の温度で加熱する必要がある。このため該組成物は、可使時間が短いという制約があり、その作業性に劣るとともに、形成した塗膜の特性に劣るという問題がある。一方、オリゴマー、モノマー(短鎖グリコール)と、ポリイソシアネート架橋剤とからなるワンショット混合の組成物の場合は、粘度が低く、上記した加熱工程を簡略化することができるが、得られた合成擬革の性能は、満足に値するものにならないという問題がある。
【0016】
一般に、ウレタンプレポリマーを固形分100%で、30℃において液状となるように設計するには、その形成成分に、30℃で非結晶体のポリオールやジイソシアネート化合物を使用し、かつ、プレポリマーの分子量を短くするという制約がある。しかし、本発明者らの検討によれば、このようにして得られたプレポリマーは、そのままの状態で塗工できるが、この場合は、低分子量であることに由来するプレポリマーの流動性によって、形成した塗膜(塗工液)の一部が流れて波紋状模様を作る、いわゆる「塗膜の流れ現象」が起こり、均一な皮膜を形成させることができない。このため、上記プレポリマーを用いた塗工液によって得たものは、合成擬革としての品質を保てない。
【0017】
一方、ウレタンプレポリマーの分子量を長くすると、上記した塗膜の流れ現象の問題は改善されるものの、この場合は、該プレポリマーを塗工粘度まで下げるために、80℃よりも高い温度での高温加熱が必要となり、その可使時間が極端に短くなって、良好な塗工が難しくなる。
【0018】
従って、プレポリマーが低分子量であることに由来する塗工液の流れ現象を防止し、合成擬革の接着剤層や表皮層の形成に用いた場合に、得られる合成擬革の性能を安定させるためには、ウレタンプレポリマーの分子量を、上記した問題が生じない安定領域まで大きくしながらも、塗工する際の取り扱い温度を低く抑えられる組成物であることが望まれる。
【0019】
本発明者らは、上記した観点から鋭意検討した結果、水酸基価10〜100mgKOH/gの水酸基末端ウレタンプレポリマーを用い、さらに、該プレポリマーの媒体として、例えば、ポリイソシアネート等の架橋剤と架橋し得る、水酸基価20〜400mgKOH/gのウレタン結合をもたないオリゴマーを併用してウレタンプレポリマー組成物を構成し、該組成物をポリイソシアネート架橋剤等の架橋剤で高分子量化することで、これらの問題の解決が可能になることを見出して本発明に至った。
【0020】
さらに、本発明者らは、上記ウレタンプレポリマーと、その媒体となる上記オリゴマーとの混合組成中におけるウレタンプレポリマーの質量含有比率は、ウレタンプレポリマーの組成や、媒体として用いるオリゴマーの種類によって最適な量は異なるものの、ウレタンプレポリマーを20〜80%質量以上の範囲で含有させることが必要であることを見出した。より好ましくは35%以上であり、上記範囲内であれば任意に設定できる。すなわち、ウレタンプレポリマーが20%未満の含有量では、プレポリマーの媒体として用いるオリゴマーの量が多くなり過ぎて、ウレタンプレポリマーで充分に補うことが困難となり、該組成物を合成擬革の表皮層等の形成に用いた場合に、得られた合成擬革は、耐摩耗性に劣るものになる。一方、80%を超えると、ポリイソシアネート架橋剤を反応させて該組成物を高分子量化させて用いる際に、反応中に高粘度となり内部ゲル化物等が発生するため、高品質の製品の提供ができなくなる。なお、後述するように、本発明のウレタンプレポリマー組成物は、形成した皮膜の強度と耐久性能の向上のために、短鎖グリコールをオリゴマーと混合して使用することができるが、短鎖グリコールの混合比率が高くなり過ぎると、形成した合成擬革の耐寒伸縮性が低下するので、短鎖グリコールを併用する場合は、この点に注意を要する。
【0021】
すなわち、本発明では、30℃の温度で液状となるように設計された、30〜80℃で塗工可能な、上記した範囲の混合比率の、各成分が特定の水酸基価を有するウレタンプレポリマー組成物を用い、例えば、合成擬革の表皮層或いは接着剤層を形成する際に、上記オリゴマーとウレタンプレポリマーがそれぞれに有する活性水素に、ポリイソシアネート架橋剤等の架橋剤を反応させる方法で、当該組成物を高分子量化することで、優れた合成擬革を得ることを可能にした。以下、本発明のウレタンプレポリマー組成物の詳細と、該組成物を用いて得られる合成擬革について説明する。
【0022】
[ウレタンプレポリマー組成物]
本発明のウレタンプレポリマー組成物は、水酸基価10〜100mgKOH/gの水酸基末端ウレタンプレポリマーを含有し、該ポリマーの媒体として水酸基価20〜400mgKOH/gのオリゴマーを併用し、前記したように、それぞれ特定の割合で含有してなる。さらに、該組成物は、実質的に不揮発分100%で、少なくとも30℃の温度で液状であることを特徴とする。ここで、本発明のウレタンプレポリマー組成物は、30℃の温度で液状であることを特徴とするが、特に30℃での粘度によって規定されるものではない。以下、該組成物を構成する材料について説明する。なお、上記構成を有する本発明のウレタンプレポリマー組成物は、以下、該組成物と記載する場合がある。
【0023】
(水酸基末端ウレタンプレポリマー)
本発明のウレタンプレポリマー組成物を構成する水酸基末端ウレタンプレポリマーは、その水酸基価が10〜100mgKOH/gであるが、さらには20〜100mgKOH/gであることが好ましい。水酸基価が100mgKOH/gを超えると、例えば、該組成物を合成擬革の表皮層等に用いた場合に、前記した塗膜の流れ現象が起こり、均一な皮膜を形成させることができず、合成擬革としての品質を保てない。一方、その水酸基価が10mgKOH/g未満である場合は、ポリイソシアネート架橋剤を反応させて該組成物を高分子量化させて用いる際に、反応中に高粘度となり内部ゲル化物等が発生するため、高品質の製品の提供ができなくなる。
【0024】
本発明を構成する水酸基末端ウレタンプレポリマーは、ポリオール等のオリゴマーと、イソシアネート化合物とを反応させることにより合成することができるが、特に、オリゴマーとグリコール成分とイソシアネート化合物との反応物であることが好ましい。この際に用いるオリゴマーとしては、ポリオール等が挙げられる。例えば、合成擬革の表皮層や接着剤層を形成するためにより好適なものとしては、上記ウレタンプレポリマーを、オリゴマーであるポリオールと、短鎖グリコールと、イソシアネート化合物とで形成した共重合体とすることが挙げられる。このように構成することで、得られる合成擬革は、耐摩耗性能、耐寒伸縮性能等、市場で求められる性能をより高いレベルで満たすものになる。
【0025】
<ポリオール>
本発明を構成する水酸基末端ウレタンプレポリマーを製造する際に使用可能なポリオールとしては、例えば、ポリカーボネート系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、ブタジエン系ポリオール、ポリアクリルポリオール、油脂変性ポリオール、シリコーン変性ポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリバレロラクトンポリオールなど、またはこれらの混合物等が挙げられる。これらの中からポリオールを選択してウレタンプレポリマーを製造する場合、該プレポリマーと、媒体として用いるオリゴマーとを混合してなる本発明のウレタンプレポリマー組成物に30℃で流動性を与えるため(すなわち、30℃の温度で液状であるようにするため)には、30℃において液状をなすポリオールを選択するか、製造したウレタンプレポリマーを媒体であるオリゴマーと混合した際に、液状をなす組成となるものを選択することが好ましい。また、先にも述べたように、本発明を構成する水酸基末端ウレタンプレポリマーを製造する際には、例えば、ポリイソシアネート架橋剤を反応させて該組成物を高分子量化することで得られる高分子量化皮膜の強度と耐久性能の向上のために、上記に挙げたようなポリオールと短鎖グリコールを共重合させることも好ましい形態である。なお、上記したウレタンプレポリマーの製造に用いることのできる短鎖グリコールの詳細については、後述する。
【0026】
上記に挙げた水酸基末端ウレタンプレポリマーを製造する際に使用可能なポリカーボネート系ポリオールとしては、例えば、後述するような短鎖グリコール類と、ジアルキルカーボネートやアルキレンカーボネートなどとの、単独若しくはこれらの混合物を、縮合反応することにより得られるポリオールなどが挙げられる。これらにおいても、先述したように、ウレタンプレポリマー組成物に30℃で流動性を与えるために、30℃において液状をなすポリカーボネート系ポリオールを選択するか、製造したウレタンプレポリマーを媒体であるオリゴマーと混合した際に、液状をなす組成となるものを選択することが好ましい。より具体的なものとしては、1,5ペンタンジオール/1,6ヘキサンジオール=50/50(モル比)のコーポリカーボネートジオールなどが挙げられる。
【0027】
上記に挙げた水酸基末端ウレタンプレポリマーを製造する際に使用可能なポリエーテル系ポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコールなどが挙げられる。上記したものの他、低分子のポリオールやグリコール類とエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン(以下、THFと略記)などを、単独もしくはこれらの混合物を、公知の方法により付加重合することで得られる共重合体が挙げられる。これらにおいても、先述したように、ウレタンプレポリマー組成物に30℃で流動性を与えるために、30℃において液状をなすポリエーテル系ポリオールを選択するか、製造したウレタンプレポリマーを媒体であるオリゴマーと混合した際に、液状をなす組成となるものを選択することが好ましい。より具体的には、例えば、ポリ−THF、THF−ネオペンチルグリコール共重合ポリオールなどが挙げられる。
【0028】
上記に挙げた水酸基末端ウレタンプレポリマーを製造する際に使用可能なポリエステル系ポリオールとしては、例えば、後述する短鎖グリコール類と二塩基酸との縮合物の他、ポリオール類、グリコール類を開始剤としてラクトンを開環重合させて得られる、ポリラクトンジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリメチルバレロラクトンジオールなどのラクトン系ポリオールが挙げられる。前記した二塩基酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、酒石酸、シュウ酸、マロン酸、ピメリン酸、スベリン酸、グルタコン酸、アゼライン酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸、α−ハイドロムコン酸、β−ハイドロムコン酸、α−ブチル−α−エチルグルタル酸、α,β−ジエチルサクシン酸などを、単体で、又は2種以上で用いることができる。これらにおいても、先述したように、ウレタンプレポリマー組成物に30℃で流動性を与えるために、30℃において液状をなすポリオールを選択するか、製造したウレタンプレポリマーを媒体であるオリゴマーと混合した際に、液状をなす組成となるものを選択することが好ましい。
【0029】
<短鎖グリコール>
前記したように、本発明を構成する水酸基末端ウレタンプレポリマーを製造する際には、本発明の組成物を高分子量化して形成した皮膜の強度と耐久性能の向上のために、上記したポリオールとともに、短鎖グリコールを共重合させることができる。この際に使用することができる短鎖グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族グリコール、ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、シクロヘキサン−1,4ジオールなどの脂環族グリコール、キシリレングリコールなどの芳香族グリコールなどが挙げられる。
【0030】
<イソシアネート化合物>
本発明を構成する水酸基末端ウレタンプレポリマーは、上記したようなポリオール等にイソシアネート化合物を反応させることにより合成することができる。水酸基末端ウレタンプレポリマーを製造する際に使用可能なイソシアネート化合物としては、例えば、下記のものが挙げられる。4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、ジフェニルスルホンジイソシアネート、などの芳香族ジイソシアネートや、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンメチルエステルジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、1,5−オクチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートなどの脂肪族、およびイソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−メチレンジシクロヘキシルジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネートなどの脂環族ジイソシアネートなどである。
【0031】
上記に列挙したイソシアネート化合物の中でも、合成したウレタンプレポリマーに30℃で液状領域を与えるために、特に、30℃で非結晶体の、1,6−ヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンジシクロヘキシルジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート/2,6トリレンジイソシアネート=80/20(以下、TDI(−80)と記載)などが好ましい。
【0032】
<水酸基末端ウレタンプレポリマーの合成方法>
本発明を構成する水酸基末端ウレタンプレポリマーの合成においては、従来公知の方法を用いることができ、特に限定されないが、反応を促進させるため、ウレタンの合成反応に使用される、従来公知のアミン系および有機金属系の触媒を単独または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0033】
(媒体として用いるオリゴマー)
本発明のウレタンプレポリマー組成物は、上記のようにして構成した水酸基価10〜100mgKOH/gの水酸基末端ウレタンプレポリマーを用い、さらに、該プレポリマーの媒体として、水酸基価20〜400mgKOH/gのウレタン結合をもたないオリゴマーを併用してなる構成とし、実質的に不揮発分100%で、少なくとも30℃の温度で液状であるものとしたことを特徴とする。なお、上記において、複数のオリゴマーを混合使用する場合等における水酸基価は、混合物の平均値で表す。
【0034】
以下、上記したウレタンプレポリマーの媒体として用いるオリゴマーについて説明する。本発明で媒体として用いるオリゴマーの水酸基価は、20〜400mgKOH/gであることを要する。すなわち、媒体として併用するオリゴマーの水酸基価が400mgKOH/gを超えると、例えば、合成皮革の表皮層等の皮膜を形成した場合に、上記オリゴマーを含有してなるウレタンプレポリマー組成物を、ポリイソシアネート架橋剤等の架橋剤で高分子量化して硬化した場合に、得られる皮膜が硬くなるといった不具合を生じる。一方、上記水酸基価が20mgKOH/g未満では、溶融粘度が高く、水酸基末端ウレタンプレポリマーと混合した際、30℃で液状とならない。
【0035】
本発明のウレタンプレポリマー組成物を構成する、プレポリマーの媒体として用いるオリゴマーに適するものとしては、ポリオールが挙げられる。また、本発明の組成物を高分子量化してなる皮膜の強度と耐久性能の向上のために、本発明では、媒体として用いるオリゴマーに、後述するような短鎖グリコールを混合させることができる。
【0036】
前記媒体として用いるのに好適なポリオールとしては、基本的には、先に説明した水酸基末端ウレタンプレポリマーの合成に用いるものと同様のものが挙げられる。使用可能なポリオールとしては、例えば、ポリカーボネート系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、ブタジエン系ポリオール、ポリアクリルポリオール、油脂変性ポリオール、シリコーン変性ポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリバレロラクトンポリオールなど、またはこれらの混合物が挙げられる。特に、先に説明した水酸基末端ウレタンプレポリマーとの混合状態で構成される本発明のウレタンプレポリマー組成物に、30℃で流動性を与えるために、30℃において液状をなすポリオールを選択するか、前記のようにして合成してなるウレタンプレポリマーと混合した際に液状をなす組成となるものを選択することが好ましい。
【0037】
上記に挙げたポリカーボネート系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール等の具体的なものとしては、先に説明した水酸基末端ウレタンプレポリマーの合成に用いるものと同様であるので、説明を省略する。
【0038】
また、先に述べたように、本発明のウレタンプレポリマー組成物を構成する媒体として用いるオリゴマーには、該組成物を高分子量化してなる皮膜の強度と耐久性能の向上のため、短鎖グリコール類を混合させることができる。その使用量としては、媒体として用いるオリゴマー100質量部に対して、短鎖グリコールを0.5〜50質量部程度、より好ましくは、1〜25質量部の範囲で混合させることが好ましい。すなわち、短鎖グリコールの混合比率が高くなり過ぎると、例えば、合成擬革の表皮層等の形成に用いた場合に、その耐寒伸縮性が低下するので好ましくない。この際に混合させる短鎖グリコール類としては、水酸基末端ウレタンプレポリマーの合成に用いた短鎖グリコールと同様のものが挙げられる。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、などの脂肪族グリコール、ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、シクロヘキサン−1,4ジオールなどの脂環族グリコール、キシリレングリコールなどの芳香族グリコールなどである。
【0039】
(水酸基末端ウレタンプレポリマーと、媒体として用いるオリゴマーとの組成)
本発明のウレタンプレポリマー組成物は、上記で説明した水酸基末端ウレタンプレポリマーを20〜80質量%と、媒体として用いるオリゴマーを20〜80質量%の範囲で含有してなる。より好適には、ウレタンプレポリマーの組成や、媒体として用いるオリゴマーの種類によっても異なるが、組成物中におけるウレタンプレポリマーの質量含有比率が35質量%以上であることが、より好ましい。
【0040】
(その他の添加剤)
本発明のウレタンプレポリマー組成物は、上記した成分に加えて、必要に応じ、その使用目的によって、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、難燃剤、シリカ、アルミナなどの無機フィラー、ウレタンビーズ、アクリルビーズなどの有機フィラーなどを含有させることができる。
【0041】
[2液型塗工剤]
上記した本発明のウレタンプレポリマー組成物は、その成分中の活性水素に、架橋剤を反応させて高分子量化して、皮膜を形成する際に用いるものである。基材表面に表皮層を形成するための表皮剤として、或いは、別に形成した表皮層を基材に貼り合わせるための接着剤として用いた際に、本発明のウレタンプレポリマー組成物を高分子量化する架橋反応に用いる架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネート(ブロック剤含む)架橋剤、メラミン架橋剤、エポキシ架橋剤、カルボジイミド架橋剤などが挙げられる。特に、本発明のウレタンプレポリマー組成物からなる塗膜の架橋方法は、その成分中の水酸基やウレタン基との反応性を利用したポリイソシアネート架橋剤による架橋方法が好ましい。さらに、大気中への揮発性有機物質の放出抑制を考慮すると、ポリイソシアネート架橋剤は、非ブロック剤とし、2液型で使用することが好ましい。
【0042】
本発明のウレタンプレポリマー組成物は、ポリイソシアネート架橋剤と混合することで、環境対応型の、優れた2液型塗工剤となる。該2液型塗工剤を構成するためのポリイソシアネート架橋剤は、NCO含有率が5〜35質量%であることが好ましい。本発明の2液型塗工剤は、本発明のウレタンプレポリマー組成物の平均水酸基価に対し、NCO含有量が5〜35質量%のポリイソシアネート架橋剤を、90〜150当量%で含有してなることを特徴とする。
【0043】
上記で用いるポリイソシアネート架橋剤としては、本発明の範囲内であれば、特に制限なく、従来から広く一般的に使用されているものを用いることができる。具体的には、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)系、TDI(トリレンジイソシアネート)系、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)系などのビュレットタイプ、イソシアヌレートタイプ、アダクトタイプ、変性液状タイプなどから、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。ポリイソシアネート架橋剤のNCO含有率は5〜35質量%が好ましい。ポリイソシアネート架橋剤の使用量は、ウレタンプレポリマー組成物の平均水酸基価に対し、反応当量の90%〜150%の範囲が好ましく、特には98%〜110%が好ましい。市販されているものとしては、例えば、ルプラネートMP−102[NCO含有量22.8%]、ルプラネートMI[NCO含有量33.3%]、ルプラネートMM103[NCO含有量29.5%](以上、いずれもBASF社製)、デュラネート24A−100[NCO含有量23.5%]、デュラネートTLA−100[NCO含有量21.1%](以上、いずれも旭化成ケミカルズ(株)社製)などが挙げられる。
【0044】
[合成擬革]
上記した本発明のウレタンプレポリマー組成物とポリイソシアネート架橋剤とを含有してなる2液型塗工剤は、特に、合成擬革を製造する際に好適に使用することができる。具体的には、基材と表皮層とからなる合成擬革、或いは、基材と接着剤層と表皮層とからなる合成擬革において、表皮層を、或いは、表皮層と接着剤層とを、本発明の2液型塗工剤を用いて形成することで、環境対応型製品である優れた本発明の合成擬革となる。本発明の2液型塗工剤は、30℃の温度で液状の、30〜80℃で塗工可能な特定の混合比率のウレタンプレポリマー組成物を含有してなるため、上記表皮層や接着剤層を該組成物で形成する場合に、可使時間が長く、該組成物を基材等に良好な状態に塗工することができる。さらに、基材等に塗工した該組成物を構成している、上記ウレタンプレポリマーと、その媒体のオリゴマーとがそれぞれに有する活性水素と、本発明の2液型塗工剤を構成するポリイソシアネート架橋剤とを反応させる方法で、当該組成物を高分子量化することで、「塗膜の流れ現象」といった問題のない優れた合成擬革を得ることができる。本発明の2液型塗工剤は、有機溶剤や水が配合されていないので、上記のようにして合成擬革を製造した場合に揮発性有機物が大気中に放出することが殆ど起こらないため、環境対応型の製品が提供できる。
【0045】
本発明の合成擬革の、表皮層や接着剤層等を形成する際に使用する本発明の2液型塗工剤は、先に説明した本発明のウレタンプレポリマー組成物を含有してなる。このため、2液型塗工剤における水酸基末端ウレタンプレポリマーと、該ポリマーの媒体としてのウレタン結合をもたないオリゴマーとの含有比率は、上記組成物中におけるウレタンプレポリマーの質量含有比率で、20質量%〜80質量%である。本発明の組成物を合成擬革の形成材料として用いる場合、さらに好ましいウレタンプレポリマーの質量含有比率は、35質量%以上である。上記ウレタンプレポリマーの質量含有比率が20質量%未満と少ないと、併用するウレタン結合をもたないオリゴマーの量をウレタンプレポリマーで充分に補うことが困難となり、得られた合成擬革の耐摩耗性が劣るものになる。一方、80質量%を超えると、ポリイソシアネート架橋剤を反応させて該組成物を高分子量化させて用いる際に、反応中に高粘度となり内部ゲル化物等が発生するため、高品質の製品の提供ができなくなるという弊害が生じる。
【0046】
しかし、上記範囲を満たしていれば、その他の成分については任意に設定することができる。また、本発明のウレタンプレポリマー組成物を本発明の合成擬革の形成材料に用いる場合、プレポリマーの媒体として含有させるオリゴマーに、短鎖グリコールを混合させて使用することができるが、組成物中における短鎖グリコールの混合比率が高くなり過ぎると、得られる合成擬革の耐寒伸縮性が低下する傾向がある。このため、プレポリマーの媒体として用いるオリゴマーに短鎖グリコールを混合させて用いる場合は、その量を、オリゴマー100質量部に対して、0.5〜50質量部程度範囲内とすることが好ましい。
【0047】
本発明を構成する水酸基末端ウレタンプレポリマーの水酸基価は10〜100mgKOH/gであるが、合成擬革の形成材料として用いる場合、特に20〜100mgKOH/gであることが好ましい。水酸基価が100mgKOH/gを超えると塗膜の流れ現象が起こり、均一な皮膜を形成させることができず、合成擬革としての品質を保てなくなる。一方、水酸基価が10mgKOH/g未満では、架橋剤との反応中に高粘度となり内部ゲル化物等が発生してしまい、高品質の合成擬革の提供が困難となる。
【0048】
また、本発明を構成する水酸基末端ウレタンプレポリマーを、ポリオールと短鎖グリコールとの共重合体とすることで、これを含有してなる2液型塗工剤によって得られた合成擬革は、耐摩耗性能、耐寒伸縮性能等、市場で求められる性能を高いレベルで満たすものになる。
【0049】
先に述べたように、本発明のウレタンプレポリマー組成物を構成する、プレポリマーの媒体であるオリゴマーの水酸基価は20mgKOH/g以上400mgKOH/g以下である。当該オリゴマーの水酸基価が400mgKOH/gを超えたオリゴマーを含む2液型塗工剤を合成擬革の表皮層等の形成材料に用いると、ポリイソシアネート架橋剤によりウレタンプレポリマー組成物を高分子量化(硬化)して得られた皮膜が硬くなる。そのため、このような組成物を用いて表皮層を形成した場合には得られる合成擬革表面が硬くなり、接着剤層の形成に用いた場合には接着が不十分となることが生じる。
【0050】
本発明の2液型塗工剤を用いた合成擬革の具体的な製造方法としては、例えば、以下に示すような方法があるが、これらの方法によって、高性能且つ柔軟性に優れた合成擬革を得ることができる。
(1)本発明の2液型塗工剤を離型紙に塗布し、加熱硬化(例えば、150℃/2〜7分の条件)して表皮層を形成した後に、得られた表皮層を、湿式法又は乾式法で作製されたポリウレタンレザー表面に熱圧着することで表皮を造面する合成擬革の製造方法。
(2)本発明の2液型塗工剤を、上記したポリウレタンレザー表面に直接塗布した後に、塗布面を加熱硬化(例えば、150℃/2〜7分の条件)させて表皮層を形成し、表皮を造面する合成擬革の製造方法。
(3)本発明の2液型塗工剤を離型紙に塗布し、加熱硬化(例えば、150℃/2〜7分の条件)して表皮層を形成した後、さらに、該表皮層の表面(離型紙に接している面の反対側の面)に、本発明の2液型塗工剤を塗布して接着剤層を形成し、該接着剤層を基布との貼り合わせに好適な状態までプレ硬化(例えば、120℃/1〜5分の条件)させる。そして、プレ硬化させた接着剤層を基布と貼り合わせ、その後、完全硬化(例えば、150℃/2〜7分の条件)させた後、離型紙より剥離して合成擬革を得る製造方法。
【0051】
上記のようにして製造することができる本発明の合成擬革は、前記表皮層の表面に、さらに水系表面処理剤を塗布することもできる。該表面処理剤によって表面処理を行うことで、より優れた合成擬革を得ることが可能となる。
【0052】
以上の如くして簡便な方法で得られる本発明の合成擬革は、表皮層が強靱で接着性と風合いに優れるとともに、本発明のウレタンプレポリマー組成物を構成する、媒体として用いるオリゴマーの選定や、ウレタンプレポリマーの合成に際して用いる、ポリオール、短鎖グリコール、イソシアネート化合物の組み合わせにより、表皮層と接着剤層に耐加水分解性、耐光性、耐熱性、耐オレイン酸性、耐寒性、耐溶剤性の付与が可能であり、靴、鞄、衣料、家具、車輌シートなど、あらゆる合成擬革製品の製造に好適である。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例、比較例およびこれらを用いた応用例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものでない。なお、以下文中の「部」および「%」は質量基準である。
【0054】
[実施例および比較例]
(実施例1)
水酸基価が56.1mgKOH/gの、1,5ペンタンジオール/1,6ヘキサンジオール=50/50(モル比)のコーポリカーボネートジオール(20℃で液状)を100部と、エチレングリコール6.2部とに、HDIを16.8部加えて、70℃で1時間反応させた。その後、触媒として、DBU−オクチル酸塩を300ppm添加して、さらに3時間反応させることで、固形分100%、水酸基価45.6mgKOH/gの、20℃で液状のウレタンプレポリマーを得た。
【0055】
上記で得たウレタンプレポリマーに、さらに、水酸基価が172.6mgKOH/gの、ポリ−THF(20℃で液状)を74.4部と、水酸基価が56.1mgKOH/gの、1,5ペンタンジオール/1,6ヘキサンジオール=50/50(モル比)のコーポリカーボネートジオール(20℃で液状)を73.6部、を加えた。これにより、組成物中のウレタンプレポリマーの含有率が45%で、平均水酸基価が83.3mgKOH/gであり、30℃で液状である本実施例のウレタンプレポリマー組成物を得た。
【0056】
(実施例2)
水酸基価が56.1mgKOH/gの、1,5ペンタンジオール/1,6ヘキサンジオール=50/50(モル比)のコーポリカーボネートジオール(20℃で液状)を100部と、エチレングリコール3.1部とに、HDIを12.6部加えて、70℃で1時間反応させた。その後、触媒として、2−エチルヘキシル酸亜鉛を250ppm添加して、さらに3.5時間反応させることで、固形分100%、水酸基価24.2mgKOH/gの、20℃で液状のウレタンプレポリマーを得た。
【0057】
上記で得たウレタンプレポリマーに、さらに、水酸基価が172.6mgKOH/gの、ポリ−THF(20℃で液状)を93部と、水酸基価が56.1mgKOH/gの、1,5ペンタンジオール/1,6ヘキサンジオール=50/50(モル比)のコーポリカーボネートジオール(20℃で液状)を117部、を加えた。これにより、組成物中のウレタンプレポリマーの含有率が36%で、平均水酸基価が78.0mgKOH/gの、30℃で液状である本実施例のウレタンプレポリマー組成物を得た。
【0058】
(実施例3)
水酸基価が224.4mgKOH/gの、1,5ペンタンジオール/1,6ヘキサンジオール=50/50(モル比)のコーポリカーボネートジオール(20℃で液状)を85部と、水酸基価が140.3mgKOH/gの、1,5ペンタンジオール/1,6ヘキサンジオール=50/50(モル比)のコーポリカーボネートジオール(20℃で液状)を15部と、エチレングリコール16.6部とに、TDI(−80)を46.5部加えて、100℃で1時間反応させた。その後、触媒として、DBU−オクチル酸塩を300ppm添加して、さらに3時間反応させることで、固形分100%、水酸基価92.0mgKOH/gの、20℃で液状のウレタンプレポリマーを得た。
【0059】
上記で得たウレタンプレポリマーに、さらに、水酸基価が172.6mgKOH/gの、ポリ−THF(20℃で液状)を110.7部と、水酸基価が224.4mgKOH/gの、1,5ペンタンジオール/1,6ヘキサンジオール=50/50(モル比)のコーポリカーボネートジオール(20℃で液状)を158.2部加えた。これにより、組成物中のウレタンプレポリマーの含有率が38%で、平均水酸基価が161.1mgKOH/gの、30℃で液状である本実施例のウレタンプレポリマー組成物を得た。
【0060】
(実施例4)
水酸基価が62.3mgKOH/gの、THF−ネオペンチルグリコール共重合ポリオール(20℃で液状)を100部と、1,4ブタンジオール15.0部とに、TDI(−80)29.0部を加えて、100℃で1時間反応させた。その後、触媒として、ジブチル錫ジラウレートを150ppm添加して、さらに2.5時間反応させることで、固形分100%、水酸基価43.3mgKOH/gの、20℃で液状のウレタンプレポリマーを得た。
【0061】
上記で得たウレタンプレポリマー部に、さらに、水酸基価が62.3mgKOH/gの、THF−エチレングリコール共重合ポリオール(20℃で液状)を100部加えた。これにより、組成物中のウレタンプレポリマーの含有率が59%で、平均水酸基価が51.1mgKOH/gの、30℃で液状である本実施例のウレタンプレポリマー組成物を得た。
【0062】
(実施例5)
水酸基価が62.3mgKOH/gの、THF−ネオペンチルグリコール共重合ポリオール(20℃で液状)を100部と、1,4−ブタンジオールを10.0部とに、TDI(−80)を24.2部加えて、100℃で1時間反応させた。その後、触媒として、DBU−オレイン酸塩を250ppm添加して、さらに3.5時間反応させることで、固形分100%、水酸基価23.4mgKOH/gの、20℃で液状のウレタンプレポリマーを得た。
【0063】
上記で得たウレタンプレポリマーに、さらに、水酸基価が62.3mgKOH/gであるTHF−エチレングリコール共重合ポリオール(20℃で液状)を500部加えた。これにより、組成物中のウレタンプレポリマーの含有率が21%で、平均水酸基価が54.1mgKOH/gの、30℃で液状である本実施例のウレタンプレポリマー組成物を得た。
【0064】
(比較例1)
水酸基価が56.1mgKOH/gの、1,5ペンタンジオール/1,6ヘキサンジオール=50/50(モル比)のコーポリカーボネートジオール(20℃で液状)を80部と、水酸基価が62.3mgKOH/gの、THF−ネオペンチルグリコール共重合ポリオール(20℃で液状)を20部と、1,4ブタンジオール1.5部とに、TDI(−80)を24.2部加えて、100℃で1時間反応させた。その後、ジオクチル錫ジアセテートを150ppm添加して、さらに3時間反応させることで、固形分100%、水酸基価26.3mgKOH/gの、30℃で液状の比較例のウレタンプレポリマーを得た。
【0065】
(比較例2)
水酸基価が62.3mgKOH/gの、THF−ネオペンチルグリコール共重合ポリオール(20℃で液状)を100部と、1,3ブタンジオールを10.0部とに、4,4’−メチレンジシクロヘキシルジイソシアネート29.1部を加えて、110℃で2時間反応させた。その後、触媒として、ジブチル錫ジラウレートを150ppm添加し、さらに2時間反応させて、固形分100%、水酸基価44.9mgKOH/gの、20℃で液状のウレタンプレポリマーを得た。
【0066】
上記で得たウレタンプレポリマーに、さらに、水酸基価が561.0mgKOH/gの、ポリエチレングリコール(20℃で液状)を300部加えた。これにより、平均水酸基価が397.5mgKOH/gの、組成物中のウレタンプレポリマーの含有率が32%で、30℃で液状である比較例のウレタンプレポリマー組成物を得た。
【0067】
(比較例3)
水酸基価が224.4mgKOH/gの、1,5ペンタンジオール/1,6ヘキサンジオール=50/50(モル比)のコーポリカーボネートジオール(20℃で液状)を100部と、1,6ヘキサンジオールを47.2部とに、HDIを67.2部加えて、70℃で4時間反応させることで、固形分100%、水酸基価104.9mgKOH/gの、20℃で液状のウレタンプレポリマーを得た。
【0068】
上記で得たウレタンプレポリマーに、さらに、水酸基価が172.6mgKOH/gの、ポリ−THF(20℃で液状)を74.4部と、水酸基価が56.1mgKOH/gの、1,5ペンタンジオール/1,6ヘキサンジオール=50/50(モル比)のコーポリカーボネートジオール(20℃で液状)を73.6部加えた。これにより、平均水酸基価が70.3mgKOH/gの、組成物中のウレタンプレポリマーの含有率が59%で、30℃で液状である比較例のウレタンプレポリマー組成物を得た。
【0069】
(比較例4)
水酸基価が56.1mgKOH/gの、ポリプロピレングリコール100部と、エチレングリコール1.9部とに、TDI(T−80)を12.2部加えて、100℃で1時間反応させた。その後、ジオクチル錫ジアセテートを120ppm添加し、さらに3時間反応させることで、固形分100%、水酸基価9.9mgKOH/gの、100℃で高粘度の比較例のウレタンプレポリマーを得た。該プレポリマーは、30℃でゲル化物を生じた。
【0070】
(比較例5)
水酸基価が56.1mgKOH/gの、1,5−ペンタンジオール/1,6ヘキサンジオール=50/50(モル比)のコーポリカーボネートジオール(20℃で液状)を100部と、エチレングリコール6.2部とに、HDIを16.8部を加えて、70℃で1時間反応させた。その後、触媒として、DBU−オクチル酸塩を250ppm添加して、さらに3時間反応させることで、固形分100%、水酸基価45.6mgKOH/gの、20℃で液状のウレタンプレポリマーを得た。
【0071】
上記で得たウレタンプレポリマーに、さらに、水酸基価が172.6mgKOH/gの、ポリ−THF(20℃で液状)を223.7部と、水酸基価が56.1mgKOH/gの、1,5ペンタンジオール/1,6ヘキサンジオール=50/50(モル比)のコーポリカーボネートジオール(20℃で液状)を422.1部加えた。これにより、平均水酸基価が83.3mgKOH/gの、ウレタンプレポリマーを16%含む、比較例のウレタンプレポリマー組成物を得た。このときのエチレングリコール含有率は2.3%であった。
【0072】
(比較例6)
比較例5のウレタンプレポリマー組成物100部に、さらに、エチレングリコールを11.7部加えることにより、実施例1のウレタンプレポリマー組成物と同じエチレングリコール含有率になるように調整して、平均水酸基価114.1mgKOH/gの、比較例のウレタンプレポリマー組成物を得た。
【0073】
(各例の特性)
以上のようにして得られた、実施例および比較例の各ウレタンプレポリマー組成物についての特性を、表1および表2に、それぞれ纏めて示した。具体的には、各ウレタンプレポリマー組成物の、30℃の温度における外観、表1に示した各液温度における粘度、塗布適性、ウレタンプレポリマーの平均水酸基価、組成物中におけるウレタンプレポリマーの含有率、および、各組成物を構成するウレタンプレポリマーに混合させたオリゴマーの水酸基価を、それぞれ纏めて示した。
【0074】
【0075】
【0076】
[応用例]
上記した実施例および比較例のウレタンプレポリマー組成物を使用して、下記のいずれか方法で合成擬革を作成し、後述する方法で評価した。
(1)まず、評価対象の組成物を離型紙に塗布した後、加熱硬化して皮膜(表皮層)を形成する。その後、得られた皮膜をポリウレタンレザー基材表面に加熱圧着して表皮を造面し、表皮層を形成して合成擬革を製造する方法。
(2)評価対象の組成物を基材に直接塗布した後、加熱硬化して表皮層を作製し、合成擬革を製造する方法。
(3)まず、評価対象の組成物を離型紙に塗布した後、加熱硬化して皮膜(表皮層)を形成する。その後、形成された表皮層の表面(離型紙に接している面の反対側の面)に、さらに評価対象の組成物を塗布して半硬化した接着剤層を形成する。最後に、形成した接着剤層面を、織物などの基材に貼り合わせた後、加熱硬化して合成擬革を製造する方法。
【0077】
(応用例1)
実施例3のウレタンプレポリマー組成物を70℃に保ちながら、当該組成物100部に、ポリイソシアネート架橋剤としてNCOの含有量が22.8%のルプラネートMP−102(BASF社製)を、反応基当量の105%量となる55.5部と、FTR−5570ブラック(大日精化工業(株)社製:固形分100%着色剤)2部を混合し、硬化前組成物−1を製造した。次いで、離型紙(商品名:DNTP−155T−FLAT、大日本印刷(株)社製)に、厚さが50μmとなるように、コーターを100℃に加温しながら上記硬化前組成物−1をシート状に塗布した。塗布後、150℃/5分の条件で硬化させて、離型紙上に硬化フィルムを形成した。
【0078】
次いで、実施例1のウレタンプレポリマー組成物を70℃に保ちながら、当該組成物100部に、ポリイソシアネート架橋剤としてNCOの含有量が22.8%のルプラネートMP−102(BASF社製)を、反応基当量の100%量となる27.4部混合し、硬化前組成物−2を製造した。そして、上記で作製した硬化フィルム上に、厚さが50μmとなるように、コーターを100℃に加温しながら、上記硬化前組成物−2をシート状に塗布した。塗布後、120℃/2分の条件で半硬化させて、2種類のウレタンプレポリマー組成物で形成した、硬化/半硬化フィルムの積層体を作製した。次いで、該積層体の半硬化フィルム側を基材(織物)に重ね合わせた。基材と重ね合わせた状態の全厚み(離型紙を含む)は、1,200μmであったが、これを、120℃に加熱した500μmの隙間をあけたラミネートロールで加圧密着させた。次いで、150℃/5分の条件で硬化させ、その後に離型紙から剥離して合成皮革(擬革)を製造した。
【0079】
さらに、上記で得た合成皮革に、水系表面処理剤のレザロイドD−7602(大日精化工業(株)社製)を100メッシュのグラビアロール2パスで7〜10g/m2・Dryの条件で付着させた。その後、200℃で型押することにより、凹凸が鮮明なエンボス仕上げの合成擬革(皮革)が得られた。
【0080】
(応用例2)
実施例4のウレタンプレポリマー組成物を60℃に保ちながら、当該組成物100部に、ポリイソシアネート架橋剤としてNCOの含有量が23.5%のデュラネート24A−100(旭化成ケミカルズ(株)社製)を、反応基当量の98%量となる16.9部と、架橋反応促進剤としてジブチル錫ジラウレート25ppmと、FTR−5501ホワイト(大日精化工業(株)社製:固形分100%着色剤)3部とを混合し、硬化前組成物−3を製造した。次いで、離型紙(商品名:AR−99SG、旭ロール(株)社製)に、厚さが50μmとなるように、コーターを90℃に加温しながら、上記で調製した硬化前組成物−3をシート状に塗布した。塗布後、150℃/7分の条件で硬化させて、離型紙上に硬化フィルムを形成した。
【0081】
次いで、実施例5で得られたウレタンプレポリマー組成物を50℃に保ちながら、当該組成物100部に、ポリイソシアネート架橋剤としてNCOの含有量が33.3%のルプラネートMI(BASF社製)を、反応基当量の102%量となる12.4部を混合し、硬化前組成物−4を製造した。そして、上記で作製した硬化フィルム上に、厚さが75μmとなるように、コーターを80℃に加温しながら、上記硬化前組成物−4をシート状に塗布した。塗布後、120℃/3分の条件で半硬化させて、2種類のウレタンプレポリマー組成物で形成した、硬化/半硬化フィルムの積層体を作製した。次いで、該積層体の半硬化フィルム側を基材(織物)に重ね合わせた。基材と重ね合わせた状態の全厚み(離型紙を含む)は1,150μmであったが、これを、100℃に加熱した500μmの隙間をあけたラミネートロールで加圧密着させた。次いで、150℃/7分の条件で硬化させ、その後に離型紙から剥離して合成皮革(擬革)を製造した。
【0082】
(応用例3)
実施例3のウレタンプレポリマー組成物を70℃に保ちながら、当該組成物100部に、ポリイソシアネート架橋剤としてNCOの含有量が22.8%のルプラネートMP−102(BASF社製)を、反応基当量の105%量となる55.1部と、応用例1で使用したと同様のFTR−5570ブラック2部を混合し、硬化前組成物−5を製造した。次いで、離型紙(商品名:AR−99SG)に、厚さが75μmとなるように、コーターを100℃に加温しながら上記硬化前組成物−5をシート状に塗布した後、150℃/5分の条件で硬化させて、離型紙上に硬化フィルムを形成させた。
【0083】
次いで、基材(織物)上に湿式ポリウレタン樹脂のフォーム層を造面してなる原反に、上記で作製した硬化フィルムを離型紙側から170℃の熱をかけて加圧貼り合わせを行った。その後、離型紙から剥離して合成擬革を製造した。
【0084】
(応用例4)
実施例2のウレタンプレポリマー組成物を70℃に保ちながら、当該組成物100部に、ポリイソシアネート架橋剤としてNCOの含有量が29.5%のルプラネートMM103(BASF社製)を、反応基当量の102%量となる20.2部と、FTR−5570ブラック2部を混合し、硬化前組成物−6を製造した。
【0085】
次いで、基材(織物)上に湿式ポリウレタン樹脂のフォーム層を造面した原反に、上記で得た硬化前組成物−6を、厚みが75μmとなるように、コーターを100℃に加温ししながら上記硬化前組成物−6をシート状に塗布した。その後、150℃/7分の条件で硬化させて、硬化フィルムを形成させた。
【0086】
次いで、上記で得た硬化フィルムに、実施例1で用いたと同様のレザロイドD−7602を100メッシュのグラビアロール2パスで7〜10g/m2・Dryの条件で付量させた。その後、170℃で型押することにより、凹凸が鮮明なエンボス仕上げの合成擬革が得られた。
【0087】
(応用比較例1)
比較例4のウレタンプレポリマーは、表2に示したように、合成中に高粘度状態となり、ゲル化物の塊が発生してしまい、オリゴマーとの混合組成物を製造することができなかった。
【0088】
(応用比較例2)
比較例1のウレタンプレポリマー組成物を120℃に保ちながら、当該組成物100部に、ポリイソシアネート架橋剤としてNCOの含有量が21.1%のデュラネートTLA−100(旭化成ケミカルズ(株)社製)を、反応基当量の100%量となる9.5部を混合し、硬化前組成物を製造した。しかしながら、該硬化前組成物は、混合後、2〜3分で粘度が大きく上昇してしまったため、塗布することができなかった。
【0089】
(応用比較例3)
比較例3のウレタンプレポリマー組成物を50℃に保ちながら、当該組成物100部に、ポリイソシアネート架橋剤としてNCOの含有量が22.8%のルプラネートMP−102(BASF社製)を、反応基当量の105%量となる55.1部と、架橋反応促進剤としてDBN−オクチル酸塩300ppmと、FTR−5570ブラック2部を混合し、硬化前組成物−7を製造した。そして、離型紙(商品名:DNTP−155T−FLAT、大日本印刷(株)社製)に、厚さが50μmとなるように、コーターを80℃に加温しながら上記硬化前組成物−7をシート状に塗布した後、150℃/5分の条件で硬化させて、離型紙上に硬化フィルムを形成した。得られた硬化後のフィルムを目視で観察したところ、塗膜の流れ現象が発生していた。
【0090】
次いで、実施例1のウレタンプレポリマー組成物を70℃に保ちながら、当該組成物100部に、ポリイソシアネート架橋剤としてNCOの含有量が22.8%のルプラネートMP−102(BASF社製)を、反応基当量の100%量となる27.4部を混合し、硬化前組成物−8を製造した。そして、上記で作製した塗膜の流れ現象が見られたフィルム上に、厚さが50μmとなるように、コーターを100℃に加温しながら上記硬化前組成物−8をシート状に塗布した。その後、120℃/2分の条件で半硬化させて、比較例3と実施例1の2種類のウレタンプレポリマー組成物で形成した、硬化/半硬化フィルムの積層体を作製した。次いで、該積層体の半硬化フィルム側を基材(織物)に重ね合わせた。積層体を基材と重ね合わせた状態の全厚み(離型紙を含む)は、1,200μmであったが、これを、120℃に加熱した500μmの隙間をあけたラミネートロールで加圧密着させた。次いで、150℃/5分の条件で硬化させ、その後に離型紙から剥離して合成皮革を製造した。しかしながら、得られた合成皮革の表皮を目視で観察したところ、硬化フィルムの作製時に生じた塗膜の流れ現象により、穴が随所に発生し、均一な皮膜となっていなかった。
【0091】
(応用比較例4)
比較例2のウレタンプレポリマー組成物を60℃に保ちながら、当該組成物100部に、ポリイソシアネート架橋剤としてNCOの含有量が33.3%のルプラネートMI(BASF社製)を、反応基当量の102%量となる91.2部と、架橋反応促進剤としてジブチル錫ジラウレート25ppmと、FTR−5501ホワイト3部とを混合し、硬化前組成物−9を製造した。次いで、離型紙(商品名:AR−99SG)に、厚さが50μmとなるように、コーターを90℃に加温しながら上記硬化前組成物−9をシート状に塗布した。塗布後、150℃/7分の条件で硬化させて、硬化フィルムを形成させた。
【0092】
次いで、実施例1のウレタンプレポリマー組成物を70℃に保ちながら、当該組成物100部に、ポリイソシアネート架橋剤としてNCOの含有量が22.8%のルプラネートMP−102(BASF社製)を、反応基当量の100%量となる27.4部を混合し、硬化前組成物−10を製造した。そして、上記で作製した硬化フィルム上に、厚さが50μmとなるように、コーターを100℃に加温しながら上記硬化前組成物−10をシート状に塗布した後、120℃/2分での条件で半硬化させて、比較例2と実施例1の2種類のウレタンプレポリマー組成物で形成した、硬化/半硬化フィルムの積層体を作製した。次いで、該積層体の半硬化フィルム側を基材(織物)に重ね合わせた。基材と重ね合わせた状態の全厚み(離型紙を含む)は、1,200μmであったが、これを、100℃に加熱した500μmの隙間をあけたラミネートロールで加圧密着させた。次いで、150℃/5分の条件で硬化させ、その後に離型紙から剥離して合成皮革(擬革)を製造した。しかし、得られた合成皮革は風合いが硬かった。
【0093】
(応用比較例5)
比較例5のウレタンプレポリマー組成物を60℃に保ちながら、当該組成物100部に、ポリイソシアネート架橋剤としてNCOの含有量が22.8%のルプラネートMP−102(BASF社製)を、反応基当量の102%量となる29.6部と、FTR−5570ブラック2部を混合し、硬化前組成物−11を製造した。次いで、離型紙(商品名:AR−99SG)に、厚さが50μmとなるように、コーターを90℃に加温しながら上記で調製した硬化前組成物−11をシート状に塗布した。塗布後、150℃/5分の条件で硬化させて、硬化フィルムを形成した。
【0094】
次いで、実施例1のウレタンプレポリマー組成物を70℃に保ちながら、当該組成物100部に、ポリイソシアネート架橋剤としてNCOの含有量が22.8%のルプラネートMP−102(BASF社製)を、反応基当量の100%量となる27.4部混合し、硬化前組成物−12を製造した。そして、上記で作製した硬化フィルム上に、厚さが50μmとなるように、コーターを100℃に加温しながら上記硬化前組成物−12をシート状に塗布した後、120℃/2分で半硬化させて、2種類のオリゴマー/ウレタンプレポリマーで形成した、硬化/半硬化フィルムの積層体を作製した。次いで、該積層体の半硬化フィルム側を基材(織物)に重ね合わせた。重ね合わせたフィルム(離型紙を含む)と基材の総厚は、1150μmであった。そしてこの重ね合わせたものを、120℃に加熱した500μmの隙間をあけたラミネートロールで加圧密着した。その後、150℃/5分の条件で硬化させた後、離型紙から剥離して合成皮革を得た。得られた合成皮革は表面滑性が低かった。
【0095】
(応用比較例6)
比較例6のウレタンプレポリマー組成物を60℃に保ちながら、当該組成物100部に、ポリイソシアネート架橋剤としてNCOの含有量が22.8%のルプラネートMP−102(BASF社製)を、反応基当量の102%量となる38.2部と、FTR−5570ブラック2部を混合し、硬化前組成物−13を製造した。そして、離型紙(商品名:AR−99SG)に、厚さが50μmとなるように、コーターを90℃に加温しながら上記硬化前組成物−13をシート状に塗布した後、150℃/5分の条件で硬化させて、硬化フィルムを形成した。
【0096】
次いで、実施例1のウレタンプレポリマー組成物を70℃に保ちながら、当該組成物100部に、ポリイソシアネート架橋剤としてNCOの含有量が22.8%のルプラネートMP−102(BASF社製)を、反応基当量の100%量となる27.4部を混合し、硬化前組成物−14を製造した。そして、上記で作製した硬化フィルム上に、厚さが50μmとなるように、コーターを100℃に加温しながら上記硬化前組成物−14をシート状に塗布した後、120℃/2分の条件で半硬化させて、比較例6と実施例1の2種類のウレタンプレポリマー組成物で形成した、硬化/半硬化フィルムの積層体を作製した。次いで、該積層体の半硬化フィルム側を基材(織物)に重ね合わせた。基材と重ね合わせた状態の全厚み(離型紙を含む)は、1,150μmであったが、これを、120℃に加熱した500μmの隙間をあけたラミネートロールで加圧密着させた。次いで、150℃/5分の条件で硬化させた後、離型紙から剥離して合成皮革を製造した。
【0097】
[参考例]
従来から合成擬革の製造に使用されている、以下の配合の調液からなる溶剤型表皮剤と溶剤型接着剤とを用い、下記に示す条件で表皮層と接着剤層を形成し、以下に示す基材(織物)に貼り合わせて、参考例1の合成擬革を製造した。
【0098】
(参考例1)
下記の合成擬革の作成条件で、上記の条件で塗膜を形成し、表皮層と接着剤層とし、熟成した後、離型紙から剥離して参考例1の合成擬革を製造した。
<表皮層>
(調液)
・レザミンME−8106(大日精化工業(株)社製、溶剤70%含有品) 100部
・DMF 33部
(離型紙)AR−99SG
(塗布量)250μm/wet
(乾燥条件)100℃/2分→120℃/3分
(膜厚)約50μm
【0099】
<接着剤層>
(調液)
・レザミンUD−750SA(大日精化工業(株)社製、溶剤25%含有品) 100部
・レザミンUD−架橋剤(大日精化工業(株)社製、溶剤25%含有品) 15部
・レザミンUD−102促進剤(大日精化工業(株)社製、溶剤98%含有品) 10部
・DMF 20部
・MEK 20部
(塗布量)100μm/wet
(予備乾燥条件)80℃/2分
(膜厚)約50μm
(基材との貼合わせ)織物にラミネートロールで、温度40℃/0μm、にて圧着
(熟成)50℃×48時間
【0100】
(参考例2)
合成擬革作成条件
従来から合成擬革の製造に使用されている、以下の配合の調液からなる溶剤型の表皮剤を用い、下記の条件で造面した湿式ポリウレタン樹脂面に、下記の条件で離型紙上に形成した表皮層用の膜を、離型紙側から170℃の熱をかけて加圧貼り合わせを行い、その後、離型紙から剥離して参考例2の合成擬革を製造した。
【0101】
<湿式ポリウレタン樹脂の造面>
(調液)
・レザミンCU−9443(大日精化工業(株)社製、溶剤70%含有品) 100部
・DMF 140部
・レザミンCUT−102(大日精化工業(株)社製) 3部
・セイカセブンBS−780(S)ブラック(大日精化工業(株)社製) 5部
(基材)織物
(塗布量)1,000μm/wet
(凝固)DMF5%aq/25℃/10分
(乾燥)120℃/5分
【0102】
<表皮層>
(調液)
・レザミンME−8106(大日精化工業(株)社製、溶剤70%含有品) 100部
・DMF 33部
(離型紙)AR−99SG
(塗布量)350μm/wet
(乾燥条件)100℃/2分→120℃/3分
(膜厚)約75μm
【0103】
上記のようにして無溶剤原料を用いて得た、応用例、比較応用例、参考例の環境対応型合成擬革について、後述する方法および基準で、耐寒伸縮性、耐摩耗性、柔軟性を評価し、得られた評価結果を表3に示した。
【0104】
【0105】
[評価方法]
(耐寒伸縮性試験)
各合成擬革について、−10℃の温度条件下、72%〜108%に伸縮させることを3万回繰り返した後、合成擬革の表面状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。評価結果を表3に示した。
○:亀裂なし
△:2〜3箇所で亀裂発生
×:亀裂多数発生
【0106】
(耐摩耗性)
学振型摩耗試験機を用い、各合成擬革の耐摩耗性を評価した。具体的には、1cm巾に裁断した各合成擬革で、荷重1kgにて6号帆布を繰り返し擦った場合に、擬革が摩滅するまでの回数をカウントした。評価結果を表3に示した。
【0107】
(柔軟性)
各合成擬革の柔軟性について、参考例1の合成擬革を基準とし、手で触った感触で比較し、以下の基準で判定し、それぞれ評価した。評価結果を表3に示した。
◎:参考例1の合成擬革よりも柔らかい
○:参考例1の合成擬革と同等
△:参考例1の合成擬革よりも少し硬い
×:参考例1の合成擬革に比べて大幅に硬い
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明によって提供されるウレタンプレポリマー組成物は、有機溶剤や水を使用することなく無溶剤で、さらに、少なくとも30℃の温度で液状で、30℃〜80℃の温度で取り扱うことができるので、可使時間による制約が少なく作業性に優れるとともに、溶剤の蒸発除去工程を省くことができるため、加熱に要するエネルギー消費量が低減でき、さらに、大気中への揮発性有機物質の放出も殆ど起こらないので、環境対応型の製品の提供が可能になり、今後の使用が期待される。本発明によって提供されるウレタンプレポリマー組成物は、特に、合成擬革の製造に有用であり、その表皮層の形成材料として、或いは、表皮層と接着剤層を形成する兼用材料として用いることで、環境負荷の少ない合成擬革の製造を可能にする。しかも、このようにして製造された合成擬革は、その耐寒伸縮性や耐摩耗性や柔軟性において、従来のものと比較して遜色がなく、場合によっては従来のものよりも優れた特性を示すものとできるので、その利用が期待される。