(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記NMR出力に基づく前記対応関係の更新を、前記対応関係に基づく前記偏向磁場の測定及び/または調整とは独立に実行することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のイオン注入装置。
前記磁気検出素子は、前記核磁気共鳴吸収素子が前記NMR出力を生成する頻度よりも高い頻度で前記測定出力を生成することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のイオン注入装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0013】
図1は、本発明のある実施形態に係るイオン注入装置100を概略的に示す上面図である。イオン注入装置100は、いわゆる高エネルギーイオン注入装置に適する。高エネルギーイオン注入装置は、高周波線形加速方式のイオン加速器と高エネルギーイオン輸送用ビームラインを有するイオン注入装置であり、イオンソース10で発生したイオンを加速し、そうして得られたイオンビームBをビームラインに沿って被処理物(例えば基板またはウェハ40)まで輸送し、被処理物にイオンを注入する。
【0014】
図1には、イオン注入装置100のビームライン部の構成要素のレイアウトが示されている。イオン注入装置100のビームライン部は、イオンソース10と、被処理物のための処理室と、を備えており、イオンソース10から被処理物に向けてイオンビームBを輸送するよう構成されている。ビームライン部は、イオンソース10と処理室との間に配設されている少なくとも1つの偏向電磁石を備える。また、イオン注入装置100は、ビームライン部を制御するよう構成されている制御部102(
図3参照)を備える。
【0015】
図1に示すように、高エネルギーイオン注入装置100は、イオンを生成して質量分離するイオンビーム生成ユニット12と、イオンビームを加速して高エネルギーイオンビームにする高エネルギー多段直線加速ユニット14と、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析、中心軌道補正、エネルギー分散の制御を行うビーム偏向ユニット16と、分析された高エネルギーイオンビームをウェハ40まで輸送するビーム輸送ラインユニット18と、輸送された高エネルギーイオンビームを均一に半導体ウェハに注入する基板処理供給ユニット20とを備える。
【0016】
イオンビーム生成ユニット12は、イオンソース10と、引出電極11と、質量分析装置22と、を有する。イオンビーム生成ユニット12では、イオンソース10から引出電極11を通してビームが引き出されると同時に加速され、引出加速されたビームは質量分析装置22により質量分析される。質量分析装置22は、質量分析磁石22a、質量分析スリット22bを有している。質量分析スリット22bは、質量分析磁石22aの直後に配置する場合もあるが、実施例では、その次の構成である高エネルギー多段直線加速ユニット14の入り口部内に配置している。
【0017】
質量分析装置22による質量分析の結果、注入に必要なイオン種だけが選別され、選別されたイオン種のイオンビームは、次の高エネルギー多段直線加速ユニット14に導かれる。高エネルギー多段直線加速ユニット14は、高エネルギーイオン注入用の基本的な複数段の高周波共振器を備える第1線形加速器15aを備える。高エネルギー多段直線加速ユニット14は、超高エネルギーイオン注入用の追加の複数段の高周波共振器を備える第2線形加速器15bを備えてもよい。高エネルギー多段直線加速ユニット14により、さらに加速されたイオンビームは、ビーム偏向ユニット16により方向が変化させられる。
【0018】
ビーム偏向ユニット16は、エネルギー分析電磁石24と、エネルギー分散を抑制する横収束四重極レンズ26と、エネルギー分析スリット28と、ステアリング(軌道補正)を提供する偏向電磁石30とを有する。なお、エネルギー分析電磁石24は、エネルギーフィルター電磁石(EFM)と呼ばれることもある。エネルギー分析電磁石24にはその中心部に磁場測定装置104が設けられている。高エネルギーイオンビームは、ビーム偏向ユニット16によって方向転換され、ウェハ40の方向へ向かう。
【0019】
ビーム輸送ラインユニット18は、ビーム偏向ユニット16から出たイオンビームBを輸送するものであり、収束/発散レンズ群から構成されるビーム整形器32と、ビーム走査器34と、ビーム平行化器36と、最終エネルギーフィルター38(最終エネルギー分離スリットを含む)とを有する。ビーム輸送ラインユニット18の長さは、イオンビーム生成ユニット12と高エネルギー多段直線加速ユニット14との長さに合わせて設計されており、ビーム偏向ユニット16で結ばれて、全体でU字状のレイアウトを形成する。
【0020】
ビーム輸送ラインユニット18の下流側の終端には、基板処理供給ユニット20が設けられており、注入処理室の中に、イオンビームBのビーム電流、位置、注入角度、収束発散角、上下左右方向のイオン分布等を計測するビームモニター、イオンビームBによるウェハ40の帯電を防止する帯電防止装置、ウェハ40を搬入搬出し適正な位置・角度に設置するウェハ搬送機構、イオン注入中ウェハ40を保持するESC(Electro Static Chuck)、注入中ビーム電流の変動に応じた速度でウェハ40をビームスキャン方向と直角方向に動かすウェハスキャン機構が収納されている。
【0021】
このようにして、イオン注入装置100のビームライン部は、対向する2本の長直線部を有する水平のU字状の折り返し型ビームラインに構成されている。上流の長直線部は、イオンソース10で生成したイオンビームBを加速する複数のユニットから成る。下流の長直線部は、上流の長直線部に対し方向転換されたイオンビームBを調整してウェハ40に注入する複数のユニットから成る。2本の長直線部はほぼ同じ長さに構成されている。2本の長直線部の間に、メンテナンス作業のために十分な広さの作業スペースR1が設けられている。
【0022】
このように各ユニットをU字状に配置した高エネルギーイオン注入装置100は、設置面積を抑えつつ良好な作業性が確保されている。また、高エネルギーイオン注入装置100においては、各ユニットや各装置をモジュール構成とすることで、ビームライン基準位置に合わせて着脱、組み付けが可能となっている。
【0023】
また、高エネルギー多段直線加速ユニット14と、ビーム輸送ラインユニット18とが折り返して配置されるため、高エネルギーイオン注入装置100の全長を抑えることができる。従来装置ではこれらがほぼ直線状に配置されている。また、ビーム偏向ユニット16を構成する複数の偏向電磁石の曲率半径は、装置幅を最小にするように最適化されている。これらによって、装置の設置面積を最小化するとともに、高エネルギー多段直線加速ユニット14とビーム輸送ラインユニット18との間に挟まれた作業スペースR1において、高エネルギー多段直線加速ユニット14やビーム輸送ラインユニット18の各装置に対する作業が可能となる。また、メンテナンス間隔が比較的短いイオンソース10と、基板の供給/取出が必要な基板処理供給ユニット20とが隣接して配置されるため、作業者の移動が少なくてすむ。
【0024】
図2は、本発明のある実施形態に係るエネルギー分析電磁石24の断面図である。偏向電磁石の一例であるエネルギー分析電磁石24は、対向する一対の電磁石24a,24bを備える。電磁石24a,24bは、イオンビーム軌道108を挟んで対向する。イオンビーム軌道108は、イオンビームの中心軌道を表す。エネルギー分析電磁石24は、電磁石24a,24b間に、イオンビームを偏向するための偏向磁場106を形成する。偏向磁場106は電磁石24a,24bの一方から他方へと向かう磁束密度である。
【0025】
磁場測定装置104は、エネルギー分析電磁石24の磁場を測定する。エネルギー分析電磁石24には高い磁場精度(例えば、0.01%未満の磁場の不均一性)が望まれるので、磁場測定装置104は、精密な磁場測定が可能であるよう構成されている。
【0026】
磁場測定装置104は、NMR(核磁気共鳴)プローブと、ホールプローブと、を備える。詳しくは後述するが、NMRプローブはホールプローブの校正に使用され、ホールプローブは磁場一定のフィードバック制御に使用される。またホールプローブは、エネルギー分析電磁石24のリアルタイムの磁場制御に使用される。NMRプローブは核磁気共鳴吸収素子(以下、NMR素子という)112を備え、ホールプローブはホール素子110を備える。よって磁場測定装置104はホール素子110及びNMR素子112を備える検出部を有し、この検出部は一対の電磁石24a,24bの間に配置されている。
【0027】
エネルギー分析電磁石24の磁極部は平行磁極としてある。一方の電磁石24aは平坦な第1磁極面25aを備え、他方の電磁石24bは第1磁極面25aに対向し第1磁極面25aに平行である第2磁極面25bを備える。これら磁極部の周縁を除く中心領域において偏向磁場106は第1磁極面25a及び第2磁極面25bに垂直である。NMR素子112及びホール素子110は第2磁極面25bの中心領域に配置されている。そのため、NMR素子112は、磁場勾配の小さな領域、すなわち磁束密度の空間的変化がほとんど無い領域に、ホール素子110と近接して配置されている。NMR素子112及びホール素子110は第1磁極面25aの中心領域に配置されていてもよい。
【0028】
NMR素子112は好ましくは、測定対象であるイオンビーム軌道108の直下(または直上)に配置される。このようにすれば、イオンビーム軌道108における磁場をNMR素子112の位置の磁場に一致させることができる。ホール素子110もまた、イオンビーム軌道108の直下(または直上)に配置されていてもよい。こうして、イオンビーム軌道108における磁場を直接的に測定することができる。
【0029】
ホール素子110は磁気検出素子の一例である。磁気検出素子は、偏向磁場106に応じて測定出力を生成するよう構成されている。ここで測定出力は、偏向磁場106の作用により磁気検出素子から出力される電気信号である。ホール素子110の場合、測定出力として、ホール効果によって生じる電圧(以下、ホール出力という)を生成する。ホール出力は偏向磁場106にほぼ比例する。いいかえれば、磁場とホール出力との間には一般に、わずかな非線形性がある。
【0030】
磁場が変化するときホール出力も瞬時に変化する。そのため、ホール素子110には磁場に対する応答性が極めて高いという利点がある。しかし欠点もある。ホール素子110は時とともに出力が変化し得るので、測定精度を維持するために定期的に校正することが望まれる。一般的な校正は、真の磁場と測定出力とを測定範囲にわたって改めて関係づけることを要する。その校正中はホール素子110は目的の磁場測定をすることができないので、校正が完了するまでイオン注入処理も中断されることになる。イオン注入装置100の生産性を向上するうえで、こうした処理の中断は可能な限り避けることが望まれる。
【0031】
NMR素子112は、NMR出力を生成するよう構成されている。NMR出力は、核磁気共鳴吸収周波数を表す信号である。NMR素子112は、磁場によって変わる原子核(例えば水素原子)の核磁気スピンの共鳴吸収周波数を測定する。原子核の性質に由来する測定であり、ホール素子110に見られる経時変化のような誤差は原理的に生じない。したがって、NMR素子112は、高精度の測定を継続的に安定して実行することができる。しかし、NMR素子112は、測定に要する時間が比較的長いという欠点がある。上述のようにNMR素子112は、核磁気共鳴吸収周波数を同定するために周波数トラッキングを要するからである。
【0032】
磁気検出素子は、NMR素子112がNMR出力を生成する頻度よりも高い頻度で測定出力を生成するよう構成されていることが好ましい。このようにすれば、磁気検出素子を使用して、リアルタイム性に優れる測定を実現することができる。とりわけ、ホール素子110はホール電圧を連続的に出力することができるので、リアルタイムの測定に好適である。
【0033】
図3は、本発明のある実施形態に係る制御部102の機能及び構成を説明するためのブロック図である。ここに示す各ブロックは、ハードウエア的には、コンピュータのCPUをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウエア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウエア、ソフトウエアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、本明細書に触れた当業者には理解されるところである。
【0034】
制御部102は、磁場測定部114と、磁場調整部116と、磁場決定部118と、磁気検出素子校正部(以下、ホール素子校正部という)120と、記憶部122と、を備える。制御部102には入力部124及び出力部126が設けられている。入力部124は演算に必要な情報の入力を受け付ける任意の手段であり、出力部126は演算結果を出力(例えば表示)する任意の手段である。また、イオン注入装置100は、エネルギー分析電磁石24のための電源23を備える。
図3において磁場測定部114及び磁場決定部118は制御部102の一部を構成するが、ある実施形態においては、ホール素子110(またはホールプローブ)に磁場測定部114が設けられ、及び/または、NMR素子112(またはNMRプローブ)に磁場決定部118が設けられていてもよい。
【0035】
磁場測定部114は、偏向磁場106と測定出力(本実施形態では、ホール出力)との既知の対応関係に従って偏向磁場106を測定するよう構成されている。この対応関係を以下では、キャリブレーションデータと呼ぶことがある。磁場測定部114は、ホール素子110から出力されたホール電圧をキャリブレーションデータに従って偏向磁場106の測定値へと換算する。キャリブレーションデータはホール素子110の校正式を表すデータである。
【0036】
磁場測定部114は、例えば以下の校正式を使用して、ホール素子110の出力電圧を磁場に変換する。
B=f(V)
ここで、Bは偏向磁場106、Vはホール出力、f(V)は磁場Bと電圧Vとの相関関係を表す。f(V)は相関関係を表す任意の式であってよい。
【0037】
キャリブレーションデータは、複数の校正測定点を表す測定データと、校正測定点間を補間するための補間データと、を含む。校正測定点は、測定されたホール出力Vとこれに対応する真の偏向磁場106とからなる。本実施形態においては、NMR素子112により決定される磁場が真の偏向磁場106として使用される。補間データは例えば、隣接する2つの校正測定点間の直線補間を表す。
【0038】
キャリブレーションデータの初期値は、例えばイオン注入装置100の製造業者によって予め設定される。製造されたイオン注入装置100の使用が開始される前に、n個の校正測定点(V
i,B
i)(i=1,2,・・・,n)が所定の測定工程により取得される。測定工程は例えば、エネルギー分析電磁石24に与える電流を規定の範囲にわたって変化させ(例えば階段状に増加させ)、その間にホール出力V
iをホール素子110で測定するとともに対応する磁場B
iをNMR素子112で測定することを含む。そして、これら校正測定点間の直線補間のための関係式が決定される。こうして取得されたキャリブレーションデータは記憶部122に登録される。キャリブレーションデータは、必要に応じて磁場測定部114により読み出される。
【0039】
図4は、本発明のある実施形態に係るキャリブレーションデータの初期値を例示するグラフである。磁場測定部114は、区間V
i〜V
i+1における磁場Bを、ホール出力Vから次式により計算する。こうして得られた磁場Bを、磁場測定部114は、偏向磁場106の測定値Bmとして磁場調整部116に出力する。
【数1】
【0040】
磁場調整部116は、偏向磁場106の測定値Bmに基づいて偏向磁場106を目標磁場B
0に調整するよう構成されている。目標磁場は、エネルギー分析電磁石24においてイオンビームを偏向しエネルギー分析スリット28(
図1参照)に所望のエネルギーE(eV)のイオンを選択的に通過させるよう設定される。磁場調整部116は、この目標磁場B
0(T)を次式により計算する。
【0041】
【数2】
ここで、Mはイオンの質量(amu)、nはイオンの電価数、ρはエネルギー分析電磁石24内のビームの曲率半径(m)を表す。所望のエネルギーE、イオンの質量M、及びイオンの電価数nはイオン注入条件によって定められる値であり、入力部124から制御部102に入力される。曲率半径ρは仕様として与えられる定数であり、同様に入力部124から制御部102に入力されてもよい。
【0042】
磁場調整部116は、偏向磁場106の測定値Bmが目標磁場B
0に等しくなるように、エネルギー分析電磁石24の電源23を制御する。こうして、エネルギー分析電磁石24のコイルへの励磁電流が調整され、エネルギー分析電磁石24においてイオンビーム軌道108に目標磁場B
0が生じる。
【0043】
その結果、あるエネルギー分布を持つイオンビームがエネルギー分析電磁石24に入射すると、所望のエネルギー幅にあるイオンのみがイオンビーム軌道108に沿って偏向し、エネルギー分析スリット28を通過する。それ以外のエネルギーのイオンは、偏向半径が大きくなったり、あるいは小さくなることによってエネルギー分析スリット28に衝突し分離されるので、ウェハ40には注入されない。
【0044】
このように、イオン注入装置100は、エネルギー設定値Eに相当する磁場B
0になるようにエネルギー分析電磁石24を制御するフィードバック系を備える。これを以下では、磁場設定ループ128と呼ぶことがある。磁場設定ループ128は、ホール素子110の出力を連続的に読み取りそれを磁場に変換し、その磁場に基づきエネルギー分析電磁石24の電流を制御することにより、リアルタイムに偏向磁場106を目標磁場B
0に調整する。イオン注入装置100は、リアルタイムの磁場設定ループ128を備える。磁場設定ループ128は、ホール素子110、磁場測定部114、磁場調整部116、電源23、及びエネルギー分析電磁石24を備える。
【0045】
図3に示されるように、イオン注入装置100は、もう1つの制御ループを磁場設定ループ128とは別に備える。これを以下では、磁気検出素子校正ループまたはホール素子校正ループ130と呼ぶことがある。ホール素子校正ループ130は、NMR素子112を使用してホール素子110を校正するために設けられている。ホール素子校正ループ130は、NMR素子112、磁場決定部118、及びホール素子校正部120を備える。
【0046】
よって、制御部102は、NMR出力に基づくキャリブレーションデータの更新を、キャリブレーションデータに基づく偏向磁場106の測定及び/または調整とは独立に実行するよう構成されている。ホール素子校正ループ130により、キャリブレーションデータの更新を、磁場設定ループ128の動作と並行して行うことができる。
【0047】
磁場決定部118は、NMR出力から偏向磁場106を決定する。NMR素子112から磁場決定部118に与えられるNMR出力は上述のように核磁気共鳴吸収周波数を表す。磁場決定部118は、NMR出力を偏向磁場106に換算する。NMR素子112が水素原子を用いる場合、核磁気共鳴吸収周波数f(Hz)と磁場B(T)とは次式により関係づけられる。
f=4.2576×10
7×B
【0048】
こうして得られた磁場Bを、磁場決定部118は、偏向磁場106の真の値としてホール素子校正部120に出力する。言い換えれば、磁場決定部118は、NMR出力から決定された偏向磁場106を、偏向磁場106の真の値とみなす。
【0049】
ホール素子校正部120は、NMR出力から決定された偏向磁場106と、当該偏向磁場に対応づけられるホール素子110の新たな測定出力と、を使用してキャリブレーションデータを更新するよう構成されている。この処理は詳しく後述する。
【0050】
図5は、本発明のある実施形態に係るイオン注入方法を表すフローチャートである。
図5に示されるように、このイオン注入方法は、入力ステップ(S10)と、調整ステップ(S12)と、イオン注入ステップ(S14)と、を備える。この方法は、
図6及び
図7を参照して後述する方法と同様に、制御部102により実行される。
【0051】
入力ステップ(S10)においては、所望のイオン注入条件が制御部102に入力される。これにより、制御部102に保持されている前回の注入条件が、次に行われるべき注入処理の注入条件に変更される。注入条件は、ウェハ40に注入されるべきイオンビームのエネルギーを含む。この注入エネルギーに関連してエネルギー分析電磁石24における所望のエネルギーEが設定される。
【0052】
入力された注入条件に従ってイオン注入装置100がイオンビームを発生するように、制御部102は、エネルギー分析電磁石24を含むイオン注入装置100の各構成要素を調整する(S12)。エネルギー分析電磁石24が所望のエネルギーEに対応する目標磁場B
0をイオンビーム軌道108に印加するよう制御される。また、必要に応じてイオンビームのその他の調整作業も併せて行われる。こうしてイオン注入のための準備作業が終了する。
【0053】
制御部102はイオン注入処理を実行する(S14)。ウェハ40が処理室に搬入され、イオンビームがウェハ40に照射される。注入条件に従ってウェハ40にイオンが注入される。ウェハ40が処理室から搬出される。ウェハ40の搬入から搬出までの一連の工程が所望の枚数が処理されるまで繰り返されてもよい。こうして本方法は終了する。
【0054】
エネルギー分析電磁石24における磁場調整が行われるのは、上述のように注入条件が変更されたときには限られない。イオン注入装置100の運転中または注入処理中に偏向磁場106が常時監視され、必要に応じて適時に磁場が調整されてもよい。
【0055】
図6は、本発明のある実施形態に係るエネルギー分析電磁石24の磁場調整方法を表すフローチャートである。この方法は、偏向磁場106を測定することと(S20)、偏向磁場106の測定値Bm及び目標磁場B
0に基づいて磁場調整をするか否かを判定することと(S22)、偏向磁場106を調整することと(S24)、を備える。この方法は、偏向磁場106を目標磁場B
0に維持するために周期的に実行される。
【0056】
偏向磁場106の測定(S20)においては、ホール素子110が使用される。磁場測定部114は、ホール出力を取得し、キャリブレーションデータを使用してホール出力から偏向磁場の測定値Bmを求める。
【0057】
磁場調整部116は、偏向磁場の測定値Bmが目標磁場B
0に一致するか否かを判定する(S22)。例えば、偏向磁場の測定値Bmと目標磁場B
0との差があるしきい値より小さいとき、磁場調整部116は、偏向磁場の測定値Bmが目標磁場B
0に一致すると判定する(S22のN)。しきい値は測定値と目標値とが一致するとみなすことができる程度に小さい値に予め設定されている。測定値Bmが目標磁場B
0に一致する場合、磁場の調整は不要であるから、本方法は終了する。
【0058】
偏向磁場106の測定値Bmが目標磁場B
0から外れていると判定される場合には(S22のY)、磁場調整部116は、偏向磁場106を調整するためにエネルギー分析電磁石24の電源23を制御する(S24)。電流の調整量は例えば、測定値Bmの目標磁場B
0に対する偏差に基づいて決定される。こうして偏向磁場106は調整され、本処理は終了する。調整後の偏向磁場106が目標磁場B
0に一致するか否かは、次回の処理で確認される。
【0059】
図7は、本発明のある実施形態に係る磁気検出素子の校正方法を表すフローチャートである。この方法は、校正を開始するか否かを判定することと(S30)、NMR素子112により偏向磁場106を決定することと(S32)、決定された偏向磁場106に対応づけられるホール出力を取得することと(S34)、決定された偏向磁場106と対応するホール出力とに基づいてキャリブレーションデータを更新することと(S36)と、を備える。この方法は、上述の磁場調整方法よりも低い頻度で周期的に実行される。
【0060】
ホール素子校正部120は、校正開始条件が成立しているか否かを判定する(S30)。校正開始条件は例えば、注入条件の変更により調整ステップ(
図5のS12)の実行中であること、及び/または、磁場調整(
図6のS24)が完了し磁場が安定した状態にあること(例えば、現時点までの所定時間継続して磁場調整不要(S22のN)と判定されていること)を含む。校正開始条件が成立していないと判定された場合には(S30のN)、本方法は終了する。この場合、キャリブレーションデータは更新されず、元のデータは記憶部122に保持される。
【0061】
校正開始条件が成立したと判定された場合には(S30のY)、ホール素子校正部120は、NMR素子112を動作させ、偏向磁場106を測定する(S32)。NMR素子112は周波数トラッキングを実行し、核磁気共鳴吸収周波数を同定する。磁場決定部118により核磁気共鳴吸収周波数が偏向磁場106に換算される。
【0062】
同時に、ホール素子校正部120は、ホール素子110の出力電圧を取得する(S34)。ホール素子校正部120は、NMR素子112の周波数トラッキングにより核磁気共鳴吸収周波数が決定された時点におけるホール出力Vnewを、NMR素子112により測定された磁場Bnewに対応づける。こうして、ホール素子校正部120は、新たな校正測定点(Vnew,Bnew)を生成する。
【0063】
ホール素子校正部120は、新たな校正測定点(Vnew,Bnew)を使用して、キャリブレーションデータを更新する(S36)。ホール素子校正部120は、更新されたキャリブレーションデータを記憶部122に登録する。こうして本方法は終了する。
【0064】
図8は、本発明のある実施形態に係り、更新されたキャリブレーションデータを例示するグラフである。図示されるように、ホール素子校正部120は、新たな校正測定点(Vnew,Bnew)を元のキャリブレーションデータに追加する。また、ホール素子校正部120は、新たな校正測定点(Vnew,Bnew)と隣接する元の校正測定点との直線補間の関係式を算出し、これと元の直線補間式と置き換える。
【0065】
あるいは、ホール素子校正部120は、新たな校正測定点(Vnew,Bnew)と元のキャリブレーションデータのいずれかの校正測定点(例えば、新たな校正測定点に最も近い校正測定点)とを入れ替えてもよい。新たな校正測定点(Vnew,Bnew)がいずれかの元の校正測定点に比較的近い場合にはこのように入れ替えてもよいし、逆に比較的遠い場合には上述のように新たな校正測定点を追加してもよい。
【0066】
ホール素子校正部120は、新たな校正測定点と既存の校正測定点との位置関係に基づいて、新たな校正測定点をどのように使用してキャリブレーションデータを更新するかを決定してもよい。例えば、ホール素子校正部120は、新たな校正測定点とその新たな校正測定点に最も近い校正測定点との距離に基づいて、新たな校正測定点をキャリブレーションデータに追加するか、または、新たな校正測定点を最も近い既存の校正測定点と入れ替えるかを決定してもよい。
【0067】
更新されたキャリブレーションデータは、直ちに又は以降の適切なタイミングで磁場測定部114に読み出される。例えば、イオン注入処理が行われていないときに、磁場測定部114は、元のキャリブレーションデータを更新されたキャリブレーションデータに置き換える。こうして、次回以降の注入処理においては磁場測定部114は最新のキャリブレーションデータを使用して偏向磁場106を測定することができる。
【0068】
キャリブレーションデータの置き換えは、すなわちホール出力の校正式の変更である。よって、データ置き換えに際して、磁場測定部114が演算する偏向磁場106の測定値Bmが見かけ上変化する。これは、現実の磁場変化ではなく、元のキャリブレーションデータに基づく相対的に不正確な測定値から新たなキャリブレーションデータに基づく正確な測定値への変化である。上述の磁場調整方法によると、こうした見かけ上の磁場変化についても現実の磁場変化が生じたときと同様に偏向磁場106が調整される。このようにして、キャリブレーションデータの更新に伴って、偏向磁場106を自動的に正確に調整することができる。
【0069】
注入条件が変更されたとき、上述の磁場調整及びキャリブレーションデータ更新は次のように並列に行われる。まず磁場が調整される。すなわち、ホール素子110の出力電圧がモニタされ、目標磁場B
0となるようエネルギー分析電磁石24の電流が調整される。調整が済むと、NMR素子112の磁場測定が開始され、キャリブレーションデータが更新される。たいていの場合、キャリブレーションデータの更新が完了したときにはイオンビームのその他の調整が未完であり、注入処理は開始されていない。そこで、更新されたキャリブレーションデータを使用して、偏向磁場106の再調整をすることができる。そうして、正確なエネルギー分析のもとでイオン注入をすることができる。
【0070】
ところで、ホール素子校正部120は、更新されたキャリブレーションデータが、元のキャリブレーションデータに関連して設定される許容範囲にあるか否かを判定してもよい。更新されたキャリブレーションデータが許容範囲から外れていると判定された場合に、制御部102は、イオン注入処理の開始を禁止し、又は実行中のイオン注入処理を中止してもよい。あるいは、制御部102は、磁場測定装置104に異常がある旨の警告を出力してもよい。
【0071】
この許容範囲は、更新されたキャリブレーションデータが元のキャリブレーションデータから大きく外れているか否かを判定するために設定される範囲である。例えば、この許容範囲は、ホール素子計測系の精度保証仕様値に基づき定められていてもよい。ホール素子校正部120は、例えば、新たな校正測定点(Vnew,Bnew)が元のキャリブレーションデータからあるしきい値を超えて外れている場合に、更新されたキャリブレーションデータが許容範囲から外れていると判定してもよい。
【0072】
新たな校正測定点(Vnew,Bnew)が元のデータから大きく外れた場合には、磁場測定装置104に異常が発生している可能性もある。よって、上述のように注入処理をしないようにすることで、誤った注入エネルギーで注入処理がなされることを防止することができる。
【0073】
図9は、本発明のある他の実施形態に係るイオン注入装置200を概略的に示す図である。イオン注入装置200はいわゆる高エネルギーイオン注入装置に適する。イオン注入装置200は、イオンソース201、質量分析電磁石202、線型加速器203、エネルギー分析電磁石204、分解スリット205、及び注入処理室206を備える。
図1を参照して説明したイオン注入装置100と同様に、磁場測定装置104がエネルギー分析電磁石204に設けられている。
【0074】
イオン注入装置200において、イオンソース201から引き出されたイオンビームは質量分析電磁石202を経由して、必要なイオン種だけが線型加速器203に導かれる。この時点でのイオンビームのエネルギーは、イオンソース201の引き出し電圧とイオンの価数のみで決まるため、均一(単色)である。線型加速器203は、高周波(RF)電場でイオンを加速あるいは減速することができる。線型加速器203通過後のイオンビームは高周波電界の影響でエネルギー分布に広がりができてしまう。そこで、所望のエネルギーのイオンのみが通過できるようにエネルギー分析電磁石204の磁場を設定して、分解スリット205によりエネルギーの選別を行う。通過できるエネルギー幅は分解スリット205の開口幅によってあらかじめ設定できる。分解スリット205を通過したイオンのみが注入処理室206に導かれ、ウェハ207に注入される。208は、イオンビームの中心軌道を示している。
【0075】
図10は、本発明のある他の実施形態に係るイオン注入装置300を概略的に示す図である。イオン注入装置300は、イオンソース301と、質量分析電磁石302と、分解スリット303と、注入処理室304と、を備える。磁場測定装置104は、質量分析電磁石302に設けられていてもよい。
【0076】
図11は、本発明のある他の実施形態に係るイオン注入装置400を概略的に示す図である。イオン注入装置400は、イオンソース401と、質量分析電磁石402と、分解スリット403と、スキャナー404と、平行化電磁石405と、注入処理室406と、を備える。磁場測定装置104は、平行化電磁石405に設けられていてもよい。
【0077】
イオン注入装置400は、イオンソース401からイオンビームを引き出し、注入に必要な質量のイオン種のみを選別用の分析電磁石402により選別する。イオン注入装置400は、選別されたイオンを電場あるいは磁場を用いたスキャナー404へ導きスキャンし、磁場を用いた平行化電磁石405により平行化する。イオン注入装置400は、平行化されたイオンビームをウェハ407に注入する。
【0078】
以上説明したように、本実施形態によると、イオン注入装置100,200,300,400は、ホール素子110を使用してエネルギー分析電磁石24の偏向磁場106を監視するとともに、並行してNMR素子112によりホール素子110を校正する。ホール素子110の校正のためにイオン注入装置100,200,300,400の運転を停止しなくてもよいので、装置の生産性への影響がない。イオン注入装置100,200,300,400の運転を継続しつつホール素子110の経時変化を適時に補償し、エネルギー分析電磁石24により分析されるビームエネルギーの精度を向上することができる。
【0079】
以上、本発明を実施形態にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0080】
上述の実施形態において磁気検出素子はホール素子110であるが、これに限られない。ある実施形態においては、磁気検出素子は、ホール素子110以外の半導体磁気センサ(例えば磁気抵抗素子)であってもよいし、あるいは、偏向磁場106に応じて測定出力を生成するいかなる素子であってもよい。