【実施例】
【0041】
以下、実施例、比較例および試験例により、本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例に限定されるものではない。
核磁気共鳴スペクトルは、以下の測定機器、測定手法により測定した。
測定機器;日本電子社製GSX−400(400MHz)
測定手法;
1H−NMR、標準物(テトラメチルシラン)、溶媒(CDCl
3)
【0042】
以下の実施例1〜12において製造したペンタエリスリトールのテトラエステルのそれぞれについて、核磁気共鳴スペクトルを測定し、ペンタエリスリトールのテトラエステルにおけるイソ酪酸と3,5,5−トリメチルヘキサン酸と炭素数4〜7の直鎖脂肪族モノカルボン酸とのモル比を以下の式により算出した。
【0043】
イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/炭素数4〜7の直鎖脂肪族モノカルボン酸=ピークXの積分値/ピークYの積分値/(ピークZの積分値/2)
ここでピークXはイソ酪酸におけるメチン基上の水素原子のピークに相当し、ピークYは3,5,5−トリメチルヘキサン酸におけるメチン基上の水素原子に相当し、ピークZは炭素数4〜7の直鎖脂肪族モノカルボン酸におけるカルボニル基のα位のメチレン基上の水素原子のピークに相当する。
【0044】
以下の比較例1において製造したペンタエリスリトールのエステルについて、核磁気共鳴スペクトルを測定し、ペンタエリスリトールのエステルにおけるイソ酪酸と3,5,5−トリメチルヘキサン酸とアジピン酸とのモル比を以下の式により算出した。
イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/アジピン酸=ピークXの積分値/ピークYの積分値/(ピークWの積分値/4)
ここでピークXおよびピークYは前記と同義であり、ピークWはアジピン酸におけるカルボニル基のα位のメチレン基上の水素原子のピークに相当する。
【0045】
[実施例1]
[イソ酪酸と3,5,5−トリメチルヘキサン酸と酪酸のモル比(イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/酪酸比)が71/29/33であるペンタエリスリトールのテトラエステル(テトラエステル1)の製造]
吸着剤としては、協和化学工業社製キョーワード500を用いた。
活性炭としては、日本エンバイロケミカルズ社製白鷺Pを用いた。
ディーンスタークトラップの付いた反応器にペンタエリスリトール327g(2.4モル、広栄パーストープ社製)、イソ酪酸650g(7.4モル、東京化成社製)、3,5,5−トリメチルヘキサン酸365g(2.3モル、協和発酵ケミカル社製)、および酪酸162g(1.8モル、和光純薬社製)を仕込み、混合物を攪拌しながら室温で30分間窒素バブリングを行うことにより混合物を脱気した。
次いで、窒素バブリングを行いながら混合物を138〜230℃で30時間攪拌した。反応後、反応生成物を0.7kPaの減圧下、218℃で1時間攪拌することにより、反応生成物中の未反応のカルボン酸を留去した。反応生成物を、該反応生成物の酸価に対して2倍モルの水酸化ナトリウムを含むアルカリ水溶液400mLで、85℃で1時間洗浄した。次いで、反応生成物を、水400mLで88℃で1時間、3回洗浄した。次いで、窒素バブリングを行いながら反応生成物を1.1kPaの減圧下、106℃で1時間攪拌することにより反応生成物を乾燥した。
反応生成物に吸着剤5.0g(反応生成物の重量0.5%に相当する)および活性炭9.9g(反応生成物の重量1.0%に相当する)を添加し、窒素バブリングを行いながら反応生成物を1.1kPaの減圧下、104℃で2時間攪拌した後、濾過助剤を用いて濾過することにより、テトラエステル1を822g得た。
【0046】
[実施例2]
[イソ酪酸と3,5,5−トリメチルヘキサン酸と酪酸のモル比(イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/酪酸比)が62/38/57であるペンタエリスリトールのテトラエステル(テトラエステル2)の製造]
ペンタエリスリトール、イソ酪酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸および酪酸の使用量のモル比(ペンタエリスリトール/イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/酪酸比)を1/1.80/1.20/1.80にする以外は、実施例1と同様に操作して、テトラエステル2を得た。
【0047】
[実施例3]
[イソ酪酸と3,5,5−トリメチルヘキサン酸と酪酸のモル比(イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/酪酸比)が34/66/95であるペンタエリスリトールのテトラエステル(テトラエステル3)の製造]
ペンタエリスリトール、イソ酪酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸および酪酸の使用量のモル比(ペンタエリスリトール/イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/酪酸比)を1/0.72/1.68/2.40にする以外は、実施例1と同様に操作して、テトラエステル3を得た。
【0048】
[実施例4]
[イソ酪酸と3,5,5−トリメチルヘキサン酸と酪酸のモル比(イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/酪酸比)が34/66/41であるペンタエリスリトールのテトラエステル(テトラエステル4)の製造]
ペンタエリスリトール、イソ酪酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸および酪酸の使用量のモル比(ペンタエリスリトール/イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/酪酸比)を1/1.20/2.00/1.60にする以外は、実施例1と同様に操作して、テトラエステル4を得た。
【0049】
[実施例5]
[イソ酪酸と3,5,5−トリメチルヘキサン酸と酪酸のモル比(イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/酪酸比)が24/76/42であるペンタエリスリトールのテトラエステル(テトラエステル5)の製造]
ペンタエリスリトール、イソ酪酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸および酪酸の使用量のモル比(ペンタエリスリトール/イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/酪酸比)を1/0.90/3.00/0.90にする以外は、実施例1と同様に操作して、テトラエステル5を得た。
【0050】
[実施例6]
[イソ酪酸と3,5,5−トリメチルヘキサン酸とペンタン酸のモル比(イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/ペンタン酸比)が30/70/259であるペンタエリスリトールのテトラエステル(テトラエステル6)の製造]
酪酸の代わりにペンタン酸を用い、ペンタエリスリトール、イソ酪酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸およびペンタン酸の使用量のモル比(ペンタエリスリトール/イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/ペンタン酸比)を1/0.38/0.96/3.46にする以外は、実施例1と同様に操作して、テトラエステル6を得た。
【0051】
[実施例7]
[イソ酪酸と3,5,5−トリメチルヘキサン酸とペンタン酸のモル比(イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/ペンタン酸比)が69/31/74であるペンタエリスリトールのテトラエステル(テトラエステル7)の製造]
酪酸の代わりにペンタン酸を用い、ペンタエリスリトール、イソ酪酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸およびペンタン酸の使用量のモル比(ペンタエリスリトール/イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/ペンタン酸比)を1/1.92/0.96/1.92にする以外は、実施例1と同様に操作して、テトラエステル7を得た。
【0052】
[実施例8]
[イソ酪酸と3,5,5−トリメチルヘキサン酸とペンタン酸のモル比(イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/ペンタン酸比)が32/68/104であるペンタエリスリトールのテトラエステル(テトラエステル8)の製造]
酪酸の代わりにペンタン酸を用い、ペンタエリスリトール、イソ酪酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸およびペンタン酸の使用量のモル比(ペンタエリスリトール/イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/ペンタン酸比)を1/0.72/1.68/2.40にする以外は、実施例1と同様に操作して、テトラエステル8を得た。
【0053】
[実施例9]
[イソ酪酸と3,5,5−トリメチルヘキサン酸とペンタン酸とのモル比(イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/ペンタン酸比)が35/65/42であるペンタエリスリトールのテトラエステル(テトラエステル9)の製造]
酪酸の代わりにペンタン酸を用い、ペンタエリスリトール、イソ酪酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸およびペンタン酸の使用量のモル比(ペンタエリスリトール/イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/ペンタン酸比)を1/1.20/2.00/1.60にする以外は、実施例1と同様に操作して、テトラエステル9を得た。
【0054】
[実施例10]
[イソ酪酸と3,5,5−トリメチルヘキサン酸とペンタン酸とのモル比(イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/ペンタン酸比)が40/60/11であるペンタエリスリトールのテトラエステル(テトラエステル10)の製造]
酪酸の代わりにペンタン酸を用い、ペンタエリスリトール、イソ酪酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸およびペンタン酸の使用量のモル比(ペンタエリスリトール/イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/ペンタン酸比)を1/1.73/2.59/0.48にする以外は、実施例1と同様に操作して、テトラエステル10を得た。
【0055】
[実施例11]
[イソ酪酸と3,5,5−トリメチルヘキサン酸とペンタン酸とのモル比(イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/ペンタン酸比)が26/74/22であるペンタエリスリトールのテトラエステル(テトラエステル11)の製造]
酪酸の代わりにペンタン酸を用い、ペンタエリスリトール、イソ酪酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸およびペンタン酸の使用量のモル比(ペンタエリスリトール/イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/ペンタン酸比)を1/0.90/3.00/0.90にする以外は、実施例1と同様に操作して、テトラエステル11を得た。
【0056】
[実施例12]
[イソ酪酸と3,5,5−トリメチルヘキサン酸とヘプタン酸のモル比(イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/ヘプタン酸比)が65/35/72であるペンタエリスリトールのテトラエステル(テトラエステル12)の製造]
酪酸の代わりにヘプタン酸を用い、ペンタエリスリトール、イソ酪酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸およびヘプタン酸の使用量のモル比(ペンタエリスリトール/イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/ヘプタン酸比)を1/1.92/0.96/1.92にする以外は、実施例1と同様に操作して、テトラエステル12を得た。
【0057】
[比較例1]
[イソ酪酸と3,5,5−トリメチルヘキサン酸とアジピン酸のモル比(イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/アジピン酸比)が69/31/7であるペンタエリスリトールのエステル(エステルA)の製造]
酪酸の代わりにアジピン酸を用い、ペンタエリスリトール、イソ酪酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸およびアピジン酸の使用量のモル比(ペンタエリスリトール/イソ酪酸/3,5,5−トリメチルヘキサン酸/アジピン酸比)を1/2.50/1.00/0.25にする以外は、実施例1と同様に操作して、エステルAを得た。
【0058】
(試験例1)流動点の測定
自動流動点測定器RPC−01CML(離合社製)を用い、JIS K2269−1987の方法に準じてテトラエステル1〜12およびエステルAの流動点を測定した。結果を表1〜3に示す。
【0059】
(試験例2)動粘度の測定
キャノン−フェンスケ粘度計を用い、JIS K2283:2000の方法に準じてテトラエステル1〜12およびエステルAの40℃および100℃における動粘度を測定した。また、同方法に準じて粘度指数を算出した。結果を表1〜3に示す。
【0060】
(試験例3)二層分離温度の測定
JIS K2211:2009の方法に準じてテトラエステル1〜4および6〜8の二層分離温度を測定した。テトラエステル1〜4および6〜8のそれぞれ0.4gとジフルオロメタン冷媒3.6gを耐圧ガラス管に封入し、混合物を30℃から毎分0.5℃の速度で冷却し、混合物が二層分離または白濁する温度を二層分離温度とした。結果を以下に示す。
【0061】
(試験例4)−20℃での固化、析出物有無の確認(低温特性の評価)
テトラエステル2〜12をそれぞれ1.0gガラス容器に入れ、−20℃に設定した恒温器中で96時間静置した。静置後の固化、析出物有無を目視にて確認した。結果を以下に示す。
【0062】
(試験例5)RBOT寿命の測定(酸化・加水分解安定性、酸化安定性の評価)
「条件1」
回転ボンベ式酸化安定度試験器RBOT−02(離合社製)を用い、JIS K2514−1996の方法に準じて酸化安定度試験を行った。テトラエステル1〜12およびエステルAのそれぞれ49.50gと、4,4'−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)(東京化成工業社製)0.25gと、IRGANOX L57(チバ・スペシャルテイ・ケミカルズ社製)0.25gと、水5mLと、紙やすり#400で磨いた電解銅線(直径1.6mm、長さ3m)を耐圧容器に入れた。次いで、該耐圧容器に酸素を620kPaまで圧入し、該耐圧容器を150℃の恒温槽に入れ、毎分100回転で回転させた。該耐圧容器の圧力が最高になったときから175kPaの圧力降下をするまでに要する時間(RBOT寿命)を測定した。結果を表1〜3に示す。
表1〜3において、RBOT寿命が長いほどテトラエステルの酸化・加水分解安定性が優れていることを表わす。
【0063】
「条件2」
4,4'−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)とIRGANOX L57と水を耐圧容器に入れず、それ以外は条件1と同様の操作を行い、テトラエステル3および8において、該耐圧容器の圧力が最高になったときから175kPaの圧力降下をするまでに要する時間(RBOT寿命)を測定した。ここで、RBOT寿命が長いほどテトラエステルの酸化安定性が優れていることを表わす。
【0064】
(試験例6)重量減少温度の測定(熱安定性の評価)
熱重量/示差熱量計Tg−DTA6200(セイコー・インスツルメント社製)を用い、以下の条件で、テトラエステル5、6および9〜12の5%重量減少温度を測定した。結果を表4に示す。
測定温度;40〜420℃、昇温速度;10℃/分、雰囲気;窒素通気(300mL/分)、試料容器;アルミニウム製15μl(開放)、サンプル量;3mg
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
表1〜3より、テトラエステル1〜12は、100℃における動粘度が4.6〜8.2mm
2/秒であって、粘度指数が89以上であり、流動点が−42.5℃以下と優れた低温流動性を有し、条件1におけるRBOT寿命が756分間以上と優れた酸化・加水分解安定性を有することがわかる。
【0070】
表4より、テトラエステル5、6および9〜12は、Tg−DTAの測定において、5%重量減少温度が221.8℃以上であった。本発明のテトラエステルは優れた熱安定性を有することがわかる。
【0071】
試験例3において、テトラエステル1〜4および6〜8は、二層分離温度が−32℃以下であり、中でもテトラエステル1〜3および7は−50℃以下であった。本発明のテトラエステルは、ジフルオロメタン冷媒に対する優れた相溶性を有することがわかる。
【0072】
試験例4において、テトラエステル2〜12は、固化せず、また析出物も確認されなかった。テトラエステル2〜12は、低温域で長期間保管するまたは使用する場合にも、好ましく使用できることがわかる。
【0073】
試験例5の「条件2」において、テトラエステル3はRBOT寿命が217分間であり、テトラエステル8はRBOT寿命が247分間であった。本発明のテトラエステルは、高い酸化安定性を有することがわかる。