(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
正極と負極と電解質とを内部に密封するケース本体を有すると共に、該ケース本体の内圧が予め設定された規定圧力となったときに開裂して、該ケース本体の内圧を外部に放出する安全弁が、該ケース本体に設けられてなる二次電池用ケースであって、
前記安全弁が、前記ケース本体の内側に膨出したドーム形状を呈する、該ケース本体よりも薄肉の薄肉部を有して構成されていると共に、該ケース本体の内圧が前記規定圧力となったときに開裂する開裂溝が、該薄肉部の厚さ方向一方の面のみに、湾曲面にて構成される内面を有するように設けられてなり、且つ該開裂溝の内面が、互いに異なる曲率半径を有する複数の湾曲面部分を、該開裂溝の幅方向に相互に連接してなる段付湾曲面にて構成されると共に、該複数の湾曲面部分の曲率半径が、該開裂溝の幅方向の中央部から該開裂溝の開口側に向かうに従って次第に大きくされていることを特徴とする二次電池用ケース。
【背景技術】
【0002】
近年、ノート型パソコンや携帯電話等のポータブル電子機器には、軽量で、高速充電が可能なニッケル−カドミウム二次電池や、ニッケル−水素二次電池、リチウムイオン二次電池等が、電源として多用されている。また、それらの二次電池の中でも、特に、ニッケル−水素二次電池やリチウムイオン二次電池は、より高いエネルギー密度を有するところから、ハイブリッド車や電気自動車等の車載用高出力電源としても使用され始めてきている。
【0003】
ところで、そのような二次電池は、ケース内に、正極と負極と電解質とが密封されてなる、所謂密閉型の構造とされているが、大電流の放電や過充電等によって、ケース内で多量のガスが発生することがある。このような場合には、ケース内の圧力が異常に上昇して、ケースが破裂する恐れがあり、非常に危険である。
【0004】
そこで、従来の密閉型二次電池用のケースには、通常、正極と負極と電解質とを内部に密封するケース本体に安全弁が設けられている。この安全弁は、ケース本体内でのガスの発生により、ケース本体内の圧力が予め設定された規定圧力となったときに開弁して、ケース本体内のガス(内圧)を外部に放出可能な構造を有している。このような安全弁がケースに設けられることによって、ケースの破裂が未然に防止され得るようになっているのである。
【0005】
そのような安全弁の一種として、破壊式の安全弁が知られている。この破壊式安全弁は、例えば、特開2001−185113号公報(特許文献1)や特開2010−282851号公報(特許文献2)等に明らかにされるように、ケース本体よりも厚さの薄い薄肉平板からなり、ケース本体の一部を薄肉化して、ケース本体に一体形成されるか、或いはケース本体に設けられた開口部を閉鎖するように、ケース本体に固着されている。そして、ケース本体内の圧力が規定圧力以上となったときに開裂して(破壊されて)、ケース本体の内圧を外部に放出するようになっている。
【0006】
このような破壊式の安全弁は、ケース本体に対して容易に且つ安価に設けることができるといった利点を有している。しかしながら、本発明者が、かかる破壊式の安全弁について、様々な角度から検討を加えたところ、破壊式安全弁が設けられる二次電池の種類によっては、長期使用により、作動精度が低下する可能性があることが明らかとなった。
【0007】
すなわち、例えば、リチウムイオン二次電池等のケース本体に破壊式の安全弁を設ける場合には、長期使用によっても、作動精度が安定的に確保されて、安全弁が、予め定められた規定圧力で確実に開裂する。これに対して、例えば、ニッケル−水素二次電池等のケース本体に破壊式の安全弁を設けた場合には、使用期間が長期に亘った後に、ケース本体の内圧が異常に上昇すると、ケース本体の内圧が予め定められた規定圧力に達する前に、安全弁が開裂してしまう恐れがあることが、判明したのである。
【0008】
これは、以下の理由によるものと考えられる。つまり、リチウムイオン二次電池では、正常な充放電時に、正極や負極でガスが発生することはなく、従って、通常の使用状態において、ケース本体内が、略一定の圧力に維持される。一方、ニッケル−水素二次電池では、充電末期の副反応によって正極で酸素ガスが発生する一方、そのような酸素ガスが負極で吸収されるようになっているため、充電が行われる度に、ケース本体内の圧力が変動する。このニッケル−水素二次電池のように、充電時や放電時に内圧変動が常態的に生ずる二次電池のケースに、薄肉平板からなる破壊式の安全弁を設けた場合には、二次電池の充電や放電が繰り返される毎に生ずるケース本体の内圧変動に基づいて、安全弁に対して、引張荷重が繰返し入力される。それ故、そのような内圧変動が生ずる二次電池の使用期間が長くなると、ケース本体に設けられた安全弁に、引張応力の繰返しの発生による疲労が蓄積して、安全弁の破壊強度(破断強度)が次第に低下してゆくようになる。このため、そのような二次電池において、長期の使用後に、ケース本体内で圧力が異常に上昇したときには、破壊式の安全弁の破壊強度が低下しているが故に、ケース本体内が予め定められた規定圧力に達する前に、安全弁が、ケース本体の内圧に耐えられずに開裂してしまうことがあると考えられるのである。
【0009】
なお、安全弁には、破壊式のものの他に、自己復帰式のものもある。この自己復帰式の安全弁は、例えば、上記した特開2001−185113号公報に開示されるように、ケース本体に設けられた開口部を開閉する弁体と、この弁体を開口部の周辺部に密接させて、弁体による開口部の閉鎖状態を維持させるように、弁体に付勢力を及ぼすコイルばねやゴム等の弾性体とを有している。そして、ケース本体内の圧力が規定圧力以上となったときに、弁体が、弾性体の付勢力に抗して開作動して、ケース本体内で発生したガスを開口部から外部に排出するようになっている。また、そのようなガスの排出により、ケース本体内の圧力が規定圧力を下回ると、弁体が、弾性体の付勢力により、開口部を閉鎖する位置に復帰して、ケース本体内を再び密閉状態とするように構成されているのである。
【0010】
このような自己復帰式の安全弁を、充電時や放電時に内圧変動が常態的に生ずる二次電池用のケースに設ければ、かかるケースに破壊式の安全弁を設けたときに生ずる前記した問題を有利に解消することができる。しかしながら、自己復帰式の安全弁は、破壊式の安全弁よりも構造が複雑で、部品点数も多いために極めて高価である。それ故、そのような自己復帰式の安全弁を二次電池用ケースに設ける場合には、二次電池用ケース、ひいては二次電池のコストが高騰するといった新たな問題が生ずることとなるのである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0025】
先ず、
図1及び
図2には、本発明に従う構造を有する二次電池の実施形態としてのニッケル−水素二次電池が、その正面形態と上面形態とにおいて、それぞれ示されている。それら
図1及び
図2から明らかなように、本実施形態のニッケル−水素二次電池は、ケース10を有している。図示されてはいないものの、かかるケース10内には、従来品と同様に、正極と、負極と、それらの間に介装されたセパレータと、電解質としての電解液等が収容されて、密封されている。そして、本実施形態のニッケル−水素二次電池にあっては、そのようなケース10が、従来には見られない特別な構造をもって構成されているのである。
【0026】
より詳細には、ケース10は、ケース本体12と、ケース本体12に設けられた安全弁14とからなっている。また、ケース本体12は、上方に向かって開口する長手矩形の筐体からなる収容体16と、かかる収容体16の上側開口部を覆蓋する蓋体18とを有している。
【0027】
ケース本体12の収容体16は、例えば、ニッケルめっき鋼板に対して、深絞り加工等のプレス加工を行って得られたプレス成形品等からなり、四つの側壁部分と一つの底壁部分とを有している。そして、この収容体16内に、上記した正極と負極とセパレータと電解液等が、上側開口部を通じて収容されている。
【0028】
蓋体18は、ニッケルめっき鋼板を用いて形成された平板からなり、収容体16の上側開口部の全体を覆蓋可能な長手矩形形状を有している。そして、この蓋体18が、正極と負極とセパレータと電解液等が収容された収容体16の上側開口部を覆蓋した状態で、例えばレーザ溶接等により、収容体16に固着されている。
【0029】
かくして、ケース本体12が、収容体16と蓋体18の一体品として構成されており、そして、このケース本体12の内部に、正極と負極とセパレータと電解液等が、密封されている。なお、そのようなケース本体12の蓋体18の長さ方向(
図1及び
図2の左右方向)の両端部側には、ケース本体12内に密封された正極と負極とにそれぞれ接続した正極端子20と負極端子22とが貫通位置しており、それら正極及び負極端子20,22の上端部が、蓋体18から上方に突出している。そして、ここでは、収容体16が0.2〜0.4mm程度の厚さを有し、また、蓋体18が0.2〜2.0mm程度の厚さを有している。これにより、ケース本体12において、2.5MPa程度の圧力に耐え得る耐圧性が確保されている。
【0030】
また、
図2乃至
図4に示されるように、ケース本体12においては、蓋体18の長さ方向の中央部位に、かかる中央部位を貫通する開口部24が設けられている。この開口部24は、ここでは、蓋体18の長さの1/3に満たない程度の長さと、蓋体18の幅の半分程度の幅とを有する長手矩形形状を呈し、蓋体18表面の面積に対して、十分に大きな開口面積を有している。
【0031】
そして、そのようなケース本体12の蓋体18に設けられた開口部24を完全に閉塞するように、安全弁14が、蓋体18に取り付けられているのである。
【0032】
この安全弁14は、収容体16や蓋体18よりも薄い一定の肉厚を有する長手矩形平板状のニッケルめっき鋼板を用いて形成されている。そして、かかる安全弁14の外周部を除いた部分が、プレス成形等により、厚さ方向一方側に向かって湾曲状に膨出するように賦形されている。
【0033】
かくして、安全弁14の外周部が、蓋体18の開口部24よりも一周り大きな長手矩形の平板枠状形態を呈する取付枠部26とされている一方、かかる取付枠部26の内側部分が、全体として、安全弁14の厚さ方向一方側に向かって膨らんだドーム形状を呈する、薄肉部としての膨出部28とされている。即ち、膨出部28は、安全弁14の長さ方向(
図3の左右方向)に延びる切断線によって切断した縦断面形状(
図3に示される断面形状)と、安全弁14の幅方向(
図4の左右方向)に延びる切断線によって切断した縦断面形状(
図4に示される断面形状)、更には、それら安全弁14の長さ方向や幅方向に交差する方向に延びる切断線によって切断した縦断面形状が、全て、山形形状とされている。
【0034】
なお、膨出部28は、上記の如く、ケース本体12の収容体16や蓋体18よりも薄肉で、その全体形状が、湾曲形態をもって、安全弁14の厚さ方向の一方側に膨らんだドーム形状を有している必要があるが、その具体的形状は、特に限定されるものではない。即ち、安全弁14の縦断面形状(膨出部28の高さ方向において切断した断面形状)が、何れも、山形形状の他、例えば、円弧形状、半円形状、楕円の一部からなる形状、長円の一部からなる形状等、全体として、ケース本体12の内側に向かって凸となり、且つ凹んだ部分を何等有しない湾曲形状となっておれば良いのである。そして、その中でも、安全弁14の縦断面形状が、懸垂線を描く湾曲形状とされていることが望ましい。これにより、後述するように、ケース10の内圧上昇に伴って、膨出部28に対して、高さ方向の先端側から基端側に向かって圧力が加えられたときに、膨出部28の内部に、圧縮応力だけが、より安定的に発生することとなるからである。
【0035】
そして、このような安全弁14が、蓋体18の開口部24を通じて、膨出部28をケース本体12の収容体16の内側に向かって膨出乃至は突出させ、且つ取付枠部26を、その全周に亘って、蓋体18の上面(外面)における開口部24の周辺部分に重ね合わせて、配置されている。また、そのような配置状態下で、取付枠部26が、蓋体18の開口部24の周辺部分に対して、例えば、レーザ溶接等により、全周に亘って固着されている。更に、ここでは、かかる固着状態において、膨出部28のうちの少なくとも膨出先端部分が、収容体16内に突入配置されている(蓋体18の内面の位置よりも収容体16の内側に突出している)。これによって、安全弁14の膨出部28における各所の曲率半径が有利に小さくされると共に、膨出部28の収容体16内側への膨出量乃至は突出量(取付枠部26の膨出部28側の面から膨出部28の先端までの高さ)が十分に確保され、以て、後述するように、ケース10の内圧上昇時において、膨出部28の内部に、圧縮応力だけを更に一層安定的に発生させることが可能となるといった利点が得られる。なお、膨出部28の収容体16内側への十分な膨出量乃至は突出量が確保されるならば、収容体16内に何等突入することなく(蓋体18の内面の位置から収容体16の内側に突出することなく)、その全体が、開口部24の内側に配置されていても良い。
【0036】
かくして、蓋体18の開口部24が、安全弁14にて流体密に封止されている。そして、ケース10の側壁部が、ケース本体12の収容体16の四つの側壁部分にて構成されている一方、ケース10の下側底壁部が、ケース本体12の底壁部分にて、また、ケース10の上側底壁部が、ケース本体12の蓋体18と、この蓋体18の開口部24を封止する安全弁14の膨出部28とにて、それぞれ構成されている。
【0037】
これにより、本実施形態のニッケル−水素二次電池では、ケース10の側壁部と両側底壁部うち、収容体16や蓋体18よりも薄肉の安全弁14の膨出部28にて構成された上側底壁部の一部分の破壊強度が、収容体16や蓋体18にて構成されたケース10の側壁部や底壁部の破壊強度よりも低く設定されている。しかしながら、ここでは、そのような安全弁14の膨出部28が、収容体16内に膨出乃至は突出するドーム形状を呈している。それ故、蓋体18の取付部分の内側部位が平板形状とされた従来の安全弁とは異なって、ケース10の内圧変動が繰返し生じても、それによって、安全弁14、特に膨出部28の破壊強度が徐々に低下していくことが有利に防止され得るようになっている。
【0038】
すなわち、本実施形態のニッケル−水素二次電池においては、充電末期に正極で酸素ガスが発生して、ケース10の内圧が上昇したときに、
図3及び
図4に白抜きの矢印で示されるように、ケース本体12の収容体16と蓋体18の内面に所定の圧力が加えられると共に、蓋体18の開口部24を閉塞する安全弁14の膨出部28の内側面29(収容体16の内側に露呈する面)に対しても、膨出部28の高さ方向の先端側から基端側に向かって所定の圧力が加えられる。そして、その際、膨出部28が、収容体16の内側に向かって凸となるドーム形状、つまり、ケース10の内圧上昇に伴う加圧方向に抗する方向(加圧方向とは反対側の方向)に向かって凸となるドーム形状を有しているために、膨出部28の内部には圧縮応力のみが発生する。それ故、かかる膨出部28を有する安全弁14では、蓋体18の取付部分の内側部位が平板形状とされた従来の安全弁とは異なって、充電が行われる毎に、安全弁14内部で引張応力が繰返し発生することがなく、従って、安全弁14、特に膨出部28に、引張応力による疲労が蓄積して、その破壊強度が徐々に低下していくようなことが、完全に解消され得るようになっているのである。
【0039】
そして、そのような安全弁14の膨出部28においては、収容体16の内部に露呈して、ケース10の内圧上昇時に加圧される内側面29とは反対側の面、即ち、蓋体18上で外部に露出される外側面30に、開裂溝32が設けられている。これによって、膨出部28のうちで、開裂溝32の底部部位が、その他の部位よりも更に破壊強度が小さくされている。
【0040】
かくして、本実施形態のニッケル−水素二次電池においては、充電時に生ずる酸素ガス量よりも多量のガスが、ケース10内で、例えば、大電流の放電や過充電等の理由により発生し、ケース10の内圧が異常に上昇して、ケース本体12の収容体16と蓋体18のそれぞれの内面に対して、通常の充電時よりも極めて大きな圧力が加えられると共に、安全弁14の膨出部28の内側面29に対しても、収容体16と蓋体18に対する圧力と同様な極めて大きな圧力が加えられたときに、先ず、
図5の(a)に示されるように、膨出部28が、収容体16内に向かって膨出乃至は突出した形状(収容体16内に向かって凸となるドーム形状)から、収容体16の外側に向かって膨出乃至は突出した形状(収容体16外に向かって凸となるドーム形状)に変形する。
【0041】
次いで、
図5の(b)に示されるように、膨出部28が変形した直後に、或いはそれと殆ど同時に、膨出部28のうちの開裂溝32の底部部位が、膨出部28に加えられる圧力に耐えられなくなって破断する。即ち、膨出部28が、開裂溝32を起点して開裂する。これにより、ケース10内のガスが、膨出部28の開裂部分からケース10の外部に放出されるようになっているのである。
【0042】
なお、ここでは、前記したように、ケース本体12が2.5MPa程度の圧力に耐え得る耐圧性を有しているため、ケース本体12(ケース10)の内圧が、かかる圧力よりも低い2.0MPaとなったときに、安全弁14の膨出部28が開裂溝32にて開裂するようになっている。換言すれば、安全弁14の膨出部28が開裂溝32にて開裂するときのケース10(ケース本体12)の規定圧力が、ケース本体12が耐え得る圧力よりも低い2.0MPa程度に設定されているのである。
【0043】
そして、本実施形態では、
図2に示されるように、開裂溝32が、膨出部28の中心部分において、長手矩形の安全弁14の長さ方向(
図2の左右方向)に一直線に延びる1本の主溝部33を有している。また、この主溝部33の長さ方向の一端部からは、二つの副溝部34a,34bが、安全弁14の幅方向(
図2の上下方向)の両側に向かって、それぞれ斜めに一直線に延び出している。更に、主溝部33の長さ方向の他端部からは、二つの副溝部34c,34dが、安全弁14の幅方向の両側に向かって、それぞれ斜めに一直線に延び出している。
【0044】
すなわち、開裂溝32は、一直線に延びる主溝部33と、この主溝部33に対して交差して延びる四つの副溝部34a,34b,34c,34dとからなっている。そして、それら四つの副溝部34a,34b,34c,34dのうち、主溝部33の長さ方向一端部から延びる二つの副溝部34a,34bは、主溝部33の長さ方向一方側(
図2の右側)に延びる延長線に対して、鋭角な角度で、それぞれ交差している。一方、主溝部33の長さ方向他端部から延びる二つの副溝部34c,34dは、主溝部33の長さ方向他方側(
図2の左側)に延びる延長線に対して、鋭角な角度で、それぞれ交差している。
【0045】
また、ここでは、主溝部33の長さ方向の一端部から延びる二つの副溝部34a,34bが、主溝部33の長さ方向一方側に延びる延長線に関して対称に位置している。主溝部33の長さ方向の他端部から延びる二つの副溝部34c,34dは、主溝部33の長さ方向他方側に延びる延長線に関して対称に位置している。更に、四つの副溝部34a,34b,34c,34dのうち、安全弁14の幅方向一方側(
図2の上側)に向かって斜めに延びる二つの副溝部34a,34cは、主溝部33の長さ方向の中心点を通って、主溝部33に直交して、主溝部33の幅方向に延びる直線に関して対称に位置していると共に、安全弁14の幅方向他方側(
図2の下側)に向かって斜めに延びる二つの副溝部34b,34dも、主溝部33の長さ方向の中心点を通って、主溝部33に直交して、主溝部33の幅方向に延びる直線に関して対称に位置している。
【0046】
これによって、膨出部28の幅方向一方側の部分のうち、主溝部33と、その両端から延びる2本の副溝部34a,34cとにて囲まれた部位や、膨出部28の幅方向他方側の部分のうち、主溝部33と、その両端から延びる2本の副溝部34b,34dとにて囲まれたぶい、膨出部28の長さ方向一方側の部分のうち、主溝部33の長さ方向一端から延びる2本の副溝部34a,34bにて囲まれた部位、膨出部28の長さ方向他方側の部分のうち、主溝部33の長さ方向他端から延びる2本の副溝部34c,34dにて囲まれた部位が、開裂溝32の開裂時に、ケース10の外側に向かって、それぞれ、バランス良く捲れ上がるようになる。その結果、開裂溝32が開裂したときに形成される開口部の面積が、より十分に大きくされ、以て、そのような開口部から、ケース10内のガスが、より迅速に且つ効率的にケース10外に放出され得るようになっている。
【0047】
また、開裂溝32は、主溝部33と副溝部34a,34b,34c,34dの区別なく、延出方向のどの部分においても同じ内面形状を有している。即ち、主溝部33の縦断面を示す
図6から明らかなように、ここでは、開裂溝32の内面が、複数の湾曲面部分を開裂溝32の幅方向に連接してなる段付湾曲面にて構成されている。
【0048】
より具体的には、開裂溝32は、その内面が、開裂溝32の幅方向の中央部(幅方向の内側)に位置する、円弧面からなる中央内面部分36と、この中央内面部分36を間に挟んで幅方向両側(開裂溝32の開口側の両サイド)にそれぞれ位置して、中央内面部分36における開裂溝32の幅方向両端にそれぞれ連接する、円弧面からなる第一開口側内面部分38及び第二開口側内面部分40とからなっている。そして、第一開口側内面部分38の曲率半径:R
1 と第二開口側内面部分40の曲率半径:R
2 とが、互いに同一の大きさとされている一方、中央内面部分36の曲率半径:R
3 が、第一開口側内面部分38の曲率半径:R
1 及び第二開口側内面部分40の曲率半径:R
2 よりも小さな大きさとされている。
【0049】
要するに、開裂溝32の内面は、中央内面部分36と第一及び第二開口側内面部分38,40の三つの部分からなる段付湾曲面形状を呈しており、そして、かかる開裂溝32の内面の曲率半径:R
3 、R
1 、R
2 が、開裂溝32の幅方向の中央部よりも開裂溝32の開口側の方において大きくされているのである。なお、このように、開裂溝32の内面を段付湾曲面形状とする場合にあっても、中央内面部分36と第一及び第二開口側内面部分38,40が、必ずしも円弧面とされている必要はなく、膨出部28の厚さ方向中心に向かって凸となる、円弧面以外の湾曲面とされていても良い。
【0050】
かくして、本実施形態のニッケル−水素二次電池では、ケース10の内圧が異常に上昇して、安全弁14の膨出部28に通常状態よりも大きな圧力が加えられたときに、特に、開裂溝32における主溝部33と各副溝部34a〜34dの中央内面部分36と、それに対応位置する膨出部28の内側面29部分の間の部位において、確実に且つ安定的に応力集中が生じるようになっている。そして、それにより、ケース10の内圧が、前記した規定圧力となったときに、膨出部28が、開裂溝32の形成部位において、より高い精度で確実に開裂するようになっている。
【0051】
なお、そのように、ケース10の内圧が規定圧力となったときに、膨出部28の開裂溝32を精度よく正確に開裂させるためには、開裂溝32における主溝部33と各副溝部34a〜34dの第一及び第二開口側内面部分38,40の曲率半径:R
1 、R
2 と中央内面部分36の曲率半径:R
3 とが、何れも1.0mm以下とされていることが望ましい。また、それら第一及び第二開口側内面部分38,40の曲率半径:R
1 、R
2 と中央内面部分36の曲率半径:R
3 が1.0mmを超える場合には、例えば、開裂溝32をプレス加工によって形成する際に、より大きなプレス圧が必要となって、開裂溝32の形成に要する設備の大型化や高コスト化を招くといった問題が生ずる。それ点からしても、第一及び第二開口側内面部分38,40の曲率半径:R
1 、R
2 と中央内面部分36の曲率半径:R
3 が1.0mm以下とされていることが望ましいのである。なお、それらの曲率半径:R
1 、R
2 、R
3 は、より望ましくは、0.07mm以下である。
【0052】
また、第一及び第二開口側内面部分38,40の曲率半径:R
1 、R
2 と中央内面部分36の曲率半径:R
3 は、何れも0.01mm以上とされていることが好ましい。何故なら、曲率半径:R
1 、R
2 、R
3 が0.01mm未満の湾曲面からなる中央内面部分36と第一及び第二開口側内面部分38,40を有する開裂溝32を、例えば、安全弁14の被加工材料たるニッケルめっき鋼板をプレス加工して得る際には、破断が生ずる可能性が高くなって、開裂溝32を安定的に得ることが困難となる恐れがあるからである。また、ニッケルめっき鋼板に対するプレス加工によって開裂溝32を確実に形成するには、第一及び第二開口側内面部分38,40の曲率半径:R
1 、R
2 と中央内面部分36の曲率半径:R
3 が、0.05mm以上とされていることが、より好ましい。なお、中央内面部分36の曲率半径:R
3 と、第一及び第二開口側内面部分38,40の曲率半径:R
1 、R
2 のそれぞれの大きさに拘わらず、前者が後者よりも小さくされている必要がある。
【0053】
以上の説明から明らかなように、本実施形態のニッケル−水素二次電池にあっては、安全弁14が、薄肉で、開裂溝32が設けられた膨出部28を有し、ケース10内の圧力が規定圧力となったときに、かかる膨出部28が開裂する破壊式構造を有している。それ故、例えば、安全弁14を自己復帰式構造をもって構成する場合に比して、安全弁14の低コスト化、ひいてはニッケル−水素二次電池全体の低コスト化が有利に図られ得る。
【0054】
また、かかるニッケル−水素二次電池では、安全弁14の膨出部28が、ケース本体12の内側に膨出乃至は突出するドーム形状を有していることにより、ケース本体12の内圧の繰返し変動によっても、膨出部28の破壊強度が、使用開始当初の設定よりも徐々に低くなっていくことがない。それ故、本実施形態のニッケル−水素二次電池においては、使用期間が長くなっても、安全弁14の膨出部28が、経年劣化することなく、予め定められた規定圧力で、精度よく、確実に開裂され得る。
【0055】
従って、かくの如き本実施形態のニッケル−水素二次電池にあっては、内圧の異常な上昇によるケース本体10の破裂が、安価で且つ作動精度の高い安全弁の破壊により、十分に低いコストで確実に防止され得ることとなるのである。
【0056】
また、本実施形態のニッケル−水素二次電池においては、開裂溝32が、膨出部28の外側面30に形成されている。これによっても、安全弁14の膨出部28が、予め定められた規定圧力で、高い精度で、確実に開裂され得る。また、開裂溝32を膨出部28(安全弁14)に対するプレス加工により形成した場合には、たとえプレス加工時に、膨出部28の表面に形成されためっき層に多少の損傷が生じていても、そのような損傷部分がケース本体12内に密封された電解液に接触することが回避され、以て、安全弁14の膨出部28の経年劣化が、更に一層効果的に防止され得ることとなる。
【0057】
更にまた、かかるニッケル−水素二次電池では、開裂溝32の内面形状が湾曲面形状とされている。このため、例えば、開裂溝32の内面形状が、角張った部位を有する縦断面多角形状とされる場合とは異なって、開裂溝32の内面の一部に応力集中が生じることにより、膨出部28が開裂するときの圧力の値にバラツキが発生するようなことが、有利に防止され得る。
【0058】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
【0059】
例えば、前記実施形態では、安全弁14が、ケース本体12とは独立した別部材からなっていたが、安全弁14をケース本体18に対して一体成形しても良い。
【0060】
すなわち、例えば、
図7に示されるように、ケース本体12の蓋体18の中央部分に対して、プレス加工等による圧縮加工を施して、かかる中央部分を、それ以外の部分よりも薄肉化すると共に、そこに膨出部28を形成する。これによって、蓋体18の中央部分に、薄肉の破壊式の安全弁14を一体形成することも可能である。また、図示されてはいないものの、ケース本体12の収容体16の四つの側壁部分と一つの底壁部分のうちの何れかの一部に対して、プレス加工等による圧縮加工を施すことにより、かかる一部分を薄肉化すると共に、膨出部28を形成することにより、安全弁14をケース本体12の収容体16に一体形成することも可能である。
【0061】
このように、安全弁14をケース本体12に一体成形する場合にあっても、安全弁14の中央部位に対して、例えばプレス加工等を施すことにより、かかる中央部位に、ケース本体12の内側に向かって膨出乃至は突出するドーム状の膨出部28が形成されることとなる。これにより、本実施形態にあっても、前記実施形態において奏される作用・効果と実質的に同一の作用・効果が、有効に享受され得ることとなる。なお、
図7に示される実施形態、更には、
図8乃至
図15に示される幾つかの実施形態に関しては、前記第一の実施形態と同様な構造とされた部材及び部位について、
図1乃至
図6と同一の符号を付すことにより、それらの詳細な説明を省略する。
【0062】
さらに、ケース本体12の収容体16の四つの側壁部分と一つの底壁部分のうちの何れかに開口部24を形成し、この開口部24を流体密に封止するように、安全弁14を収容体16に対して、例えば、レーザ溶接等により固着しても良い。
【0063】
また、
図7から明らかなように、安全弁14を蓋体18に一体成形する場合には、蓋体18の内面と安全弁14の内側面29とが、それらの間に段差や凹部が存在しないように、滑らかに連接されていることが望ましい。つまり、例えば、蓋体18の中央部位をプレス加工により薄肉化して、安全弁14を形成する場合には、蓋体18の外面のみを凹陥させるプレス加工を行うことが好ましいのである。それによって、ケース本体12の内圧が以上に上昇したときに、安全弁14の蓋体18との境界部位で応力集中が生ずることが未然に防止され、以て、例えば、ケース本体12の内圧が規定圧力に達する前に、安全弁14と蓋体18との境界部位で破断が生ずることが、効果的に防止され得る。そして、その結果として、ケース本体12の内圧が規定圧力となったときに、より高い精度で、安全弁14の膨出部28を開裂させることが可能となるのである。
【0064】
さらに、膨出部28に設けられる開裂溝32の内面形状も、何等限定されるものではない。即ち、例えば、
図8に示されるように、開裂溝32の幅方向の中央部に位置して、開裂溝32の底部を構成する中央内面部分42を、湾曲面や円弧面にて構成する一方、かかる中央内面部分42を間に挟んで幅方向両側にそれぞれ位置して、中央内面部分42の幅方向両端にそれぞれ連接する第一開口側内面部分44と第二開口側内面部分46とを、開裂溝32の開口側に向かって互いに離間する方向に傾斜する傾斜面にて、それぞれ構成しても良いのである。
【0065】
このような内面形状を有する開裂溝32を膨出部28に形成する場合には、湾曲面や円弧面からなる中央内面部分42の曲率半径:R
4 が0.01〜1.0mm程度の範囲内の値とされていることが望ましく、0.05〜0.07mm程度の範囲内の値とされていることが、更に望ましい。この理由は、前記した理由と同じである。また、第一開口側内面部分44と第二開口側内面部分46とのなす角の大きさ:θが45〜120度とされていることが好ましい。何故なら、かかるなす角:θの大きさが120度よりも大きい場合には、ケース10の内圧が規定圧力となったときに、膨出部28の開裂溝32を高い精度で開裂させることが難しくなる可能性があるだけでなく、開裂溝32を、例えば、膨出部28に対するプレス加工によって形成する際に、極めて大きなプレス圧が必要となって、開裂溝32の形成に要する設備の大型化や高コスト化を招く恐れがあるからである。また、かかるなす角:θの大きさが45度よりも小さい場合には、開裂溝32を、例えば、膨出部28に対するプレス加工によって形成する際に、破断が生ずる可能性が高くなって、開裂溝32を安定的に得ることが困難となる恐れがあるからである。
【0066】
さらに、開裂溝32の内面が、互いに異なる曲率半径を有する三つ以上の複数の湾曲面部分を、開裂溝32の幅方向に相互に連接してなる段付湾曲面にて構成されていても良い。そして、それら三つ以上の湾曲面部分の曲率半径が、開裂溝32の幅方向の中央部から開裂溝32の開口側に向かうに従って次第に大きくなるように構成されていても良いのである。
【0067】
更にまた、前記実施形態では、開裂溝32が、膨出部28の外側面30のみに設けられていたが、膨出部28の内側面29だけに設けることも可能である。
【0068】
また、開裂溝32の形状や構造は、種々変更可能である。即ち、例えば、
図9に示されるように、主溝部33の長さ方向一端部から中央部側に所定寸法偏倚した部分と、長さ方向他端部から中央部側に所定寸法偏倚した部分とから、四つの副溝部34a,34b,34c,34dを、主溝部33の幅方向(安全弁14の幅方向であって、
図9の上下方向)の両側に向かって、それぞれ斜めに延び出させて、開裂溝32を構成しても良い。
【0069】
さらに、
図10に示されるように、四つの副溝部34a,34b,34c,34dを、主溝部33の幅方向の両側に向かって、それぞれ、主溝部33の長さ方向中央側に凸となる湾曲形態をもって延び出させて、開裂溝32を構成しても良い。勿論、四つの副溝部34a,34b,34c,34dを、主溝部33の長さ方向中央側に凹となる湾曲形態をもって延び出させて、開裂溝32を構成することもできる。
【0070】
また、
図11に示されるように、四つの副溝部34a,34b,34c,34dを、主溝部33の長さ方向両端部から、それぞれ、主溝部33の幅方向両側に向かって、主溝部33に対して直角に延び出させて、開裂溝32を構成しても良い。
【0071】
さらに、
図12に示されるように、主溝部33の長さ方向一端部から、一つの副溝部34aだけを主溝部33の幅方向一方側(
図12の上側)に向かって斜めに延び出させる一方、主溝部33の長さ方向他端部から、一つの副溝部34bだけを主溝部33の幅方向他方側(
図12の下側)に向かって斜めに延び出させて、開裂溝32を構成することも可能である。
【0072】
更にまた、
図13に示されるように、開裂溝32を、安全弁14の長さ方向に一直線に延びる一つの主溝部33のみにて構成しても良い。
【0073】
また、
図14に示されるように、安全弁14の長さ方向に一直線に延びる第一の主溝部33aと、安全弁14の幅方向に一直線に延びる第二の主溝部33bとを、それぞれの延出方向の中心部において互いに交差するように形成して、開裂溝32を構成することもできる。
【0074】
さらに、
図15に示されるように、安全弁14の長さ方向と幅方向の両方向に交差する方向において一直線に延びる第一の主溝部33aと、安全弁14の長さ方向と幅方向と第一の主溝部33aの延出方向の全ての方向に交差する方向において一直線に延びる第二の主溝部33bとを、それぞれの延出方向の中心部において互いに交差するように形成して、開裂溝32を構成することもできる。
【0075】
また、安全弁14の全体の形状は、例示された長手矩形状に何等限定されるものではなく、例えば、ケース本体12に設けられて、安全弁14にて封止される開口部24の形状等に応じて、適宜に変更可能である。即ち、安全弁14の全体形状を、例えば、正方形状や、円形状、長円形状、楕円形状等としても、何等差し支えないのである。
【0076】
さらに、ケース10の全体形状も、種々変更可能であり、例えば、ケース10の全体形状が円筒形状とされていても良い。
【0077】
更にまた、ケース本体12の収容体16や蓋体18の材質、或いは安全弁14の材質は、例えば、二次電池の種類等に応じて、適宜に変更可能である。従って、ケース本体12や安全弁14は、例示したニッケルめっき鋼板の他、例えば、アルミニウム(純アルミニウムとアルミニウム合金とを含む)や、ニッケル、鉄、ステンレス等の金属材料によっても形成可能である。
【0078】
加えて、前記した幾つかの実施形態では、本発明を、ニッケル−水素二次電池と、ニッケル−水素二次電池用ケースに適用したものの具体例を示したが、本発明は、ニッケル−水素二次電池以外の二次電池と、それらの二次電池用のケースの何れに対しても、有利に適用され得るものであることは、勿論である。
【0079】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。