特許第5989766号(P5989766)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5989766DLCコーティングを有する部品およびDLCコーティングを付着するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989766
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】DLCコーティングを有する部品およびDLCコーティングを付着するための方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20160825BHJP
   C23C 14/02 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   C23C14/06 F
   C23C14/06 P
   C23C14/02 Z
   C23C14/06 B
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-510866(P2014-510866)
(86)(22)【出願日】2012年5月16日
(65)【公表番号】特表2014-517150(P2014-517150A)
(43)【公表日】2014年7月17日
(86)【国際出願番号】FR2012051109
(87)【国際公開番号】WO2012156647
(87)【国際公開日】20121122
【審査請求日】2015年2月9日
(31)【優先権主張番号】1154388
(32)【優先日】2011年5月19日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】506126266
【氏名又は名称】アッシュ・ウー・エフ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ・エオー
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・ボムビヨン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・モーラン−ペリエ
【審査官】 國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/155051(WO,A1)
【文献】 特開平07−062541(JP,A)
【文献】 特開2000−256850(JP,A)
【文献】 特開昭63−195267(JP,A)
【文献】 特開2004−256912(JP,A)
【文献】 特開2010−106311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C23C 16/00−16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属含有アンダーコート以外およびイオン注入層以外にWC−C組成勾配を有する層と、スクラッチ試験における凝集性挙動によって特徴付けられるDLC表面層とを有する金属部品。
【請求項2】
マイクロ波エッチングされた前記金属部品が有するWC−C組成勾配層に付着されたDLCコーティングで覆われた、請求項1に記載の部品。
【請求項3】
金属部品にDLCコーティングを付着するための方法であって、
マイクロ波で前記金属部品をエッチングするステップと、
前記金属部品にWC−C組成勾配層を与えるステップと、
前記WC−C層に前記DLCコーティングを付着するためにマイクロ波プラズマを使用するステップと、
によって特徴付けられる方法。
【請求項4】
前記マイクロ波でエッチングするステップは、0.05から0.5Paの圧力範囲にわたってエッチングするためにアルゴンプラズマを生成するステップを備えることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記WC−C組成勾配層がマグネトロンPVDによって生成されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記与えるステップは、最初に純粋なWC層で開始し、炭化水素流量傾斜部が続き、最終的にWC−C層が続くステップを備えることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記WC−C組成勾配層の厚さが、0.3から10μmであることを特徴とする、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記DLCコーティングが、1から20μmの厚さを有することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DLC(ダイアモンドライクカーボン)コーティング、特に摩擦部品用のDLCコーティングの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、例えば、ピストンロッド、カムシャフト、バルブリフタ、シリンダ、ピストンリング、等の摩擦係数を低減することにおいて、より一般的には、荷重下での摩擦のあらゆる場合において特に有利な用途を有する。そのような摩擦を低減するために、当業者は、当該の1つまたは複数の部品にDLCコーティングを付着することの可能性に完全に気付いている。
【0003】
本発明はまた、コーティングによって形成される表面が黒色を有することを必要とし、これが摩擦を低減しようと試みることを必要としない用途を有することがある。
【0004】
構成部品上のDLC膜の低い接着性が、ある種の用途において深刻な問題を引き起こすことがあることもまた、当業者には一般に知られている。接着性を改善するための1つの技術的な解決策は、例えば、シリコンまたはクロム系の金属含有接着層を使用することを含む。さまざまな技術的な解決策が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1は、接着層、金属含有DLCコーティングおよび金属を含まないDLCコーティングから構成されるコーティングを有する摩擦部品を記載する。接着層は、好ましくは、1μmの最大厚さを有するクロムコーティングである、これに対して、金属含有DLCコーティングは、好ましくはWCC炭化タングステンから作られる。さまざまな層およびコーティングの厚さの比率は、ある範囲の値に制限され、その結果、この範囲外では、DLC厚さが薄すぎる場合には、構成部品の耐用寿命が短縮され、DLC厚さが厚すぎる場合には、構成部品は、剥離するまたはフレーキングして落ちる危険があるために早く摩耗することになる。
【0006】
特許文献2は、接着層、遷移層およびダイアモンドライクカーボンの層を有する多層系を開示する。接着層は、第4亜族、第5亜族または第6亜族内の元素およびシリコンを含み、これに対して、遷移層は、炭素ならびに第4亜族、第5亜族または第6亜族内の元素およびシリコンのうちの少なくとも1つを含む。上側層は、主にダイアモンドライクカーボンから作られる。この系は、少なくとも15GPaの硬さおよび少なくともHF3の接着強度を有する。
【0007】
一般的に言って、DLC膜内の内部応力に関係するこのアンダーコートからのDLC膜の剥離が観察され、この剥離は、このような膜が厚いほど増加する。この接着アンダーコートが別のステップにおいて形成され、これがこの方法のコストを増加させ、このような方法をより複雑にすることもまた明らかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2011/018252号パンフレット
【特許文献2】国際公開第0179585号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、簡単で、信頼でき、効果的でかつ効率的にこれらの欠点を克服することをその目的とする。
【0010】
本発明が解決しようとする問題は、従来技術の教示に基づく金属含有接着アンダーコート(例えば、シリコンまたはクロム)を使用せずに改善した接着性を有するDLC膜を生成することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような問題を解決するために、金属含有アンダーコート以外にWC−C組成勾配を有する層およびスクラッチ試験における凝集性挙動によって特徴付けられるDLC表面層を有する金属部品が、設計され完成されている。
【0012】
記述した問題は、
− マイクロ波で部品をエッチングし、
− 部品にWC−C組成勾配層を与え、
− WC−C層にDLCコーティングを付着するためにマイクロ波プラズマを使用する
方法によって有利に解決される。
【0013】
マイクロ波エッチングは、イオンの流れを調節することによって二極エッチングを使用して可能であるものよりも、(処理すべき部品の幾何学形状に拘わらず)さらに効果的なエッチングを実現することを可能にする。部品を劣化させずに低い焼き戻し温度で部品をエッチングすることが、やはり可能である。マイクロ波DLCコーティングを使用することが、従来型のDLCコーティングと比較して概して50%だけ膜付け処理時間を短縮することを可能にすることが、やはり認められる。
【0014】
有利なことには、0.05から0.5Paまでの圧力範囲にわたってエッチングを実現するためにアルゴンプラズマを作り出す。
【0015】
別の一態様によれば、マグネトロンPVD技術を使用することによって、WC−C組成勾配層を生成する。最初に純粋なWC層で開始し、Cなどの炭化水素ガスでの傾斜部が続き、最終的にWC−C層が続く。WC−C組成勾配層の厚さは、0.3から10μmであり、ピストンリングなどのより大きな厚さを必要とするものは別にして、有利には大部分の用途について0.8μmである。
【0016】
別の一態様によれば、DLCコーティングは、1から20μmの厚さを有する。
【0017】
本発明はまた、マイクロ波エッチングした部品が有するWC−C組成勾配層に付着されたDLCコーティングを有する摩擦部品に関する。
【0018】
本発明は、添付した図面を参照して、下記に非常に詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】スクラッチ試験法を使用したコーティングの破壊プロファイルの図である。
図2】接着性フレーキングの場合における図1中の線A−Aに沿った断面図である。
図3】凝集性フレーキングの場合における図1中の線A−Aに沿った断面図である。
図4】凝集性/接着性フレーキングの場合における図1中の線A−Aに沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
示したように、従来技術は、どんな場合でも、例えば、純粋なCrで作られた接着アンダーコートと、それに続いて、金属をドープされていない堆積したDLCの接着性を確実にする目的でタングステンをドープしたDLC層が得られるまで、炭素含有量が徐々に増加する炭化タングステン系の層とを含むDLCコーティングを記載する。
【0021】
本発明の背景では、試験は、1つまたは複数の接着アンダーコートを有するDLCコーティングおよび本発明の態様にしたがって接着層を使用しないDLCコーティングを生成することによって得られる結果を比較するために実行されている。
【0022】
材料は、コーティングの接着性を向上させるようにすべての犠牲酸化物を除去するために、前もってイオンエッチングされた金属含有基板上に堆積された。さまざまなイオンエッチング技術、すなわち、主に、二極エッチング、三極プラズマエッチングおよびECRマイクロ波エッチングが、当業者には良く知られている。
【0023】
二極エッチングは、1から10Paの圧力でアルゴン雰囲気中で基板に数百ボルトの負電圧(<−500V)を印加することを含む。これらの条件下で、部品の周りに発光放電があり、プラズマ中の正のアルゴンイオンが、基板の表面に当たり、表面スパッタリングおよび酸化物の除去を可能にする。
【0024】
三極プラズマ技術を使用すると、より低い圧力(0.1から1Pa)で密度の高いアルゴンプラズマが、プラズマ増幅装置によって生成される。正のアルゴンイオンは、基板を負にバイアスすることによって加速され、表面をエッチングする。このタイプの方法にとって、最大のエッチング効率を達成するために、負電圧は、−250Vと−500Vとの間でなければならない。
【0025】
ECRマイクロ波エッチングは、0.05から0.5Paの圧力範囲にわたってアルゴンプラズマを生成することを可能にする。部品は、最適には−50Vから−250Vである負電圧によってバイアスされる。
【0026】
これらのエッチング技術のそれぞれが、これらの試験に対して使用された。エッチングに続いて、純粋なクロム接着アンダーコートが、ほぼ0.1から0.2μmのクロム厚さを得るためにマグネトロンカソードスパッタリングによっていくつかの試験片上に生成された。炭化タングステンが、次に、マグネトロンカソードスパッタリングによってすべての試験片上に堆積され、炭化水素流量を徐々に増加させることは、最終のDLCコーティングの接着を可能にするために50%を超える原子濃度まで堆積する炭素を濃厚にすることを可能にさせた。タングステン含有層の厚さが1.5μmまで厚くされた例9および例10を別として、タングステン含有層は、ほぼ0.5μmの厚さを有し、DLCはほぼ2μm厚であった。
【0027】
下記の表は、試験条件を要約する。
【0028】
【表1】
【0029】
すべてのコーティングは、その接着性の観点から特徴付けられた。スクラッチ試験法が使用された。この方法が、HRCインデンテーション試験用に使用されるもののようなダイアモンドを用いて堆積した材料の表面を引っ掻くことを含むことに、読者は気付かせられる。試験片がダイアモンドの下で一定速度で並進移動されながら、徐々に増加する荷重が与えられる。これが、増加荷重スクラッチ(図1)を得ることを可能にし、これに基づいて、フレーキング力(臨界荷重)ならびにフレーキングモードを決定することを可能にする。フレーキングモードは、コーティング中の折断の場所を示す。2つの主なフレーキングのタイプがある、
− 接着性フレーキング(図2
− 凝集性フレーキング(図3
凝集性/接着性と呼ばれる接着性破壊を凝集性破壊と組み合わせた混合型モードがある(図4)。
【0030】
接着性フレーキングは、1つの界面に沿ったクラックの伝播に対応し、したがって部品の表面に平行であり、これに対して、凝集性フレーキングは、界面に対してある傾斜角でコーティングを貫通して伝播する。接着性フレーキングは、コーティングの接着力がないことを特徴付ける。凝集性フレーキングは、応力がコーティングを構成する材料の折断限界(機械的強度)を超えるときに生じる。
【0031】
接着相の場合では、臨界荷重は、接着力を特徴付ける。
【0032】
凝集破損の場合では、臨界荷重は、その接着性ではなく、特徴を明らかにするコーティングの折断強度である。臨界荷重は、堆積した材料の特性だけでなく、材料の厚さおよび基板の硬さの特性でもある。
【0033】
第2の方法が、接着性を評価するために使用された。これは、2kgの荷重下でビッカースダイアモンドを使用することによって堆積した材料をインデンティングすることを含む。
【0034】
下記の表は、一連の実験を要約し、クロムアンダーコートを用いない2.5μmの全堆積厚さおよびクロムアンダーコートを有する2.7μmの全堆積厚さならびに例9および例10の場合における3.5μmの全厚さについての工具鋼(硬さ64HRC)で作られた基板上で得られたスクラッチ試験の結果を含む。例11および例12は、本発明の堅固さを実証する厚い積層物を有する。例11は、4μm厚のタングステン系の層を含み、その上に8μm厚のDLCが堆積されている。例12の場合では、タングステン層の厚さは、9.7μmまで増加され、DLC表面層の厚さは、19.2μmまで増加された。
【0035】
【表2】
【0036】
C=凝集性
A=接着性
CA=凝集性/接着性
NTR=堆積した材料の脱離なし
【0037】
上記の表は、二極エッチングの場合でかつ従来技術の教示にしたがって、クロムアンダーコートが強い接着性を得ることを可能にし(例1)、クロムアンダーコートがないと、破損がWCと鋼との間の界面のところで生じる(例2)ことを示す。
【0038】
三極エッチング技術を使用すると、材料がクロムアンダーコートを用いずに引っ掻かれたときに、堆積した材料の挙動の変化をもたらす(例4および例5)。臨界荷重は、二極エッチング(例2)と比較して増加し、フレーキングモードが変化した(例4および例5)。
【0039】
観察したフレークは、中間のフレーキングモードを明らかにする。
【0040】
本発明によれば、ECRマイクロ波エッチング技術を使用することにより、クロムアンダーコートを用いずに従来技術ときわめて類似した機械的な挙動を得ることが可能であることが実証される(例8)。三極エッチング技術と同様に、圧力を低下させることは、スクラッチ試験性能の改善をもたらす(例7および例8)ことに留意されたい。
【0041】
例9および例10は、臨界荷重値によって実証されたように、凝集性フレーキングに対する耐性が、タングステン含有アンダーコートの厚さによって増大することを示す。2つの例では、炭化タングステンおよび勾配層の厚さは、1.5μmである。より具体的には、例9では、炭化タングステン厚さは、1μmまで増加し、炭素濃度勾配層に対応する厚さは0.5μmである。例10では、炭化タングステン厚さは、0.2μmであり、ところが、炭素濃度勾配層は、1.3μmまで増加された。
【0042】
例11および例12は、解決策の堅固さを例証する。真空中で堆積した薄い硬質層の厚さを大きくすることが、その内部圧縮応力の増加をもたらすことが知られている。それにも拘わらず、スクラッチ試験中の挙動は、凝集性のままであり、臨界荷重の増加は、タングステン系の層の厚さの増加の結果である。
【0043】
エッチング技術に加えて、結果は、エッチング圧力が低くなるときにクロムアンダーコートを用いずに生成される層の接着性の改善を示す傾向がある。エッチング中の圧力低下は、実際の技術それ自体に依存する。二極技術は、典型的には0.5Paまで低いプラズマ圧力を発生できない。
【0044】
このように、本発明によれば、適切なエッチング技術を使用することは、アルゴン圧力を低くし、クロムアンダーコートを用いずにDLCタイプの接着性積層物を生成すること−当業者および以前の技術的解決策によって広く保有されているすべてのものとは対立する成果、を可能にする。
【0045】
本発明による方法は、数多くの利点を有する。
【0046】
必要とする装置を単純化し、そのコストを低下させることのほかに、接着アンダーコートを削除することはまた、1つの界面を削除し、したがってコーティングの信頼性および堅固さを向上させる。
【0047】
行われた試験によって明らかにされたように、より効果的なエッチングを必要とするように思われる炭化タングステンとは対照的に、クロムアンダーコートは、接着性の点でもクロムアンダーコートを用いて堆積された材料と同様に働くようにするために、あるタイプのエッチングにおける欠陥をマスクする傾向があることも、やはり明らかである。
【0048】
また、2kg荷重でのビッカースインデンテーションを使用することでは、さまざまなタイプの堆積した材料の接着性における何らかの差異を明らかにすることができなかった。加えた荷重が2kg(20N)であったとはいえ、ビッカースダイアモンドによって引き起こされる変形は、例2におけるように、堆積した材料の脱離を引き起こすためには不十分であり、例2では、接着性が、それでもなお、スクラッチ試験法によって不足であることが証明されている。
図1
図2
図3
図4