特許第5990023号(P5990023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5990023
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】車両の動力伝達制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/10 20120101AFI20160825BHJP
   B60W 20/30 20160101ALI20160825BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20160825BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20160825BHJP
   B60K 6/36 20071001ALI20160825BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   B60W10/10 900
   B60W20/30
   B60K6/547ZHV
   B60K6/48
   B60K6/36
   B60L11/14
【請求項の数】1
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-86463(P2012-86463)
(22)【出願日】2012年4月5日
(65)【公開番号】特開2013-216151(P2013-216151A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】592058315
【氏名又は名称】アイシン・エーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢野 赳
【審査官】 増子 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−054823(JP,A)
【文献】 特開2004−204963(JP,A)
【文献】 特開2008−157392(JP,A)
【文献】 特開2010−184535(JP,A)
【文献】 特開2011−246065(JP,A)
【文献】 特開2008−101643(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0261901(US,A1)
【文献】 特開2006−097740(JP,A)
【文献】 特開2000−224710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 − 6/547
B60W 10/00 − 20/50
B60L 1/00 − 3/12
B60L 7/00 − 13/00
B60L 15/00 − 15/42
F16H 59/00 − 61/12
F16H 61/16 − 61/24
F16H 61/66 − 61/70
F16H 63/40 − 63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源として内燃機関(E/G)と電動機(M/G)とを備えた車両に適用される車両の動力伝達制御装置であって、
移動部材(M)の位置に応じて変速段が選択されるトルクコンバータを備えない変速機(T/M)であって、前記内燃機関(E/G)の出力軸(A1)から動力が入力される入力軸(A2)と、前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸(A3)と、前記入力軸(A2)と前記出力軸(A3)との間で動力伝達系統が確立され且つ前記出力軸(A3)の回転速度に対する前記入力軸(A2)の回転速度の割合である減速比が異なる複数の走行用変速段(1速〜5速、R)と、前記入力軸(A2)と前記出力軸(A3)との間で動力伝達系統が確立されないニュートラル段と、を備え、前記移動部材(M)の位置が第1の方向に延在するニュートラル領域内にあるときに前記ニュートラル段が実現されるとともに、前記移動部材(M)の位置が前記ニュートラル領域内における異なる複数のニュートラル位置(第1位置、第2位置、第3位置)のうち対応する位置から、前記第1の方向とは異なる方向に変位した前記ニュートラル領域外にある前記複数の走行用変速段のうちの何れか1つに対応するシフト完了位置に移動することにより、対応する前記走行用変速段が選択・実現されるように構成され、前記入力軸(A2)と前記出力軸(A3)との間の動力伝達系統を介することなく前記電動機(M/G)の出力軸から動力が変速機の出力軸(A3)に入力される変速機(T/M)と、
前記内燃機関(E/G)の出力軸(A1)と前記変速機(T/M)の入力軸(A2)との間に介装されたクラッチ(C/D)であってクラッチが伝達し得るトルクの最大値であるクラッチトルクを調整可能なクラッチ(C/D)と、
前記クラッチ(C/D)を制御して前記クラッチトルクを調整する第1アクチュエータ(ACT1)と、
前記変速機(T/M)の前記移動部材(M)の位置を制御して前記複数の走行用変速段及び前記ニュートラル段のうちから実現される変速段を変更する第2アクチュエータ(ACT2)と、
前記車両の走行状態に基づいて、前記内燃機関(E/G)の出力軸(A1)の駆動トルクである内燃機関駆動トルク、前記電動機(M/G)の出力軸の駆動トルクである電動機駆動トルク、前記第1アクチュエータ(ACT1)、及び前記第2アクチュエータ(ACT2)を制御する制御手段(ECU)と、
を備え、
前記制御手段(ECU)は、
前記車両の走行状態に基づいて、前記電動機駆動トルクのみを利用して走行する電動機走行モードと、前記クラッチトルクがゼロより大きい値に調整された状態で前記内燃機関駆動トルクのみを利用して又は前記内燃機関駆動トルク及び前記電動機駆動トルクの両方を利用して走行する内燃機関走行モードと、を選択的に実現するように構成され、
前記制御手段(ECU)は、
前記内燃機関走行モードが選択された状態において、前記実現される変速段を前記車両の現在の速度及び運転者により操作される加速操作部材の現在の操作量に基づいて決定するように構成され、
前記制御手段(ECU)は、
前記電動機走行モードが選択された状態において、前記実現される変速段を前記ニュートラル段に維持するとともに、前記移動部材(M)の位置を、前記ニュートラル領域内における前記複数のニュートラル位置(第1、第2、第3位置)のうち、前記内燃機関走行モードが選択された状態であるとの仮定のもとで前記車両の現在の速度に基づいて想定される、前記走行用変速段のうちの最大の減速比をもつ変速段、のシフト完了位置に対応する位置に制御するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達制御装置に関し、特に、動力源として内燃機関と電動機とを備え、且つクラッチを備えた車両に適用されるものに係わる。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の変速段を有し且つトルクコンバータを備えていない有段変速機と、内燃機関の出力軸と有段変速機の入力軸との間に介装されてクラッチトルク(クラッチが伝達し得るトルクの最大値)を調整可能なクラッチと、車両の走行状態に応じてアクチュエータを用いてクラッチトルク及び有段変速機の変速段を制御する制御手段と、を備えた動力伝達制御装置が開発されてきている(例えば、特許文献1を参照)。係る動力伝達制御装置は、オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)とも呼ばれる。
【0003】
AMTでは、通常、複数の変速段として、複数の走行用変速段およびニュートラル段が備えられる。複数の走行用変速段の何れかが選択・実現された場合、変速機の入力軸と出力軸との間で動力伝達系統が確立されるようになっている。この複数の走行用変速段では、減速比(上記出力軸の回転速度に対する上記入力軸の回転速度の割合)が異なっている。一方、ニュートラル段が選択・実現された場合、上記入力軸と上記出力軸との間で動力伝達系統が確立されない。
【0004】
AMTを搭載した車両では、通常、「アクセル開度及び車速」と「実現すべき変速段」との関係を規定する事前に作製されたマップと、アクセル開度及び車速の現在値とに基づいて、実現される変速段が決定・変更される。
【0005】
また、近年、動力源としてエンジンと電動機(電動モータ、電動発電機)とを備えた所謂ハイブリッド車両が開発されてきている(例えば、特許文献2を参照)。ハイブリット車両では、電動機の出力軸が、内燃機関の出力軸、変速機の入力軸、及び変速機の出力軸の何れかに接続される構成が採用され得る。以下、内燃機関の出力軸の駆動トルクを「内燃機関駆動トルク」と呼び、電動機の出力軸の駆動トルクを「電動機駆動トルク」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−97740号公報
【特許文献2】特開2000−224710号公報
【発明の概要】
【0007】
以下、AMTを搭載し、且つ、電動機の出力軸が変速機の出力軸に接続される構成を備えたハイブリッド車両(以下、「AMT付ハイブリッド車両」と呼ぶ。)を想定する。AMT付ハイブリッド車両では、電動機駆動トルクのみを利用して走行する「電動機走行モード」と、クラッチトルクがゼロより大きい値に調整された状態で内燃機関駆動トルクのみ又は「内燃機関駆動トルク及び電動機駆動トルクの両方」を利用して走行する「内燃機関走行モード」と、が選択的に実現され得る。
【0008】
AMT付ハイブリッド車両では、内燃機関走行モードが選択された状態においては、通常、少なくとも車両の速度に基づいて実現される変速段が決定される。また、電動機走行モードが選択された状態においては、実現される変速段がニュートラル段に維持される構成が考えられる。このようにニュートラル段が維持されるのは、クラッチディスクの保護、及び走行時におけるノイズ低減のためである。
【0009】
ところで、AMTの変速段は、移動部材の位置に応じて選択される場合が多い(図3の移動部材Mを参照)。ニュートラル段は、上記移動部材の位置が「第1の方向」(図3では、車両左右方向)に延在する「ニュートラル領域」内にあるときに実現される。「ニュートラル領域」内には、異なる複数の「ニュートラル位置」があり、異なる複数の走行用変速段に対応している。上記移動部材の位置が、異なる複数の「ニュートラル位置」のうち対応する位置から、複数の走行用変速段のうちの何れか1つに対応する「シフト完了位置」に移動することにより、対応する走行用変速段が選択・実現される。「シフト完了位置」は、上記「第1の方向」とは異なる方向に変位しており、上記「ニュートラル領域」外に位置する。上記移動部材の位置は、例えば、アクチュエータによって制御され、その結果、複数の走行用変速段及びニュートラル段のうちから実現される変速段が設定・変更される。
【0010】
このように変速段が設定・変更される場合、電動機走行モードが選択されたとき、移動部材の位置がニュートラル領域内のどこかの位置にあるよう制御される。内燃機関走行モードが選択されたとき、移動部材の位置がニュートラル領域外のシフト完了位置に移動するよう制御される。
【0011】
このため、車両の走行状態に応じて、走行モードが、電動機走行モードから内燃機関走行モードへ移行する場合、ニュートラル領域内のどこかの位置に存在していた移動部材は、シフト完了位置まで移動するよう制御されることになる。上記移動部材の移動にかかる時間は、変速性能の向上等の観点から短い方が好ましい。従って、上記移動部材の移動にかかる時間を短くすることが要求されていた。
【0012】
本発明の目的は、ハイブリッド車両に適用される車両の動力伝達制御装置であって、変速段が上記移動部材の位置に応じて選択される動力伝達装置において、電動機走行モードから内燃機関走行モードへ移行する場合に、上記移動部材の移動にかかる時間を短くすることができるものを提供することにある。
【0013】
本発明による動力伝達制御装置の特徴は、電動機走行モードが選択された状態において、実現される変速段をニュートラル段に維持するとともに、上記移動部材の位置を、ニュートラル領域内における複数のニュートラル位置のうち少なくとも車両の速度に基づいて決定された位置に制御するように構成されたことにある。
【0014】
これによれば、電動機走行モードが選択された状態において、移動部材の位置が、内燃機関走行モード移行時に移動すると予測されるシフト完了位置に、予め近づけられ得る。従って、上記移動部材の移動にかかる時間を短くすることができる。
【0015】
上記本発明に係る動力伝達制御装置においては、内燃機関走行モードが選択された状態において、実現される変速段を車両の速度及び運転者により操作される加速操作部材の操作量に基づいて決定するように構成され、電動機走行モードが選択された状態において、上記移動部材の位置を、複数のニュートラル位置のうち車両の速度及び加速操作部材の操作量に基づいて決定された位置に制御するように構成されることが好適である。
【0016】
これによれば、ニュートラル位置の決定が、車両の速度に加え加速操作部材の操作量にも基づいて実行される。このため、内燃機関走行モード移行時におけるシフト完了位置が精度良く予測され得、移動部材の位置は、そのシフト完了位置に予め近づけられ得る。従って、上記移動部材の移動にかかる時間をより確実に短くすることができる。
【0017】
上記本発明に係る動力伝達制御装置においては、電動機走行モードが選択された状態において、上記移動部材の位置を、複数のニュートラル位置のうち、内燃機関走行モードが選択された状態であるとの仮定のもとで現在の車両の走行状態に基づいて決定・実現される変速段のシフト完了位置に対応する位置に制御するように構成されることが好適である。
【0018】
これによれば、電動機走行モードが選択された状態において、内燃機関走行モード移行時の上記移動部材の移動に備え、移動部材を「内燃機関走行モードが選択された状態であるとの仮定のもとで現在の車両の走行状態に基づいて決定・実現される変速段のシフト完了位置に対応する位置」に予め待機させておくことができる。従って、上記移動部材の移動にかかる時間を更に確実に短くすることができる。
【0019】
上記本発明に係る動力伝達制御装置においては、内燃機関走行モードが選択された状態において、実現される変速段を車両の速度及び運転者により操作される加速操作部材の操作量に基づいて決定するように構成され、電動機走行モードが選択された状態において、上記移動部材の位置を、複数のニュートラル位置のうち、内燃機関走行モードが選択された状態であるとの仮定のもとで現在の車両の速度と加速操作部材の操作量の最大値とに基づいて決定・実現される変速段のシフト完了位置に対応する位置に制御するように構成されることが好適である。
【0020】
加速操作部材が、その操作量が最大値となるよう操作されるとき、実現される変速段は、そのときの車速にて想定される最大の減速比をもつ変速段に決定される場合が多い(所謂キックダウン)。この場合、上記構成によれば、電動機走行モードが選択された状態において、移動部材の位置を、加速操作部材の操作量が最大値となるよう操作されて内燃機関走行モードに移行したときに移動すると予測されるシフト完了位置(例えば、現在の車速にて想定される最大の減速比をもつ変速段に対応するシフト完了位置)に対応するニュートラル位置に予め待機させておくことができる。従って、例えば、上記キックダウンが実行される場合に対し、効果的に上記移動部材の移動にかかる時間を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係る車両の動力伝達制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
図2図1に示した変速機の概略構成図である。
図3図1に示した変速機の移動部材の位置における制御パターンの一例を示した図である。
図4図1に示した変速機において、走行用変速段として「1速」が選択・実現された場合における動力伝達系を説明するための図である。
図5図1に示した変速機において、走行用変速段として「2速」が選択・実現された場合における動力伝達系を説明するための図である。
図6図1に示した変速機において、走行用変速段として「3速」が選択・実現された場合における動力伝達系を説明するための図である。
図7図1に示した変速機において、走行用変速段として「4速」が選択・実現された場合における動力伝達系を説明するための図である。
図8図1に示した変速機において、走行用変速段として「5速」が選択・実現された場合における動力伝達系を説明するための図である。
図9図1に示したクラッチについての「ストローク−トルク特性」を規定するマップを示したグラフである。
図10図1に示したシフトレバーの操作パターンの一例を示した図である。
図11】車速及びアクセル開度と、シフト完了位置との関係を規定したマップを示したグラフである。
図12】車速及びアクセル開度と、ニュートラル位置との関係を規定したマップを示したグラフである。
図13】本発明の実施形態によって、EV走行時にて移動部材の待機位置が変化する一例を示したタイムチャートである。
図14】比較例における、EV走行からEG又はHV走行へ変更されたときの、移動部材の待機位置からシフト完了位置までの移動の一例を説明するための図である。
図15】本実施形態における、EV走行からEG又はHV走行へ変更されたときの、移動部材の待機位置からシフト完了位置までの移動の一例を説明するための図である。
図16】本発明の実施形態の変形例における、車速及びアクセル開度と、ニュートラル位置との関係を規定したマップを示したグラフである。
図17】本発明の実施形態の他変形例における、車速及びアクセル開度と、ニュートラル位置との関係を規定したマップを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明による車両の動力伝達制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0023】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、動力源として内燃機関とモータジェネレータとを備え、且つ、トルクコンバータを備えない有段変速機とクラッチとを使用した所謂オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)を備えたハイブリッド車両である。
【0024】
この車両は、エンジンE/Gと、変速機T/Mと、クラッチC/Dと、モータジェネレータM/Gと、を備えている。E/Gは、周知の内燃機関の1つであり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。E/Gの出力軸A1は、フライホイールF/W、及び、クラッチC/Dを介して、変速機T/Mの入力軸A2と接続されている。
【0025】
変速機T/Mは、前進用の複数(例えば、5つ)の変速段、後進用の1つの変速段、及びニュートラル段を有するトルクコンバータを備えない周知の有段変速機の1つである。T/Mの出力軸A3は、ディファレンシャルD/Fを介して車両の駆動輪と接続されている。
【0026】
図2に示すように、変速機T/Mは、複数の固定ギヤG1i、G2i、G3i、G4i、G5iと、複数の遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G4o、G5oと、複数のスリーブS1、S2、S3とを備える。固定ギヤG1i〜G5iは、それぞれ入力軸A2に相対回転不能に設けられている。遊転ギヤG1o〜G5oは、それぞれ出力軸A3に相対回転可能に設けられており、固定ギヤG1i〜G5iとそれぞれ常時歯合する。固定ギヤG1i〜G5i、及び遊転ギヤG1o〜G5oは、前進用の1速〜5速の変速段にそれぞれ対応している。スリーブS1〜S3は、それぞれ出力軸A3に相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に設けられており、複数の遊転ギヤG1o〜G5oのうち対応する遊転ギヤと係合可能となっている。これは、前記対応する遊転ギヤを、出力軸A3に対して相対回転不能に固定するためである。本図では、スリーブS1〜S3はいずれの遊転ギヤにも係合しておらず、遊転ギヤG1o〜G5oは出力軸A3に対して相対回転することになる。このため、入力軸A2と出力軸A3との間で動力伝達系統が確立されず、ニュートラル段が実現されることになる。
【0027】
変速機T/Mは、移動部材Mを備える。移動部材Mは、MT(マニュアルトランスミッション)車両が通常搭載する変速機のシフトレバー(運転者により操作される)に相当する部材であり、スリーブS1〜S3と連動するように設けられている。移動部材MおよびスリーブS1〜S3にかかる構成は、MT車両が通常搭載する変速機のものと同等である。このように変速機T/Mが構成されるのは、設変によるコスト増大を抑制するためである。本例の移動部材Mは、車両の運転者から視認・操作できない場所に設置されている。即ち、移動部材Mは、運転者によっては操作されないようになっている。この点は、上記シフトレバーの態様と異なる。
【0028】
図3は、移動部材Mの位置の制御パターンの一例を示す。移動部材Mは、第1の方向(例えば、車両左右方向)に延在する「ニュートラル領域」内を同方向に沿って移動可能になっている。移動部材Mの「ニュートラル領域」内の位置(ニュートラル位置)として、第1位置、第2位置、及び第3位置が規定される。第1〜第3位置は、第1の方向において等間隔となっている。移動部材Mは、「ニュートラル領域」内の第1〜第3位置を介して、第1の方向と垂直となる方向(例えば、車両前後方向)に変位した「ニュートラル領域」外にある、1速シフト完了位置、2速シフト完了位置、3速シフト完了位置、4速シフト完了位置、5速シフト完了位置、及びRシフト完了位置のうち何れか1つへ移動可能になっている。1速〜5速シフト完了位置は、それぞれ前進用の1速〜5速の変速段に対応し、Rシフト完了位置は後進用の変速段に対応する。
【0029】
変速機T/Mの変速段の変更・設定は、変速機アクチュエータACT2(図1を参照)によって移動部材Mを駆動し、移動部材Mの位置を制御することで実行される。具体的には、ACT2により駆動される移動部材Mに連動して、スリーブS1〜S3が駆動され、スリーブS1〜S3の軸方向位置が制御される。変速段を変更することで、減速比(出力軸A3の回転速度Noに対する入力軸A2の回転速度Niの割合)が調整される。具体的には、「N」速の「減速比」は、「GNoの歯数/GNiの歯数)(N:1,2,3,4,5)で表される。「1速」から「5速」に向けて、減速比は次第に小さくなっていく。
【0030】
上述のように変更・設定される変速段における動力伝達系統を、具体的に説明する。図4図8は、それぞれ前進用の1速〜5速の変速段に対応する動力伝達系を示す。図4のように、移動部材Mの位置が、第1位置から1速シフト完了位置に移動するよう制御されると、ニュートラル段実現時の位置(図2を参照)にあったスリーブS1〜S3のうち、スリーブS1のみが連動して1速位置へ移動する。これにより、スリーブS1が遊転ギヤG1oと係合し、遊転ギヤG1oが出力軸A3に対して相対回転不能に固定される。他方、遊転ギヤG2o〜G5oは、出力軸A3に対して相対回転することになる。この結果、入力軸A2と出力軸A3との間で、1速の減速比を有する動力伝達系統が形成され、1速の変速段が実現される。
【0031】
以下同様に、図5のように、移動部材Mの位置が、第1位置から2速シフト完了位置に移動するよう制御されると、スリーブS1のみが2速位置へ移動して遊転ギヤG2oと係合することで、2速の変速段が実現される。図6、7のように、移動部材Mの位置が、第2位置から3速又は4速シフト完了位置に移動するよう制御されると、スリーブS2のみが3速又は4速位置へ移動して遊転ギヤG3o又はG4oと係合することで、3速又は4速の変速段が実現される。図8のように、移動部材Mの位置が、第3位置から5速シフト完了位置に移動するよう制御されると、スリーブS3のみが5速位置へ移動して遊転ギヤG5oと係合することで、5速の変速段が実現される。
【0032】
なお、移動部材Mの位置が、第3位置からR完了位置に移動するよう制御されると、前進用の変速段と同様に、後進用変速段が実現される。この動力伝達系統の詳細については、説明を省略する。また、移動部材Mの位置が、「ニュートラル領域」内にあるときには、スリーブS1〜S3は、いずれの遊転ギヤにも係合しない位置に維持される(図2を参照)。以上、変速段における動力伝達系統について説明した。
【0033】
クラッチC/Dは、変速機T/Mの入力軸A2に一体回転するように設けられた周知の構成の1つを有する摩擦クラッチディスクである。より具体的には、エンジンE/Gの出力軸A1に一体回転するように設けられたフライホイールF/Wに対して、クラッチC/D(より正確には、クラッチディスク)が互いに向き合うように同軸的に配置されている。フライホイールF/Wに対するクラッチC/D(より正確には、クラッチディスク)の軸方向の位置が調整可能となっている。クラッチC/Dの軸方向位置は、クラッチアクチュエータACT1(図1を参照)により調整される。なお、このクラッチC/Dは、運転者によって操作されるクラッチペダルを備えていない。
【0034】
以下、クラッチC/Dの原位置(クラッチディスクがフライホイールから最も離れた位置)からの接合方向(圧着方向)への軸方向の移動量をクラッチストロークCStと呼ぶ。クラッチC/Dが「原位置」にあるとき、クラッチストロークCStが「0」となる。図9に示すように、クラッチストロークCStを調整することにより、クラッチC/Dが伝達可能な最大トルク(クラッチトルクTc)が調整される。「Tc=0」の状態では、エンジンE/Gの出力軸A1と変速機T/Mの入力軸A2との間で動力が伝達されない。この状態を「分断状態」と呼ぶ。また、「Tc>0」の状態では、出力軸A1と入力軸A2との間で動力が伝達される。この状態を「接合状態」と呼ぶ。
【0035】
モータジェネレータM/Gは、周知の構成(例えば、交流同期モータ)の1つを有していて、例えば、ロータ(図示せず)がM/Gの出力軸と一体回転するようになっている。図2に示す例では、M/Gの出力軸は、T/Mの出力軸A3と一体且つ同軸的に接続されているが、所定の歯車列を介してT/Mの出力軸A3と接続されていてもよい。M/Gの出力軸の駆動トルクは、T/M(T/M内の動力伝達系統)を介することなくT/Mの出力軸A3(従って、駆動輪)に伝達される。
【0036】
本装置は、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサS1と、シフトレバーSLの位置を検出するシフト位置センサS2と、ブレーキペダルBPの操作の有無を検出するブレーキセンサS3と、車両の速度である車速を検出する車速センサS4と、を備えている。
【0037】
また、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサS1〜S4、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、上述のアクチュエータACT1、ACT2を制御することで、C/DのクラッチストロークCSt(従って、クラッチトルクTc)、及び、T/Mの変速段を制御する。また、ECUは、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することでE/Gの出力軸A1の駆動トルクを制御するとともに、インバータ(図示せず)を制御することでM/Gの出力軸の駆動トルクを制御する。
【0038】
以上、この車両は、AMTを搭載し、且つ、M/Gの出力軸がT/Mの出力軸A3に接続される構成を備えた「AMT付ハイブリッド車両」である。以下、説明の便宜上、E/Gの燃焼により出力軸A1に発生する駆動トルクを「EGトルクTe」と呼び、M/Gの出力軸の駆動トルクを「MGトルクTm」と呼ぶ。Te,Tmは、車両の加速方向について正の値を採り、減速方向について負の値を採るものとする。
【0039】
本装置では、EV走行モードと、EG走行モードと、HV走行モードとが選択的に実現される。EV走行モード、EG走行モード、及びHV走行モードのうち何れが実現されるかは、例えば、車速、アクセル開度等の車両の走行状態に基づいて決定される。
【0040】
EV走行モードでは、E/Gが停止し、MGトルクTm(>0)のみを利用して車両が走行する。クラッチC/Dは、接合状態(Tc>0)に調整されても分断状態(Tc=0)に調整されてもよい。EG走行モードでは、MGトルクTmがゼロに維持され、且つ、クラッチC/Dが接合状態(Tc>0)に調整されてEGトルクTe(>0)のみを利用して車両が走行する。HV走行モードでは、クラッチC/Dが接合状態(Tc>0)に調整されてEGトルクTe(>0)及びMGトルクTm(>0)の両方を利用して車両が走行する。
【0041】
EV走行モード及びHV走行モードでは、Tmはアクセル開度等の車両の走行状態に基づいて調整される。EG走行モード及びHV走行モードでは、Teはアクセル開度等の車両の走行状態に基づいて調整される。
【0042】
本装置では、車両の運転者によりシフトレバーSLが操作され、その位置が移動されることで、変速段の変更・設定が実行されるようにもなっている。図10に示すように、シフトレバーSLの位置としては、例えば、「D(ドライブ)レンジ」、「M(マニュアル)レンジ」、「N(ニュートラル)レンジ」、及び「R(リバース)レンジ」が規定される。それらのうちの何れか1つを、シフトレバーSLの操作により選択可能となっている。「Dレンジ」、及び「Mレンジ」は、両方とも前進用変速段(1速〜5速)に対応し、それぞれ「自動モード」、及び「手動モード」に対応する。「Nレンジ」はニュートラル段に対応し、「Rレンジ」は後進用変速段に対応する。
【0043】
本装置では、シフトレバーSLが「自動モード」に対応する位置(例えば、Dレンジ)にある場合、ECU内のROMに記憶された変速マップ(図11を参照)と、車速及びアクセル開度等の車両の走行状態とに基づいて、移動部材Mのシフト完了位置(選択・実現すべき変速段)が選択される。例えば、現在の車速がαで現在のアクセル開度がβの場合、移動部材Mのシフト完了位置として「3速」が選択される。一方、シフトレバーSLが「手動モード」に対応する位置(例えば、Mレンジ)にある場合、シフトレバーSLの位置移動に応じて、前進用の1速〜5速の変速段に対応する移動部材Mのシフト完了位置が、シーケンシャルに選択される。
【0044】
変速機T/Mでは、通常、移動部材Mの選択されたシフト完了位置に対応する変速段が実現される。移動部材Mのシフト完了位置が変化したとき、T/Mの変速作動(変速段が変更される際の作動)が行われる。変速作動の開始前にクラッチC/Dが接合状態(クラッチトルク>0)から分断状態(クラッチトルク=0)へと変更され、クラッチが分断状態に維持された状態で変速作動が行われ、変速作動の終了後にクラッチが分断状態から接合状態へと戻される。なお、変速作動の開始とは、変速段の変更に関連して移動する部材(具体的には、スリーブ)の移動の開始に対応し、変速作動の終了とは、その部材の移動の終了に対応する。
【0045】
(EV走行モード選択時における移動部材の位置の制御)
本装置では、SLによって「自動モード」が選択されている場合において、EG走行モード又はHV走行モードが実現されているとき、移動部材Mのシフト完了位置(従って、実現される変速段)が、上述した変速マップ(図11を参照)及び車両の走行状態(アクセル開度及び車速等)に基づいて選択・変更されていく。
【0046】
他方、SLによって「自動モード」が選択されている場合において、EV走行モードが実現されているときは、実現される変速段がニュートラル段に固定される。このとき、変速機T/Mの移動部材Mは、ニュートラル領域内に位置するように制御される。これは、クラッチC/D(正確には、クラッチディスク)の保護、及び走行時におけるノイズ低減のためである。なお、クラッチC/Dは、接合状態(Tc>0)にあっても分断状態(Tc=0)にあってもよい。
【0047】
このように、EV走行モード時では実現される変速段がニュートラル段に固定されるため、EV走行モードからEG走行モード又はHV走行モードに変更された場合、ニュートラル領域内に存在していた移動部材Mは、ニュートラル領域外のシフト完了位置まで移動するよう制御されることになる。移動部材Mの移動にかかる時間は、変速性能の向上等の観点から短い方が好ましい。変速性能の向上としては、例えば、移動部材Mの移動にかかる時間が短縮される分に応じて、上記変速作動の開始・終了が前倒しできることが挙げられる。これにより、EV走行モードからEG(HV)走行モードに移行した時点から、変速作動の終了時点(最終的には、クラッチの接合状態への復帰時点)までの、一連の作動にかかるにかかる期間も短縮され得る。
【0048】
係る観点に基づき、本装置では、EV走行モードが選択された状態においては、移動部材Mの位置が、ニュートラル領域内の第1〜第3位置のうちで、「EG走行モード又はHV走行モードが選択された状態であるとの仮定のもとで、現在の車速及びアクセル開度に基づいて決定・実現される変速段のシフト完了位置(以下、「仮定シフト完了位置」と称呼することもある。)」に対応する位置になるように制御される。
【0049】
より具体的には、図12に示すマップと、車速およびアクセル開度とに基づいて、移動部材Mの位置が決定される。上記「仮定シフト完了位置」は、図11のマップに基づき決定されるシフト完了位置に相当する。従って、図12のマップにおける1速〜5速に対応する領域は、それぞれ図11のものと同一となっている。上記「仮定シフト完了位置」が「1速又は2速」、「3速又は4速」、及び「5速」に対応するものである場合、移動部材Mの位置はそれぞれ、ニュートラル領域内の第1位置、第2位置、及び第3位置に決定される。そして、移動部材Mの位置は、決定された位置となるよう変速機アクチュエータACT2により制御される。
【0050】
以下、本装置の作動について、図13のタイムチャートを参照しながら説明する。シフトレバーSLの操作により自動モードが選択されているものとし、時刻t1以前においては、EV走行モードがOFF(EG走行モード又はHV走行モードが選択されている状態)にて、車両が走行しているものとする。時刻t1において、車両の走行状態に応じて、OFFとされていたEV走行モードがONに移行するものとする。
【0051】
時刻t1において、前進用に設定されていた変速段が、ニュートラル段に切り替わるよう制御される。即ち、移動部材Mの位置が、設定されていた変速段に対応するシフト完了位置からニュートラル領域内となるよう、変速機ACT2により制御される。この移動部材Mの移動に連動して、スリーブS1〜S3は、ニュートラル位置に移動し、全ての遊転ギヤとの係合が解除される(図2を参照)。これにより、入力軸A2と出力軸A3との間で動力伝達系統が切断されて、ニュートラル段が実現される。他方で、MGトルクTmは、M/Gから駆動輪へ向けて出力軸A3に伝達されて、車両の走行が維持される。
【0052】
時刻t1以降、走行車両の車速が増加していくものとする。変速機T/Mの移動部材Mの位置は、図12に示すマップと、車速およびアクセル開度とに基づいて決定される。時刻t1〜t2においては、車速が小さく、上記「仮定シフト完了位置」が1速又は2速に対応するものであるとする。従って、移動部材Mの位置が、ニュートラル領域内の第1位置に決定される。そして、移動部材Mの位置は、第1位置となるよう変速機アクチュエータACT2により制御される。
【0053】
時刻t2〜t3においては、車速が時刻t1〜t2におけるものよりも大きく、上記「仮定シフト完了位置」が3速又は4速に対応するものであるとする。従って、移動部材Mの位置が、ニュートラル領域内の第2位置に決定される。そして、第1位置にあった移動部材Mの位置は、第2位置となるよう変速機アクチュエータACT2により制御される。
【0054】
時刻t3を経過した所定時刻から、増加していた車速が減少していくものとする。時刻t3〜t4においては、車速が時刻t2〜t3におけるものよりも大きく、上記「仮定シフト完了位置」が5速に対応するものであるとする。従って、移動部材Mの位置が、ニュートラル領域内の第3位置に決定される。そして、第2位置にあった移動部材Mの位置は、第3位置となるよう変速機アクチュエータACT2により制御される。
【0055】
時刻t4〜t5においては、車速が時刻t3〜t4におけるものよりも小さく、上記「仮定シフト完了位置」が3速又は4速に対応するものであるとする。従って、移動部材Mの位置が、ニュートラル領域内の第2位置に決定される。そして、第3位置にあった移動部材Mの位置は、第2位置となるよう変速機アクチュエータACT2により制御される。
【0056】
時刻t5を経過した所定時刻である時刻t6において、車両の走行状態に応じて、ONとされていたEV走行モードがOFFに移行するものとする。時刻t5〜t6においては、車速が時刻t4〜t5におけるものよりも小さく、上記「仮定シフト完了位置」が1速又は2速に対応するものであるとする。従って、移動部材Mの位置が、ニュートラル領域内の第1位置に決定される。そして、第2位置にあった移動部材Mの位置は、第1位置となるよう変速機アクチュエータACT2により制御される。
【0057】
時刻t6において、EV走行モードOFFへの移行に応じて、ニュートラル段に設定されていた変速段が、前進用の変速段に変更されるよう制御される。このとき、決定・実現される変速段が2速であるものとする。従って、ニュートラル領域内にあった移動部材Mの位置は、2速シフト完了位置となるよう、変速機アクチュエータACT2により制御される。
【0058】
比較例として、EV走行モードON時において、仮に移動部材Mが第3位置に常に維持される場合を想定する。この場合、図14に示すように、時刻t6において、移動部材Mは、ニュートラル領域内の第3位置で待機していることになる。このため、移動部材Mは、第3位置から第2位置、及び第1位置を順に経由して、ニュートラル領域外の2速シフト完了位置まで移動する。
【0059】
これに対し、本装置では、図15に示すように、時刻t6において、移動部材Mは、ニュートラル領域内の第1位置で待機していることになる。このため、移動部材Mは、第1位置から、直ちにニュートラル領域外の2速シフト完了位置まで一方向にのみ直線的に移動する。従って、本装置によれば、移動部材Mの移動にかかる時間が、比較例の第1、第2位置を介する移動に相当する分だけ、短縮される。
【0060】
移動部材Mが2速シフト完了位置へ移動すると、2速の変速段実現のための変速作動が実行される。クラッチC/Dが分断状態に維持された状態で、スリーブS1のみが2速位置に移動する変速作動が開始する。そして、この変速作動が終了して、スリーブS1と遊転ギヤG2oとの係合が実現され(図5を参照)、クラッチC/Dが接合状態とされる。これにより、入力軸A2と出力軸A3との間で2速の動力伝達系統が確立されて、2速の変速段が実現される。
【0061】
以上、本装置によれば、EV走行モードON時において、移動部材Mの位置が、ニュートラル領域内の第1〜第3位置のうちで上記「仮定シフト完了位置」に対応する位置になるように制御される。これにより、EG走行モード又はHV走行モード移行時における移動部材Mのシフト完了位置への移動に備え、移動部材Mを上記「仮定シフト完了位置」に対応するニュートラル領域内の位置に予め待機させておくことができる。従って、移動部材Mの移動にかかる時間を短くすることができる。この結果、EV走行モードからEG(HV)走行モードに移行した時点から変速作動終了時点の、一連の作動にかかるにかかる期間も短縮され得る。
【0062】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、EV走行モードON時において、移動部材Mの位置が、ニュートラル領域内の第1〜第3位置のうちで上記「仮定シフト完了位置」に対応する位置に制御される。具体的には、EV走行モードON時における移動部材Mの位置の決定に際し、図12に示すマップが用いられているが、これに代えて、例えば、図16に示すマップが用いられてもよい。このマップは、車速のみに応じて移動部材Mの位置が決定されるようになっている。この場合、移動部材Mの位置は、車速が大きいほど減速比がより小さくなる方向の変速段のシフト完了位置に対応するニュートラル位置に決定される。
【0063】
また、上記実施形態では、EV走行モードON時における移動部材Mの位置の決定に際し、図12に示すマップが用いられているが、これに代えて、例えば、図17に示すマップが用いられてもよい。このマップは、移動部材Mの位置が、「現在の車速にて想定される最大の減速比をもつ変速段に対応するシフト完了位置」に対応するニュートラル位置に決定されるようになっている。即ち、移動部材Mの位置が、車速、及びアクセル開度の最大値に基づいて制御されるようになっている。これによれば、EV走行モードON時において、移動部材Mの位置を、「アクセル開度が最大値となるよう操作されてEV走行モードOFFに移行したときに移動すると予測されるシフト完了位置」に対応するニュートラル位置に予め待機させることができる。従って、例えば、上記キックダウンが実行される場合に対し、効果的に移動部材Mの移動にかかる時間を短くすることができる。
【0064】
加えて、上記実施形態では、EV走行モードと、EG走行モードと、HV走行モードとの3種類の走行モードが選択的に実現されるように構成されているが、EV走行モードと、EG走行モードとの2種類の走行モードが選択的に実現されるように(即ち、HV走行モードが実現できないように)構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0065】
T/M…変速機、E/G…エンジン、C/D…クラッチ、M/G…モータジェネレータ、M…移動部材、A1…エンジンの出力軸、A2…変速機の入力軸、A3…変速機の出力軸、ACT1…クラッチアクチュエータ、ACT2…変速機アクチュエータ、ECU…電子制御ユニット
図1
図2
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図10
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