特許第5989946号(P5989946)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5989946ステレオコンプレックスポリ乳酸成形品の製造方法及び製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989946
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】ステレオコンプレックスポリ乳酸成形品の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 47/38 20060101AFI20160825BHJP
   B29B 7/88 20060101ALI20160825BHJP
   B29B 7/38 20060101ALI20160825BHJP
   B29B 7/84 20060101ALI20160825BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20160825BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20160825BHJP
   B29K 67/00 20060101ALN20160825BHJP
【FI】
   B29C47/38
   B29B7/88
   B29B7/38
   B29B7/84
   C08L67/04
   !C08L101/16
   B29K67:00
【請求項の数】1
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-223729(P2012-223729)
(22)【出願日】2012年10月7日
(65)【公開番号】特開2013-252694(P2013-252694A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年8月25日
(31)【優先権主張番号】特願2011-223520(P2011-223520)
(32)【優先日】2011年10月9日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 成形加工‘12 Preprints of Seikei−kakou Annual Meeting JUNE12〜13,2012.TOKYO プラスチック成形加工学会、発行日:平成24年6月5日第155〜156頁
(73)【特許権者】
【識別番号】000136745
【氏名又は名称】株式会社プラスチック工学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】100122828
【弁理士】
【氏名又は名称】角谷 哲生
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 元
(72)【発明者】
【氏名】木村 良晴
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 昌典
(72)【発明者】
【氏名】鬼防 崇
(72)【発明者】
【氏名】坂上 守
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−006040(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/020940(WO,A1)
【文献】 特許第5104996(JP,B2)
【文献】 国際公開第2011/092989(WO,A1)
【文献】 特開2010−006041(JP,A)
【文献】 特開2010−260900(JP,A)
【文献】 特開2011−153275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/00− 7/94
B29C47/00−47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを押出機に供給し、樹脂可塑化ガスを亜臨界または超臨界状態で前記押出機中の前記ポリ乳酸に圧入して前記樹脂可塑化ガスの存在下ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを混練し、生成したステレオコンプレックスポリ乳酸から前記押出機に設けられたベント口より前記樹脂可塑化ガスを脱ガスし、前記押出機に取り付けた金型で押出成形して押出成形品を製造するステレオコンプレックスポリ乳酸押出成形品の製造方法において、前記押出機に取り付けた金型の温度が生成したステレオコンプレックスポリ乳酸の融点以下であることを特徴とするステレオコンプレックスポリ乳酸押出成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸の光学異性体を用いてステレオコンプレックスポリ乳酸成形品を製造するステレオコンプレックスポリ乳酸押出成形品の製造方法関する。
【背景技術】
【0002】
環境調和性プラスチックであるポリ乳酸(PLA)には、L体であるポリ−L−乳酸(以下「PLLA」と記すこともある)とD体であるポリ−D−乳酸(以下「PDLA」と記すこともある)の二種の光学異性体が存在し、原料天然物がL体のPLLAが主に汎用プラスチックとして実用化が進んでいる。更なる広範な用途に対応すべくエンジニアリングプラスチック用途への展開が要請されている。このためには、PLAの耐熱性及び弾性の向上が課題である。この解決策として、PLLAとPDLAのラセミ結晶であるステレオコンプレックスポリ乳酸が注目されている。ステレオコンプレックスポリ乳酸が効率的に生産できればポリ乳酸の品質がエンジニアリングプラスチック級に到達し、広範な範囲で構造基材として利用が可能となる。
【0003】
実験室レベルではキャスト法、溶融法によりステレオコンプレックスポリ乳酸が得られているが、工業的な生産方法としての連続押出成形での高効率なステレオコンプレックスポリ乳酸の発現は、未だ確立されていない。高配向繊維や高配向性フィルムなどの製品形態に応じた後配向プロセスを加えた汎用性の低い成形プロセスが提案されているに過ぎない。しかも、成形中の熱分解による分子量低下および着色、エステル交換反応によるラセミシーケンスの増加と結晶性の低下、及び再現性の低い生産プロセスなどの問題が未解決である。以下、PLLAとPDLAとからステレオコンプレックスポリ乳酸を製造するための先行技術について説明する。
【0004】
成形品の品質確保にはステレオコンプレックスポリ乳酸は分子量10万以上が必要である。PLLAとPDLAとを溶液状態で混合することにより、ステレオコンプレックスポリ乳酸が形成されることが知られているが、溶液状態から析出させる必要があり生産性に問題がある。また、この方法ではフィルム状の成形品に限定され、連続的な加工でないことなどから、コストパフォーマンスも悪い。そこで、工業的生産方法として加熱混練法が検討されている。
【0005】
特許文献1には、PLLAとPDLAとを混合し、270〜300℃で0.2〜60分熱処理することによりステレオコンプレックスポリ乳酸を製造することができると記載されている。しかしこのような高温の熱処理時にはエステル交換反応や熱分解が生じ、得られるステレオコンプレックスポリ乳酸成形体は強度や耐湿熱安定性に問題があり、また色相の悪化を抑制できない。
【0006】
特許文献2には、透明性、色相、耐湿熱安定性改善のために、PLLAとPDLAとを230〜300℃で溶融混練してポリ乳酸組成物を製造する方法において、溶融混練する際に触媒失活剤およびカルボジイミド化合物をこの順に添加する製造方法が開示されている。しかし尚、色相の悪化と悪臭が生じるという課題がある。
【0007】
特許文献3には、色相、耐加水分解性改善のため溶融混練の際に脂肪酸の脂肪族アミド及びリン酸エステル金属塩を添加する方法が開示されている。しかし高温成形時の熱分解による分子量低下、着色、生産安定性に課題が残っている。
【0008】
特許文献4には、ステレオコンプレックスポリ乳酸からなるフィルムの製造方法が開示されているが、この方法はフィルム成形に特定されており、更に、延伸による配向結晶化を要するという問題がある。
【0009】
特許文献5、6には、ステレオコンプレックス体の射出成型品を製造するにおいて、結晶核剤等の分散性及び結晶化速度を高める観点から、核剤を予め分散するため、工程(1)ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸と核剤とを超臨界流体の存在下混練して核剤を分散させ、工程(2)射出成型機にて金型に注入し成形することが記載されている。
【0010】
しかしながら実施例には核剤とポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを230℃で高温下溶融混練し、ペレットを得て、得られたペレットを射出成型機中で超(亜)臨界状態の二酸化炭素の存在下接触させ、金型に射出することが記載されているに過ぎない。
又、明細書の記載によれば、射出成型品中にガスが残留するため、ポリ乳酸樹脂射出成形体の発泡倍率を低く抑える方法としては、得られる射出成形体の形状を薄肉に設計したり、射出速度を上げたり、或いは、射出成型金型内を超臨界流体の超臨界状態を保つために予め窒素ガスなどの気体で超臨界流体の臨界圧力以上に加圧しておくことが必要であり、無発泡の射出成型品を得るためには、製品形状に制限があったり、金型内を高圧に保つために特殊で複雑な装置を要するという問題がある。
【0011】
このように、上記従来技術では、高温成形時による熱分解や着色、成形加工法が限定され後配向結晶化を要するなどという問題があり、かつ射出成形においても、製品形状に制約があったりし、射出金型内の圧力を高圧に保持する装置が必要であるという問題があった。
そこで、熱分解による色相変化が小さく、簡易な、ステレオコンプレックスポリ乳酸成形品の製造方法及び製造装置が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−36808号公報
【特許文献2】特開2009−249517号公報
【特許文献3】特開2010−168507号公報
【特許文献4】特開2010−260900号公報
【特許文献5】特開2010−006040号公報
【特許文献6】特開2010−006041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、色相変化が小さく、かつ生産性に優れ、簡易なステレオコンプレックスポリ乳酸の成形品の製造方法及び製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載の発明は、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを押出機に供給し、樹脂可塑化ガスを亜臨界または超臨界状態で前記押出機中の前記ポリ乳酸に圧入して前記樹脂可塑化ガスの存在下ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを混練し、生成したステレオコンプレックスポリ乳酸から前記押出機に設けられたベント口より前記樹脂可塑化ガスを脱ガスし、前記押出機に取り付けた金型で押出成形して押出成形品を製造するステレオコンプレックスポリ乳酸押出成形品の製造方法において、前記押出機に取り付けた金型の温度が生成したステレオコンプレックスポリ乳酸の融点以下であることを特徴とするステレオコンプレックスポリ乳酸押出成形品の製造方法である。
【0018】
以下、本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸の製造方法について詳しく説明する。
本発明におけるポリ−L−乳酸(PLLA)もしくはポリ−D−乳酸(PDLA)とは、下記式で表される高分子をいう。
【0019】
【化1】
【0020】
本発明のポリ−L−乳酸は、L―乳酸単位90〜100モル%とD−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜10モル%とにより構成されたポリマーが好適に用いられる。
本発明のポリ−L−乳酸は、好ましくは、L―乳酸単位94〜100モル%とD−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜6モル%とにより構成されたポリマーである。
本発明のポリ−L−乳酸は、より好ましくは、L―乳酸単位99.5〜100モル%とD−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜0.5モル%とにより構成されたポリマーである。
本発明のポリ−L−乳酸は、更に好ましくは、L―乳酸単位99.9〜100モル%とD−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜0.1モル%とにより構成されたポリマーである。
本発明のポリ−L−乳酸は、最も好ましくは、L―乳酸単位99.95〜100モル%とD−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜0.05モル%とにより構成されたポリマーである。
【0021】
本発明のポリ−D−乳酸は、D―乳酸単位90〜100モル%とL−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜10モル%とにより構成されたポリマーが好適に用いられる。
本発明のポリ−D−乳酸は、好ましくは、D―乳酸単位94〜100モル%とL−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜6モル%とにより構成されたポリマーである。
本発明のポリ−D−乳酸は、より好ましくは、D―乳酸単位99.5〜100モル%とL−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜0.5モル%とにより構成されたポリマーである。
本発明のポリ−D−乳酸は、更に好ましくは、D―乳酸単位99.9〜100モル%とL−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜0.1モル%とにより構成されたポリマーである。
本発明のポリ−D−乳酸は、最も好ましくは、D―乳酸単位99.95〜100モル%とL−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜0.05モル%とにより構成されたポリマーである。
【0022】
光学純度とは、全乳酸単位中主たる光学異性の乳酸単位の比率を示す。本発明のポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸の光学純度は90%以上が好ましく、より好ましくは94%以上であり、更に好ましくは99.5%以上であり、更に好ましくはが99.5%以上であり、更に好ましくは99.95%以上である。
【0023】
上記共重合成分単位は、2個以上のエステル結合形成可能な官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等由来の単位およびこれら種々の構成成分からなる各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等由来の単位を単独、もしくは混合して使用される。
【0024】
上記ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の脂肪族多価アルコール等あるいはビスフェノールにエチレンオキシドが付加させたものなどの芳香族多価アルコール等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸として、グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸等が挙げられる。ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0025】
本発明に用いるポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸は、その末端基に各種の末端封止が施されたものを用いてもよい。このような末端封止基としては、アセチル基、エステル基、エーテル基、アミド基、ウレタン基、などを例示することが出来る。
【0026】
本発明におけるポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを混合する重量比は、80:20〜20:80である。75:25〜25:75であることが好ましく、さらに好ましくは60:40〜40:60であり、L−乳酸単位とD−乳酸が等量である様に混合することが好ましいため、特に好ましくは、50:50である。
【0027】
本発明において、ポリ−L−乳酸は(a)L―乳酸単位90〜100モル%とD−乳酸単位および/または乳酸以外の共重合成分単位0〜10モル%とにより構成され、融点が140〜190℃で、重量平均分子量が10万〜50万の結晶性ポリマーAであってもよい。
一方ポリ−D−乳酸は(b)D―乳酸単位90〜100モル%とL−乳酸単位および/または共重合成分単位0〜10モル%とにより構成され、融点が140〜190℃で、重量平均分子量が10万〜50万の結晶性ポリマーBであってもよい。
ポリマーAとポリマーBとは重量比60:40〜40:60の範囲で混合し、特に好ましくは、50:50である。L−乳酸単位とD−乳酸が等量である様に混合することが好ましい。
【0028】
結晶性ポリマーAおよびBの融点は制限されないが、通常の用途には、性能と価格のバランスから、共に、140〜200℃、好ましくは150〜185℃、さらに好ましくは175〜185℃である。この範囲であれば、ポリマーAおよびB自身が高い結晶性を有し、高融点で結晶化度の高いステレオコンプレックスポリ乳酸が得られる。
結晶性ポリマーAおよびBの重量平均分子量は共に、10万から50万が好ましい。より好ましくは10万〜30万である。なお、結晶性ポリマーAおよびBの重量平均分子量は溶離液にヘキサフルオロイソプロパノール(1mol%トリフルオロ酢酸ナトリウム塩含有)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリメタクリル酸メチル換算の重量平均分子量値である。
【0029】
結晶性ポリマーAおよびポリマーBは、樹脂の熱安定性を損ねない範囲で重合に関わる触媒を含有していてもよい。このような触媒としては、各種のスズ化合物、チタン化合物、カルシウム化合物、有機酸類、無機酸類などを上げることが出来、さらに同時にこれらを不活性化する安定剤を共存させていてもよい。
【0030】
ポリ−L−乳酸及びポリ−D−乳酸、並びに結晶性ポリマーA及びポリマーBは、既知の任意のポリ乳酸の重合方法により製造することができ、例えばラクチドの開環重合、乳酸の脱水縮合、およびこれらと固相重合を組み合わせた方法などにより製造することができる。
【0031】
請求項1に記載のステレオコンプレックスポリ乳酸の製造方法は、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを押出機に供給し、樹脂可塑化ガスを亜臨界または超臨界状態で前記押出機中の前記ポリ乳酸に圧入して前記樹脂可塑化ガスの存在下ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを混練し、生成したステレオコンプレックスポリ乳酸から前記押出機に設けられたベント口より前記樹脂可塑化ガスを脱ガスし、前記押出機に取り付けた金型で押出成形して押出成形品を製造することを特徴とする。
樹脂可塑化ガスの存在下混練することにより、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸がナノオーダーで効率よく可塑化し、ポリ−L−乳酸中のL−乳酸ブロックとポリ−D−乳酸中のD−乳酸ブロックとを分子レベルで会合させ、ステレオコンプレックスポリ乳酸を生成させることができる。
【0032】
上記樹脂可塑化ガスの材料としては、たとえば、二酸化炭素、水、窒素、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、メタノール、エタノール等が挙げられる。安全性、溶解性等から二酸化炭素が好適に用いられる。
【0033】
一般に臨界圧力以下の圧力(亜臨界圧)で、液体を温めてゆくと、一部が蒸気(気体)になって液体と気体が共存する状態すなわち亜臨界状態になる。一方、臨界圧力以上の圧力(超臨界圧)では、この「液体と気体が共存する状態」が見られず、液体に熱を加えてゆくと、臨界温度で全体が蒸気(気体)になる。
【0034】
例えば、二酸化炭素は三重点(−56.6℃、0.52MPa) 以上の温度と圧力条件下では、液体化する。さらに温度と圧力が臨界点(31.1℃、7.4MPa)を超えると超臨界状態となり、気体と液体の特徴を兼ね備えるようになる。
【0035】
このようにこれらのガスは、ある圧力下、ある温度以上の亜臨界状態にすることで液体のような密度と溶解性を持ち且つ気体のような拡散性のある臨界流体になる。このような流体を、樹脂に接触させると、特に溶融樹脂中に注入すると、この流体は溶融樹脂によく溶け込み可塑化効果が非常に高まり溶融樹脂の流動性が大幅に向上する。
【0036】
本発明では樹脂可塑化ガスの状態としては亜臨界状態と超臨界状態のいずれの状態を用いても良いが、設備の設計上、運転の容易さから亜臨界状態で用いることが好ましい。
本発明は、樹脂可塑化ガスを超臨界条件又は亜臨界条件にてポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸に作用させることにより、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とをナノオーダーでブレンドして分子レベルで会合させて、ステレオコンプレックスポリ乳酸の生成を図るものである。
【0037】
本発明において、樹脂可塑化ガスとして、二酸化炭素を用いる場合、亜臨界状態とは、温度31.1℃以上の状態において、圧力が1.0MPa以上〜7.4MPa未満、超臨界状態とは、温度31.1℃以上の状態において、圧力が7.4MPa以上を指すものとする。
【0038】
上記樹脂可塑化ガスの使用量は、限定されないが、好ましくはポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸の合計量に対し、樹脂可塑化ガスが3〜20重量%、より好ましくは、5〜10重量%である。
【0039】
ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを樹脂可塑化ガスの存在下混練する際の温度は、混練が可能である温度であれば限定されないが、工業的には150〜250℃が好ましく、180〜220℃がより好ましく、更に好ましくは190〜210℃である。温度が低すぎると可塑化、混練の効率が悪く、高すぎると着色や分子量の低下が生じるからである。
【0040】
樹脂可塑化ガスの注入、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸との混合、混練の順序は、最終的にポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とが、亜臨界または超臨界状態で混練されればよく、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを混合して混練し、混練した樹脂に樹脂可塑化ガスを圧入し混練してもよく、各々の樹脂に樹脂可塑化ガスを注入した後、混練してもよい。
装置の構造上注入は1箇所でする方が注入系がシンプルにでき、また装置に押出機を用いる場合にはスクリューの後部からの樹脂可塑化ガスの漏出を防止できるので、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸が混合され溶融された状態で圧入、混練することが好ましい。
【0041】
上記のポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを樹脂可塑化ガスの存在下超臨界状態又は亜臨界状態で混練する装置としては、高圧が保たれ加温混練でき、又ステレオコンプレックスポリ乳酸形成後に樹脂可塑化ガスを装置内で脱ガスできる、脱ガス装置つきの加温混練機であれば特に限定されないが、樹脂可塑化ガスの脱ガスは例えば所定の温度下攪拌しながら装置に設けた開口部からガスを大気中に放出する、あるいは強制的に減圧脱気すること等により行うことができ、このような装置としては取り扱い性と生産性から、ベント口付きの押出機がよい。押出機の場合、通常金型が取り付けられ、樹脂は何らかの形状に押し出されるため、ステレオコンプレックスポリ乳酸はステレオコンプレックスポリ乳酸の押出成形品として製造されることになる。
【0042】
ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを混合、溶融、混練しステレオコンプレックスポリ乳酸の押出成形品を製造するための製造装置としては、シリンダに、上流側より下流側に向かって順次、原料投入口と、亜臨界または超臨界状態の樹脂可塑化ガスを注入する注入口と、前記溶融混練され生成したステレオコンプレックスポリ乳酸から前記樹脂可塑化ガスを分離除去するためのベント口が設けられている押出機と、前記押出機に取り付けられた押出機からの樹脂を押出成形するための金型と、樹脂可塑化ガスを亜臨界または超臨界状態で前記押出機に供給するガス供給装置とを有することを特徴とするステレオコンプレックスポリ乳酸の押出成形品の製造装置が好ましい。押出機であるので当然各区画は温度計測及び温度調整ができるものであることが好ましい。尚、ここにいうステレオコンプレックスポリ乳酸の押出成形品とはフィルム・シート、ストランド、異型押出材等をいう。
【0043】
上記装置内で生成したステレオコンプレックスポリ乳酸から樹脂可塑化ガスの脱ガスは十分行う必要がある。脱ガスしないと、金型からでたステレオコンプレックスポリ乳酸成形品中に樹脂可塑化ガスが閉じ込められたまま残り、成形品中に気泡が残るためである。
更にストランド状の成形品を裁断してペレット化する等することにより、ペレット化したステレオコンプレックスポリ乳酸を用いて射出成形するとやはり射出成型品中に気泡が残る。成形品中に気泡が残れば機械物性等の品質が損なわれるためである。
【0044】
ベント付き押出機としては、多軸でも1軸でも使用できる。混練効率から二軸押出機が好ましい。又、ベント口はステレオコンプレックスポリ乳酸が生成された後、確実に脱ガスするため複数設けることが好ましく、またベント方法も強制脱気することがより確実に脱気できるため好ましい。
【0045】
得られたストランド等のステレオコンプレックスポリ乳酸の成形品はそのまま用いてもよいし、ペレタイザー等によりペレットにして、可塑化ガスを用いることなく通常の射出成形機で射出成形することもできる。
【0046】
以下図を用いてより詳細に説明する。図1は、本発明に用いられる押出機1の一例を示す模式的な説明図である。押出機1は、押出機本体2(なお、押出機のモータ部分は図示せず)、ホッパ3、シリンダ4、スクリュー5、樹脂可塑化ガス注入口6、樹脂可塑化ガス注入装置11、開放ベント口7、強制排気ベント口8、アダプタ9、ダイ10からなる。図1の押出機1の上方にC1、C2、C3、C4、C5、C6、C7、C8、C9、C10、C11、C12、C13として示したものは押出機1のシリンダ4を長さ方向に13分割して示した各区画を示し、Aはアダプタ、Dieは金型(ダイ)を示すものである。上記シリンダ4の各区画C1〜C13及び、アダプタ、ダイなどは、それぞれヒータなどにより、独立して温度調節が可能とされている。またシリンダ、アダプタ9、ダイ10にそれぞれ設けられた温度調節用の温度検知センサーとは別に、それぞれに内壁近くまで穿設された孔が開けられており孔中内壁近くに温度検知センサーが設けられているので、間接的ではあるが樹脂温度の検出が可能とされている(以下特段の記載のない限り樹脂温度とはこの間接的に測定された温度をいうものとする)。樹脂可塑化ガスは樹脂可塑化ガス注入装置11により樹脂可塑化ガス注入口6を介して注入される。
【0047】
ダイは限定されずストランド用ダイ、フィルム用ダイ等が使用可能である。ストランド用ダイを用いた場合は、ストランドを冷却して、その後カットしてペレット化するペレタイザーを接続すれば、ペレット化がライン内でできる。
ダイから押出されてくる樹脂中に直接温度測定機の測温部先端を差し込み樹脂温度を測ることも可能である。
モータによる回転は、必要に応じて、減速機を介して減速し、トルクアップしてスクリューに伝達されて用いられる。
【0048】
押出機1を用いてステレオコンプレックスポリ乳酸は以下に示すようにして製造される。ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸がホッパ3からシリンダ4内に投入される。ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸は予め乾燥、秤量、混合されていることが好ましい。シリンダ4の区画C1〜C3では上流側よりも下流側の方の温度が高くされている。シリンダ4に入ったポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸は、加熱されたシリンダ4の熱により加熱されると共に、スクリュー5により混合攪拌されつつ下流側へと移動する。
【0049】
シリンダ4の区画C4〜C6では、区画C1〜C3よりも温度が高くされており、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸は、更に、加熱混合攪拌されそれぞれの融点以上の温度で混練される。この混練された一体となった状態にすることにより、この後、樹脂可塑化ガスを注入してももはやペレットの間の空隙から上流側(ホッパ側)にガスが漏洩したりすることがないからである。
【0050】
次に、区画C7に設けられた樹脂可塑化ガス注入口6から、樹脂可塑化ガス注入装置11により超臨界又は亜臨界状態の樹脂可塑化ガスが注入される。樹脂可塑化ガス注入装置11としては、例えば、注入バルブ、圧力調整バルブを備えた、ガスボンベ、ポンプ等にてなる樹脂可塑化ガス注入装置が挙げられる。区画C7〜C10中で、ポリ−L−乳酸、ポリ−D−乳酸が樹脂可塑化ガスにより一層可塑化され、混練されることによりステレオコンプレックスポリ乳酸が生成される。分子レベル又は分子ブロックレベル又はそれに近い状態で混合されるためと推測される。ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とを樹脂可塑化ガスの存在下混練する部分の樹脂温度は180℃以上220℃未満であることが好ましい。後述するが、生成したステレオコンプレックスポリ乳酸が熱分解を受けず、かつ、単独ポリマーの結晶化を生じないためである。
【0051】
区画C11に設けられた開放ベント口7から超臨界又は亜臨界状態の樹脂可塑化ガスがガス化されて分離除去される。更に、区画C12に設けられた強制排気ベント口8から樹脂可塑化ガスを減圧(例ゲージ圧760mmHg)で抜気することにより強制的に排気することも可能である。尚、強制的に減圧せずに、単に開放することも可能であり、粉状の状態の樹脂が詰まらない様に開放で運転することもできる。
【0052】
樹脂可塑化ガスが除去されたステレオコンプレックスポリ乳酸はアダプタ9を通過し、ダイ10により例えばストランド、フィルム等に成形される。この時のダイ温度は、生成したステレオコンプレックスの融点よりも低いことが好ましい。ダイから出る瞬間は、過冷却になっているため、あるいは、結晶率が低くあるいは、結晶が小さいためであると推測されるが、ステレオコンプレックスの融点以下でも押出できる。このような押出を安定して行うためには高いトルクが必要である。トルク値は、生成するステレオコンプレックスポリ乳酸の融点と金型の温度にも関係にするが、当然押出量が多くなれば押出量に応じてそれだけ高いトルクが必要になる。押出機のトルク値の余裕が大きければ、高い押出量での安定生産が可能でなる。安定してステレオコンプレックスポリ乳酸を押出量2〜4kg/hrで押し出すには、1スクリュー当たりトルク値は50N・m以上、更に好ましくは100N・m以上あることが好ましい。上限は特にはないが装置の構造上、装置生産コスト上、ステレオコンプレックスポリ乳酸の生産コスト上、500N・m以下が好ましい。
ダイ温度を生成するステレオコンプレックスポリ乳酸の融点よりも低くするのは、本発明者が発見したことであるが、生成したステレオコンプレックスポリ乳酸には、融点以上の高温での熱履歴を与えない方が、ステレオコンプレックスが単独ポリマーの結晶化することが防がれるため、好ましいからである。このため高トルクで低温で押し出すことが好ましい。この後ストランドは空冷または水冷されて、ペレタイザーにてペレット化され、二次加工用原料にされてもよい。
【発明の効果】
【0053】
請求項1に記載の発明によれば、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とが、樹脂可塑化ガスの亜臨界又は超臨界状態で圧入された樹脂可塑化ガスの存在下、押出機中で混練されるので、ポリ−L−乳酸とポリ−D−乳酸とが分子レベルで混合して会合することができ、ステレオコンプレックスポリ乳酸を効率よく製造できる。また押出機のベント口より樹脂可塑化ガスを脱ガスするので、生成されたステレオコンプレックスポリ乳酸中にガスによる気泡が残らない。色相変化が小さく、製造が容易であり、製造装置が簡易である。
押出機に取り付けた金型の温度が生成したステレオコンプレックスポリ乳酸の融点以下であるので、高温下において生じるステレオコンプレックスからの単独ポリマーの結晶化を簡易に効率よく抑止できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】本発明に用いられる押出機の一例を示す模式的な説明図である。
図2】実施例1において得られたペレットのWAXDのチャート図である。
図3】実施例2における区画C11から回収した樹脂のWAXDのチャート図である。
図4】実施例2におけるアダプタから回収した樹脂のWAXDのチャート図である。
図5】比較例1において得られたペレットのWAXDのチャート図である。
図6】実施例3において得られたペレットのWAXDのチャート図である。
図7】比較例2において得られたペレットのWAXDのチャート図である。
図8】実施例4において得られたペレットのDSCのチャート図である。
図9】実施例4において得られたペレットのWAXDのチャート図である。
図10】実施例4において得られたペレットを熱プレスしたフィルムのXRDチャート 図である。
図11】実施例4において得られたペレットを熱プレスしたフィルムをアニールした後のWAXDのチャート図である。
図12】実施例6において得られたペレット及び原料のDSCチャート図である。
図13】実施例6において得られたペレット及び原料のWAXDのチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、本発明の実施例を挙げて本発明を更に説明する。
【実施例1】
【0059】
ポリ−L−乳酸(PLLA)として、株式会社武蔵野化学研究所製の光学純度99.5%、TM=180℃、Mn=130,000、Mw=338,000、Mw/Mn=2.6のものを使用した。ここで光学純度とは、全乳酸単位中主たる光学異性の乳酸単位の比率を示す。すなわち、ポリ−L−乳酸であれば、全乳酸単位中のL−乳酸単位の比率を示す。ポリ−D−乳酸(PDLA)として、東洋紡績株式会社製の光学純度99.5%、TM=180℃、Mn=106,000、Mw=238,000、Mw/Mn=2.5のものを使用した。
【0060】
PLLAとPDLAを重量比1:1で混合し、図1に示した2軸押出機1のホッパ3に投入し押出成形した。シリンダ4の区画C1の温度を130℃、区画C2の温度を170℃、区画C3の温度を190℃、区画C4〜C6の温度を240℃に設定した。区画C7〜C13の温度は実測される樹脂温度が205℃となるように調整した。アダプタおよびダイの温度は210℃に設定したが、210℃ではアダプタおよびダイにおいて急激なステレオコンプレックスポリ乳酸の結晶化が進むことがあり、その場合は押出機のスクリューを回転させるモータの負荷が急上昇して、過負荷状態に陥ることがあり、その際にはアダプタおよびダイの温度を220℃にあげて、アダプタ及びダイにおけるステレオコンプレックスポリ乳酸の形成を緩やかにして対応した。
【0061】
ベクトルインバータモータによる回転は減速機を介したが減速比は1:1に設定したため実質的には減速せずに、押出機のスクリューの回転に用いた。前述のようにモータの定格出力は75KW、定格回転数は2000rpm、定格トルクは358N・mであり、二軸押出機のためスクリュー1本当たりのトルクは最大で179N・mであった。押出中モータが過負荷になる場合はモータ電流は330Aにも及ぶことがあり、236Aでは安定運転したが、その時回転速度は100rpmであり、トルクはスクリュー2本当たり256N・mであった。
因みにトルクT(kgf・m)=975P(kW)/N(rpm)を更にN・mに換算することにより求められる。この値を押出機のスクリューの数で除せばスクリュー1本当たりのトルク値が求められる。
【0062】
区画C7に設けられた樹脂可塑化ガス注入口6から樹脂可塑化ガス注入装置11により高圧の二酸化炭素を注入した。注入量は樹脂100重量部に対して二酸化炭素が10重量部となるようにした。区画C7〜C10中で、PLLA、PDLAが混合され溶融混練されたものに二酸化炭素を圧入して混練した。区画C11に設けられた開放ベント口7から二酸化炭素をガス化して分離除去した。更に、区画C12に設けられた強制排気ベント口8から二酸化炭素を強制的に排気した。二酸化炭素が除去された樹脂を、アダプタ9を通して、ダイ10(孔径4mmの単孔)からストランドを押し出した。ストランドの直径は約3mmであった、ペレタイザーでカットしてペレットを得た。ペレットは黄変していなかった。
【0063】
なお、2軸押出機1のスクリューの直径は30mm、区画C1〜C13までの全長は1800mmであった。2軸押出機1のスクリュー回転数は100rpmとした。押出量は4kg/hr、区画C9で測定した圧力は5.0MPaであった。したがって二酸化炭素の亜臨界状態で樹脂の溶融、混練がなされた。
【0064】
得られたペレットの結晶構造、結晶化度を調べるために、WAXD(広角X線回折)を行った。
WAXDの測定装置は株式会社リガク社製のリガク2500VHFを用いた。CuKαX線光源(波長0.154nm、電圧40kV、40A)にて、2θ=10°〜30°、速度4°/minで測定した。得られたチャート図を図2に示した。図2において横軸は2θ(°)であり、縦軸はintensity(回折強度)である。これより、押出成形で得られたペレットはステレオコンプレックスポリ乳酸のみが生成しており、単独ポリマーの結晶が存在しないことが分かった。
上記のように判断した理由は、以下の通りである。
2θ=12、21、24°付近にみられる回折ピークはポリ乳酸のステレオコンプレックスポリ乳酸特有のピークである。得られたペレットにはステレオコンプレックスポリ乳酸が形成されている。単独ポリマーの結晶が形成された場合には、16°付近に強い回折ピークが観測されるが、得られたペレットでは観測されていない。よって、得られたペレットでは選択的にステレオコンプレックスが形成されたことがわかる。
また、結晶に由来する回折ピークの面積と、非晶に由来するハローピークの面積を比較して結晶化度をもとめた結果、面積比が1:1であったため、結晶化度は50%であった。
また、ペレットの色相を観察すると、原料であったPLLA、PDLAと比べて顕著な色相の変化はみられず、乳白色のペレットであった。
DSCによる融点測定の結果、ピーク温度から求めた融点は220℃であった。各原料の単独ポリマーの結晶の融点は180℃であったので、220℃はステレオコンプレックスポリ乳酸が生成したことによるものである。なお、上記のDSCによる融点測定方法の詳細は後述する。
【実施例2】
【0065】
ポリ−L−乳酸(PLLA)とポリ−D−乳酸(PDLA)は、実施例1と同じものを用いた。PLLAとPDLAを重量比1:1で混合し、実施例1で用いたものと同じ2軸押出機1のホッパ3に投入し押出成形した。シリンダ4の区画C1の温度を130℃、区画C2の温度を170℃、区画C3の温度を190℃、区画C4〜C6の温度を240℃に設定した。区画C7〜C13の温度は実測される樹脂温度が205℃となるように調整した。アダプタおよびダイの温度は210℃〜220℃に設定した。
【0066】
区画C7に設けられた樹脂可塑化ガス注入口6から樹脂可塑化ガス注入装置11により臨界流体状態の二酸化炭素を注入した。注入量は樹脂100重量部に対して二酸化炭素が10重量部となるようにした。区画C7〜C10中で、ポリ−L−乳酸(PLLA)とポリ−D−乳酸(PDLA)が混合され溶融混練されたものに二酸化炭素を圧入して混練した。区画C11に設けられた開放ベント口7から二酸化炭素を排気除去した。更に、区画C12に設けられた強制排気ベント口8から二酸化炭素を強制的に排気した。二酸化炭素が除去された樹脂を、アダプタ9を通し、ダイ10でストランドに成形した。ストランドの直径は約3mmであった。
【0067】
2軸押出機1のスクリュー回転数は100rpm、押出量は4kg/hrであった。区画C7で測定した圧力は4.9MPa、区画C9で測定した圧力は4.7MPa、区画C13とアダプタの間で測定した圧力は2.4MPaであった。したがって二酸化炭素の亜臨界状態で樹脂の溶融、混練がなされた。
【0068】
上記の押出成形が定常状態で安定して行われているところで、押出機中のステレオコンプレックスポリ乳酸の生成の状態を観察するため、押出機を停止し、樹脂が巻き付いたスクリューを取り出し、スクリューからシリンダの区画C1〜C13相当部分に巻き付いている樹脂を素早く剥ぎ取り回収した。同様にアダプタ中の樹脂も回収した。
【0069】
回収した樹脂の結晶構造、結晶化度を調べるために、WAXD(広角X線回折)を行った。WAXDに用いた装置・条件等は実施例1と同じである。
図3は区画C11から回収した樹脂のチャート図である。
この図より、区画C11では、ステレオコンプレックスポリ乳酸と単独ポリマーの結晶の比率が、ステレオコンプレックスポリ乳酸:単独ポリマーの結晶=2:1であることが分かった。押出成形の工程の途中では十分に選択的なステレオコンプレックスポリ乳酸の形成が達成されていない。
上記のように判断した理由は、以下の通りである。
2θ=12、21、24°付近にみられる回折ピークはステレオコンプレックスポリ乳酸特有のピークである。一方、2θ=16°付近に強い回折ピークが観測されるが、これはPLLAとPDLAの単独ポリマーの結晶の回折ピークである。これらのピークの面積比より、ステレオコンプレックスポリ乳酸と単独ポリマーの結晶の比は2:1であることが分かる。
【0070】
また、ステレオコンプレックスポリ乳酸と単独ポリマーの結晶の回折ピーク面積の総和(結晶に由来する回折ピークの面積)と、非晶に由来するハローピークの面積を比較して結晶化度をもとめた結果、面積比が25.8:74.2のため、結晶化度は25.8%であった。
DSCによる融点測定の結果、融点は180℃と220℃であった。180℃は単独ポリマーの結晶によるもので、220℃はステレオコンプレックスポリ乳酸によるものである。
【0071】
図4はアダプタから回収した樹脂のチャート図である。
この図より、アダプタから回収した樹脂は、ステレオコンプレックスポリ乳酸のみが生成しており、単独ポリマーの結晶が存在しないことが分かった。
上記のように判断した理由は、以下の通りである。
2θ=12、21、24°付近にみられる回折ピークはステレオコンプレックスポリ乳酸特有のピークであり、得られた樹脂はステレオコンプレックスポリ乳酸で形成されている。単独ポリマーの結晶が形成された場合には、16°付近に強い回折ピークが観測されるが、得られた樹脂では観測されていない。よって、得られた樹脂は選択的にステレオコンプレックスポリ乳酸を形成したことがわかる。
【0072】
また、ステレオコンプレックスポリ乳酸に由来する回折ピークの面積と、非晶に由来するハローピークの面積を比較して結晶化度をもとめた結果、結晶化度は58%であった。
DSCによる融点測定の結果、融点は220℃であった。220℃はステレオコンプレックスポリ乳酸によるものである。
【0073】
(比較例1)
ポリ−L−乳酸(PLLA)およびポリ−D−乳酸(PDLA)として、実施例1で用いたものと同じものを用い、PLLAとPDLAを重量比1:1で混合し、実施例1と同様に、図1に示した2軸押出機1のホッパ3に投入し押出成形した。シリンダ4の区画C1の温度を130℃、区画C2の温度を170℃、区画C3の温度を190℃、区画C4〜C13の温度を240℃に設定した。アダプタおよびダイの温度は210℃に設定した。
【0074】
区画C7に設けられた二酸化炭素注入口6は密閉しておき、二酸化炭素を注入しなかった。区画C11に設けられた開放ベント口7も、区画C12に設けられた強制排気ベント口も密閉しておいた。区画C1〜C13で混合、溶融、混練した樹脂をアダプタ9を通して、ダイ10からストランドを押し出し、ペレタイザーでカットしてペレットを得た。ストランドの直径は約3mmであった。ペレットは黄変が認められた。
【0075】
2軸押出機1のスクリュー回転数は100rpmとした。押出量は4kg/hrであった。
【0076】
得られたペレットの結晶構造、結晶化度を調べるために、実施例1と同様にWAXD(広角X線回折)を行った。WAXDに用いた装置・条件等は実施例1と同じである。
図5は得られたペレットのチャート図である。
【0077】
図5より、このペレットは、ステレオコンプレックスポリ乳酸と単独ポリマーの結晶の比率が、ステレオコンプレックスポリ乳酸:単独ポリマーの結晶=1:4であることが分かった。
上記のように判断した理由は、以下の通りである。
2θ=12、21、24°付近にみられる回折ピークはポリ乳酸のステレオコンプレックスポリ乳酸特有のピークである。一方、2θ=16°付近に強い回折ピークが観測されるが、これは単独ポリマーの結晶の回折ピークである。これらのピークの面積比より、ステレオコンプレックスポリ乳酸と単独ポリマーの結晶の比は1:4であることが分かる。
【0078】
また、ステレオコンプレックスポリ乳酸と単独ポリマーの結晶の回折ピーク面積の総和(結晶に由来する回折ピークの面積)と、非晶に由来するハローピークの面積を比較して結晶化度をもとめた結果、面積比が21.8:78.2のため、結晶化度は21.8%であった。
DSCによる融点測定の結果、融点は180℃と220℃であった。180℃はホモポリ乳酸によるもので、220℃はステレオコンプレックスポリ乳酸によるものである。
【実施例3】
【0079】
ポリ−L−乳酸(PLLA)として、島津製作所社製の光学純度95.0%、TM=162℃、Mn=92,000、Mw=184,000、Mw/Mn=2.0のものを使用した。ポリ−D−乳酸(PDLA)として、東洋紡績株式会社製の光学純度99.5%、TM=180℃、Mn=106,000、Mw=238,000、Mw/Mn=2.5のものを使用した。
PLLAとPDLAを重量比1:1で混合し、実施例1で用いたものと同様の、図1に示した2軸押出機1のホッパ3に投入し押出成形した。シリンダ4の区画C1の温度を120℃、区画C2の温度を160℃、区画C3の温度を180℃、区画C4〜C6の温度を205℃に設定した。区画C7〜C13の温度は実測される樹脂温度が185℃となるように調整した。アダプタおよびダイの温度は200℃に設定した。
【0080】
区画C7に設けられた樹脂可塑化ガス注入口6から樹脂可塑化ガス注入装置11により臨界流体状態の二酸化炭素を注入した。注入量は樹脂100重量部に対して二酸化炭素が10重量部となるようにした。区画C7〜C10中で、PLLA、PDLA、生成したステレオコンプレックスポリ乳酸などの樹脂成分と臨界状態の二酸化炭素を溶融、混練した。区画C11に設けられた開放ベント口7から二酸化炭素をガス化して分離除去した。更に、区画C12に設けられた強制排気ベント口8から二酸化炭素を強制的に排気した。二酸化炭素が除去された樹脂を、アダプタ9を通して、ダイ10からストランドを押し出し、ペレタイザーでカットしてペレットを得た。ストランドの直径は約3mmであった。ペレットは黄変していなかった。
【0081】
なお、2軸押出機1のスクリューの直径は30mm、区画C1〜C13までの全長は1800mmであった。2軸押出機1のスクリュー回転数は100rpmとした。押出量は4kg/hr、区画C9で測定した圧力は5.2MPaであった。したがって二酸化炭素の亜臨界状態で樹脂の溶融、混練がなされた。
【0082】
得られたペレットの結晶構造、結晶化度を調べるために、WAXD(広角X線回折)を行った。WAXDに用いた装置・条件等は実施例1と同じである。
図6は得られたペレットのチャート図である。
この図より、実施例3で得られたペレットはステレオコンプレックスポリ乳酸のみが生成しており、単独ポリマーの結晶が存在しないことが分かった。
上記のように判断した理由は、以下の通りである。
2θ=12、21、24°付近にみられる回折ピークはステレオコンプレックスポリ乳酸特有のピークであり、得られたペレットはステレオコンプレックスポリ乳酸で形成されている。単独ポリマーの結晶が形成された場合には、16°付近に強い回折ピークが観測されるが、得られたペレットでは観測されていない。よって、得られたペレットは選択的にステレオコンプレックスを形成したことがわかる。
また、結晶に由来する回折ピークの面積と、非晶に由来するハローピークの面積を比較して結晶化度をもとめた結果、面積比が24:76であるため、結晶化度は24%であった。
DSCによる融点測定の結果、融点は206℃であった。206℃はステレオコンプレックスポリ乳酸によるものである。
【0083】
(比較例2)
ポリ−L−乳酸(PLLA)およびポリ−D−乳酸(PDLA)として、実施例3で用いたものと同様のものを用い、PLLAとPDLAを重量比1:1で混合し、実施例1で用いたものと同様の、図1に示した2軸押出機1のホッパ3に投入し押出成形した。
シリンダ4の区画C1の温度を120℃、区画C2の温度を160℃、区画C3の温度を240℃、区画C4〜C6の温度を240℃に設定した。区画C7〜C13の温度は実測される樹脂温度が240℃となるように調整した。アダプタおよびダイの温度は200℃に設定した。
【0084】
区画C7に設けられた二酸化炭素注入口6は密閉しておき、二酸化炭素を注入しなかった。区画C11に設けられた開放ベント口7も、区画C12に設けられた強制排気ベント口も密閉しておいた。区画C1〜C13で混合、溶融、混練した樹脂をアダプタ9を通して、ダイ10からストランドを押し出し、ペレタイザーでカットしてペレットを得た。ストランドの直径は約3mmであった。ペレットは黄変が認められた
【0085】
2軸押出機1のスクリュー回転数は100rpm、押出量は4kg/hrであった。
【0086】
得られたペレットの結晶構造、結晶化度を調べるために、実施例1と同様にWAXD(広角X線回折)を行った。WAXDに用いた装置・条件等は実施例1と同じである。
図7は得られたペレットのチャート図である。
【0087】
図7より、このペレットは、ステレオコンプレックスポリ乳酸と単独ポリマーの結晶の比率が、ステレオコンプレックスポリ乳酸:単独ポリマーの結晶=3:1であることが分かった。
上記のように判断した理由は、以下の通りである。
2θ=12、21、24°付近にみられる回折ピークはポリ乳酸のステレオコンプレックスポリ乳酸特有のピークである。一方、2θ=16°付近に強い回折ピークが観測されるが、これは単独ポリマーの結晶の回折ピークである。これらのピークの面積比より、ステレオコンプレックスポリ乳酸と単独ポリマーの結晶の比は3:1であることが分かる。
【0088】
また、ステレオコンプレックス結晶と単独ポリマーの結晶の回折ピーク面積の総和(結晶に由来する回折ピークの面積)と、非晶に由来するハローピークの面積を比較して結晶化度をもとめた結果、面積比が22.0:78.0のため、結晶化度は22.0%であった。
DSCによる融点測定の結果、融点は170℃と206℃であった。170℃は単独ポリマーの結晶によるものであり、206℃はステレオコンプレックスポリ乳酸によるものである。
低い融点のPLLAと高融点のPDLAが混ざって単独ポリマーの結晶の融点が下がったと推測される。
【実施例4】
【0089】
ポリ−L−乳酸(PLLA)として、Synbra Technology B.V.社製のPLLA 1010(Mn=58,000、Mw=129,000、Mw/Mn 2.2のものを使用した。後述するDSC測定によるピークから求めた融点は182.5℃、結晶化度は53.3%(単独ポリマーの結晶)、ΔHは49.9(J/g)であった。
ポリ−D−乳酸(PDLA)として、Synbra Technology B.V.社製のPDLA 1010(Mn=81,500、Mw=162,000、Mw/Mn 2.0のものを使用した。後述するDSC測定によるピークから求めた融点は190.2℃、結晶化度は63.7%(単独ポリマーの結晶)、ΔHは59.7(J/g)であった。
【0090】
PLLAとPDLAを温風乾燥機中で乾燥したものを重量比1:1で混合し、図1に示した2軸押出機1のホッパ3に投入し押出成形した。シリンダ4の区画C1の温度を130℃、区画C2の温度を170℃、区画C3の温度を190℃、区画C4〜C6の温度を240、240、230℃に設定した。上記区画における設定温度と実測された樹脂温度との差は、実測値が185℃で差が5℃あった区画C3、設定温度が240℃に対し樹脂実測温度が234.6℃であった区画C4以外は全て1℃以内であった。
【0091】
区画C7〜C13のシリンダ部分の温度は実測される樹脂温度が197〜199℃となるように当該シリンダの温度を調整したが、区画C7においては、設定値198℃に対し実測値194.2℃区画、C11では設定値198℃に対し194.5と差があったがその他の区画では、上記設定温度と実測樹脂温度との差は1℃以内であった。
【0092】
区画C7に設けられた樹脂可塑化ガス注入口6から樹脂可塑化ガス注入装置11により臨界流体状態の二酸化炭素を注入した。注入量は樹脂100重量部に対して二酸化炭素が10重量部となるようにした。二酸化炭素のボンベ圧は8MPa、注入圧は13.3MPa、内圧(弁圧)は14MPa、二酸化炭素供給量は0.2kg/時であった。
【0093】
区画C7〜C10中で、ポリ−L−乳酸(PLLA)とポリ−D−乳酸(PDLA)が混合され溶融混練されたものに二酸化炭素を圧入して混練した。区画C11に設けられた開放ベント口7から二酸化炭素をガス化して分離除去した。更に、区画C12に設けられた強制排気ベント口8から二酸化炭素をゲージ圧760mmHgにて強制的に排気し、生成したステレオコンプレックスポリ乳酸から二酸化炭素を脱ガスした。
二酸化炭素が除去されたステレオコンプレックスポリ乳酸を、アダプタ9を通して、ダイ10からストランドを押し出し、ペレタイザーでカットしてペレットを得た。ストランドの直径は約3mmであった。
【0094】
実施例1、2、3では、押出機のスクリュー回転用モータの電流値が、許容アンペア値の上限値一杯であったので、スクリューを回転させるトルク値が上げられるように実施例4では減速比を1/2にし2倍のトルクが得られる様に改良して高トルク押出を可能にした。ベクトルインバーターモータによる回転は減速機を介し減速比を1/2に設定した。モータの定格出力は75KW、定格回転数は2000rpm、定格トルクは358N・mであるため、二軸押出機のためスクリュー1本当たりのトルクは最大で358N・mにした。
アダプタ9およびダイ10の温度を215℃に設定し、その樹脂温度でストランドの押出成形をした。アダプタ、ダイ中に設けた樹脂温は215℃であったがダイから押し出された樹脂に直接温度端子先端部を突きさし測定した温度は219℃であった。スクリューの回転数は65rpmでモータの電流値は187〜193Aでありスクリュー2本当たりのの回転トルク値は206N・mであった。約3mm径のストランドをその後ペレタイザーにてペレタイズしペレットを得た。ペレットは黄変していなかった。
押出量は2kg/hr、区画C9で測定した圧力は6.3MPaであった。したがって二酸化炭素の亜臨界状態で樹脂の溶融、混練がなされたと思われる。
【0095】
得られたペレットを用いて、通常の射出成型機(東洋機械金属株式会社製Si−80IV)にて射出成型した。尚、成型と成形とは同義であるが、慣例上射出の場合は成型という用語を用いられることが多いため以下の実施例における射出に関する説明をする場合は便宜的に成型を用いた。成型条件は金型に近いスクリュー先端側から、HEN(ノズルの金型側)が230℃、HIN(ノズルのシリンダ側)が230℃、シリンダーは4つに区画されノズルに近い方から順にH1〜H3が230℃、ホッパが取り付けられている区画部分のH4が40℃、金型温度が110℃、射出位置が42mm、冷却タイマーが180秒、充填圧力が100MPa、射出速度が40mm/sec、保圧が50MPa、保圧時間が10秒、SC回転数が30rpm、背圧が2MPa、VP切替が10mmであった。
射出成型品の形状は、引張試験用にJISK7113の1号ダンベル形状に、成型した。厚さは3mm、幅は10mmであった。曲げ試験用にはJISK7203に準じ曲げ試験用短冊形状に成型した。厚さは5mm、幅は12.7mmであった。
【0096】
引っ張り試験装置にて、つかみ具間距離100mm、引っ張り速度5mm/minにて引張試験を行った。
射出成型品の引張強さは24.7MPaであった。
【0097】
曲げ試験装置にて、下部支点間距離80mmにて曲げ試験を行った。
射出成型品の曲げ強さは31.0MPaであった。
【0098】
一方押出で得られたペレットを実施例1と同様にDSC測定した。図8にチャートを示す。図8の横軸は温度(℃)である。ピークは245.75℃であった。尚、同図には比較のため、二酸化炭素の圧入を行わなかった比較例3のDSCチャートも参考のため同時に掲載している。
前述の方法にてWAXD(広角X線回折)を行った。結果を図9に示す。横軸は2θ(°)である。結晶化度は52%、Sc率(ステレオコンプレックス結晶の割合)は100%(単独ポリマーの結晶が0%)であった。
【0099】
また、得られたペレット10gをホットプレス機を用い250℃でメルト(5分)し、12〜13MPaにてプレスし、水冷にて5分間急冷し、フィルム化した。
このフィルムをXRD(X線回析)による結晶構造を解析した。図10に結果を示す。図10の横軸は2θ(°)である。100%非晶質であった。
さらにこのフィルムを100℃で30分間アニーリングした。アニーリングしたフィルム
につきWAXD(広角X線回折)を行った。結果を図11に示す。横軸は2θ(°)である。結晶化度は56%、Sc率(ステレオコンプレックス結晶の割合)は5%(単独ポリマーの結晶の割合が95%)であった。
【0100】
すなわち、一旦ステレオコンプレックスポリ乳酸が形成されたものがその後の高温下におくことにより、単独ポリマーの結晶化が進行していることを示す。したがってステレオコンプレックスポリ乳酸成形品を本法により直接押出成形する場合は問題ないが、押出成形後に更に熱プレス、アニール等の加熱成形をする場合には、その条件を適切に選ばねばならないことが示唆されていると思われる。
【実施例5】
【0101】
実施例4で用いたポリ―L―乳酸及びポリ―D―乳酸樹脂を1:1で合計した重量100重量部に対し、重合触媒の不活剤として太平化学産業株式会社のメタリン酸ナトリウム商品名「ヘキサメタリン酸ソーダ」を0.2%、加水分解抑制剤として日清紡ケミカル社の商品名「カルボジライトLA−1(登録商標)」」を0.2%、ポリ乳酸結晶核剤として日産化学工業社の商品名「エコプロモート(登録商標)」を3%の割合にて加え、ドライブレンド(手混ぜ)して、ホッパに供給した。以下特記した事項以外は実施例5と同様に行いステレオコンプレックスポリ乳酸を得た。
区画C4においては、設定値240℃に対し実測値234.9℃と差があったがその他の区画では、上記設定温度と実測樹脂温度との差は1℃以内であった。
二酸化炭素のボンベ圧は8.5MPa、注入圧は11.5MPa、内圧(弁圧)は12MPa、二酸化炭素供給量は0.2kg/時であった。
【0102】
ダイから押し出された樹脂温度測定値は218.4℃であった。スクリューの回転数は同じ65rpmであったがモータの電流値は197〜203Aであった。ストランドをその後ペレタイザーにてペレタイズしペレットを得た。ペレットは黄変していなかった。
押出量は2kg/hrであった。区画C9で測定した圧力は7.2MPaであった。したがって二酸化炭素の亜臨界状態で樹脂の溶融、混練がなされたと思われる。
(比較例3)
【0103】
実施例4で用いたL―及びD―ポリ乳酸樹脂を用い、二酸化炭素を注入せずに高温で加熱混練してステレオコンプレックスポリ乳酸を得た。
以下特記した事項以外は実施例4と同様に行った。
シリンダ4の区画C1の温度を130℃、区画C2の温度を170℃、区画C3の温度を190℃、区画C4の温度を240℃、区画C5〜C13、アダプタ、金型を230℃に設定した。区画C3において、設定値240℃に対し実測値234.9℃、区画C4において、設定値240℃に対し実測値232.8℃、区画C8において、設定値230℃に対し実測値226.8℃と差があったが、その他の区画では、上記設定温度と実測樹脂温度との差は1〜2℃以内であった。
二酸化炭素は圧入せず、ベント口は二つとも開放しておいた。
ダイ10からストランドを押出、その後ペレタイズしてペレットを得た。
スクリューの回転数は65rpmでモータの電流値は56A、押出量は2kg/hr
であった。ストランドをその後ペレタイザーにてペレタイズしペレットを得た。
【0104】
<成形品中の残存気泡量の測定>
スイス メトラー・トレド社製密度測定キットを用い、ペレットの密度を浮力法により2回の測定の平均値として求めた。
発泡倍率を比較例3で得られたペレットの密度を実施例4で得られたペレットの密度で除して求めた。発泡倍率は1.00であった。すなわち実施例4で得られたペレットは気泡を含まない中実体であり、ベントにより完全に脱ガスされていた。
【実施例6】
【0105】
ポリ−L−乳酸(PLLA)として、Synbra Technology B.V.社製の押出グレードである PLLA 1510(後述の分子量測定の結果Mn=104,000、Mw=238,000、Mw/Mn=2.3)を使用した。
ポリ−D−乳酸(PDLA)として、Synbra Technology B.V.社製の押出グレードである PDLA 1510(後述の分子量測定の結果Mn=72,900、Mw=157,000、Mw/Mn=2.2)を使用した。
【0106】
上記原料を用い以下特記した事項以外は実施例4と同様に行った。
シリンダ4の区画C1の温度を130℃、区画C2の温度を170℃、区画C3の温度を190℃、区画C4の温度を240℃、区画C5、C6を230℃、区画C7〜C13を198℃、アダプタ、金型を215℃に設定した。区画C3において、設定値190℃に対し実測値191.2℃、区画C7において、設定値198℃に対し実測値191.8℃、区画C8において、区画C9において、設定値198℃に対し実測値201.2℃、と差があったが、その他の区画では、上記設定温度と実測樹脂温度との差は1〜2℃以内であった。
二酸化炭素のボンベ圧は7.5MPa、注入圧は10.8MPa、内圧(弁圧)は11MPa、二酸化炭素供給量は0.2kg/時であった。
【0107】
スクリューの回転数は65rpmであったがモータの電流値は149〜153Aであった。尚 トルク値はスクリュー2本当たり163N・mであった。ストランドをその後ペレタイザーにてペレタイズしペレットを得た。ペレットは黄変していなかった。
押出量は2kg/hrであった。したがって二酸化炭素の超臨界状態で樹脂の溶融、混練がなされたと思われる。
得られたステレオコンプレックスポリ乳酸ペレットにつき後述の方法でDSCを測定したところ、単独ポリマーの結晶によるピークは無く、ステレオコンプレックスのみのピークがみられ、ピーク値から求めた融点は239.6℃、ΔHは85.7J/g(ステレオコンプレックス結晶のみ)、であった。結晶は全てステレオコンプレックスの結晶で、結晶化度は69.1%であった。図12にDSCチャートを示す。横軸は温度(℃)である。図中sc1510とは得られたステレオコンプレックスポリ乳酸を示す。
【0108】
因みに原料のPLLA1510の融点は177.5℃、結晶化度は44.0%、PDLA1510の融点は182.0℃、結晶化度は53.8%であった。
前述の方法にてWAXD(広角X線回折)を行った。結果を図13に示す。横軸は2θ(°)である。図中sc1510とは得られたステレオコンプレックスポリ乳酸を示す。本チャートのピーク面積から求めた結晶化度は38%であった。
【0109】
得られたペレットを以下特記した事項以外は実施例4と同様にして射出成型した。
射出条件はHENが230℃、HIN、H1〜H3が230℃、H4が40℃、金型温度が110℃、射出位置が45mm、冷却タイマーが230秒、充填時間が、0.75秒、充填圧力が100MPa、射出速度が50mm/sec、保圧が30MPa、保圧時間が100秒、SC回転数が60rpm、背圧が3.5MPa、VP切替が10mmであった。以上は射出成型品が結晶化する様に設定した射出条件である。
【0110】
尚参考用に射出成型品が非晶になる以下の条件でも射出した。
シリンダ温度が金型に近いスクリュー先端側から、HENが230℃、HIN、H1〜H3が230℃、ホッパ部分のH4が40℃、金型温度が30℃、射出位置が45mm、冷却タイマーが40秒、充填時間が、0.75秒、充填圧力が100MPa、射出速度が50mm/sec、保圧が30MPa、保圧時間が20秒、SC回転数が60rpm、背圧が3.5MPa、VP切替が10mmであった。
【0111】
射出成型品の形状は、引張試験用にJISK7113の1号ダンベル形状に、成型した。厚さは3mm、幅は10mmであった。曲げ試験用にはJISK7203の曲げ試験用短冊形状に成型した。厚さは5mm、幅は12.7mmであった。
【0112】
引っ張り試験装置にて、つかみ具間距離100mm、引っ張り速度5mm/minにて引張試験を行った。
結晶性射出成型品の引張強さは23.2MPa、非晶性射出成型品の引張強さは57.5MPaであった。
【0113】
上記引っ張り試験で弾性率を求めた。結晶性射出成型品の弾性率は3510MPa、非晶性射出成型品の弾性率は3290MPaであった。
【0114】
曲げ試験装置にて、下部支点間距離80mmにて曲げ試験を行った。
結晶性射出成型品の曲げ強さは35.3MPa、非晶性射出成型品の曲げ強さは61.3MPaであった。
【0115】
比較のため、原料のPLLA 1510単独、PDLA 1510単独を、それぞれ、実施例4に用いた押出機にて下記条件で押出し、ペレット化したものを射出成形した。二酸化炭素の注入は行わず、C1を130℃、C2を170℃、C3を190℃、C4を240℃、C5とC6を230℃、C7〜C13を198℃、アダプタ、金型を215℃に設定した。回転数は65rpm、電流値はPLLA 1510は96A、PDLA 1510は68Aであり、押出量は共に2kg/hrであった。
【0116】
結晶性の射出成型品を得るための射出条件はシリンダ温度が金型に近いスクリュー先端側から、HENが200℃、HIN、H1〜H3が200℃、ホッパ部分のH4が40℃、金型温度が110℃、射出位置が45mm、冷却タイマーが150秒、充填時間が、0.75秒、充填圧力が100MPa、射出速度が50mm/sec、保圧が30MPa、保圧時間が100秒、SC回転数が60rpm、背圧が3.5MPa、VP切替が10mmであった。
【0117】
一方非晶性の射出成型品を得るための条件は、シリンダ温度が金型に近いスクリュー先端側から、HENが200℃、HIN、H1〜H3が200℃、ホッパ部分のH4が40℃、金型温度が31℃、射出位置が45mm、冷却タイマーが40秒、充填時間が、0.75秒、充填圧力が100MPa、射出速度が50mm/sec、保圧が30MPa、保圧時間が20秒、SC回転数が60rpm、背圧が3.5MPa、VP切替が10mmであった。
【0118】
これらの原料樹脂単独の押出品についても上記ステレオコンプレックスポリ乳酸と同様にして引張試験、曲げ試験を行った。
更にIzod,荷重たわみ温度についても比較試験を行ったが、射出成型品においては機械物性に関しては、ステレオコンプレックスに特に優位性はみられなかった。一旦押出を経てペレット化した物を更に230℃のシリンダ温度で射出成型したことに起因するものと推測される。
【0119】
一方、実施例6で押出されて得られたステレオコンプレックスポリ乳酸の、ペレタイズしないままのストランド(直径約3mm)に対し引っ張り試験を行った。引っ張り強度は34MPaであった。
【0120】
<ステレオコンプレックスポリ乳酸生成による分子量の変化>
1)分子量の測定は以下の方法で行った。
ポリマーの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び分子量分布(Mw/Mn):ポリマーの重量平均分子量および数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定、標準ポリメタクリル酸メチルに換算した。
GPC測定は以下の装置及び条件にて行った。
ポンプ:島津製作所製LC10AD
検出器:島津製作所製RID−10A
解析装置:GPC for Windows(登録商標)
(検出データA/D変換装置(データ出力装置):pico ADC−216)
カラム:SHODEX HFIP−806カラム
ヘキサフルオロイソプロパノール(5mMトリフルオロ酢酸ナトリウム塩含有)を
溶離液とし温度40℃、流速0.6ml/minにて、濃度10mg/ml
の試料を10μl注入し測定した。
【0121】
2)測定結果1
実施例1及び実施例2の押出成形前の分子量
ポリ−L−乳酸(PLLA):Mn=130,000。Mw=338,000。
Mw/Mn=2.6
ポリ−D−乳酸(PDLA):Mn=106,000。Mw=238,000。
Mw/Mn=2.5
実施例1の押出成形後(ペレット)の分子量
Mn=108,000。Mw=310,000。
Mw/Mn=2.8
実施例2のアダプタから回収した樹脂の分子量
Mn=102,000。Mw=256,000。
Mw/Mn=2.6
この結果、ステレオコンプレックスポリ乳酸の生成時に分子量の低下はないものと判断できる。
【0122】
3)測定結果2
実施例3の押出成形前の分子量
ポリ−L−乳酸(PLLA):Mn=92,000。Mw=184,000。
Mw/Mn=2.0
ポリ−D−乳酸(PDLA):Mn=106,000。Mw=238,000。
Mw/Mn=2.5
実施例3の押出成形後(ペレット)の分子量
Mn=110,000。Mw=264,000。
Mw/Mn=2.4
この結果、ステレオコンプレックスポリ乳酸の生成時に分子量の低下はないものと判断できる。
【0123】
実施例4の押出成形前の分子量
ポリ−L−乳酸(PLLA):Mn=58,000。Mw=129,000。
Mw/Mn=2.2
ポリ−D−乳酸(PDLA):Mn=81,500。Mw=162,000。
Mw/Mn=2.0
実施例4の押出成形後(ペレット)の分子量
Mn=52,200。Mw=94,000。
Mw/Mn=1.8
【0124】
比較例3の押出成形前の分子量
ポリ−L−乳酸(PLLA):Mn=58,000。Mw=129,000。
Mw/Mn=2.2
ポリ−D−乳酸(PDLA):Mn=81,500。Mw=162,000。
Mw/Mn=2.0
比較例3の押出成形後(ペレット)の分子量
Mn=55,000。Mw=101,000。
Mw/Mn=1.8
【0125】
実施例6の押出成形前の分子量
ポリ−L−乳酸(PLLA):Mn=104,000。Mw=238,000。Mw/Mn=2.3
ポリ−D−乳酸(PDLA):Mn=72,900。Mw=157,000。
Mw/Mn=2.2
実施例6の押出成形後(ペレット)の分子量
Mn=67,400。Mw=134,000。
Mw/Mn=2.0
【0126】
<得られたステレオコンプレックスポリ乳酸の融点>
得られたステレオコンプレックスポリ乳酸の融点は、DSCのピークトップから求めたが、再掲すると、実施例1および実施例2のものが220℃、実施例3のものが206℃、実施例4では245.75℃、実施例6では239.6℃であった。
なお、DSCの測定は以下のように行った。
DSC:島津製作所製、DSC−50
サンプル調整:サンプル5.0mgを計りとり、アルミニウムパンを用いて調整。
測定条件:窒素ガス20ml/min気流化において、昇温速度10℃/minで測定を実施した。
実施例毎のステレオコンプレックスポリ乳酸の融点の違いの原因は、明らかではないが、原料の光学純度の違い、および、生成したステレオコンプレックスポリ乳酸の結晶化度および結晶サイズの差に関係すると思われ、光学純度の高いポリ乳酸を用いることで融点の高いステレオコンプレックスポリ乳酸が得られたものと思われる。
【0127】
<成形による着色>
ペレットを測色用可視分光光度計にて色相測定し、着色を調べた。
測定には 高速測色計 日立製作所製 C−2000S型を用いた。
硝子製の5mm筒に5mm厚にペレットを入れ、裏に反射板を置き、積分球を用いて反射光を測定した。光源はD65、視野角は10°であった。
L* a* b*を測定したが、黄変度の評価にはb*を用いた。
b*は実施例4に用いたPLLAは5.91、PDLAは5.07、実施例4で得られたステレオコンプレックスは5.80、実施例4と同原料を用い、二酸化炭素を圧入せず高温で成形した比較例3にて得られたステレオコンプレックスは7.70であった。すなわち、二酸化炭素を圧入して、低温で成形した本発明による製造方法を用いた方が黄変は小さいことが測定値としても示された。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸の製造方法によれば、得られるステレオコンプレックスポリ乳酸は、融点が高く、色相変化が小さく、生産性に優れている。本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸成形品の製造方法によれば、ステレオコンプレックス成分が多く性能が優れ安価にステレオコンプレックスポリ乳酸成形品が得られるのでステレオコンプレックスポリ乳酸成形品の製造方法として好適である。本発明のステレオコンプレックスポリ乳酸の製造装置は、簡易で生産性に優れるため、ステレオコンプレックスポリ乳酸の製造方法に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0129】
1 押出機
2 押出機本体
3 ホッパ
4 シリンダ
5 スクリュー
6 樹脂可塑化ガス注入口
7 開放ベント口
8 強制排気ベント口
9 アダプタ
10 ダイ
11 樹脂可塑化ガス注入装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13