(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明による電子写真感光体の実施形態を説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0012】
本実施形態における電子写真感光体は、基体と、基体上に設けられた感光層とを備える。電子写真感光体は、積層型又は単層型のいずれであってもよい。感光層が、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体を含有する。
【0013】
以下、
図1及び
図2を参照して、本実施形態における積層型電子写真感光体10と、単層型電子写真感光体20とを詳細に説明する。
【0014】
1.積層型電子写真感光体10
図1は、本実施形態における積層型電子写真感光体10の構造を示す概略断面図である。
【0015】
(1)基本的構成
図1(a)に示すように、積層型電子写真感光体10は、基体11と、感光層12とを備える。感光層12は、電荷発生層13と電荷輸送層14とを含む。
積層型電子写真感光体10は、塗布等によって、電荷発生層13と電荷輸送層14とを基体11上に積層させることによって作製することができる。電荷発生層13は、電荷発生剤を含有し、電荷輸送層14は、電荷輸送剤を含有する。
【0016】
また、積層型電子写真感光体10においては、
図1(b)に示すように、基体11上に電荷輸送層14が設けられ、電荷輸送層14の上に電荷発生層13が設けられてもよい。ただし、
図1(b)に示す積層型電子写真感光体10において、一般に、電荷発生層13の膜厚は電荷輸送層14の膜厚と比べて薄いため、電荷発生層13は長期の使用により、磨耗したり、破損したりすることがある。したがって、積層型電子写真感光体10では、
図1(a)に示すように、電荷発生層13の上に電荷輸送層14が設けられることが好ましい。
【0017】
また、
図1(c)に示すように、基体11と感光層12との間に中間層15が設けられることも好ましい。
【0018】
なお、電荷輸送層14は、一般に、正孔輸送剤のみを含有することが好ましいが、正孔輸送剤と電子輸送剤の両方を含有してもよい。
【0019】
(2)基体11
図1に例示する基体11としては、導電性を有する種々の材料を使用することができる。基体11として、例えば、金属(鉄、アルミニウム、銅、スズ、白金、銀、バナジウム、モリブデン、クロム、カドミウム、チタン、ニッケル、パラジウム、インジウム、ステンレス鋼、及び真鍮など)から形成された基体、上述の金属が蒸着またはラミネートされたプラスチック材料からなる基体、及びヨウ化アルミニウム、アルマイト、酸化スズ、及び酸化インジウムなどで被覆されたガラス製の基体などが例示される。
【0020】
すなわち、基体11全体が導電性を有するか、あるいは少なくとも基体11の表面が導電性を有していればよい。また、基体11は、使用に際して、充分な機械的強度を有することが好ましい。
【0021】
また、基体11の形状は、基体11が用いられる画像形成装置の構造に合わせて、シート状であっても、ドラム状であってもよい。
【0022】
(3)中間層15
また、積層型電子写真感光体10においては、
図1(c)に示すように、基体11上に、所定の結着樹脂を含有する中間層15が設けられてもよい。
【0023】
積層型電子写真感光体10は、中間層15を備えることにより、基体11と感光層12との密着性を向上させることができる。また、中間層15内に所定の微粉末を添加することにより、入射光を散乱させて、干渉縞の発生を抑制すると共に、カブリや黒点の原因となる非露光時における基体11から感光層12への電荷注入を抑制することができる。添加する微粉末は、光散乱性、分散性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、白色顔料(例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、亜鉛華、硫化亜鉛、鉛白、リトポン等)、体質顔料としての無機顔料(例えば、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等)、フッ素樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子、スチレン樹脂粒子等を用いることができる。なお、中間層の膜厚は、0.1〜50μmであることが好ましい。さらに、中間層を15設けることで基体11側からの電荷注入を抑制し、部分的な絶縁破壊を防止する効果もある。
【0024】
(4)電荷発生層13
積層型電子写真感光体10において、電荷発生層13に含有される電荷発生剤として、無金属フタロシアニン(τ型またはX型)、チタニルフタロシアニン(α型またはY型)、ヒドロキシガリウムフタロシアニン(V型)、およびクロロガリウムフタロシアニン(II型)からなる群から選択される1種以上を用いることが好ましい。
【0025】
あるいは、電荷発生層13に含有される電荷発生剤としてCuKαの特性X線(波長1.542Å)に対するブラッグ角2θの回折ピーク(±0.2°)として、少なくとも27.2°に最大回折ピークを有しているチタニルフタロシアニンを用いてもよい。また、このチタニルフタロシアニンは、示差走査熱量分析において、吸着水の気化に伴うピーク以外に270〜400℃の範囲内に、1つのピークを有している。このようなチタニルフタロシアニンを用いることにより、有機溶媒中において、かかるチタニルフタロシアニン結晶の結晶型がY型からα型やβ型に転移することを抑制し、電荷発生効率を向上させることができる。
【0026】
また、電荷発生剤の含有量は、電荷発生層13用結着樹脂(ベース樹脂)100重量部に対して5〜1000重量部であることが好ましい。電荷発生層13において用いられるベース樹脂は、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、スチレン−アルキッド樹脂、及びN−ビニルカルバゾールの一種単独または二種以上の組み合わせである。なお、電荷発生層13の膜厚は、0.1〜5μmであることが好ましい。
【0027】
(5)電荷輸送層14
また、電荷輸送層14に含有される正孔輸送剤として、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体を使用する。
【化4】
ここで、一般式(1)中、Ar
1はアリール基であり、Ar
1は、少なくとも1つの炭素数2〜4のアルコキシ基または置換基を有してもよいフェノキシ基を置換基として有しており、Ar
2は、炭素原子数1〜4のアルキル基を置換基として有してもよいアリール基である。正孔輸送剤として、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体において、アリールアミン基に、所定の炭素数のアルコキシ基またはフェノキシ基が存在することから、電気的特性、特に、残留電位の抑制に効果的に寄与することができると共に、結晶化を抑制させることができる。
【0028】
一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体よれば、上述した効果が得られる理由としては、下記のように推測できる。
【0029】
まず、一般式(1)で表されるトリフェニルアミン誘導体は、アリールアミン基に所定の炭素数のアルコキシ基またはフェノキシ基が存在することから、溶剤への溶解性を向上させることができる。これによって、成膜時の感光層中での結晶化や分散不良を効果的に抑制することができる。
【0030】
そして、一般式(1)で表されるトリフェニルアミン誘導体は、アリールアミン基に所定の炭素数のアルコキシ基またはフェノキシ基が存在することから、イオン化ポテンシャルを低下させることもできる。これにより、一般式(1)で表されるトリフェニルアミン誘導体と電荷発生剤等との間における電荷授受のエネルギーギャップが小さくなって、電荷輸送効率を効果的に向上させることができる。特に、電荷発生層と電荷輸送層とが別れている積層型電子写真感光体において、電荷輸送層の正孔輸送剤として一般式(1)で表されるトリフェニルアミン誘導体を使用すると、これらの層界面における電荷の移動を効果的に向上させることができる。従って、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体おいて、アリールアミン基に、所定の炭素数のアルコキシ基またはフェノキシ基が存在することにより、電子写真感光体としての優れた電気的特性を実現することができる。
【0031】
また、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体の含有量は、電荷輸送層14用結着樹脂(バインダー樹脂)100重量部に対して、30〜100重量部であることが好ましい。この理由は、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体の含有量を上述した範囲にすることにより、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体の電荷輸送層中における分散性をより向上させて、さらに優れた電気的感度特性を得ることができるためである。一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体の含有量が30重量部未満の値となると、その絶対量が不足して、十分な感度特性を得ることが困難となることがある。一方、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体の含有量が100重量部を超えた値となると、電荷輸送層中での分散性が低下して、結晶化しやすくなり、電荷輸送効率が低下することがある。
【0032】
一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体の含有量は、電荷輸送層のバインダー樹脂100重量部に対して、35〜95重量部であることがより好ましく、40〜90重量部であることがさらに好ましい。
【0033】
以下に、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体の具体例として式(1−1)〜(1−9)で表される「HTM−1」〜「HTM−9」を例示する。
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【0034】
また、電荷輸送層14は、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体に加えて、別の正孔輸送剤をさらに含有してもよい。これにより結晶化を起こすことなく正孔輸送剤の含有量を増加させることが可能となる。
【0035】
正孔輸送剤として代表的な含窒素環式化合物及び縮合多環式化合物としては、例えば、トリアリールアミン系化合物(一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体を除く)、オキサジアゾール系化合物(2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール等)、スチリル系化合物(9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン等)、カルバゾール系化合物(ポリビニルカルバゾール等)、有機ポリシラン化合物、ピラゾリン系化合物(1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン等)、ヒドラゾン系化合物、インドール系化合物、オキサゾール系化合物、イソオキサゾール系化合物、チアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピラゾール系化合物及びトリアゾール系化合物等が挙げられる。なお、正孔輸送剤として、上述した理由から1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
なお、上述したように、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体に加えて別の正孔輸送剤をさらに含有する場合、この正孔輸送剤は、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体100重量部に対して、1〜100重量部の範囲内の値で含有されることが好ましい。
【0037】
また、電荷輸送層14は、電子輸送剤を含有してもよい。電子輸送剤としては、例えば、キノン誘導体、アントラキノン誘導体、マロノニトリル誘導体、チオピラン誘導体、トリニトロチオキサントン誘導体、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン誘導体、ジニトロアントラセン誘導体、ジニトロアクリジン誘導体、ニトロアントアラキノン誘導体、ジニトロアントラキノン誘導体、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、ニトロアントラキノン、ジニトロアントラキノン、無水コハク酸、無水マレイン酸、及びジブロモ無水マレイン酸等が挙げられる。なお、電子輸送剤として、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
また、上述した電子輸送剤を含有する場合、電子輸送剤は、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体100重量部に対して1〜50重量部の範囲内の値で含有されることが好ましい。
【0039】
また、本実施形態の電子写真感光体10において、電荷輸送層14は可塑剤を有している。可塑剤は、一般式(2a)または一般式(2b)で表される化合物を含む。
【化14】
一般式(2a)において、R
1〜R
10はそれぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換または非置換の炭素数1〜12のアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜30のアリール基、置換または非置換の炭素数6〜30のアラルキル基、置換または非置換の炭素数3〜12のシクロアルキル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基を示している。あるいは、R
1およびR
6は炭素数5または6のアルキル環またはベンゼン環を形成してもよい。
【0040】
【化15】
また、一般式(2b)において、R
11〜R
18はそれぞれ独立しており、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素数1〜12のアルキル基、置換または非置換の炭素数1〜12のアルコキシ基、置換または非置換の炭素数6〜30のアリール基、置換または非置換の炭素数6〜30のアラルキル基、置換または非置換の炭素数3〜12のシクロアルキル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基を示し、Rは、単結合、−O−、または、−CH=CH−を示す。
【0041】
以下に、一般式(2a)で表される化合物の具体例として式(2a−1)〜(2a−8)で表される「ADD−1」〜「ADD−8」を例示する。
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【0042】
以下に、一般式(2b)で表される化合物の具体例として式(2b−1)〜(2b−3)で表される「ADD−9」〜「ADD−11」を例示する。
【化24】
【化25】
【化26】
【0043】
なお、上述した一般式(2a)においてR
1およびR
6がアルキル環を形成する場合、一般式(2a-10)に示すように、アルキル環状の炭素はアルキル基で置換されていてもよい。
【化27】
ここで、一般式(2a-10)において、R
19およびR
20は、それぞれ独立な炭素数1〜3のアルキル基である。
【0044】
以下に、一般式(2a-10)で表される化合物の具体例として式(2a-11)に示した化合物を例示する。
【化28】
【0045】
また、電荷輸送層14において用いられるバインダー樹脂は、一般式(3a)または(3b)の骨格を有するポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい。
【化29】
ここで、一般式(3a)において、R
1はメチル基または水素原子を表す。
【化30】
ここで、一般式(3b)において、R
2はメチル基または水素原子を表す。
【0046】
以下に、一般式(3a)または(3b)で表されるポリカーボネート樹脂の具体例として式(3a−1)、(3a−2)、(3b−1)で表される「Resin−1」〜「Resin−3」を例示する。
【化31】
【化32】
【化33】
【0047】
あるいは、電荷輸送層14において用いられるバインダー樹脂は、一般式(3c)、(3d)で表された骨格を有するポリアリレート樹脂を含むことが好ましい。
【化34】
【化35】
ここで、一般式(3c)および一般式(3d)において、R
3はメチル基または水素原子を表す。R
4、R
5は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す。また、p+q=1、0.1≦p≦0.9である。
【0048】
以下に、一般式(3c)で表されるポリアリレート樹脂の具体例として式(3c−1)で表される「Resin−4」を例示する。
【化36】
【0049】
また、電荷輸送層14において用いられるバインダー樹脂としてさらに別の樹脂を用いてもよい。例えば、バインダー樹脂として、熱可塑性樹脂(例えば、他のポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスルホン、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂及びポリエーテル樹脂等)、熱硬化性樹脂(例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂及びメラミン樹脂)、光硬化型樹脂(例えば、エポキシアクリレート及びウレタン−アクリレート等)等の樹脂が使用可能である。また、これらのバインダー樹脂は、単独または2種以上を混合又は共重合して使用できる。なお、電荷輸送層14の膜厚は、5〜50μmの範囲内の値であることが好ましい。
【0050】
また、電荷輸送層14は、正孔輸送剤に加えて電子輸送剤を含有してもよい。電子輸送剤としては、例えば、キノン誘導体、アントラキノン誘導体、マロノニトリル誘導体、チオピラン誘導体、トリニトロチオキサントン誘導体、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン誘導体、ジニトロアントラセン誘導体、ジニトロアクリジン誘導体、ニトロアントアラキノン誘導体、ジニトロアントラキノン誘導体、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアントラセン、ジニトロアクリジン、ニトロアントラキノン、ジニトロアントラキノン、無水コハク酸、無水マレイン酸、及びジブロモ無水マレイン酸等が挙げられる。なお、電子輸送剤として、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上述した電子輸送剤を含有する場合、電子輸送剤は、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体100重量部に対して1〜50重量部の範囲内の値で含有されることが好ましい。
【0051】
[積層型電子写真感光体10の製造方法]
積層型電子写真感光体10は、例えば、以下のような手順で製造できる。まず、溶剤に電荷発生剤、ベース樹脂、添加剤等を混合して、電荷発生層用塗布液を調製する。このようにして得られた塗布液を、例えば、ディップコート法、スプレー塗布法、ビード塗布法、ブレード塗布法及びローラー塗布法等の塗布法を用いて導電性基材(アルミニウム素管)上に塗布する。その後、例えば、100℃、40分間の条件で熱風乾燥して、所定膜厚の電荷発生層13を形成することができる。
【0052】
なお、塗布液を作るための溶剤として、種々の有機溶剤が使用可能である。例えば、溶剤として、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等)、脂肪族系炭化水素(n−ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン等)、芳香族系炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン等)、ハロゲン化炭化水素(ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン等)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸メチル等)、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルホルムアミド及びジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶剤は単独でまたは2種以上を混合して用いられる。
【0053】
次に、上述した溶剤に一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体、上述したバインダー樹脂及び添加剤等を分散させて電荷輸送層用塗布液を調製した後、既に形成された電荷発生層13上に塗布し、乾燥させる。なお、塗布液の製造方法や、塗布方法及び乾燥方法については、電荷発生層13の場合に準じて行うことができる。
【0054】
なお、本発明による電子写真感光体は、積層型電子写真感光体10であることが好ましい。この理由は、本発明の電子写真感光体を積層型電子写真感光体10として構成した場合、正孔輸送剤としての一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体の優れた電気的特性を効果的に発揮させることができるためである。積層型電子写真感光体として構成した場合、電荷発生層と電荷輸送層との層界面を経て電荷の授受を行う必要が生じ、電荷輸送効率が抑制されることがある。一方、本発明において使用される正孔輸送剤として一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体を用いれば、イオン化ポテンシャルが低いことから、これらの層界面においても、安定的に電荷を移動させることができる。
【0055】
2.単層型電子写真感光体20
本発明の電子写真感光体は、単層型電子写真感光体20であってもよい。
例えば、
図2(a)に示すように、本発明の単層型電子写真感光体20は、基体21と、単一層である感光層22とを備える。感光層22は、基体21の上に形成されている。
【0056】
また、単層型電子写真感光体20においては、
図2(b)に示すように、基体21と感光層22との間に、感光体の特性を阻害しない範囲で中間層23が設けられてもよい。
【0057】
単層型電子写真感光体20において用いられる基体及び有機材料として、上述した積層型電子写真感光体10の場合と同様の基体及び有機材料を用いることができる。なお、一般式(1)で表されるトリアリールアミン誘導体の含有量は、感光層22のバインダー樹脂100重量部に対して20〜120重量部であることが好ましい。また、単層型電子写真感光体20において、感光層22は、正孔輸送剤と、電子輸送剤とを含有しており、電子輸送剤の含有量は、感光層22のバインダー樹脂100重量部に対して10〜70重量部であることが好ましい。さらに、電荷発生剤の含有量は、感光層22のバインダー樹脂100重量部に対して0.2〜40重量部であることが好ましい。なお、感光層22の膜厚は5〜100μmであることが好ましい。
【実施例】
【0058】
[実施例1]
1.電子写真感光体の製造
(1)中間層の形成
ビーズミルを用いて、アルミナとシリカで表面処理後、湿式分散しながらメチルハイドロジェンポリシロキサンにて表面処理した酸化チタン(SMT−A、数平均一次粒子径10nm(テイカ製))2重量部と、6,12,66,610四元共重合ポリアミド樹脂(東レ(株)製、アラミンCM8000)1重量部と、溶媒として、メタノール10重量部、ブタノール1重量部と、トルエン1重量部とを混合し、5時間分散させた。そして、さらに5ミクロンのフィルターにてろ過処理して、中間層用塗布液を調製した。
【0059】
次に、直径30mm、長さ246mmのドラム状のアルミニウム基体(支持基体)の一端を上にして、得られた中間層用塗布液中に5mm/secの速度で浸漬させて中間層用塗布液を塗布した。その後、130℃、30分の条件で硬化処理を行って、膜厚2μmの中間層を形成した。
【0060】
(2)電荷発生層の形成
次に、ビーズミルを用いて、電荷発生剤としての式(4)で表されるチタニルフタロシアニン(CGM−1)1.5重量部と、バインダー樹脂としてのポリビニルアセタール樹脂(積水化学工業(株)製、エスレックBX−5)1重量部と、溶剤としてのプロピレングリコールモノメチルエーテル40重量部及びテトラヒドロフラン40重量部とを混合し、2時間分散させ、電荷発生層用の塗布液を得た。得られた塗布液を、3ミクロンのフィルターにてろ過後、上述した中間層上にディップコート法にて塗布し、50℃で5分間乾燥させて、膜厚0.3μmの電荷発生層を形成した。
【0061】
【化37】
【0062】
(3)電荷輸送層の形成
超音波分散機内に、正孔輸送剤としての式(1―1)で表されるトリアリールアミン誘導体(HTM−1)45重量部と、添加剤としてのイルガノックス1010 0.5重量部と、式(5)で表される電子アクセプター化合物(ETM−1)2重量部、式(2−1)で表される可塑剤(ADD−1)10重量部、バインダー樹脂として式(3a−1)で表されるポリカーボネート樹脂(Resin−1、粘土平均分子量50,500)100重量部と、溶剤としてのテトラヒドロフラン350重量部及びトルエン350重量部とを投入して混合した後、10分間分散処理させて、電荷輸送層用塗布液を調製した。
【0063】
【化38】
【0064】
【化39】
【0065】
【化40】
【0066】
【化41】
【0067】
調製した電荷輸送層用塗布液を、電荷発生層上に、電荷発生層用塗布液と同様に塗布し、120℃で40分間乾燥し、膜厚20μmの電荷輸送層を形成し電子写真感光体を作製した。
【0068】
2.評価
(1)電子写真感光体の評価
<電気的特性の評価>
電子写真感光体を、GENTEC社の電気特性試験機を用いて、10℃および湿度20%の環境下において、以下の条件にて帯電能(表面電位V
0)および感度(露光後50msec後の電位V
L)を測定した。得られた結果を表1に示す。
帯電:回転数:31rpm ドラム流れ込み電流:−10μA時の表面電位
感度:帯電600V時 露光波長:780nm 露光量:0.26μJ/cm
2
【0069】
<結晶化の評価>
得られた電子写真感光体の表面における結晶化の有無を評価した。
すなわち、光学顕微鏡を用いて、電子写真感光体の表面における結晶の有無を確認し、評価した。得られた結果を表1に示す。表1において、「○」は結晶が確認されないことを示している。
【0070】
<耐油性評価>
得られた電子写真感光体の耐油性を以下のように評価した。感光体全面を手で触れ、十分な油脂を付着させ48時間放置した。48時間放置後に、電子写真感光体を搭載したプリンター(沖データ製、C711dn)によってグレー画像を形成し、クラックによる画像欠陥の有無を目視にて観察し、以下の基準に沿って評価した。得られた結果を表1に示す。
◎:ドラム1周分の領域で、クラックの発生数が0個である。
○:ドラム1周分の領域で、クラックの発生数が1〜10個である。
△:ドラム1周分の領域で、クラック発生数が11〜20個である。
×:ドラム1周分の領域で、クラック発生数が21個以上である
【0071】
[実施例2]
正孔輸送剤として、HTM−1の代わりに、式(1−2)で表されるHTM−2を用いたことを除いて、実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0072】
【化42】
【0073】
[実施例3]
正孔輸送剤として、HTM−1の代わりに、式(1−3)で表されるHTM−3を用いたことを除いて、実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0074】
【化43】
【0075】
[実施例4]
正孔輸送剤として、HTM−1の代わりに、式(1−4)で表されるHTM−4を用いたことを除いて、実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0076】
【化44】
【0077】
[実施例5]
正孔輸送剤として、HTM−1の代わりに、式(1−5)で表されるHTM−5を用いたことを除いて、実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0078】
【化45】
【0079】
[実施例6]
正孔輸送剤として、HTM−1の代わりに、式(1−6)で表されるHTM−6を用いたことを除いて、実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0080】
【化46】
【0081】
[実施例7]
正孔輸送剤として、HTM−1の代わりに、式(1−7)で表されるHTM−7を用いたことを除いて、実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0082】
【化47】
【0083】
[実施例8]
正孔輸送剤として、HTM−1の代わりに、式(1−8)で表されるHTM−8を用いたことを除いて、実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0084】
【化48】
【0085】
[実施例9]
正孔輸送剤として、HTM−1の代わりに、式(1−9)で表されるHTM−9を用いたことを除いて、実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0086】
【化49】
【0087】
[実施例10]
バインダー樹脂として、Resin−1の代わりに、式(3a−2)で表されるResin−2(粘度平均分子量50,500)を用いたことを除いて、実施例4と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0088】
【化50】
【0089】
[実施例11]
バインダー樹脂として、Resin−1の代わりに、式(3b−1)で表されるResin−3(粘度平均分子量50,500)を用いたことを除いて、実施例4と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0090】
【化51】
【0091】
[実施例12]
バインダー樹脂として、Resin−1の代わりに、式(3c−1)で表されるResin−4(粘度平均分子量50,500)を用いたことを除いて、実施例4と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0092】
【化52】
【0093】
[実施例13]
可塑剤として、add−1の代わりに、式(2a−2)で表されるadd−2を用いたことを除いて、実施例4と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0094】
【化53】
【0095】
[実施例14]
可塑剤として、add−1の代わりに、式(2a−3)で表されるadd−3を用いたことを除いて、実施例4と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0096】
【化54】
【0097】
[実施例15]
可塑剤として、add−1の代わりに、式(2a−4)で表されるadd−4を用いたことを除いて、実施例4と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0098】
【化55】
【0099】
[実施例16]
可塑剤として、add−1の代わりに、式(2a−5)で表されるadd−5を用いたことを除いて、実施例4と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0100】
【化56】
【0101】
[実施例17]
可塑剤として、add−1の代わりに、式(2a−6)で表されるadd−6を用いたことを除いて、実施例4と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0102】
【化57】
【0103】
[実施例18]
可塑剤として、add−1の代わりに、式(2a−7)で表されるadd−7を用いたことを除いて、実施例4と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0104】
【化58】
【0105】
[実施例19]
可塑剤として、add−1の代わりに、式(2a−8)で表されるadd−8を用いたことを除いて、実施例4と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0106】
【化59】
【0107】
[実施例20]
可塑剤として、add−1の代わりに、式(2b−1)で表されるadd−9を用いたことを除いて、実施例4と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0108】
【化60】
【0109】
[実施例21]
可塑剤として、add−1の代わりに、式(2b−2)で表されるadd−10を用いたことを除いて、実施例4と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0110】
【化61】
【0111】
[実施例22]
可塑剤として、add−1の代わりに、式(2b−3)で表されるadd−11を用いたことを除いて、実施例4と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0112】
【化62】
【0113】
[実施例23]
可塑剤の部数を20重量部に変更したことを除いて、実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0114】
[実施例24]
可塑剤の部数を30重量部に変更したことを除いて、実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0115】
[比較例1]
正孔輸送剤として、HTM−1の代わりに、式(11−1)で表されるHTM−10を用いたことを除いて、実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0116】
【化63】
【0117】
[比較例2]
正孔輸送剤として、HTM−10の代わりに、式(11−2)で表されるHTM−11を用いたことを除いて、比較例1と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0118】
【化64】
【0119】
[比較例3]
正孔輸送剤として、HTM−10の代わりに、式(11−3)で表されるHTM−12を用いたことを除いて、比較例1と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0120】
【化65】
【0121】
[比較例4]
正孔輸送剤として、HTM−10の代わりに、式(11−4)で表されるHTM−13を用いたことを除いて、比較例1と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0122】
【化66】
【0123】
[比較例5]
正孔輸送剤として、HTM−10の代わりに、式(11−5)で表されるHTM−14を用いたことを除いて、比較例1と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0124】
【化67】
【0125】
[比較例6]
正孔輸送剤として、HTM−10の代わりに、式(11−6)で表されるHTM−15を用いたことを除いて、比較例1と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0126】
【化68】
【0127】
[比較例7]
正孔輸送剤として、HTM−10の代わりに、式(11−7)で表されるHTM−16を用いたことを除いて、比較例1と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0128】
【化69】
【0129】
[比較例8]
可塑剤を添加しなかったことを除いて、実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0130】
[比較例9]
可塑剤を添加しなかったことを除いて、比較例5と同様に電子写真感光体を製造し、評価した。得られた結果を表1に示す。
【0131】
【表1】
【0132】
以上、表1に示す結果により、本発明によれば、正孔輸送剤として所定のトリアリールアミン誘導体を用いるとともに、所定の可塑剤を添加することにより、結晶化を抑制するとともに、優れた電荷発生効率ならびに電気特性を実現するとともに、耐油性を向上させることができる。