(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、塗工装置には、版胴のセル内に気泡が混入すると塗工液をシート材へ転写する際に塗工ムラが生じてしまうという課題がある。
【0006】
そこで、塗工液をシート材へ転写する前にセル内の気泡を無くす必要があるが、多くの塗工装置では、版胴を回転させながら上記セルを液溜部の塗工液に浸している途中の段階で順次上記セル内の気泡と塗工液との置換が行われるものと考えられていて、上記ドクターブレードは、セル以外に付着した余分な塗工液を除去するだけのものと考えられていた。
【0007】
これに対し、本発明者等は、版胴を回転させながら上記セルを上記液溜部内の塗工液に浸している途中の段階において順次セル内の気泡と塗工液とを置換するという考え方だけではなく、セル内の気泡と塗工液との置換にドクターブレードのブレード先端周辺に位置するセルも活用できないかということに着目して研究を進めた。即ち、セルがドクターブレードのブレード先端を通過する際、或いは、通過する直前の段階でもセル内における気泡と塗工液との置換を促進できないかという観点で検討を行った。
【0008】
そして、本発明者等は、特許文献1の如きドクターブレードのブレード先端を空気層に晒すという考え方を根本的に見直し、液溜部内を循環する塗工液の流量を増やして液溜部内を塗工液で充満させ、ドクターブレードのブレード先端を液溜部内の塗工液に常時浸すということを試みた。すると、ドクターブレードのブレード先端周辺の圧力が高くなり、ドクターブレードのブレード先端周辺におけるセル内の気泡と塗工液との置換が促進されるという知見を得るに至った。
【0009】
しかし、上述の構成では、液溜部内の圧力が高くなり過ぎてしまい、版胴の外周面と液溜部開口周縁との間のシール部分から塗工液が漏れてしまうことが懸念された。また、塗工液の流量が増えることにより液溜部内及び排出通路が満たされてしまうと、サイフォン現象により、液溜部内の圧力が下がってしまい、液溜部内を高圧状態に保てず、かえってセル内の気泡と塗工液との置換を促進させることができなくなってしまうこともあった。
【0010】
つまり、本発明者等は、液溜部内を循環する塗工液の流量を単に増やして上記液溜部内の圧力を高くするだけではうまくいかないことを理解した。
【0011】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、版胴と塗工チャンバーとの間からの塗工液の液漏れを防ぎ、且つ、セル内の気泡と塗工液との置換を促進させることができ、セル内の気泡を無くして高品質なシート材への塗工が可能な塗工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明者等は、ドクターブレードのブレード先端を塗工液で浸しつつ、上述の問題を解決することについて更に研究を重ねた。そのために、ドクターブレードのブレード先端を塗工液に常時浸しつつ、液溜部内の圧力を高くし過ぎないようにする構成を突き詰めていった。その結果として、本発明は、液溜部の液面をドクターブレードのブレード先端より高い位置に維持させ、且つ、液溜部を循環する塗工液を
常時大気に開放させるようにしたことを特徴とする。
【0013】
具体的には、外周面に多数の微細なセルを有し、回転動作により上記セル内の塗工液をシート材に転写する版胴と、上記塗工液を貯溜する液溜部を有し、上記版胴の外周面の一部を上記塗工液に浸すように上記液溜部に収容配置し、上記塗工液を上記液溜部に対して流出入させる流入通路及び流出通路が上記液溜部の一端側と他端側とに離間して設けられた塗工チャンバーと、上記液溜部に貯溜された塗工液を上記流入通路及び流出通路を介して循環させる塗工液循環手段と、上記塗工チャンバーの流入通路側に設けられ、プレート先端が上記版胴の外周面に摺接して上記液溜部の版胴回転方向上流側をシールするシールプレートと、上記塗工チャンバーの流出通路側に設けられ、ブレード先端が上記版胴の外周面に摺接して上記液溜部の版胴回転方向下流側をシールするとともに、上記版胴が上記ブレード先端を通過する際に塗工液を上記セル以外に付着しないように掻き取るドクターブレードとを備えた塗工装置において、次のような解決手段を講じた。
【0014】
すなわち、第1の発明では、上記塗工液循環手段は、上記ドクターブレードのブレード先端と上記版胴の外周面との摺接箇所が上記液溜部内の塗工液に常時浸されるように塗工液を循環させ、且つ、上記液溜部を循環する塗工液を上記ドクターブレードのブレード先端よりも上方の位置において
常時大気に開放さ
せていることを特徴とする。
【0015】
第2の発明では、第1の発明において、上記流出通路は、上記液溜部の上側に設けられ、且つ、上下方向に延び、上記流出通路の上端開口には、上記液溜部の塗工液を排出する排出配管が接続され、該排出配管における上記
流出通路との接続部分寄りの位置には、上記排出配管の内部と外部とを連通させて上記液溜部を循環する塗工液を
常時大気に開放させる連通部が形成されていることを特徴とする。
【0016】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、上記塗工液循環手段は、上記液溜部の全領域が満たされるように塗工液を循環させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1又は第2の発明では、液溜部の塗工液に常時浸されるドクターブレードに向かって液溜部内の塗工液が版胴の回転に連れ回されて流れるので、液溜部の塗工液の圧力分布がドクターブレード先端周辺で最も高くなり、セルがブレード先端を通過する際に、万が一セル内に気泡が含まれていたとしても、ドクターブレード周辺の高圧状態の塗工液とセルに含まれる気泡とが効果的に置換されるようになり、塗工液のシート材への転写の際に塗工ムラを防ぐことができる。また、液溜部の塗工液は
常時大気に開放されているので、液溜部内を循環させる塗工液の流量を増やしても液溜部内の全体の圧力が高くなり過ぎるといった事態が起こらず、版胴の外周面と液溜部開口周縁との間のシール部分から塗工液が漏れるのを防ぐとともに、サイフォン現象の発生を防いでドクターブレードのブレード先端周辺を高圧状態に保つことができ、気泡と塗工液との置換を促進させることができる。
【0018】
第3の発明では、液溜部に空気層がないので、装置の作動時における振動や版胴の回転による塗工液の拡散作用等によって液溜部内の塗工液の液面が波打たなくなる。したがって、塗工液の液面の波打ちによって引き起こされる塗工液内への気泡の混入を防ぎ、セル内への気泡の混入を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0021】
図1乃至
図3は、本発明の実施形態に係る塗工装置1を示す。ここで塗工とは、印刷又はコーティングを含む概念を示している。上記塗工装置1は、シート材10にグラビア印刷を行うためのものであり、外周面2aに多数の微細なセル2b(
図3にのみ示す)を有する版胴2と、該版胴2の上方から上記版胴2にシート材10を圧着させる圧胴3とを備え、上記版胴2の外周面2a及び圧胴3の外周面3aで上記シート材10を挟み込むとともに上記版胴2及び圧胴3の回転動作により上記シート材10を上記版胴2と上記圧胴3との間を移動させながらセル2b内の塗工液Lをシート材10に転写するようになっている。
【0022】
尚、
図1及び
図3は、本発明の塗工装置1の特徴部分を理解し易くするために、配管等の構成が見え易くなるように描いている。また、
図3では便宜上、セル2bを誇張して記載している。
【0023】
上記版胴2の側方には、上記版胴2の外周面2aに沿って版胴回転軸方向に延びる略直方体形状の塗工チャンバー4が配置されている。該塗工チャンバー4は、塗工液Lを貯溜する液溜部40を有し、上記塗工液Lに浸すように上記液溜部40に上記版胴2の外周面2aの一部を収容している。
【0024】
上記塗工チャンバー4の上下方向中程には、後述するドクターブレード6と同様の役割をなす板状の樹脂製インナープレート7が液溜部40の外周面2aに対向する側面から上記外周面2aに向かって下傾するように突設されていて、上記インナープレート7の先端は、上記版胴2の外周面2aに摺接するようになっている。
【0025】
上記液溜部40は、上記インナープレート7によって上下方向中程の位置で下側の第1液溜部40aと上側の第2液溜部40bとに区画されている。該第2液溜部40bの上部には、
図2に示すように、版胴回転軸方向中途部から版胴回転軸方向両端部に向かって次第に上傾しながら延びる一対の傾斜通路40cが凹設されていて、該傾斜通路40cは、当該傾斜通路40cの延出方向と交差する断面において略円弧状に上方に湾曲している。そして、上記傾斜通路40cは、平面視で版胴回転軸方向中途部に向かって先細形状をなしていて、その先端部分は、上記塗工チャンバー4の幅方向略中央に位置している。尚、上記傾斜通路40cの先端部分は、上記塗工チャンバー4の幅方向略中央に位置しているが、上記版胴2側寄りに位置していてもよいし、版胴2から離間した上記塗工チャンバー4の背面側に位置していてもよい。
【0026】
また、上記塗工チャンバー4は、上記塗工液Lを上記第1液溜部40aに流入させる流入通路(以下、第1流入通路と呼ぶ)41を上記液溜部40、即ち、上記第1液溜部40aの一端側に備え、且つ、上記塗工液Lを上記第2液溜部40bから流出させる流出通路(以下、第1流出通路と呼ぶ)42を上記液溜部40、即ち、上記第2液溜部40bの他端側に備えていて、上記第1流入通路41が下側に位置し、且つ、上記第1流出通路42が上側に位置するように配置されている。
【0027】
上記第1流入通路41は、流入口41aを有し、且つ、上記塗工チャンバー4の版胴回転軸方向中途部における背面側下端寄りに設けられていて、上記流入口41aは、上記第1液溜部40a下部に接続されている。
【0028】
一方、上記第1流出通路42は、流出口42aを有し、且つ、上記塗工チャンバー4における版胴回転軸方向両端部の第2液溜部40b上部に一対設けられている。そして、上記流出口42aは、上記傾斜通路40cの版胴回転軸方向端部に接続されていて、上記シート材10の幅方向端部より外側に位置している。
【0029】
さらに、上記塗工チャンバー4における上記第1流入通路41の上方には、上記第1液溜部40aから塗工液Lを流出させる第2流出通路43が上記塗工チャンバー4における版胴回転軸方向両端部に一対設けられ、上記各第2流出通路43は、上記第1液溜部40a上部に接続する流出口43aを有している。
【0030】
また、上記第2流出通路43の上方には、上記第2液溜部40bに塗工液Lを流入させる第2流入通路44が上記塗工チャンバー4の版胴回転軸方向中途部における背面側上端寄りに設けられ、上記第2流入通路44は、上記第2液溜部40b下部に接続する流入口44aを有している。
【0031】
上記塗工チャンバー4の下部(第1流入通路41側)には、板状をなす樹脂製シールプレート5が上記液溜部40の開口下端側周縁から上方に向かって突設されていて、該シールプレート5先端が上記版胴2の外周面2aに摺接して上記第1液溜部40aの版胴回転方向上流側をシールするようになっている。
【0032】
一方、上記塗工チャンバー4の上部(第1流出通路42側)には、板状をなすステンレス製ドクターブレード6が液溜部40の開口上端側周縁から下方に向かって突設されていて、該ドクターブレード6先端が上記版胴2の外周面2aに摺接して上記第2液溜部40bの版胴回転方向下流側をシールするようになっている。
【0033】
さらに、上記塗工チャンバー4の版胴回転軸方向両端部には、一対の樹脂製サイドシール9(
図2にのみ示す)が取り付けられていて、各サイドシール9の先端が上記版胴2の外周面2aと摺接して版胴2の回転軸方向両端部をシールするようになっている。
【0034】
そして、上記シールプレート5、ドクターブレード6及びサイドシール9で上記版胴2の外周面2aと液溜部40の開口との間がシールされることにより上記液溜部40が密閉構造になっている。
【0035】
また、上記塗工装置1は、塗工液Lが溜められたタンク81と、該タンク81内の塗工液Lを上記液溜部40に供給する第1ポンプ82及び第2ポンプ83とを備えていて、上記第1ポンプ82は、上記第1流入通路41に接続された第1供給配管84を介して上記第1液溜部40aに塗工液Lを供給し、上記第2ポンプ83は、上記第2流入通路44に接続された第2供給配管85を介して上記第2液溜部40bに塗工液Lを供給している。
【0036】
一方、上記塗工装置1は、上記第1流出通路42に接続された第1排出配管86と、上記第2流出通路43に接続された第2排出配管87とを備えていて、上記第1排出配管86及び上記第2排出配管87からそれぞれ上記第2液溜部40b及び第1液溜部40a内の塗工液Lを上記タンク81に順次排出している。
【0037】
上記第1排出配管86における上記タンク81側の端部は、当該タンク81に溜められた塗工液Lに浸されていて、上記第1排出配管86の水平方向に延びる部分上部に当該第1排出配管86の内部と外部とを連通させる連通部86aが形成され、該連通部86aにより上記第2液溜部40bを循環する塗工液Lを
常時大気に開放させるようにしている。
【0038】
また、上記第2排出配管87における上記タンク81側の端部は、当該タンク81に溜められた塗工液Lに浸されていて、上記第2排出配管87の水平方向に延びる部分上部に当該第2排出配管87の内部と外部とを連通させる連通部87aが形成され、該連通部87aにより上記第1液溜部40aを循環する塗工液Lを
常時大気に開放させるようにしている。
【0039】
そして、上記タンク81、第1ポンプ82、第2ポンプ83、第1供給配管84、第2供給配管85、第1排出配管86及び第2排出配管87で塗工液循環装置(塗工液循環手段)8が構成されていて、該塗工液循環装置8は、上記ドクターブレード6のブレード先端と上記版胴2の外周面2aとの摺接箇所が上記第2液溜部40b内の塗工液Lに常時浸されるように、且つ、インナープレート7のプレート先端と上記版胴2の外周面2aとの摺接箇所が上記第1液溜部40a内の塗工液Lに常時浸されるように、上記第1液溜部40a及び第2液溜部40bに貯留された塗工液Lを上記第1流入通路41、第1流出通路42、第2流入通路44及び第2流出通路43を介して循環させている。
【0040】
したがって、第1液溜部40a及び第2液溜部40bの塗工液Lは
常時大気に開放されているので、第1液溜部40a及び第2液溜部40b内を循環させる塗工液Lの流量を増やしても第1液溜部40a及び第2液溜部40b内の全体の圧力が高くなり過ぎるといった事態が起こらず、版胴2の外周面2aと第1液溜部40a及び第2液溜部40bの開口周縁との間のシール部分から塗工液Lが漏れるのを防ぐとともに、サイフォン現象の発生を防いでドクターブレード6のブレード先端周辺及びインナープレート7のプレート先端周辺を高圧状態に保つことができ、気泡と塗工液Lとの置換を促進させることができる。
【0041】
また、上記第1排出配管86及び第2排出配管87におけるタンク81側の端部を当該タンク81内の塗工液Lに浸しているので、塗工液Lが第1排出配管86及び第2排出配管87におけるタンク81側の端部からタンク81内の塗工液Lの液面に落下する際に引き起こされる気泡の巻き込みを防ぐことができる。
【0042】
また、上記塗工液循環装置8は、上記第2液溜部40bの全領域が満たされるように塗工液Lを循環させていて、上記第2液溜部40bを循環する塗工液Lの液面L1は、上記ドクターブレード6のブレード先端より上方の上記第1排出配管86の水平方向に延びる部分に位置している。
【0043】
さらに、上記塗工液循環装置8は、上記第1液溜部40aの全領域が満たされるように塗工液Lを循環させていて、上記第1液溜部40aを循環する塗工液Lの液面L2は、上記インナープレート7のプレート先端より上方の上記第2排出配管87の水平方向に延びる部分に位置している。
【0044】
したがって、第1液溜部40a及び第2液溜部40bに空気層がなく、塗工装置1の作動時における振動や版胴2の回転による塗工液Lの拡散作用等によって液溜部40内の塗工液Lの液面が波打たなくなるので、塗工液Lの液面の波打ちによって引き起こされる塗工液L内への気泡の混入を防ぎ、セル2b内への気泡の混入を防ぐことができる。
【0045】
そして、上記塗工液循環装置8が上記第1液溜部40a及び第2液溜部40bに貯溜された塗工液Lを循環させている状態で上記版胴2を回転させると、上記インナープレート7のプレート先端が上記版胴2の外周面2aに摺接して、上記版胴2が上記インナープレート7のプレート先端を通過する際に、第1液溜部40aで付着した塗工液Lを上記セル2b以外に付着しないように掻き取り、且つ、上記ドクターブレード6のブレード先端が上記版胴2の外周面2aに摺接して、上記版胴2が上記ドクターブレード6のブレード先端を通過する際に、第2液溜部40bで付着した塗工液Lを上記セル2b以外に付着しないように掻き取るようになっている。
【0046】
次に、塗工装置1内の塗工液Lの流れについて説明する。
【0047】
まず、上記塗工液循環装置8の第1ポンプ82及び第2ポンプ83を作動させ、且つ、上記版胴2を回転させる。
【0048】
すると、
図1及び
図3に示すように、上記タンク81の塗工液Lは、まず、第1ポンプ82によって汲み上げられて第1供給配管84及び第1流入通路41を通って第1液溜部40aに流入する。このとき、上記第1ポンプ82は、第1液溜部40aの全領域が満たされるように塗工液Lを供給する。
【0049】
上記第1液溜部40aに流入した塗工液Lは、矢印X1のように外周面2aに沿うように上方に進路を変え、版胴2の回転に連れ回されてインナープレート7に向かって流れる。このように、第1液溜部40aの塗工液Lに常時浸されるインナープレート7に向かって第1液溜部40a内の塗工液Lが版胴2の回転に連れ回されて流れるので、第1液溜部40aの塗工液Lの圧力分布はインナープレート7先端周辺A部で最も高くなる。したがって、セル2bがインナープレート7のプレート先端を通過する際に、セル2b内に気泡が含まれていたとしても、A部周辺の高圧状態の塗工液Lとセル2bに含まれる気泡とが効果的に置換されるようになり、塗工液Lのシート材10への転写の際に塗工ムラを防ぐことができる。
【0050】
そして、矢印X1のように上記第1液溜部40aを上方に向かって流れる塗工液Lは、矢印X2のように上記インナープレート7に沿って流れることで上記第2流出通路43に向かって進路を変え、上記第2排出配管87を通って上記タンク81に戻る。
【0051】
次いで、上記タンク81の塗工液Lは、第2ポンプ83によって汲み上げられて第2供給配管85及び第2流入通路44を通って第2液溜部40bに流入する。このとき、上記第2ポンプ83は、第2液溜部40bの全領域が満たされるように塗工液Lを供給する。
【0052】
上記第2液溜部40bに流入した塗工液Lは、矢印Y1のように上記版胴2の外周面2aに接触しつつ外周面2aに沿って上方に進路を変え、版胴2の回転に連れ回されてドクターブレード6に向かって流れる。このように、第2液溜部40bの塗工液Lに常時浸されるドクターブレード6に向かって第2液溜部40b内の塗工液Lが版胴2の回転に連れ回されて流れるので、第2液溜部40bの塗工液Lの圧力分布はドクターブレード6先端周辺B部で最も高くなる。したがって、セル2bがドクターブレード6のブレード先端を通過する際に、万が一セル2b内に気泡が含まれていたとしても、B部周辺の高圧状態の塗工液Lとセル2bに含まれる気泡とが効果的に置換されるようになり、塗工液Lのシート材10への転写の際に塗工ムラを防ぐことができる。
【0053】
上記ドクターブレード6に向かって流れる塗工液Lは、矢印Y2のように上記第2液溜部40bの上面に沿って版胴2から離れる方向に進路を変えて流れるとともに、第2液溜部40bの側面に沿って下向きに流れる矢印Y3の流れと、第2液溜部40bの側面に沿って上向きに流れる矢印Y4の流れとに分かれる。
【0054】
矢印Y3のように流れる塗工液Lは、矢印Y1の流れに合流して再びドクターブレード6に向かって流れる。
【0055】
一方、矢印Y4のように流れる塗工液Lは、傾斜通路40cの湾曲面に沿って円弧軌道を描きつつ、
図2に示す矢印Y5のように、傾斜通路40cに案内されて第1流出通路42の流出口42aに向かって移動する。したがって、第2液溜部40b上部の塗工液Lが傾斜通路40cに案内されて流出口42aに向かって流れるようになり、それに伴って第2液溜部40b上部に溜まる気泡が上記傾斜通路40cに案内される塗工液Lとともに流出口42aに向かって移動するので、第2液溜部40b上部に溜まる気泡を上記液溜部40上部に溜めることなく効率良く第1流出通路42から排出することができる。
【0056】
また、第2液溜部40b上部の塗工液Lが、傾斜通路40cの湾曲面に沿って円弧軌道を描きつつ流出口42aに向かって移動するようになるので、塗工液Lの傾斜通路40c内を移動する流れがスムーズになり、第2液溜部40b上部に溜まる気泡を効率良く第1流出通路42まで導くことができる。
【0057】
さらに、矢印Y4の塗工液Lの略円弧状の流れは、矢印Y2、Y3の塗工液Lの流れに合流し難く、一旦気泡が矢印Y4の塗工液Lの流れに乗ると、その気泡は矢印Y2、Y3の塗工液Lの流れに乗り難くなるので、傾斜通路40cに位置する気泡を再び第2液溜部40b内のセル2b近傍に向かうことを防ぐことができる。
【0058】
そして、第1流出通路42の傾斜通路40cへの接続部分に到達した塗工液Lは、矢印Y6のように上記第1流出通路42及び第1排出配管86に沿って流れて上記タンク81に戻る。上記各流出口42aは、上記シート材10の幅方向端部より外側に位置しているので、塗工液Lの流れが乱れ易い流出口42a周辺が版胴2の外周面2aにおけるシート材10に対応する部分から外れるようになる。したがって、乱れのない塗工液Lを付着させた版胴2の外周面2aにおいてシート材10への塗工ができるようになり、シート材10への塗工を安定させることができる。
【0059】
尚、本発明の実施形態では、傾斜通路40cが版胴回転軸方向中途部から版胴回転軸方向両端部に向かって一対設けられているが、少なくとも一方に向かって設けられていればよい。
【0060】
また、本発明の実施形態では、傾斜通路40cに接続する流出口42aを一対設け、第1液溜部40aに接続する流出口43aを一対設けているが、1つ以上設けるようにすればよい。さらに、上記流入口41a、44aを1つずつ設けているが、それぞれ複数設けるようにしてもよい。
【0061】
また、上記シールプレート5及びインナープレート7は樹脂製のものを使用したが、その他の材質のものでもよく、例えば、ステンレス製やゴム製のものを用いてもよい。また、金属にセラミックコートを施したものを用いてもよい。
【0062】
また、上記ドクターブレード6は、ステンレス製のものを使用したが、その他の材質のものでもよく、例えば、鉄製、樹脂製及びゴム製のものを用いてもよい。また、金属にセラミックコートを施したものを用いてもよい。
【0063】
さらに、上記インナープレート7は、上記シールプレート5及びドクターブレード6より柔らかい材質のものを用いるのが好ましい。これにより、上記インナープレート7の版胴2に圧接する反力でシールプレート5、ドクターブレード6と版胴2との間が広がり、シール性が低下してしまうといったことを防ぐことができる。
【0064】
また、本発明の実施形態では、第2液溜部40bの塗工液Lを連通部86aにより大気に
常時開放させているが、その他の箇所で
常時大気に開放させるようにしてもよく、例えば、第1排出配管86におけるタンク81側の端部を当該タンク81内の塗工液Lに浸さないようにしてもよいし、塗工チャンバー4上部に開口を設け、且つ、上記流出口42aを上記第2液溜部40bの側方から接続するようにして第2液溜部40b内の塗工液Lを大気開放させてもよい。
【0065】
また、本発明の実施形態では、第1液溜部40aの塗工液Lを連通部87aにより
常時大気に開放させているが、その他の箇所で
常時大気に開放させるようにしてもよく、例えば、第2排出配管87におけるタンク81側の端部を当該タンク81内の塗工液Lに浸さないようにしてもよい。
【0066】
また、本発明の実施形態では、流出口42aが傾斜通路40cの上方から接続されているが、傾斜通路40cの側方から接続されるような構造であってもよい。
【0067】
また、本発明の実施形態では、第2ポンプ83を設けているが、当該第2ポンプ83がない構造とし、第1供給配管84を分岐させて第1流入通路41及び第2流入通路44に接続するようにしてもよい。
【0068】
また、本発明の実施形態では、インナープレート7を設けているが、当該インナープレート7がない構造としてもよい。そして、それに伴って、第2流入通路44、第2流出通路43、第2供給配管85、第2排出配管87及び第2ポンプ83を省略してもよい。
【0069】
また、本発明の実施形態では、1つのタンク81から塗工液Lを液溜部40に供給しているが、第1ポンプ82と第2ポンプ83とにそれぞれ対応するタンクを2つ用意してもよい。
【0070】
また、本発明の実施形態では、版胴2がシート材10の移動方向に沿って回転するタイプについて説明したが、版胴2がシート材10の移動方向に対して逆方向に回転するタイプについても適用できる。さらには、圧胴3がない構造の塗工装置1であっても適用できる。
【0071】
尚、本発明の実施形態では、上記版胴2の外径が30mm〜250mm、幅が100mm〜3000mmのものを想定しているが、それ以外の寸法であってもよい。
【0072】
また、本発明の実施形態では、上記塗工チャンバー4の幅が160mm〜3000mm、高さが100mm〜400mm、奥行きが40mm〜80mm、上面の傾斜角度が0°〜10°のものを想定しているが、それ以外の寸法であってもよい。特に、塗工チャンバー4の上面の傾斜角度は、0.2°〜3.6°が好ましい。