特許第5990216号(P5990216)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5990216
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/32 20060101AFI20160825BHJP
   F02P 13/00 20060101ALI20160825BHJP
   H01T 13/20 20060101ALN20160825BHJP
【FI】
   H01T13/32
   F02P13/00 301J
   !H01T13/20 E
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-104963(P2014-104963)
(22)【出願日】2014年5月21日
(65)【公開番号】特開2015-220194(P2015-220194A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2015年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100096817
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】勝川 典英
【審査官】 高橋 学
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−256445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/00−13/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体と、前記絶縁体の先端から突出する中心電極と、前記絶縁体の周囲を覆う主体金具と、基端部が前記主体金具の先端部に接合された接地電極であって前記接地電極の先端部分が前記中心電極の先端部分と離間して配置されるように曲げられた曲げ部を有する接地電極と、を備えるスパークプラグであって、
前記スパークプラグの軸線を含み前記接地電極の中央を通る面で前記接地電極の先端から基端まで切断した後、前記接地電極の切断面の中央線に沿って前記接地電極の基端からの距離が0.1mmずつ増加する複数の位置において前記接地電極の硬度を測定して得られる硬度分布において、
nを自然数として、
前記中央線に沿った前記基端からの距離が0.1mmの位置から前記先端に至るまでの前記接地電極の部分を、前記中央線に沿った前記基端からの距離が0.1mmの位置から前記中央線に沿った前記基端からの距離が0.1×n(mm)の位置までの部分である高硬度部と、前記中央線に沿った前記基端からの距離が0.1×(n+1)(mm)の位置から前記先端までの部分である低硬度部と、の2つに区分可能であり、
前記高硬度部は、前記中央線に沿った前記基端からの距離が3mmの位置までの部分を少なくとも含み、
前記低硬度部は、前記接地電極のうちで最大の曲率を有する部位を含み、
前記低硬度部の最高硬度が前記高硬度部の最低硬度よりも低いことを特徴とするスパークプラグ。
【請求項2】
請求項1に記載のスパークプラグであって、
前記硬度分布において、前記高硬度部の硬度は、前記最大の曲率を有する部位における硬度よりも高い、ことを特徴とするスパークプラグ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスパークプラグであって、
前記硬度分布において、前記基端とは反対側の前記高硬度部の先端部が、前記高硬度部の最低硬度を有する、ことを特徴とするスパークプラグ。
【請求項4】
請求項に記載のスパークプラグであって、
前記硬度分布において、前記中央線に沿った前記基端からの距離が0.1mmの位置から前記基端からの距離が3mmの位置までの部分における前記高硬度部の最低硬度が、前記接地電極の最大の曲率を有する部位における硬度よりもHv20以上高い、ことを特徴とするスパークプラグ。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか一項に記載のスパークプラグであって、
前記硬度分布において、前記中央線に沿った前記基端からの距離が0.1mmの位置における硬度と、前記中央線に沿った前記基端からの距離が0.1×n(mm)の位置における硬度が前記高硬度部の最高硬度よりも低い、ことを特徴とするスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、スパークプラグは、その先端側に中心電極と接地電極とを有している。中心電極は、絶縁体の軸孔に保持された状態で、絶縁体の先端から突出している。一方、接地電極は、主体金具の先端部に接合されている。
【0003】
スパークプラグに要求される性能の一つとして、接地電極の耐折損性が存在する。従来から、接地電極の耐折損性を向上させるための種々の技術が提案されている(特許文献1〜4)。
【0004】
特許文献1では、接地電極の一部に幅広部を設けることによって接地電極の耐折損性を向上させている。特許文献2では、接地電極の径方向の厚みを調整することによって接地電極の耐折損性を向上させている。特許文献3では、屈曲部のうち接地電極の背面や側面に凹部を設け、凹部の底部の硬度を大きくすることによって接地電極の耐折損性を向上させている。特許文献4では、接地電極の内部に針状の電極チップを設けることによって接地電極の耐折損性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−222676号公報
【特許文献2】特開2013−012462号公報
【特許文献3】特開2012−160351号公報
【特許文献4】特開2010−80059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来技術では、接地電極の形状や構造にかなり大幅な変更を要する。このため、従来から、これら以外の他の手段によって接地電極の耐折損性を向上させる技術が望まれていた。また、接地電極は曲げ加工工程によって中心電極に対向する状態にまで曲げられるので、接地電極の曲げ加工性を維持しつつ、耐折損性を向上させる技術が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、軸線方向に貫通する軸孔を有する筒状の絶縁体と、前記絶縁体の先端から突出する中心電極と、前記絶縁体の周囲を覆う主体金具と、基端部が前記主体金具の先端部に接合された接地電極であって前記接地電極の先端部分が前記中心電極の先端部分と離間して配置されるように曲げられた曲げ部を有する接地電極と、を備えるスパークプラグが提供される。このスパークプラグにおいて、前記スパークプラグの軸線を含み前記接地電極の中央を通る面で前記接地電極の先端から基端まで切断した後、前記接地電極の切断面の中央線に沿って前記接地電極の基端からの距離が0.1mmずつ増加する複数の位置において前記接地電極の硬度を測定すると、接地電極の硬度分布が得られる。この硬度分布において、nを自然数として、前記中央線に沿った前記基端からの距離が0.1mmの位置から前記先端に至るまでの前記接地電極の部分を、前記中央線に沿った前記基端からの距離が0.1mmの位置から前記中央線に沿った前記基端からの距離が0.1×n(mm)の位置までの部分である高硬度部と、前記中央線に沿った前記基端からの距離が0.1×(n+1)(mm)の位置から前記先端までの部分である低硬度部と、の2つに区分可能であり、前記高硬度部は、前記中央線に沿った前記基端からの距離が3mmの位置までの部分を少なくとも含み、前記低硬度部は、前記接地電極のうちで最大の曲率を有する部位を含み、前記低硬度部の最高硬度が前記高硬度部の最低硬度よりも低いことを特徴とする。
このスパークプラグによれば、接地電極の曲げ加工性を維持しつつ、接地電極の耐折損性を向上できる。
【0009】
(2)上記スパークプラグは、前記硬度分布において、前記高硬度部の硬度は、前記最大の曲率を有する部位における硬度よりも高い、ものとしてもよい。
このスパークプラグによれば、接地電極の耐折損性を向上できる。
【0010】
(3)上記スパークプラグは、前記硬度分布において、前記基端とは反対側の前記高硬度部の先端部が、前記高硬度部の最低硬度を有するものとしてもよい。
このスパークプラグによれば、接地電極の曲げ加工性を向上できる。
【0011】
(4)上記スパークプラグにおいて、前記高硬度部は、前記中央線に沿った前記基端からの距離が3mmの位置までの部分を少なくとも含む、ものとしてもよい。
このスパークプラグによれば、接地電極の耐折損性を向上できる。
【0012】
(5)上記スパークプラグは、前記硬度分布において、前記中央線に沿った前記基端からの距離が0.1mmの位置から前記基端からの距離が3mmの位置までの部分における前記高硬度部の最低硬度が、前記接地電極の前記最大の曲率を有する部位における硬度よりもHv20以上高い、ものとしてもよい。
このスパークプラグによれば、接地電極の耐折損性を更に向上できる。
【0013】
(6)上記スパークプラグは、前記硬度分布において、前記中央線に沿った前記基端からの距離が0.1mmの位置における硬度と、前記中央線に沿った前記基端からの距離が0.1×n(mm)の位置における硬度が前記高硬度部の最高硬度よりも低い、ものとしてもよい。
ここで、「基端からの距離が0.1mmの位置」は高硬度部の最も基端側の位置に相当し、「基端からの距離が0.1×n(mm)の位置」は高硬度部の最も先端側の位置に相当する。上記スパークプラグによれば、高硬度部の最も基端側の位置における硬度を高硬度部の最高硬度よりも低くすれば、接地電極と主体金具との間の熱伝導を向上させることができ、これによって、接地電極の熱引き性を向上できる。また、高硬度部の最も先端側の位置における硬度を高硬度部の最高硬度よりも低くすれば、接地電極の曲げ加工性を向上できる。
【0014】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、スパークプラグの製造方法、スパークプラグ用の主体金具の製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態としてのスパークプラグを示す正面図。
図2】スパークプラグの製造工程の一部を示す説明図。
図3】硬度測定で使用した切断面を示す説明図。
図4】硬度測定で得られた硬度分布を示すグラフ。
図5図4の一部を拡大したグラフ。
図6】各種サンプルの耐折損試験の試験結果を示す説明図。
図7】各種サンプルの主体金具の接合面温度の試験結果を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一実施形態としてのスパークプラグ100を示す正面図である。図1において、スパークプラグ100の発火部が存在する下側をスパークプラグ100の先端30e側と定義し、上側を後端側と定義して説明する。このスパークプラグ100は、絶縁体10と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50とを備えている。絶縁体10は、軸線Oに沿って延びる軸孔を有している。なお、軸線Oを「中心軸」とも呼ぶ。中心電極20は、軸線Oに沿って延びる棒状の電極であり、絶縁体10の軸孔内に挿入された状態で保持されている。接地電極30は、一端が主体金具50の先端部52に固定され、他端が中心電極20と対向する電極である。端子金具40は、電力の供給を受けるための端子であり、中心電極20に電気的に接続されている。主体金具50は、絶縁体10の周囲を覆う筒状の部材であり、絶縁体10を内部に固定している。主体金具50の外周には、ねじ部54が形成されている。ねじ部54は、ねじ山が形成された部位であり、スパークプラグ100をエンジンヘッドに取付ける際にエンジンヘッドのねじ孔に螺合する。
【0017】
図2は、一実施形態におけるスパークプラグの製造工程の一部を示している。図2(A)は、接地電極30を接合する前の主体金具50を準備する工程を示している。図2(B)は、主体金具50の先端部52に、直線的に伸びる棒状の接地電極部材30pを正立した状態で接合する接合工程を示している。ここで、「正立」とは、主体金具50の軸線O(図1)に平行な方向に向いた状態を意味する。この接合工程では、例えば、抵抗溶接が利用される。図2(C)は、押圧治具300と補助治具320とを用いて接地電極部材30pを傾ける工程を示している。この工程は、接地電極部材30pを曲げる曲げ工程のうちの第1工程に相当する。押圧治具300の側面310は、主体金具50の中心軸に対して所定の角度で傾いた平面である。例えば、接地電極部材30pの外側を補助治具320で支持しながら、押圧治具300を主体金具50の中心軸方向の先端側(図の上方)から後端側(図の下方)に向けて移動させると、押圧治具300の側面310に沿って接地電極部材30pを傾けることができる。なお、補助治具320は省略してもよい。図2(D)は、主体金具50に接合された接地電極部材30pが傾いた状態を示している。
【0018】
図2(E)は、押圧治具400と補助治具420とを用いて接地電極部材30pを再び正立させる工程を示している。この工程は、接地電極部材30pを曲げる曲げ工程のうちの第2工程に相当する。例えば、接地電極部材30pの内側を補助治具420で支持しながら、押圧治具400を主体金具50の外側から内側に向けて移動させると、接地電極部材30pを正立させることができる。なお、補助治具420は省略してもよい。図2(F)は、主体金具50に接合された接地電極部材30pが再び正立した状態を示している。
【0019】
図2(G)は、中心電極20が組み付けられた絶縁体10を主体金具50の内部に挿入し、主体金具50の後端にある被カシメ部(図示省略)を加締めて絶縁体10を固定する加締め工程である。
【0020】
図2(H)は、押圧治具500と補助治具520とを用いて接地電極部材30pを最終的な曲げ形状に曲げるための曲げ工程を示している。この工程は、接地電極部材30pを曲げる曲げ工程のうちの第3工程に相当する。例えば、接地電極部材30pの内側を補助治具520で支持しながら、押圧治具500を主体金具50の先端側(図の上側)から後端側(図の下側)に向けて移動させると、接地電極部材30pを最終的な接地電極30の形状まで曲げることができる。なお、補助治具520は省略してもよい。図2(I)は、接地電極部材30pが曲げられて、曲げ部30bを有する接地電極30が得られた状態を示している。この曲げ部30bは、接地電極30の中で最大の曲率を有する部分である。なお、図2(H)の第3工程では、棒状の接地電極部材30pを1回の工程で曲げてもよく、或いは、仮曲げ工程と本曲げ工程の2回の工程に分けて曲げても良い。
【0021】
図2(A)〜(I)で説明した工程に従って接地電極部材30pを曲げるようにすれば、以下で説明するように、接地電極30の高硬度部(後述)の硬度を高めてその耐折損性を向上させることができる。なお、図2(C)の第1工程における接地電極部材30pの傾き角をより大きくするほど、最終的な接地電極30の高硬度部の硬度を高めることができる。また、図2(C)の補助治具320の高さ(スパークプラグの軸線Oに沿った位置)や、図2(E)の補助治具420の高さを調整することによって、高硬度部の範囲を調整することができる。例えば、補助治具320の高さを図2(C)のより上方に位置させることによって、高硬度部の範囲をより大きくして、高硬度部がより接地電極30の先端側にまで延びるようにすることが可能である。
【0022】
図3は、接地電極30の硬度を測定するために使用した切断面を示す説明図である。接地電極30の切断面CPは、スパークプラグの軸線Oを含み接地電極30の中央を通る面において接地電極30を切断して得られた面である。硬度測定試験では、この切断面CPに沿って接地電極30の先端30eから基端30sにわたる部分を切断した後に、接地電極30の切断面CPの中央線CLに沿った0.1mm毎の位置において硬度を測定した。ここで、「切断面CPの中央線CL」とは、接地電極30の切断面CPの中央を走る線を意味する。硬度測定試験は、JIS Z 2244に規定されているマイクロビッカース硬さ試験に従って行い、試験力は980.7mNとし、保持時間は15秒、圧子の接近速度は60μm/sとした。
【0023】
図4は、各種のサンプルに関する硬度測定試験で得られた硬度分布を示すグラフである。横軸は、接地電極30と主体金具50の接合面からの距離であり、縦軸は硬度である。なお、主体金具50の接合面の位置は、接地電極30の基端30s(図3)の位置と一致する。接合面からの距離が10mmの位置は、接地電極30の先端30e(図3)にほぼ相当する。
【0024】
図4では、4種類のサンプルSP01〜SP03,SP10の硬度分布が示されている。サンプルSP01〜SP03は、図2に示した工程に従って接地電極30の硬度を増加させたサンプルである。サンプルSP10は比較例としてのサンプルであり、図2(C)〜(F)で示した第1工程及び第2工程を行わずに作成したサンプルである。サンプルSP01〜SP03では、接地電極30の硬度分布は、接地電極30の基端30s近くに存在する高硬度部HHPと、その先端側に存在する低硬度部LHPとに区分できる。高硬度部HHPは、低硬度部LHPよりも硬度の高い部分である。すなわち、高硬度部HHPの最低硬度は、低硬度部LHPの最高硬度よりも大きい。高硬度部HHPが形成される理由は、図2(C)〜(F)で示した第1工程及び第2工程において、高硬度部HHPに相当する部分が曲げ加工されるので、その加工硬化によって硬度が上昇するからである。
【0025】
前述したように、硬度測定は、中央線CLに沿って0.1mm毎の離散した位置で行う。従って、nを或る自然数とすると、高硬度部HHPは、接地電極30の基端30sからの距離が0.1mmの位置から、基端30sからの距離が0.1×n(mm)の位置までの部分となる。また、低硬度部LHPは、接地電極30の基端30sからの距離が0.1×(n+1)(mm)の位置から、接地電極30の先端30eまでの部分となる。後述するように、nは30以上であること(すなわち、高硬度部HHPが基端30sから3mmの位置まで延びていること)が好ましい。
【0026】
接地電極30の高硬度部HHPは、接地電極30の耐折損性を向上させる機能を有する。一方、低硬度部LHPは、曲げ部30bを形成する曲げ工程(図2(H)の第3工程)における曲げ加工性を維持又は向上させる機能を有する。すなわち、接地電極30は、基端30sに近い部分で比較的折損し易いので、この部分を高硬度部HHPとすることによって、耐折損性を向上させることができる。一方、高硬度部HHPよりも先端側を低硬度部LHPとすることによって、曲げ加工性を維持又は向上させることができる。
【0027】
3種類のサンプルSP01〜SP03で高硬度部HHPの硬度が違う理由は、図2(C)の第1工程における接地電極部材30pの傾き角が3種類のサンプルSP01〜SP03で異なり、加工硬化の程度が異なるからである。通常は、図2(C)の第1工程における接地電極部材30pの傾き角をより大きくするほど、高硬度部HHPの硬度を高めることができる。なお、低硬度部LHPの最高硬度を示す部分は、曲げ部30b(図3)の中に存在する。曲げ部30bの硬度が高い理由は、図2(H)で示した第3工程において、曲げ部30bが成形される際に加工硬化によって硬度が上昇するからである。曲げ部30bの硬度は、この例では180〜200の範囲にある。高硬度部HHPは、この曲げ部30b(接地電極30の中で最大の曲率を有する部分)の硬度よりも硬度が高い部分である。
【0028】
なお、図4において、接地電極30との接合面に近い主体金具50の部分で硬度がHv450〜Hv500の極めて高い値を示している。この理由は、図2(B)の接合工程において、抵抗溶接を用いて接地電極部材30pを主体金具50に接合した際に、高温となった主体金具50を急冷したので、その焼入硬化によって硬度が上昇したためである。なお、図4で測定対象としたサンプルでは、主体金具50と接地電極30の材質が異なるので、接地電極30にはこのような焼入硬化による硬度の上昇は発生していない。後述するように、接地電極30の硬度が過度に上昇すると接地電極30の熱引き性が低下するので、接地電極30の材質は、焼入硬化によって硬度が過度に上昇しない材質を利用することが好ましい。
【0029】
図5は、図4のグラフのうち、接地電極30の基端30sから4mmまでの範囲を拡大して示したものである。比較例としてのサンプルSP10では、硬度がHv180でほぼ一定である。一方、サンプルSP01〜SP03では、接地電極30の基端30sからの距離が0.1mmの位置(高硬度部HHPの最基端側の位置)において硬度がやや低い。また、サンプルSP01〜SP03の硬度分布は、基端30sからの距離が増大するにつれて硬度が上昇してゆく第1部分と、その先端側に存在し硬度がほぼ一定の平坦な第2部分と、更にその先端側に存在し硬度が緩やかに減少する第3部分とに区分できる。硬度が上昇してゆく第1部分は、接地電極30の基端30sからの距離が0.1mmの位置から始まり、基端30sからの距離が0.3mmの位置で終わっている。平坦な第2部分は、基端30sからの距離が0.3mmの位置から始まり、基端30sからの距離が1.8mmの位置で終わっている。硬度が減少する第3部分は、基端30sからの距離が1.8mmの位置から始まり、基端30sからの距離が4mmの位置で終わっている。また、サンプルSP01〜SP03において、高硬度部HHPの最も基端30s側の硬度と、基端30sからの距離が3mmの位置の硬度は、ほぼ同等の比較的高い値を示している。
【0030】
接地電極30の基端30sからの距離が3.9mmの位置は、高硬度部HHPのうちで、接地電極30の基端30sとは反対側の先端側の位置に相当する。この高硬度部HHPの先端位置における硬度は、高硬度部HHPの中の最低硬度であることが好ましい。この理由は、高硬度部HHPがその先端部において最低硬度を有するようにすれば、その更に先端側の部分(すなわち低硬度部LHP)における曲げ加工性を向上できるからである。
【0031】
また、高硬度部HHPのうち、接地電極30の基端30sからの距離が0.1mmの位置は、高硬度部HHPの最も基端側の位置に相当する。高硬度部HHPの最も基端側位置と最も先端側の位置における硬度は、高硬度部HHPの最高硬度よりも低いことが好ましい。この理由は、高硬度部HHPの最も基端側の位置における硬度を高硬度部HHPの最高硬度よりも低くすれば、接地電極30と主体金具50との間の熱伝導を向上させることができ、これによって、接地電極30の熱引き性を向上できるからである。また、高硬度部HHPの最も先端側の位置における硬度を高硬度部HHPの最高硬度よりも低くすれば、接地電極30の曲げ加工性を向上できるからである。なお、接地電極30の熱引き性に関する試験結果については後述する。
【0032】
なお、図4に示したように、サンプルSP01〜SP03において、低硬度部LHPの最高硬度の値は190〜200である。一方、高硬度部HHPは、低硬度部LHPの最高硬度よりも高い硬度を有する部分である。従って、図5の例において、高硬度部HHPは、接地電極30の基端30sからの距離が0.1mmの位置から始まり基端30sからの距離が3.9mmの位置に至るまでの部分である。但し、前述したように、高硬度部HHPの範囲は、図2(C)の補助治具320の高さや、図2(E)の補助治具420の高さを調整することによって調整することが可能である。以下で詳述するように、耐折損性の観点からは、高硬度部HHPは、接地電極30の基端30sからの距離が0.1mmの位置から、基端30sからの距離が3mmの位置までの部分を少なくとも含むことが好ましい。
【0033】
図6は、図4及び図5に示した4種類のサンプルSP01〜SP03、SP10についての耐折損性試験の試験結果を示す。耐折損性試験では、ISO11565の3.4.4項に準じて、50Hz〜500Hzの間の加振周波数で1オクターブ/分の変化率で往復で加振周波数をスイープさせ、加速度30Gで水平方向及び垂直方向に各8時間で合計16時間加振した後、接地電極30の破損の有無を確認した。例えば、サンプルSP01に関しては、同じ作成条件で100個のサンプルを作成し、これらの100個のサンプルを用いて耐折損性試験を行った。他のサンプルSP02,SP03,SP10も同様である。
【0034】
図6の左半分には、4種類のサンプルSP01〜SP03,SP10について、耐折損試験において折損が発生した位置と、折損が発生したサンプル数と、耐折損試験の判定結果と、が示されている。また、図6の右半分には、参考のため、接地電極30の基端30sから3mmまでの範囲の最低硬度HV1と、曲げ部30bの硬度HV2と、それらの差分ΔHV(=HV1−HV2)も示されている。
【0035】
比較例のサンプルSP10では、100個のサンプルのうち折損したサンプル数は22個であった。また、基端30sから1mm及び3mmの位置で折損したものがそれぞれ6個であり、基端30sから2mmの位置で折損したものが7個、基端30sから4mmの位置で折損したものが2個であった。これから理解できるように、折損が発生する位置は、基端30sからの距離が3mm以下の部分に多い。従って、基端30sからの距離が3mm以下の部分の硬度を高めることによって、接地電極30の耐折損性を向上させることができる。
【0036】
サンプルSP01〜SP03では、100個のサンプルのうちで折損したサンプル数は2個〜6個であり、比較例のサンプルSP10の破損サンプル数に比べて十分に少なかった。このように、高硬度部HHPを有するサンプルSP01〜SP03では、比較例のサンプルSP10に比べて耐折損性が向上した。また、上述したように、比較例のサンプルSP10では、基端30sからの距離が3mm以下の部分において折損が発生しやすい。従って、耐折損性の観点からは、高硬度部HHPは、接地電極30の基端30sからの距離が0.1mmの位置から、基端30sからの距離が3mmの位置までの部分を少なくとも含むことが好ましい。
【0037】
なお、3種類のサンプルSP01〜SP03のうち、第1のサンプルSP01が最も耐折損性が良く、第2のサンプルSP02と第3のサンプルSP03がこれに続く良好な耐折損性を示している。図6の右半分に示すように、第3のサンプルSP03では、接地電極30の基端30sから3mmまでの範囲の最低硬度HV1と、曲げ部30bの硬度HV2との差分ΔHVがHv20である。なお、接地電極30に高硬度部HHPが形成されていれば、硬度の差分ΔHVの値がHv20以下であっても、比較例のサンプルSP10に比べて高い耐折損性を得ることは可能である。但し、耐折損性を更に向上させるためには、差分ΔHVをHv20以上とすることが好ましい。
【0038】
図7は、各種サンプルの主体金具の接合面温度の試験結果を示す説明図である。図7(A)のグラフの横軸は、接地電極30の最基端部の硬度である。ここで、「接地電極30の最基端部」とは、図5において、接地電極30の基端30sからの距離が0.1mmの部位を意味する。図7(B)のグラフの縦軸は、主体金具50の接合面温度である。この試験では、接地電極30の基端30sからの距離が10mmの部分を1000℃に維持したときの主体金具50の接合面の温度を測定した。ここで、「主体金具50の接合面」とは、図3において接地電極30の基端30sに相当する主体金具50の内面を意味する。但し、「主体金具50の接合面温度」は、接合面からの距離が0.3mmの位置における主体金具50の内面の温度を熱電対を用いて測定した値である。
【0039】
図7において、サンプルSP01〜SP03,SP10の硬度の値は、図4及び図5に示した値と同じである。図7では、これらのサンプルに加えて、他のもう一種のサンプルSP04についても硬度測定と温度測定の結果を示している。このサンプルSP04は、接地電極30の最基端部の硬度がHv400であり、他のサンプルに比べて最も硬度が高かった。図7から理解できるように、接地電極30の最基端部の硬度が大きいほど、主体金具50の接合面温度も高くなる傾向にある。主体金具50の接合面温度は、接地電極30の熱引き性を示す指標である。すなわち、主体金具50の接合面温度が低いほど、接地電極30の熱引き性が良好で好ましい。従って、接地電極30の熱引き性の観点からは、接地電極30の最基端部の硬度を過度に大きくしない方が好ましい。例えば、接地電極30の最基端部の硬度は、Hv300以下とすることが好ましい。
【0040】
・変形例
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0041】
・変形例1:
スパークプラグとしては、図1に示したもの以外の種々の構成を有するスパークプラグを本発明に適用することが可能である。特に、端子金具や絶縁体の具体的な形状については、様々な変形が可能である。
【0042】
・変形例2:
上述した実施形態では、図2(A)〜(I)の工程に従って接地電極部材30pを曲げていたが、これ以外の工程に従って接地電極部材30pを曲げるようにしてもよい。また、図2(C),(E),(H)で示した曲げ工程の第1工程〜第3工程の間に、これら以外の工程を実行するようにしてもよい。具体的には、例えば、第1工程(図2(C))と第2工程(図2(E))の間に、接地電極部材30pが接合された主体金具50に対してメッキ処理を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
10…絶縁体
20…中心電極
30…接地電極
30b…曲げ部
30e…接地電極の先端
30p…接地電極部材
30s…接地電極の基端
40…端子金具
50…主体金具
52…先端部
54…ねじ部
100…スパークプラグ
300…押圧治具
310…側面
320…補助治具
400…押圧治具
420…補助治具
500…押圧治具
520…補助治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7