【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構省エネルギー革新技術開発事業/挑戦研究(事前研究一体型)/メゾスコピック材料を用いた電力光無損失変換技術の研究開発,産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
タングステンフィラメント等に電流を流すことにより、フィラメントを加熱し、電球とする白熱電球が広く用いられている。白熱電球は、(a)安価である、(b)演色性に優れている、(c)動作電圧を選ばない(交流でも直流でも可)、(d)簡素な灯具で点灯可能である、(d)世界的に普及している、等数々の利点を有する。しかしながら、白熱電球は、電力から可視光への変換効率が15lm/W程度であり、蛍光灯(変換効率90lm/W)よりも低いため、環境負荷が大きい。
【0003】
可視光への変換効率を高めるために、特許文献1では、フィラメントの表面に複数のマイクロキャビティ(孔)を形成し、波長700nm以上の光の放射をカットするとともに、配光を制御することが開示されている。
【0004】
また、非特許文献1には、フィラメント表面に微細構造体を作製し、その微細構造体の物理的効果、すなわち赤外光の一部の放射補強並びに放射抑制効果を示す開示がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、フィラメントの表面を鏡面に研磨加工し、表面の粗さ(中心線平均粗さRa)を1μm以下に加工する。これにより、フィラメントの反射率を波長3μm以上の赤外波長域で0.9以上にすることができ、赤外波長域の放射率を抑制することができる。
【0013】
具体的な、本発明の一実施の形態について図面を用いて説明する。
【0014】
図1に、本実施形態のフィラメントを用いた白熱電球の切り欠き断面図を示す。白熱電球1は、透光性気密容器2と、透光性気密容器2の内部に配置されたフィラメント3と、フィラメント3の両端に電気的に接続されると共にフィラメント3を支持する一対のリード線4,5とを備えて構成される。透光性気密容器2は、例えばガラスバルブにより構成される。透光性気密容器2の内部は、10
−3〜10
−6Paの高真空状態となっている。
【0015】
透光性気密容器2の封止部には、口金9が接合されている。口金9は、側面電極6と、中心電極7と、側面電極6と中心電極7とを絶縁する絶縁部8とを備える。リード線4の端部は、側面電極6に電気的に接続され、リード線5の端部は、中心電極7に電気的に接続されている。
【0016】
フィラメント3は、高抵抗で融点の高い金属または合金の線材をらせん状に巻き回した構造である。例えば、タングステン、モリブデン、コンスタンタン、タンタル、レニウム、ニオブ、イリジウム、オスミウム、クロム、ジルコニウム、白金、バナジウム、ルテニウム、ロジウム、鉄、ステンレス、ならびに、これらの材料の1以上を含む合金を線材材料として用いることができる。
【0017】
線材は、通常、材料金属の焼結や線引き等の工程により作製される。焼結や線引き等の工程により製造された線材は、表面が粗面であるため、反射率が小さい。本発明では、線材の表面を研磨加工することにより、赤外波長域以上の反射率を大きくし、これにより赤外波長域以上の放射率を抑制する。
【0018】
以下、最も多く利用されているタングステンフィラメント例に具体的に説明する。
【0019】
タングステンフィラメントの原材料は、一般的に鉄マンガン重石または灰重石である。鉄マンガン重石はアルカリにより、灰重石は塩酸により処理し、湿式で精錬してパラタングステン酸アンモニウムの結晶を作成する。これを大気中または水素雰囲気で加熱分解し、酸化タングステンとする。次に、水素気流中800〜1200Kで還元して金属タングステン粉を得る。金属タングステン粉を50〜500MPaでプレス成型後、水素気流中1300〜1500Kで予備焼結した後、電気抵抗加熱で約3000〜3300Kで焼結する。得られた焼結体をスエージング加工ならびに線引き加工し、線材(線棒)とする。線棒以外の形状のフィラメントは、焼結体あるいは線棒を素材として、鍛造あるいは圧延により製作する。この後、フィラメントの表面を電界研磨する。
【0020】
この際、純タングステンの再結晶粒は、等軸結晶組織となり、比較的丸く、線軸に垂直な粒界を多くもつ。このため、純タングステン線で作られたフィラメントコイルは、高温使用において、フィラメントの半径方向に延びる結晶粒界における滑り現象のために、自重など、わずかな外力によって変形(クリープ変形)する。変形したフィラメントは、局部的過熱を起こし、断線しやすくなる。これを防ぐために、高温で動作するフィラメントとして、ドープタングステンを用いることが望ましい。タングステンに酸化トリウムやカリウムを微量添加することにより、フィラメントの半径方向の結晶粒成長が抑制され、再結晶粒は加工方向(軸方向)に長く伸びた長大結晶となる。このため、純タングステン線に比べて高温での強度を高めることができる。具体的には、酸化トリウム(ThO
2)は、タングステン結晶粒界に細かく分散し、しかも高温で安定であるため、粒界の移動を阻止し、結晶粒成長を抑制して再結晶粒を小さくする作用をする。カリウムは、スエージング加工ならびに線引き加工で線の軸方向に延び、分断され、高温で微細なバブルの列を形成し、結晶粒の半径方向への成長を抑制して、加工方向である線軸方向に延びた長大再結晶粒を形成する作用をする。これにより、トリウムあるいはカリウムを添加したタングステンの二次再結晶温度は、2000K以上と高くなる。
【0021】
タングステンをフィラメントに用いる場合、フィラメントに求める機能などにより、ドープタングステンと純タングステンの特徴を生かしていずれかを選択して用いることができる。
【0022】
上記製造工程で製造されたタングステンフィラメントは、表面の粗さが粗い。一例としては、上記製造工程で製造されたタングステンフィラメントは、中心線平均粗さRa>1μmであり、
図2に示したような反射率(γ(λ))を示す(ただし、λは波長である)。放射率ε(λ)は、キルヒホッフの法則により、ε(λ)=1−γ(λ)で計算することができる。
図2には、タングステンの放射スペクトルと、黒体放射スペクトル(3000K)と、視感度曲線と、視感度内におけるタングステンの放射スペクトルも併せて示されている。タングステンの放射スペクトルは、タングステンの放射率ε(λ)と黒体放射スペクトルとを掛けて得たものである。視感度内におけるタングステンの放射スペクトルは、視感度曲線とタングステンの放射スペクトルとを掛けて得たものである。
【0023】
このタングステンフィラメントから外部空間に光の放射により損失するエネルギーP(radiation)は、以下の(1)式により求めることができる。
【数1】
(1)式において、ε(λ)は、上述のように各波長における放射率、αλ
−5/(exp(β/λT)−1)はプランクの放射則であり、α=3.747×10
8 Wμm
4/m
2、β=1.4387×10
4 μmK である。
【0024】
(1)式からフィラメントの全波長の放射エネルギーと、可視光の放射エネルギーを求め、その比を可視光変換効率とすると、通常の粗い面を有するタングステンフィラメントの可視光変換効率(放射効率)は、凡そ3000Kの温度で27lm/Wとなる。この値は、実際に測定した白熱電球の電力から可視光への変換効率が15〜20lm/W程度と比較して30%程度低い。この損失は、白熱電球のフィラメント3への電流を導くリード線4,5や口金9からの熱伝導損失により生じるものと思われる。
【0025】
本発明では、フィラメントの表面を機械研磨加工により鏡面にすることにより少なくとも赤外波長域以上の反射率を大きくし、これにより赤外波長域以上の放射率を抑制し、入力エネルギーの多くを可視光成分に変換する。
【0026】
例えば、タングステンフィラメントの波長3μm以上の赤外波長域における反射率を0.9以上、波長0.7μm以下の可視光波長域における反射率を0.6以下とするように研磨することが望ましい。そのため、中心線平均粗さRaが1μm以下であることが好ましく、特に0.5μm以下であることが好ましい。ここでいう中心線平均粗さRaは、接触式表面粗さ計で測定したものである。また、研磨後のフィラメント表面は、表面酸化膜が除去されているため、凹凸のない滑らかな面となっていることに加え、表面酸化膜が除去されることでさらに反射率が向上している。
【0027】
中心線平均粗さRaと反射率γ(λ)は、Raが5μm以下の粗さ領域では定性的に以下の式(2)で記述することができる。
γ(λ)=1−α(λ)Ra ・・・(2)
ここで、α(λ)は、波長および材質に応じた中心線平均粗さRaと反射率γ(λ)を結び付ける形状因子で、今回の金属材料では、材料に大きく依存せず、波長3μmで0.1−0.2(μm
−1)程度の値をとる。
【0028】
具体的には、上記製造工程により製造されたタングステンフィラメントを複数種類のダイヤモンド研磨粒により研磨し、中心線平均粗さRaを0.2μm以下の鏡面にすることにより、反射率を
図3のように最大値を0.98程度まで向上させることができる。これにより、機械研磨加工前と比較して、波長3μm以上の赤外領域における放射率を抑制することができる。研磨加工後のタングステンフィラメントの放射スペクトルは
図3のようになる。機械研磨加工後の放射率を用いてタングステンフィラメントの可視光変換効率を求めると、31.3lm/Wとなり、研磨加工前の粗面のタングステンフィラメントの可視光変換効率27lm/Wの約1.2倍にすることができる。
【0029】
上述の説明では、タングステンフィラメントを例に説明したが、タングステンに限らず他の材料のフィラメントについても、同様に鏡面加工することにより可視光変換効率を向上させることができる。例えば、モリブデン線の場合、研磨加工前の中心線平均粗さRaが1μmよりも大きい状態では
図4に示すような反射率曲線を示し、その際の可視光変換効率は、35.3lm/Wであるが、研磨加工により中心線平均粗さRaを0.1μm以下にした場合、
図5に示すように反射率が10%程度増大する。その結果、可視光変換効率は43.4lm/Wとなり、研磨加工前よりも20%以上向上させることができる。
【0030】
また、タンタル線の場合、研磨加工前の中心線平均粗さRaが1μmより大きい状態では
図6に示すような反射率曲線を示し、その際の可視光変換効率は、63.7lm/Wであるが、研磨加工により中心線平均粗さRaを0.1μm以下にした場合、
図7に示すように反射率が10%程度増大する。その結果、可視光変換効率は100.4lm/Wとなり、研磨前よりも60%以上向上させることができる。
【0031】
モリブデン線およびタンタル線の場合も、タングステンと同様に赤外波長(λ=3μm以上)における反射率が0.9を超えるように研磨することが望ましい。そのため、中心線平均粗さRaが1μm以下であることが好ましく、特に0.1μm以下であることが好ましい。ここでいう中心線平均粗さRaは、接触式表面粗さ計で測定したものである。
【0032】
上述のようにフィラメントを研磨して反射率を向上させることにより可視光変換効率が向上する割合は、タンタル、モリブデン、タングステンの順に大きい。その理由は、放射スペクトルのピークと反射率曲線の変曲点の位置(波長)との関係にある。例えば、タングステン線の場合、波長が短くなるにつれ反射率が大きく低下する位置(変曲点)は、
図2および
図3のように1.5μm付近に存在するのに対し、放射スペクトルのピークは1μmにあるため、反射率向上による赤外光放射抑制の効果が大きく得られない。一方、タンタル線の場合、波長が短くなるにつれ反射率が大きく低下する位置(変曲点)は、波長0.7〜0.8μm付近に存在し、放射スペクトルのピークも0.7〜0.8μm付近にあるため、反射率向上による赤外光の放射抑制の効果が大きく得られる。
【0033】
このように、本発明では、フィラメントの表面の反射率を高めるという簡単な構成で、赤外域の放射を抑制することができ、結果的に入力電力に対する可視光の可視光変換効率を高めることができる。これにより、安価で効率のよい省エネ型照明用電球を提供することができる。
【0034】
また、上述の実施形態では、機械研磨加工によりフィラメント表面の反射率を向上させたが、機械研磨加工に限らず、フィラメント表面の反射率を向上させることができれば他の方法を用いることももちろん可能である。例えば、湿式や乾式のエッチングや、線引き時や鍛造や圧延時に滑らかな型に接触させる方法等を採用できる。
【0035】
上述の実施形態では、本発明のフィラメントを白熱電球のフィラメントとして用いることを説明したが、白熱電球以外に用いることも可能である。例えば、ヒーター用電線、溶接加工用電線、熱電子放出電子源(X線管や電子顕微鏡等)等として採用することができる。この場合も、赤外光放射の抑制作用により、少量の入力電力で、効率よく高温にフィラメントを加熱することができるため、エネルギー効率を向上させることができる。