(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1記載の真空ポンプにあっては、吸気口から吸い込んだ気体分子の全てを、1組のネジ溝排気要素により排気口から排気させる構造になっている。このため、十分な排気速度が得られず、排気能力が小さいという問題点があった。
【0006】
また、従来の真空ポンプにあっては、被真空室に1つの吸気口を接続して、該吸気口を通して該被真空室内の気体分子を吸気して排気する構造になっている。このため、被真空室内における気体分子全体を素早く平均的に吸気する能力が小さく、効率が悪いという問題点もあった。
【0007】
そこで、排気速度を高めて排気能力の向上を図るために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、吸気口と排気口とを有するケーシングを備え、該ケーシング内に、軸受と回転駆動機構とにより一軸上に回転可能に支持されたロータ軸と、該ロータ軸に鍔状をした支持板部を介して接合されて該ロータ軸と一体回転可能に同心配置された少なくとも1個の回転円筒部で構成されるロータ部材と、該回転円筒部の外側面及び/もしくは内側面に所定のギャップを隔てて対向設置された少なくとも2個のステータ部材を設けてなるとともに、前記回転円筒部と前記ステータ部材の互いに対向する側面の一方には前記ロータ軸の回転に伴って前記吸気口から前記排気口に気体分子を移送するネジ溝を形成し、前記支持板部には前記吸気口もしくは前記排気口と前記ネジ溝とを連通させるための連通口を有するネジ溝式排気機構を前記ロータ軸上の軸方向に所定の間隔をあけて少なくとも2個設置し、かつ、前記吸気口もしくは前記排気口のいずれか一方は、前記ネジ溝式排気機構同士の間に設置され
、前記ロータ軸が運転中に該ロータ軸と前記軸受との間に発生し得る変位によりコニカル運動をするときの変位中心と前記ロータ部材の軸方向センタ位置をほぼ一致させてなるネジ溝式真空ポンプを提供する。
【0009】
この構成によれば、1つのケーシング内に、排気ルート(排気経路)を形成するためのネジ溝式排気機構を、一つの排気機構で少なくとも2個構成し、さらにはその排気要素をロータ軸の軸方向に所定の間隔をあけて少なくとも2個設置しているので、ケーシング内には少なくとも4つの排気ルートが形成され、この4つ以上の排気ルートを同時に使用して排気することができる。これにより、排気速度が高まる。
また、軸方向両側に各々設置した排気機構におけるギャップ変動差を最小とすることができる。
【0010】
請求項2記載の発明は、
吸気口と排気口とを有するケーシングを備え、該ケーシング内に、軸受と回転駆動機構とにより一軸上に回転可能に支持されたロータ軸と、該ロータ軸に鍔状をした支持板部を介して接合されて該ロータ軸と一体回転可能に同心配置された少なくとも1個の回転円筒部で構成されるロータ部材と、該回転円筒部の外側面及び/もしくは内側面に所定のギャップを隔てて対向設置された少なくとも2個のステータ部材を設けてなるとともに、前記回転円筒部と前記ステータ部材の互いに対向する側面の一方には前記ロータ軸の回転に伴って前記吸気口から前記排気口に気体分子を移送するネジ溝を形成し、前記支持板部には前記吸気口もしくは前記排気口と前記ネジ溝とを連通させるための連通口を有するネジ溝式排気機構を前記ロータ軸上の軸方向に所定の間隔をあけて少なくとも2個設置し、かつ、前記吸気口もしくは前記排気口のいずれか一方は、前記ネジ溝式排気機構同士の間に設置され、前記支持板部は、間に前記連通口を各々設けて放射状に延びる複数個の梁部を有してなる鍔状部
と、前記梁部の放射方向中間部または端部に前記回転円筒部を取り付けるために設けられた軸方向延長部もしくは凹部を設けるとともに円周方向を連接させて前記回転円筒部の一端を固定するサポートリング部と、を備えているネジ溝式真空ポンプを提供する。
【0011】
この構成によれば、
1つのケーシング内に、排気ルート(排気経路)を形成するためのネジ溝式排気機構を、一つの排気機構で少なくとも2個構成し、さらにはその排気要素をロータ軸の軸方向に所定の間隔をあけて少なくとも2個設置しているので、ケーシング内には少なくとも4つの排気ルートが形成され、この4つ以上の排気ルートを同時に使用して排気することができる。これにより、排気速度が高まる。また、支持板部の連通口が、内側回転円筒部内と外側回転円筒部内に跨がって形成されることより、連通孔の開口面積を大きく確保することができる
とともに、サポートリング部により各回転円筒部をしっかりと固定できる。
【0018】
請求項
3記載の発明は、請求項
1記載の構成において、前記回転円筒部と前記ステータ部材の間の隙間が、コニカル運動の中心からの距離に応じて大きくなるように形成してなるネジ溝式真空ポンプを提供する。
【0019】
この構成によれば、軸方向両側に各々設置した排気機構におけるギャップ変動差をさらに最小とすることができる。
【0020】
請求項
4記載の発明は、請求項1,
2または
3記載の構成において、前記回転円筒部は、繊維強化複合材料で形成してなるネジ溝式真空ポンプを提供する。
【0021】
この構成によれば、回転円筒部を、強度の高い繊維強化複合材料を使用して形成することにより、該回転円筒部の強度を高め、かつロータ部材全体の軽量化が可能になる。
【0022】
請求項
5記載の発明は、請求項1,
2または3記載の構成において、前記回転円筒部は、チタン合金材料で形成してなるネジ溝式真空ポンプを提供する。
【0023】
この構成によれば、回転円筒部を、強度の高いチタン合金材料を使用して形成することにより、該回転円筒部の強度を高め、かつロータ部材全体の軽量化が可能になる。
【0024】
請求項
6記載の発明は、請求項1,
2または
3記載の構成において、前記回転円筒部は、析出硬化系ステンレス材料で形成してなるネジ溝式真空ポンプを提供する。
【0025】
この構成によれば、回転円筒部を、強度の高い析出硬化系ステンレス材料を使用して形成することにより、該回転円筒部の強度を高め、かつロータ部材全体の軽量化が可能になる。
【0026】
請求項
7記載の発明は、請求項1,2,3,4,
5または
6記載の構成において、前記吸気口を少なくとも2個設け、該各吸気口をそれぞれ被真空室の互いに離れた位置に連結できるネジ溝式真空ポンプを提供する。
【0027】
この構成によれば、被真空室内の互いに離れた異なる位置から気体分子を各々吸い出し、被真空室内の気体分子を効率良く排気できるとともに、被真空室内の圧力差を軽減できる。
【0028】
請求項
8記載の発明は、請求項
7のネジ溝式真空ポンプを使用した真空排気システムを提供する。
【0029】
この構成によれば、被真空室内の気体分子を効率良く排気することがきる真空排気システムを提供できる。
【発明の効果】
【0030】
請求項1記載の発明は、ロータ軸の軸方向両側に各々設けた2つの排気ルートを同時に使用して排気するので、十分な排気速度を得ることができる。これにより、排気能力の向上に寄与する。また、吸気口から吸い込んだ気体分子をロータ軸に沿って平行に流し、これを排気口からスムーズに排気することができるので、排気速度をさらに高めることが可能になり、排気能力もさらに向上する。
また、軸方向両側に各々設置した排気機構のギャップ変動差を最小にして排気要素の最小化が可能になる。
【0031】
請求項2記載の発明は、
ロータ軸の軸方向両側に各々設けた2つの排気ルートを同時に使用して排気するので、十分な排気速度を得ることができる。これにより、排気能力の向上に寄与する。また、吸気口から吸い込んだ気体分子をロータ軸に沿って平行に流し、これを排気口からスムーズに排気することができるので、排気速度をさらに高めることが可能になり、排気能力もさらに向上する。また、排気ルート途中における支持板部の連通孔の開口面積を大きく確保することができるので、吸気コンダクタンスが大きくなり、スムーズな吸気が得られ、排気能力の向上に寄与する。
さらに、支持板部の梁部等に設けられたサポートリング部により、個別に成型した各回転円筒部をしっかりと固定することができてロータ部材を高速回転させることをより一層可能にするので、さらに排気能力の向上に寄与する。
【0035】
請求項
3記載の発明は、軸方向両側に各々設置した排気機構のギャップ変動差を最小にしてさらなる排気要素の最小化が可能になる。
【0036】
請求項
4記載の発明は、回転円筒部の強度を高めるとともにロータ部材全体の軽量化を図り、ロータ軸に対する負荷を軽減してロータ部材を高速回転させることが可能になるので、さらに排気能力の向上に寄与する。
【0037】
請求項
5記載の発明は、回転円筒部の強度を高めるとともにロータ部材全体の軽量化を図り、ロータ軸に対する負荷を軽減してロータ部材を高速回転させることが可能になるので、さらに排気能力の向上に寄与する。
【0038】
請求項
6記載の発明は、回転円筒部の強度を高めるとともにロータ部材全体の軽量化を図り、ロータ軸に対する負荷を軽減してロータ部材を高速回転させることが可能になるので、さらに排気能力の向上に寄与する。
【0039】
請求項
7記載の発明は、被真空室内の気体分子を効率良く排気することができるポンプの実現が可能になる。
【0040】
請求項
8記載の発明は、被真空室内の気体分子を効率良く排気することができる真空排気システムの実現が可能になる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら好適な実施例を説明する。
【0044】
図1は本発明に係るネジ溝式真空ポンプの縦断面図である。以下の説明において、
図1の左右方向を軸方向、上下方向を半径方向として説明する。
【0045】
図1において、ネジ溝式真空ポンプ10は、軸方向全長に亘って等径の略円筒形状をした円筒部11aと、該円筒部11aの両端をそれぞれ閉塞した端蓋部11b,11cを設けて、中空外装体としてなるケーシング11を有する。
【0046】
前記ケーシング11の前記円筒部11aの軸方向中央部近傍にはフランジを設けた吸気口12が形成され、左右の前記端蓋部11b,11cには同じくフランジを設けた排気口13,13が形成されている。なお、該吸気口12及び該排気口13,13はそれぞれ、後述するロータ部材16の回転方向及び/またはネジ溝25の刻設方向によって吸気口、排気口の何れにもなるものである。
【0047】
また、前記ケーシング11内には、ロータ軸14と、該ロータ軸14と一体に回転する回転支持体15と、該回転支持体15上に固定配置されて該ロータ軸14と共に回転する左右1対のロータ部材16,16と、該左右1対のロータ部材16,16と各々対応して設けられた左右1対のステータ部材17,17が、互いに同軸配置されている。
【0048】
なお、前記ケーシング11の前記端蓋部11b,11cの内面には、該端蓋部11b,11cの各中心部に、それぞれ固定支持体18a,18bが連結部19,19を介して同軸配置されている。
【0049】
前記固定支持体18a,18bは、各々略円柱状であり、また前記連結部19に固定して取り付けられている一端側に、フランジ状をした位置決め板部20a,20bが形成されている。なお、該位置決め板部20a,20bにはそれぞれ、連通孔21が周回方向に離れて複数個形成されている。また、一方の固定支持体18aの他端側には、他方の固定支持体部18b側に向かって突出した状態にして、その中心部に円筒部22が固定されて、該固定支持体18aと同軸配置されている。
【0050】
前記円筒部22には、その中心に形成された孔22a(以下、これを「中心孔22a」という)内に左右1対の軸受23,23が互いに軸方向に離れた状態で取り付けられている。そして、該円筒部22の前記中心孔22aには、該1対の軸受23,23を介して、前記ロータ軸14が回転可能に取り付けられている。また、該円筒部22には、前記1対の軸受23,23の間に、前記ロータ軸14を回転させるためのモータ部24が配置されている。
【0051】
前記左右のステータ部材17,17は、前記ケーシング11における前記円筒部11aの内周面に固定された外側固定円筒部17aと、前記固定支持体18a,18bの位置決め板部20a,20bから内側に向かって各々突出した状態にして、それぞれ該位置決め板部20a,20bに固定して取り付けられた中間固定円筒部17bと、前記固定支持体18a,18bの外周面に固定された内側回転円筒部17cを、互いに同軸配置して構成されている。
【0052】
また、前記外側固定円筒部17aの内周面と前記中間固定円筒部17bの外周面の間、及び、前記中間固定円筒部17bの内周面と前記内側回転円筒部17cの外周面の間にはそれぞれ、前記ロータ部材16の前記外側回転円筒部27aと前記内側回転円筒部27bを回転可能に配設させるための所定の隙間が形成されている。
【0053】
さらに、前記外側固定円筒部17aの内周面と、前記中間固定円筒部17bの内周面及び外周面と、前記内側固定円筒部17cの外周面には、螺旋状をした排気経路(排気ルート)を形成するためのネジ溝25が、各々複数条形成されている。
図2は、そのネジ溝25を内周面に形成してなる前記外側固定円筒部17aを、後述するロータ部材16の外側回転円筒部27aと共に模式的に示している。そして、各ネジ溝25の一端側(軸中心側)は最上流側において前記吸気口12に連通され、他端側(軸方向外側)は最下流側において排気口13,13に連通されている。なお、ネジ溝25は、吸気口10より吸入された気体分子が軸方向の両方(
図1の左右方向)に設置した排気口に排気できるように、左右で逆方向のねじが螺設されている。
【0054】
前記回転支持体15は、円筒体部15aと、該円筒体部15aの一端側を閉じた端板部15bを有して、他端側が開放された円筒カップ型に構成されている。そして、該回転支持体15は、前記端板部15bの中心を前記ロータ軸14が貫通した状態にして、該端板部15bを前記ロータ軸14に同軸固定させて取り付け、該ロータ軸14と一体に回転するようになっている。また、回転支持体15は、前記円筒部22に軸受23,23を介して前記ロータ軸14と共に取り付けられる際、該回転支持体15の開口端側から前記円筒部22を該回転支持体15の内部に挿入させて、該円筒部22と同軸配置された状態にして取り付けられる。
【0055】
前記左右のロータ部材16,16はそれぞれ、鍔状の支持板部26と、該支持板部26に一端側を固設し、かつ他端側を開放して前記ロータ軸14と同軸配置して取り付けられてなる外側回転円筒部27a及び内側回転円筒部27bを備えてなる。そして、
図1に示すように、前記ロータ部材16,16は、その前記支持板部26,26をそれぞれ、前記吸気口12と対応する位置の略外側となるように互いに離すとともに、前記各回転円筒部27a,27bの開放している他端側が互いに軸方向外側を向くようにして、それぞれの支持板部26,26を前記回転支持体15上に同軸固定してなる。
【0056】
なお、前記左右のロータ部材16,16が前記回転支持体15上に各々取り付けられた状態では、前記各ロータ部材16,16の前記外側回転円筒部27aが、前記ステータ部材17における前記外側固定円筒部17aの内周面と前記中間固定円筒部17bの外周面の間の隙間内に配置されるとともに、前記内側回転円筒部27bが、前記ステータ部材17における前記中間固定円筒部17bの内周面と前記内側固定円筒部17cの外周面の間の隙間内に配置される。
【0057】
また、前記左右のロータ部材16,16が前記円筒部22に前記ロータ軸14と共に取り付けられた状態では、
図1に示すように前記各軸受23,23は前記回転円筒部27a,27bに対して軸方向内側となる位置に配置、すなわちオーバハング状態で配置されて、該軸部23,23内の軸受スパンが前記左右のロータ部材16,16における前記回転円筒部(27a,27b)、(27a,27b)の間隔よりも短くなるように設定してある。オーバハング状態で軸受を配置する理由として次の理由が挙げられる。すなわち、ネジ溝排気要素の性能を向上するためには回転体の回転数を上げることが有効であるが、回転体を構成する部材の弾性体固有振動数が回転周波数に近づくと共振がおこるため、軸受に大きな荷重がかかり軸受が破損することがある。このように回転体の回転数はその構成部品の固有振動数に制約をうける。ロータ軸は回転体構成部品の中でもその長さに対して断面直径が小さい部品であるため固有振動数が低くなる。ロータ軸の固有振動数を高くして回転体の回転数を高く設定するためには、ロータ軸の短縮が不可欠であり、ネジ溝排気要素の高性能化を図るとかようなオーバハング形状となる。
【0058】
さらに、本実施例では、前記外側回転円筒部27aと前記内側回転円筒部27bの少なくとも一方は、共に比強度の高い材料、例えば繊維強化アルミニウム合金、繊維強化マグネシウム合金、繊維強化プラスチックス等の繊維強化複合材料を円筒形に形成してなる。このように前記外側回転円筒部27aと前記内側回転円筒部27bを共に比強度の高い材料で形成すると、全体的に強度が高く、かつ軽量化された前記ロータ部材16,16を得ることができため、回転円筒部27a,27bの周速を高く設定できるとともに前記ロータ軸14に加わる荷重が軽減することにより回転体の固有振動数が向上するので高速回転が可能となり、ネジ溝排気要素の性能向上が図れる。この比強度の高い材料としては、前記繊維強化複合材料の他に、チタン合金、析出硬化系ステンレス合金(SUS630等)を使用することもできる。
【0059】
また、前記各ロータ部材16,16の前記外側回転円筒部27a及び前記内側回転円筒部27bが各々取り付けられている前記支持板部26は、
図3及び
図4に示すように、間に前記吸気孔12へ通じる連通孔28を各々設けて中心から外側へ向かって放射状に延びる複数個の梁部29a,29a…を有する鍔状部29と、該鍔状部29の内面で、かつ前記梁部29a,29a…の放射方向中間部にリング状に形成して設けられ、その外周面に前記内側回転円筒部27bの一端側を同軸固定してなる内側サポートリング部30aと、前記鍔状部29の内面で、かつ前記梁部29a,29a…の放射方向外側先端部にリング状にして設けられ、その外周面に前記外側回転円筒部27aの一端側を同軸固定してなる外側サポートリング部30bと、を一体に備えている。このように、前記鍔状部29に前記梁部29a,29a…を放射状に設けて該各梁部29a,29a…の間に前記連通孔28を各々形成するようにすると、該各連通孔28,28…は前記内側回転円筒部27bの内周領域内と前記外側回転円筒部27aの内周領域内にそれぞれ跨がって一体に形成された状態にして設けられる。これにより、前記該各連通孔28,28…は大きな開口面積をした連通孔となり、開口面積を大きくすることにより吸気コンダクタンスが大きくなり、これが吸気性能の向上に寄与する。
【0060】
なお、本実施例では、前記外側回転円筒部27aの一端側を同軸固定する部分をリング状に形成されたサポートリング部30aとして説明したが、他の望ましい構造としては、図示しないが前記梁部29a,29a…から、該梁部29a,29a…の一部を軸方向に延長した構造(軸方向延長部)、もしくは、前記延長部の代わりに凹部を設けた構造(凹部)がある。
【0061】
このように構成されたネジ溝式真空ポンプ10は、ポンプ中央より吸入して両端より排気するタイプのもので、モータ部24が駆動されると、該モータ部24の回転力で前記ロータ軸14が前記回転支持体15、前記ロータ部材16,16と共に高速で回転する。そして、前記ロータ部材16,16の前記回転円筒部27a,27bが高速で回転することにより、前記各ステータ部材17,17側における各ネジ溝25,25…内で気体分子が前記排気口13,13方向に移送される。同時に、吸気口12からケーシング11内に気体分子が吸い込まれて前記各ネジ溝25に順次導入される。これが該ネジ溝25,25…に沿って排気方向に移送されて前記排気口13,13から排気され、この動作が繰り返される。
【0062】
したがって、このネジ溝式真空ポンプ10は、前記吸気口12を被真空室(図示せず)に接続しておくと、被真空室内から気体分子が順次吸い出されて、該真空室内を真空状態にすることができる。そして、この実施例の構造では、前記吸気口12から前記ケーシング11内に吸い込まれた気体分子は、前記左右のステータ部材17,17及び前記ロータ部材16,16等で各々形成された左右の排気経路に分流されて、これが左右の排気口13,13から効率良く排気される。
【0063】
ところで、一般に、この種のネジ溝式真空ポンプ10では、ポンプ運転中、前記排気口13,13側の方の圧力が前記吸気口12側の圧力よりも高いので、前記ポンプ作用がなければ逆流する。そして、前記各ロータ部材16,16の前記外側回転円筒部27a及び前記内側回転円筒部27bと前記各ステータ部材17のネジ溝25とのギャップは、狭ければ狭いほどギャップを通過して逆流する気体分子が減るため、性能が向上する。一方、ポンプ運転中には、該回転円筒部27a,27bが変位する虞がある。この回転円筒部27a,27bの変位が発生すると、ネジ溝25との接触が発生して、最悪の場合、回転円筒部27a,27bの損傷やかじりが発生して運転不能となる。
【0064】
しかし、ポンプ運転中には下記の軸受の状態変化に起因するロータの変位が発生して回転円筒部27a,27bが変位するので、その変位量を考慮してギャップを広く設定する必要がある。広く設定しておかないと、運転中に発生する変位によりロータとネジ溝との接触が発生して、最悪の場合、ロータ部材が損傷しステータ部材とかじりが発生して運転不能となる。
【0065】
したがって、ころがり軸受を使用した場合には軌道面の磨耗により発生する転動体と軌道との隙間の増加、すべり軸受を使用した場合では摺動面の磨耗及び回転軸と固定部との熱膨脹差により発生する隙間の増加、磁気軸受を使用した場合では、停電(軸受電磁石への通電が喪失する)及びポンプ外部からの強い加振等により、ポンプステータ中心にロータを保持できなくなり、保護軸受に接触するに至るまでロータが変位する、といったロータ変位を考慮して前出ギャップを設定する必要がある。
【0066】
そこで、本実施例のネジ溝式真空ポンプ10では、この点に関して、
図1に示すように前記1対の軸受23,23を左右回転円筒部の端部に対して略センタ近傍に配設すること、また、前記ロータ軸14の前記軸受23,23が運転中に、該ロータ軸14と該軸受23,23との間に発生し得る変位によりコニカル運動をするときの変位中心と前記ロータ部材16,16の軸方向センタ位置をほぼ一致させるとともに、前記回転円筒部27a,27bと前記ステータ部材17,17との間の隙間が、コニカル運動の中心からの距離に応じて大きくなるように形成して、上記ギャップの変動が最小限となるように、例えば20%以内としている。
【0067】
この理由を、
図5を用いて以下解説する。なお、説明の都合上、上記軸受23,23は、軸受b
1と軸受b
2と置き換えて説明する。
【0068】
まず、軸受b
1とb
2において、逆位相の変位g
b1とg
b2 が発生して、前記ロータ軸14,前記ロータ部材16,16等の回転体がδ
b12 傾いたとする。
【0069】
軸受b1とb2の間隔(スパン)をS
b0とすると、次式の関係になる。
【0070】
sinδ
b12= (g
b1 + g
b2) / S
b0 …(1)
【0071】
コニカル運動の中心とそれぞれの軸受との距離は、次の関係になる。
S
b1 : S
b2 = g
b1:g
b2 …(2)
【0072】
前記回転円筒部27a,27bとネジ溝25とのギャップ変化は、回転円筒端部で最も大きくなるため、回転円筒端部でのギャップ変化(Δg
p1, Δg
p2)について考える。
【0073】
ロータ軸14のコニカル運動の中心点(A)が、両方の回転円筒端部より軸方向に等間隔な位置(B)に対してL
mずれている場合、Δg
p1, Δg
p2 は次の式となる。
【0074】
Δg
p1 = R
1×(1-cosδ
b12) + (-L
m +L
p0)×sinδ
b12 … (3)
【0075】
Δg
p2 = R
2×(1-cosδ
b12) + (L
m +L
p0)×sinδ
b12 … (4)
【0076】
R
1,R
2 (前記回転円筒部27a, 27bの直径)、L
p0 (前記回転円筒部27a,27bの軸方向長さ)は、ポンプの排気性能により決まる値である。
【0077】
S
pO を大きくすれば軸の傾きδ
b12 が小さくなるのでギャップ変化Δg
P1, Δg
P2 を小さくとれるが、軸の長さを増やす必要があり、軸の固有振動数が低下するため、ロータ回転数を上げて性能向上を図る場合には適切な対策ではない。
【0078】
Δg
p1 とΔg
p2 との値が異なる場合、例えばΔg
p1 >Δg
p2 となった場合、P
1 側の前記回転円筒部27a,27bとネジ溝25との隙間を大きく設定する必要があり、P
1側のポンプ性能が低下して、ポンプ全体の性能が低下する。
【0079】
この対策として、P
1側のポンプ長さを長く取る必要が生じるため、ポンプサイズの増大、ロータ質量増加による軸受・モータのコスト増加につながり好ましくない。
【0080】
解決策として、軸受の変位g
b1 , g
b2 により決まる(A)点の位置と回転円筒部両端から均等の位置にある(B)点との距離L
m を、ロータとネジ溝とのギャップ変化により生ずる性能影響が許容できる範囲内になるように設定する。
【0081】
R1=R2と仮定したときに、差分Δg
p2 - Δg
p1 をとると
【0082】
Δg
p2 - Δg
p1 = 2L
m ×sin δ
b12 = 2L
m × (g
b1 + g
b2) / S
b0 …(5)
【0083】
この値を軸受け変位前のギャップg
p1, g
p2 に対して充分小さく(20%以内)、好適にはL
m=0 である。
【0084】
また、円筒端部以外のギャップ変化については、前記(3)式、前記(4)式のL
p0を、ロータ軸のコニカル運動の中心点(A)からの距離に置き換えて考えれば良い。但し、ロータ軸のコニカル運動の中心点(A)からの距離が、S
b1あるいはS
b2より小さくなる範囲では、コニカル運動に起因するギャップ変化より、軸受b
1,b
2が同位相に変位するパラレル運動に起因するギャップ変化のほうが大きくなるため、この限りではない。
【0085】
なお、上記実施例では、前記ケーシング11の前記円筒部11aの軸方向中央部近傍には吸気口12を形成し、左右の前記端蓋部11b,11cに排気口13,13を形成したネジ溝式真空ポンプ10を開示した。しかし、例えば
図6に示すように、前記ケーシング11の前記円筒部11aの軸方向中央部近傍に排気口13を設けるとともに、左右の前記端蓋部11b,11cに吸気口12,12を設けて成るネジ溝式真空ポンプ10とすることも可能である。
【0086】
すなわち、この
図6に示すネジ溝式真空ポンプ10の場合、前記モータ部24の回転を逆転させる、あるいは前記ネジ溝25,25…の螺旋形状の向きを
図1の構成とは反対向きに形成して正転させることにより、2つの吸気口12,12から気体分子を吸い込み、排気口13を通して排気するネジ溝式真空ポンプ10とすることができる。したがって、
図6において、
図1〜
図5と同じ符号を付して示しているものは、同じ部材であるので、重複説明は省略する。
【0087】
図7は、
図6に示したネジ溝式真空ポンプ10を使用した真空ポンプシステムの一例を示す概略構成図である。同図において、被真空室31は、内部に例えば被加工部品をチャックしたり交換したりするための機構やプラズマプロセス用電極装置等の各種の装置32が配置されている。そして、該被真空室31には、前記吸気孔12,12を該真空室31内に連結接続した状態にしてネジ溝式真空ポンプ10が取り付けられている。その吸気口12,12を取り付ける位置は、同図に示すように左右に大きく離して設けられている。
【0088】
この真空ポンプシステムでは、ポンプ両端より吸入して、中央より排気するタイプであるネジ溝式真空ポンプ10が駆動されると、前記被真空室31内の気体分子が前記吸気口12,12を通して吸い出されるとともに排気口13を通して外部に排気され、これにより該被真空室31内を真空にすることができる。また、この真空ポンプシステムでは、2つの前記吸気口12,12をそれぞれ、前記被真空室31の互いに離れた位置に連結させてネジ溝式真空ポンプ10を設けているので、大きなスペースを有した被真空室31のような場合では、該被真空室31内の離れた部位から気体分子を各々吸引し、該被真空室31内の気体分子を各部平均的に吸引して急速に効率良く排気することができる。また、被真空室内の圧力差を軽減できる。
【0089】
図8は、
図1〜
図6に示したネジ溝式真空ポンプの他の変形例を示すものである。この変形例の構成は、固定支持体18a,18bの互いに対向し合う内面にそれぞれ円筒部33a,33bを固定して設けるとともに、ロータ軸14に取り付けられた回転支持体35を左右対称形にしてロータ軸14に一体回転可能に取り付けてなる点、及びロータ軸14の支持構造を変形したものであり、
図1と同一の構成部分は同一符号を付して重複説明を省略する。
【0090】
前記円筒部33a,33bは、中心に孔34a,34b(以下、これを「中心孔34a」,「中心孔34b」という)を有し、その中心孔34aと該中心孔34bに各々別れるようにして軸受23,23が取り付けられている。そして、前記円筒部33aの前記中心孔34a及び前記円筒部33bの前記中心孔34bには、前記各軸受23,23を介して、前記ロータ軸14が回転可能に取り付けられている。また、該円筒部33aには、前記ロータ軸14を回転させるためのモータ部24が配置されている。
【0091】
前記回転支持体35は、ロータ軸14に固定された円板状をした中心端板部35bと、該中心端板部35bからそれぞれ互いに軸方向外側を向くようにして円筒体部35a,35aが一体に設けられてなり、断面が概略H状に形成されている。そして、左右のロータ部材16,16同士が互いに相反する軸方向を向く状態にして、円筒体部35a,35aの開放先端側に、それぞれ前記支持板部26,26を同軸的に固定して取り付けている。
【0092】
この変形例によるネジ溝式真空ポンプ10も、ポンプ両端より吸入して、中央より排気するタイプのもので、モータ部24が駆動されると、該モータ部24の回転力で前記ロータ軸14が前記回転支持体35、前記ロータ部材16,16と共に高速で回転する。そして、前記ロータ部材16,16の前記回転円筒部27a,27bが高速で回転すると、前記各ステータ部材17,17側における各ネジ溝25,25…内で気体分子が前記排気口13方向に移送されると同時に、吸気口12,12からケーシング11内に気体分子が吸い込まれて前記各ネジ溝25に順次導入される。これが該ネジ溝25,25…に沿って順に排気方向に移送されて前記排気口13から排気される。この動作を繰り返すことにより、真空操作を行うことができる。
【0093】
図9は、本発明の別の変形例を模式的に示すネジ溝式真空ポンプの縦断面図である。この変形例の構成は、前記ロータ軸14及び前記軸受23,23、前記モータ部24が円筒体部39および連結部材38を介して前記ケーシング11の前記円筒部11aに支持されている。そして、円筒体部15aと端板部15bを有してカップ状に形成された回転支持体37,37をそれぞれ、該回転支持体37,37同士が互いに軸方向外側を向くようにして前記ロータ軸14の左右両側に取り付けるとともに、前記各回転支持体37,37に前記左右のロータ部材16,16を、該左右のロータ部材16,16の回転円筒部27a,27bが互いに軸方向内側を向くようにして設けたものであり、
図1及び
図8と同一の構成部分は同一符号を付してある。
【0094】
この変形例によるネジ溝式真空ポンプ10も、ポンプ両端より吸入して、中央より排気するタイプのもので、モータ部24が駆動されると、該モータ部24の回転力で前記ロータ軸14が前記回転支持体37,37、前記ロータ部材16,16と共に高速で回転する。そして、前記ロータ部材16,16の前記回転円筒部27a,27bが高速で回転すると、前記各ステータ部材17,17側における各ネジ溝25,25…内で気体分子が前記排気口13方向に移送されると同時に、吸気口12,12からケーシング11内に気体分子が吸い込まれて前記各ネジ溝25に順次導入される。これが該ネジ溝25,25…に沿って順に排気方向に移送されて前記排気口13から排気される。この動作を繰り返すことにより、真空操作を行うことができる。
【0095】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。