(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来の耐震補強構造では、炭素繊維シートの破断伸びが小さい(炭素繊維シート:約14%)ので、巨大地震や大きな衝撃によって構造体が大変形すると、補強材やそれを構造体に接合する接合材が破断してエネルギー吸収性能を発揮することができないおそれがある。このため、上記した従来の耐震補強構造では、巨大地震や大きな衝撃に対応できないという問題がある。
また、仮に巨大地震や大きな衝撃によってコンクリート構造物が破壊されると、内部の鉄筋が破断していなくても破壊されたコンクリート片が崩れ落ちて被害が甚大となる。
つまり、コンクリート構造物の躯体表面のコンクリートが剥がれ、このコンクリート片が散逸することとなる。そのため、コンクリート構造物が建物の場合には、散逸するコンクリート片が落下したり、側壁自体の形状が保持できなくなり、側壁の自立性も失われて建物が倒壊するという二次的な被害が発生するという問題があった。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、巨大地震や大きな衝撃の際にもエネルギー吸収性能を発揮することができ、また、仮に構造体が破壊されたとしても構造体から生じるコンクリート片等の散逸を防止することができる構造
体およびこの補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る構造体では、
コンクリート造の構造体の補強部位の表面を被覆するように補強材を前記構造体に対して一体に設けて
前記補強部位が補強される構造体であって、
前記補強材は、補強部位の表面に貼り付けられる炭素繊維シートと、
該炭素繊維シートの表面に被覆され、イソシアネートとアミンとの化学反応により形成された化合物であるポリウレア樹脂からなる補強塗膜と、からな
り、前記補強塗膜は、引張強度が10〜25MPa、破断伸びが200%以上の物性を有し、前記炭素繊維シートの表面に2〜8mmの塗布厚で被覆されてなり、前記炭素繊維シートとともに前記構造体の変形が塑性域に達してコンクリートが破壊されても、前記補強塗膜によって前記構造体の形状が保持され、最終的な変形量が減少することを特徴としている。
【0007】
また、本発明に係る構造
体の補強方法では、上述した構造
体の補強方法であって、構造体の補強部位の表面に
炭素繊維シートを貼り付ける工程と、
炭素繊維シートの表面に前記補強塗膜を被覆する工程と、を有することを特徴としている。
【0008】
本発明では、イソシアネート
アミンとの化学反応により形成された化合物
であるポリウレア樹脂からなる補強塗膜が、せん断付着力が高く、曲げ引張強度が高く、かつ伸び性能が高い力学的特性(強度、伸び)に優れた合成樹脂であり、例えば10〜25MPa程度の高強度と例えば200%以上の大きな破断伸び(伸び変形性能)を有する。また、構造体の補強部位の表面に
炭素繊維シートを貼り付けることで、構造体の耐力を向上させることができる。
すなわち、構造体の耐力を
炭素繊維シートで行い、変形に対する粘り強さを補強塗膜で行うことができる。そのため、
炭素繊維シートとともに構造体の変形が塑性域に達しても、補強塗膜が構造体の大変形に追従して伸び変形するので、補強塗膜によって構造体の変形に応じたエネルギー吸収性能が発揮される。したがって、巨大地震や大きな衝撃による荷重に対応することが可能な構造を設けることができる。
【0009】
仮に、上記巨大地震などの荷重を受けることにより構造体の変形が塑性域に達してコンクリートが破壊されても、補強塗膜は伸びることはあっても破断せず、補強塗膜によって構造体の表面が被覆された状態が維持される。これにより、構造体のコンクリート片の散逸が防止され、また、構造体が転倒したり崩壊したりせずに自立した形状が保持される。
しかも、補強塗膜は変形抵抗を有しているので、構造体に衝撃が加わって撓み変形したときに、補強塗膜の変形抵抗力によって構造体を元の形状に戻す力が働く。その結果、構造体は、一旦大きく撓み変形した後に若干戻され、最終的な変形量が小さく抑えられる。
【0010】
また、本発明の構造
体によれば、構造体に補強塗膜を吹き付けや塗布することによって形成されるので、容易に且つ安価に施工することができ、既設の構造体においても容易に施工できる。
【0011】
また、本発明に係る構造
体では、補強塗膜は、構造体のうち2面以上に設けられていることが好ましい。
【0012】
これにより、構造体の2面以上が補強塗膜によって包み込まれた状態となり、その効果(ラッピング効果)により、上記した形状保持がより効果的に発揮される。
【0013】
また、本発明に係る構造
体では、補強塗膜は、構造体の表面全体に設けられていることが好ましい。
これにより、構造体の表面全体が補強塗膜によって包み込まれた状態となり、その効果(ラッピング効果)により、上記した形状保持がより一層効果的に発揮される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の構造
体およびこの補強方法によれば、巨大地震や大きな衝撃の際にもエネルギー吸収性能を発揮することができ、仮に構造体が破壊されたとしても、その構造体のコンクリート片の散逸を防ぎ(局所破壊防止)、転倒したり崩壊したりせずに自立した形状を保持(全体破壊防止/形状保持)することができる。そのため、コンクリート片等の散逸に伴う二次的な被害を抑えることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態による構造
体およびこの補強方法について、図面に基づいて説明する。
【0018】
本実施の形態では、
図1に示すように、建物の躯体や津波対策用の防護壁などからなる鉄筋コンクリート造の構造体1を補強する補強材10について説明する。ここで、本実施の形態の構造体1は、所定厚さ寸法を有する長尺で6面を有する箱型構造であって、この長手方向の両端面を除いた表面(4つの表面1a、1b、1c、1d)全周にわたって補強材10で補強された構造である。
補強材10は、構造体1の4つの表面1a〜1dに巻き付けられて貼り付けられるシート状の炭素繊維シート2と、その炭素繊維シート2のさらに表面に被覆された靭性の高い樹脂製の補強塗膜3と、からなる二層構造となっている。
【0019】
炭素繊維シート2は、炭素繊維を一方向又は二方向に配列したシートであって、構造体1の躯体表面に対してエポキシ樹脂を用いて炭素繊維シートに樹脂を含浸させながら接着し、CFRP(強化プラスチック)化され、構造体1の耐力を増強させるものである。なお、炭素繊維シート2は、構造体1の表面に対して1回巻き、或いは2回巻きであってもよい。
【0020】
補強塗膜3は、構造体1の表面全体を所定の塗布厚(例えば
図2に示す厚さ寸法Dは4mm)をもって被覆するように設けられている。
【0021】
上記した補強塗膜3は、構造体1の表面に吹き付けやローラーなどで塗布される樹脂製の塗膜であって、イソシアネートと、ポリオール及びアミンのうちの少なくとも一方からなる硬化剤との化学反応により形成された化合物からなる。例えば、補強塗膜3としては、イソシアネートとアミンとの化学反応により形成された化合物であるポリウレア樹脂を用いることができる。
【0022】
具体的に補強塗膜3は、せん断付着力が高く、曲げ引張強度が高く、かつ伸び性能が高い力学的特性(強度、伸び)に優れた合成樹脂からなる。例えば、ポリウレア樹脂の場合には、
図3に示すような力学的特性を有している。ここで、補強塗膜3を構成する合成樹脂としては、例えば引張強度が鉄筋の十分の一程度の20MPa程度(10〜25MPa)であって、破断伸びが200%以上の物性を有する樹脂からなり、例えば「スワエールAR−100(登録商標:三井化学産資株式会社製)」が用いられる。なお、補強塗膜3の厚さ寸法Dは、2mm以上であることが好ましい。
【0023】
ここで、構造体1に補強材10を被覆する施工方法としては、塗布するコンクリート表面(ここでは、符号1a〜1dの4表面)を十分に清掃して塵等を取り除いた後、エポキシ樹脂を用いて炭素繊維シート2に樹脂を含浸させながら接着する。その後、炭素繊維シート2の表面にプライマーを塗布した後、ポリウレア樹脂を所定厚さだけ塗布する。これにより、構造体1の表面に炭素繊維シート2と補強塗膜3の二層からなる補強材10が形成される。なお、プライマーの塗布は省略することも可能である。
【0024】
次に、上記した構成からなる構造
体の作用について、具体的に説明する。
図1および
図2に示すように、本実施の形態では、補強塗膜3が、せん断付着力が高く、曲げ引張強度が高く、かつ伸び性能が高い力学的特性(強度、伸び)に優れた合成樹脂であるため、構造体1の耐力を炭素繊維シート2で行い、変形に対する粘り強さを補強塗膜3で行うことができる。そのため、炭素繊維シート2とともに構造体1の変形が塑性域に達しても、補強塗膜3が構造体1の大変形に追従して伸び変形するので、補強塗膜3によって構造体1の変形に応じたエネルギー吸収性能が発揮される。したがって、巨大地震や大きな衝撃による荷重に対応することが可能な構造を設けることができる。
【0025】
仮に、上記巨大地震などの荷重を受けることにより構造体1の変形が塑性域に達してコンクリートが破壊されても、補強塗膜3は伸びることはあっても破断せず、補強塗膜3によって構造体1の表面が被覆された状態が維持される。これにより、構造体1のコンクリート片の散逸が防止され、また、構造体1が転倒したり崩壊したりせずに自立した形状が保持される。
しかも、補強塗膜3は変形抵抗を有しているので、構造体1に衝撃が加わって撓み変形したときに、補強塗膜3の変形抵抗力によって構造体1を元の形状に戻す力が働く。その結果、構造体1は、一旦大きく撓み変形した後に若干戻され、最終的な変形量が小さく抑えられる。
【0026】
また、構造体1に補強塗膜3を吹き付けや塗布することによって形成されるので、容易に且つ安価に施工することができ、既設の構造体においても容易に施工できる。
【0027】
また、補強塗膜3が構造体1のうち2面以上(ここでは4面1a〜1e)に設けられているので、その4面1a〜1eが補強塗膜3によって包み込まれた状態となり、その効果(ラッピング効果)により、上記した形状保持がより効果的に発揮される。
【0028】
上述のように本実施の形態による構造
体およびこの補強方法では、巨大地震や大きな衝撃の際にもエネルギー吸収性能を発揮することができ、仮に構造体1のコンクリートが破壊されたとしても、その構造体1のコンクリート片の散逸を防ぎ(局所破壊防止)、転倒したり崩壊したりせずに自立した形状を保持(全体破壊防止/形状保持)することができる。そのため、コンクリート片の散逸に伴う二次的な被害を抑えることができる。
【0029】
次に、上述した実施の形態による構造
体およびこの補強方法の効果を裏付けるために行った試験例(実施例1、2)について以下説明する。
【0030】
(実施例1)
実施例1では、コンクリート製の円柱供試体を使用し、その供試体の外周面に炭素繊維シートおよびポリウレア樹脂を塗布して補強した試験体1と、炭素繊維シートのみで補強した試験体2と、補強無しの試験体3とに対して、載荷装置を使用して各試験体の中心軸方向を圧縮方向とする圧縮試験を行い、各試験体1、2、3の変形状態(亀裂や剥離)を確認した。
【0031】
各試験体1〜3は、直径10cm、高さ20cmの円柱状の構造体であり、4週強度で30N/mm
2のコンクリートを使用している。載荷条件としては、試験体1〜3を中心軸線方向を上下方向に向けて配置し、上方より準静的な0.0001m/sの速度で載荷した。
ここで、試験体1は炭素繊維シートを供試体の外周面に2回巻き付け、さらにその表面に塗布厚8mmのポリウレア樹脂を塗布したものであり、試験体2は炭素繊維シートを供試体の外周面に2回巻き付けたものである。
【0032】
図4は、上記試験体1〜3において、横軸を載荷点の変形量δ(mm)とし、縦軸を荷重P(kN)とした曲げ試験結果を示している。
図4に示すように、降伏時の荷重(耐力)を比較すると、炭素繊維シートとポリウレア樹脂で補強した試験体1は、略840kNとなり、補強無しの試験体3の略290kNの荷重と比べて約3倍となり、炭素繊維シートのみの補強である試験体2の略650kNの荷重と比べて約1.3倍となった。また、変形量(靭性)を比較すると、試験体1は、略12.8mmとなり、試験体3の略2mmの変形量と比べて6倍以上となり、試験体2の略6.3mmの変形量と比べて約2倍となった。このとき、試験体1は、降伏後の耐力の低減も急激には起こらず、しかも、残存耐力を高めることを確認することができた。
また、試験体2、3では、コンクリート片が周囲に飛散したが、試験体1ではコンクリート片の飛散はほとんど確認できない状態であった。
【0033】
このように炭素繊維シートにポリウレア樹脂を塗布することにより拘束効果(ラッピング効果)が得られ、構造部材の部分的な圧壊はあるものの、コンクリート片の発生を抑制(局所破壊防止)し、破壊をもたらす引張りやせん断に対してポリウレア樹脂のライニングが受け持つことで構造部材本体の形状保持(全体破壊防止)し、コンクリート片の飛散をさせないという効果があることが確認された。
【0034】
(実施例2)
次に、実施例2では、上記実施例1における試験において、試験体1、2に使用する炭素繊維シートに代えて、より優れた強度を有するダイニーマ(東洋紡績株式会社製、登録商標)繊維シートを用い、上記実施例1と同様の試験を行い、変形状態(亀裂や剥離)を確認した。なお、試験体1は、その表面に塗布厚8mmのポリウレア樹脂を塗布したものである。試験体2は、試験体1のポリウレア樹脂は、ダイニーマ繊維シートを供試体の外周面に1回巻き付けたものである。
【0035】
図5に示すように、降伏時の荷重(耐力)を比較すると、ダイニーマ繊維シートとポリウレア樹脂で補強した試験体1は、略390kNとなり、補強無しの試験体3の略290kNの荷重と比べて約1.3倍となり、ダイニーマ繊維シートのみの補強である試験体2の略350kNの荷重と比べて約1.1倍となった。また、変形量(靭性)を比較すると、試験体1は、略11.1mmとなり、試験体3の略2mmの変形量と比べて約5.5倍となり、試験体2の略8.8mmの変形量と比べて約1.3倍となった。このとき、試験体1は、降伏後の耐力の低減も急激には起こらず、しかも、残存耐力を高めることを確認することができた。また、試験体2、3では、コンクリート片が周囲に飛散したが、試験体1ではコンクリート片の飛散はほとんど確認できない状態であった。
これにより、本実施例2においても、上記実施例1と同様にダイニーマ繊維シートにポリウレア樹脂を塗布することによっても拘束効果(ラッピング効果)が得られることが確認された。
【0036】
以上、本発明による構造
体およびこの補強方法の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施の形態では構造体として建物の躯体や津波対策用の防護壁などからなる鉄筋コンクリート製のものを本発明の構造
体の適用対象としているが、これに限定されることはなく、他の形態の板状構造に適用することも可能である。例えば、床版、防液堤、ロックシェッド、スノーシェッド、橋梁高欄、桟橋などのコンクリート製の構造体や、石積み橋脚、石積み擁壁などの石積み構造、或いは橋梁の鋼桁(鋼構造、合成構造)、鋼製の橋脚、鋼製のタンク等の構造
体の適用対象とすることができる。
【0037】
また、本実施の形態では、構造体1のうち長手方向の両端面には補強材10を施していないが、これに限定されず、構造体1の表面全体にわたって補強材10により補強することも可能であり、また、対向する2面(例えば
図2において符号1a、1cの2面)のみに補強材10を設ける構成であってもかまわない。
【0038】
さらに、
炭素繊維シートと補強塗膜との範囲が必ずしも互いに対応している必要はない。例えば、6面を有する構造体において、そのうち所定の2面に
炭素繊維シートを設け、全面(6面)に対して補強塗膜で被覆するようにしてもよい。
【0039】
さらにまた、補強塗膜3において、例えばガラス片やガラス繊維、ガラスフリット等を分散させてなる不燃性を有する混入材を、ポリウレア樹脂に混入させることも可能である。あるいは混入材として、例えばコンクリート、煉瓦、瓦、石綿スレート、鉄鋼、アルミニウム、モルタル、漆喰等のガラス以外の不燃材料であっても良い。
【0040】
また、上記した実施の形態では、補強塗膜3として、イソシアネートとアミンとの化学反応により形成された化合物からなるポリウレア樹脂が用いられているが、本発明は、イソシアネートとポリオールとの化学反応により形成された化合物からなるポリウレタン樹脂を補強塗膜として用いることも可能であり、また、イソシアネートとポリオールとアミンとの化学反応により形成された化合物からなる樹脂を補強塗膜として用いることも可能である。
【0041】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。