特許第5990014号(P5990014)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5990014
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】半導体発光素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/14 20100101AFI20160825BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20160825BHJP
【FI】
   H01L33/14
   H01L33/32
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-55735(P2012-55735)
(22)【出願日】2012年3月13日
(65)【公開番号】特開2013-191670(P2013-191670A)
(43)【公開日】2013年9月26日
【審査請求日】2015年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】特許業務法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 直史
(72)【発明者】
【氏名】茂木 正彦
【審査官】 金高 敏康
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0267098(US,A1)
【文献】 国際公開第00/065663(WO,A1)
【文献】 特表2010−534931(JP,A)
【文献】 特開2006−339550(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0232436(US,A1)
【文献】 特開2008−130656(JP,A)
【文献】 特開2010−278224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 − 33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長基板上に、第1導電型を有する第1の半導体層、活性層、第2導電型を有する第2の半導体層、及び前記第2導電型を有する第3の半導体層をその順に積層して前記第2の半導体層が少なくともアルミニウムを含む半導体構造層を形成する成長工程と、
前記第3の半導体層を選択的にエッチングするウエットエッチングを施し、前記第3の半導体層の結晶欠陥に基づくピットを拡張して、拡張後の前記ピットの内壁面が前記第3の半導体層と前記第2の半導体層との界面の前記結晶欠陥から離間された位置に接するように前記界面に前記ピットの底面を形成するウエットエッチング工程と、
前記ウエットエッチング工程で拡張された前記ピット内に絶縁材を充填する充填工程と、を含むことを特徴とする半導体発光素子の製造方法。
【請求項2】
前記半導体構造層は、GaN(窒化ガリウム)系半導体構造層であり、
前記第1導電型はn型であり、前記第2導電型はp型であることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記充填工程は、前記絶縁材を前記ピット内を含む前記第3の半導体層上に塗布する絶縁材塗布工程と、
前記絶縁材塗布工程で塗布された前記絶縁材を研磨して前記第3の半導体層上の前記絶縁材を除去する絶縁材研磨工程と、を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記ウエットエッチング工程ではエッチング液としてアルカリ水溶液が用いられることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1記載の製造方法。
【請求項5】
前記絶縁材はシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、又は二酸化ケイ素からなることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1記載の製造方法。
【請求項6】
前記充填工程後、前記第3の半導体層上に電極層を形成する工程を含むことを特徴とする請求項1ないしのいずれか1記載の製造方法。
【請求項7】
前記ウエットエッチング工程で拡張された前記ピットには、前記ウエットエッチング工程で前記第3の半導体層の結晶欠陥に基づいて出現したピットが含まれることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1記載の製造方法。
【請求項8】
第1導電型を有する第1の半導体層、活性層、第2導電型を有する第2の半導体層、及び前記第2導電型を有する第3の半導体層がその順に積層され、前記第2の半導体層が少なくともアルミニウムを含む半導体構造層を有する半導体発光素子であって、
前記第3の半導体層に前記第2の半導体層との界面に底面を有するピットが形成され、前記底面の前記第2の半導体層には結晶欠陥を有し、前記ピットの内壁面が前記結晶欠陥から離間された前記底面内の位置に接し、前記ピット内に絶縁材が充填されていることを特徴とする半導体発光素子。
【請求項9】
前記半導体構造層は、GaN(窒化ガリウム)系半導体構造層であり、
前記第1導電型はn型であり、前記第2導電型はp型であることを特徴とする請求項記載の半導体発光素子。
【請求項10】
前記第2の半導体層は、アルミニウムを含むことを特徴とする請求項8又は9記載の半導体発光素子。
【請求項11】
前記絶縁材はシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、又は二酸化ケイ素からなることを特徴とする請求項8ないし10のいずれか1記載の半導体発光素子。
【請求項12】
前記第3の半導体層上に電極層が搭載されていることを特徴とする請求項8ないし11のいずれか1記載の半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体発光素子の製造では、一般に、サファイア等の成長基板上にMOCVD(有機金属化学気相成長)法を用いて半導体結晶層であるn型半導体層、活性層及びp型半導体層を順次積層して半導体構造層としてのエピタキシャル層が形成される。そのエピタキシャル層の形成後に、例えば、真空蒸着法によりP半導体層上に電極層の形成が行われる。
【0003】
エピタキシャル層を形成において、最表面のp型半導体層は他の結晶層に比べて結晶成長時の温度が例えば、900℃のように低いために結晶性が悪く、それ故に、p型半導体層にV字状断面のピットが表出することが知られている。このピットは結晶欠陥を起点にして発生する。結晶欠陥とは、成長基板と半導体層との格子定数の違い(格子ミスフィット)に起因した貫通転位のことである。貫通転位はp型半導体層より成長基板側の結晶層に発生し、ピットの先端はその貫通転位に直結している。このようなピットが多く表出した面上に上記したように電極層を形成すると、ピット内に電極材料が入り込み、リークやショートといった半導体発光素子自体の不良の原因になるという問題点があった。
【0004】
そこで、従来、p型半導体層のピット内に絶縁材を充填し、その後の電極層の形成時に電極材料がピット内に入り込むことを防止する製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−88404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、かかる特許文献1のように、成長基板上に形成された半導体構造層の最表面の半導体層のピット内に絶縁材を充填してもピットに直結した貫通転位へのリーク電流を完全には無くすことができず、若干のリーク電流が生じるという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、かかる点を鑑みてなされたものであり、半導体構造層の最表面に位置する半導体層の結晶欠陥に基づくピットを介して貫通転位に流れるリーク電流を防止することができる半導体発光素子及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の半導体発光素子の製造方法は、成長基板上に、第1導電型を有する第1の半導体層、活性層、第2導電型を有する第2の半導体層、及び前記第2導電型を有する第3の半導体層をその順に積層して前記第2の半導体層が少なくともアルミニウムを含む半導体構造層を形成する成長工程と、前記第3の半導体層を選択的にエッチングするウエットエッチングを施し、前記第3の半導体層の結晶欠陥に基づくピットを拡張して、拡張後の前記ピットの内壁面が前記第3の半導体層と前記第2の半導体層との界面の前記結晶欠陥から離間された位置に接するように前記界面に前記ピットの底面を形成するウエットエッチング工程と、前記ウエットエッチング工程で拡張された前記ピット内に絶縁材を充填する充填工程と、を含むことを特徴としている。
【0009】
本発明の半導体発光素子は、第1導電型を有する第1の半導体層、活性層、第2導電型を有する第2の半導体層、及び前記第2導電型を有する第3の半導体層がその順に積層され、前記第2の半導体層が少なくともアルミニウムを含む半導体構造層を有する半導体発光素子であって、前記第3の半導体層に前記第2の半導体層との界面に底面を有するピットが形成され、前記底面の前記第2の半導体層には結晶欠陥を有し、前記ピットの内壁面が前記結晶欠陥から離間された前記底面内の位置に接し、前記ピット内に絶縁材が充填されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の半導体発光素子の製造方法によれば、第3の半導体層の結晶欠陥に基づくピットがウエットエッチング工程で拡張されるので、ピットと第2の半導体層との境目に底面が生じ、ピットの内壁面と貫通転位との間に第2の半導体層の表面が位置する。よって、第2の半導体層では積層方向に垂直な方向には抵抗が大きくほとんど電流が流れないので、抵抗が大なる底面の存在のためピットの内壁面と貫通転位とを介してリーク電流が流れることが防止される。また、拡張されたピット内にも絶縁材が充填されるので、その後の第3の半導体層上に電極層及び電極パッドの形成時にそれらの電極材料がピット内に入り込むことが防止され、半導体発光素子自体にリークやショートといった不良原因を排除することができる。
【0011】
また、本発明の半導体発光素子によれば、第3の半導体層に第2の半導体層との界面に底面を有するピットが形成され、ピットの内壁面と貫通転位との間に第2の半導体層の表面が位置し、また、ピット内に絶縁材が充填されているので、ピットの内壁面と貫通転位とを介してリーク電流が流れることが防止されると共に半導体発光素子自体にリークやショートといった不良原因を排除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例1の製造方法を示す断面図である。
図2】ウエットエッチング工程の有無によるピットに対する貫通転位の位置を示す図である。
図3】本発明の実施例2の製造方法を示す断面図である。
図4図3の製造方法の続き部分を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0014】
図1(a)〜(h)は本発明の実施例1としてフェイスアップ型の窒化物半導体発光素子の製造方法を示している。実施例1の製造方法は、図1の符号(a)〜(h)に対応しており、(a)エピタキシャル層成長工程、(b)ウエットエッチング工程、(c)絶縁材塗布工程、(d)絶縁材研磨工程、(e)ドライエッチング工程、(f)p型電極形成工程、(g)n型電極形成工程、及び、(h)p電極パッド形成工程を有し、その順に実行される。
【0015】
エピタキシャル層成長工程では、サファイアからなる成長基板11が用意され、成長基板11上に、MOCVD法を用いて窒化物系半導体からなるエピタキシャル層が形成される。エピタキシャル層は成長基板11側から、低温バッファ層12、アンドープのGaN層13、n型GaN層14(第1の半導体層)、InGaN/GaN層15(活性層)、p型AlInGaN層16(第2の半導体層)、p型GaN層17(第3の半導体層)がその順に積層された半導体構造体層である。
【0016】
エピタキシャル層の具体的な形成方法としては、先ず、成長基板11がMOCVD装置に搬入され、1000℃の水素雰囲気中で約10分程度の加熱処理が施される。続いて、雰囲気温度が約500℃に調整され、TMG(トリメチルガリウム)(流量:10.4μmol/min)及びNH3(流量:3.3LM)が約3分間供給されることで、低温バッファ層12が形成される。その後、雰囲気温度が約1000℃まで昇温され、かかる状態が約30秒間保持されることで低温バッファ層12が結晶化される。続いて、雰囲気温度が約1000℃の状態に保持されたままで、TMG(流量:45μmol/min)及びNH3(流量:4.4LM)が約20分間供給されることにより、膜厚約1μm程度の下地GaN層13が形成される。次に、雰囲気温度が約1000℃の状態において、TMG(流量:45μmol/min)、NH3(流量:4.4LM)及びドーパントガスとしてSiH4(流量:2.7×10-9mol/min)が約100分間供給されることにより、膜厚約5μm程度のn型GaN層14が形成される。
【0017】
続いて、n型GaN層14上に活性層である多重量子井戸構造のInGaN/GaN層15が形成される。InGaN/GaN層15ではInGaN/GaNを1周期として5周期の成長が行われる。具体的には、雰囲気温度が約700℃の状態において、TMG(流量:3.6μmol/min)、TMI(トリメチルインジウム)(流量:10μmol/min)、NH3(流量4.4LM)が約33秒間供給されることにより、膜厚約2.2nmのInGaN井戸層が形成される。続いて、TMG(流量:3.6μmol/min)、NH3(流量:4.4LM)が約320秒間供給されることにより、膜厚約15nmのGaN障壁層が形成される。かかる処理を5周期分繰り返すことにより、InGaN/GaN層15が形成される。
【0018】
次に、雰囲気温度が約800℃まで昇温され、TMG(流量:8.1μmol/min)、TMA(トリメチルアルミニウム)(流量:7.5μmol/min)、NH3(流量:4.4LM)及びドーパントとしてCp2Mg(ビスシクロペンタディエニルマグネシウム:bis-cyclopentadienyl Mg)(流量:2.9×10-7μmol/min)が約5分間供給されることにより、膜厚約40nmのp型AlInGaN層16(クラッド層)が形成される。続いて、雰囲気温度が約800℃の状態に保持されたままで、TMG(流量:18μmol/min)、NH3(流量:4.4LM)及びドーパントとしてCp2Mg(流量:2.9×10-7μmol/min)が約7分間供給されることにより、膜厚約150nmのp型GaN層17が形成される。
【0019】
p型GaN層17にはエピタキシャル層成長工程で結晶欠陥に基づいて図1(a)に示すように、断面がV字状の複数のピット20が生じたとする。
【0020】
ウエットエッチング工程では、エピタキシャル層が形成された成長基板11をエッチング液(図示せず)に浸すことが行われる。このウエットエッチングによりピット20が図1(b)に示すように、積層方向に対して垂直な方向(横方向)に拡張される。エッチング液としてはKOH(水酸化カリウム)又はTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)等のアルカリ水溶液が用いられる。エッチング液が例えば、TMAHの場合には、水溶液の濃度は5〜50%であり、また、温度は50〜100℃である。C+面(p型GaN層17の表面)は化学的に安定なためエッチングはされないが、C−面のピット20の内壁面にはエッチング液が浸透し、ピット20の内壁面からエッチングが起こる。ピット20に直結した貫通転位の上部はピット20に比べ非常にサイズが小さいためエッチング液が浸透しにくい。また、p型GaN層17に隣接して位置するAlInGaN層16はAl成分を含むためp型GaN層17よりもエッチングされにくい。このためピット20の内壁面はエッチングされるがAlInGaN層16及びそれより下層の貫通転位はほとんどエッチングされることはない。よって、p型GaN層17とp型AlInGaN層16との界面(すなわち貫通転位とピット20の境目)にピット20の底面20aが平坦に形成される。
【0021】
このエッチングを促進させたい場合はPEC(光電気化学)エッチング法を用いることができる。PECエッチング法を用いてp型GaN層17をKOH水溶液でエッチングする場合には、GaNのバンドギャップに相当する波長(365nm)よりも短いUV(Ultra Violet)光(紫外線)が照射される。これにより、p型GaN層17中に電子−正孔対が生成され、電子はバイアス印加によって引き抜かれ、残った正孔がp型GaN層17のピット20の内壁面側に移動する。そして、KOH水溶液のOH-イオンとの反応でそのGaN内壁面の酸化・溶解を繰り返しながらピット20の内壁面がエッチングされる。
【0022】
ピット20の底面20aの大きさとしては、後述するリーク電流の流れが生じない程度の抵抗値をp型半導体層の積層方向に垂直な方向(ピット20の内壁面から貫通転位まで)に得ることができる大きさが必要である。
【0023】
絶縁材塗布工程では、絶縁材がp型GaN層17上に塗布される。絶縁材の塗布により、拡張後のピット20内に絶縁材を浸透させ、ピット20内と共にp型GaN層17上に未硬化の絶縁層21が図1(c)に示すように形成される。そして、加熱及び紫外線照射処理により、その未硬化の絶縁層21は硬化される。
【0024】
絶縁材は絶縁性を有し、GaN層に密着する樹脂である。また、熱硬化や紫外線硬化が可能な硬化性樹脂が望ましく、また、透明樹脂であることが好ましい。このような条件を有する絶縁材として、例えば、MOMENTIVE(登録商標)、信越シリコーン(登録商標)、パーミエイト(登録商標)等のシリコーン樹脂、耐紫外線タイプのエポキシ樹脂を用いることができる。また、SiO2を用いることもできる。
【0025】
絶縁材をピット20内に埋め込むためには、p型GaN層17上へのポッティングによる自然浸透の方法、p型GaN層17上へのポッティング後、ガラス等をかぶせて絶縁材をピット20に流しこむ方法、p型GaN層17の表面以外を封止してp型GaN層17の表面を絶縁材の溶液に浸して絶縁材をピット20内に浸透させる方法、減圧又は真空環境下にて、絶縁材をp型GaN層17の表面に塗布する方法(例えば、噴霧、侵液、スピンコート、スクレーパー塗布等)、蒸着や化学的気相成長法等を用いて成膜する方法等を用いることができる。
【0026】
絶縁材研磨工程では、p型GaN層17上の絶縁層21がラッピング及びポリッシングにより除去される。具体的にはp型GaN層17上の絶縁層21に対して化学機械研磨が実行される。ラッピング及びポリッシングはp型GaN層17に物理的なダメージを与えないように行う必要がある。p型GaN層17上の絶縁層21が除去されると、図1(d)に示すようにピット20内の絶縁層21だけが残る。
【0027】
絶縁材塗布工程及び絶縁材研磨工程がウエットエッチング工程で拡張されたピット20内に絶縁材を充填する充填工程である。
【0028】
ドライエッチング工程では、p型GaN層17上にフォトリソグラフィ法を用いてマスクし、ドライエッチングにてp型GaN層17、AlInGaN層16、InGaN層15、n型GaN層14をエッチングしてn型GaN層14を図1(e)に示すように部分的に露出させることにより段差部25が形成される。
【0029】
p型電極形成工程では、p型GaN層17上に蒸着法、若しくはスパッタ法により、図1(f)に示すようにITO電極22(電極層)が形成される。この際にフォトリソグラフィ法を用いてウエットエッチング若しくはリフトオフ法によりITO電極22に電極パターン(図示せず)が形成される。また、熱処理炉にてITO電極22がアニール処理され、これによりITO電極22の更なる透明化が図られる。
【0030】
n型電極形成工程では、上記のドライエッチング工程で段差部25として露出したn型GaN層14上に蒸着法、若しくはスパッタ法により図1(g)に示すようにTiAl電極23が形成される。
【0031】
p電極パッド形成工程では、ITO電極22上に例えば、金からなる電極パッド24が図1(h)に示すように形成される。電極パッド24はp型GaN層17に接するように形成される。p電極パッド形成工程で電極パッド24が形成されることにより、フェースアップ型の発光素子が完成する。
【0032】
ここで、p型GaN層17にピット20が生じる理由について説明する。
【0033】
p型GaN層17及びp型AlInGaN層16は、Mgをドープとしてp型半導体としているが、窒化物半導体におけるMgの不純物準位は100meV程度と深く、活性化率が1〜数%程度と低い。そのため、5×1017〜1×1018のキャリア濃度を得るには、その50倍から100倍の不純物ドープが必要となる。母結晶中に上記の如き濃度の不純物がドープされると結晶品質が低下し易く、表面モフォロジーが凹凸になったり、ピットが生じることがある。
【0034】
一方、InGaN層15に用いるInGaNは高温では安定に混晶を保つことが難しいため、p型GaN層17の成長温度はn型GaN層14より低温である。また、窒化物半導体で長波長の発光素子を作製する場合には、活性層に多量のInを取り込む必要があり、p型GaN層17の成長時は高温で成長すると活性層のInの凝集など悪影響を引き起こすため更に低温成長が必要となる。そのためp型GaN層17が低温成長することにより、その結晶性が落ちるためピットが積層方向にp型GaN層17を貫通するように生じる。
【0035】
このようなp型GaN層17の結晶欠陥に基づいてピット20が生じると、ITO電極22や電極パッド24の形成時にそれらの電極材料がピット20に内部まで到達するため、短絡不良を起こす問題が発生する。また、使用中に電極材料がマイグレーションにて、ピット20に拡散し短絡不良を起こすことがある。これに対処するためにピット20内には絶縁材が塗布され、上記したように絶縁層21が形成されている。
【0036】
図2(a)は発光素子の製造段階で上記のウエットエッチング工程を設けることなくp型GaN層17のピット20内に絶縁層31を形成した場合のピット20に対する貫通転位32の位置を示しており、図2(b)は製造段階で上記のウエットエッチング工程で横方向に拡張されたピット20内に絶縁層21を形成した場合のピット20に対する貫通転位33の位置を示している。図2(b)において、貫通転位33は拡張されたピット20の底面内に位置し、ピット20の内壁とは不連続になっている。
【0037】
図2(a)の場合には、電極22,23間に給電が行われると、ピット20の内壁面が端部で貫通転位32に直結しているので、ピット20の内壁面をリーク電流(図2(a)の符号A)が流れて、そして貫通転位32に流れ込む。
【0038】
一方、図2(b)の場合には、ピット20の境目に底面20aが形成されているので、ピット20の内壁面と貫通転位33との間にp型半導体層(p型AlInGaN層16の表面)が位置している。p型半導体層は積層方向には電流は流れるが、それに垂直な方向には抵抗が大きくほとんど電流が流れない。よって、電極22,23間に給電が行われても、抵抗が大なる底面20aの存在のためピット20の内壁面と貫通転位32とを介してリーク電流が流れることが防止される。また、拡張されたピット20内にも絶縁層21が形成されているので、その後のITO電極22及び電極パッド24の形成時にそれらの電極材料がピット20内に入り込むことが防止される。その結果、半導体発光素子自体にリークやショートといった不良原因を排除することができる。
【0039】
なお、上記した実施例1においては、ウエットエッチングする前にp型GaN層17にピット20が存在するとして説明したが、本発明はピットが存在しないp型GaN層17をウエットエッチングすることによりその結晶欠陥部分にピットが出現した場合を含む。この場合にも出現したピットは底面を有し、絶縁材で充填されるので、ピットの内壁面を介してリーク電流が流れることを防止することができる。
【0040】
図3(a)〜(h)及び図4(a)〜(f)は本発明の実施例2としてフェイスダウン型の窒化物半導体発光素子の製造方法を示している。実施例2の製造方法は、図3の符号(a)〜(h)に対応した、(a)エピタキシャル層成長工程、(b)ウエットエッチング工程、(c)絶縁材塗布工程、(d)絶縁材研磨工程、(e)ドライエッチング工程、(f)p型電極形成工程、(g)n型電極形成工程、及び(h)パッシベーション膜形成工程と、図4の符号(a)〜(f)に対応した、(a)パッシベーション膜エッチング工程、(b)接合層形成工程、(c)支持基板準備工程、(d)支持基板接合工程、(e)成長基板剥離工程、及び(f)表面あらし工程を有し、その順に実行される。
【0041】
図3(a)〜(d)のエピタキシャル層成長工程、ウエットエッチング工程、絶縁材塗布工程、及び絶縁材研磨工程は図1(a)〜(d)の各工程と同一であり、また同一符号を用いて示しているので、ここでの説明は省略される。
【0042】
絶縁材研磨工程後のドライエッチング工程では、p型GaN層17上にフォトリソグラフィ法を用いてマスクし、また、熱処理によりマスクを傾斜させてドライエッチングにてp型GaN層17、AlInGaN層16、InGaN層15、n型GaN層14をエッチングして図3(e)に示すように凹部41を形成してn型GaN層14を部分的に露出させることが行われる。凹部41の横方向(積層方向に対して垂直な方向)の断面幅はp型GaN層17の上面からn型GaN層14に向かって徐々に狭くなっている。
【0043】
p型電極形成工程では、p型GaN層17上にフォトリソグラフィ法を用いてマスクを形成し、膜厚1nmのPt及び膜厚200nmのAgからなるオーミック高反射膜を形成し、更にTiPtAuからなる拡散防止層を形成し、その後、リフトオフして残った部分を図3(f)に示すようにp型電極42とすることが行われる。なお、オーミック高反射膜の密着材料としてPtに代えてNi,Rh,ITO等の他の材料を用いても良い。
【0044】
n型電極形成工程では、凹部41で露出したn型半導体層14上にフォトリソグラフィ法を用いてマスクを形成し、TiAlからなるオーミック電極を成膜し、リフトオフすることによりn電極43が形成される。その後、例えば、約500℃で熱処理が行われる。n電極43は図3(g)に示すように、凹部41内でn型半導体層14に接触し、そこから凹部41の傾斜内壁面を介してp型GaN層17の表面に達している。
【0045】
パッシベーション膜形成工程では、SiO2等の絶縁材が凹部41、p型電極42、及びn電極43を含むp型GaN層17上に塗布され、これにより、図3(h)に示すように全面パッシベーション膜44の形成が行われる。
【0046】
パッシベーション膜エッチング工程では、フォトリソグラフィ法を用いてパッシベーション膜44上においてp電極42上及びn電極43上に開口部を有するマスクを形成し、BHFでその開口部に露出したパッシベーション膜44をエッチングし、図4(a)に示すようにp電極42及びn電極43を露出させる。
【0047】
接合層形成工程では、フォトリソグラフィ法を用いて露出したp型電極42及びn電極43を含むパッシベーション膜44上にパターニングを行ってマスクを形成し、TiAuPtAuからなる接合層を成膜し、リフトオフして露出したp型電極42及びn電極43各々の上面に図4(b)に示すように第1接合層45を形成することが行われる。
【0048】
支持基板準備工程では、図4(c)に示すように第2接合層51が形成されたSi等からなる支持基板50が準備される。支持基板50の一方の主面上の第2接合層51は支持基板50内の導通路52を介して支持基板50の他方の主面に形成された回路パターン53に接続されている。
【0049】
支持基板接合工程では、第1接着層45と第2接着層51とを接触させ、例えば、圧力3MPaで加圧した状態で300℃に加熱して10分間保持した後、室温まで冷却することにより融着接合が行われ、図4(d)に示すように支持基板50上に発光素子構造体(図4(b)に示した構造体)が配置される。なお、この接合工程では実際には1発光素子単位での接合ではなく複数の発光素子分が形成された1ウエハ単位で接合が実行される。
【0050】
成長基板剥離工程では、UVエキシマレーザの光を成長基板11の裏面側から照射し、成長基板11と低温バッファ層12との界面を加熱分解することにより、図4(e)に示すように成長基板11が剥離される。
【0051】
表面あらし工程では、剥がした低温バッファ層12の表面からGaドロップレットをお湯若しくは希塩酸により除去し、そして、研磨処理等も用いて平坦化させることが行われる。更に、これらをエッチング液でエッチングすることにより、図4(f)に示すようにn型GaN層14の表面に細かい凹凸面55が形成される。その後、図示しないが、ダイシングにより素子分離を行いフェースダウン型の発光素子が1チップとして完成する。
【0052】
このフェースダウン型の発光素子においても、図2(b)に示したフェースアップ型の発光素子の場合と同様に、ピット20の境目に底面20aが形成されているので、ピット20の内壁面と貫通転位との間にp型半導体層が位置しており、p型半導体層は積層方向には電流は流れるが、それに垂直な方向には抵抗が大きくほとんど電流が流れない。よって、抵抗が大なる底面20aの存在のためピット20の内壁面と貫通転位とを介してリーク電流が流れることが防止される。
【0053】
上記した各実施例においては、成長基板11側から、低温バッファ層12、アンドープのGaN層13、n型GaN層14、InGaN/GaN層15、p型AlInGaN層16、p型GaN層17がその順に積層されたGaN系半導体構造層が示されたが、本発明はGaN系半導体構造層に限定されず、他の結晶系、例えば、GaAs系等の他の結晶系の半導体構造層でも適用することができる。また、上記した各実施例においては、第1導電型をn型とし、その第1導電型とは反対導電型の第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型とした半導体構造層でも適用することができる。すなわち、本発明においては、成長基板上に、第1導電型を有する第1の半導体層、活性層、第2導電型を有する第2の半導体層、及び前記第2導電型を有する第3の半導体層をその順に積層することにより半導体構造層が形成されるものであれば良く、そのような半導体構造層において最表面の第3の半導体層の結晶欠陥に基づくピットを介して貫通転位に流れるリーク電流を防止することができる。
【符号の説明】
【0054】
11 成長基板
12 低温バッファ層
13 アンドープのGaN層
14 n型GaN層
15 InGaN/GaN層
16 p型AlInGaN層
17 p型GaN層
20 ピット
21 絶縁層
21a 底面
図1
図2
図3
図4