【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、構造内にシアノ基を有しないタイプIのピレスロイド化合物については、例えば特許文献4、5においてかかるピレスロイド化合物を用いた匍匐害虫防除用粉剤が開示されている。
【0008】
しかしながら、これらの匍匐害虫防除用粉剤は、防除成分として構造内にシアノ基を有しないピレスロイド化合物を用いているものであるが、以下のような問題点がある。まず、特許文献4に記載の害虫防除剤は、害虫と殺虫剤との接触効率を向上させたり、等脚類を石下から這い出させたりすることを特徴とする防除剤であることから、かかる効果を発現させるためのウインターグリーン油などの行動撹乱剤を必須成分として配合しなければならないものとなっている(特許文献4の[請求項1]、[0003]参照)。また、特許文献5に記載の有害生物防除剤は、球状の内部固形剤の表面に、粒状の外部固形剤が付着している複雑な構造となっていることから、製造工程も複雑になり、コストも高くなってしまうという問題がある。
【0009】
今回、本発明者らは、ポリアルキレングリコールやソルビタン脂肪酸エステルを用いることによって、構造内にシアノ基を有しないタイプIのピレスロイド化合物の中でもフェノキシベンジルエステル化合物(特に、フェノトリン、ペルメトリン)を用いて匍匐害虫防除用粉剤を作製することができるという知見を得た。また、かかる匍匐害虫防除用粉剤は、従前のような複雑な構造や他の必須成分を必要とすることなく、極めて高い防除効果を発現するという知見を得た。
【0010】
すなわち本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、α位にシアノ基を有しないフェノキシベンジルエステル化合物を用い、かつ簡単な構造でありながら、従来と同等の防除効果を発現する匍匐害虫防除用粉剤の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る匍匐害虫防除用粉剤は、α位にシアノ基を有しないフェノキシベンジルエステル化合物であるフェノトリンと、
重量平均分子量が200のポリ
プロピレングリコールとを、鉱物質担体に担持させてなる匍匐害虫防除用粉剤であり、フェノトリンの配合量が粉剤に対して0.3〜2.0重量%であり、ポリ
プロピレングリコールの配合量が粉剤に対して
1.0〜4.0重量%であり、ポリ
プロピレングリコールの配合量が、フェノトリンの配合量の0.5〜13倍量であることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る匍匐害虫防除用粉剤は、ポリアルキレングリコールとして、重量平均分子量が100〜500のものを用いることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る匍匐害虫防除用粉剤は、ポリアルキレングリコールが、ポリプロピレングリコールであることを特徴とする。
【0018】
次に、本発明に係る匍匐害虫防除用粉剤を構成する各構成要件を説明する。
【0019】
(フェノキシベンジルエステル化合物)
まず、本発明に用いられるフェノキシベンジルエステル化合物は、α位にシアノ基を有しないタイプIのピレスロイド化合物であり、具体的にはフェノトリン、ペルメトリンやこれらの各種の異性体が挙げられる。そしてこれらの中でもより高い防除効果が得られることから、フェノトリン、ペルメトリンから選ばれる1種または2種の化合物を用いることが好ましく、さらにその中でもフェノトリンを用いることが好ましい。
【0020】
フェノキシベンジルエステル化合物の配合量としては、使用される環境や防除対象とする害虫などによって適宜決定されるものであるが、本発明に係る匍匐害虫防除用粉剤に対して0.1〜3.0重量%とすることが好ましく、0.3〜2.0重量%とすることがより好ましい。配合量が0.1未満の場合には防除性能の向上が十分に発現しない恐れがあり、3.0重量%を超える場合には防除性能の向上によるメリットは望めず、逆にコスト面によるデメリットの方が大きくなる恐れがある。
また、後記するポリアルキレングリコールやソルビタン脂肪酸エステルとの配合比率の関係からは、3.0重量%を超えるとフェノキシベンジルエステル化合物に対するこれらの溶剤の配合量も多くなることになり、粉体状に成形することが困難となる恐れがある。
【0021】
(ポリアルキレングリコールおよび/またはソルビタン脂肪酸エステル)
次に、本発明の匍匐害虫防除用粉剤は、上記したフェノキシベンジルエステル化合物をポリアルキレングリコールおよび/またはソルビタン脂肪酸エステルを溶剤として担体に保持させることを特徴とするものである。このように、様々な溶剤の中でもポリアルキレングリコールやソルビタン脂肪酸エステルを用いなければ、構造内にシアノ基を有しないタイプIのフェノキシベンジルエステル化合物を用いながら従前と同等の防除効果を発現する特徴を有する、本発明の匍匐害虫防除用粉剤は作製することができないのである。
【0022】
(ポリアルキレングリコール)
ここで、ポリアルキレングリコールはHO(RCHCH
2O)
nHの構造式(Rは水素原子または炭素数1〜3の炭化水素)で表されるものであり、具体的には、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。なお、ポリアルキレングリコールにあまりにも分子量が高いものを使用すると匍匐害虫が匍匐害虫防除用粉剤に接触した際に防除成分が害虫に付着しづらくなる恐れがあることから、これらの中でも重量平均分子量が100〜500のポリプロピレングリコールまたはポリブチレングリコールを用いることが好ましく、さらにその中でも重量平均分子量が200のポリプロピレングリコールを用いることが好ましい。
【0023】
(ソルビタン脂肪酸エステル)
また、ソルビタン脂肪酸エステルとしては、具体的にはソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンセスキオレエートなどが挙げられる。なお、ソルビタン脂肪酸エステルについてもポリアルキレングリコールと同様に、あまりにも分子量が高いものを使用すると匍匐害虫が匍匐害虫防除用粉剤に接触した際に防除成分が害虫に付着しづらくなる恐れがあることから、これらの中でもソルビタンモノオレエートを用いることが好ましい。
【0024】
また、本発明においては、ポリアルキレングリコールやソルビタン脂肪酸エステルに替えてラウリン酸ジエタノールアミドなどを用いることもできる。
【0025】
(ポリアルキレングリコールおよび/またはソルビタン脂肪酸エステルの配合量、フェノキシベンジルエステル化合物に対する配合比率)
ポリアルキレングリコールやソルビタン脂肪酸エステルの配合量としては、使用される環境や防除対象とする害虫などによって適宜決定されるものであるが、本発明に係る匍匐害虫防除用粉剤に対して0.5〜5.0重量%とすることが好ましく、1.0〜4.0重量%とすることが好ましい。配合量が0.5未満の場合には防除性能の向上効果が十分に発現しない恐れがあり、5.0重量%を超える場合には粉体状に調製することができなくなる恐れがあるからである。
【0026】
また、ポリアルキレングリコールやソルビタン脂肪酸エステルの配合量については、上記の配合量に加えてポリアルキレングリコールおよび/またはソルビタン脂肪酸エステルの配合量(配合比率)が、フェノキシベンジルエステル化合物の配合量の0.5〜13倍量であることが好ましく、3〜6倍量であることがより好ましい。配合比率が0.5倍量未満の場合や13倍量を超える場合には、固体状のフェノキシベンジルエステル化合物を使用する場合において、かかるフェノキシベンジルエステル化合物が溶解せず、後記する鉱物質担体に防除成分を均一に担持させることができなくなったり、粉体状に調製することが困難になったりする恐れがあるからである。
【0027】
なお、ポリアルキレングリコールの粘度については特に限定されるものではなく、防除対象とする害虫に応じて適宜設定することができるが、あまりにも高粘度や低粘度のものを使用すると粉体状に成形することが困難になったり、匍匐害虫が匍匐害虫防除用粉剤に接触した際に防除成分が害虫に付着しづらくなったりする恐れがあることから、25℃において5〜100mPa・sであることが好ましい。
【0028】
(鉱物質担体)
本発明に用いられる鉱物質担体としては、カオリン、クレー、タルク、ベントナイト、ゼオライト、ジークライト、カープレックスなどを挙げることができる。
【0029】
なお、上記した構成要件以外にも、必要に応じてアレスリン、プラレトリン、フタルスリン、エトフェンプロックスなどのピレスロイド化合物、フェニトロチオン、ダイアジノン、プロパホスなどの有機リン剤、プロポクスル、メトキシジアゾンなどのカーバメート剤、シラフルオフェンなどの有機ケイ素系殺虫剤、カルタップ、ブプロフェジンなどの殺虫剤、殺ダニ剤、殺菌剤、昆虫成虫かく乱剤、その他の活性成分、種々の界面活性剤、分散剤、PAPなどの流動性改良剤、殺虫成分の安定剤、補助溶剤などを配合することができる。さらに、シナモンパウダー、レモングラスパウダーなど各種パウダー類を添加することもできる。
【0030】
本発明の匍匐害虫防除用粉剤の製造方法としては公知の方法を用いることができる。例えば、ポリアルキレングリコールやソルビタン脂肪酸エステルに本発明に用いるフェノキシベンジルエステル化合物を混合して溶液とし、まず半量程度の鉱物質担体にこの溶液を配合して倍散した後、残りの鉱物質担体を配合することで製造する方法などが挙げられる。
【0031】
そして、こうして得られた本発明の匍匐害虫防除用粉剤は、屋内もしくは屋外において、1m
2当たり1〜100g、より好ましくは5〜50g散布することによって各種の衛生害虫、不快害虫や農業害虫に優れた防除効果を発揮する。なお、衛生害虫としてはゴキブリ、ノミ、イエダニ、屋内塵性ダニ類、その他の各種のダニ類、トコジラミ(ナンキンムシ)、マダニなど、不快害虫としてはダンゴムシ、ワラジムシ、ムカデ、ヤスデ、ケムシ、ゲジゲジ、アリ、シバンムシなど、農業害虫としてはツマグロヨコバイ、ウンカ類、コブノメイガ、カメムシ類などが例示される。