(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989531
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/20 20060101AFI20160825BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
B60C9/20 L
B60C1/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-265586(P2012-265586)
(22)【出願日】2012年12月4日
(65)【公開番号】特開2014-108769(P2014-108769A)
(43)【公開日】2014年6月12日
【審査請求日】2015年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 邦弘
【審査官】
細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−140095(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0248075(US,A1)
【文献】
国際公開第2011/036893(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0216935(US,A1)
【文献】
特開2007−131110(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0102088(US,A1)
【文献】
特開2002−036815(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0007890(US,A1)
【文献】
特開平10−204214(JP,A)
【文献】
米国特許第06138731(US,A)
【文献】
特開昭52−043204(JP,A)
【文献】
米国特許第04082132(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0264543(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/00−9/30
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部の間に設けられたカーカス層と、トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置されたベルト層と、前記ベルト層の端部と前記カーカス層との間に介在するベルトクッション層とを備える空気入りタイヤにおいて、
前記ベルトクッション層が、
前記ベルトクッション層の主体をなし、100%伸長時モジュラスが4.0〜8.0MPaである高モジュラスゴムと、
前記カーカス層と前記高モジュラスゴムとの間に介在し、前記高モジュラスゴムよりも100%伸長時モジュラスが小さい低モジュラスゴムとを備えることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ベルトクッション層が、前記カーカス層と前記高モジュラスゴムとの間に介在する前記低モジュラスゴムに加え、前記ベルト層の端部と前記高モジュラスゴムとの間に介在し、前記高モジュラスゴムよりも100%伸長時モジュラスが小さい低モジュラスゴムを備える請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記カーカス層と前記高モジュラスゴムとの間に介在する前記低モジュラスゴムが、前記カーカス層に沿って延びるとともに、
前記ベルト層の端部と前記高モジュラスゴムとの間に介在する前記低モジュラスゴムが、前記ベルト層に沿って延びる請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記カーカス層と前記高モジュラスゴムとの間に介在する前記低モジュラスゴムと、前記ベルト層の端部と前記高モジュラスゴムとの間に介在する前記低モジュラスゴムとが、前記ベルトクッション層のタイヤ幅方向内側部分で互いに接している請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記カーカス層と前記高モジュラスゴムとの間に介在する前記低モジュラスゴムの100%伸長時モジュラスを、前記ベルト層の端部と前記高モジュラスゴムとの間に介在する前記低モジュラスゴムの100%伸長時モジュラスと異ならせている請求項2〜4いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト層の端部とカーカス層との間にベルトクッション層を介在させた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤに生じる偏摩耗の一つとして、トレッド面のショルダー部がセンター部に優先して早期に摩耗する、いわゆるショルダー摩耗が知られている。タイヤの構造上、ショルダー部では、センター部に比べて接地圧が低くなりやすいことから、走行中に滑りを生じて摩耗が早期に進行する。特に非強制摩耗の条件下において顕著なショルダー摩耗は、このショルダー部の接地圧の低さに起因する。
【0003】
本発明者は、ベルト層の端部とカーカス層との間に介在するベルトクッション層のモジュラスを高く設定し、それによりショルダー部の接地圧を高めて耐偏摩耗性を向上することを考えた。しかし、ベルトクッション層のモジュラスを高くすると、ベルト層の端部を起点としたセパレーション(「ベルトセパ」と呼ばれる。)や、カーカス層とベルトクッション層との界面を起点としたセパレーション(「プライセパ」と呼ばれる。)を防ぐという、ベルトクッション層の本来の機能が損なわれる恐れがある。
【0004】
このように、ベルトクッション層のモジュラスに関して、ショルダー摩耗に関する耐偏摩耗性とベルトセパなどに関する耐久性とは背反する関係にあった。特許文献1〜5に記載された空気入りタイヤでは、ベルトクッション層のモジュラスまたは硬度を種々に設定しているものの、上述したベルトセパとプライセパの双方を適切に防止しうるものではなく、改善する余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−183606号公報
【特許文献2】特開平4−183607号公報
【特許文献3】特開平10−204214号公報
【特許文献4】特開2004−26111号公報
【特許文献5】特開2011−37379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ショルダー摩耗を抑えて耐偏摩耗性を向上できるとともに、ベルトクッション層による耐久性を確保できる空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明に係る空気入りタイヤは、一対のビード部の間に設けられたカーカス層と、トレッド部における前記カーカス層の外周側に配置されたベルト層と、前記ベルト層の端部と前記カーカス層との間に介在するベルトクッション層とを備える空気入りタイヤにおいて、前記ベルトクッション層が、前記ベルトクッション層の主体をなし、100%伸長時モジュラスが4.0〜8.0MPaである高モジュラスゴムと、前記カーカス層と前記高モジュラスゴムとの間に介在し、前記高モジュラスゴムよりも100%伸長時モジュラスが小さい低モジュラスゴムとを備えるものである。
【0008】
この空気入りタイヤでは、上記の如き高モジュラスゴムがベルトクッション層の主体をなすため、ショルダー部の接地圧を高めて耐偏摩耗性を向上することができる。それでいて、カーカス層と高モジュラスゴムとの間に低モジュラスゴムを介在させているため、プライセパを有効に防止できる。しかも、ベルト層の端部とカーカス層との間で発生する歪みを、この低モジュラスゴムによって低減できることから、ベルトセパの防止効果も得られる。その結果、ショルダー摩耗を抑えて耐偏摩耗性を向上できるとともに、ベルトクッション層による耐久性も確保できる。
【0009】
この空気入りタイヤでは、前記ベルトクッション層が、前記カーカス層と前記高モジュラスゴムとの間に介在する前記低モジュラスゴムに加え、前記ベルト層の端部と前記高モジュラスゴムとの間に介在し、前記高モジュラスゴムよりも100%伸長時モジュラスが小さい低モジュラスゴムを備えるものが好ましい。かかる構成によれば、ベルトセパの起点となる箇所にも低モジュラスゴムを配置していることで、ベルトセパを効果的に防止して耐久性を更に向上できる。
【0010】
この空気入りタイヤでは、前記カーカス層と前記高モジュラスゴムとの間に介在する前記低モジュラスゴムが、前記カーカス層に沿って延びるとともに、前記ベルト層の端部と前記高モジュラスゴムとの間に介在する前記低モジュラスゴムが、前記ベルト層に沿って延びるものが好ましい。かかる構成によれば、カーカス層に作用する歪みと、ベルト層の端部に作用する歪みを、それぞれ低モジュラスゴムによって吸収しやすくなるため、耐久性を向上するうえで有益である。
【0011】
前記カーカス層と前記高モジュラスゴムとの間に介在する前記低モジュラスゴムと、前記ベルト層の端部と前記高モジュラスゴムとの間に介在する前記低モジュラスゴムとが、前記ベルトクッション層のタイヤ幅方向内側部分で互いに接しているものでもよい。この場合には、カーカス層に作用する歪みと、ベルト層の端部に作用する歪みを、それぞれ低モジュラスゴムによって十分に吸収して、耐久性を効果的に向上することができる。
【0012】
前記カーカス層と前記高モジュラスゴムとの間に介在する前記低モジュラスゴムの100%伸長時モジュラスを、前記ベルト層の端部と前記高モジュラスゴムとの間に介在する前記低モジュラスゴムの100%伸長時モジュラスと異ならせているものでも構わない。かかる構成によれば、低モジュラスゴムの各々のモジュラスを適宜に設定することで、耐偏摩耗性と耐久性のバランスを調整できて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る空気入りタイヤの一例を示すタイヤ子午線断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1に示した空気入りタイヤTは、一対のビード部1と、そのビード部1の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部2と、そのサイドウォール部2の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部3とを備える。このタイヤTは、更に、一対のビード部1の間に設けられたカーカス層4と、トレッド部3におけるカーカス層4の外周側に配置されたベルト層5と、ベルト層5の端部とカーカス層4との間に介在するベルトクッション層7とを備える。
【0016】
ビード部1には、鋼線等の収束体をゴム被覆してなる環状のビードコア1aが埋設されている。カーカス層4は全体としてトロイド状をなし、その端部がビードコア1aを挟み込むようにして巻き上げられている。カーカス層4は、タイヤ周方向に対して略直交する方向に引き揃えたカーカスコードをゴム被覆して形成されたカーカスプライにより構成されている。本実施形態では、カーカス層4を構成するカーカスプライが1枚であるが、2枚以上であっても構わない。
【0017】
ベルト層5は、複数の(本実施形態では2枚の)ベルトプライ51,52により構成される。このうち外周側のベルトプライ52が、内周側のベルトプライ51よりも幅狭に形成されている。各ベルトプライ51,52は、タイヤ周方向に対して20°前後の傾斜角度で引き揃えたベルトコードをゴム被覆して形成され、該ベルトコードがプライ間で互いに逆向きに交差するように配置されている。
【0018】
カーカス層4とベルト層5との間には、カーカス層4からベルト層5に作用する力を緩和するためのベルトプライ6が配設されている。ベルトプライ6は、直上のベルトプライ51よりも幅狭に形成されている。ベルトプライ6は、タイヤ周方向に対して40〜45°の傾斜角度で引き揃えたベルトコードをゴム被覆して形成される。ベルトプライ6は省略可能であり、積層された3枚のベルトプライのうち、ベルト層5を構成するベルトプライ51,52がワーキングベルトとして機能する。
【0019】
ベルトクッション層7は、ベルト層5の端部とカーカス層4とで挟まれるとともに、ベルト層5よりもタイヤ幅方向外側にはみ出し、いわゆるバットレス部に配置されている。バットレス部は、サイドウォール部2のタイヤ径方向の外側部分に相当し、平坦な舗装路での通常走行時には接地しない部位である。
【0020】
ベルトクッション層7は、略三日月状の断面形状を有し、タイヤ周方向に沿って環状に形成されている。カーカス層4の外周面の法線方向に測定されるベルトクッション層7の厚みは、内側端7iからタイヤ幅方向外側に向かって漸増するとともに、外側端7oからタイヤ幅方向内側に向かって漸増している。内側端7iは、ベルト層5がカーカス層4と接する界面に隣接し、外側端7oは、タイヤ最大幅位置10よりもタイヤ径方向外側に配置されている。
【0021】
トレッド部3の外周面であるトレッド面3aには、要求されるタイヤ性能や使用条件に応じた各種のトレッドパターンが形成される。ベルト層5の端部及びベルトクッション層7は、それぞれトレッド面3aのショルダー部の内方に埋設されている。既述のように、タイヤ幅方向の外側に位置するトレッド面3aのショルダー部の接地圧は、中央側に位置するセンター部の接地圧よりも低くなりがちであり、そのことに起因してショルダー摩耗を生じる恐れがあった。
【0022】
図2に拡大して示すように、ベルトクッション層7は、ベルトクッション層7の主体をなす高モジュラスゴム7aと、カーカス層4と高モジュラスゴム7aとの間に介在する低モジュラスゴム7bとを備える。高モジュラスゴム7aの100%伸長時モジュラス(以下、単に「モジュラス」と呼ぶ場合がある。)は4.0〜8.0MPaに設定され、低モジュラスゴム7bのモジュラスは高モジュラスゴム7aのモジュラスよりも小さく設定される。100%伸長時モジュラスは、JISK6251に準拠して、試験温度23℃、ダンベル状3号形の試験片を用いて測定される。
【0023】
ベルトクッション層7の主体をなす高モジュラスゴム7aは、従来のベルトクッション層よりもモジュラスが高く、それ故にショルダー部の接地圧を高めて耐偏摩耗性を向上することができる。それでいて、ベルトクッション層7が低モジュラスゴム7bを介してカーカス層4と接するため、バットレス部で生じやすいプライセパを有効に防止できる。しかも、ベルト層5の端部とカーカス層4との間で発生する歪みを、この低モジュラスゴム7bが低減するために、ベルトセパの防止効果も得られる。
【0024】
高モジュラスゴム7aのモジュラスが4.0MPa未満では、接地性の改善効果が小さく、ショルダー部の接地圧を十分に高められない。このモジュラスは、耐偏摩耗性を向上するうえで5.0MPa以上が好ましく、6.0MPa以上がより好ましい。一方、このモジュラスが8.0MPaを越えると、低モジュラスゴム7bによる歪みの低減効果では対処できなくなるうえ、それらのモジュラス差に起因するゴム界面での故障により耐久性が悪化する恐れがある。ベルトクッション層7の断面積に対する高モジュラスゴム7aの断面積の割合は、耐偏摩耗性を向上するうえで60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましい。
【0025】
ベルトクッション層7による耐久性を確保するうえで、高モジュラスゴム7aのモジュラスと低モジュラスゴム7bのモジュラスとの差は、1.0MPa以上であることが好ましく、2.0MPa以上であることがより好ましい。かかるモジュラスの差は、例えば6.0MPa以下に設定される。低モジュラスゴム7bのモジュラスは、例えば3.0MPa以上に設定される。高モジュラスゴム7aの硬度としては65〜80°が例示され、低モジュラスゴム7bの硬度としては50〜75°が例示される。硬度は、JISK6253のデュロメータ硬さ試験(タイプA)に準じて25℃で測定される。
【0026】
低モジュラスゴム7bは、カーカス層4に沿って延びるシート状に形成され、その厚みT7bは例えば1.0〜4.0mmに設定される。内側端7iから外側端7oまで低モジュラスゴム7bが延びることで、高モジュラスゴム7aとカーカス層4との接触を全面的に妨げて、プライセパの発生を的確に防止できる。ベルトクッション層7がカーカス層4に接する領域のうち、低モジュラスゴム7bが占める割合は65%が好ましく、80%がより好ましく、本実施形態のような100%が最も好ましい。この割合が100%を下回る場合、低モジュラスゴム7bは、
図3のように外側端7oからベルト層5のタイヤ径方向内側にまで至ることが好ましい。
【0027】
図3に示す実施形態は、以下に説明する構成の他は、
図1,2で説明した実施形態と同様の構成であるので、共通点を省略して主に相違点について説明する。前述の実施形態で説明した構成と同一の構成には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0028】
図3の実施形態では、ベルトクッション層7が、低モジュラスゴム7bに加え、ベルト層5の端部と高モジュラスゴム7aとの間に介在し、高モジュラスゴム7aよりもモジュラスが小さい低モジュラスゴム7cを備える。低モジュラスゴム7bのモジュラスに対する既述の説明は、低モジュラスゴム7cのモジュラスにも適合する。このようにベルトセパの起点となる箇所に低モジュラスゴム7cを配置することにより、耐久性を効果的に向上できる。
【0029】
低モジュラスゴム7cは、ベルト層5に沿って延びるシート状に形成され、プライ端51e及びプライ端6eよりもタイヤ幅方向内側の位置から、プライ端51eよりもタイヤ幅方向外側の位置に亘って配されている。プライ端51eは、ベルト層5を構成する複数のベルトプライのうち最も幅広なベルトプライ51の端であり、プライ端6eは、ベルトプライ6の端である。低モジュラスゴム7cがプライ端51e,6eをタイヤ径方向内側から覆うことにより、高モジュラスゴム7aがプライ端51e,6eに接することを妨げ、ベルト層5の端部に発生するせん断歪みを良好に緩和できる。
【0030】
この実施形態における低モジュラスゴム7bは、外側端7oからベルト層5のタイヤ径方向内側の位置に至り、内側端7iに到達せずに途中で終端している。プライセパは、概してバットレス部におけるカーカス層4とベルトクッション層7との界面を起点とするため、かかる構成であっても耐久性に対する不都合はない。この例では、後述する
図4,5の例と比べて高モジュラスゴム7aの体積を増やせるため、耐偏摩耗性を向上するうえで有利である。
【0031】
図4〜6に示す実施形態は、以下に説明する構成の他は、
図3で説明した実施形態と同様の構成であるので、共通点を省略して主に相違点について説明する。前述の実施形態で説明した構成と同一の構成には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0032】
図4では、低モジュラスゴム7bと低モジュラスゴム7cとが、ベルトクッション層7のタイヤ幅方向内側部分で互いに接する。この実施形態では、低モジュラスゴム7bが低モジュラスゴム7cと同じゴム組成物で形成されており、それらが一体的に連続している。そのため、ベルトクッション層7となるゴム部材を二種のゴムの共押出によって成形できるとともに、タイヤ成形時にエア入りなどの不良を抑制できて都合が良い。また、
図5のように、低モジュラスゴム7bが低モジュラスゴム7cと異なるゴム組成物で形成されていても構わない。
【0033】
図3や
図5の例では、低モジュラスゴム7bのモジュラスを低モジュラスゴム7cのモジュラスと異ならせてもよく、それによって耐偏摩耗性と耐久性とのバランス調整に利用できる。例えば、低モジュラスゴム7bのモジュラスを低モジュラスゴム7cのモジュラスよりも高く設定することで、耐久性を確保しながらも、ショルダー部の接地圧をより高めて耐偏摩耗性を向上できる。
【0034】
図6の実施形態では、ベルトクッション層7の全周を低モジュラスゴムにより構成しており、低モジュラスゴム7b,7cを含む低モジュラスゴムが高モジュラスゴム7aを包み込んでいる。かかる構成によれば、ベルトクッション層7となるゴム部材をカーカス層4などに貼り合わせて生タイヤを成形する際に、そのゴム部材の位置決め精度に関係なく、プライセパやベルトセパの故障が懸念される箇所に低モジュラスゴムを適切に配置できるため、タイヤの成形工程を簡易化できて都合が良い。
【0035】
本発明の空気入りタイヤは、ベルトクッション層を上記の如く構成すること以外は、通常の空気入りタイヤと同等に構成でき、従来公知の材料、形状、構造、製法などが何れも本発明に採用することができる。
【0036】
本発明の空気入りタイヤは、上記の如き作用を奏して耐偏摩耗性と耐久性に優れることから、トラックやバス、産業車両、建設車両などの車両重量が重い車両に使用される重荷重用空気入りタイヤとして有用である。
【0037】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の構成と効果を具体的に示す実施例について説明する。タイヤの各性能評価は、次のようにして行った。
【0039】
(1)耐偏摩耗性(偏摩耗比)
実車にタイヤを装着して5万kmを走行後、トレッド面のセンター部とショルダー部とで摩耗量を計測し、偏摩耗比(ショルダー部の摩耗量/センター部の摩耗量)を算出した。偏摩耗比が1.0に近いほど均一摩耗であり、耐偏摩耗性に優れることを示す。一方、偏摩耗比が1.0より大きくなればなるほど、ショルダー摩耗の傾向が強いと言える。
【0040】
(2)耐久性(カーカス耐久力)
バットレス部のタイヤ内面側を所定の方法で劣化させたタイヤを、所定の内圧と所定の荷重で回転ドラムに押し付けて一定速度で走行させるカーカス耐久力試験を実施した。カーカス層に故障(プライセパ)が発生するまでの走行距離を成績として、比較例1の結果を100とする指数で評価した。数値が大きいほどカーカス耐久力が高く、耐久性に優れていることを示す。
【0041】
(3)耐久性(ベルト耐久力)
所定の内圧にしたタイヤを所定の荷重で回転ドラムに押し付けて一定速度で走行させ、その荷重を一定時間ごとに上昇させていくベルト耐久力試験を実施した。ベルト層に故障(ベルトセパ)が発生するまでの走行距離を成績として、比較例1の結果を100とする指数で評価した。数値が大きいほどベルト耐久力が高く、耐久性に優れていることを示す。
【0042】
評価に供したタイヤのサイズは275/80R22.5であり、ベルトクッション層の構成ゴムを除き、各例におけるタイヤ構造は共通している。比較例1,2では、それぞれベルトクッション層を単一のゴムで構成した。比較例3は、
図3においてゴム7bを具備しない構造であり、ゴム7bをゴム7aに置き換えたものに相当する。実施例1〜4は、それぞれ
図2〜4に示した構造を有する。実施例5,6及び比較例4,5は、ゴム7aのモジュラスを除いて、実施例3と同じ構造を有する。評価結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示すように、比較例1,4では、ショルダー摩耗を起こしていて耐偏摩耗性に劣っている。比較例2,3,5では、耐偏摩耗性が改善されているものの、耐久性が比較的劣っている。これに対し、実施例1〜6では、比較例2,3,5よりも耐久性を向上しつつ、それらと同等かそれ以上に耐偏摩耗性を改善できている。特に実施例2〜6では、改善効果が顕著である。
【符号の説明】
【0045】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 トレッド部
4 カーカス層
5 ベルト層
7 ベルトクッション層
7a 高モジュラスゴム
7b 低モジュラスゴム
7c 低モジュラスゴム