(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
顕微鏡写真における、前記結合相全体の総面積比に対する前記第1結合相の総面積比S1と前記第2結合相の総面積比S2との合計の比が0.9以上であり、かつ前記総面積比S2と前記総面積比S1との比(S2/S1)が0.2〜1.5である請求項1記載のサーメット。
顕微鏡写真における、前記第1結合相それぞれの平均面積比s1と前記第2結合相それぞれの平均面積比s2との比(s2/s1)が1.0〜3.0である請求項1または2記載のサーメット。
前記硬質相は、TiCN相と、TiとTi以外の周期表第4、5および6族金属のうちの1種以上との複合炭窒化物からなる固溶体相とを含む請求項1乃至3のいずれか記載のサーメット。
前記固溶体相の一部または全部がWを含有するとともに、Wを含有する前記固溶体相は、当該固溶体相中に金属元素の総量に対するWの質量比が異なる複数の微細粒子を含んでいる請求項4記載のサーメット。
前記硬質相は、TiCN相と、TiとWとを含有する複合炭窒化物からなる固溶体相とを含み、前記第2結合相のWの原子比は前記固溶体相のWの原子比よりも多く、かつ前記第1結合相のWの原子比は前記固溶体相のWの原子比と同じかまたは少ない請求項1乃至6のいずれか記載のサーメット。
炭素含有量が6.00〜8.00質量%、窒素含有量が5.00〜7.50質量%、前記窒素含有量/(前記炭素含有量+前記窒素含有量)比が0.9〜1.3である請求項1乃至9のいずれか記載のサーメット。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態のサーメットの一例について、
図1のサーメットの模式図を基に説明する。
【0012】
本実施形態のサーメット1は、少なくともTiを含む周期表第4、5および6族金属のうちの1種以上の炭窒化物からなる硬質相2と、CoおよびNiの少なくとも1種とWとを含有する結合相3と含有する。サーメット1の顕微鏡観察において、硬質相2の面積比は65〜95面積%、結合相3の面積比は5〜35面積%である。面積比は、サーメット1の顕微鏡写真から画像解析法にて算出できる。本実施態様では、硬質相2はTiを主成分とする。
【0013】
結合相3は、CoおよびNiの総量に対するWの質量比(W/(Co+Ni))が0.8以下の第1結合相4と、CoおよびNiの総量に対するWの質量比(W/(Co+Ni))が1.2以上の第2結合相5とを含有する。
第1結合相4、第2結合相5の判別は、サーメット1の顕微鏡観察にて、電子線マイクロアナライザ(EPMA)で各金属元素の分布を確認し、各位置における金属元素の比率の結果に基づいておこなう。
【0014】
ここで、第1結合相4および第2結合相5の輪郭を特定する方法について説明する。第1結合相4や第2結合相5の外形状を見たときにくびれ部がある場合、そのくびれ部の最短長さを境界として仮定し、以下のように判定する。例えば、
図1のように、第2結合相5の外形状を見たときにくびれ部がある場合、このくびれ部の最短長さdに対して、くびれ部を挟んで2つの領域に位置する第2結合層5の最長長さL
1、L
2がいずれも3倍以上あるときには、くびれ部を境界とし、この境界を挟んで2つの第2結合相5が存在すると判定する。一方、くびれ部の最細長さを挟んで隣り合う2つの領域の最長長さのどちらかが3倍未満であるときには、境界があるとはせずに2つの領域を1つと判定する。なお、
図1に、第1結合相4同士、第2結合相5同士、および第1結合相4と第2結合相5との境界を点線で示している。
また、第1結合相4と第2結合相5との境界については、CoおよびNiの総量に対するWの質量比(W/(Co+Ni))を確認して特定する。また、第1結合相4と第2結合相5との間には、いずれにも属しないその他の結合相が存在する場合がある。この場合においても第1結合相4、第2結合相5、他の結合相の境界は、CoおよびNiの総量に対するWの質量比(W/(Co+Ni))を確認して特定する。
なお、サーメット1の顕微鏡写真は、第1結合相4と第2結合相5とが存在し、かつ第1結合相4と第2結合相5とがそれぞれ3個(3箇所)以上存在する倍率で測定する。
【0015】
以上のような構成を有するサーメット1は放熱性が高い。そのため、このサーメット1を切削工具の基体として用いたときには、切削時に切刃の温度が高くなりにくく、切刃における耐摩耗性が向上する。また、第2結合相5は、WとCoとの複合炭窒化物に比べて弾性が高いので、サーメット1に衝撃がかかったときに第2結合相5が弾性変形して衝撃を吸収することができる。そのため、サーメット1の耐欠損性を高めることができる。また、第1結合相4は、硬質相2との濡れ性が高く、クラックの進展を抑制して、この点でもサーメット1の耐欠損性を高めることができる。
【0016】
また、本実施態では、顕微鏡写真における、第1結合相4の面積比W1が15〜22面積%であり、第2結合相5の面積比W2が2〜20面積%であり、W1とW2の合計が17〜35面積%である。測定は任意3箇所以上とし、その平均値で評価する。
【0017】
さらに、本実施形態では、結合相3全体の総面積比に対する第1結合相4の総面積比S1(以下、S1とだけ示すことがある。)と第2結合相5の総面積比S2(以下、S2とだけ示すことがある。)との合計の比が0.9以上である。すなわち、結合相3の大部分は、第1結合相4と第2結合相5とからなり、その他の結合相は結合相3全体に対する面積比が0.1未満で存在してもよい。第1結合相4または第2結合相5でないその他の結合相は、CoおよびNiの総量に対するWの質量比(W/(Co+Ni))が、0.8<(W/(Co+Ni))<1.2であるが、第1結合相4と第2結合相5との間や、結合相3(第1結合相4または第2結合相5)の硬質相2との界面付近に存在する場合がある。なお、
図1では、その他の結合相が存在しない組織を示している。
【0018】
また、S2とS1との比(S2/S1)は0.2〜1.5である。これによって、サーメット1の耐摩耗性および耐欠損性をともに高めることができる。S2とS1との比(S2/S1)の特に望ましい範囲は、0.3〜1.2である。
【0019】
なお、第1結合相4の総面積比S1とは、顕微鏡写真における各第1結合相4の面積比の総和である。第2結合相5の総面積比S2も同様に各第2結合相5の面積比の総和である。結合相3全体の総面積比も同様に結合相3を構成する全ての結合相の面積比の総和である。
【0020】
またさらに、本実施態様では、第1結合相の平均面積比s1と第2結合相の平均面積比s2との比(s2/s1)が、1.0〜3.0である。これによって、サーメット1の放熱性が高く、かつサーメット1に圧縮応力が生じて、サーメット1の耐摩耗性を高めることができる。比(s2/s1)の特に望ましい範囲は、1.2〜1.7である。
【0021】
平均面積比s1は顕微鏡写真中に存在する各第1結合相4の面積比の平均値であり、平均面積比s2は顕微鏡写真中に存在する各第2結合相5の面積比の平均値であるが、画像解析法によって測定される。
【0022】
硬質相2は、TiCN相2aと、TiとTi以外の周期表第4、5および6族金属のうちの1種以上との複合炭窒化物からなる固溶体相2bとを含有する。この構造によって、硬質相2の靭性が向上して、耐摩耗性を低下させずに耐欠損性を向上させることができる。また、その一部は、TiCN相2aからなる芯部を固溶体相2bからなる周辺部で取り囲んだ有芯構造をなしていてもよい。また、
図1に見られる硬質相2以外の硬質相として、例えば、Tiを含有しない硬質相や、周期表第4、5および6族金属のうちの1種以上の炭化物や窒化物からなる硬質相等のその他の硬質相が存在してもよいが、顕微鏡写真において、硬質相全体の面積比に対するその他の硬質相の面積比は、合計で10面積%以下である。本実施形態では、走査型電子顕微鏡(SEM)観察における電子線マイクロアナライザ(EPMA)分析にて、周期表第4、5および6族金属の分布を確認し、TiとTi以外の周期表第4、5および6族金属が観察されたものを複合炭窒化物からなる固溶体相2bと認定する。
【0023】
本実施形態では、硬質相2は、TiCN相2aと、TiとWとを含有する複合炭窒化物からなる固溶体相2bとを含むが、第2結合相5のWの原子比は固溶体相2bのWの原子比よりも多く、かつ第1結合相4のWの原子比は固溶体相2bのWの原子比と同じかまたは少ない。
【0024】
ここで、固溶体相2bおよび第2結合相5のWの原子比は、サーメット1の顕微鏡観察にて、電子線マイクロアナライザ(EPMA)で各金属元素の分布を確認し、固溶体相2bおよび第2結合相5の組成をそれぞれ求めた上で、金属元素総量に対するW元素の原子比を算出することによって測定することができる。測定は任意3箇所以上とし、その平均値で評価する。
【0025】
上記構成によって、第2結合相5の高温硬度が高いので、サーメット1を切削工具の基体として用いた時には、切削時に高温となる切刃における耐摩耗性が向上する。また、第2結合相5は、WとCoとの複合炭窒化物に比べて弾性が高いので、サーメット1に衝撃がかかったときに第2結合相5が弾性変形して衝撃を吸収することができる。そのため、サーメット1の耐欠損性を高めることができる。また、第1結合相4は、硬質相2との濡れ性が高く、クラックの進展を抑制して、この点でもサーメット1の耐欠損性を高めることができる。
【0026】
サーメット1は、高温における強度が高く、例えば、800℃における3点曲げ強度が1700MPa以上である場合には、切削工具の基体として用いた時には、切削時に高温となる切刃における耐摩耗性が向上する。
【0027】
また、800℃における3点曲げ強度が、室温(25℃)における3点曲げ強度に対して65%以上である場合にも、切削工具の基体として用いた時には、切削時に高温となる切刃における耐摩耗性が向上する。
【0028】
ここで、室温および800℃における3点曲げ強度は、ISO14704(JISR1601)およびISO17565(JISR1604)に準じて測定する。なお、試料の形状が、所定の試験片のサイズを作製するのに満たない場合には、試験片の寸法比は維持した状態で、試験片のサイズを小さくして測定する。このとき、試験片のサイズが小さくなると3点曲げ強度が高くなる傾向がある。そのために、サーメット1と類似する材料で、ISO14704およびISO17565に準じたサイズの試験片と、サーメット1のサイズの試験片の両方を作製し、両方の試験片で3点曲げ強度を測定し、両方の試験片の3点曲げ強度の比から、サーメット1のISO14704およびISO17565に準じたサイズでの3点曲げ強度の絶対値を見積もることができる。
【0029】
また、固溶体相2bの外周部のうち第2結合相5と隣接する領域におけるTiの原子比が、当該固溶体相2bのTiの原子比の平均値に比べて高い部位が存在する。これによって、固溶体相2bに圧縮応力を付与することができ、サーメット1の靭性がさらに向上する。
【0030】
ここで、固溶体相2bの外周部のうち第2結合相5と隣接する領域におけるTiの原子比は、固溶体相2bの外周端のうちの第2結合相5と隣接する任意の位置から固溶体相2b内に引ける最も長い直線を引き、前記任意の位置から前記直線の長さの10%の長さ位置(深さ)におけるTiの原子比と定義する。なお、固溶体相2bは、外周部のうちの第2結合相5と隣接するすべての領域で、固溶体相2bのTiの原子比の平均値よりもTiの原子比が高くなる必要はない。また、外周部のうち第2結合相5と隣接する領域におけるTiの原子比が、当該固溶体相2bのTiの原子比の平均値に比べて高い部位が存在する固溶体相2bは、任意の50μm四方における領域内に少なくとも1つあればよい。
【0031】
なお、固溶体相2bの外周部のうち第1結合相4と隣接する部位におけるTiの原子比も、当該固溶体相2bのTiの原子比の平均値に比べて高くなっていてもよい。
【0032】
さらに、TiCN相2aの外周部のうちの第2結合相5と隣接する領域におけるTiの原子比が、当該TiCN相2aの中心におけるTiの原子比に比べて低くなる部位が存在する。これによって、第2結合相5とTiCN相2aとの密着性が向上し、サーメット1の強度がさらに向上する。
【0033】
ここで、TiCN相2aの外周部のうち第2結合相5と隣接する領域におけるTiの原子比は、TiCN相2aの外周端のうちの第2結合相5と隣接する任意の位置からTiCN相2a内に引ける最も長い直線を引き、前記任意の位置から前記直線の長さの10%の長さ位置(深さ)におけるTiの原子比と定義する。なお、TiCN相2aは、の外周部のうちの第2結合相5と隣接するすべての領域で、TiCN相2aの中心よりもTiの原子比が低くなる必要はない。また、外周部のうちの第2結合相5と隣接する領域におけるTiの原子比が、当該TiCN相2aの中心におけるTiの原子比に比べて低くなる部位が存在するTiCN相2aは、任意の50μm四方における領域内に少なくとも1つのTiCN相2aは上記組成であればよい。
【0034】
なお、第2結合相5と隣接するTiCN相2aのTiの原子比が、外周部に向かって低くなっており、第1結合相4と隣接するTiCN相2aのTiの原子比も、外周部に向かって低くなっていてもよい。
【0035】
固溶体相2b中の各元素の原子比の平均値は、以下の方法で測定する。まず、固溶体相2bの中心を決める。固溶体相2bの中心は、固溶体相2b中に引ける最も長い線分の中間位置とする。この固溶体相2bの中心を通って、固溶体相2bの両外周端まで達する直線を引き、この直線上のWおよびTiの分布状態をEPMAによって測定する。この直線上のWおよびTiの原子比の平均値を、固溶体相2bのWおよびTiの原子比の平均値とする。
本実施態では、TiCN相2aの平均粒径daは0.05〜0.5μmであり、固溶体相2bの平均粒径d
bが0.5〜2μmでTiCN相2aの平均粒径d
aよりも大きい。粒径比(d
b/d
a)は3.0〜10である。これによって、サーメットの耐摩耗性を低下させずに耐欠損性を向上させることができる。顕微鏡写真におけるTiCN相2aの面積比Saは、視野全体に対する面積比で20〜35面積%であり、固溶体相2bの面積比Sbは、視野全体に対する面積比で35〜50面積%である。この範囲であれば、サーメット1の耐摩耗性を低下させることなく、耐欠損性を高めることができる。
【0036】
ここで、
図1の模式図のうち、固溶体相2bの1つを拡大した模式図を
図2に示す。本実施態では、固溶体相2bがWを含有するとともに、Wを含有する固溶体相2bは、当該固溶体相2b中に金属元素の総量に対するWの質量比が異なる複数の微細粒子を含んでいる構造であってもよい。この微細粒子を内部に含有する固溶体相2bは、顕微鏡観察において、固溶体相2bを構成する金属元素の分布状態を確認することによって確認できる。この構成によって、サーメット1中により大きな圧縮応力を付与することができて、サーメット1の耐欠損性を高めることができる。固溶体相2b全体に対し、微細粒子の集合体からなる固溶体相2bの面積比の望ましい範囲は、50〜100面積%である。
【0037】
なお、硬質相2、結合相3の特定は、電子線マイクロアナライザ(EPMA)またはオージェ分析にて各元素の分布状態および含有比を確認することによって判別できる。また、硬質相2の粒径の測定は、CIS−019D−2005に規定された超硬合金の平均粒径の測定方法に準じて測定する。この時、有芯構造をなす固溶体相2bの粒径は、芯部を構成するTiCN相2aの存在を無視して算出する。
【0038】
本実施態様では、サーメット1中の炭素含有量が6.00質量%〜8.00質量%である。この範囲であれば、サーメット1の耐摩耗性および耐欠損性がともに高い。サーメット1中の炭素含有量は、サーメット1の表面にサーメット1の内部とは異なる組成の変質相が存在する可能性もあるので、サーメット1の表面から500μm以上研磨除去した組織の一部を粉末にして炭素分析によって測定できる。炭素含有量の特に好適な範囲は6.00質量%〜7.50質量%であり、特に望ましい範囲は6.50質量%〜7.00質量%である。この範囲であれば、サーメット1の耐摩耗性をさらに高くできる。また、サーメット1中の窒素含有量は5.0質量%〜7.5質量%である。窒素含有量の望ましい範囲は、6.2質量%〜7.2質量%である。サーメット1中の窒素含有量は、炭素含有量の分析法と同じ方法で分析できる。窒素含有量/(炭素含有量+窒素含有量)の比であるCN比の望ましい範囲は、0.42〜0.53である。この範囲であれば、サーメット1の耐欠損性と耐摩耗性のバランスがよい。
【0039】
また、本実施形態では、サーメット1に含有される金属元素の総量に対する各金属元素の含有量は、Tiが30〜55質量%、Wが10〜30質量%、Nbが0〜20質量%、Moが0〜10質量%、Taが0〜10質量%、Vが0〜5質量%、Zrが0〜5質量%、Coが5〜25質量%、Niが0〜15質量%の比率からなる。この組成範囲であれば、サーメット1は耐摩耗性および耐欠損性の高いものとなる。
サーメット1は、さらにMn成分を含有するものであってもよい。これによって、硬質相2の粒成長を抑制する効果があり、サーメット1の硬度および強度が向上する。原料として添加されるMn成分の一部は焼成中に揮発してもよく、サーメット1中に含有されるMn含有量は原料中に添加されるMn成分の含有量よりも少ない。サーメット1に含有される金属元素の総量に対するMn含有量は0.01質量%〜0.5質量%である。
Mn成分は、サーメット1において、硬質相2よりも第2結合相5中に多く含有される場合には、硬質相2の粒成長を抑制する効果がある。また、硬質相2中に含有されるMn含有量と第1結合相4中に含有されるMn含有量との比は0.7〜1.5である。
【0040】
固溶体相2b、第1結合相4および第2結合相5中のMnの原子比は、サーメット1の顕微鏡観察にて、電子線マイクロアナライザ(EPMA)で各金属元素の分布を確認し、固溶体相2bおよび第2結合相5の平均の組成をそれぞれ求めた上で、金属元素総量に対するMn元素の原子比を算出することによって測定することができる。
【0041】
本実施形態の切削工具は、上記サーメットを基体とするものであり、サーメットの放熱性が高く、耐衝撃性が高く、かつ耐欠損性が高いものであることから、切削工具として耐摩耗性および耐欠損性の高いものとなる。なお、切削工具は、上述したサーメットを基体とし、その表面に、TiN層やTiAlN層等の被覆層を設けたものであってもよい。
(製造方法)
次に、上述したサーメットおよび切削工具の製造方法について説明する。
まず、平均粒径0.1〜1.2μm、特に0.3〜0.9μmのTiCN粉末と、平均粒径0.1〜2.5μmのWC粉末と、TiCNおよびWC以外の周期表4、5、6族金属の炭化物粉末、窒化物粉末、炭窒化物粉末の少なくとも1種と、平均粒径0.5〜5μmの所定量の金属Co粉末や金属Ni粉末と、平均粒径3〜15μmの金属W粉末およびWC
1−x(0<x≦1)粉末の少なくとも1種を1〜20質量%と、所望によりカーボンブラック等の炭素粉末を添加して混合し混合粉末を調整する。さらに、混合粉末には、平均粒径0.5〜5μmの所定量のMnC粉末を添加してもよい。
【0042】
本実施態においては、TiCN以外の周期表4、5、6族金属の炭化物粉末、窒化物粉末、炭窒化物粉末の少なくとも1種として、平均粒径0.1〜3μmのTiN粉末、WC粉末、NbC粉末、MoC、TaC粉末、VC粉末、ZrC粉末が適用可能である。
【0043】
混合粉末の調整は、上記原料粉末にバインダや溶媒等を添加して、ボールミル、振動ミル、ジェットミル、アトライタミル等の公知の混合方法で混合する。アトライタミルによる粉末混合を用いれば、原料粉末は粉砕されて粒径が小さくなるが、金属粉末は延性が高いので、粉砕されにくい傾向にある。そして、この混合粉末をプレス成形、押出成形、射出成形等の公知の成形方法によって所定形状の成形体を形成する。
【0044】
次に、本実施形態によれば、上記成形体を、真空または不活性ガス雰囲気中にて焼成する。本実施態様によれば、次の条件にて焼成することにより、上述した所定組織のサーメットを作製することができる。具体的な焼成条件としては、(a)室温から1100℃まで昇温し、(b)真空中にて1100℃から1330〜1380℃の焼成温度T
1まで0.1〜2℃/分の昇温速度aで昇温し、(c)真空中または30〜2000Paの不活性ガス雰囲気中にて焼成温度T
1から1500〜1600℃の焼成温度T
2まで4〜15℃/分の昇温速度bで昇温し、(d)真空または30〜2000Paの不活性ガス雰囲気中にて焼成温度T
2にて0.5〜2時間保持した後、(e)5〜15℃/分の降温速度eで降温する焼成条件で焼成する。
【0045】
上記原料粉末におけるWC粉末および金属W粉末の平均粒径を調整するとともに、上記焼成時の昇温パターン、および所定量の不活性ガスを導入するタイミングを制御することによって、Co粉末およびNi粉末は互いに固溶しながら溶解して、硬質相の周囲に回り込み、硬質相間を結合する。また、成形体中に他の原料粉末よりも平均粒径が大きい状態で存在する金属W粉末およびWC
1−x(0<x≦1)粉末の少なくとも1種は、焼成によってその一部が硬質相内に拡散するが、一部は第2結合相を形成する。その結果、上述した組織のサーメット1を作製することができる。
【0046】
すなわち、(b)工程における昇温速度が0.1℃/分より遅いと、焼成時間が長すぎて現実的ではなく、(b)工程における昇温速度が2℃/分より速いと、サーメット1の表面にボイドが生じやすい。また、(c)工程における昇温速度が4℃/分より遅いと、第1結合相と第2結合相の両方が存在しにくい。(c)工程における昇温速度が15℃/分より速いと、サーメット1の表面にボイドが生じやすい。焼成温度T
2が1500℃未満では、焼結性が不十分であり、焼成温度T
2が1600℃より高いと、第1結合相と第2結合相の両方が存在しにくい。(e)工程における降温速度が5℃/分より遅いと、特に(c)(d)工程中に不活性ガスとしてCH
4ガスを混合した場合には、第2結合相が形成されずWとCoを含有する複合炭窒化物が形成されやすくなる。(e)工程における降温速度が15℃/分より速いと、サーメットの表面にクラックが発生しやすくなる。
【0047】
そして、所望により、サーメットの表面に被覆層を成膜することによって、切削工具を作製する。被覆層の成膜方法として、イオンプレーティング法やスパッタリング法等の物理蒸着(PVD)法が好適に適応可能である。
【実施例】
【0048】
マイクロトラック法による測定にて平均粒径0.6μmのTiCN粉末、平均粒径1.1μmのWC粉末、平均粒径1.5μmのTiN粉末、平均粒径2μmのTaC粉末、平均粒径1.5μmのNbC粉末、平均粒径2.0μmのMoC粉末、平均粒径1.8μmのZrC粉末、平均粒径1.0μmのVC粉末、平均粒径3.0μmのMnC粉末、平均粒径2.4μmのNi粉末、および平均粒径1.9μmのCo粉末、表1に示す平均粒径のW粉末、WC
0.5粉末(W粉末およびWC
0.5粉末を、表中、W、WC
0.5と記載)を準備した。これらの原料粉末を表1に示す比率で調整するとともに焼成後のサーメット中の炭素含有量が表2の値となるようにカーボンブラックを添加した混合粉末を、ステンレス製ボールミルと超硬ボールを用いて、イソプロピルアルコール(IPA)にて湿式混合し、パラフィンを3質量%添加して、アトライタミルで混合した。その後、スプレードライで造粒した造粒粉を用いて、150MPaでCNMG120408の切削工具(スローアウェイチップ)形状にプレス成形した。
【0049】
そして、(a)室温から1100℃まで昇温し、(b)真空中にて1100℃から1350℃まで昇温速度aが0.7℃/分で昇温し、(c)1000PaのN
2ガス雰囲気中にて焼成温度1350℃から表1に示す焼成温度T
2まで昇温速度b(表中、速度bと記載)で昇温し、(d)1000PaのN
2ガス雰囲気中にて焼成温度T
2にて1時間保持した後、(e)表1に示す降温速度e(表中、速度eと記載)で降温する焼成条件で焼成した。なお、試料No.14、15については、(c)(d)工程において、N
2ガスの一部をCH
4ガスに置換した雰囲気中で焼成した。
【0050】
【表1】
【0051】
得られた切削工具について、ICP分析にて、サーメット中に含有される金属元素の組成を分析し、金属元素の総量に対する各金属元素の含有量を算出した。また、炭素窒素分析装置を用い、炭素含有量および窒素含有量が既知のサーメットを標準試料として、サーメットの表面から500μm以上研磨した中央部分についての炭素含有量、窒素含有量を測定し、窒素含有量/(炭素含有量+窒素含有量)をCN比として算出した。結果は表2に示した。
【0052】
また、透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行い、サーメットの組織を確認し、50000倍の写真にて電子線マイクロアナライザ(EPMA)にて硬質相および結合相のタイプを特定し、TiCN相、固溶体相、第1結合相、第2結合相の存在の有無、固溶体相は金属元素の総量に対するWの質量比が異なる複数の微細粒子を含んでいるかどうかを確認し、表3、4に示した。試料No.1〜7、16〜27については、第1結合相と第2結合相がそれぞれ3箇所以上存在していた。さらに、第1結合相、第2結合相、TiCN相および固溶体相中のWの原子比およびTiの原子比の平均値を求めるとともに、固溶体相およびTiCN相の第2結合相と隣接する外周部におけるTiの原子比についても測定し(表中、Ti外周と記載)、固溶体相のTiの原子比の平均値(表中、Ti平均と記載)と比較し、表3に示した。なお、TiCN相の中心において組成分析をしたところ、金属元素総量に対するTiの原子比率は97原子%以上であった。また、固溶体相、第1結合相、第2結合相中のMn含有量を表4に示した。
【0053】
また、有芯構造相は、硬質相全体に対して10面積%以下の割合で存在していること、Wの質量比が異なる複数の微細粒子を含む固溶体相がある場合、固溶体相全体に対する微細粒子を含む固溶体相の面積比が50面積%以上であることがわかった。そして、市販の画像解析ソフトを用いて2500nm×2000nmの領域で画像解析を行い、視野内での第1結合相の平均面積比s1、第2結合相の平均面積比s2、第1結合相の総面積比S1、第2結合相の総面積比S2およびその他の結合相の総面積比(表中、その他と記載)を確認し、比率s2/s1および比率S2/S1を表記した。また、結合相全体に対するS1とS2との合計の面積比(表中、S1+S2比と記載)を算出した。硬質相については、TiCN相および固溶体相の平均粒径(da、db)とその比率db/da、視野内でのTiCN相の面積比Sa、固溶体相の面積比Sbを測定した。さらに、ISO14704およびISO17565に準じて、室温および800℃における3点曲げ強度を測定した。結果は表4、5に示した。
【0054】
次に、得られた切削工具を用いて以下の切削条件にて切削試験を行った。結果は表5に合わせて併記した。
(耐摩耗性試験)
被削材:SCM435
切削速度:200m/分
送り:0.2mm/rev
切込み:2.0mm
切削状態:湿式
評価方法:切削長10m切削した時点での逃げ面摩耗幅(mm)
(耐欠損性試験)
被削材:S45C
切削速度:100m/分
送り:0.1〜0.5mm/rev(+0.05mm/rev 各送り10秒)
切込み:2.0mm
切削状態:乾式
評価方法:欠損するまでの切削時間(秒)
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
【表5】
【0059】
表1〜5より、原料中に金属W粉末およびWC
1−x(0<x≦1)粉末のいずれも添加しなかった試料No.8、原料中の金属W粉末およびWC
1−x(0<x≦1)粉末の添加量が1質量%より少ない試料No.9、原料中に添加した金属W粉末の平均粒径が3μmより小さい試料No.10、焼成時の(c)工程における昇温速度が4℃/分より遅い試料No.11、焼成温度T
2が1600℃より高い試料No.13では、いずれも第2結合相が存在せず、逃げ面摩耗幅が大きく、かつ欠損するまでの時間が早いものであった。また、(c)工程における昇温速度が15℃/分より速い試料No.12では、焼成したサーメットの表面にボイドが発生し、使用に耐えうるものではなかった。(e)工程における降温速度が5℃/分より遅い試料No.14では、第2結合相が形成されずWとCoを含有する複合炭窒化物が形成された。(e)工程における降温速度が15℃/分より速い試料No.15では、サーメットの表面にクラックが発生し、使用に耐えうるものではなかった。
【0060】
これに対し、本実施形態の組織を有するサーメットからなる切削工具である試料No.1〜7、16〜27では、いずれも逃げ面摩耗幅が小さく、かつ欠損するまでの切削時間が長いものであった。
【0061】
比(S2/S1)が、0.2〜1.5である試料No.1、3〜7、16〜18、24〜27では、欠損に至るまでの時間が長くなり、中でも、比(s2/s1)が、1.0〜3.0である試料No.1〜7、16〜18、20〜27では、逃げ面摩耗幅が小さくなった。さらに、固溶体相の内部に微細粒子を含有する構造が見られた試料No.1〜7、16〜18、20〜27では、逃げ面摩耗幅が小さく、欠損に達するまでの時間も長いものであった。なお、試料No.2、6については、サーメット組織中にWC等のその他の硬質相が存在していた。
【0062】
また、第2結合相のWの原子比が固溶体相のWの原子比よりも多く、かつ第1結合相のWの原子比が固溶体相のWの原子比と同じかまたは少ない試料No.1〜7、16〜18、20、22〜27では、いずれも逃げ面摩耗幅が小さく、かつ欠損するまでの切削時間が長いものであった。特に、第2結合相と隣接する固溶体相の外周部におけるTiの原子比が、この固溶体相のTiの原子比の平均値よりも高いNo.1、3〜7、16〜18、24〜27では逃げ面摩耗幅が小さかった。さらに、第2結合相と隣接するTiCN相のTiの原子比が、外周部で低くなっているNo.1〜7、16〜27では逃げ面摩耗幅が小さかった。また、炭素含有量が6.00〜8.00質量%、窒素含有量が5.00〜7.50質量%、CN比が0.42〜0.53である試料No.1〜7、16〜19、24、25では、いずれも逃げ面摩耗幅が小さく、かつ欠損するまでの切削時間が長いものであった。
【解決手段】少なくともTiを含む周期表第4、5および6族金属のうちの1種以上の炭窒化物からなる硬質相2と、CoおよびNiの少なくとも1種とWとを含有する結合相3とを含み、結合相3が、CoおよびNiの総量に対するWの比(W/(Co+Ni))が0.8以下の第1結合相4と、CoおよびNiの総量に対するWの比(W/(Co+Ni))が1.2以上の第2結合相5とを含有するサーメット1である。