特許第5990069号(P5990069)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5990069
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】排水処理方法及び排水処理システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20060101AFI20160825BHJP
   C02F 1/78 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   C02F3/12 M
   C02F3/12 D
   C02F3/12 B
   C02F3/12 H
   C02F1/78
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-201913(P2012-201913)
(22)【出願日】2012年9月13日
(65)【公開番号】特開2014-54608(P2014-54608A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000169499
【氏名又は名称】高砂熱学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【弁理士】
【氏名又は名称】今堀 克彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 峰彦
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−120296(JP,A)
【文献】 特開昭55−139898(JP,A)
【文献】 特開昭59−029087(JP,A)
【文献】 特開2007−083153(JP,A)
【文献】 特開2012−071238(JP,A)
【文献】 特開平09−085294(JP,A)
【文献】 特開2009−090222(JP,A)
【文献】 米国特許第05639371(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0301965(US,A1)
【文献】 特開2011−036837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00−3/34
C02F 1/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性排水を貯留して活性汚泥を混濁させ、活性汚泥中の微生物により有機性排水の処理を行う複数の生物処理槽と、
前記生物処理槽で処理した有機性排水を活性汚泥と処理水に分離する分離槽と、
前記複数の生物処理槽の一部をバイパスして前記有機性排水を前記生物処理槽又は前記分離槽へ流入させるバイパス路と、
前記有機性排水を前記複数の生物処理槽を介して前記分離槽へ流入させる通常時流路と、
前記有機性排水の流路を前記バイパス路又は前記通常時流路に切り替える流路切替え手段と、
前記有機性排水の流路が前記流路切替え手段により前記バイパス路に切り替えられたときには前記分離槽で分離した活性汚泥を前記バイパスされた前記生物処理槽以外の生物処理槽に送る返送路と、
前記複数の生物処理槽のうち、最も上流側の生物処理槽にオゾン含有ガスを供給するオゾン供給装置と、
を備えた排水処理システム。
【請求項2】
前記流路切替え手段は、前記有機性排水による負荷が低負荷状態の場合にはバイパス路に、通常状態の場合には通常時流路に、流路を切り替える請求項1に記載の排水処理システム。
【請求項3】
前記返送路は、前記有機排水による負荷が低負荷状態の場合には前記分離槽で分離した活性汚泥を前記バイパスされた前記生物処理槽以外の生物処理槽に送り、通常状態の場合には前記分離槽で分離した活性汚泥を前記複数の生物処理槽のうち最も上流側の生物処理槽に送る請求項1又は2に記載の排水処理システム。
【請求項4】
前記複数の生物処理槽を連通させて前記有機性排水を流し、上流側の生物処理槽で処理した有機性排水を下流側の生物処理槽で処理する請求項1から3の何れか一項に記載の排水処理システム。
【請求項5】
前記オゾン含有ガスを供給する前記生物処理槽の容積を前記複数の生物処理槽の全容積
の100分の1以上とした請求項1から4の何れか一項に記載の排水処理システム。
【請求項6】
前記有機性排水から油分を除去する前処理部を備え、当該前処理部でノルマルヘキサン抽出物質濃度を500mg/L以下にした前記有機性排水を前記生物処理槽に流入させる請求項1からの何れか一項に記載の排水処理システム。
【請求項7】
前記オゾン供給装置が、通常状態時に前記生物処理槽へ前記オゾン含有ガスを供給し、低負荷状態時に前記生物処理槽への前記オゾン含有ガスの供給を通常状態時に比べて少なく或は停止させる請求項1から5の何れか一項に記載の排水処理システム。
【請求項8】
複数の生物処理槽で、有機性排水を貯留し活性汚泥を混濁させて微生物処理を行う工程と、
前記生物処理槽で処理した有機性排水を活性汚泥と処理水に分離する工程と、
前記複数の生物処理槽の一部をバイパスするバイパス路を介して前記有機性排水を前記生物処理槽又は前記分離槽へ流入させる工程と、
前記複数の生物処理槽へ通常時流路を介して前記有機性排水を前記分離槽へ流入させる工程と、
前記有機性排水の流路を前記バイパス路又は前記通常時流路に切り替える工程と、
前記有機性排水の流路が前記バイパス路に切り替えられたときには前記分離槽で分離した活性汚泥を前記バイパスされた前記生物処理槽以外の生物処理槽に送る工程と、
前記複数の生物処理槽のうち、最も上流側の生物処理槽にオゾン含有ガスを供給する工程と、
を行う排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水を微生物処理する排水処理方法及び排水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品工場や、ホテル、レストランの調理場や厨房等から排出される排水には、厨房機器、食器類に付着した動植物油脂類等の有機物が含まれており、そのまま放流したのでは水質汚濁防止法や下水道法の排出基準を満足させることは難しい。
【0003】
そこで、通常は各廃水排出元の近くにグリーストラップといわれる油分離槽を設置し、下水への排出前に定められた排水基準値を満足するように油分を除去してから排水している。
【0004】
グリーストラップは、廃水に含まれる油分と廃水との比重差で、油分を浮上させて分離する設備であるため、廃水に溶存した有機物を浄化する能力はそれ自体では持っていない。よって、グリーストラップのみでは排水基準を満足しない事もあり、その場合はグリーストラップで処理した排水をさらに微生物処理してから下水や公共用水域に排出していることが多い。
【0005】
食品工場や、ホテル、レストランの調理場や厨房等から排出される含油排水を処理する業務用の排水処理装置においては、加圧浮上分離装置又は油吸着マットを備え、浮上した油脂分を排出するか、或いは油吸着マットに油を吸着させてこのマットを定期的に交換している。
【0006】
また、家庭用の排水処理装置においては、嫌気性濾床槽と接触曝気槽とを備え、嫌気性濾床槽で排水中の有機物を濾材表面に生成した嫌気性細菌により分解した後、この排水を接触曝気槽の生物膜で酸化させ、排水を浄化している。
【0007】
しかし、加圧浮上分離装置や油吸着マットを用いた場合には、分離した油分や夾雑物から発生した悪臭環境下で油分やマットを回収しなくてはならない。また、マットに吸着させて取出した油脂分は、そのままでは廃棄できず、焼却又は再処理する必要があった。
【0008】
さらに、食品工場や、ホテル、レストランの調理場や厨房等では、排水の流量が時間帯によって大きく変動するため、排水処理装置の能力を超えた排水があると油水分離が十分に行われない場合もあり、油脂類が生物処理槽へ流入した場合には、微生物による分解が不充分となり、処理水質の悪化やオイルボールが発生することがあった。
【0009】
また、家庭用の処理装置においては、排水の流入変動や処理状態の変化により嫌気性細菌の分解力にバラツキが生じやすく、排水処理装置が有効に機能しない問題点がある。更に嫌気性濾床槽で発生したメタン、硫化水素、メルカプタン等のため悪臭が発生する問題点がある。
【0010】
一方、加圧浮上分離装置の替わりに油分分解特性の優れた微生物を排水に添加することにより油脂類を分解する排水処理も上市されているが、微生物の管理が難しいとともに、必ずしも添加した菌が増殖するとは限らないため、処理状態が不安定になりがちであった。さらに、油分分解特性の優れた微生物の価格が高額であるとともに、継続的に添加する必要性がある。このように技術的な問題とコスト的な問題から、本格的な普及には至っていないのが現状である。
【0011】
また、排水中の油脂分を酸化剤で処理した後、生物処理する方法がある。(特許文献1)
【0012】
特許1の記載の装置では、油脂分を酸化剤で酸化することにより排水の浄化を実現している。しかしながら、特許文献1に記載の装置では、酸化剤が生物処理部に流入するため、酸化剤が微生物に悪影響を与えて処理性能が悪化することが推測される。
【0013】
また、油分含有排水をオゾンによって処理した後、生物処理により処理する方法がある。この方法は、オゾンにより油分を低分子化して易生物分解化したのち、生物処理する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−351303号公報
【特許文献2】特開2009−90222号公報
【特許文献3】特開平7−16589号公報
【特許文献4】特開平9−248589号公報
【特許文献5】特開2002−320990号公報
【特許文献6】特開平11−104614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述のように、排水の処理においては、活性汚泥法が、油分の加圧浮上分離や、オゾンによる油分の低分子化といった手法と組み合わされ、種々の条件で用いられている。活性汚泥法では、それぞれの条件下で排水に含まれる有機性物質を栄養源として微生物が増殖することで、当該排水を処理するのに適した微生物叢が形成される。
【0016】
しかし、学校や工場等の場合には、年末年始や夏季等に長期休暇があり、排水の量が減少するので、排水原水に含まれる有機性物質を栄養源とする微生物が増殖できなくなり、微生物叢が変化してしまう。長期休暇が明けると、排水の量は元に戻るが、元のような微生物叢に戻るには時間がかかるため、その間適切な微生物処理ができないといった問題があった。
【0017】
また、休暇時には処理槽に消化汚泥を投入することで通常時と処理負荷を同等にすることも提案されている(特許文献3、特許文献4)。この場合、栄養源としては問題無いが、流入排水種が変化するので微生物叢が変化することになり、元に戻るまでには時間がかかってしまう。
【0018】
特許文献5では、通常時と休暇時とで曝気量を変えることを提案している。流入負荷に応じて曝気量を変えることは、一般的に行われているが、長期休暇の場合、流入負荷が非常に少なく、曝気量を最低限まで絞っても溶存酸素が上昇することがあり、曝気量の変化で対応するには限度がある。例えば、あまり曝気量を絞りすぎると汚泥が沈殿してしまうため、最低限の曝気量が必要になる。また、曝気量を変化させることで活性汚泥を維持できたとしても流入負荷が下がることによって微生物叢が変化してしまう。
【0019】
更に特許文献6では、排水を大型の貯留槽に貯留し、休暇時には貯留槽から排水を供給し、通常時と同等の水量を処理槽に投入することが提案されている。特許文献6の方法を実現するためには、休暇時に供給する排水を貯留しておくことが可能な大型の貯留槽を設ける必要があり、長期休暇に適用するのは現実的ではない。
【0020】
そこで、本発明は、有機性排水の排出元の長期休止等による低負荷時の微生物叢の変化を抑え、低負荷からの復帰時に、速やかに元の処理能力に戻ることが可能な排水処理技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。すなわち、本発明に係る排水処理システムは、
有機性排水を貯留して活性汚泥を混濁させ、活性汚泥中の微生物により有機性排水の処理を行う複数の生物処理槽と、
前記生物処理槽で処理した有機性排水を活性汚泥と処理水に分離する分離槽と、
前記複数の生物処理槽の一部をバイパスして前記有機性排水を前記生物処理槽又は前記分離槽へ流入させるバイパス路と、
前記有機性排水を前記複数の生物処理槽を介して前記分離槽へ流入させる通常時流路と、
前記有機性排水の流路を前記バイパス路又は前記通常時流路に切り替える流路切替え手段と、
前記有機性排水の流路が前記流路切替え手段により前記バイパス路に切り替えられたときには前記分離槽で分離した活性汚泥を前記バイパスされた前記生物処理槽以外の生物処理槽に送る返送路と、
を備えた。
【0022】
前記流路切替え手段は、前記有機性排水による負荷に応じて流路を切り替えても良い。
【0023】
前記流路切替え手段は、前記有機性排水による負荷が低負荷状態の場合にはバイパス路に、通常状態の場合には通常時流路に、流路を切り替えても良い。
【0024】
前記返送路は、前記有機排水による負荷が低負荷状態の場合には前記分離槽で分離した活性汚泥を前記バイパスされた前記生物処理槽以外の生物処理槽に送り、通常状態の場合には前記分離槽で分離した活性汚泥を前記複数の生物処理槽のうち最も上流側の生物処理槽に送っても良い。
【0025】
前記排水処理システムは、前記複数の生物処理槽を連通させて前記有機性排水を流し、上流側の生物処理槽で処理した有機性排水を下流側の生物処理槽で処理しても良い。
【0026】
前記排水処理システムは、前記有機性排水を貯留した前記生物処理槽にオゾン含有ガスを供給するオゾン供給装置を更に備えても良い。
【0027】
前記排水処理システムは、前記複数の生物処理槽のうち、最も上流側の生物処理槽にオゾン含有ガスを供給するオゾン供給装置を更に備えても良い。
【0028】
前記排水処理システムは、前記オゾン含有ガスを供給する前記生物処理槽の容積を前記複数の生物処理槽の全容積の100分の1以上としても良い。
【0029】
前記排水処理システムは、前記有機性排水から油分を除去する前処理部を備え、当該前処理部でノルマルヘキサン抽出物質濃度を500mg/L以下にした前記有機性排水を前記生物処理槽に流入させても良い。
【0030】
前記排水処理システムは、前記オゾン供給装置が、通常状態時に前記生物処理槽へ前記オゾン含有ガスを供給し、低負荷状態時に前記生物処理槽への前記オゾン含有ガスの供給
を通常状態時に比べて少なく或は停止させても良い。
また、本発明に係る排水処理方法は、
複数の生物処理槽で、有機性排水を貯留し活性汚泥を混濁させて微生物処理を行う工程と、
前記生物処理槽で処理した有機性排水を活性汚泥と処理水に分離する工程と、
前記複数の生物処理槽の一部をバイパスするバイパス路を介して前記有機性排水を前記生物処理槽又は前記分離槽へ流入させる工程と、
前記複数の生物処理槽へ通常時流路を介して前記有機性排水を前記分離槽へ流入させる工程と、
前記有機性排水の流路を前記バイパス路又は前記通常時流路に切り替える工程と、
前記有機性排水の流路が前記バイパス路に切り替えられたときには前記分離槽で分離した活性汚泥を前記バイパスされた前記生物処理槽以外の生物処理槽に送る工程と、
を行う。
【0031】
なお、本発明における課題を解決するための手段は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、有機性排水の排出元の長期休止等による低負荷時の微生物叢の変化を抑え、低負荷からの復帰時に、速やかに元の処理能力に戻ることが可能な排水処理技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】排水処理システムの概略構成を示す図である。
図2】本発明に係る排水処理システムと、従来の加圧浮上分離方式で油分を分離する排水処理システムとの比較結果を示す図である。
図3】従来のオゾンによる前処理を行う排水処理システムと本発明に係る排水処理システムとの比較結果を示す図である。
図4】オゾン添加槽の割合と活性汚泥の活性の割合との関係を示す表である。
図5】排水処理システムが通常の処理サイクルを実施した例(実施例1)を示す図である。
図6】排水処理システムによる処理前から処理後にかけての水質を示す表である。
図7】排水処理システムがオゾンを添加せずに油分含有排水を処理した例(比較例1)を示す図である。
図8】排水処理システムが排出元の休止期間に低負荷時の処理サイクルを実施した際の処理の流れを示す図である。
図9】排水処理システムが低負荷時の処理サイクルを実施した例(実施例2)を示す図である。
図10】排水処理システムが排出元の休止期間に通常の処理サイクルを実施した際の処理の流れを示す図である。
図11】休止期間に排水処理システムが通常の処理サイクルを実施した例(比較例2)を示す図である。
図12】排水処理システムが排出元の休止期間に低負荷時の処理サイクルを実施した際の処理の流れを示す図である。
図13】排水処理システムが低負荷時の処理サイクルを実施した例(実施例3)を示す図である。
図14】従来加圧分離システムにおいて加圧浮上分離装置をバイパスして処理を行った例(比較例2)を示す図である。
図15】排水処理システムの制御系を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る排水処理装置の実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、本実施の形態に記載されている構成要素の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に特定的な記載がない限りは、発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0035】
図1は、本実施形態に係る排水処理システムの概略構成を示す図である。排水処理システム10は、工場排水、生活排水、厨房排水、下水等、有機性物質を含む有機性排水を、活性汚泥により生物処理することで浄化するシステムである。活性汚泥は、一般に細菌、かび類、藻類、原生動物、輪虫類、線虫類など、有機性排水を浄化するための種々の微生物の集合体である。後述のように活性汚泥を排水中に混濁、例えば曝気混合させた場合、良好な状態では、微生物が数mm程度の綿くず状の集合(以下これをフロックとも称す)となる。このフロックに有機性排水に含まれる汚濁物が物理的に取り込まれて微生物と接触すると(以下、この現象を「吸着」とも称す)、汚濁物が微生物の栄養源(エサ)となり、有機物や一部の無機塩類が微生物の代謝に利用され、汚濁物を酸化分解や、吸収分離することで有機性排水の浄化が行われる。このように活性汚泥の作用によって有機性排水の浄化を行う処理を以下微生物処理と称する。
【0036】
排水処理システム10は、グリーストラップ11、複数の生物処理槽12,13、沈殿槽(分離槽)14、曝気(ばっき)装置15、オゾン供給装置16などを主に備えている。また、排水処理システム10は、制御装置を備えても良い。図15は、制御装置17による制御系を示す図である。図15では弁等の制御対象の要素と制御装置17との接続関係を点線で示している。なお、図15では、主に制御系を示すために一部符号等を省略している。
【0037】
グリーストラップ11は、図示しない流入管から導入される処理前の有機性排水を一旦貯留し、排水中に含まれる油分と排水との比重差で油分を浮上させ、浮上した油分を荒取りする前処理部である。前処理部としては、この他、夾雑物の除去や流量調整を行うものであっても良い。
【0038】
生物処理槽12,13は、微生物を用いて排水を処理するものであり、公知の好気処理、嫌気処理あるいは好気処理と嫌気処理を1つ以上組み合わせて用いることができる。生
物処理槽12,13は、例えば、好気槽(曝気槽、活性汚泥槽、反応槽とも言う)、嫌気槽、嫌気性濾床槽、接触曝気槽、浸漬膜活性汚泥槽(MBR)、担体活性汚泥槽(固定床、担体流動)等を1槽またはそれ以上を組み合わせたものである。
【0039】
本実施形態の排水処理システム10は、複数の生物処理槽のうち、少なくとも一つにオゾンを添加し、このオゾンを添加した生物処理槽をオゾン添加槽と称す。図1の例で排水処理システム10は、オゾン添加槽12と生物処理槽13の二つを備えている。なお、これに限らず、排水処理システム10は、生物処理槽を三つ以上備えても良い。また、図1の例では、通常時に有機性排水を流す方向において、上流側にオゾン添加槽12を備え、オゾン添加槽12の下流側に生物処理槽13を備え、二つの処理槽12,13を直列に接続した例を示したが、複数の生物処理槽を並列に接続した構成や、直列接続した生物処理槽を複数列並列に接続した構成としても良い。
【0040】
有機性排水は、グリーストラップ11からポンプ22によって、配管23を通じてオゾン添加槽12に供給される。オゾン添加槽12には、グリーストラップ11から供給されてくる有機性排水を分解処理する好気性微生物を含む活性汚泥が投入されており、流入した有機性排水はこの活性汚泥中の微生物によって分解処理される。
【0041】
オゾン添加槽12で処理された有機性排水は、ポンプ24によって、配管25を通じて生物処理槽13に供給される。生物処理槽13には、主にオゾン添加槽12から供給されてくる有機性排水を分解処理する好気性微生物を含む活性汚泥が投入されており、流入した有機性排水はこの活性汚泥中の微生物によって分解処理される。
【0042】
オゾン添加槽12及び生物処理槽13には、好気性環境を維持するために、有機性排水を活性汚泥と曝気混合する曝気装置15が設けられている。曝気装置15は、曝気用ブロワー51、曝気用散気管52、曝気用通路53を備える。曝気用散気管52は、オゾン添加槽12及び生物処理槽13の底部に有機性排水に浸かるように配置されており、曝気用通路53を介して曝気用ブロワー51と連通している。
【0043】
図1において、曝気用散気管52は便宜上オゾン添加槽12内に一つ、生物処理槽13に二つ示したが、この数に限定するものではなく、オゾン添加槽12及び生物処理槽13の広さや容積に応じて必要な数を配置すれば良い。曝気用通路53は途中から、各曝気用散気管52に対応する曝気用枝通路53aに分岐されており、それぞれの曝気用枝通路53aが対応する曝気用散気管52に曝気用ブロワー51から送気されてくる空気(以下、「曝気用空気」という)を供給する。
【0044】
曝気用通路53のうち、各曝気用枝通路53aへの分岐部よりも上流側の部分を「曝気用主通路53b」と称する。オゾン添加槽12に設けられた曝気用散気管52に接続する曝気用枝通路53aと曝気用主通路53bとの間には弁54が設けられ、弁54の開閉によりオゾン添加槽12に供給される曝気用空気の量が調整される。また、生物処理槽13に設けられた曝気用散気管52に接続する曝気用枝通路53aと曝気用主通路53bとの間には弁55が設けられ、弁55の開閉により生物処理槽13に供給される曝気用空気の量が調整される。なお、図1では一つの曝気用ブロワー51からオゾン添加槽12及び生物処理槽13に曝気用空気を供給する構成としたが、これに限らず、例えばオゾン添加槽12及び生物処理槽13にそれぞれ曝気装置を設け、各曝気装置における曝気用ブロワーの送気量を制御することで、オゾン添加槽12と生物処理槽13とに供給される曝気用空気の量を独立に制御できるように構成しても良い。弁54、55は手動の弁であっても電磁弁であってもよいが、制御装置17により開閉を自動で制御する場合には電磁弁を用いればよい。
【0045】
曝気用散気管52は、曝気用ブロワー51から送気されてくる曝気用空気を有機性排水中に散気するための小径の散気孔を多数有している。曝気用散気管52の散気孔から曝気用の空気(酸素)がオゾン添加槽12又は生物処理槽13内に供給されると、活性汚泥に含まれる微生物が酸素の供給(曝気)により爆発的に繁殖・増殖を行い、有機性排水に含まれる汚濁物質の生物分解が促進される。また、オゾン添加槽12又は生物処理槽13の底部において散気された曝気用空気が、有機性排水中を浮上する際に活性汚泥を巻き込みながら有機性排水を流動させる、活性汚泥のフロックを有機性排水中に混濁させる、即ち曝気混合することで汚濁物質の分解等の微生物処理を良好な状態で持続させる。
【0046】
更に、排水処理システム10では、グリーストラップ11で除去できなかった油分を低分子化して生物処理による分解を容易にするために、オゾン添加槽12内の有機性排水に対して微量のオゾンがオゾン供給装置16によって供給(添加)される。また、このオゾンの添加によって、活性汚泥の活性化、及び糸状菌繁殖の抑制が図られる。オゾン供給装置16は、コンプレッサ61、減湿器62、オゾン発生器63、オゾン用散気管64、及びこれらを接続するオゾン系統用配管65(オゾン系統用通路)等を備えている。
【0047】
コンプレッサ61によって圧縮(加圧)された空気は、オゾン系統用配管65を通じて減湿器62に導入されることで、減湿(除湿)される。このようにして、加圧(圧縮)か
つ減湿(除湿)された空気は、オゾンを生成する原料空気(ガス)としてオゾン発生器63に供給される。また、オゾン発生器63に供給される原料空気は、例えば0.4〜0.8Mpa程度に加圧され、かつ、例えば露点温度が−40℃〜−70℃程度まで減湿処理がなされたものであっても良い。上記は、オゾン発生器63に空気原料式オゾン発生器を用いた例であるが、酸素原料式オゾン発生器を用いてもよい。
【0048】
このようにして、加圧・減湿処理がなされた原料空気がオゾン系統用配管65を通じてオゾン発生器63に導かれると、このオゾン発生器63においてオゾンが生成される。オゾン発生器63としては、公知の種々の方式を採用することができ、例えば放電方式、紫外線照射方式等を好適に採用することができる。オゾン発生器63において生成されたオゾンは残余の原料空気と共に形成されるオゾン含有ガスを、オゾン系統用配管65を通じてオゾン用散気管64に供給される。
【0049】
オゾン用散気管64は、曝気用散気管52と同様、オゾン添加槽12の底部に有機性排水に浸かるように配置されている。図示の例では、オゾン用散気管64は便宜上オゾン添加槽12内に一つのみ示したが、オゾン添加槽12の広さや容積に応じて複数配置されて良い。オゾン用散気管64を複数配置した場合、すなわち、オゾン系統用配管65は途中から、各オゾン用散気管64に対応するオゾン系統用枝配管65aに分岐されており、それぞれのオゾン系統用枝配管65aが対応するオゾン用散気管64にオゾン含有ガスを供給する。なお、オゾン系統用配管65のうち、各オゾン系統用枝配管65aへの分岐部よりも上流側の部分を「オゾン系統用主配管65b」と称する。オゾン用散気管64は、オゾンが巣面に浮上するまでに充分溶解する深さに設置すればよく、必ずしもオゾン添加槽12の最底部に設置する必要はない。
【0050】
また、オゾン用散気管64は、曝気用散気管52の散気孔に比べて微細な、微細多孔質構造の散気孔を多数有している。オゾン用散気管64の材質としては、例えば、耐オゾン性に優れ且つ微細多孔質構造を備えたセラミックスを好適に採用することができる。
【0051】
このように構成されるオゾン用散気管64では、オゾン発生器63から送られてくるオゾンを含むオゾン含有ガス(オゾン含有空気)が、散気孔を通じて有機性排水中に超微細気泡として散気される。
【0052】
オゾン供給装置16は、オゾン発生器63を制御するための制御ユニットである制御部66を更に備えている。制御部66は、オゾン発生器63と電気配線を介して接続されており、オゾン添加槽12における有機性排水の水質や水量に応じて、オゾン発生器63を制御する。そして、制御部66は、例えば処理すべき有機性排水がオゾン添加槽12に対して供給されなくなる或いは少なくなる場合には、オゾン発生器63の稼動を一時的に停止させる場合もある。なお、制御部66によるオゾン発生器63の制御内容には、上記したようなオゾン発生器63の間欠制御(ON−OFF制御)の他、当該処理負荷に応じてオゾンの生成量(出力)を可変とする容量制御も含めることができる。
【0053】
生物処理槽13において生物処理された有機性排水は、ポンプ31によって取水され、移送管32によって沈殿槽14に移送される。
【0054】
沈殿槽14は、生物処理槽12,13で処理された有機性排水を所定時間滞留させ、自
然沈殿した活性汚泥と上澄みの処理水とに分離する。なお、活性汚泥と処理水との分離は、自然沈殿に限らず、凝集剤を用いて活性汚泥を沈殿させることや、浸漬膜による固液分離など、他の手法を用いても良い。
【0055】
分離された処理水は、配水管42から系外に排水される。一方、沈殿槽14内において
沈殿した活性汚泥は、返送用配管43を通じポンプ44によってオゾン添加槽12に戻される。なお、活性汚泥のうちの余剰分は、分岐管45のバルブ46を開放することで、引抜汚泥として系外に排出することが可能である。
【0056】
上述のように、本実施形態の排水処理システム10は、通常の処理サイクルにおいて、グリーストラップ11→オゾン添加槽12→生物処理槽13→沈殿槽14の順に有機性排水を流通させて処理を行う。
【0057】
しかし、有機性排水の排出元が工場や学校等であって、年末年始や夏季等に長期間休止する施設であると、休止期間に有機性排水の排出量が極端に減少する、即ち低負荷状態となり、この低負荷状態で排水処理システム10が、通常の処理サイクルを行ったのでは、活性汚泥中の微生物が餌とする汚濁物が不足し、生物処理槽内微生物の活性が低下するとともに活性汚泥フロックの状態が悪化する。また、微生物叢が変化してしまう。このため、休止期間が終わった後、微生物叢が元に戻り、元の処理能力に戻るまでには長期間を有する。例えば、微生物叢が元に戻るまでには、SRT(Sludge retention time)の2倍程度の
時間が必要である。長期休止中に汚泥の活性が低下することを避けるため、糖蜜等の安価な栄養分を加えることもあるが、実排水と異なる成分の栄養分を加えると、その栄養分を好む微生物の割合が、平常時の排水水質に適合した微生物の割合よりも増え、微生物叢が変化する。そのため長期休暇が終わった後に、元の微生物叢に回復するまでの期間は、栄養分を入れてない場合よりは短いが、長期間を要することがある。また、微生物の生育のためだけに栄養分を入れる事はコスト的に無駄であるとともに、多く入れると処理水質の悪化を招くため、必要最小限に留めることになり、回復期間の短縮効果も限定的である。
【0058】
そこで、本実施形態の排水処理システム10は、低負荷時の処理サイクルとして、複数の処理槽のうち一部の処理槽をバイパスして微生物処理を行う処理サイクルを採用する。例えば、排水処理システム10は、低負荷時の処理サイクルにおいて、グリーストラップ11→オゾン添加槽12→沈殿槽14の順に有機性排水を流通させて処理を行う。このように生物処理槽13をバイパスするため、排水処理システム10は、オゾン添加槽12で処理した有機性排水を排出する配管25を分岐させ、通常時に有機性排水をオゾン添加槽12から別の生物処理槽13へ排出する通常用枝配管25aと、低負荷時に生物処理槽13をバイパスして有機性排水をオゾン添加槽12から沈殿槽14へ排出するバイパス用枝配管(バイパス路)25bを備える。
【0059】
また、通常用枝配管25aに電磁弁などの自動弁V3が設けられ、バイパス用枝配管25bに自動弁V4が設けられ、制御装置17が自動弁V3,V4の開閉を制御し、オゾン添加槽で処理した有機性排水の排出先を切り換える。なお、本実施形態において自動弁は、電磁弁に限らず制御により自動的に流路内の水を流動状態又は停止状態に切り替えることができるものであれば良く、例えばポンプとチャッキ弁により構成しても良い。
【0060】
制御装置17は、CPUやメモリ、入出力部などよりなる情報処理装置(コンピュータ)である。制御装置17は、センサ(不図示)により排水処理システム10に流入する有機性排水の流量やBOD値を検出すること、有機性排水の排出元の休止期間(スケジュール)を予め入力し現在日時と比較すること、或は操作者による操作指示の入力に基づいて、通常状態か低負荷状態かを判定する。
【0061】
通常状態と判定した場合、制御装置17は、自動弁V3を開、自動弁V4を閉とし、通常時流路、本実施形態では上述の如くグリーストラップ11→オゾン添加槽12→通常用枝配管25a→生物処理槽13→移送管32→沈殿槽14に有機性排水を流通させて、通常の処理サイクルを行う。
【0062】
一方、低負荷状態と判定した場合、制御装置17は、自動弁V4を開、自動弁V3を閉とし、オゾン添加槽12で処理した有機性排水を沈殿槽14に供給し、沈殿槽14で分離した処理水を配水管42から排出する。即ち、排水処理システム10は、有機排水の排出元の休止期間中、グリーストラップ11→オゾン添加槽12→バイパス用枝配管(バイパス路)25b→沈殿槽14の順に有機性排水を流通させて低負荷時の処理サイクルを行う。このとき制御装置17は、有機性排水による負荷に基づいて、曝気装置15及びオゾン供給装置16を制御し、オゾン添加槽12へ供給するオゾンの量や曝気空気の量を制御しても良い。
【0063】
排出元の休止期間が明け、有機性排水による負荷が元に戻ると、制御装置17が、自動弁V3を開、自動弁V4を閉とし、排水処理システム10は、通常の処理サイクルに戻る。上記の例では、制御装置17が自動弁V3,V4を制御して有機性排水の流路を通常時流路とバイパス路とに切り換えている。即ち、上記の例では、制御装置17及び自動弁V3,V4が切り換え手段として機能する。なお、切り換え手段は、制御装置17により自動で流路を切り換えるものに限らず、自動弁V3,V4に代えて手動の弁を備え、操作者が手動で弁の開閉を操作して流路を切り換える構成であっても良い。
【0064】
このように本実施形態の排水処理システム10は、低負荷時に、複数の処理槽(12,13)のうち、一部の処理槽(生物処理槽13)をバイパスして微生物処理を行う処理槽(オゾン添加槽12)の数を少なくした運転(以下、縮退運転と称す)を行うことで、微生物の栄養源が少ない低負荷状態であっても微生物叢の活性を維持することができる。そして、有機性排水による負荷が元に戻り、排水処理システム10が、通常時の処理サイクルに戻ると、元の微生物叢が維持された活性汚泥が有機性排水と共にオゾン添加槽12から生物処理槽13に供給されるので、この活性汚泥に由来して元の微生物叢が速やかに形成され、速やかに元の処理能力に戻ることができる。即ち、低負荷時に通常の処理サイクルを行って、全ての活性汚泥の微生物叢が変化してしまうと、元の微生物叢に戻るのに時間がかかるのに対し、本実施形態の排水処理システム10は、少ない活性汚泥であっても元の微生物叢を維持し、通常状態への復帰時に、この活性汚泥を所謂種菌として微生物が増殖するので、速やかに元の微生物叢を形成できる。
【0065】
また、本実施形態の排水処理システム10は、低負荷時に、生物処理槽13をバイパスすることに限らず、オゾン添加槽12をバイパスすることもできる。このため排水処理システム10は、グリーストラップ11から有機性排水を供給する配管23を分岐させ、通常時に有機性排水をグリーストラップ11からオゾン添加槽12へ排出する通常用枝配管23aと、低負荷時にオゾン添加槽12をバイパスして生物処理槽13へ供給するバイパス用枝配管(バイパス路)23bを備える。
【0066】
通常用枝配管23aに電磁等の自動弁V1が設けられ、バイパス用枝配管23bに自動弁V2が設けられ、制御装置17が自動弁V1,V2の開閉を制御し、グリーストラップ11から有機性排水を供給する処理槽(オゾン添加槽12又は生物処理槽13)を切り換える。
【0067】
更に、本実施形態の排水処理システム10は、沈殿槽14で沈殿させた活性汚泥を返送する返送用配管43を分岐させ、返送汚泥をオゾン添加槽12に返送する返送枝配管43aと、返送汚泥を生物処理槽13に返送する返送枝配管43bを備える。返送枝配管43aには電磁弁等の自動弁V5が設けられ、返送枝配管43bには自動弁V6が設けられ、制御装置17が自動弁V3,V4の開閉を制御して返送汚泥の返送先を切り換える。
【0068】
制御装置17は、通常状態か低負荷状態かを判定し、通常状態と判定した場合、自動弁V1,V3を開、自動弁V2,V4を閉とし、通常時流路、本実施形態では上述の如くグ
リーストラップ11→通常用枝配管23a→オゾン添加槽12→通常用枝配管25a→生物処理槽13→移送管32→沈殿槽14に有機性排水を流通させて、通常の処理サイクルを行う。
【0069】
一方、低負荷状態と判定した場合、制御装置17は、自動弁V2を開、自動弁V1を閉とし、オゾン添加槽12をバイパスし、グリーストラップ11からの有機性排水を生物処理槽13に供給し、生物処理槽13で処理した有機性排水を沈殿槽14に供給し、沈殿槽14で分離した処理水を配水管42から排出する。即ち、排水処理システム10は、有機排水の排出元の休止期間中、グリーストラップ11→バイパス用枝配管(バイパス路)23b→生物処理槽13→移送管32→沈殿槽14の順に有機性排水を流通させて低負荷時の処理サイクルを行う。このとき制御装置17は、有機性排水による負荷に基づいて、曝気装置15を制御し、生物処理槽13へ供給する曝気空気の量を制御しても良い。また、制御装置17は、自動弁V6を開、自動弁V5を閉とし、沈殿槽14で分離した返送汚泥をポンプ44により返送枝配管43bを介して生物処理槽13に返送する。
【0070】
排出元の休止期間が明け、有機性排水による負荷が元に戻ると、制御装置17が、自動弁V1,V5を開、自動弁V2,V6を閉とし、排水処理システム10は、通常の処理サイクルに戻る。上記の例では、制御装置17が自動弁V1,V2を制御して有機性排水の流路を通常時流路とバイパス路とに切り換えている。即ち、上記の例では、制御装置17及び自動弁V1,V2が切り換え手段として機能する。
【0071】
この場合にも排水処理システム10は、低負荷時に、微生物処理を行う処理槽の数を少なくして、生物処理槽13内の微生物叢の活性を維持することができ、通常時の処理サイクルに戻った際、維持された微生物叢を基に微生物が増殖するので、速やかに元の処理能力に戻ることができる。
【0072】
本実施形態の排水処理システム10は、バイパス用枝配管25bとバイパス用枝配管23bの二つのバイパス路を設け、オゾン添加槽12又は生物処理槽13をバイパスする構成としたが、バイパス路を一つとし、オゾン添加槽12,生物処理槽13の何れか一方をバイパスする構成としても良い。例えば、バイパス路をバイパス用枝配管25bのみとし、生物処理槽13をバイパスする構成とする。
【0073】
上述した本実施形態1に係る排水処理システム10(以下、本システム10とも称す)の特性について、従来のシステムと比較して次に説明する。
【0074】
図2は、本システム10と、従来の加圧浮上分離方式で油分を分離する排水処理システム(以下、従来加圧分離システムとも称す)との比較結果を示す。
【0075】
図2に示すように、油分処理方法について、本システム10は、グリーストラップ11で処理した後、排水中に混濁した油分を易生物分解化するのに対し、従来加圧分離システムは、浮上分離にて除去する。
【0076】
また、汚泥発生量について、本システム10は流入油分の約半分が汚泥となる、即ち生物処理による自己酸化分減少するのに対し、従来の加圧分離システムは流入油分と凝集剤の全量が汚泥となり多量の汚泥が発生する。臭気について、本システム10は微生物臭が弱〜中であるのに対し、従来加圧分離システムは油分除去時の腐臭が強い。
【0077】
生物処理への影響について、本システム10は易生物分解化した油分を生物処理するので、生物処理における負荷が大きく、生物処理槽の容積を大きくする必要があるのに対し、従来加圧分離システムでは、油分を除去するので、生物処理槽の負荷が低減される。
【0078】
即ち、本システム10は、油分を加圧浮上分離する従来システムと比べて、汚泥発生量や臭気が少ないというメリットを有し、生物処理槽の容積を大きくする必要があるというデメリットがある。生物処理槽の容積を大きくすると、低負荷時の微生物叢への悪影響が大きくなり、負荷が通常状態に戻ってから元の処理能力に戻るまでの期間(復帰期間)が長くなることがあるが、本実施形態の排水処理システム10は、低負荷時に縮退運転を行うので、生物処理槽の容積を大きくしても復帰期間が長くならない。一方、従来の加圧分離システムでは、凝集剤を添加して油分を除去するため、多量の汚泥が発生する。また、厨房排水には凝集剤の効果を妨げる界面活性剤が含まれているため、多くの凝集剤を添加する必要がありコストアップにつながっている。
【0079】
図3は、従来のオゾンによる前処理を行う排水処理システム(以下、従来オゾン処理システムとも称す)と本システム10との比較結果を示す。
【0080】
従来、厨房等から排出される油分を含む有機性排水(油分含有排水とも称す)を処理する方法として、油分含有排水をオゾンによって前処理した後、生物処理によって処理する従来オゾン処理システムが知られている。この従来オゾン処理システムは、オゾンにより油分を低分子化して易生物分解化したのち、生物処理するものである。
【0081】
図3に示すように、オゾンを添加する場所については、本システム10が微生物処理を行う生物処理槽(オゾン添加槽12)であるのに対し、従来オゾン処理システムは、微生物による処理を行わないオゾン添加専用槽である。
【0082】
オゾン量について、本システム10は生物処理槽の微生物の活性が向上する範囲で微量のオゾンを加えるのに対し、従来オゾン添加専用槽12はオゾン添加専用槽に添加するので微生物への影響を考慮する必要がなく油分の可溶化に必要なだけ比較的多量のオゾンを添加する。微生物の活性が向上する範囲としては、特開2006-314911によれば流入する廃
水1リットル当り0.0005X〜0.15X[g](X:流入する廃水における有機性流入負荷濃度(BOD[g/L]+有機性SS[g/L])とすることができる。
【0083】
微生物への影響について、本システム10は微生物の活性が向上するのに対し、従来オゾン処理システムは微生物の変化が無い。
【0084】
水槽の容積について、本システム10は生物処理槽にオゾンを添加するので別途のオゾン添加槽が不要であると共に、微生物活性が向上するため、生物処理槽が小さくて良いのに対し、従来オゾン添加専用水槽が生物処理槽とは別に必要であり、また、微生物活性が変わらないので通常の大きさの生物処理槽が必要である。
【0085】
即ち、本システム10は、従来オゾン処理システムと比べて、オゾンを添加する際に微生物への影響を考慮する必要があるが、別途オゾン添加専用槽を用意する必要がなく、生物処理槽も小さくできるというメリットがある。
【0086】
オゾンは複数の生物処理槽のうち最上流側の生物処理槽に添加することが望ましい。上流側のほうが微生物にとって栄養源となる汚濁物が豊富であるため微生物が増殖活性化されており、この増殖活性化された微生物に対してオゾンを添加するほうが高い活性化効果を得られる。また、油分含有排水を処理する場合においては、最上流側で油分が易生物分解化されて下流側の槽にも流れるので、上流側の生物処理槽(本実施形態のオゾン添加槽12)、下流側の生物処理槽(本実施形態の生物処理槽13)の何れの槽でも効率良く微生物によって分解処理することが出来る。
【0087】
また、本システム10は、従来加圧分離システムと比較して、易生物分解化された油分の量だけ生物処理への負荷が上がるため、生物処理槽の容積が余分に必要となる。しかし、オゾン添加により微生物処理部の排水処理能力は、オゾン未添加活性汚泥に比べて、2〜3割排水処理能力が向上する。よって必要水槽容積は、易生物分解化した油分により増加したBOD量により増加する容積と、オゾン添加により減少できる容積とを計算して求める。
【0088】
また、オゾン添加槽12の容積は、全生物処理槽容積の1/100(1%)以上とする。これは、オゾン添加槽12の容積が全生物処理槽12,13容積の1/100以上でないと、微生物性能向上効果が得られなかったからである。この下限値よりもオゾン添加槽12の容積が小さいと、一部の微生物のみオゾンと多く接触するため、微生物が不活化してしまうからと考えられる。
【0089】
図4はオゾン添加槽の容積の割合と活性汚泥の活性の割合との関係を示す表である。ここで活性汚泥の活性は酸素消費速度(mg/l・h)により示し、活性の割合とは、オゾン未添加の生物処理槽における活性汚泥の酸素消費速度を100%とし、これに対するオゾン添加槽における活性汚泥の酸素消費速度の割合である。酸素消費速度は、単位容量の活性汚泥混合液が単位時間内に消費する酸素量で示され、公知の酸素消費速度測定装置により測定することが可能である。図4に示すように全生物処理槽に対するオゾン添加槽の容積の割合が100%の場合、オゾン添加槽の活性汚泥の活性の割合は135%であった。全生物処理槽に対するオゾン添加槽の容積の割合が下がると、活性汚泥の活性の割合も下がり、全生物処理槽に対するオゾン添加槽の容積の割合が1%の場合、オゾン添加槽の活性汚泥の活性の割合は102%であった。そして、全生物処理槽に対するオゾン添加槽の容積の割合が0.5%の場合、オゾン添加槽の活性汚泥の活性の割合は85%であった。このため、オゾン添加槽12の容積の下限は、上述のように全生物処理槽容積の1/100(1%)とする。この下限以上であれば、オゾン添加槽12の容積は、休止期間の排水量に応じた容積としても良い。
【0090】
また、オゾン添加槽は、オゾン未添加の生物処理槽とは別途に設ける方が良い。これは、オゾン添加槽は耐オゾン性材質により製作する方が好ましいとともに、オゾン漏洩を考慮して、蓋や排気設備及び廃オゾン処理設備等の付加設備を設ける方が好ましいからである。従ってオゾン添加槽は、なるべく小さい方が付加設備も小さくでき、コスト的に優位になるが、前記した全生物処理槽容積の1/100が下限となる。
【0091】
また、オゾン添加槽をオゾン未添加の生物処理槽と別に設けることで、既存の生物処理槽の改造をすることなく、既存の排水処理システムに本システムを適用できる。
【0092】
例えば、既存の従来加圧分離システムを改造して、本実施形態の排水処理システム10にすることができる。従来加圧分離システムを本システム10に変更する場合は、従来加圧分離システムの加圧浮上分離装置を撤去し、その替わりにオゾン添加槽12やオゾン供給装置16、バイパス路23b,25b、それらの係内の弁等付属設備を設ける。
【0093】
従来加圧分離システムは、前記した通り汚泥発生量が多く、悪臭がする等の問題があるが、本システム10に変更することで、悪臭の低減、汚泥発生量の削減をすることができる。
【0094】
〈実施例1〉
図5は排水処理システム10が通常の処理サイクルを実施した例(実施例1)を示す図である。図5では、排水処理システム10を模式的に示し、有機排水等の流れを矢印で示した。
【0095】
本実施例1では、バルブV1,V3,V5を開、バルブV2,V4,V6を閉とし、1日当たり10m3の有機性排水(油分含有排水)を通常の処理サイクルで1ヶ月運転した
。即ち、油分含有排水をグリーストラップ11で処理した後、オゾン添加槽12でオゾンを添加して生物処理し、更に生物処理槽13で生物処理し、その処理水を沈殿槽14に流入させて汚泥と処理水とを分離し、処理水は排出し汚泥はオゾン添加槽12に戻した。その結果、図6に示す水質となった。
【0096】
即ち、本実施例1の排水処理システム10によれば、グリーストラップ11入口で、BODが1000[mg/L]、n-HEX抽出物質が800[mg/L]であった油分含有排水が、沈殿槽14から排出される処理水ではBODが12[mg/L]、n-HEX抽出物質が5[mg/L]となり、水質汚濁防止法や下水道法の排出基準を満足するように適切に処理されていることが分かる。
〈比較例1〉
図7は排水処理システム10がオゾンを添加せずに油分含有排水を処理した例(比較例
1)を示す図である。
【0097】
比較例1では、図5と同様にバルブV1,V3,V5を開、バルブV2,V4,V6を閉とし、オゾンを停止した状態で1日当たり10m3の油分含有排水を1ヶ月運転した。
なお、グリーストラップ11入口での水質は、実施例1と同じである。この結果、生物処理槽12,13の汚泥状態が悪化し、バルキングを起こして、処理不能となった。
【0098】
これは、オゾンを添加しない生物処理槽12,13において、油分の含有量が多くなりすぎ、例えばn-HEX抽出物質が100[mg/L]以上になると処理が困難なためである。本比
較例1では、図6に示されるようにオゾン添加槽12の入口でn-HEX抽出物質が300[mg/L]となっており、オゾンを停止した状態では処理が困難であった。
【0099】
このように実施例1と比較例1との比較により、本システム10は、オゾンの添加により油分含有排水の処理能力が向上していることが分かる。本システムでは、オゾン添加槽12の入口でn-HEX抽出物質が500[mg/L]以下であれば処理可能である。
【0100】
〈実施例2〉
図8は排水処理システム10が排出元の休止期間に低負荷時の処理サイクルを実施した際の処理の流れを示す図、図9は排水処理システム10が低負荷時の処理サイクルを実施した例(実施例2)を示す図である。
【0101】
本実施例2において排水処理システム10は、先ず、図8及び図9(A)に示すように、バルブV1,V3,V5を開、バルブV2,V4,V6を閉とし、1日当たり10m3
の有機性排水(油分含有排水)を通常の処理サイクルで1ヶ月運転した。
【0102】
次に、排出元の休止時を想定し、図8及び図9(B)に示すように、バルブV1,V3,V4,V5を閉、バルブV2,V6を開とし、1日当たり1m3の有機性排水(油分含
有排水)を低負荷時の処理サイクルで1週間運転した。この間、オゾンの添加は、有機性排水の負荷が低いため、停止した。
【0103】
即ち、油分含有排水をグリーストラップ11で処理した後、オゾン添加槽12をバイパスして、グリーストラップ11で処理した有機性排水を生物処理槽13へ供給して生物処理し、その処理水を沈殿槽14に流入させて汚泥と処理水とを分離し、処理水は排出し汚泥は生物処理槽13に戻した。
【0104】
そして休止期間後、図8及び図9(C)に示すように、バルブV1,V3,V5を開、
バルブV2,V4,V6を閉とし、通常の処理サイクルに戻して、1日当たり10m3
有機性排水(油分含有排水)の処理を行った。この結果、本システム10の処理能力が元に戻り、図6と同等の水質となるのに3日かかった。
【0105】
〈比較例2〉
図10は排水処理システム10が排出元の休止期間に通常の処理サイクルを実施した際の処理の流れを示す図、図11は休止期間に排水処理システム10が通常の処理サイクルを実施した例(比較例2)を示す図である。
【0106】
本比較例2において排水処理システム10は、先ず、図10及び図11(A)に示すように、バルブV1,V3,V5を開、バルブV2,V4,V6を閉とし、1日当たり10m3の有機性排水(油分含有排水)を通常の処理サイクルで1ヶ月運転した。
【0107】
次に、排出元の休止時を想定し、図10及び図11(B)に示すように、1日当たり1m3の有機性排水(油分含有排水)を通常の処理サイクルのまま1週間運転した。この間
、オゾンの添加は、有機性排水の負荷が低いため、停止した。
【0108】
そして休止期間後、図10及び図11(C)に示すように、通常の処理サイクルで1日当たり10m3の有機性排水(油分含有排水)の処理を行った。この結果、本システム1
0の処理能力が元に戻り、図6と同等の水質となるのに7日かかった。
【0109】
このように実施例2と比較例2との比較により、本システム10は、排出元の休止期間にオゾン添加槽12をバイパスし、低負荷時の処理サイクルを行うことで、微生物叢を維持し、復帰時間を短縮できることが分かる。
【0110】
〈実施例3〉
図12は排水処理システム10が排出元の休止期間に低負荷時の処理サイクルを実施した際の処理の流れを示す図、図13は排水処理システム10が低負荷時の処理サイクルを実施した例(実施例3)を示す図である。
【0111】
本実施例2において排水処理システム10は、先ず、図12及び図13(A)に示すように、バルブV1,V3,V5を開、バルブV2,V4,V6を閉とし、1日当たり10m3の有機性排水(油分含有排水)を通常の処理サイクルで1ヶ月運転した。
【0112】
次に、排出元の休止時を想定し、図12及び図13(B)に示すように、バルブV1,V4,V5を開、バルブV2,V3,V6を閉とし、1日当たり1m3の有機性排水(油
分含有排水)を低負荷時の処理サイクルで1週間運転した。この間、オゾンの添加は、有機性排水の負荷が低いため停止した。
【0113】
即ち、油分含有排水をグリーストラップ11で処理した後、オゾン添加槽12で生物処理し、生物処理槽13をバイパスしてオゾン添加槽12で処理した有機性排水を沈殿槽14に流入させ、汚泥と処理水とを分離し、処理水は排出し汚泥はオゾン添加槽12に戻した。
【0114】
そして休止期間後、図12及び図13(C)に示すように、バルブV1,V3,V5を開、バルブV2,V4,V6を閉とし、通常の処理サイクルに戻して、1日当たり10m3の有機性排水(油分含有排水)の処理を行った。この結果、本システム10の処理能力
が元に戻り、図6と同等の水質となるのに3日かかった。
【0115】
このように実施例3と比較例2との比較により、本システム10は、排出元の休止期間
に生物処理槽13をバイパスし、低負荷時の処理サイクルを行うことで、微生物叢を維持し、復帰時間を短縮できることが分かる。
【0116】
〈比較例3〉
図14は従来加圧分離システムにおいて加圧浮上分離装置をバイパスして処理を行った例(比較例3)を示す図である。
【0117】
本比較例3では、従来加圧分離システムに1日当たり10m3の有機性排水(油分含有
排水)を流入させた。そして、加圧浮上分離装置120をバイパスして、生物処理槽130に直接流入させたところ、処理水質が悪化するとともに、生物処理槽130にオイルボールが形成され、そののち、汚泥がバルキングして処理できなくなった。
【0118】
その後、加圧浮上分離装置120の替わりに、オゾン添加槽12を設けて図9(B)のような系統にしたところ、正常に処理することができた。
【0119】
以上述べた実施の形態は本発明を説明するための一例であって、本発明の本旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得る。例えば、本実施の形態では、主に油分含有排水の処理について説明したが、本発明は油分を含有していない有機性排水の処理にも適用できる。なお、油分を含有していない有機性排水の処理を行う場合、排水処理システム10は、オゾン供給装置16やグリーストラップ11を省略しても良い。また、本発明に係る排水処理システムに適用されるオゾン供給装置は実施形態及び各実施例の態様に限定されるものではなく、可能な限りこれらの組合せを含むことができる。
【符号の説明】
【0120】
10 排水処理システム
11 グリーストラップ
12 オゾン添加槽
13 生物処理槽
14 沈殿槽(分離槽)
15 曝気装置
16 オゾン供給装置
17 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
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図15