(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記外周部材が、開口部を備えた樹脂フィルムであり、前記樹脂フィルムの開口部に前記セラミックスセパレータが嵌合又は接合されている、請求項1に記載のセパレータ構造体。
前記外周部材が、樹脂製の外枠と、開口部を備えた樹脂フィルムとの組合せであり、前記外枠内及び/又は前記外枠上に前記セラミックスセパレータが嵌合又は接合され、かつ、前記樹脂フィルムの開口部に前記外枠が嵌合又は接合されている、請求項1に記載のセパレータ構造体。
前記外周部材が前記外枠を含み、前記外枠が、ポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、及び変性ポリフェニレンエーテルからなる群から選択される少なくとも1種で構成される、請求項1〜4のいずれか一項に記載のセパレータ構造体。
前記外周部材が前記樹脂フィルムを含み、前記樹脂フィルムが、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、及び変性ポリフェニレンエーテルからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のセパレータ構造体。
前記セラミックスセパレータの片面又は両面に多孔質基材をさらに備え、かつ、前記無機固体電解質体が膜状又は層状の形態であり、該膜状又は層状の無機固体電解質体が前記多孔質基材上又はその中に形成されたものである、請求項1〜9のいずれか一項に記載のセパレータ構造体。
前記層状複水酸化物が複数の板状粒子の集合体で構成され、該複数の板状粒子がそれらの板面が前記多孔質基材の表面と略垂直に又は斜めに交差するような向きに配向している、請求項10に記載のセパレータ構造体。
【発明を実施するための形態】
【0010】
セパレータ構造体
本発明のセパレータ構造体は、亜鉛二次電池用セラミックスセパレータが組み込まれた構造体である。本明細書において、亜鉛二次電池は、ニッケル亜鉛二次電池、酸化銀亜鉛二次電池、酸化マンガン亜鉛二次電池、亜鉛空気二次電池、及びその他各種のアルカリ亜鉛二次電池等、水酸化物イオン伝導性セラミックスセパレータを適用可能な各種亜鉛二次電池であることができる。特に、ニッケル亜鉛二次電池及び亜鉛空気二次電池が好ましい。したがって、以下の一般的説明において、ニッケル亜鉛二次電池に関する
図1及び亜鉛空気二次電池に関する
図3A及び3Bに言及することがあるが、本発明のセパレータ構造体の適用可能な二次電池はニッケル亜鉛二次電池及び亜鉛空気二次電池に限定されるべきではなく、水酸化物イオン伝導性セラミックスセパレータを採用可能な上述の各種二次電池に適用可能なものである。セパレータ構造体を適用可能な電池は正極及び負極の対が1つの単位電池であってもよいし、正極及び負極の対を2つ以上、すなわち2つ以上の単位電池を備えた積層電池であってもよい。また、積層電池は直列型積層電池であってもよいし、並列型積層電池であってもよい。
【0011】
本発明のセパレータ構造体が組み込まれた場合、亜鉛二次電池は、正極と、負極と、アルカリ電解液と、セパレータ構造体と、容器(好ましくは樹脂製)とを備えることになる。正極は二次電池の種類に応じて適宜選択すればよく、空気極であってもよい。負極も二次電池の種類に応じて適宜選択すればよく、例えば各種亜鉛二次電池の場合、亜鉛、亜鉛合金及び/又は亜鉛化合物を含みうる。セパレータ構造体は、水酸化物イオン伝導性セラミックスセパレータを備えた構造体であって、正極と負極を隔離し、透水性(好ましくは透水性及び通気性)を有しない。容器は、少なくとも負極及びアルカリ電解液を収容する、好ましくは樹脂製の容器である。
図1に示されるニッケル亜鉛二次電池10のように、容器22は正極12及び正極電解液14も収容しうるが、
図3Aに示される亜鉛空気二次電池30のように正極を空気極32として構成する場合には、空気極32(正極)は容器46に完全に収容されている必要はなく、単に容器46の開口部46aを塞ぐような形で(例えば蓋のような形で)取り付けられてもよい。なお、正極及びアルカリ電解液は必ずしも分離している必要はなく、正極とアルカリ電解液が混合された正極合材として構成されてもよいし、正極が空気極の場合にはそもそも正極側に電解液は不要である。また、負極及びアルカリ電解液は必ずしも分離している必要はなく、負極とアルカリ電解液が混合された負極合材として構成されてもよい。所望により、正極集電体が正極に接触して設けられてよい。また、所望により、負極集電体が負極に接触して設けられてよい。
【0012】
図1〜3Bに示されるように、セパレータ構造体50は、セラミックスセパレータ52と、セラミックスセパレータ52の外周に沿って設けられる外周部材58とを備える。セラミックスセパレータ52は無機固体電解質体からなり、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性(好ましくは透水性及び通気性)を有しない。好ましくは、セラミックスセパレータ52は、透水性(好ましくは透水性及び通気性)を有しない程に緻密化された膜状又は層状の形態である、水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質体からなる。セパレータ構造体50は正極と負極を隔離するように設けられる。例えば、
図1に示されるニッケル亜鉛二次電池10のように、セパレータ構造体50が、容器22内に、正極12及び正極電解液14を収容する正極室24と、負極16及び負極電解液18を収容する負極室26とを区画するように設けられてもよいし、
図3Aに示される亜鉛空気二次電池30のように、セパレータ構造体50が容器46の開口部46aを電解液36と接触可能に塞いで容器46と負極側密閉空間を形成するように設けられてもよい。セパレータ構造体50は水酸化物イオン伝導性を有するが透水性(好ましくは透水性及び通気性)を有しないのが好ましい。すなわち、セパレータ構造体50が透水性及び通気性を有しないということは、セパレータ構造体50の主要部分を構成するセラミックスセパレータ52が水及び気体を通さない程の高度な緻密性を有することを意味し、透水性や通気性を有する多孔性フィルムやその他の多孔質材料ではないことを意味する。このため、亜鉛二次電池の場合には、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセラミックスセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止するのに極めて効果的な構成となっている。また、金属空気二次電池の場合には、空気中の二酸化炭素の侵入を阻止して電解液中での(二酸化炭素に起因する)アルカリ炭酸塩の析出を防止するのに極めて効果的な構成となっている。いずれにしても、セラミックスセパレータは水酸化物イオン伝導性を有するため、正極側(例えばアルカリ電解液又は空気極)と負極側(例えばアルカリ電解液)との間で必要な水酸化物イオンの効率的な移動を可能として正極及び負極における充放電反応を実現することができる。
【0013】
上述のとおり、セパレータ構造体50は、セラミックスセパレータ52と、セラミックスセパレータ52の外周に沿って設けられる外周部材58とを備える。セラミックスセパレータ52は無機固体電解質体からなり、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性を有しない。外周部材58は樹脂製の外枠及び樹脂フィルムの少なくともいずれか一方からなる。セパレータ構造体50は全体として透水性を有しない。このように、水酸化物イオン伝導性セラミックスセパレータ52の外周に沿って、樹脂製の外枠及び樹脂フィルムの少なくともいずれか一方からなる外周部材58を設けることにより、亜鉛二次電池の正極側と負極側を確実に仕切ることが可能なセパレータ構造体を、樹脂製の電池容器に封止接合させやすく、かつ、電池組み立て時のハンドリング性が大幅に向上された形態で提供することが可能となる。セパレータ構造体50は全体として透水性を有しないようにすべく、外周部材58がセラミックスセパレータ52と接着剤等で接着されているのが好ましい。すなわち、外周部材58とセラミックスセパレータ52の接合部分が接着剤で液密に(好ましくは液密かつ気密に)封止されているのが好ましい。
【0014】
本発明の好ましい態様によれば、
図4A及び4Bに示されるセパレータ構造体50のように、外周部材58が樹脂製の外枠58aであり、外枠58a内及び/又は外枠58a上にセラミックスセパレータ52が嵌合又は接合されているものでありうる。本発明の別の好ましい態様によれば、
図5A及び5Bに示されるセパレータ構造体50’のように、外周部材58が、開口部を備えた樹脂フィルム58bであり、樹脂フィルム58bの開口部にセラミックスセパレータ52が嵌合又は接合されているものでありうる。本発明の更に別の好ましい態様によれば、
図6A及び6Bに示されるセパレータ構造体50’’のように、外周部材58が、樹脂製の外枠58aと、開口部を備えた樹脂フィルム58bとの組合せであり、外枠58a内及び/又は外枠58a上にセラミックスセパレータ52が嵌合又は接合され、かつ、樹脂フィルム58bの開口部に外枠58aが嵌合又は接合されているものでありうる。
【0015】
上記のとおり、外周部材58は外枠58aを含むものであることができる。また、外枠58aの内側に桟が設けられ、外枠58aと桟で形成された複数の窓状の領域に複数のセラミックスセパレータ52が個々に嵌合又は接合されてもよい。外枠58a及び(存在する場合には)桟は透水性(好ましくは透水性及び通気性)を有しない緻密質材料(典型的には無孔質材料)で構成されるのが好ましく、それによりセパレータ構造体50が全体として透水性(好ましくは透水性及び通気性)を有しないものとすることができる。また、外枠58a及び(存在する場合には)桟とセラミックスセパレータ52との接合部分は接着剤等により液密性を確保できるように封止するのが好ましい。接着剤はエポキシ樹脂系接着剤が耐アルカリ性に特に優れる点で好ましく、ホットメルト接着剤を用いてもよい。外枠58a及び(存在する場合には)桟を構成しうる緻密質材料は樹脂であるのが好ましい。樹脂は水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物を含む電解液に対する耐アルカリ性を有する樹脂であるのが好ましい。かかる観点から、外枠58a及び(存在する場合には)桟は、ポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、及び変性ポリフェニレンエーテルからなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましく、より好ましくはABS樹脂、変性ポリフェニレンエーテル、又はそれらの組合せで構成される。この場合、外枠58a及び(存在する場合には)桟は電池容器と同種の樹脂で構成されていてもよい。電池容器が樹脂で構成され且つ外枠58aも同種又は異種(好ましくは同種)の樹脂で構成される場合、電池容器との接着剤や熱融着(例えばレーザー溶着)による接着がしやすいとの利点がある。この場合においても、接着剤はエポキシ樹脂系接着剤が耐アルカリ性に特に優れる点で好ましく、ホットメルト接着剤を用いてもよい。熱融着は、レーザー溶着、熱圧着、熱板溶着、超音波溶着、高周波溶着、その他加熱を用いた溶着(例えば加熱した型(例えば金型)内でプレスすることによる溶着、はんだごてで加熱することによる溶着等)であってよく、特に限定されない。
【0016】
また、前述のとおり、外周部材58は樹脂フィルム58bを含むものであってもよい。樹脂フィルム58bを含む外周部材58を用いることで、電池容器が、樹脂フィルム等の可撓性フィルムで構成される可撓性袋体の形態で構成される場合に、可撓性袋体を構成する可撓性フィルムとの封止接合がしやすいとの利点がある。また、可撓性袋内に複数枚のセパレータ構造体を接合させて正極及び負極を交互に設けることで積層電池のセルパックを構成しやすいとの利点もある。樹脂フィルム58bは水酸化カリウム水溶液等のアルカリ電解液に対する耐性を有し、かつ、樹脂フィルム58b同士、あるいは樹脂製の電池容器(樹脂フィルム製の可撓性袋体でありうる)やセラミックスセパレータ52と熱融着や接着剤により接合可能なものであるのが好ましく、例えば、PP(ポリプロピレン)フィルム、PE(ポリエチレン)フィルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PVC(ポリ塩化ビニル)フィルム、変性ポリフェニレンエーテルフィルム等が挙げられる。すなわち、樹脂フィルム58bは、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、及び変性ポリフェニレンエーテルからなる群から選択される少なくとも1種を含むのが好ましい。樹脂フィルムとして、市販のラミネートフィルムが使用可能であり、好ましいラミネートフィルムとしては、ベースフィルム(例えばPETフィルムやPPフィルム)及び熱可塑性樹脂層を備えた2層以上の構成の熱ラミネートフィルムが挙げられる。樹脂フィルム(例えばラミネートフィルム)の好ましい厚さは、20〜500μmであり、より好ましくは30〜300μm、さらに好ましくは50〜150μmである。樹脂フィルム58b同士或いは樹脂製の外枠58a(特に可撓性袋体を構成する樹脂フィルム)との熱融着による接合ないし封止は市販のヒートシール機等を用いて行えばよい。
【0017】
図6A及び6Bに示されるように、セパレータ構造体50’’が外枠58a及び樹脂フィルム58bの両方を備える場合、外枠58aが樹脂フィルム58bと熱融着又は接着剤で接着されているのが好ましい。この場合においても、接着剤はエポキシ樹脂系接着剤が耐アルカリ性に特に優れる点で好ましく、ホットメルト接着剤を用いてもよい。熱融着は、上述したように、レーザー溶着、熱圧着、熱板溶着、超音波溶着、高周波溶着等の各種手法で行えばよいが、市販のヒートシール機等を用いて熱融着を行うことで接合及び封止を簡便に行えるので好ましい。
【0018】
セラミックスセパレータ52(以下、セパレータ52という)は水酸化物イオン伝導性を有するが透水性を有しない部材であり、典型的には板状、膜状又は層状の形態である。なお、本明細書において「透水性を有しない」とは、後述する例1で採用される「緻密性判定試験I」又はそれに準ずる手法ないし構成で透水性を評価した場合に、測定対象物(例えばLDH膜及び/又は多孔質基材)の一面側に接触した水が他面側に透過しないことを意味する。すなわち、セパレータ52が透水性を有しないということは、セパレータ52が水を通さない程の高度な緻密性を有することを意味し、透水性を有する多孔性フィルムやその他の多孔質材料ではないことを意味する。このため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止するのに極めて効果的な構成となっている。もっとも、
図4A〜6Bに示されるようにセパレータ52に多孔質基材56が付設されてよいのはいうまでもない。いずれにしても、セパレータ52は水酸化物イオン伝導性を有するため、正極と負極との間で必要な水酸化物イオンの効率的な移動を可能として充放電反応を実現することができる。
【0019】
セパレータ52は、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であるのが好ましく、より好ましくは5.0cm/min・atm以下、さらに好ましくは1.0cm/min・atm以下である。He透過度が10cm/min・atm以下であるセパレータは、電解液中においてZnの透過を極めて効果的に抑制することができる。例えば、後述する
図20に示されるように、He透過度が10cm/min・atm以下であると、水接触下で評価した場合における単位面積あたりのZn透過割合が著しく低下する。その意味で、10cm/min・atmというHe透過度の上限値は、水酸化物イオン伝導セパレータにおけるZnの透過抑制効果に関して臨界的意義を有するといえる。このように本態様のセパレータは、Zn透過が顕著に抑制されることで、ニッケル亜鉛二次電池に用いた場合に亜鉛デンドライトの成長を効果的に抑制できるものと原理的に考えられる。He透過度は、セパレータの一方の面にHeガスを供給してセパレータにHeガスを透過させる工程と、He透過度を算出して水酸化物イオン伝導セパレータの緻密性を評価する工程とを経て測定される。He透過度は、単位時間あたりのHeガスの透過量F、Heガス透過時にセパレータに加わる差圧P、及びHeガスが透過する膜面積Sを用いて、F/(P×S)の式により算出する。このようにHeガスを用いてガス透過性の評価を行うことにより、極めて高いレベルでの緻密性の有無を評価することができ、その結果、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛デンドライト成長を引き起こすZn)を極力透過させない(極微量しか透過させない)といった高度な緻密性を効果的に評価することができる。これは、Heガスが、ガスを構成しうる多種多様な原子ないし分子の中でも最も小さい構成単位を有しており、しかも反応性が極めて低いためである。すなわち、Heは、分子を形成することなく、He原子単体でHeガスを構成する。この点、水素ガスはH
2分子により構成されるため、ガス構成単位としてはHe原子単体の方がより小さい。そもそもH
2ガスは可燃性ガスのため危険である。そして、上述した式により定義されるHeガス透過度という指標を採用することで、様々な試料サイズや測定条件の相違を問わず、緻密性に関する客観的な評価を簡便に行うことができる。こうして、セパレータがニッケル亜鉛電池用セパレータに適した十分に高い緻密性を有するのか否かを簡便、安全かつ効果的に評価することができる。He透過度の測定は、後述する例5に示される手順に従って好ましく行うことができる。
【0020】
セパレータ52は、水接触下で評価した場合における単位面積あたりのZn透過割合が10m
−2・h
−1以下であるのが好ましく、より好ましくは5.0m
−2・h
−1以下より好ましくは4.0m
−2・h
−1以下より好ましくは3.0m
−2・h
−1以下、より好ましくは1.0m
−2・h
−1以下である。このように低いZn透過割合は、電解液中においてZnの透過を極めて効果的に抑制できることを意味する。このため、ニッケル亜鉛二次電池に用いた場合に亜鉛デンドライトの成長を効果的に抑制できるものと原理的に考えられる。Zn透過割合は、セパレータにZnを所定時間透過させる工程と、Zn透過割合を算出する工程とを経て決定される。セパレータへのZnの透過は、水酸化物イオン伝導セパレータの一方の面にZnを含有する第一の水溶液を接触させ、かつ、セパレータの他方の面にZnを含有しない第二の水溶液又は水を接触させることにより行われる。また、Zn透過割合は、Zn透過開始前の第一の水溶液のZn濃度C
1、Zn透過開始前の第一の水溶液の液量V
1、Zn透過終了後の第二の水溶液又は水のZn濃度C
2、Zn透過終了後の第二の水溶液又は水の液量V
2、Znの透過時間t、及びZnが透過する膜面積Sを用いて、(C
2×V
2)/(C
1×V
1×t×S)の式により算出する。C
1、C
2、V
1、V
2、t及びSの各パラメータの単位は濃度C
1及びC
2の単位が揃っており且つ液量V
1及びV
2の単位が揃っているかぎり特に限定されないが、Znの透過時間tの単位をhとし、膜面積Sの単位をm
2とするのが好ましい。Zn透過前の第一の水溶液のZn濃度C
1は0.001〜1mol/Lの範囲内であるのが好ましく、より好ましくは0.01〜1mol/L、さらに好ましくは0.05〜0.8mol/L、特に好ましくは0.2〜0.5mol/L、最も好ましくは0.35〜0.45mol/Lである。また、Znの透過時間は1〜720時間とするのが好ましく、より好ましくは1〜168時間、さらに好ましくは6〜72時間、特に好ましくは12〜24時間である。このようにZn含有水溶液とZn非含有液を用いてZn透過性の評価を行うことにより、極めて高いレベルでの緻密性の有無を評価することができ、その結果、亜鉛二次電池で亜鉛デンドライト成長を引き起こすZnを極力透過させない(極微量しか透過させない)といった高度な緻密性を確実かつ高精度に評価することができる。そして、上述した式により定義されるZn透過割合という指標を採用することで、様々な試料サイズや測定条件の相違を問わず、緻密性に関する客観的な評価を簡便に行うことができる。このZn透過割合は亜鉛デンドライト析出のしにくさを判断するための有効な指標となりうる。というのも、水酸化物イオン伝導セパレータを亜鉛二次電池にセパレータとして用いた場合、セパレータの一方の側(亜鉛負極側)の負極電解液にZnが含有されていても、他方の側の(本来Zn非含有の)正極電解液にZnが透過しなければ、正極電解液中での亜鉛デンドライトの成長は効果的に抑制されるものと原理的に考えられるためである。こうして、本態様によれば、セパレータがニッケル亜鉛電池用セパレータに適した十分に高い緻密性を有するのか否かを確実かつ高精度に評価することができる。Zn透過割合の測定は、後述する例5に示される手順に従って好ましく行うことができる。
【0021】
セパレータ52は無機固体電解質体からなるのが好ましい。セパレータ52として水酸化物イオン伝導性の無機固体電解質体を用いることで、正負極間の電解液を隔離するとともに水酸化物イオン伝導性を確保する。そして、セパレータ52を構成する無機固体電解質は典型的には緻密で硬い無機固体であるため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止することが可能となる。その結果、ニッケル亜鉛電池の信頼性を大幅に向上することができる。無機固体電解質体は透水性を有しない程にまで緻密化されていることが望まれる。例えば、無機固体電解質体は、アルキメデス法で算出して、90%以上の相対密度を有するのが好ましく、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上であるが、亜鉛デンドライトの貫通を防止する程度に緻密で硬いものであればこれに限定されない。このような緻密で硬い無機固体電解質体は水熱処理を経て製造することが可能である。したがって、水熱処理を経ていない単なる圧粉体は、緻密でなく、溶液中で脆いことから本発明の無機固体電解質体として好ましくない。もっとも、水熱処理を経たものでなくても、緻密で硬い無機固体電解質体が得られるかぎりにおいて、あらゆる製法が採用可能である。
【0022】
セパレータ52ないし無機固体電解質体は、水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質を含んで構成される粒子群と、これら粒子群の緻密化や硬化を助ける補助成分との複合体であってもよい。あるいは、セパレータ52は、基材としての開気孔性の多孔質体と、この多孔質体の孔を埋めるように孔中に析出及び成長させた無機固体電解質(例えば層状複水酸化物)との複合体であってもよい。この多孔質体を構成する物質の例としては、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスや、発泡樹脂又は繊維状物質からなる多孔性シート等の絶縁性の物質が挙げられる。
【0023】
無機固体電解質体は、一般式:M
2+1−xM
3+x(OH)
2A
n−x/n・mH
2O(式中、M
2+は2価の陽イオンであり、M
3+は3価の陽イオンであり、A
n−はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数であり、xは0.1〜0.4であり、mは0以上である)の基本組成を有する層状複水酸化物(LDH)を含んでなるのが好ましく、より好ましくはそのようなLDHからなる。上記一般式において、M
2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg
2+、Ca
2+及びZn
2+が挙げられ、より好ましくはMg
2+である。M
3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl
3+又はCr
3+が挙げられ、より好ましくはAl
3+である。A
n−は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH
−及びCO
32−が挙げられる。したがって、上記一般式において、M
2+がMg
2+を含み、M
3+がAl
3+を含み、A
n−がOH
−及び/又はCO
32−を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。また、上記一般式においてM
3+の一部または全部を4価またはそれ以上の価数の陽イオンで置き換えてもよく、その場合は、上記一般式における陰イオンA
n−の係数x/nは適宜変更されてよい。mは水のモル数を意味する任意の数であり、0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数ないし整数である。
【0024】
無機固体電解質体は水熱処理によって緻密化されたものであるのが好ましい。水熱処理は、層状複水酸化物、とりわけMg−Al型層状複水酸化物の一体緻密化に極めて有効である。水熱処理による緻密化は、例えば、特許文献1(国際公開第2013/118561号)に記載されるように、耐圧容器に純水と板状の圧粉体を入れ、120〜250℃、好ましくは180〜250℃の温度、2〜24時間、好ましくは3〜10時間で行うことができる。もっとも、水熱処理を用いたより好ましい製造方法については後述するものとする。
【0025】
セパレータ52の片面又は両面に多孔質基材56を設けてもよい。セパレータ52の片面に多孔質基材56が設けられる場合、多孔質基材56はセパレータ52の負極側の面に設けてもよいし、セパレータ52の正極側の面に設けてもよい。多孔質基材56は透水性を有し、それ故正極電解液及び負極電解液がセパレータ52に到達可能であることはいうまでもないが、多孔質基材56があることでセパレータ52上により安定に水酸化物イオンを保持することも可能となる。また、多孔質基材56により強度を付与できるため、セパレータ52を薄くして低抵抗化を図ることもできる。また、多孔質基材56上又はその中に無機固体電解質体(好ましくはLDH)の緻密膜ないし緻密層を形成することもできる。セパレータ52の片面に多孔質基材を設ける場合には、多孔質基材を用意して、この多孔質基材に無機固体電解質を成膜する手法が考えられる(この手法については後述する)。一方、セパレータ52の両面に多孔質基材を設ける場合には、2枚の多孔質基材の間に無機固体電解質の原料粉末を挟んで緻密化を行うことが考えられる。なお、
図4A〜6Bにおいて多孔質基材56はセパレータ52の片面の全面にわたって設けられているが、セパレータ52の片面の一部(例えば充放電反応に関与する領域)にのみ設ける構成としてもよい。例えば、多孔質基材56上又はその中に無機固体電解質体を膜状又は層状に形成した場合、その製法に由来して、セパレータ52の片面の全面にわたって多孔質基材56が設けられた構成になるのが典型的である。一方、無機固体電解質体を(基材を必要としない)自立した板状に形成した場合には、セパレータ52の片面の一部(例えば充放電反応に関与する領域)にのみ多孔質基材56を後付けしてもよいし、片面の全面にわたって多孔質基材56を後付けしてもよい。
【0026】
無機固体電解質体は、板状、膜状又は層状のいずれの形態であってもよく、膜状又は層状の形態である場合、膜状又は層状の無機固体電解質体が多孔質基材上又はその中に形成されたものであるのが好ましい。板状の形態であると十分な堅さを確保して亜鉛デンドライトの貫通をより効果的に阻止することができる。一方、板状よりも厚さが薄い膜状又は層状の形態であると亜鉛デンドライトの貫通を阻止するための必要最低限の堅さを確保しながらセパレータの抵抗を有意に低減できるとの利点がある。板状の無機固体電解質体の好ましい厚さは、0.01〜0.5mmであり、より好ましくは0.02〜0.2mm、さらに好ましくは0.05〜0.1mmである。また、無機固体電解質体の水酸化物イオン伝導度は高ければ高い方が望ましいが、典型的には10
−4〜10
−1S/mの伝導度を有する。一方、膜状又は層状の形態の場合には、厚さが100μm以下であるのが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは5μm以下である。このように薄いことでセパレータ52の低抵抗化を実現できる。厚さの下限値は用途に応じて異なるため特に限定されないが、セパレータ膜ないし層として望まれるある程度の堅さを確保するためには厚さ1μm以上であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上である。
【0027】
セパレータ構造体が取り付けられることになる電池容器は、少なくとも負極及びアルカリ電解液を収容するものであり、好ましくは樹脂製である。ニッケル亜鉛電池を始めとする多くのタイプの亜鉛二次電池において電池容器は正極及び正極電解液も収容しうるが、亜鉛空気二次電池のように正極を空気極として構成する場合には空気極(正極)は容器に完全に収容されている必要はなく、単に容器の開口部を塞ぐような形で(例えば蓋のような形で)取り付けられてよい。いずれにしても、容器は液密性及び気密性を有する構造を有するのが好ましい。容器が樹脂製の場合、容器を構成する樹脂は水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物に対する耐性を有する樹脂であるのが好ましく、より好ましくはポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、変性ポリフェニレンエーテルであり、さらに好ましくはABS樹脂もしくは変性ポリフェニレンエーテルである。
【0028】
図1に、セパレータ構造体が組み込まれたニッケル亜鉛二次電池の一例を模式的に示す。
図1に示されるニッケル亜鉛二次電池は充電が行われる前の初期状態を示しており、放電末状態に相当する。もっとも、本態様のニッケル亜鉛二次電池は満充電状態で構成されてもよいのはいうまでもない。
図1に示されるように、本態様によるニッケル亜鉛二次電池10は、正極12、正極電解液14、負極16、負極電解液18、及びセパレータ構造体50を容器22内に備えてなる。正極12は、水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含んでなる。正極電解液14はアルカリ金属水酸化物を含んでなるアルカリ電解液であり、正極12が浸漬される。負極16は亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含んでなる。負極電解液18はアルカリ金属水酸化物を含んでなるアルカリ電解液であり、負極16が浸漬される。容器22は、正極12、正極電解液14、負極16、負極電解液18、及びセパレータ構造体50を収容する。正極12及び正極電解液14は必ずしも分離している必要はなく、正極12と正極電解液14が混合された正極合材として構成されてもよい。同様に、負極16及び負極電解液18は必ずしも分離している必要はなく、負極16と負極電解液18が混合された負極合材として構成されてもよい。所望により、正極集電体13が正極12に接触して設けられる。また、所望により、負極集電体17が負極16に接触して設けられる。ニッケル亜鉛二次電池10は、正極室24に充放電時の正極反応に伴う水分量の増減を許容する容積の正極側余剰空間25を有し、かつ、負極室26に充放電時の負極反応に伴う水分量の減増を許容する容積の負極側余剰空間27を有するのが好ましい。従来の殆どのセパレータは、透水性を有するものであるため、セパレータを介して水が自由に行き来できる。しかしながら、本態様に用いるセパレータ52は透水性を有しないという緻密性の高い構造を有するため、セパレータ52を介して水が自由に行き来できず、充放電に伴い正極室24内及び/又は負極室26内において電解液量が一方的に増大して液漏れ等の不具合を引き起こしうる。そこで、正極室24に充放電時の正極反応に伴う水分量の増減を許容する容積の正極側余剰空間25を有することで、
図2に示されるように、充電時において正極電解液14の増加に対処可能なバッファとして機能させることができる。すなわち、
図2に示されるように、満充電後においても正極側余剰空間25がバッファとして機能することで、増量した正極電解液14を溢れ出させることなく確実に正極室24内に保持することができる。同様に、負極室26に充放電時の負極反応に伴う水分量の減増を許容する容積の負極側余剰空間27を有することで、放電時に負極電解液18の増加に対処可能なバッファとして機能させることができる。
【0029】
図3A及び3Bに、セパレータ構造体が組み込まれた亜鉛空気二次電池の一例を模式的に示す。
図3A及び3Bに示されるように、本態様による亜鉛空気二次電池30は、空気極32、負極34、アルカリ電解液36、セパレータ構造体50、容器46、及び所望により第三電極38を備えてなる。空気極32は正極として機能する。負極34は亜鉛、亜鉛合金及び/又は亜鉛化合物を含んでなる。電解液36は、負極34が浸漬される水系電解液である。容器46は、開口部46aを有し、負極34、電解液36及び所望により第三電極38を収容する。セパレータ構造体50は開口部46aを電解液36と接触可能に塞いで容器46と負極側密閉空間を形成し、それにより空気極32と電解液36を水酸化物イオン伝導可能に隔離する。所望により、正極集電体42が空気極32に接触して設けられてよい。また、所望により、負極集電体44が負極34に接触して設けられてよく、その場合、負極集電体44も容器46内に収容されうる。所望により、第三電極38が、電解液36と接触するが負極34と接触しないように設けられてもよく、この場合、外部回路を経て空気極32と接続される。かかる構成とすることで、負極34から副反応により発生しうる水素ガスを第三電極38に接触させて水に戻すことができる。別の表現をすれば、負極34で発生した水素ガスが第三電極38で吸収され自己放電をすることになる。これにより、水素ガスの発生による負極側密閉空間における内圧の上昇及びそれに伴う不具合を抑制又は回避できるとともに、(放電反応に伴い上記反応式に従い減少することになる)水を発生させて負極側密閉空間内での水不足を抑制又は回避することができる。第三電極38は、外部回路を経て空気極32と接続されることで、上述したような反応により水素ガス(H
2)を水(H
2O)に変換可能な電極であれば特に限定されないが、空気極32よりも酸素過電圧が大きいことが望まれる。また、第三電極38は通常の充放電反応に関与しないことも望まれる。第三電極38は、白金及び/又は炭素材料を含んでなるのが好ましく、より好ましくは炭素材料を含んでなる。
【0030】
多孔質基材付きLDHセパレータ
前述のとおり、本発明のセパレータ構造体に好ましく組み込まれる多孔質基材付きセパレータは、水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質体からなるセパレータと、セパレータの少なくとも一方の面に設けられる多孔質基材とを備えたものである。無機固体電解質体は透水性を有しない程に緻密化された膜状又は層状の形態である。特に好ましい多孔質基材付きセパレータは、多孔質基材と、この多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成されるセパレータ層とを備えてなり、セパレータ層が前述したような層状複水酸化物(LDH)を含んでなるものである。セパレータ層は透水性及び通気性を有しないのが好ましい。すなわち、多孔質材料は孔の存在により透水性及び通気性を有しうるが、セパレータ層は透水性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているのが好ましい。セパレータ層は多孔質基材上に形成されるのが好ましい。例えば、
図7に示されるように、多孔質基材56上にセパレータ層52がLDH緻密膜として形成されるのが好ましい。この場合、多孔質基材56の性質上、
図7に示されるように多孔質基材56の表面及びその近傍の孔内にもLDHが形成されてよいのはいうまでもない。あるいは、
図8に示されるように、多孔質基材56中(例えば多孔質基材56の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成され、それにより多孔質基材56の少なくとも一部がセパレータ層52’を構成するものであってもよい。この点、
図8に示される態様は
図7に示される態様のセパレータ層52における膜相当部分を除去した構成となっているが、これに限定されず、多孔質基材56の表面と平行にセパレータ層が存在していればよい。いずれにしても、セパレータ層は透水性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているため、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性及び通気性を有しない(すなわち基本的に水酸化物イオンのみを通す)という特有の機能を有することができる。
【0031】
多孔質基材は、その上及び/又は中にLDH含有セパレータ層を形成できるものが好ましく、その材質や多孔構造は特に限定されない。多孔質基材上及び/又は中にLDH含有セパレータ層を形成するのが典型的ではあるが、無孔質基材上にLDH含有セパレータ層を成膜し、その後公知の種々の手法により無孔質基材を多孔化してもよい。いずれにしても、多孔質基材は透水性を有する多孔構造を有するのが、電池用セパレータとして電池に組み込まれた場合に電解液をセパレータ層に到達可能に構成できる点で好ましい。
【0032】
多孔質基材は、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましい。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ及びジルコニアであり、最も好ましくはアルミナである。これらの多孔質セラミックスを用いると緻密性に優れたLDH含有セパレータ層を形成しやすい。金属材料の好ましい例としては、アルミニウム及び亜鉛が挙げられる。高分子材料の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、親水化したフッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。上述した各種の好ましい材料から電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性に優れたものを適宜選択するのが更に好ましい。
【0033】
多孔質基材は0.001〜1.5μmの平均気孔径を有するのが好ましく、より好ましくは0.001〜1.25μm、さらに好ましくは0.001〜1.0μm、特に好ましくは0.001〜0.75μm、最も好ましくは0.001〜0.5μmである。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性を確保しながら、透水性を有しない程に緻密なLDH含有セパレータ層を形成することができる。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行うことができる。この測定に用いる電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得ることができる。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能や画像解析ソフト(例えば、Photoshop、Adobe社製)等を用いることができる。
【0034】
多孔質基材の表面は、10〜60%の気孔率を有するのが好ましく、より好ましくは15〜55%、さらに好ましくは20〜50%である。これらの範囲内とすることで多孔質基材に所望の透水性を確保しながら、透水性を有しない程に緻密なLDH含有セパレータ層を形成することができる。ここで、多孔質基材の表面の気孔率を採用しているのは、以下に述べる画像処理を用いた気孔率の測定がしやすいことによるものであり、多孔質基材の表面の気孔率は多孔質基材内部の気孔率を概ね表しているといえるからである。すなわち、多孔質基材の表面が緻密であれば多孔質基材の内部もまた同様に緻密であるといえる。本発明において、多孔質基材の表面の気孔率は画像処理を用いた手法により以下のようにして測定することができる。すなわち、1)多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とする。なお、この画像処理による気孔率の測定は多孔質基材表面の6μm×6μmの領域について行われるのが好ましく、より客観的な指標とするためには、任意に選択された3箇所の領域について得られた気孔率の平均値を採用するのがより好ましい。
【0035】
セパレータ層は、多孔質基材上及び/又は多孔質基材中、好ましくは多孔質基材上に形成される。例えば、
図7に示されるようにセパレータ層52が多孔質基材56上に形成される場合には、セパレータ層52はLDH緻密膜の形態であり、このLDH緻密膜は典型的にはLDHからなる。また、
図8に示されるようにセパレータ層52’が多孔質基材56中に形成される場合には、多孔質基材56中(典型的には多孔質基材56の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成されることから、セパレータ層52’は典型的には多孔質基材56の少なくとも一部及びLDHからなる。
図8に示されるセパレータ層52’は、
図7に示されるセパレータ層52における膜相当部分を研磨、切削等の公知の手法により除去することにより得ることができる。
【0036】
セパレータ層は透水性及び通気性を有しないのが好ましい。例えば、セパレータ層はその片面を25℃で1週間水と接触させても水を透過させず、また、その片面に0.5atmの内外差圧でヘリウムガスを加圧してもヘリウムガスを透過させない。すなわち、セパレータ層は透水性及び通気性を有しない程にまでLDHで緻密化されているのが好ましい。もっとも、局所的且つ/又は偶発的に透水性を有する欠陥が機能膜に存在する場合には、当該欠陥を適当な補修剤(例えばエポキシ樹脂等)で埋めて補修することで水不透性及び気体不透過性を確保してもよく、そのような補修剤は必ずしも水酸化物イオン伝導性を有する必要はない。いずれにしても、セパレータ層(典型的にはLDH緻密膜)の表面が20%以下の気孔率を有するのが好ましく、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは7%以下である。セパレータ層の表面の気孔率が低ければ低いほど、セパレータ層(典型的にはLDH緻密膜)の緻密性が高いことを意味し、好ましいといえる。ここで、セパレータ層の表面の気孔率を採用しているのは、以下に述べる画像処理を用いた気孔率の測定がしやすいことによるものであり、セパレータ層の表面の気孔率はセパレータ層内部の気孔率を概ね表しているといえるからである。すなわち、セパレータ層の表面が緻密であればセパレータ層の内部もまた同様に緻密であるといえる。本発明において、セパレータ層の表面の気孔率は画像処理を用いた手法により以下のようにして測定することができる。すなわち、1)セパレータ層の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とする。なお、この画像処理による気孔率の測定はセパレータ層表面の6μm×6μmの領域について行われるのが好ましく、より客観的な指標とするためには、任意に選択された3箇所の領域について得られた気孔率の平均値を採用するのがより好ましい。
【0037】
層状複水酸化物は複数の板状粒子(すなわちLDH板状粒子)の集合体で構成され、当該複数の板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面(基材面)と略垂直に又は斜めに交差するような向きに配向してなるのが好ましい。この態様は、
図7に示されるように、多孔質基材56上にセパレータ層52がLDH緻密膜として形成される場合に特に好ましく実現可能な態様であるが、
図8に示されるように、多孔質基材56中(典型的には多孔質基材56の表面及びその近傍の孔内)にLDHが緻密に形成され、それにより多孔質基材56の少なくとも一部がセパレータ層52’を構成する場合においても実現可能である。
【0038】
すなわち、LDH結晶は
図9に示されるような層状構造を持った板状粒子の形態を有することが知られているが、上記略垂直又は斜めの配向は、LDH含有セパレータ層(例えばLDH緻密膜)にとって極めて有利な特性である。というのも、配向されたLDH含有セパレータ層(例えば配向LDH緻密膜)には、LDH板状粒子が配向する方向(即ちLDHの層と平行方向)の水酸化物イオン伝導度が、これと垂直方向の伝導度よりも格段に高いという伝導度異方性があるためである。実際、本出願人は、LDHの配向バルク体において、配向方向における伝導度(S/cm)が配向方向と垂直な方向の伝導度(S/cm)と比べて1桁高いとの知見を得ている。すなわち、本態様のLDH含有セパレータ層における上記略垂直又は斜めの配向は、LDH配向体が持ちうる伝導度異方性を層厚方向(すなわちセパレータ層又は多孔質基材の表面に対して垂直方向)に最大限または有意に引き出すものであり、その結果、層厚方向への伝導度を最大限又は有意に高めることができる。その上、LDH含有セパレータ層は層形態を有するため、バルク形態のLDHよりも低抵抗を実現することができる。このような配向性を備えたLDH含有セパレータ層は、層厚方向に水酸化物イオンを伝導させやすくなる。その上、緻密化されているため、層厚方向への高い伝導度及び緻密性が望まれるセパレータに極めて適する。
【0039】
特に好ましくは、LDH含有セパレータ層(典型的にはLDH緻密膜)においてLDH板状粒子が略垂直方向に高度に配向してなる。この高度な配向は、セパレータ層の表面をX線回折法により測定した場合に、(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出されることで確認可能なものである(但し、(012)面に起因するピークと同位置に回折ピークが観察される多孔質基材を用いた場合には、LDH板状粒子に起因する(012)面のピークを特定できないことから、この限りでない)。この特徴的なピーク特性は、セパレータ層を構成するLDH板状粒子がセパレータ層に対して略垂直方向(すなわち垂直方向又はそれに類する斜め方向、好ましくは垂直方向)に配向していることを示す。すなわち、(003)面のピークは無配向のLDH粉末をX線回折した場合に観察される最も強いピークとして知られているが、配向LDH含有セパレータ層にあっては、LDH板状粒子がセパレータ層に対して略垂直方向に配向していることで(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出される。これは、(003)面が属するc軸方向(00l)面(lは3及び6である)がLDH板状粒子の層状構造と平行な面であるため、このLDH板状粒子がセパレータ層に対して略垂直方向に配向しているとLDH層状構造も略垂直方向を向くこととなる結果、セパレータ層表面をX線回折法により測定した場合に(00l)面(lは3及び6である)のピークが現れないか又は現れにくくなるからである。特に(003)面のピークは、それが存在する場合、(006)面のピークよりも強く出る傾向があるから、(006)面のピークよりも略垂直方向の配向の有無を評価しやすいといえる。したがって、配向LDH含有セパレータ層は、(003)面のピークが実質的に検出されないか又は(012)面のピークよりも小さく検出されるのが、垂直方向への高度な配向を示唆することから好ましいといえる。
【0040】
セパレータ層は100μm以下の厚さを有するのが好ましく、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下、最も好ましくは5μm以下である。このように薄いことでセパレータの低抵抗化を実現できる。セパレータ層が多孔質基材上にLDH緻密膜として形成されるのが好ましく、この場合、セパレータ層の厚さはLDH緻密膜の厚さに相当する。また、セパレータ層が多孔質基材中に形成される場合には、セパレータ層の厚さは多孔質基材の少なくとも一部及びLDHからなる複合層の厚さに相当し、セパレータ層が多孔質基材上及び中にまたがって形成される場合にはLDH緻密膜と上記複合層の合計厚さに相当する。いずれにしても、上記のような厚さであると、電池用途等への実用化に適した所望の低抵抗を実現することができる。LDH配向膜の厚さの下限値は用途に応じて異なるため特に限定されないが、セパレータ等の機能膜として望まれるある程度の堅さを確保するためには厚さ1μm以上であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上である。
【0041】
上述した多孔質基材付きLDHセパレータは、(a)多孔質基材を用意し、(b)所望により、この多孔質基材に、LDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させ、(c)多孔質基材に水熱処理を施してLDH膜を形成させることにより、好ましく製造することができる。
【0042】
(a)多孔質基材の用意
多孔質基材は、前述したとおりであり、セラミックス材料、金属材料、及び高分子材料からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましい。多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。この場合、セラミックス材料の好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、スピネル、カルシア、コージライト、ゼオライト、ムライト、フェライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、及びそれらの任意の組合せが挙げられ、より好ましくは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの任意の組合せであり、特に好ましくはアルミナ、ジルコニア(例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ))、及びその組合せである。これらの多孔質セラミックスを用いるとLDH膜の緻密性を向上しやすい傾向がある。セラミックス材料製の多孔質基材を用いる場合、超音波洗浄、イオン交換水での洗浄等を多孔質基材に施すのが好ましい。
【0043】
上述のとおり、多孔質基材は、セラミックス材料で構成されるのがより好ましい。セラミックス材料製の多孔質基材は、市販品であってもよいし、公知の手法に従って作製したものであってもよく、特に限定されない。例えば、セラミックス粉末(例えばジルコニア粉末、ベーマイト粉末、チタニア粉末等)、メチルセルロース、及びイオン交換水を所望の配合比で混練し、得られた混練物を押出成形に付し、得られた成形体を70〜200℃で10〜40時間乾燥した後、900〜1300℃で1〜5時間焼成することによりセラミックス材料製の多孔質基材を作製することができる。メチルセルロースの配合割合はセラミックス粉末100重量部に対して、1〜20重量部とするのが好ましい。また、イオン交換水の配合割合はセラミックス粉末100重量部に対して、10〜100重量部とするのが好ましい。
【0044】
(b)起点物質の付着
所望により、多孔質基材に、LDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させてもよい。このように起点物質を多孔質基材の表面に均一に付着させた後に、後続の工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH膜をムラなく均一に形成することができる。このような起点の好ましい例としては、LDHの層間に入りうる陰イオンを与える化学種、LDHの構成要素となりうる陽イオンを与える化学種、又はLDHが挙げられる。
【0045】
(i)陰イオンを与える化学種
LDHの結晶成長の起点は、LDHの層間に入りうる陰イオンを与える化学種であることができる。このような陰イオンの例としては、CO
32−、OH
−、SO
3−、SO
32−、SO
42−、NO
3−、Cl
−、Br
−、及びこれらの任意の組合せが挙げられる。したがって、このような起点を与えうる起点物質を、起点物質の種類に応じた適切な手法で均一に多孔質基材の表面に付着させればよい。表面に陰イオンを与える化学種が付与されることで、Mg
2+、Al
3+等の金属陽イオンが多孔質基材の表面に吸着してLDHの核が生成しうる。このため、後続の工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH膜をムラなく均一に形成することができる。
【0046】
本発明の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、多孔質基材の表面にポリマーを付着させた後、このポリマーに陰イオンを与える化学種を導入することにより行うことができる。この態様においては、陰イオンはSO
3−、SO
32−及び/又はSO
42−であるのが好ましく、このような陰イオンを与える化学種のポリマーへの導入がスルホン化処理により行われるのが好ましい。使用可能なポリマーはアニオン化(特にスルホン化)可能なポリマーであり、そのようなポリマーの例として、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。特に、芳香族系ポリマーがアニオン化(特にスルホン化)しやすい点で好ましく、そのような芳香族系ポリマーの例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。最も好ましいポリマーはポリスチレンである。多孔質基材へのポリマーの付着は、ポリマーを溶解させた溶液(以下、ポリマー溶液という)を多孔質基材の表面(好ましくは多孔質基材の板状概形の最表面を構成する粒子)に塗布することにより行われるのが好ましい。ポリマー溶液は、例えば、ポリマー固形物(例えばポリスチレン基板)を有機溶媒(例えばキシレン溶液)に溶解することにより容易に作製することができる。ポリマー溶液は多孔質基材の内部にまで浸透させないようにするのが、均一な塗布を実現しやすい点で好ましい。この点、ポリマー溶液の付着ないし塗布はスピンコートにより行うのが極めて均一に塗布できる点で好ましい。スピンコートの条件は特に限定されないが、例えば1000〜10000rpmの回転数で、滴下と乾燥を含めて60〜300秒間程度行えばよい。一方、スルホン化処理は、ポリマーを付着させた多孔質基材を、硫酸(例えば濃硫酸)、発煙硫酸、クロロスルホン酸、無水硫酸等のスルホン化可能な酸に浸漬すればよく、他のスルホン化技術を用いてもよい。スルホン化可能な酸への浸漬は室温又は高温(例えば50〜150℃)で行えばよく、浸漬時間は特に限定されないが、例えば1〜14日間である。
【0047】
本発明の別の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、陰イオンを与える化学種を親水基として含む界面活性剤で多孔質基材の表面を処理することにより行うことができる。この場合、陰イオンがSO
3−、SO
32−及び/又はSO
42−であるのが好ましい。そのような界面活性剤の典型的な例として、陰イオン界面活性剤が挙げられる。陰イオン界面活性剤の好ましい例としては、スルホン酸型陰イオン界面活性剤、硫酸エステル型陰イオン界面活性剤、及びそれらの任意の組合せが挙げられる。スルホン酸型陰イオン界面活性剤の例としては、ナフタレンスルホン酸Naホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンスルホコハク酸アルキル2Na、ポリスチレンスルホン酸Na、ジオクチルスルホコハク酸Na、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミンが挙げられる。硫酸エステル型陰イオン界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステルNaが挙げられる。多孔質基材の界面活性剤での処理は、多孔質基材の表面に界面活性剤を付着させることができる手法であれば特に限定されず、界面活性剤を含む溶液を多孔質基材に塗布する、又は界面活性剤を含む溶液に多孔質基材を浸漬することにより行えばよい。界面活性剤を含む溶液への多孔質基材の浸漬は、溶液を撹拌しながら室温又は高温(例えば40〜80℃)で行えばよく、浸漬時間は特に限定されないが、例えば1〜7日間である。
【0048】
(ii)陽イオンを与える化学種
LDHの結晶成長の起点は、層状複水酸化物の構成要素となりうる陽イオンを与える化学種であることができる。このような陽イオンの好ましい例としては、Al
3+が挙げられる。この場合、起点物質が、アルミニウムの酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物及びヒドロキシ錯体からなる群から選択される少なくとも1種のアルミニウム化合物であるのが好ましい。したがって、このような起点を与えうる起点物質を起点物質の種類に応じた適切な手法で均一に多孔質部材の表面に付着させればよい。表面に陽イオンを与える化学種が付与されることで、LDHの層間に入りうる陰イオンが多孔質基材の表面に吸着してLDHの核が生成しうる。このため、後続の工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH膜をムラなく均一に形成することができる。
【0049】
本発明の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、多孔質部材にアルミニウム化合物を含むゾルを塗布することにより行うことができる。この場合、好ましいアルミニウム化合物の例として、ベーマイト(AlOOH)、水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)、及び非晶質アルミナが挙げられるが、ベーマイトが最も好ましい。アルミニウム化合物を含むゾルの塗布はスピンコートにより行うのが極めて均一に塗布できる点で好ましい。スピンコートの条件は特に限定されないが、例えば1000〜10000rpmの回転数で、滴下と乾燥を含めて60〜300秒間程度行えばよい。
【0050】
本発明の別の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、少なくともアルミニウムを含む水溶液中で、多孔質基材に水熱処理を施して多孔質基材の表面にアルミニウム化合物を形成させることにより行うことができる。多孔質基材の表面に形成させるアルミニウム化合物は好ましくはAl(OH)
3である。特に、多孔質基材(特にセラミックス製多孔質基材)上のLDH膜は成長初期段階で結晶質及び/又は非晶質Al(OH)
3が生成する傾向があり、これを核としてLDHが成長しうる。そこで、このAl(OH)
3を予め水熱処理により多孔質基材の表面に均一に付着させた後に、同じく水熱処理を伴う工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH膜をムラなく均一に形成することができる。本態様においては、工程(b)及び後続の工程(c)を同一の密閉容器内で連続的に行ってもよいし、工程(b)及び後続の工程(c)をこの順で別々に行ってもよい。
【0051】
工程(b)及び工程(c)を同一の密閉容器内で連続的に行う場合には、後述する工程(c)で用いる原料水溶液(すなわちLDHの構成元素を含む水溶液)をそのまま工程(b)に用いることができる。この場合であっても、工程(b)における水熱処理を密閉容器(好ましくはオートクレーブ)中、酸性ないし中性のpH域(好ましくはpH5.5〜7.0)にて50〜70℃という比較的低温域で行うことにより、LDHではなく、Al(OH)
3の核形成を促すことができる。また、Al(OH)
3の核形成後、核形成温度での保持又は昇温により、尿素の加水分解が進むことで原料水溶液のpHが上昇していくため、LDHの成長に適したpH域(好ましくはpH7.0超)で工程(c)にスムーズに移行することができる。
【0052】
一方、工程(b)及び工程(c)をこの順で別々に行う場合には、工程(b)と工程(c)とで異なる原料水溶液を用いるのが好ましい。例えば、工程(b)では、Al源を主として含む(好ましくは他の金属元素を含まない)原料水溶液を用いてAl(OH)
3の核形成を行うのが好ましい。この場合、工程(b)における水熱処理を工程(c)とは別の密閉容器(好ましくはオートクレーブ)中、50〜120℃で行えばよい。Al源を主として含む原料水溶液の好ましい例としては、硝酸アルミニウムと尿素を含み、マグネシウム化合物(例えば硝酸マグネシウム)を含まない水溶液が挙げられる。Mgを含まない原料水溶液を用いることでLDHの析出を回避してAl(OH)
3の核形成を促すことができる。
【0053】
本発明の更に別の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、多孔質基材の表面にアルミニウムを蒸着した後に、水溶液中で、該アルミニウムを水熱処理によりアルミニウム化合物に変換することにより行うことができる。このアルミニウム化合物は好ましくはAl(OH)
3である。特に、Al(OH)
3に変換することで、これを核としてLDHの成長を促進させることができる。そこで、このAl(OH)
3を水熱処理により多孔質基材の表面に均一に形成させた後に、同じく水熱処理を伴う工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH膜をムラなく均一に形成することができる。アルミニウムの蒸着は物理蒸着及び化学蒸着のいずれであってもよいが、真空蒸着等の物理蒸着が好ましい。また、アルミニウムの変換のための水熱処理に用いる水溶液は、既に蒸着により与えられているAlと反応してAl(OH)
3を生成可能な組成であればよく、特に限定されない。
【0054】
(iii)起点としてのLDH
結晶成長の起点は、LDHであることができる。この場合、LDHの核を起点としてLDHの成長を促すことができる。そこで、このLDHの核を多孔質基材の表面に均一に付着させた後に、後続の工程(c)を行うことで、多孔質基材の表面に、高度に緻密化されたLDH膜をムラなく均一に形成することができる。
【0055】
本発明の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、LDHを含むゾルを多孔質部材の表面に塗布することにより行うことができる。LDHを含むゾルは、LDHを水等の溶媒に分散させて作製したものであってよく、特に限定されない。この場合、塗布はスピンコートにより行われるのが好ましい。スピンコートにより行うのが極めて均一に塗布できる点で好ましい。スピンコートの条件は特に限定されないが、例えば1000〜10000rpmの回転数で、滴下と乾燥を含めて60〜300秒間程度行えばよい。
【0056】
本発明の別の好ましい態様によれば、起点物質の付着を、多孔質基材の表面にアルミニウムを蒸着した後に、アルミニウム以外のLDHの構成元素を含む水溶液中で、(蒸着された)アルミニウムを水熱処理によりLDHに変換することにより行うことができる。アルミニウムの蒸着は物理蒸着及び化学蒸着のいずれであってもよいが、真空蒸着等の物理蒸着が好ましい。また、アルミニウムの変換のための水熱処理に用いる原料水溶液は、既に蒸着により与えられているAl以外の成分を含む水溶液を用いて行えばよい。そのような原料水溶液の好ましい例として、Mg源を主として含む原料水溶液が挙げられ、より好ましくは、硝酸マグネシウムと尿素を含み、アルミニウム化合物(硝酸アルミニウム)を含まない水溶液が挙げられる。Mg源を含むことで、既に蒸着により与えられているAlとともにLDHの核を形成することができる。
【0057】
(c)水熱処理
LDHの構成元素を含む原料水溶液中で、多孔質基材(所望により起点物質が付着されうる)に水熱処理を施して、LDH膜を多孔質基材の表面に形成させる。好ましい原料水溶液は、マグネシウムイオン(Mg
2+)及びアルミニウムイオン(Al
3+)を所定の合計濃度で含み、かつ、尿素を含んでなる。尿素が存在することで尿素の加水分解を利用してアンモニアが溶液中に発生することによりpH値が上昇し(例えばpH7.0超、好ましくは7.0を超え8.5以下)、共存する金属イオンが水酸化物を形成することによりLDHを得ることができる。また、加水分解に二酸化炭素の発生を伴うため、陰イオンが炭酸イオン型のLDHを得ることができる。原料水溶液に含まれるマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンの合計濃度(Mg
2++Al
3+)は0.20〜0.40mol/Lが好ましく、より好ましくは0.22〜0.38mol/Lであり、さらに好ましくは0.24〜0.36mol/L、特に好ましくは0.26〜0.34mol/Lである。このような範囲内の濃度であると核生成と結晶成長をバランスよく進行させることができ、配向性のみならず緻密性にも優れたLDH膜を得ることが可能となる。すなわち、マグネシウムイオン及びアルミニウムイオンの合計濃度が低いと核生成に比べて結晶成長が支配的となり、粒子数が減少して粒子サイズが増大する一方、この合計濃度が高いと結晶成長に比べて核生成が支配的となり、粒子数が増大して粒子サイズが減少するものと考えられる。
【0058】
好ましくは、原料水溶液に硝酸マグネシウム及び硝酸アルミニウムが溶解されており、それにより原料水溶液がマグネシウムイオン及びアルミニウムイオンに加えて硝酸イオンを含んでなる。そして、この場合、原料水溶液における、尿素の硝酸イオン(NO
3−)に対するモル比(尿素/NO
3−)が、2〜6が好ましく、より好ましくは4〜5である。
【0059】
多孔質基材は原料水溶液に所望の向きで(例えば水平又は垂直に)浸漬させればよい。多孔質基材を水平に保持する場合は、吊るす、浮かせる、容器の底に接するように多孔質基材を配置すればよく、例えば、容器の底から原料水溶液中に浮かせた状態で多孔質基材を固定としてもよい。多孔質基材を垂直に保持する場合は、容器の底に多孔質基材を垂直に設置できるような冶具を置けばよい。いずれにしても、多孔質基材にLDHを略垂直方向又はそれに近い方向(すなわちLDH板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面(基材面)と略垂直に又は斜めに交差するような向きに)に成長させる構成ないし配置とするのが好ましい。
【0060】
原料水溶液中で、多孔質基材に水熱処理を施して、LDH膜を多孔質基材の表面に形成させる。この水熱処理は密閉容器(好ましくはオートクレーブ)の中、60〜150℃で行われるのが好ましく、より好ましくは65〜120℃であり、さらに好ましくは65〜100℃であり、特に好ましくは70〜90℃である。水熱処理の上限温度は多孔質基材(例えば高分子基材)が熱で変形しない程度の温度を選択すればよい。水熱処理時の昇温速度は特に限定されず、例えば10〜200℃/hであってよいが、好ましくは100〜200℃/hである、より好ましくは100〜150℃/hである。水熱処理の時間はLDH膜の目的とする密度と厚さに応じて適宜決定すればよい。
【0061】
水熱処理後、密閉容器から多孔質基材を取り出し、イオン交換水で洗浄するのが好ましい。
【0062】
上記のようにして製造されたLDH膜は、LDH板状粒子が高度に緻密化したものであり、しかも伝導に有利な略垂直方向に配向したものである。すなわち、LDH膜は、典型的には、高度な緻密性に起因して透水性(望ましくは透水性及び通気性)を有しない。また、LDH膜を構成するLDHが複数の板状粒子の集合体で構成され、該複数の板状粒子がそれらの板面が多孔質基材の表面と略垂直に又は斜めに交差するような向きに配向してなるのが典型的である。したがって、十分なガスタイト性を有する緻密性を有するLDH膜を亜鉛空気電池等の電池に用いた場合、発電性能の向上が見込めると共に、従来適用できなかった電解液を用いる亜鉛空気電池の二次電池化の大きな障壁となっている亜鉛デンドライト進展阻止及び二酸化炭素侵入防止用セパレータ等への新たな適用が期待される。また、同様に亜鉛デンドライト進展が実用化の大きな障壁となっているニッケル亜鉛電池にも適用が期待される。
【0063】
ところで、上記製造方法により得られるLDH膜は多孔質基材の両面に形成されうる。このため、LDH膜をセパレータとして好適に使用可能な形態とするためには、成膜後に多孔質基材の片面のLDH膜を機械的に削るか、あるいは成膜時に片面にはLDH膜が成膜できないような措置を講ずるのが望ましい。
【実施例】
【0064】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。なお、以下に示される例の多くは、外周部材を有しない多孔質基材付きLDHセパレータの作製及び使用に関する参考例であるが、以下の参考例で確認される性能ないし評価は、本発明による外周部材を備えたセパレータ構造体を用いた二次電池にも同様に当てはまる。
【0065】
例1(参考):多孔質基材付きLDHセパレータの作製及び評価
(1)多孔質基材の作製
ベーマイト(サソール社製、DISPAL 18N4−80)、メチルセルロース、及びイオン交換水を、(ベーマイト):(メチルセルロース):(イオン交換水)の質量比が10:1:5となるように秤量した後、混練した。得られた混練物を、ハンドプレスを用いた押出成形に付し、5cm×8cmを十分に超える大きさで且つ厚さ0.5cmの板状に成形した。得られた成形体を80℃で12時間乾燥した後、1150℃で3時間焼成して、アルミナ製多孔質基材を得た。こうして得られた多孔質基材を5cm×8cmの大きさに切断加工した。
【0066】
得られた多孔質基材について、画像処理を用いた手法により、多孔質基材表面の気孔率を測定したところ、24.6%であった。この気孔率の測定は、1)表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察して多孔質基材表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は多孔質基材表面の6μm×6μmの領域について行われた。なお、
図10に多孔質基材表面のSEM画像を示す。
【0067】
また、多孔質基材の平均気孔径を測定したところ約0.1μmであった。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行った。この測定に用いた電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得た。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能を用いた。
【0068】
(2)多孔質基材の洗浄
得られた多孔質基材をアセトン中で5分間超音波洗浄し、エタノール中で2分間超音波洗浄、その後、イオン交換水中で1分間超音波洗浄した。
【0069】
(3)原料水溶液の作製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO
3)
2・6H
2O、関東化学株式会社製)、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO
3)
3・9H
2O、関東化学株式会社製)、及び尿素((NH
2)
2CO、シグマアルドリッチ製)を用意した。カチオン比(Mg
2+/Al
3+)が2となり且つ全金属イオンモル濃度(Mg
2++Al
3+)が0.320mol/Lとなるように、硝酸マグネシウム六水和物と硝酸アルミニウム九水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を600mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO
3−=4の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0070】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(内容量800ml、外側がステンレス製ジャケット)に上記(3)で作製した原料水溶液と上記(2)で洗浄した多孔質基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度70℃で168時間(7日間)水熱処理を施すことにより基材表面に層状複水酸化物配向膜(セパレータ層)の形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、層状複水酸化物(以下、LDHという)の緻密膜(以下、膜試料という)を基材上に得た。得られた膜試料の厚さは約1.5μmであった。こうして、層状複水酸化物含有複合材料試料(以下、複合材料試料という)を得た。なお、LDH膜は多孔質基材の両面に形成されていたが、セパレータとして形態を複合材料に付与するため、多孔質基材の片面のLDH膜を機械的に削り取った。
【0071】
(5)各種評価
(5a)膜試料の同定
X線回折装置(リガク社製 RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10〜70°の測定条件で、膜試料の結晶相を測定したところ、
図11に示されるXRDプロファイルが得られた。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35−0964に記載される層状複水酸化物(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定した。その結果、膜試料は層状複水酸化物(LDH、ハイドロタルサイト類化合物)であることが確認された。なお、
図11に示されるXRDプロファイルにおいては、膜試料が形成されている多孔質基材を構成するアルミナに起因するピーク(図中で○印が付されたピーク)も併せて観察されている。
【0072】
(5b)微構造の観察
膜試料の表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察した。得られた膜試料の表面微構造のSEM画像(二次電子像)を
図12に示す。
【0073】
また、複合材料試料の断面をCP研磨によって研磨して研磨断面を形成し、この研磨断面の微構造を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察した。こうして得られた複合材料試料の研磨断面微構造のSEM画像を
図13に示す。
【0074】
(5c)気孔率の測定
膜試料について、画像処理を用いた手法により、膜の表面の気孔率を測定した。この気孔率の測定は、1)表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察して膜の表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は配向膜表面の6μm×6μmの領域について行われた。その結果、膜の表面の気孔率は19.0%であった。また、この膜表面の気孔率を用いて、膜表面から見たときの密度D(以下、表面膜密度という)をD=100%−(膜表面の気孔率)により算出したところ、81.0%であった。
【0075】
また、膜試料について、研磨断面の気孔率についても測定した。この研磨断面の気孔率についても測定は、上記(5b)に示される手順に従い膜の厚み方向における断面研磨面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得したこと以外は、上述の膜表面の気孔率と同様にして行った。この気孔率の測定は配向膜断面の膜部分について行われた。こうして膜試料の断面研磨面から算出した気孔率は平均で3.5%(3箇所の断面研磨面の平均値)であり、多孔質基材上でありながら非常に高密度な膜が形成されていることが確認された。
【0076】
(5d)緻密性判定試験I
膜試料が透水性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、
図14Aに示されるように、上記(1)において得られた複合材料試料120(1cm×1cm平方に切り出されたもの)の膜試料側に、中央に0.5cm×0.5cm平方の開口部122aを備えたシリコンゴム122を接着し、得られた積層物を2つのアクリル製容器124,126で挟んで接着した。シリコンゴム122側に配置されるアクリル製容器124は底が抜けており、それによりシリコンゴム122はその開口部122aが開放された状態でアクリル製容器124と接着される。一方、複合材料試料120の多孔質基材側に配置されるアクリル製容器126は底を有しており、その容器126内にはイオン交換水128が入っている。この時、イオン交換水にAl及び/又はMgを溶解させておいてもよい。すなわち、組み立て後に上下逆さにすることで、複合材料試料120の多孔質基材側にイオン交換水128が接するように各構成部材が配置されてなる。これらの構成部材等を組み立て後、総重量を測定した。これらの構成部材等を組み立て後、総重量を測定した。なお、容器126には閉栓された通気穴(図示せず)が形成されており、上下逆さにした後に開栓されることはいうまでもない。
図14Bに示されるように組み立て体を上下逆さに配置して25℃で1週間保持した後、総重量を再度測定した。このとき、アクリル製容器124の内側側面に水滴が付着している場合には、その水滴を拭き取った。そして、試験前後の総重量の差を算出することにより緻密度を判定した。その結果、25℃で1週間保持した後においても、イオン交換水の重量に変化は見られなかった。このことから、膜試料(すなわち機能膜)は透水性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
【0077】
(5e)緻密性判定試験II
膜試料が通気性を有しない程の緻密性を有することを確認すべく、緻密性判定試験を以下のとおり行った。まず、
図15A及び15Bに示されるように、蓋の無いアクリル容器130と、このアクリル容器130の蓋として機能しうる形状及びサイズのアルミナ治具132とを用意した。アクリル容器130にはその中にガスを供給するためのガス供給口130aが形成されている。また、アルミナ治具132には直径5mmの開口部132aが形成されており、この開口部132aの外周に沿って膜試料載置用の窪み132bが形成されてなる。アルミナ治具132の窪み132bにエポキシ接着剤134を塗布し、この窪み132bに複合材料試料136の膜試料136b側を載置してアルミナ治具132に気密かつ液密に接着させた。そして、複合材料試料136が接合されたアルミナ治具132を、アクリル容器130の開放部を完全に塞ぐようにシリコーン接着剤138を用いて気密かつ液密にアクリル容器130の上端に接着させて、測定用密閉容器140を得た。この測定用密閉容器140を水槽142に入れ、アクリル容器130のガス供給口130aを圧力計144及び流量計146に接続して、ヘリウムガスをアクリル容器130内に供給可能に構成した。水槽142に水143を入れて測定用密閉容器140を完全に水没させた。このとき、測定用密閉容器140の内部は気密性及び液密性が十分に確保されており、複合材料試料136の膜試料136b側が測定用密閉容器140の内部空間に露出する一方、複合材料試料136の多孔質基材136a側が水槽142内の水に接触している。この状態で、アクリル容器130内にガス供給口130aを介してヘリウムガスを測定用密閉容器140内に導入した。圧力計144及び流量計146を制御して膜試料136b内外の差圧が0.5atmとなる(すなわちヘリウムガスに接する側に加わる圧力が反対側に加わる水圧よりも0.5atm高くなる)ようにして、複合材料試料136から水中にヘリウムガスの泡が発生するか否かを観察した。その結果、ヘリウムガスに起因する泡の発生は観察されなかった。よって、膜試料136bは通気性を有しない程に高い緻密性を有することが確認された。
【0078】
例2(参考):ニッケル亜鉛二次電池の作製及び評価
(1)多孔質基材付きセパレータの用意
例1と同様の手順により、多孔質基材付きセパレータとして、アルミナ基材上LDH膜(サイズ:5cm×8cm)を用意した。
【0079】
(2)正極板の作製
亜鉛及びコバルトを固溶体となるように添加した水酸化ニッケル粒子を用意した。この水酸化ニッケル粒子を水酸化コバルトで被覆して正極活物質を得た。得られた正極活物質と、カルボキシメチルセルロースの2%水溶液とを混合してペーストを調製した。正極活物質の多孔度が50%となるように、多孔度が約95%のニッケル金属多孔質基板からなる集電体に上記得られたペーストを均一に塗布して乾燥し、活物質部分が5cm×5cmの領域にわたって塗工された正極板を得た。このとき、4Ah相当の水酸化ニッケル粒子が活物質中に含まれるように塗工量を調整した。
【0080】
(3)負極板の作製
銅パンチングメタルからなる集電体上に、酸化亜鉛粉末80重量部、亜鉛粉末20重量部及びポリテトラフルオロエチレン粒子3重量部からなる混合物を塗布して、多孔度約50%で、活物質部分が5cm×5cmの領域にわたって塗工された負極板を得た。このとき、正極板容量の4Ah相当の酸化亜鉛粉末が活物質中に含まれるように塗工量を調整した。
【0081】
(4)電池の組み立て
上記得られた正極板、負極板、及び多孔質基材付きセパレータを用いて、
図1に示されるようなニッケル亜鉛二次電池を以下のような手順で組み立てた。
【0082】
まず、ケース上蓋が外されたABS樹脂製の直方体ケース本体を用意した。このケース本体の中央付近に多孔質基材付きセパレータ(アルミナ基材上LDH膜)を挿入し、その3辺をエポキシ樹脂系接着剤(セメダイン社製、EP008)を用いてケース本体の内壁に固定した。正極板及び負極板を正極室及び負極室にそれぞれ挿入した。このとき、正極集電体及び負極集電体がケース本体内壁に接するような向きで正極板及び負極板を配置した。正極室に、正極活物質塗工部分が十分に隠れる量の6mol/LのKOH水溶液を電解液として注液した。一方、負極室には、負極活物質塗工部分が十分に隠れるだけでなく、充電時に減少することが見込まれる水分量を考慮した過剰量の6mol/LのKOH水溶液を電解液として注液した。正極集電体及び負極集電体の端子部をそれぞれケース上部の外部端子と接続した。ケース上蓋を熱融着でケース本体に固定して、電池ケース容器を密閉化した。こうしてニッケル亜鉛二次電池を得た。なお、この電池においては、セパレータのサイズが幅5cm×高さ8cmであり、かつ、正極板及び負極板の活物質塗工部分のサイズが幅5cm×高さ5cmであるため、正極室及び負極室の上部3cm相当の空間が正極側余剰空間及び負極側余剰空間といえる。
【0083】
(5)評価
作製したニッケル亜鉛二次電池に対して、設計容量4Ahの0.1C相当の0.4mAの電流で10時間定電流充電を実施した。充電により、正極室電解液が増加し、負極室電解液が減少したものの、負極活物質塗工部分には十分な電解液があり、充放電を通して、塗工した正極活物質及び負極活物質が、十分な充放電反応を起こす電解液をケース内に保持できていた。多孔質基材付きセパレータはABS樹脂製の直方体ケース本体に良好な接着状態で接合が保持されていた。
【0084】
例3(参考):亜鉛空気二次電池の作製
(1)多孔質基材付きセパレータの用意
例1と同様の手順により、多孔質基材付きセパレータ(以下、単にセパレータという)として、アルミナ基材上LDH膜を用意した。
【0085】
(2)空気極層の作製
空気極触媒としてのα−MnO
2粒子を次のようにして作製した。まず、Mn(SO
4)・5H
2O及びKMnO
4を5:13のモル比で脱イオン水に溶かして混合した。得られた混合液をテフロン(登録商標)が内貼りされたステンレス製密閉容器に入れ、140℃で水熱合成を2時間行う。水熱合成により得られた沈殿物をろ過し、蒸留水で洗浄した後、80℃で6時間乾燥した。こうしてα−MnO
2の粉末を得た。
【0086】
水酸化物イオン伝導性材料としての層状複水酸化物粒子(以下、LDH粒子という)を次のようにして作製した。まず、Ni(NO
3)
2・6H
2O及びFe(NO
3)
3・9H
2Oを脱イオン水にNi:Fe=3:1のモル比になるように溶かして混合した。得られた混合液を70℃で0.3MのNa
2CO
3溶液に撹拌しながら滴下した。この際、2MのNaOH溶液を加えながら混合液のpHを10に調整して、70℃で24時間保持する。混合液中に生成した沈殿物をろ過し、蒸留水で洗浄後、80℃で乾燥してLDHの粉末を得た。
【0087】
先に得られたα−MnO
2粒子及びLDH粒子、並びに電子伝導性材料としてのカーボンブラック(Cabot社製、品番VXC72)を所定の配合比となるように秤量して、エタノール溶媒の共存下で湿式混合した。得られた混合物を70℃で乾燥した後、解砕する。得られた解砕粉をバインダー(PTFE、エレクトロケム社製、品番EC−TEF−500ML)及び水と混合してフィブリル化した。このとき、水の添加量は空気極に対して1質量%とした。こうして得られたフィブリル状混合物を厚さ50μmとなるように集電体(カーボンクロス(エレクトロケム社製、品番EC−CC1−060T))にシート状に圧着して空気極層/集電体の積層シートを得た。こうして得られた空気極層は、電子伝導相(カーボンブラック)を20体積%、触媒層(α−MnO
2粒子)を5体積%、水酸化物イオン伝導相(LDH粒子)を70体積%及びバインダー相(PTFE)を5体積%含むものであった。
【0088】
(3)セパレータ付き空気極の作製
アニオン交換膜(アストム社、ネオセプタAHA)を1MのNaOH水溶液に一晩浸漬させた。このアニオン交換膜をセパレータのLDH膜上に中間層として積層して、セパレータ/中間層積層体を得る。中間層の厚さは30μmである。得られたセパレータ/中間層積層体に、先に作製した空気極層/集電体の積層シートを、空気極層側が中間層と接するように圧着して、セパレータ付き空気極試料を得る。
【0089】
(4)負極板の作製
銅パンチングメタルからなる集電体上に、酸化亜鉛粉末80重量部、亜鉛粉末20重量部及びポリテトラフルオロエチレン粒子3重量部からなる混合物を塗布して、多孔度約50%で活物質部分が塗工された負極板を得る。
【0090】
(5)第三電極の作製
ニッケルメッシュからなる集電体上に白金ペーストを塗布して、第三電極を得る。
【0091】
(6)電池の組み立て
上記得られたセパレータ付き空気極、負極板、及び第三電極を用いて、
図3Aに示されるような横型構造の亜鉛空気二次電池を以下のような手順で作製する。まず、ABS樹脂製で直方体形状を有する蓋の無い容器(以下、樹脂容器という)を用意する。この樹脂容器の底に負極板を、負極活物質が塗工された側が上を向くように載置する。このとき、負極集電体が樹脂容器の底部に接しており、負極集電体の端部が樹脂容器側面に貫通して設けられる外部端子と接続する。次に、樹脂容器内壁の負極板の上面よりも高い位置に(すなわち負極板と接触せず充放電反応に関与しない位置)に第三電極を設け、不織布セパレータを第三電極と接触するように配置する。樹脂容器の開口部をセパレータ付き空気極で空気極側が外側になるように塞ぎ、その際、開口部の外周部分にエポキシ樹脂系接着剤(セメダイン社製、EP008)を塗工して気密性及び液密性を与えるように封止して接着する。樹脂容器の上端近傍に設けられた小さな注入口を介して樹脂容器内に6mol/LのKOH水溶液を電解液として注入する。こうして、セパレータが電解液と接触するとともに、不織布セパレータの保液性により電解液の増減に関わらず電解液が第三電極に常時接触可能な状態とされる。このとき、注入する電解液の量は、放電末状態で電池を作製すべく、樹脂容器内で負極活物質塗工部分が十分に隠れるだけでなく、充電時に減少することが見込まれる水分量を考慮した過剰量とする。したがって、樹脂容器は上記過剰量の電解液を収容できるように設計されている。最後に、樹脂容器の注入口を封止する。こうして樹脂容器及びセパレータで区画された内部空間は気密且つ液密に密閉されている。最後に第三電極と空気極の集電層とを外部回路を介して接続する。こうして亜鉛空気二次電池を得る。
【0092】
かかる構成によれば、セパレータが水及び気体を通さない程の高度な緻密性を有するため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止し、かつ、空気中の二酸化炭素の侵入を阻止して電解液中での(二酸化炭素に起因する)アルカリ炭酸塩の析出を防止することができる。その上、負極34から副反応により発生しうる水素ガスを第三電極38に接触させて前述した反応を経て水に戻すことができる。すなわち、亜鉛デンドライトによる短絡及び二酸化炭素の混入の両方を防止するのに好適な構成を有しながら、水素ガス発生の問題にも対処可能な、信頼性の高い亜鉛空気二次電池が提供される。
【0093】
例4:セパレータ構造体の作製
例1と同様の手順により、多孔質基材付きセパレータとして、アルミナ基材上LDH膜を用意した。
図6A及び16に示されるように、多孔質基材56付きセパレータ52のセパレータ52側(すなわちLDH膜側)の外縁に沿って変性ポリフェニレンエーテル樹脂製の外枠58aを載置した。このとき、外枠58aは正方形の枠であり、その内周縁には段差が設けられており、この段差に多孔質基材56及びセパレータ52の外縁を嵌合させた。この外枠58a上に樹脂フィルム58bとしてラミネートフィルム(アズワン社製、製品名:バキュームシーラー用ポリ袋、厚さ:50μm、材質:PP樹脂(ベースフィルム)及びPE樹脂(熱可塑性樹脂))を載置した。この樹脂フィルム58bは予め中央に開口部58cが形成されており、この開口部58cが外枠58a内の開放領域に対応するように樹脂フィルム58bを配置した。樹脂製の外枠58a、樹脂フィルム59b、及び多孔質基材56付きセパレータ52の接合部分を、市販のヒートシール機を用いて約200℃で熱融着封止した。こうして作製されたセパレータ構造体の写真が
図17に示される。
図17において点線で示される領域Hが熱融着封止が行われた領域であり、この領域における液密性が確保される。
【0094】
例5(参考):多孔質基材付きLDHセパレータの作製及び評価
本例では、多孔質基材上に層状複水酸化物(LDH)緻密膜を形成したLDH含有複合材料試料(多孔質基材付きセパレータ試料)として試料1〜10を以下のようにして作製した。
【0095】
(1)多孔質基材の作製
ベーマイト(サソール社製、DISPAL 18N4−80)、メチルセルロース、及びイオン交換水を、(ベーマイト):(メチルセルロース):(イオン交換水)の質量比が10:1:5となるように秤量した後、混練した。得られた混練物を、ハンドプレスを用いた押出成形に付し、2.5cm×10cm×厚さ0.5cmの大きさに成形した。得られた成形体を80℃で12時間乾燥した後、1150℃で3時間焼成して、アルミナ製多孔質基材を得た。
【0096】
得られた多孔質基材について、画像処理を用いた手法により、多孔質基材表面の気孔率を測定したところ、24.6%であった。この気孔率の測定は、1)表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察して多孔質基材表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定は多孔質基材表面の6μm×6μmの領域について行われた。
【0097】
また、多孔質基材の平均気孔径を測定したところ約0.1μmであった。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行った。この測定に用いた電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得た。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能を用いた。
【0098】
(2)多孔質基材の洗浄
得られた多孔質基材をアセトン中で5分間超音波洗浄し、エタノール中で2分間超音波洗浄、その後、イオン交換水中で1分間超音波洗浄した。
【0099】
(3)ポリスチレンスピンコート及びスルホン化
試料1〜6についてのみ、以下の手順により多孔質基材に対してポリスチレンスピンコート及びスルホン化を行った。すなわち、ポリスチレン基板0.6gをキシレン溶液10mlに溶かして、ポリスチレン濃度0.06g/mlのスピンコート液を作製した。得られたスピンコート液0.1mlを多孔質基材上に滴下し、回転数8000rpmでスピンコートにより塗布した。このスピンコートは、滴下と乾燥を含めて200秒間行った。スピンコート液を塗布した多孔質基材を95%硫酸に25℃で4日間浸漬してスルホン化した。
【0100】
(4)原料水溶液の作製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO
3)
2・6H
2O、関東化学株式会社製)、硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO
3)
3・9H
2O、関東化学株式会社製)、及び尿素((NH
2)
2CO、シグマアルドリッチ製)を用意した。カチオン比(Mg
2+/Al
3+)が2となり且つ全金属イオンモル濃度(Mg
2++Al
3+)が0.320mol/Lとなるように、硝酸マグネシウム六水和物と硝酸アルミニウム九水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO
3−=4の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0101】
(5)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に上記(4)で作製した原料水溶液と上記(3)でスルホン化した多孔質基材(試料1〜6)又は上記(2)で洗浄した多孔質基材(試料7〜10)を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように水平に設置した。その後、水熱温度70〜75℃で168〜504時間水熱処理を施すことにより基材表面に層状複水酸化物配向膜の形成を行った。このとき、水熱処理の条件を適宜変更することにより、様々な緻密性を有する10種類の配向膜を作製した。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、70℃で10時間乾燥させて、層状複水酸化物(以下、LDHという)の緻密膜(以下、膜試料という)を基材上に得た。得られた膜試料の厚さは約1.0〜2.0μmであった。こうして、LDH含有複合材料試料(以下、複合材料試料という)として試料1〜10を得た。なお、LDH膜は多孔質基材の両面に形成されていたが、セパレータとしての形態を複合材料に付与するため、多孔質基材の片面のLDH膜を機械的に削り取った。
【0102】
(6a)膜試料の同定
X線回折装置(リガク社製 RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:10〜70°の測定条件で、膜試料の結晶相を測定してXRDプロファイルを得る。得られたXRDプロファイルについて、JCPDSカードNO.35−0964に記載される層状複水酸化物(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて同定を行った。その結果、膜試料1〜10のいずれも層状複水酸化物(LDH、ハイドロタルサイト類化合物)であることが確認された。
【0103】
(6b)He透過測定
He透過性の観点から膜試料1〜10の緻密性を評価すべくHe透過試験を以下のとおり行った。まず、
図18A及び
図18Bに示されるHe透過度測定系310を構築した。He透過度測定系310は、Heガスを充填したガスボンベからのHeガスが圧力計312及び流量計314(デジタルフローメーター)を介して試料ホルダ316に供給され、この試料ホルダ316に保持された緻密膜318の一方の面から他方の面に透過させて排出させるように構成した。
【0104】
試料ホルダ316は、ガス供給口316a、密閉空間316b及びガス排出口316cを備えた構造を有するものであり、次のようにして組み立てた。まず、緻密膜318の外周に沿って接着剤322を塗布して、中央に開口部を有する治具324(ABS樹脂製)に取り付けた。この治具324の上端及び下端に密封部材326a,326bとしてブチルゴム製のパッキンを配設し、さらに密封部材326a,326bの外側から、フランジからなる開口部を備えた支持部材328a,328b(PTFE製)で挟持した。こうして、緻密膜318、治具324、密封部材326a及び支持部材328aにより密閉空間316bを区画した。なお、緻密膜318は多孔質基材320上に形成された複合材料の形態であるが、緻密膜318側がガス供給口316aに向くように配置した。支持部材328a,328bを、ガス排出口316c以外の部分からHeガスの漏れが生じないように、ネジを用いた締結手段330で互いに堅く締め付けた。こうして組み立てられた試料ホルダ316のガス供給口316aに、継手332を介してガス供給管334を接続した。
【0105】
次いで、He透過度測定系310にガス供給管334を経てHeガスを供給し、試料ホルダ316内に保持された緻密膜318に透過させた。このとき、圧力計312及び流量計314によりガス供給圧と流量をモニタリングした。Heガスの透過を1〜30分間行った後、He透過度を算出した。He透過度の算出は、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm
3/min)、Heガス透過時に緻密膜に加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm
2)を用いて、F/(P×S)の式により算出した。Heガスの透過量F(cm
3/min)は流量計314から直接読み取った。また、差圧Pは圧力計312から読み取ったゲージ圧を用いた。なお、Heガスは差圧Pが0.05〜0.90atmの範囲内となるように供給された。得られた結果は表1及び
図20に示されるとおりであった。
【0106】
(6c)Zn透過試験
Zn透過性の観点から膜試料1〜10の緻密性を評価すべく、Zn透過試験を以下のとおり行った。まず、
図19A及び
図19Bに示されるZn透過測定装置340を構築した。Zn透過測定装置340は、L字状の開口管で構成される第一槽344にフランジ362aが一体化されたフランジ付き開口管(PTFE製)と、L字状の管で構成される第二槽346にフランジ362bが一体化されたフランジ付き開口管(PTFE製)とをフランジ362a,362bが対向するように配置し、その間に試料ホルダ342を配置し、試料ホルダ342に保持された緻密膜の一方の面から他方の面にZnが透過可能な構成とした。
【0107】
試料ホルダ342の組み立て及びその装置340への取り付けは、次のようにして行った。まず、緻密膜352の外周に沿って接着剤356を塗布して、中央に開口部を有する治具358(ABS樹脂製)に取り付けた。この治具358の両側に
図19Aに示されるように密封部材360a,360bとしてシリコーンゴム製のパッキンを配設し、さらに密封部材360a,360bの外側から、1対のフランジ付き開口管のフランジ362a,362bで挟持した。なお、緻密膜352は多孔質基材354上に形成された複合材料の形態であるが、緻密膜352側が(Znを含有する第一の水溶液348が注入されることになる)第一槽344に向くように配置した。フランジ362a,362bをその間で液漏れが生じないように、ネジを用いた締結手段364で互いに堅く締め付けた。
【0108】
一方、第一槽344に入れるための第一の水溶液348として、Al(OH)
3を2.5mol/L、ZnOを0.5mol/Lを溶解させた9mol/LのKOH水溶液を調製した。第一の水溶液のZn濃度C
1(mol/L)をICP発光分光分析法により測定したところ、表1に示される値であった。また、第二槽346に入れるための第二の水溶液350として、ZnOを溶解させることなく、Al(OH)
3を2.5mol/Lを溶解させた9mol/LのKOH水溶液を調製した。先に作製した試料ホルダ342が組み込まれた測定装置340において、第一槽344及び第二槽346にそれぞれ第一の水溶液348及び第二の水溶液350を注入し、試料ホルダ342に保持された緻密膜352にZnを透過させた。この状態でZn透過を表1に示される時間tで行った後、第二の水溶液の液量V
2(ml)を測定し、第二の水溶液350のZn濃度C
2(mol/L)をICP発光分光分析法により測定した。得られた値を用いてZn透過割合を算出した。Zn透過割合は、Zn透過開始前の第一の水溶液のZn濃度C
1(mol/L)、Zn透過開始前の第一の水溶液の液量V
1(ml)、Zn透過終了後の第二の水溶液のZn濃度C
2(mol/L)、Zn透過終了後の第二の水溶液の液量V
2(ml)、Znの透過時間t(min)、及びZnが透過する膜面積S(cm
2)を用いて、(C
2×V
2)/(C
1×V
1×t×S)の式により算出した。得られた結果は表1及び
図20に示されるとおりであった。
【0109】
【表1】
亜鉛二次電池に用いられるセパレータ構造体が提供される。このセパレータ構造体は、無機固体電解質体からなる、水酸化物イオン伝導性を有するが透水性を有しないセラミックスセパレータと、セラミックスセパレータの外周に沿って設けられ、樹脂製の外枠及び樹脂フィルムの少なくともいずれか一方からなる外周部材とを備える。セパレータ構造体は全体として透水性を有しない。本発明によれば、亜鉛二次電池の正極側と負極側を確実に仕切ることが可能なセパレータ構造体を、樹脂製の電池容器に封止接合させやすく、かつ、電池組み立て時のハンドリング性が大幅に向上された形態で提供することができる。