(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、主体金具は、その一部(後端側の部位)がガスセンサ使用時において外部に露出するため、従来、耐食性を考慮して、ステンレス鋼(SUS)により形成されていた。これに対し、本願発明者は、主体金具を、本体部と、この本体部を被覆するメッキ層(本体部よりも耐食性の高いメッキ層)とにより形成することを提案している。本体部は、安価な材料により形成するのが好ましく、例えば、炭素鋼により形成する。この本体部をメッキ層で被覆することで、本体部の腐食防止を図る。
【0006】
ところが、特許文献1のガスセンサのように、主体金具の後端部を径方向内側に屈曲させるように加締めて屈曲部を形成し、この屈曲部によって、外筒体の鍔部を、軸線方向先端側に押圧して固定する形態とした場合に、次のような不具合が生じる虞があった。具体的には、主体金具の後端部を径方向内側に屈曲させるように加締めて屈曲部を形成したときに、後端部(屈曲部)の外面に大きな引張応力が作用し、これが原因で、屈曲部の外面においてメッキ層に亀裂や剥離が生じる虞があった。これにより、屈曲部の本体部が外部に露出して、本体部が腐食する虞があった。
【0007】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、本体部と、この本体部を被覆するメッキ層とからなる主体金具について、屈曲部の外面における加締めによるメッキ層の亀裂や剥離が防止され、屈曲部の腐食が防止されたガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、軸線方向に延びる形態をなし、先端側が被測定ガスに晒されるガス検出素子と、上記軸線方向に延びる筒状をなし、自身の先端から上記ガス検出素子の先端部を突出させた状態で、上記ガス検出素子の周囲を取り囲む主体金具であって、自身の後端部を径方向内側に屈曲させるように加締めて形成された環状の屈曲部を有する主体金具と、上記軸線方向に延びる筒状をなし、上記主体金具の後端側に配置された外筒体であって、自身の先端部が径方向外側に屈曲した形態の環状の鍔部を有する外筒体と、を備え、上記外筒体の上記鍔部が、上記主体金具の径方向内側に配置され、上記主体金具の上記屈曲部によって上記軸線方向の先端側に押圧される形態で固定されてなるガスセンサにおいて、上記主体金具は、本体部と、上記本体部を被覆するメッキ層と、からなり、上記屈曲部の外面の最小曲率半径が、1.5mm以上とされてな
り、上記ガス検出素子は、筒形状であり、上記主体金具の上記屈曲部と上記外筒体の上記鍔部との間には、環状の板パッキンが介在しており、上記外筒体の上記鍔部は、上記主体金具の上記屈曲部によって上記軸線方向先端側に押圧された上記板パッキンを通じて、上記軸線方向先端側に押圧されており、上記板パッキンの内径をD1、外径をD2としたとき、上記主体金具の上記屈曲部は、上記板パッキンのうち少なくとも(D2−D1)/2の幅寸法を有する環状部位を、上記軸線方向先端側に押圧し、上記環状部位を通じて上記外筒体の上記鍔部を上記軸線方向先端側に押圧してなるガスセンサである。
【0009】
上述のガスセンサでは、主体金具として、本体部と、この本体部を被覆するメッキ層(本体部よりも耐食性の高いメッキ層)とからなる主体金具を用いている。
しかも、上述のガスセンサでは、屈曲部の外面の最小曲率半径を1.5mm以上としている。主体金具の加締めにより形成する屈曲部の外面における最小曲率半径を1.5mm以上と大きくすることで、屈曲部の外面において、加締めによるメッキ層の亀裂や剥離が防止され、本体部が外部に露出するのを防止することができる。これにより、屈曲部の本体部の腐食を防止することができる。
なお、メッキ層としては、例えば、クロメート処理したニッケルメッキ層を挙げることができる。
さらに、上述のガスセンサでは、主体金具の屈曲部が、板パッキンのうち、少なくとも(D2−D1)/2の幅寸法を有する環状部位(板パッキンの幅寸法の50%以上の幅寸法を有する環状部位)を、軸線方向先端側に押圧し、上記環状部位を通じて外筒体の鍔部を軸線方向先端側に押圧する形態としている。これにより、主体金具の屈曲部によって外筒体の鍔部を強固に押圧して固定することができると共に、主体金具の屈曲部と外筒体の鍔部との間の気密性を高めることができる。
なお、板パッキン及び環状部位の幅寸法とは、その外径から内径を差し引いた寸法をいう。内径がD1で外径がD2の板パッキンの幅寸法は、(D2−D1)である。
【0010】
さらに、上記のガスセンサであって、前記主体金具の内周面と前記ガス検出素子の外周面との間に圧縮充填された充填部材と、上記記主体金具の内側で且つ上記充填部材よりも後端側に位置し、上記充填部材を前記軸線方向先端側に押圧して圧縮する押圧部材と、を備え、上記押圧部材は、上記主体金具の前記屈曲部よりも上記軸線方向先端側に位置し、上記屈曲部
によって、前記外筒体の前記鍔部と共に上記軸線方向先端側に押圧されて、上記充填部材を上記軸線方向先端側に押圧してなり、上記主体金具は、上記屈曲部よりも先端側に位置し、冷間加締めによって上記屈曲部と共に形成された座屈部であって、径方向外側にのみ膨らんだ筒形状をなす座屈部、を備え、上記座屈部は、上記押圧部材と離間してなるガスセンサとすると良い。
【0011】
上述のガスセンサでは、主体金具の屈曲部によって、押圧部材を、外筒体の鍔部と共に軸線方向先端側に押圧している。これにより、押圧部材によって充填部材を軸線方向先端側に押圧することができ、これによって、充填部材を、主体金具の内周面とガス検出素子の外周面との間に隙間無く充填することができる。これにより、充填部材によって、主体金具の内周面とガス検出素子の外周面との間を気密にすることができる。
【0012】
ところで、前述のように、屈曲部の曲率半径を大きくすることで、その外面において、加締めによるメッキ層の亀裂や剥離が防止され、本体部が外部に露出するのを防止することができる。ところが、屈曲部の曲率半径が大きくなるにしたがって、屈曲部によって、押圧部材を軸線方向先端側に押圧する力が弱くなり、その結果、充填部材による気密性が低下する虞がある。
【0013】
これに対し、主体金具において、屈曲部よりも先端側の位置に、加締めにより屈曲部と共に座屈部を形成することで、屈曲部によって、押圧部材を軸線方向先端側に押圧する力を高め、その結果、充填部材による気密性を高めることができる。詳細には、主体金具が座屈した分だけ、屈曲部と押圧部材との間の軸線方向距離が短くなるので、屈曲部により押圧部材を軸線方向先端側に押圧する力を増大させることができる。例えば、主体金具を熱加締めすることで、屈曲部と共に座屈部を形成することができる。
【0014】
しかしながら、主体金具を熱加締めした場合、座屈部は、主体金具の径方向外側と内側の両側に膨らんで座屈した形状となる。このため、主体金具の内周面と押圧部材との間に隙間がない(あるいは、極めて小さな隙間しかない)小型化されたガスセンサの場合、主体金具に対し熱加締めを行うと、座屈部が形成される部位が径方向内側に膨らもうとして押圧部材と干渉してしまい、十分に主体金具を座屈させることができない虞があった。このために、屈曲部により押圧部材を軸線方向先端側に押圧する力が不足し、充填部材による気密性が低下する虞があった。
【0015】
そこで、上述のガスセンサでは、熱加締めではなく、冷間加締めによって、屈曲部と共に、径方向外側にのみ膨らんだ筒形状をなす座屈部を形成している。冷間加締めにより主体金具を座屈させた場合、径方向内側に膨らむことなく、径方向外側にのみ膨む形態で座屈する。これにより、上述のガスセンサは、座屈部が押圧部材と離間したガスセンサとなる。このため、主体金具の内周面と押圧部材との間に隙間がない(あるいは、極めて小さな隙間しかない)小型化されたガスセンサであっても、加締めて形成する座屈部が押圧部材と干渉することがなく、屈曲部により押圧部材を軸線方向先端側に適切に押圧することができる。
【0016】
さらに、上記いずれかのガスセンサであって、前記主体金具の前記本体部は、炭素鋼からなるガスセンサとすると良い。
【0017】
主体金具の本体部を炭素鋼により形成することで、従来のように主体金具をステンレス鋼により形成する場合に比べて、安価となる。
なお、主体金具の本体部を炭素鋼により形成した場合には、熱加締めによって、屈曲部及び座屈部を形成するのは好ましくない。熱加締めでは、屈曲部及び座屈部を適切に形成することができない虞があり、また、炭素鋼を構成する鉄が酸化して脆くなる虞があるからである。しかしながら、前述のように、本願では、主体金具の冷間加締めによって、屈曲部及び座屈部を形成するので、上記のような不具合が生じる虞がない。
【0018】
さらに、上記いずれかのガスセンサであって、前記主体金具は、自身の先端側に位置し、上記ガスセンサが取り付けられる被取付部材に上記ガスセンサを取り付けるためのネジ部と、上記ネジ部よりも後端側に位置し、上記ネジ部を上記被取付部材のネジ孔に螺挿するための工具を係合させる工具係合部と、前記屈曲部よりも先端側に位置し、冷間加締めによって上記屈曲部と共に形成された座屈部であって、径方向外側に膨らんだ筒形状をなす座屈部と、を備え、上記座屈部は、上記工具係合部よりも後端側に位置してなるガスセンサとすると良い。
【0019】
上述のガスセンサでは、主体金具の冷間加締めによって、屈曲部と共に、径方向外側に膨らんだ筒形状をなす座屈部を形成している。ところで、冷間加締めにより座屈変形させた座屈部は、元々、冷間加締めによって適切に座屈変形するように肉厚が薄くされているため、剛性が低い。このため、軸線方向について、座屈部が、工具係合部とネジ部との間に位置している場合には、工具係合部に工具(例えば、六角レンチ)を係合させて、ネジ部を被取付部材(例えば、排気管)のネジ孔に螺挿するようにして主体金具を締め付けたとき、座屈部に締め付けトルクがかかり、座屈部が破損する(ねじ切れる)虞がある。
【0020】
これに対し、上述のガスセンサでは、座屈部が、ネジ部よりも後端側に位置する工具係合部(例えば、六角形状の部位)よりも、さらに後端側に位置している。すなわち、軸線方向について、座屈部が、工具係合部に対し、ネジ部とは反対側に位置している(座屈部が、ネジ部と工具係合部との間に存在しない)。これにより、工具係合部に工具を係合させて、ネジ部を被取付部材のネジ孔に螺挿するようにして主体金具を締め付けたとき、座屈部に締め付けトルクがかかることがなく、座屈部が破損する(ねじ切れる)虞がない。
【0021】
さらに、上記いずれかのガスセンサであって、前記主体金具の内周面と前記ガス検出素子の外周面との間に充填された充填部材と、上記充填部材よりも後端側に位置し、上記充填部材を前記軸線方向先端側に押圧して圧縮する押圧部材と、を備え、前記外筒体のうち、上記主体金具の前記屈曲部によって上記軸線方向先端側に押圧される前記鍔部は、自身の先端側に位置する上記押圧部材を、直接、上記軸線方向先端側に押圧してなるガスセンサとすると良い。
【0022】
上記ガスセンサでは、外筒体を固定するために設けた鍔部を、押圧部材を軸線方向先端側に押圧するためにも利用している。しかも、鍔部によって、直接、押圧部材を軸線方向先端側に押圧している。このため、別途、押圧部材を押圧する部材を設ける場合に比べて、構成部品を低減でき、構造も簡略化することできるので、低コストとなる。
【0023】
外筒体の鍔部によって押圧部材を軸線方向先端側に押圧することで、押圧部材によって充填部材を軸線方向先端側に押圧することができ、これによって、充填部材を、主体金具の内周面とガス検出素子の外周面との間に隙間無く充填することができる。これにより、充填部材によって、主体金具の内周面とガス検出素子の外周面との間を気密にすることができる。
【0027】
さらに、上記のガスセンサであって、前記主体金具の外面を構成する前記メッキ層をなす金属と、前記板パッキンの外面を構成する金属と、前記外筒体の外面を構成する金属とは、腐食電位が同等であるガスセンサとすると良い。
【0028】
主体金具の外面を構成するメッキ層をなす金属と、板パッキンの外面を構成する金属と、外筒体の外面を構成する金属とについて、腐食電位が異なる場合、主体金具の屈曲部、板パッキン、及び外筒体の鍔部に、水や電解液(電解質が溶解した水溶液)が付着した場合に、腐食電位が低い金属が溶解(イオン化)する虞がある。例えば、主体金具の外面を構成するメッキ層をなす金属が、板パッキンの外面を構成する金属及び外筒体の外面を構成する金属よりも腐食電位が低い場合には、メッキ層が溶解して内部の本体部が露出する虞がある。これにより、主体金具の屈曲部が腐食してしまう虞がある。
【0029】
これに対し、上述のガスセンサでは、主体金具の外面を構成するメッキ層をなす金属と、上記パッキンの外面を構成する金属と、外筒体の外面を構成する金属とが、腐食電位が同等であるので、上記のような不具合が発生する虞がない。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態のガスセンサ100の断面図である。ガスセンサ100は、ガス検出素子120と、外側電極111と、内側電極112と、主体金具160と、第1外筒体130と、プロテクタ170とを有している。
【0032】
主体金具160は、軸線方向に延びる略円筒状をなし、自身の先端(
図1において下端)からガス検出素子120の先端部120bを突出させた状態で、ガス検出素子120の周囲を取り囲んでいる。この主体金具160は、炭素鋼からなる本体部160bと、この本体部160bを被覆するメッキ層160c(炭素鋼よりも耐食性の高いメッキ層)とからなる(
図2参照)。なお、本実施形態では、メッキ層160cとして、クロメート処理したニッケルメッキ層を用いている。
【0033】
また、主体金具160は、後述するガス検出素子120の鍔部120e及びプロテクタ170の後端部171を支持する支持面167を有している。この支持面167は、後端側(
図1において上側)に向かうにしたがって拡径するテーパ面である。
【0034】
さらに、主体金具160は、自身の先端側に、ガスセンサ100を被取付部材(本実施形態では、排気管)に取り付けるためのネジ部165を有している。さらに、ネジ部165よりも後端側の位置に、ネジ部165を被取付部材(排気管)のネジ孔に螺挿するための工具を係合させる工具係合部166(六角形状をなす部位)を有している。さらに、主体金具160は、自身の後端部162を径方向内側に屈曲させるように加締めて形成された環状の屈曲部161を有している。
【0035】
ガス検出素子120は、軸線方向(軸線AXに沿う方向、
図1において上下方向)に延びる形態をなし、先端側(
図1において下端側)が被測定ガス(本実施形態では、排気ガス)に晒される。このガス検出素子120は、酸素イオン伝導性を有する固体電解質からなり、先端部120bが閉塞された略円筒形状を有している。このガス検出素子120の軸線方向中央部には、径方向外側に突出する形態の鍔部120eが設けられている。ガス検出素子120は、鍔部120eの先端面と主体金具160の支持面167との間に、金属製のパッキン142及びプロテクタ170の後端部171を挟んだ状態で、主体金具160内に配置固定されている。
【0036】
なお、ガス検出素子120を構成する固体電解質としては、例えば、Y
2O
3またはCaOを固溶させたZrO
2が代表的なものであるが、それ以外のアルカリ土類金属または希土類金属の酸化物とZrO
2との固溶体を使用しても良い。さらには、これにHfO
2が含有されていても良い。
また、本実施形態では、軸線方向について、ガス検出素子120の先端部120b側を先端側、その反対側を後端側とする。
【0037】
プロテクタ170は、金属からなり、略円筒状をなしている。このプロテクタ170は、被測定ガス(排気ガス)をガスセンサ100の内部に導入するための通気孔170bを有している。プロテクタ170は、その後端側から主体金具160の内部に挿入され、通気孔170bを有する先端部172を外部に露出させた状態とされている。プロテクタ170の後端部171は、径方向外側に屈曲されて鍔状をなし、ガス検出素子120の鍔部120eと主体金具160の支持面167との間に、パッキン142と共に挟まれて固定されている。
【0038】
第1外筒体130は、軸線方向に延びる円筒状をなし、主体金具160の後端側に配置されている。この第1外筒体130は、炭素鋼からなる本体部130bと、この本体部130bを被覆するメッキ層130c(炭素鋼よりも耐食性の高いメッキ層)とからなる(
図2参照)。なお、本実施形態では、主体金具160と同様に、メッキ層130cとして、クロメート処理したニッケルメッキ層を用いている。
【0039】
また、第1外筒体130は、自身の先端部が径方向外側に屈曲した形態の環状の鍔部131を有している。この鍔部131は、主体金具160の後端部162の径方向内側に配置され、主体金具160の屈曲部161によって軸線方向先端側(
図1において下側)に押圧される形態で固定されている。詳細には、主体金具160の屈曲部161と第1外筒体130の鍔部131との間には、板パッキン144が介在しており、第1外筒体130の鍔部131は、主体金具160の屈曲部161によって軸線方向先端側に押圧された板パッキン144を通じて、軸線方向先端側に押圧されている。
【0040】
板パッキン144は、
図3及び
図4に示すように、平面視円環状で、側面視平板状をなしている。この板パッキン144の内径をD1、外径をD2とすると、板パッキン144の幅寸法は、(D2−D1)で表される。この板パッキン144は、炭素鋼からなる本体部144bと、この本体部144bを被覆するメッキ層144c(炭素鋼よりも耐食性の高いメッキ層)とからなる(
図2参照)。なお、本実施形態では、主体金具160と同様に、メッキ層144cとして、クロメート処理したニッケルメッキ層を用いている。
【0041】
外側電極111は、PtあるいはPt合金を多孔質に形成したもので、ガス検出素子120の先端部120bの外面全体を被覆するように設けられている。なお、この外側電極111は、ガス検出素子120の先端部120bの後端から鍔部120eの先端面にわたって線状に設けられており、パッキン142及びプロテクタ170を通じて主体金具160に電気的に接続される。
内側電極112も、PtあるいはPt合金を多孔質に形成したものであり、ガス検出素子120の内面を被覆するように設けられている。
【0042】
第1外筒体130の鍔部131の先端側には、絶縁性セラミック(具体的には、アルミナ)からなる押圧部材140が配置されている。この押圧部材140は、円筒形状をなし、ガス検出素子120に外嵌され、後述する充填部材141を軸線方向先端側に押圧して圧縮している。
【0043】
充填部材141は、滑石粉末からなり、主体金具160の内周面160dとガス検出素子120の外周面120cとの間に充填されている。詳細には、この充填部材141は、押圧部材140とガス検出素子120の鍔部120e及び主体金具160の保持部168との間に位置し、押圧部材140による押圧により、押圧部材140と鍔部120e及び保持部168との間において圧縮されて、主体金具160の内周面160dとガス検出素子120の外周面120cとの間を気密に封止している。なお、充填部材141は、滑石粉末に限られず、例えば窒化ホウ素粉末等であってもよい。
【0044】
より具体的には、主体金具160の屈曲部161によって、押圧部材140を、第1外筒体130の鍔部131と共に軸線方向先端側に押圧している。これにより、押圧部材140によって充填部材141を軸線方向先端側に押圧することができ、これによって、滑石粉末からなる充填部材141を、主体金具160の内周面160dとガス検出素子120の外周面120cとの間に隙間無く充填することができる。
【0045】
特に、本実施形態では、第1外筒体130のうち、主体金具160の屈曲部161によって軸線方向先端側に押圧される鍔部131が、自身の先端側に位置する押圧部材140を、直接、軸線方向先端側に押圧している。すなわち、第1外筒体130を固定するために設けた鍔部131を、押圧部材140を軸線方向先端側に押圧するためにも利用している。しかも、鍔部131によって、直接、押圧部材140を軸線方向先端側に押圧している。このため、別途、押圧部材140を押圧する部材を設ける場合に比べて、構成部品を低減でき、構造も簡略化することできるので、低コストとなる。
【0046】
第1外筒体130の鍔部131によって押圧部材140を軸線方向先端側に押圧することで、押圧部材140によって充填部材141を軸線方向先端側に押圧することができ、これによって、滑石粉末からなる充填部材141を、主体金具160の内周面160dとガス検出素子120の外周面120cとの間に隙間無く充填することができる。これにより、充填部材141によって、主体金具160の内周面160dとガス検出素子120の外周面120cとの間を気密にすることができる。
【0047】
また、第1外筒体130の径方向外側には、第2外筒体135が設けられている。この第2外筒体135は、軸線方向に延びる円筒状をなし、第1外筒体130との間に円筒状のフィルタ138を挟んだ状態で、第1外筒体130に対し加締め固定されている。フィルタ138は、通気性を有し且つ防水性を有するPTFEにより形成されている。
【0048】
第1外筒体130及び第2外筒体135の後端部の径方向内側には、フッ素ゴムで構成されたグロメット146が配置されている。このグロメット146の中心部には、自身を軸線方向に貫通する貫通孔146bが形成されている。
また、グロメット146の先端側(
図1において下側)には、絶縁性のアルミナセラミックからなるセパレータ148が設けられている。このセパレータ148の中心部には、自身を軸線方向に貫通する貫通孔148bが形成されている。
【0049】
グロメット146の貫通孔146b及びセパレータ148の貫通孔148bには、外部装置に接続する出力リード線151が挿入されている。さらに、出力リード線151は、出力端子部材153に電気的に接続している。出力端子部材153は、弾性的に拡径及び縮径可能な略円筒状の接続部153bを有している。この接続部153bは、ガス検出素子120の内面に設けられた内側電極112に対し、弾性的に圧接している。これにより、出力端子部材153が、内側電極112に電気的に接続している。
【0050】
ところで、本実施形態では、前述のように、主体金具160として、炭素鋼からなる本体部160bと、この本体部160bを被覆するメッキ層160c(クロメート処理したニッケルメッキ層)とからなる主体金具160を用いている(
図2参照)。しかも、本実施形態では、主体金具160の後端部162を径方向内側に屈曲させるように加締めて屈曲部161を形成し、この屈曲部161によって、第1外筒体130の鍔部131を、軸線方向先端側に押圧して固定している。
【0051】
従来、このような形態とした場合には、次のような不具合が生じる虞があった。具体的には、主体金具の後端部を径方向内側に屈曲させるように加締めて屈曲部を形成したときに、後端部(屈曲部)の外面に大きな引張応力が作用し、これが原因で、屈曲部の外面においてメッキ層の亀裂や剥離が生じる虞があった。これにより、屈曲部の本体部が外部に露出して、本体部を構成する炭素鋼(主成分である鉄)が腐食する虞があった。
【0052】
これに対し、本実施形態では、屈曲部161の外面161fにおける曲率半径Rの最小値(最小曲率半径)を1.5mm以上としている。主体金具160の加締めにより形成する屈曲部161の外面161fにおける最小曲率半径を1.5mm以上と大きくすることで、屈曲部161の外面161fにおいて、加締めによるメッキ層の亀裂や剥離が防止され、本体部160bを構成する炭素鋼が外部に露出するのを防止することができる。これにより、屈曲部161において本体部160bの腐食を防止することができる。
【0053】
また、本実施形態では、主体金具160を冷間加締めすることにより、屈曲部161と共に、径方向外側にのみ膨らんだ筒形状をなす座屈部163を形成している(
図1参照)。ここで、本実施形態の主体金具の冷間加締めについて、詳細に説明する。
【0054】
図5に示すように、後端部162が軸線方向に延びる円筒形状である主体金具160を用意する。そして、この主体金具160の内側に、ガス検出素子120、充填部材141、押圧部材140、第1外筒体130の鍔部131、及び板パッキン144を配置した状態で、主体金具160の上方から加締め金型10を下方(軸線方向先端側)に移動させて、主体金具160を冷間加締めする。これにより、
図6に示すように、主体金具160の後端部162を径方向内側に屈曲させて屈曲部161を形成すると共に、後端部162よりも薄肉とされた薄肉部163Bを座屈させて座屈部163を形成する。
【0055】
ところで、本実施形態では、前述のように、屈曲部161の曲率半径Rを大きくすることで、その外面161fにおいて、加締めによるメッキ層160cの亀裂や剥離を防止して、本体部160bが外部に露出するのを防止している。ところが、屈曲部161の曲率半径Rが大きくなるにしたがって、屈曲部161によって、押圧部材140を軸線方向先端側に押圧する力が弱くなり、その結果、充填部材141による気密性が低下する虞がある。
【0056】
これに対し、主体金具160において、屈曲部161よりも先端側の位置に、加締めにより屈曲部161と共に座屈部163を形成することで、屈曲部161によって、押圧部材140を軸線方向先端側に押圧する力を高め、その結果、充填部材141による気密性を高めることができる。詳細には、主体金具160の薄肉部163Bが座屈した分だけ、屈曲部161と押圧部材140との間の軸線方向距離が短くなるので、屈曲部161により押圧部材140を軸線方向先端側に押圧する力を増大させることができる。
【0057】
しかしながら、熱加締めにより、主体金具を加締めした場合、座屈部は、主体金具の径方向外側と内側の両側に膨らんで座屈した形状となる。このため、本実施形態のように、主体金具の内周面と押圧部材との間に隙間がほとんどない小型化されたガスセンサの場合、主体金具に対し熱加締めを行うと、座屈部が形成される部位が径方向内側に膨らもうとして押圧部材と干渉してしまい、十分に主体金具を座屈させることができない虞があった。このために、屈曲部により押圧部材を軸線方向先端側に押圧する力が不足し、充填部材による気密性が低下する虞があった。
【0058】
このため、本実施形態では、前述のように、熱加締めではなく、冷間加締めによって、屈曲部161と共に、径方向外側にのみ膨らんだ筒形状をなす座屈部163を形成している。冷間加締めにより主体金具160の薄肉部163Bを座屈させた場合、
図6に示すように、薄肉部163Bは、径方向内側に膨らむことなく、径方向外側にのみ膨む形態で座屈する。これにより、本実施形態のガスセンサ100は、座屈部163が押圧部材140と離間したガスセンサとなる(
図1及び
図6参照)。従って、本実施形態のガスセンサ100は、主体金具160の内周面と押圧部材140との間隙(径方向距離)が主体金具160の薄肉部163B(座屈部163)の厚さ以下であるような、隙間がほとんどない小型化されたガスセンサであるが、加締めによって形成される座屈部163が押圧部材140と干渉することがなく、屈曲部161により押圧部材140を軸線方向先端側に適切に押圧することができる。
【0059】
しかも、本実施形態では、主体金具160の屈曲部161が、板パッキン144のうち、少なくとも(D2−D1)/2の幅寸法を有する環状部位144d(板パッキンの幅寸法の50%以上の幅寸法を有する環状部位144d)を、軸線方向先端側に押圧し、環状部位144dを通じて、第1外筒体130の鍔部131を軸線方向先端側に押圧する形態としている(
図2参照)。これにより、主体金具160の屈曲部161によって第1外筒体130の鍔部131を強固に押圧して固定することができると共に、主体金具160の屈曲部161と第1外筒体130の鍔部131との間の気密性を高めることができる。
【0060】
なお、本実施形態では、主体金具160の屈曲部161が、板パッキン144の幅全体を軸線方向先端側に押圧している(
図2参照)。すなわち、環状部位144dが板パッキン144の全体に一致し、環状部位144dは、(D2−D1)の幅寸法を有する部位(板パッキン144の幅寸法の100%の幅寸法を有する部位)となっている。
【0061】
また、本実施形態では、前述のように、主体金具160の本体部160bを炭素鋼により形成している。主体金具160の本体部160bを炭素鋼により形成することで、従来のように主体金具をステンレス鋼により形成する場合に比べて、安価となる。
なお、主体金具160の本体部160bを炭素鋼により形成した場合には、熱加締めによって、屈曲部161及び座屈部163を形成するのは好ましくない。熱加締めでは、屈曲部161及び座屈部163を適切に形成することができない虞があり、また、炭素鋼を構成する鉄が酸化して脆くなる虞があるからである。しかしながら、前述のように、本実施形態では、主体金具160の冷間加締めによって、屈曲部161と共に座屈部163を形成するので、上記のような不具合が生じる虞がない。
【0062】
ところで、主体金具160の座屈部163は、冷間加締めにより、薄肉部163Bを座屈変形させた部位である。座屈部163となる薄肉部163Bは、冷間加締めによって適切に座屈変形するように肉厚が薄くされているため、剛性が低い。このため、軸線方向について、座屈部163が、工具係合部166とネジ部165との間に位置している場合には、工具係合部166に工具(例えば、六角レンチ)を係合させて、ネジ部165を被取付部材(排気管)のネジ孔に螺挿するようにして主体金具160を締め付けたとき、座屈部163に締め付けトルクがかかり、座屈部163が破損する(ねじ切れる)虞がある。
【0063】
これに対し、本実施形態のガスセンサ100では、座屈部163が、ネジ部165よりも後端側に位置する工具係合部166(六角形状の部位)よりも、さらに後端側に位置している。すなわち、軸線方向について、座屈部163が、工具係合部166に対し、ネジ部165とは反対側に位置している(座屈部163が、ネジ部165と工具係合部166との間に存在しない)。これにより、工具係合部166に工具を係合させて、ネジ部165を被取付部材のネジ孔に螺挿するようにして主体金具160を締め付けたとき、座屈部163に締め付けトルクがかかることがなく、座屈部163が破損する(ねじ切れる)虞がない。
【0064】
また、主体金具の外面を構成する金属と、板パッキンの外面を構成する金属と、第1外筒体の外面を構成する金属とについて、互いの腐食電位が異なる場合には、次のような不具合が生じる虞がある。具体的には、主体金具の屈曲部、板パッキン、及び第1外筒体の鍔部に、水や電解液(電解質が溶解した水溶液)が付着した場合に、腐食電位が低い金属が溶解(イオン化)する虞がある。例えば、主体金具の外面を構成する金属が、板パッキンの外面を構成する金属及び第1外筒体の外面を構成する金属よりも腐食電位が低い場合には、主体金具の外面を構成する金属(メッキ層)が溶解して、内部の本体部(炭素鋼)が露出する虞がある。これにより、主体金具の屈曲部が腐食してしまう虞がある。
【0065】
これに対し、本実施形態では、主体金具160の外面、板パッキン144の外面、第1外筒体130の外面を、いずれも、クロメート処理したニッケルメッキ層により構成している。これにより、主体金具160の外面を構成する金属と、板パッキン144の外面を構成する金属と、第1外筒体130の外面を構成する金属とについて、互いの腐食電位を同等としている。このため、上記のような不具合が発生する虞がない。
【0066】
(促進腐食試験)
次に、主体金具の屈曲部の外面における曲率半径Rの最小値(最小曲率半径)が異なるサンプル(サンプル1〜5)を用意した。具体的には、押圧面の曲率が異なる加締め金型による冷間加締めにより、各サンプルの主体金具について、外面における曲率半径Rの最小値(最小曲率半径)が異なる屈曲部を形成した。
【0067】
サンプル1では、主体金具の冷間加締めにより、外面の最小曲率半径を1.0mmとした屈曲部を形成した。サンプル2では、外面の最小曲率半径を1.2mmとした屈曲部を形成した。サンプル3では、外面の最小曲率半径を1.5mmとした屈曲部を形成した。サンプル4では、外面の最小曲率半径を1.7mmとした屈曲部を形成した。サンプル5では、外面の最小曲率半径を1.9mmとした屈曲部を形成した。
なお、各サンプルの主体金具は、実施形態と同様に、炭素鋼からなる本体部と、この本体部を被覆するメッキ層(クロメート処理したニッケルメッキ層)とからなる。
【0068】
次いで、これらのサンプルについて、促進腐食試験を行った。具体的には、JIS H 8502に準拠した塩水噴霧試験を行った。詳細には、各サンプルの屈曲部の外面に塩水を噴霧し、24時間経過した後に、屈曲部の外面に赤錆が発生したか否かを確認した。その結果を表1に示す。本試験によって、赤錆が発生したサンプルでは、冷間加締めにより、屈曲部の外面においてメッキ層の亀裂等が発生し、本体部が露出したと判断することができる。一方、赤錆が発生しなかったサンプルでは、屈曲部の外面においてメッキ層の亀裂等が発生せず、本体部は露出していないと判断することができる。
【0070】
表1に示すように、外面の最小曲率半径を1.0mm、1.2mmとしたサンプル1,2では、赤錆が発生した。従って、サンプル1,2では、冷間加締めにより、屈曲部の外面においてメッキ層の亀裂等が発生し、本体部が露出したと判断することができる。
一方、外面の最小曲率半径を1.5mm、1.7mm、1.9mmとしたサンプル3〜5では、赤錆が発生しなかった。従って、サンプル3〜5では、冷間加締めにより、屈曲部の外面においてメッキ層の亀裂等が発生せず、本体部は露出しなかった判断することができる。
【0071】
以上の結果より、主体金具の加締めにより形成する屈曲部の外面における最小曲率半径を1.5mm以上とすることで、その外面において、加締めによるメッキ層の亀裂や剥離が防止され、本体部が外部に露出するのを防止することができるといえる。これにより、屈曲部の腐食(錆の発生)を防止することができるといえる。
【0072】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0073】
例えば、実施形態では、主体金具160の屈曲部161が、板パッキン144の幅全体を軸線方向先端側に押圧する形態とした(
図2参照)。すなわち、屈曲部161によって押圧される環状部位144dが板パッキン144の全体に一致し、環状部位144dは、(D2−D1)の幅寸法を有する部位(板パッキン144の幅寸法の100%の幅寸法を有する部位)となっていた。
【0074】
しかしながら、
図7に示すガスセンサ200のように、主体金具260の屈曲部261が、板パッキン144のうち、3(D2−D1)/4の幅寸法を有する環状部位244d(板パッキンの幅寸法の75%の幅寸法を有する環状部位244d)を、軸線方向先端側に押圧する形態としても良い。
また、
図8に示すガスセンサ300のように、主体金具360の屈曲部361が、板パッキン144のうち、(D2−D1)/2の幅寸法を有する環状部位344d(板パッキンの幅寸法の50%の幅寸法を有する環状部位344d)を、軸線方向先端側に押圧する形態としても良い。
【0075】
すなわち、主体金具の屈曲部が、板パッキンのうち、少なくとも(D2−D1)/2の幅寸法を有する環状部位(板パッキンの幅寸法の50%以上の幅寸法を有する環状部位)を、軸線方向先端側に押圧し、この環状部位を通じて、第1外筒体の鍔部を軸線方向先端側に押圧する形態とすれば良い。このようにすることで、主体金具の屈曲部によって第1外筒体の鍔部を強固に押圧して固定することができると共に、主体金具の屈曲部と第1外筒体の鍔部との間の気密性を高めることができる。