(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989675
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】医薬製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/05 20060101AFI20160825BHJP
A61P 23/00 20060101ALI20160825BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20160825BHJP
A61K 47/40 20060101ALI20160825BHJP
A61K 47/48 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
A61K31/05
A61P23/00
A61K9/08
A61K47/40
A61K47/48
【請求項の数】17
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2013-552290(P2013-552290)
(86)(22)【出願日】2012年3月1日
(65)【公表番号】特表2014-507430(P2014-507430A)
(43)【公表日】2014年3月27日
(86)【国際出願番号】IB2012000391
(87)【国際公開番号】WO2012104730
(87)【国際公開日】20120809
【審査請求日】2015年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】595118674
【氏名又は名称】ノルベルト・レーヴァー
【氏名又は名称原語表記】Norbert Roewer
(73)【特許権者】
【識別番号】510264132
【氏名又は名称】イェンス・ブロシャイト
【氏名又は名称原語表記】Jens BROSCHEIT
(74)【代理人】
【識別番号】100062144
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 葆
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ノルベルト・レーヴァー
(72)【発明者】
【氏名】イェンス・ブロシャイト
【審査官】
田村 直寛
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−526730(JP,A)
【文献】
特表2009−504634(JP,A)
【文献】
特表2003−535893(JP,A)
【文献】
国際公開第96/032135(WO,A1)
【文献】
EFTINK M R,CALORIMETRIC STUDIES OF P-NITROPHENOL BINDING TO ALPHA- AND BETA-CYCLODEXTRIN,BIOORGANIC CHEMISTRY,米国,ACADEMIC PRESS INC,1981年12月 1日,V10 N4,P388-398
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 9/00
A61K 47/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロポフォール塩と2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン (HPBCD)との複合体を含む医薬製剤であって、複合体中のプロポフォール塩の含有量が、4〜9重量%であることを特徴とする、医薬製剤。
【請求項2】
プロポフォール塩がアルカリ金属塩であることを特徴とする、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
プロポフォール塩がナトリウム塩であることを特徴とする、請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
プロポフォール塩:2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン (HPBCD)のモル比が1:2〜1:6であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の製剤。
【請求項5】
注射に適した水溶液であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の製剤。
【請求項6】
pHが8〜11であることを特徴とする、請求項5に記載の製剤。
【請求項7】
pHが9〜11であることを特徴とする、請求項6に記載の製剤。
【請求項8】
pHが9〜10であることを特徴とする、請求項6に記載の製剤。
【請求項9】
水溶性の固体であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の製剤。
【請求項10】
麻酔薬として使用するための、請求項1〜9のいずれかに記載の製剤。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載の製剤の調製方法であって、以下の工程:
a) 2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン (HPBCD)のアルカリ性水溶液の調製
b) プロポフォールの該アルカリ性水溶液への溶解
を特徴とし、該製剤のpHが8〜11である、方法。
【請求項12】
該製剤のpHが9〜11であることを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
該製剤のpHが9〜10であることを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項14】
プロポフォールの溶解が不活性気体雰囲気下で起こることを特徴とする、請求項11〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
プロポフォールの溶解が2〜10時間の期間で起こることを特徴とする、請求項11〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
工程b)で得られた溶液を濾過することを特徴とする、請求項11〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
任意で濾過した、工程b)で得られた溶液から、凍結乾燥によって、水を除去することを特徴とする、請求項11〜16のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロポフォールを含む医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
薬学において、特定の投与タイプを用いて、意図した作用部位に、所望の濃度で、できる限り効果的に投与されるように、医薬有効成分を製剤化することは、しばしば問題となることである。したがって、静脈内投与を意図した有効成分は、血液中の全身濃度が達成されるように、ある程度水に溶解性でなければならない。一方で、有効成分は、一般的に、適当な場合、意図する作用部位において細胞膜を貫通できるようにするために、一定の親油性を有していなければならない。例えば、単に易水溶性の有効成分は、静脈内投与の後、血液中で高い全身濃度を確立するが、例えば、親油性が過度に低い場合、細胞膜の通過が、意図した作用部位で十分でないことがありうるため、そのバイオアベイラビリティは低いものとなる。
【0003】
プロポフォールは、1977年に初めて臨床診療で試験された、静脈内用麻酔薬である。プロポフォールは、静脈内投与を利用可能にしなければならない、難水溶性の麻酔薬有効成分である。
【0004】
該麻酔薬の脂肪性乳剤中の溶液(商標名Diprivan(登録商標))は、静脈内投与によりしばしば見られる血管の痛みを減少させることができたため、プロポフォールは1989年に臨床診療に導入された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このプロポフォール液体乳剤は、ダイズ油、グリセロールおよび卵ホスファチドを含む。注射に伴う血管の痛みは、しばしば起こり続ける問題である。さらに、該乳剤は深刻なアレルギー応答を引き起こしうる。脂肪性乳剤としての製剤は、微生物の増殖に好都合であるため、乳剤のコンタミネーションは、短期間の保存の後であっても、投与後に敗血症を引き起こしうる。
【0006】
本発明の目的は、最初に述べたような、問題のない静脈内投与を可能にし、特定の不利な点を、あったとしても低い程度で有するタイプの医薬製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、プロポフォールを塩として、シクロデキストリンと複合させることで達成される。プロポフォールは、アルカリ性の媒体中で、塩に変換しうる。該プロポフォールアニオンは、シクロデキストリンにより複合体となりうる。本発明において、用語「プロポフォール塩」は、プロポフォールのアニオン(フェノラート)をさし、これはシクロデキストリンにより複合体となりうる。したがって、本発明の複合体の中で、プロポフォールは、アニオンとして複合体形態で存在する。
【0008】
驚くべきことに、この方法で、プロポフォールを高い濃度で含む、安定して、注射可能な医薬製剤を製造できることがわかった。本発明の医薬製剤は注射に適した水溶液で提供されうる。あるいは、複合体の製造後、溶媒を取り除き、複合体を保存可能な固体として提供することも可能である。投与前に、この固体を再び水溶液に変換させる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
複合体の水溶液のpHは、好ましくは7を超えており、さらに好ましくは8を超えており、さらに好ましくは9を超えている。pHの好ましい上限は11または10である。pH8〜11の範囲が特に好ましく、9〜11がさらに好ましく、9〜10がさらに好ましい。該複合体を保存可能な固体として提供する場合、再可溶化の後にここで述べた範囲のpHにおさまるのが好ましい。
【0010】
本発明において、プロポフォールを複合体化させるのに用いるシクロデキストリンは、特に好ましくは、2 ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン (HPBCD)である。プロポフォール塩は、好ましくは、アルカリ金属塩であり、特に好ましくはナトリウム塩である。
【0011】
プロポフォール塩とシクロデキストリンのお互いのモル比は、好ましくは、1:2〜1:6であり、さらに好ましくは、1:2〜1:4であり、さらに好ましくは約1:2である。複合体のプロポフォール塩含有量は、好ましくは約4〜9重量%である。
【0012】
本発明はまた、本発明の医薬製剤を調製する方法を提供する。本発明において、最初にシクロデキストリンのアルカリ性水溶液を調製する。プロポフォールをこのアルカリ性溶液に添加して混合し、好ましくは撹拌し、溶解させ、複合体を形成させる。この反応は、好ましくは、不活性気体雰囲気下で起こる。本発明において、同様に、プロポフォールをシクロデキストリンに添加してはじめて、アルカリ性条件を成立させることもまた可能である。
【0013】
プロポフォールの溶解および複合体化は、好ましくは2〜10時間、さらに好ましくは、3〜5時間、さらに好ましくは約4時間の期間で起こる。本発明において、溶解および複合体化の過程は、本質的に、プロポフォールのフェノール形態の複合体化の場合よりも速く起こる。複合体中の、プロポフォールの有意に高い濃度もまた、成立しうる。
【0014】
さらなる工程において、本発明により得られた溶液から、残存している固体画分を、例えば濾過して、除去しうる。適当なものは、例えば、孔径が0.45μmである、ポアフィルタによる濾過である。
【0015】
本発明により製造した溶液から、例えば、凍結乾燥のような、公知で適した方法により、溶媒を除去しうる。複合体は、このような方法で、保存可能で、再可溶化可能な固体として提供される。
【実施例】
【0016】
実施例の一つを下記で説明する。
【0017】
用いた全ての物質の仕様は、ヨーロッパ薬局方 (Ph. Eur.)に対応する。以下の材料物質を用いた。
−プロポフォール
−NaOH
−HPBCD
−注射目的のための水
【0018】
NaOHは、水60mlで調製し、0.01N NaOH溶液を得た。HPBCD 12gをそこに加え、撹拌して溶解させた。その後、プロポフォール0.817gを添加し、該混合物をさらに4時間、40〜80分
−1で、プロポフォール塩が溶解し、複合体化するまで撹拌した。得られた溶液は、pH9〜10であった。
【0019】
得られた溶液を、孔径0.45μmのポアフィルタで濾過した。濾過後、溶液を凍結乾燥させた。これにより白色粉末を得た。得られた複合体は以下のように特徴づけられる:
【表1】
【0020】
該複合体を水中で再可溶化させることで、活性プロポフォールを46 mg/mlの含有量で含む水溶液が得られる。