(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する関心が高まっており、例えば自動車業界においても燃費向上等を目的とした軽量化が進んでいる。この軽量化のニーズに対応し、自動車の熱交換器用アルミクラッド材(ブレージングシート)の薄肉化及び高強度化の検討が盛んに行われている。上記ブレージングシートとしては、犠性材(例えばAl−Zn系)、芯材(例えばAl−Si−Mn−Cu系)及びろう材(例えばAl−Si系)の順からなる三層構造を有するものが一般的であり、高強度化を図るべく、上記芯材へマグネシウム(Mg)添加、つまりMg
2Si析出による強化の検討が進められている。
【0003】
また、熱交換器等の組み立ての際のブレージングシートの接合には、フラックスろう付け法が広く採用されている。このフラックスとは、ろう付け性を高めるものであり、一般的にはKAlF
4を主成分として含むもの等が用いられている。
【0004】
しかし、マグネシウムを含有するアルミニウム合金からなる芯材を備えるブレージングシートは、上記従来のフラックスを用いた場合、ろう付け性を阻害するという不都合がある。この原因は、ろう付けのための加熱時に、芯材中のマグネシウムがろう材表面のフラックス中へ拡散し、このマグネシウムとフラックス成分とが反応して高融点化合物(KMgF
3及びMgF
2等)が形成されることで、フラックス成分が消費されるためといわれている。このため、マグネシウム含有アルミニウム合金用のフラックス組成物の開発が自動車用の熱交換器等の軽量化を進めるために必要とされている。
【0005】
このような中、マグネシウム含有アルミニウム合金を芯材とするブレージングシートのろう付け性を向上させるフラックス組成物として、従来のフラックス成分に(1)CsFを添加したものや(特開昭61−162295号公報参照)、(2)CaF
2、NaF又はLiFを添加したもの(特開昭61−99569号公報参照)が検討されている。
【0006】
しかし、上記(1)のCsFが添加されたフラックス組成物は、Csが非常に高価であるため、大量生産等には不向きであり、実用性が低い。一方、上記(2)のCaF
2等が添加されたフラックス組成物によれば、これらの化合物の添加により、フラックスが低融点化するため、フラックスの流動性は向上する。しかし、このフラックス組成物においても、フラックスとマグネシウムとは従来どおり反応するため、ろう付け性が十分には向上しない。また、一般的には、フラックスの塗布量を増加させることでろう付け性が高まることが知られているが、塗布量の増加は高コスト化の要因となることから、低コストで優れたろう付けを可能とするフラックスの開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情に基づいてなされたものであり、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材のろう付けに用いた際、流動性に優れ、少ない塗布量であってもろう付け性を高めることができるフラックス組成物、及びこのフラックス組成物を用いたブレージングシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、マグネシウム含有アルミニウム合金のろう付け性低下原因が、従来報告されているマグネシウムとフラックス成分(KAlF
4)とが反応し、マグネシウムを含む高融点化合物が形成されることだけではなく、上記反応に伴って高融点のK
3AlF
6が生成されていることに着目した。また、フラックスよりも高融点の添加剤がフラックス組成物に含まれる場合、ろう付け時に先に溶融し、液体状となったフラックス成分中に固体状の添加剤が存在する状態でフラックスが流動するが、液体中の固体の体積率である固相率が高いと溶融フラックスの見かけ粘度が上昇し、フラックスの流動性が低下することにも着目した。そこで、本発明者らは、このK
3AlF
6を有効利用することができる特定のフッ化物をフラックス成分と共存させることでろう付け性が改善できること、及びこのフッ化物の粒径及び添加量の調整により固相率を制御してフラックスの流動性を向上できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、上記課題を解決するためになされた発明は、
アルミニウム合金材のろう付け用フラックス組成物であって、
[A]KAlF
4を含むフラックス成分(以下、単に「[A]フラックス成分」ということもある。)、及び
[B]第1族元素及び第2族元素以外の元素を含み、K(カリウム)を含まないフッ化物(以下、単に「[B]フッ化物」ということもある。)
を含有し、
上記[B]フッ化物単体で粒子状であり、
上記[B]フッ化物の[A]フラックス成分に対する添加量C(質量%)及び平均粒径d(μm)が下記式(1)を満たすことを特徴とする。
0.83C−0.19d<43 ・・・(1)
【0011】
当該フラックス組成物は、[B]フッ化物を含有することから、マグネシウム含有アルミニウム合金材のろう付けに用いた際、この[B]フッ化物がろう付け時に生成されるK
3AlF
6と反応し、KAlF
4を生成することができると考えられる。従って、当該フラックス組成物によれば、ろう付け性向上に必要なKAlF
4の減少を抑えることができ、少ない塗布量であっても、ろう付け性を高めることができる。また、当該フラックス組成物は、マグネシウムを含有しないアルミニウム合金材のろう付けにも対応可能であり、広い用途で使用することができる。
【0012】
また、当該フラックス組成物は、[B]フッ化物の添加量C(質量%)及び平均粒径d(μm)が上記式(1)を満たす。この式の趣旨を概括すると、[B]フッ化物の平均粒径dが小さい場合は添加量Cが小さくし、逆に平均粒径dが大きい場合は添加量Cを大きくすることで、溶融フラックス中に含浸される粒子の体積が抑えられ、固相率が所定範囲内に抑えられる。その結果、溶融フラックスの見た目の粘度が低下し、高い流動性を発揮する。
【0013】
さらに、当該フラックス組成物は、[B]フッ化物単体で粒子状とし、[A]フラックス成分及び[B]フッ化物を別体としているため、[B]フッ化物の存在による[A]フラックス成分の高融点化を抑制することができ、その結果、フラックスの流動性の低下を防止してろう付け性の向上作用を効果的に奏することができる。
【0014】
上記[B]フッ化物の平均粒径dとしては、0.1μm以上300μm以下が好ましい。このように[B]フッ化物の平均粒径dを上記範囲内とすることで、当該フラックス組成物のろう付け制向上効果及び流動性改善効果を効果的に発現させることができる。
【0015】
上記[B]フッ化物がAlF
3であるとよい。このように、上記[B]フッ化物としてAlF
3を用いることで、K
3AlF
6からのKAlF
4の生成をさらに効率的に行うことができると考えられる。
【0016】
上記[A]フラックス成分単体で粒子状であることが好ましい。このように、[A]フラックス成分も単体の粒子状とすることで、当該フラックス組成物の取り扱いが容易になるとともに、容易かつ確実に[B]フッ化物の存在による[A]フラックス成分の高融点化を抑制することができる。
【0017】
本発明のブレージングシートは、アルミニウム合金からなる芯材と、この芯材の少なくとも一方の面に積層されるろう材と、このろう材の一方の面に積層され、上記フラックス組成物からなるフラックス層とを備える。当該ブレージングシートは、上記フラックス組成物が用いられているため、ろう付け性に優れる。
【0018】
上記フラックス層におけるフラックス組成物の塗布量としては、固形分換算で0.5g/m
2以上100g/m
2以下が好ましい。当該ブレージングシートによれば、フラックス組成物の使用量を上記範囲の少ない範囲としており、優れたろう付け性を発揮しつつ製造コストを抑えることができる。
【0019】
上記アルミニウム合金がマグネシウムを含むことが好ましい。このように、芯材にマグネシウム含有アルミニウム合金を用いることで、当該ブレージングシートの軽量化が図れる。一方、当該ブレージングシートによれば、当該フラックス組成物によりフラックス層が形成されているため、マグネシウム含有アルミニウム合金を用いても、優れたろう付け性を発揮することができる。
【0020】
なお、「平均粒径d」とは、レーザー回析散乱法により測定された粒径の分布において小径側からの通過質量割合が50%となる粒径を意味し、「粒径」とは粒子の最も長い弦の長さを意味する。また、「フラックス組成物の塗布量」とは、フラックス組成物の固形分質量(g)を芯材の一方の面の面積(m
2)で除することで算出される値である。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明のフラックス組成物は、マグネシウムの含有の有無を問わず、アルミニウム合金材のろう付けに広く用いることができる。特に、当該フラックス組成物は流動性に優れるため、マグネシウムを含有するアルミニウム合金材のろう付けに用いた際、少ない塗布量であってもろう付け性を高めることができる。また、本発明のブレージングシートは、上記フラックス組成物が用いられているため、ろう付け性が高い。従って、本発明のブレージングシートによりろう付けされた構造体は、高い強度と軽量化とを両立させることができ、例えば自動車の熱交換器等として用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のフラックス組成物、及びブレージングシートの実施の形態について、順に詳説する。
【0023】
〔フラックス組成物〕
本発明のフラックス組成物は、アルミニウム合金材のろう付けに用いられる。当該フラックス組成物は、[A]KAlF
4を含むフラックス成分、及び[B]第1族元素及び第2族元素以外の元素を含み、Kを含まない粒子状のフッ化物を含有する。
【0024】
当該フラックス組成物は、[B]フッ化物を含有することから、マグネシウム含有アルミニウム合金材のろう付けに用いた際、この[B]フッ化物がろう付け時に生成されるK
3AlF
6と反応し、KAlF
4を生成することができると考えられる。従って、当該フラックス組成物によれば、ろう付け性向上に必要なKAlF
4の減少を抑えることができ、少ない塗布量(付着量)であっても、ろう付け性を高めることができる。また、[B]フッ化物は、[A]フラックス成分によるろう付けを阻害するものではない。従って、当該フラックス組成物は、マグネシウムを含有しないアルミニウム合金材のろう付けにも対応可能であり、広い用途で使用することができる。以下、各成分について説明する。
【0025】
[A]フラックス成分
[A]フラックス成分は、KAlF
4含むろう付け用フラックス成分であればよく、特に限定されるものではない。この[A]フラックス成分は、ろう付け時の加熱昇温過程において、ろう材の成分より先に溶融し、アルミニウム合金材表面の酸化膜を除去し、アルミニウム合金材表面を覆ってアルミニウムの再酸化を防止する機能を発揮する。
【0026】
[A]フラックス成分は、KAlF
4以外の他の成分を含んでいてもよい。このKAlF
4以外の成分としては、特に限定されず、公知のフラックス成分に含まれるものを挙げることができる。この任意成分としては、例えば、KF、K
2AlF
5、K
3AlF
6等の他のフッ化物や、K
2(AlF
5)(H
2O)等の水和物などを挙げることができる。上記他の成分の中で、例えば、K
2AlF
5等は、ろう付け加熱中にMgと反応してK
3AlF
6を形成し、このK
3AlF
6が上述のとおり[B]フッ化物と反応してKAlF
4を生成し、この結果ろう付け性が向上すると考えられる。また、K
3AlF
6がはじめから存在する場合も、これが[B]フッ化物と反応するため、同様の効果が奏されると考えられる。このように必須成分としてのKAlF
4以外に他の成分が含まれていても、K
3AlF
6が生成又は存在する状態で[B]フッ化物を存在させることで、本発明の効果を奏すると考えられる。
【0027】
[A]フラックス成分におけるKAlF
4の含有率は、特に限定されないが、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。
【0028】
[A]フラックス成分の存在形態としては、特に限定されないが、単体で粒子の状態が好ましい。この粒子の形状は、特に限定されず、球形、不定形等が採用される。[A]フラックス成分と[B]フッ化物とを共に単体で粒子とすることで、[B]フッ化物の存在による[A]フラックス成分の高融点化を抑制することができ、その結果ろう付け性をさらに高めることができる。また、当該フラックス組成物が粒子の集合体となるため取り扱いが容易になる。
【0029】
[A]フラックス成分の融点に対する当該フラックス組成物の融点の上昇が、15℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましい。また、当該フラックス組成物の融点の上限としては、580℃が好ましく、570℃がさらに好ましい。このように当該フラックス組成物の高融点化を抑えることで、より高いろう付け性を発揮することができる。なお、当該フラックス組成物の融点の下限としては、特に制限されないが、例えば、520℃とすることができ、540℃が好ましい。
【0030】
[B]フッ化物
[B]フッ化物は、第1族元素(水素、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びフランシウム)及び第2族元素(ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム及びラジウム)以外の元素を含み、K(カリウム)を含まないフッ化物であれば特に限定されない。但し、[B]フッ化物としては、メカニズムが十分に明らかにできていないが、マグネシウム含有アルミニウム合金材のろう付け時に生成される高融点化合物であるK
3AlF
6と反応し、KAlF
4を生成することができる成分であることが好ましい。
【0031】
上記[B]フッ化物としては、例えば、AlF
3、CeF
3、BaF
2等を挙げることができる。これらの中でも、第13族元素(ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム等)を含むフッ化物が好ましく、アルミニウムを含むフッ化物がより好ましく、第13族元素のフッ化物もより好ましい。これらの中でも、AlF
3が特に好ましい。AlF
3を用いることで、K
3AlF
6からのKAlF
4の生成をさらに効率的に行うことができる。なお、AlF
3は、水和物であってもよいが、無水物が好ましい。
【0032】
当該フラックス組成物における[B]フッ化物の存在形態は、[A]フラックス成分を含まない粒子状である。[B]フッ化物が粒子状であることで、溶融フラックスにおける[B]フッ化物の含浸率が低下し、固相率を低減することができる。[B]フッ化物の粒子の形状は、特に限定されず、球形、不定形等が採用される。また、上述したように[A]フラックス成分と[B]フッ化物とをそれぞれ別の粒子とすることで、[A]フラックス成分の高融点化を抑制することができ、ろう付け性をさらに高めることができる。
【0033】
当該フラックス組成物において、[B]フッ化物の[A]フラックス成分に対する添加量C(質量%)及び平均粒径d(μm)は下記式(1)を満たす。
0.83C−0.19d<43 ・・・(1)
【0034】
上記式(1)を導出した手順は次の通りである。まずフラックスの流動性を計測するために、100mlのイオン交換水に[A]フラックス成分及び[B]フッ化物を含有するフッ化物含有フラックス組成物を懸濁させたものをAl又はAl−Mg合金製の試験板(厚さ0.2mm、50mm角)上の中心に約φ10mmとなるように滴下し、乾燥させて水分を除去した。なお、[A]フラックス成分としては、KAlF
4を80体積%及びK
2(AlF
5)(H
2O)を20体積%含む粒子状のものを用いた。[B]フッ化物としては、粒子状のAlF
3を用いた。また、このように懸濁状のフラックス組成物を塗布し、イオン交換水を乾燥除去することで、粉末状の各成分が均一に塗布できるようにした。このフッ化物含有フラックス組成物を露点−40℃、酸素濃度100ppm以下の雰囲気で600℃に10分間加熱した。このときの加熱速度は平均50℃/minである。試験板上のフラックスの加熱前面積と、加熱後面積とを画像解析により計測し、それぞれ真円面積に換算した場合の換算半径を算出した。この加熱後面積の換算半径と加熱前面積の換算半径との差(mm)をフラックスの滴下量(塗布量)(g/m
2)で割った比容積であるフッ化物含有フラックス組成物の流動容積率s1(m
3/g)を求めた。この試験を試験板のマグネシウム含有量及びフラックスの滴下量を適宜変化させて繰り返し、それぞれの条件におけるフッ化物含有フラックス組成物の流動容積率s1を求めた。なお、フラックスの塗布量は、フラックスの固形分質量(g)を試験板の片面面積(0.0025m
2)で除して算出したものである。
【0035】
次に、[A]フラックス成分を含有するが[B]フッ化物を含有しないフッ化物非含有フラックス組成物を用いて、上記[A]フラックス成分及び[B]フッ化物を含有するフッ化物含有フラックス組成物と同様の流動性計測試験を行い、加熱後面積の換算半径と加熱前面積の換算半径との差(mm)をフラックスの滴下量(塗布量)(g/m
2)で割った比容積であるフッ化物非含有フラックス組成物の流動容積率s2(m
3/g)を求めた。上記フッ化物含有フラックス組成物と同様に、試験板のマグネシウム含有量及びフラックスの滴下量を適宜変化させて試験を繰り返し、それぞれの条件におけるフッ化物非含有フラックス組成物の流動容積率s2を求めた。
【0036】
さらに、試験板のマグネシウム含有量及びフラックスの滴下量(塗布量)が同一のフッ化物含有フラックス組成物及びフッ化物非含有フラックス組成物に対し、フッ化物含有フラックス組成物の流動容積率s1のフッ化物非含有フラックス組成物の流動容積率s2に対する比である流動容積率比R(s1/s2×100%)を試験板のマグネシウム含有量及びフラックスの滴下量ごとに求めた。この流動容積率比Rは、その数値が大きいほど[B]フッ化物の添加による流動性の低下が小さく、流動性に優れることを意味する。
【0037】
上述の試験で求めた上記流動容積率比Rを目的関数、[B]フッ化物の[A]フラックス成分に対する添加量C(質量%)及び平均粒径dを説明変数として重回帰分析を行い、下記式(2)の関係式を得た。
R=103−0.83C+0.19d ・・・(2)
【0038】
ここで、フラックス組成物において、流動容積率比Rは60%以上であることが好ましい。すなわち、R>60とすれば、ろう付けに十分な流動性を確保することができる。この関係を上記式(2)に当てはめると下記式(3)が得られ、この式(3)を整理することで上記式(1)が導かれる。
R=103−0.83C+0.19d>60 ・・・(3)
【0039】
[B]フッ化物の[A]フラックス成分に対する添加量Cの上限としては、特に限定されないが、200質量%が好ましく、100質量%がより好ましく、60質量%がさらに好ましい。[B]フッ化物の添加量Cが上記上限を超えると、相対的に[A]フラックス成分の当該フラックス組成物における含有量が低下し、ろう付け性が低下するおそれがある。
【0040】
[B]フッ化物の[A]フラックス成分に対する添加量Cの下限も、特に限定されないが、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましく、10質量%がさらに好ましい。[B]フッ化物の添加量Cが上記下限未満であると、本発明の効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0041】
[B]フッ化物の平均粒径dの上限としては、300μmが好ましく、200μmがより好ましく、150μmがさらに好ましい。[B]フッ化物の平均粒径dが上記上限を超えると、当該フラックス組成物の被ろう付け材への定着性が低下するおそれや、スプレー塗布を用いた場合、ノズル径よりも粒子径が大きくなりスプレー塗布ができなくなるおそれがある。
【0042】
[B]フッ化物の平均粒径dの下限としては、0.1μmが好ましく、1μmがより好ましく、5μmがさらに好ましい。[B]フッ化物の平均粒径dが上記下限未満であると、当該フラックス組成物における固相率が上昇して流動性が低下するおそれがあるほか、粒子の製造が困難になるおそれがある。
【0043】
また、当該フラックス組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で[A]フラックス成分、[B]フッ化物以外の成分が含有されていてもよい。この成分としては、例えば低融点化剤を挙げることができる。低融点化剤を含有させることで、[A]フラックス成分の高融点化を抑制し、ろう付け性をより高めることができる。
【0044】
上記低融点化剤とは、[A]フラックス成分の融点の上昇を抑える効果を有する成分である。低融点化剤としては、上記効果を有するものであれば特に限定されないが、例えば、NaF、LiF、CsF、CaF
2等のカリウム以外のアルカリ金属及びアルカリ土類金属のフッ化物を挙げることができる。これらの中でも、アルカリ金属のフッ化物が好ましく、NaF及びLiFがさらに好ましい。NaF及びLiFを用いることで、低融点化によるろう付け性の向上を図ることができる。これらの低融点化剤は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0045】
低融点化剤の添加量としては、特に限定されないが、[A]フラックス成分100質量部に対して、0.1質量部以上30質量部が好ましく、0.5質量部以上20質量部以下がより好ましい。低融点化剤の添加量が上記上限を超えると、相対的に[A]フラックス成分の当該フラックス組成物における含有量が低下し、ろう付け性が低下するおそれがある。逆に、低融点化剤の添加量が上記下限未満であると、低融点化剤を含有させた効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0046】
当該フラックス組成物の状態としては、特に限定されないが、通常、粉末状である。但し、その他、固形状やペースト状などであってもよい。
【0047】
当該フラックス組成物の製造方法としては、特に限定されず、[A]フラックス成分、[B]フッ化物、及び必要に応じて低融点化剤等を適当な割合で混合する。この混合の方法としては、例えば(1)それぞれ粉末状の成分を均一混合し、粉末状のフラックス組成物として得る方法、(2)それぞれ粉末状の各成分を混合してルツボ等で[B]フッ化物が溶融しない範囲で加熱した後、冷却し固形状又は粉末状のフラックス組成物として得る方法、(3)それぞれ粉末状の各成分を水等の溶媒中に懸濁させペースト状又はスラリー状のフラックス組成物として得る方法などを挙げることができる。但し上述のように、[A]フラックス成分を含む粒子と[B]フッ化物を含む粒子とを含有させるためには、(1)又は(3)の方法が好ましい。
【0048】
(当該フラックス組成物の使用方法)
本発明のフラックス組成物の使用方法(本発明のフラックス組成物を用いたろう付け方法)について、以下説明する。本発明のフラックス組成物は、高い流動性を有し、少ない塗布量(付着量)であってもろう付け性に優れるため、本発明のフラックス組成物を用いることで、経済性に優れたろう付けを行うことができる。
【0049】
当該フラックス組成物によってろう付けされるアルミニウム合金材は特に限定されず、マグネシウムを含有していてもよいし、含有していなくともよい。但し、材質の軽量化及び当該フラックス組成物の効果をより十分に発揮させるためには、マグネシウムを含有するアルミニウム合金が好ましい。上記アルミニウム合金材としては、アルミニウム合金のみからなる材料や、アルミニウム合金からなる層と他の材料からなる層とを備える多層複合材料(ブレージングシート等)であってもよい。また、当該フラックス組成物を付着させる対象としては、アルミニウム合金材であればろう材に限定されず犠牲材等であってもよい。
【0050】
上記アルミニウム合金材(アルミニウム合金)がマグネシウムを含有する場合、マグネシウムの含有量の上限としては、1.5質量%が好ましく、1.0質量%がさらに好ましく、0.5質量%が特に好ましい。マグネシウム含有量が上記上限を超えると、当該フラックス組成物のろう付け性を十分に発揮させることができないおそれがある。なお、上記アルミニウム合金材(アルミニウム合金)中のマグネシウムの含有量の下限としては、特に限定されず、例えば0.01質量%である。
【0051】
当該ろう付け方法に用いられるろう材としては、特に限定されず、公知のものを用いることができる。好ましいろう材としては、[A]フラックス成分の融点より約10〜100℃高い融点を有するものが好ましく、例えばAl−Si合金を挙げることができ、より好適には、Si含有量が5質量部以上15質量部以下であるAl−Si合金を挙げることができる。これらのAl−Si合金(ろう材)には、ZnやCuなどの他の成分が含有されていてもよい。
【0052】
当該フラックス組成物のろう付け部分への付着方法としては、特に限定されず、例えば粉末状のフラックスをスプレー等を用いてそのまま塗布する方法や、スラリー状又はペースト状のフラックス組成物をろう付け部分へ塗布・浸漬し、分散媒成分を揮発させてフラックス組成物のみを付着させる方法等を挙げることができる。上記分散媒成分としては、通常水であり、その他アルコール等の有機溶媒などを用いてもよい。
【0053】
上記フラックス組成物のろう付け部分への付着量の下限は、固形分換算で、0.5g/m
2が好ましく、1g/m
2がさらに好ましい。フラックス組成物の付着量を上記下限以上とすることで、十分なろう付け性を発揮させることができる。一方、フラックス組成物の付着量の上限は、固形分換算で、100g/m
2が好ましく、60g/m
2がより好ましく、20g/m
2がさらに好ましく、10g/m
2が特に好ましい。フラックス組成物の付着量を上記上限以下とすることで、ろう付け性を維持しつつ、フラックス組成物の使用量を抑え、コストの低減を達成することができる。
【0054】
ろう付け部分へ懸濁液(スラリー又はペースト)としてのフラックス組成物を付着させた後は、通常ろう付け部分を乾燥させる。その後、芯材のアルミニウム合金の融点より低くかつフラックスの融点より高い温度(例えば580℃以上615℃以下)で加熱することにより、フラックス成分及びろう材を溶融させて、ろう付けを行うことができる。
【0055】
なお、加熱の際の昇温速度としては、例えば10〜100℃/min程度である。また、加熱時間は、特に限定はされないが、ろう付け性を阻害するマグネシウムの拡散量を低減するためには短い方が好ましい。加熱時間は、例えば5〜20分程度である。
【0056】
また、上記加熱の際は公知の環境条件とすればよく、好ましくは不活性ガス雰囲気等の非酸化性雰囲気中で行うことが好ましい。この加熱の際の酸素濃度としては、酸化を抑制する観点から1,000ppm以下が好ましく、400ppm以下がより好ましく、100ppm以下が更に好ましい。また、この加熱の際の環境の露点としては、−35℃以下であることが好ましい。
【0057】
なお、当該フラックス組成物は、マグネシウムを含有しないアルミニウム合金材のろう付けにも用いることができる。また、マグネシウムを含有しないアルミニウム合金を芯材とするブレージングシートのフラックス層にも用いることができる。
【0058】
〔ブレージングシート〕
本発明のブレージングシートは、アルミニウム合金からなる芯材と、この芯材の少なくとも一方の面に積層されるろう材と、このろう材の一方の面(表面)に積層され、上記フラックス組成物からなるフラックス層とを備える。なお、当該ブレージングシートにおける芯材とろう材との層構造としては、ろう材/芯材/ろう材(三層両面ろう材)や、ろう材/芯材/中間層/ろう材(四層材)などの三層以上の構造を有するものも含む。
【0059】
当該ブレージングシートは、ろう材の表面に上記フラックス組成物からなるフラックス層を備えるため、マグネシウム含有アルミニウム合金からなる芯材を用いた場合であっても、ろう付けの際、芯材中のマグネシウムに由来する高融点化合物の生成に伴うKAlF
4の減少を抑制することができる。また、フラックス組成物が高い流動性を有し、ろう付け面に均一に拡がる。従って、当該ブレージングシートによれば、ろう付け性を高めることができる。
【0060】
上記芯材は、アルミニウム合金であれば特に限定されないが、マグネシウムを含有するアルミニウム合金であることが好ましい。このように、芯材にマグネシウム含有アルミニウム合金を用いることで、当該ブレージングシートの軽量化が図れる。一方、当該ブレージングシートによれば、当該フラックス組成物によりフラックス層が形成されているため、マグネシウム含有アルミニウム合金を用いても、優れたろう付け性を発揮することができる。マグネシウム含有アルミニウム合金を芯材として用いる場合、この芯材中のマグネシウムの含有量としては、上記アルミニウム合金材として説明した範囲であることが好ましい。
【0061】
上記ろう材としては、当該フラックス組成物の使用方法として上述したものを挙げることができる。
【0062】
上記フラックス層は上記フラックス組成物からなる層である。このフラックス層の形成方法としては特に限定されないが、例えば粉末状、スラリー状又はペースト状のフラックス組成物をろう材表面へ塗布する方法等を挙げることができる。
【0063】
上記フラックス層におけるフラックス組成物の塗布量の下限としては特に限定されないが、0.5g/m
2が好ましく、1g/m
2がさらに好ましい。フラックス組成物の塗布量を上記下限以上とすることで、十分なろう付け性を発揮させることができる。一方、フラックス組成物の塗布量の上限としては、100g/m
2が好ましく、60g/m
2がより好ましく、20g/m
2がさらに好ましく、10g/m
2が特に好ましい。フラックス組成物の塗布量を上記上限以下とすることで、ろう付け性を維持しつつ、フラックス組成物の使用量を抑え、コストの低減を達成することができる。
【0064】
当該ブレージングシートのサイズは、特に限定されず、公知のサイズを適用することができる。例えば、当該ブレージングシートの厚さとしては、例えば0.1mm以上2mm以下とすることができる。また、当該ブレージングシートの製造方法も特に限定されず、公知の方法で製造することができる。
【0065】
当該ブレージングシートは、上記芯材の他方の面に積層され、芯材より電位が卑な犠牲材をさらに備えていてもよい。当該ブレージングシートが犠牲材を有する場合、耐食性をより高めることができる。
【0066】
上記犠牲材の材質としては、芯材より電位が卑であるものであれば特に限定されないが、例えばZn含有量が1〜10質量%のAl−Zn系合金や、このAl−Zn合金にSiを0.5〜1.1質量%、Mnを2.0質量%以下で添加したAl合金等を挙げることができる。
【0067】
(本発明のブレージングシートの使用方法)
当該ブレージングシートは、公知の方法で使用(ろう付け)することができる。当該ブレージングシートをろう付けする際の加熱条件(温度、昇温速度、酸素濃度等)等は、上述のろう付け方法として記載した条件を挙げることができる。
【0068】
(構造体)
当該フラックス組成物によるアルミニウム合金材のろう付けにより、または、当該ブレージングシートから形成される構造体は、ろう付け部分が強固に接合されている。従って、上記構造体は、アルミニウム合金材、好ましくはマグネシウム含有アルミニウム合金を用いた構造体として高い強度と軽量化とを両立させることができる。
【0069】
上記構造体としては具体的には、ラジエータ、エバポレータ、コンデンサ等の自動車用熱交換器等を挙げることができる。このような熱交換器は、好ましくはマグネシウムを含有するアルミニウム合金材(芯材)を備えるブレージングシートが用いられていることで高強度化及び薄肉化が図られている。また、このような熱交換器は、本発明のフラックス組成物が用いられているため、ろう付け性に優れ、強固にろう付けされている。
【実施例】
【0070】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
[参考例1〜8]
100mlのイオン交換水に[A]フラックス成分のみを含有するフラックス組成物を懸濁させたものを表1に示すマグネシウム含有量のAl又はAl−Mg合金製の試験板(厚さ0.2mm、50mm角)上の中心に表1の塗布量で約φ10mmとなるように滴下し、乾燥させて水分を除去した。なお、[A]フラックス成分としては、KAlF
4を80体積%及びK
2(AlF
5)(H
2O)を20体積%含む粒子状のものを用いた。また、このように懸濁状のフラックス組成物を塗布し、イオン交換水を乾燥除去することで、粉末状の各成分が均一に塗布できるようにした。このフラックス組成物を露点−40℃、酸素濃度100ppm以下の雰囲気で600℃に10分間加熱した。このときの加熱速度は平均50℃/minである。試験板上のフラックスの加熱前面積と、加熱後面積とを画像解析により計測し、それぞれ真円面積に換算した場合の換算半径を算出した。この加熱後面積の換算半径と加熱前面積の換算半径との差(mm)をフラックスの滴下量(塗布量)(g/m
2)で割った比容積であるフラックスの流動容積率s(m
3/g)を参考例1〜8について求めた。なお、フラックスの塗布量は、フラックスの固形分質量(g)を試験板の片面面積(0.0025m
2)で除して算出したものである。
【0072】
[実施例1〜16及び比較例1〜3]
フラックス組成物として、上記[A]フラックス成分に表1に示す平均粒径の[B]フッ化物を表1に示す添加量([A]フラックス成分に対する割合)で添加したものを用い、表1に示すマグネシウム含有量のAl又はAl−Mg合金製の試験板を用いて上記参考例1〜8と同様の手順で試験板状にフラックス組成物を表1に示す塗布量で塗布した後、上記参考例1〜8と同様の条件で加熱し、フラックスの流動容積率s(m
3/g)を実施例1〜16及び比較例1〜3について求めた。なお、[B]フッ化物としては、粒子状のAlF
3を用いた。
【0073】
また、実施例1〜16及び比較例1〜3に対し、上記式(1)の左辺(0.83C−0.19d)の値を算出した。さらに、実施例1〜16及び比較例1〜3それぞれについて、参考例1〜8のうち、試験板のマグネシウム含有量及びフラックスの滴下量(塗布量)が同一のものを比較対象参考例とし、この比較対象参考例の流動容積率sに対する実施例1〜16及び比較例1〜3の流動容積率の比(流動容積率比)Rを求めた。例えば、実施例1では、試験板のマグネシウム含有量が0質量%、フラックスの塗布量が3g/m
2の参考例1が比較対象参考例となるため、流動容積率比Rは0.0046/0.056×100%(=82.4%)となり、実施例3では、試験板のマグネシウム含有量が0.4質量%、フラックスの塗布量が1g/m
2の参考例2が比較対象参考例となるため、流動容積率比Rは0.0047/0.063×100%(=74.4%)となる。実施例1〜16及び比較例1〜3について算出したこれらの数値を表1に示す。
【0074】
なお、[B]フッ化物の平均粒子径は、マイクロトラック(型番:SALD−3000S 株式会社島津製作所製)を用いて測定範囲を0.1〜3000μmとして計測した。
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示されるように、上記式(1)を満たす本発明のフラックス組成物(実施例1〜16)は、流動容積率比Rが高く、[B]フッ化物を添加しても流動性の低下が低減されていることがわかる。すなわち、本発明によれば流動性を維持したまま[B]フッ化物を添加することができ、その結果ろう付け性を高めることができる。