(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989598
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】嫌気性処理システム及び嫌気性処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/28 20060101AFI20160825BHJP
C02F 3/10 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
C02F3/28 B
C02F3/10 Z
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-102241(P2013-102241)
(22)【出願日】2013年5月14日
(65)【公開番号】特開2014-221462(P2014-221462A)
(43)【公開日】2014年11月27日
【審査請求日】2015年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】507036050
【氏名又は名称】住友重機械エンバイロメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】尾原 徹
(72)【発明者】
【氏名】永井 貴徳
【審査官】
▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−086862(JP,A)
【文献】
特開平08−103795(JP,A)
【文献】
特開平10−180289(JP,A)
【文献】
特開平08−103794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性汚泥が粒状化してなるグラニュール汚泥を収納し、導入された有機性廃水を上向きに流動させ前記グラニュール汚泥と接触させることによって前記有機性廃水を嫌気性処理し、上部の分離部により前記グラニュール汚泥を分離して処理水を排出する嫌気性処理槽と、
前記分離部に導入される前の位置で、前記嫌気性処理槽から前記グラニュール汚泥を外に抜き出すための汚泥抜出手段と、を備え、
前記汚泥抜出手段で抜き出されたグラニュール汚泥に落下による衝撃を与えて前記嫌気性処理槽に返送することを特徴とする嫌気性処理システム。
【請求項2】
前記汚泥抜出手段で抜き出されたグラニュール汚泥が落下して導入される汚泥槽と、
前記汚泥槽の下部に溜まったグラニュール汚泥を前記嫌気性処理槽に返送する返送手段と、を更に備え、
前記汚泥槽は前記汚泥抜出手段から前記グラニュール汚泥と一緒に導入された水を溜める水溜部を有し、
前記汚泥抜出手段から前記汚泥槽へ汚泥を導入する導入口は、前記水溜部の液面の上方に離間して位置することを特徴とする請求項1に記載の嫌気性処理システム。
【請求項3】
前記汚泥槽は前記汚泥抜出手段から前記グラニュール汚泥と一緒に導入された水を溜める水溜部を有し、
前記汚泥抜出手段から前記汚泥槽へ汚泥を導入する導入口は、前記水溜部の液面下に位置することを特徴とする請求項2に記載の嫌気性処理システム。
【請求項4】
前記汚泥抜出手段で抜き出されたグラニュール汚泥が前記嫌気性処理槽との水頭差で落下して前記汚泥槽に導入されることを特徴とする請求項2又は3に記載の嫌気性処理システム。
【請求項5】
前記汚泥抜出手段はポンプによりグラニュール汚泥を抜き出すことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の嫌気性処理システム。
【請求項6】
前記汚泥抜出手段は、前記嫌気性処理槽の底部からの高さが異なる複数の取水口を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の嫌気性処理システム。
【請求項7】
前記汚泥抜出手段は、前記嫌気性処理槽から前記グラニュール汚泥を吸入する取水口を有し、
前記取水口は、前記分離部の下端と、前記嫌気性処理槽の底から2m上方の位置と、の間の高さに設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の嫌気性処理システム。
【請求項8】
前記返送手段はポンプを備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の嫌気性処理システム。
【請求項9】
嫌気性汚泥が粒状化してなるグラニュール汚泥を収納した嫌気性処理槽で、導入された有機性廃水を上向きに流動させ前記グラニュール汚泥と接触させることによって前記有機性廃水を嫌気性処理し、前記嫌気性処理槽の上部の分離部により前記グラニュール汚泥を分離して処理水を排出する廃水処理工程と、
前記分離部に導入される前の位置で、前記嫌気性処理槽からグラニュール汚泥を外に抜き出す汚泥抜出工程と、を備え、
前記汚泥抜出工程で抜き出されたグラニュール汚泥に落下による衝撃を与えて前記嫌気性処理槽に返送することを特徴とする嫌気性処理方法。
【請求項10】
前記汚泥抜出工程で抜き出されたグラニュール汚泥が落下して汚泥槽に導入される汚泥落下工程と、
前記汚泥槽の底部に溜まったグラニュール汚泥を前記嫌気性処理槽に返送する返送工程と、をさらに備え、
前記汚泥抜出工程、前記汚泥落下工程及び前記返送工程は、前記廃水処理工程と並行して実行されることを特徴とする請求項9に記載の嫌気性処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嫌気性処理システム及び嫌気性処理方法に関するものである。特に本発明は嫌気性グラニュール汚泥を利用する嫌気性処理システム及び嫌気性処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機物を含む有機性廃水の処理方法として、グラニュール状の嫌気性汚泥を用いたUASB(Upflow Anaerobic Sludge Blanket)法やEGSB(Expanded Granular Sludge Bed)法が知られている(例えば、特許文献1参照)。これらの方法では、嫌気性処理装置に含まれる上向流式嫌気性処理槽において、高密度で沈降性のよいグラニュール状の嫌気性汚泥(以下、単に「グラニュール汚泥」とも称す)からなる層に、嫌気性処理槽の下部から上部に向かうように有機性廃水を通して有機性廃水を嫌気性処理する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4593229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、EGSBやUASBなど、グラニュール汚泥を利用した嫌気性処理システムで糖質などを処理する場合、糸状性バルキングが発生して反応槽内部でグラニュール汚泥が浮上し、槽外へ流出してしまうというトラブルが発生することがあった。グラニュール汚泥が流出すると、原水中の有機物を分解するために必要な微生物量を確保できないため、十分な処理が行えず処理水質が悪化する。この現象は、糖質など糸状菌が好む基質が反応槽に流入してグラニュール汚泥と接触すると、酸生成やメタン生成を行う菌よりも糸状菌の方が活性化されて異常に増殖し、グラニュール汚泥の粒子の周りに糸状菌が付着してガスを包み込みやすくなることが原因である。そして、特許文献1の装置では、糸状性バルキングが発生した場合には、糸状菌の増殖が終息するまで運転を停止せざるを得なかった。
【0005】
この問題に鑑み、本発明は運転を継続しながら糸状性バルキングを解消することができる嫌気性処理システム及び嫌気性処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の嫌気性(anaerobic, anoxia)処理システムは、嫌気性汚泥が粒状化してなるグラニュール汚泥を収納し、導入された有機性廃水を上向きに流動させ前記グラニュール汚泥と接触させることによって前記有機性廃水を嫌気性処理し、上部の分離部により前記グラニュール汚泥を分離して処理水を排出する嫌気性処理槽と、前記分離部に導入される前の位置で、前記嫌気性処理槽から前記グラニュール汚泥を外に抜き出すための汚泥抜出手段と、前記汚泥抜出手段で抜き出されたグラニュール汚泥に
落下による衝撃を与えて前記嫌気性処理槽に返送することを特徴とする。
【0007】
この嫌気性処理システムでは、嫌気性処理槽の分離部に導入される前の位置で、嫌気性処理槽からグラニュール汚泥が外に抜き出され、
衝撃が与えられる。ここで、グラニュール汚泥
に衝撃が与えられることで、グラニュール汚泥の周りに発生した糸状菌等が剥離される。即ち、糸状菌のグラニュール汚泥への付着力は弱いため
、衝撃により容易にグラニュール汚泥から剥離する
。以上のように、糸状菌が付着したグラニュール汚泥から、糸状菌を剥離する処理を連続的に行うことができるので、運転を継続しながら糸状菌バルキングを解消することができる。
【0008】
また、
前記汚泥抜出手段で抜き出されたグラニュール汚泥が落下して導入される汚泥槽と、前記汚泥槽の下部に溜まったグラニュール汚泥を前記嫌気性処理槽に返送する返送手段と、を更に備え、前記汚泥槽は前記汚泥抜出手段から前記グラニュール汚泥と一緒に導入された水を溜める水溜部を有し、前記汚泥抜出手段から前記汚泥槽へ汚泥を導入する導入口は、前記水溜部の液面の上方に離間して位置することとしてもよい。この場合、
落下の衝撃により容易にグラニュール汚泥から剥離し、糸状菌が剥離されたグラニュール汚泥は汚泥槽の下部に沈降し返送手段によって嫌気性処理槽へ返送される。更に、嫌気性処理槽から抜き出されたグラニュール汚泥は導入口から水溜部の液面まで落下し液面に叩きつけられるので、グラニュール汚泥に付着した糸状菌が効率よく剥離される。
【0009】
また、前記汚泥槽は前記汚泥抜出手段から前記グラニュール汚泥と一緒に導入された水を溜める水溜部を有し、前記汚泥抜出手段から前記汚泥槽へ汚泥を導入する導入口は、前記水溜部の液面下に位置することとしてもよい。この場合、嫌気性処理槽から抜き出されたグラニュール汚泥は落下して水溜部の水に突入する時に抵抗を受け、その抵抗によりグラニュール汚泥の周りの糸状菌が効率よく剥離される。
【0010】
また、前記汚泥抜出手段で抜き出されたグラニュール汚泥が前記嫌気性処理槽との水頭差で落下して前記汚泥槽に導入されることとしてもよい。この場合、グラニュール汚泥に落下エネルギーを付与する仕組みが不要であるので、汚泥抜出手段の構造を簡素化することができる。
【0011】
また、前記汚泥抜出手段はポンプによりグラニュール汚泥を抜き出すこととしてもよい。この場合、ポンプでグラニュール汚泥を抜き出して、グラニュール汚泥の落下を確実に保つことができる。
【0012】
また、前記汚泥抜出手段は、前記嫌気性処理槽の底部からの高さが異なる複数の取水口を有することとしてもよい。この場合、取水口を選択することで嫌気性処理槽から抜出されるグラニュール汚泥の高さが選択できる。
【0013】
また、前記汚泥抜出手段は、前記嫌気性処理槽から前記グラニュール汚泥を吸入する取水口を有し、前記取水口は、前記分離部の下端と、前記嫌気性処理槽の底から2m上方の位置と、の間の高さに設けられることとしてもよい。この場合、糸状菌の付着により浮上したグラニュール汚泥を抜出手段によって適切に抜き出すことができる。
【0014】
また、前記返送手段はポンプを備えることとしてもよい。この場合、グラニュール汚泥をポンプに通過させる時にグラニュール汚泥の周りに付着した糸状菌をさらに剥離することができる。
【0015】
本発明は嫌気性処理方法を提供し、嫌気性汚泥が粒状化してなるグラニュール汚泥を収納した嫌気性処理槽で、導入された有機性廃水を上向きに流動させ前記グラニュール汚泥と接触させることによって前記有機性廃水を嫌気性処理し、前記嫌気性処理槽の上部の分離部により前記グラニュール汚泥を分離して処理水を排出する廃水処理工程と、前記分離部に導入される前の位置で、前記嫌気性処理槽からグラニュール汚泥を外に抜き出す汚泥抜出工程と、前記汚泥抜出工程で抜き出されたグラニュール汚泥に
落下による衝撃を与えて前記嫌気性処理槽に返送することを特徴とする。
【0016】
この嫌気性処理方法は、汚泥抜出工程で抜き出されたグラニュール汚泥
に衝撃を与えて前記嫌気性処理槽に返送する。
グラニュール汚泥に衝撃を与えて嫌気性処理槽に返送することで、グラニュール汚泥の周りに発生した糸状菌等が剥離される。即ち、糸状菌のグラニュール汚泥への付着力は弱いため
、衝撃により容易にグラニュール汚泥から剥離
し、嫌気性処理槽へ返送される。以上のように、糸状菌が付着したグラニュール汚泥から、糸状菌を剥離する処理を連続的に行うことができるので、嫌気性処理システムの運転を継続しながら糸状菌バルキングを解消することができる。
【0017】
また、
前記汚泥抜出工程で抜き出されたグラニュール汚泥が落下して汚泥槽に導入される汚泥落下工程と、前記汚泥槽の底部に溜まったグラニュール汚泥を前記嫌気性処理槽に返送する返送工程と、を更に備え、前記汚泥抜出工程、前記汚泥落下工程及び前記返送工程は、前記廃水処理工程と並行して実行されることとしてもよい。この場合、
落下の衝撃により容易にグラニュール汚泥から剥離し、糸状菌が剥離されたグラニュール汚泥は汚泥槽の下部に沈降し返送工程によって嫌気性処理槽へ返送される。更に、嫌気性処理システムの運転を継続しながら、糸状菌が付着したグラニュール汚泥から糸状菌を剥離する処理を連続的に行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、運転を継続しながら糸状性バルキングを解消することができる嫌気性処理システム及び嫌気性処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る嫌気性処理システムを示す図である。
【
図2】本発明の他の実施形態に係る嫌気性処理システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。なお、以下の説明においては、同一の要素には同一の符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0021】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る嫌気性処理システムの構成を示す概略図である。嫌気性処理システム1は、原水流入管L1を通ってきた有機性廃水Wを受け入れる調整槽9と、その後段の酸生成槽11と、更にその後段の嫌気性処理槽12とを備えている。
【0022】
調整槽9は、後段に送出する有機性廃水Wの流量調整処理を行う槽である。調整槽9からは、送水管L2を通じて酸生成槽11に所定の流量で有機性廃水Wが送られる。酸生成槽11は、酸生成菌により有機性廃水Wに含まれる有機物を酢酸等に分解する。また、酸生成槽11において、中和剤(例えば、塩酸、水酸化ナトリウム)を添加することも好ましい。酸生成槽11には、送水管L3が接続されており、当該送水管L3に設けられたポンプP3によって、酸生成槽11内の有機性廃水Wが上向流式嫌気性処理槽12に流入するようになっている。
【0023】
嫌気性処理槽12は、EGSB(Expanded Granular Sludge Bed)反応槽などと呼ばれるタイプの水処理槽である。嫌気性処理槽12の下部には、流入部13が設けられている。流入部13は、送水管L3に連絡しており有機性廃水Wを嫌気性処理槽12内に流入させる。流入部13は、例えば、長手方向に均一に穴部が設けられた送水管である。嫌気性処理槽12内には、嫌気性汚泥が粒状化してなるグラニュール汚泥が収納されている。有機性廃水Wは、グラニュール汚泥に接触することにより、グラニュール汚泥中の嫌気性菌によって嫌気性処理される。このようなグラニュール汚泥が、有機性廃水中で下部に沈降して溜まることにより、嫌気性処理槽12の下部にはグラニュール汚泥層14が形成されている。
【0024】
嫌気性処理槽12では、その下部に設けられた流入部13から有機性廃水Wを内部に導入することによって上向きの流動を生じさせ、グラニュール汚泥層14に有機性廃水Wを通して、有機性廃水Wを嫌気性処理する。グラニュール汚泥層14の上部には、当該グラニュール汚泥層14を通過し嫌気性処理を経た有機性廃水Wの液層が形成されている。この液層の有機性廃水Wには、グラニュール汚泥層14から浮上した浮上グラニュール汚泥や、嫌気性処理によって発生したバイオガス(例えば、メタンガス)が含まれている。なお、浮上グラニュール汚泥は、グラニュール汚泥が浮いたものであり、例えば、グラニュール汚泥にガスが付着したり、糸状菌が付着されたりなどしたものである。
【0025】
嫌気性処理槽12の上部には、有機性廃水Wと浮上グラニュール汚泥とバイオガスとを分離するための三相分離部18が配置されている。
【0026】
三相分離部18の下端部には、有機性廃水Wを三相分離部18の内部に導入する導入口18aが形成されている。この導入口18aに有機性廃水Wを導くために、三相分離部18の下方であって導入口18aの周囲には、三相分離部18の底部に沿って設置された導入板19が設けられている。また、導入板19には、導入口18aに導入されなかった有機性廃水Wを下側に返送するための返送口19aが形成されている。また、導入板19の更に下方には、導入板19の返送口19aを通って返送される有機性廃水Wの流れを整えるための整流板20が設けられている。
【0027】
有機性廃水Wは、上記グラニュール汚泥層14を通過し上向きに流動し、導入板19によって導入板19と三相分離部18との間に形成された導入路に外側から流入する。上記導入路を通った有機性廃水Wの一部は、導入口18aから三相分離部18内に流入し、他の部分は、導入板19の返送口19aから下側に流れるようになっている。
【0028】
三相分離部18内に流入した有機性廃水Wは、三相分離部18の側壁18bから外側に溢れ、処理水として処理水排出部23に集められる。側壁18bの上端の高さに、有機性廃水Wの液面Hが形成される。処理水排出部23の処理水の一部は、循環水返送ラインL4を通じて酸生成槽11に循環水として返送される。処理水排出部23の処理水の残部は、処理水搬送ラインL5を通じて後段に送られる。三相分離部18において、三相分離部18の側壁18bの内側には、導入口18aから流入した有機性廃水Wが直接処理水排出部23に流入しないようにするための隔壁24が設けられている。
【0029】
また、嫌気性処理槽12内で、液面Hよりも上方の閉鎖空間には、前述のバイオガスが一時的に貯留される。この液面Hよりも上方の閉鎖空間を、以下、ガス貯留空間31と呼ぶ。これに対し、液面H下の有機性廃水Wが貯留された空間を、以下、嫌気性処理空間33と呼ぶ。
【0030】
嫌気性処理槽12では、嫌気性処理空間33で有機性廃水Wの嫌気性処理が行われ、バイオガスが発生する。当該バイオガスが浮上し液面Hまで到達することで、ガス貯留空間31にバイオガスが一時的に貯留される。ガス貯留空間31のバイオガスは、ガス回収ラインL6を通じて外部に排出され有用なエネルギー源として回収される。
【0031】
嫌気性処理システム1は嫌気性処理槽12からグラニュール汚泥を外に抜き出すための汚泥抜出部50を有する。
【0032】
汚泥抜出部50は、嫌気性処理槽12と汚泥槽40とを接続し、嫌気性処理槽12の内部でグラニュール汚泥を吸い込む取水管L9を複数(図の例では3本)有する。各取水管L9の先端が取水口51である。取水口51は嫌気性処理槽12の三相分離部18より下方に設けられ、三相分離部18に導入される前の位置で嫌気性処理槽12からグラニュール汚泥を吸い込む。即ち、各取水口51は、三相分離部18の導入口18aよりも上流側の位置に配置されている。取水口51により吸い込まれたグラニュール汚泥は各取水管L9を通って一本の汚泥管L10に合流される。汚泥管L10は汚泥槽40の上方から汚泥槽40に接続され、略鉛直に伸びるパイプ部分を有し、グラニュール汚泥が落下して汚泥槽40に導入されるように構成されている。
【0033】
汚泥抜出部50の各取水管L9にはそれぞれバルブが設けられており、嫌気性処理槽12のグラニュール汚泥の状況に応じて使われる取水管L9を選択することができる。
【0034】
各取水口51の嫌気性処理槽12の底部からの高さは、それぞれ異なってもよい。また、各取水口51は、三相分離部18の下端(導入口18a)と、嫌気性処理槽12の底面12aから2m上方の位置と、の間の高さに設けられてもよい。
【0035】
嫌気性処理システム1では、嫌気性処理槽12との水頭差により汚泥抜出部50により抜き出されたグラニュール汚泥が落下して汚泥槽40に導入される。また、取水管L9又は汚泥管L10にポンプが設けられ、ポンプにより嫌気性処理槽12の内部からグラニュール汚泥を抜き出してもよい。
【0036】
嫌気性処理システム1は、汚泥抜出部50で抜き出されたグラニュール汚泥が落下して導入される汚泥槽40を有する。
【0037】
汚泥槽40は汚泥管L10から落下したグラニュール汚泥と一緒に導入された水を溜める水溜部42を有する。汚泥管L10に接続されグラニュール汚泥が導入される導入口41は、水溜部42の液面H0の上方に離間して位置する。
【0038】
汚泥管L10を通って落下したグラニュール汚泥は導入口41から汚泥槽40に導入される。汚泥槽40の水溜部42の上部でオーバーフローした有機性廃水は後段のバッフア槽60に送られ、調整槽9に戻るなどして、再び嫌気性処理システム1に入る。汚泥槽40の下部に沈殿したグラニュール汚泥は返送手段30により嫌気性処理槽12に戻る。
【0039】
また、
図2に示されるように、導入口41が汚泥槽40の水溜部42の液面下に位置してもよい。この場合、汚泥管L10から落下したグラニュール汚泥は直接水溜部42の内部に突入する。グラニュール汚泥が水溜部42の水に突入する時に、水の抵抗を受け、その抵抗によりグラニュール汚泥の周りの糸状菌が剥離される。この場合、導入口41の下方には、落下したグラニュール汚泥と衝突する衝突部材(図示せず)が設けられてもよい。
【0040】
次に、汚泥槽40の下部に溜まったグラニュール汚泥を嫌気性処理槽12に返送する返送手段30について説明する。返送手段30は、汚泥槽40と嫌気性処理槽12とを接続する返送管L11と、返送管L11に設けられたポンプP2とを有する。汚泥槽40の下部に沈殿したグラニュール汚泥は、汚泥槽40の水溜部42の下部に接続された返送管L11にて取出され、ポンプP2により嫌気性処理槽12の下部に送られて有機性廃水Wと混合され、嫌気性処理される。
【0041】
上記嫌気性処理システム1によれば、グラニュール汚泥が汚泥抜出部50から落下して汚泥槽40に導入されることで、グラニュール汚泥の周りの糸状菌が効率よく剥離される。以上のように、嫌気性処理槽12、汚泥抜出部50、汚泥槽40及び返送手段30をグラニュール汚泥が循環することで、グラニュール汚泥からの糸状菌の剥離が連続的に行われる。したがって、嫌気性処理システム1の連続運転を継続することができる。
【0042】
続いて、上記嫌気性処理システム1による嫌気性処理方法について説明する。
【0043】
(酸生成槽処理工程)
調整槽9で調整された流量で、酸生成槽11に対し有機性廃水が導入されると、酸生成槽11では、酸生成菌により有機性廃水に含まれる有機物が酢酸等に分解される。これにより酢酸等の有機酸を多く含む有機性廃水が、酸生成槽11から嫌気性処理槽12に送られる。糖質濃度が高い有機性廃水が水処理システムに入る場合、該酸生成槽処理工程により有機物を酢酸等に分解して糸状菌の発生を抑制することが好ましい。
【0044】
(廃水処理工程)
廃水処理工程において、嫌気性汚泥が粒状化してなるグラニュール汚泥を収納した嫌気性処理槽12で、流入部13から導入された有機性廃水を上向きに流動させグラニュール汚泥と接触させることによって前記有機性廃水Wを嫌気性処理し、嫌気性処理槽12の上部の三相分離部18によりグラニュール汚泥を分離して処理水を排出する。
【0045】
(処理水排出工程)
液面Hまで到達した有機性廃水Wは、側壁18bの上端を越えて処理水排出部23に溢れ、処理水として処理水搬送ラインL5を通じて後段に送られる。
【0046】
(汚泥抜出工程)
三相分離部18に導入される前の位置で、嫌気性処理槽12からグラニュール汚泥を外に抜き出す。該汚泥抜出工程により糸状菌が付着したグラニュール汚泥を嫌気性処理槽12の外へ抜き出すことができる。
【0047】
(汚泥落下工程)
前記汚泥抜出工程で外へ抜き出されたグラニュール汚泥が落下して汚泥槽40に導入される。糸状菌のグラニュールへの付着力は弱いため、落下して汚泥槽の水溜部の液面と衝撃するだけで容易にグラニュールから剥離する。
【0048】
(返送工程)
汚泥槽40の底部に溜まったグラニュール汚泥が返送管L11及び返送管L11に設けられたポンプP2により嫌気性処理槽12に返送される。
【0049】
(汚泥分離工程)
嫌気性処理槽12からのグラニュール汚泥が落下して汚泥槽40に導入された後、汚泥槽40の下部に沈殿した汚泥は上記返送工程で嫌気性処理槽12へ戻る。汚泥槽40の水溜部42の上部でオーバーフローした水は、後段のバッフア槽60等を経て調整槽9に戻る。
【0050】
本発明の嫌気性処理方法では上述の汚泥抜出工程、汚泥落下工程及び返送工程等は、上述の廃水処理工程と並行して実行される。
【0051】
この嫌気性処理システム1では、嫌気性処理槽12の三相分離部18に導入される前の位置で、嫌気性処理槽12からグラニュール汚泥が外に抜き出され、落下して汚泥槽40に導入される。ここで、グラニュール汚泥が落下して汚泥槽40に導入されることで、グラニュール汚泥の周りに発生した糸状菌等が剥離される。即ち、糸状菌のグラニュール汚泥への付着力は弱いため、落下の衝撃により容易にグラニュール汚泥から剥離する。糸状菌が剥離されたグラニュール汚泥は汚泥槽40の下部に沈降し返送手段30によって嫌気性処理槽12へ返送される。以上のように、糸状菌が付着したグラニュール汚泥から、糸状菌を剥離する処理を連続的に行うことができるので、運転を継続しながら糸状菌バルキングを解消することができる。また、本嫌気性処理システム1においては、嫌気性処理槽12と汚泥槽40との間で糸状菌の剥離が可能であるので、嫌気性処理槽12の前に大きい酸生成槽を設置する必要がなく、汚泥破砕等の複雑な操作を行うことも必要ない。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形したものであってもよい。例えば、実施形態では汚泥抜出部50に3本の取水管L9が設けられた例を説明したが、本発明においては、汚泥抜出部50には少なくとも1本の取水管L9が存在すればよい。また、それぞれ高さが異なる取水口51を有する取水管L9が汚泥抜出部50に4本以上設けられてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…嫌気性処理システム、12…嫌気性処理槽、12a…底面、18…三相分離部、30…返送手段、40…汚泥槽、41…導入口、42…水溜部、50…汚泥抜出部、51…取水口、H0…水溜部の液面、P2…ポンプ。