特許第5990265号(P5990265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ バジャー・ライセンシング・エルエルシーの特許一覧

特許5990265ビスフェノールA流からのフェノール及びアセトンの回収
<>
  • 特許5990265-ビスフェノールA流からのフェノール及びアセトンの回収 図000004
  • 特許5990265-ビスフェノールA流からのフェノール及びアセトンの回収 図000005
  • 特許5990265-ビスフェノールA流からのフェノール及びアセトンの回収 図000006
  • 特許5990265-ビスフェノールA流からのフェノール及びアセトンの回収 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5990265
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】ビスフェノールA流からのフェノール及びアセトンの回収
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/50 20060101AFI20160825BHJP
   C07C 39/04 20060101ALI20160825BHJP
   C07C 49/08 20060101ALI20160825BHJP
   C07C 45/42 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   C07C37/50
   C07C39/04
   C07C49/08 A
   C07C45/42
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-514519(P2014-514519)
(86)(22)【出願日】2012年6月4日
(65)【公表番号】特表2014-524897(P2014-524897A)
(43)【公表日】2014年9月25日
(86)【国際出願番号】US2012040680
(87)【国際公開番号】WO2012170329
(87)【国際公開日】20121213
【審査請求日】2015年6月2日
(31)【優先権主張番号】13/153,909
(32)【優先日】2011年6月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507322344
【氏名又は名称】バジャー・ライセンシング・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100071010
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 行造
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100138438
【弁理士】
【氏名又は名称】尾首 亘聰
(74)【代理人】
【識別番号】100138519
【弁理士】
【氏名又は名称】奥谷 雅子
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 千裕
(74)【代理人】
【識別番号】100161539
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 美子
(72)【発明者】
【氏名】パルマー、デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】エビット・スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】フェトスコ、スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】チー、チュンミン
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第03075015(US,A)
【文献】 特開平05−331088(JP,A)
【文献】 特表2008−504320(JP,A)
【文献】 特表2001−525830(JP,A)
【文献】 特表2009−511474(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/062482(WO,A1)
【文献】 英国特許第00795236(GB,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 37/00
C07C 39/00
C07C 45/00
C07C 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスフェノールAの製造から得られる残留物流であり、未反応フェノール、BPA、BPA異性体、トリスフェノールおよびその他の重質芳香族化合物を含む供給原料流からフェノールとアセトン回収する方法であって、前記方法は供給原料流を水とヒドロキシルイオンの供給源に、ビスフェノールAおよびその異性体の少なくとも一部をフェノールとアセトンに分解するのに効果的な条件下で接触させることを含み、前記条件には150℃から300℃の温度、その温度において水を実質的に液相に保つために十分な圧力、及び残留物流中のヒドロキシルイオンのヒドロキシフェニル基に対するモル比が0.3:1から0.9:1であることを含む、
前記方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記温度が180℃から260℃である、前記方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、供給原料流中のヒドロキシルイオンのヒドロキシフェニル基に対するモル比は、0.4:1から0.7:1である、前記方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の方法であって、前記接触が4時間未満行われる、前記方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の方法であって、前記供給原料流は、ビスフェノールAの製造から得られる残留物流であり、未反応フェノール、BPA、BPA異性体、トリスフェノールおよびその他の重質芳香族化合物を含む、前記方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、前記供給原料流中のBPA、BPA異性体、トリスフェノール及び他の芳香族重質物の合計に対する水の重量比は、2:1以上である、前記方法。
【請求項7】
ビスフェノールAの製造方法であって、前記方法は以下を含む:
(a)ビスフェノールA及びその異性体、未反応フェノール、トリスフェノールおよび他の重質芳香族化合物を含む生成物流を生成するための条件で、触媒の存在下で、アセトンを過剰モルのフェノールで縮合させること;
(b)前記生成物流からビスフェノールA及び未反応フェノールの一部を回収し、未反応フェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールAの異性体、トリスフェノール、及び他の重質芳香族化合物を含む残留物流を残すこと;
(c)150℃から300℃の温度、前記温度において水を実質的に液相に保持するのに十分な圧力、及び残留物流中のヒドロキシルイオンのヒドロキシフェニル基に対するモル比が0.3:1から0.9:1であることを含む条件であって、前記残留物流の少なくとも一部をフェノール及びアセトンに分解するために効果的な条件下、で供給原料を水とヒドロキシルイオンの供給源に接触させること、及び
(d)流出物流からフェノールとアセトンを回収すること。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、前記温度が180℃から260℃である、前記方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載の方法であって、残留物流中のヒドロキシルイオンのヒドロキシフェニル基に対するモル比が0.4:1から0.7:1である、前記方法。
【請求項10】
請求項7乃至9の何れか1項に記載の方法であって、残留物流中のBPA、BPA異性体、トリスフェノール及び他の芳香族重質物の合計に対する水の重量比は2:1以上である、前記方法。
【請求項11】
請求項7乃至9の何れか1項に記載の方法であって、前記接触は4時間未満行われる、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビスフェノールA流、特にビスフェノールA残留物流からフェノール及びアセトンの回収に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールA(4,4 ' - ジヒドロキシ-2,2-ジフェニルプロパンまたはBPA)は酸性触媒又は陽イオン交換樹脂の存在下でアセトンと過剰のフェノールの縮合により製造される。粗生成物は、所望のビスフェノールA及び未反応フェノールに加えて、ビスフェノール異性体、トリスフェノールおよび他のより高分子量の材料の様な、望ましくない副生成物を含有する。ビスフェノールAは、通常は単一または一連の結晶化工程により粗生成物から分離され、望まれない副生成物に富む母液流を残し、その母液流の一部は、プロセスから望まれない副生成物を除去するために取除かれる。あるいは、ビスフェノールAは、望まれない副生成物に富む流れも生成する単一または一連の蒸留工程によって粗生成物から分離しても良く、その副生成物の一部が取除かれる。取除かれた流れは、望まれない副産物のみならず未反応フェノール及びビスフェノールAを含むこともある。フェノールは、典型的には、取除かれた流れから蒸留、通常は真空蒸留により回収され、BPAの製造プロセスから除去される望まれない重質物中に濃縮された残留物流を残す。
【0003】
全体のBPA製造プロセスの経済的パフォーマンスを向上させるために、このような残留物流からフェノールとイソプロペニルフェノールを回収するための方法を記述した多数の先行技術文献がある。そのような方法の一つは、BPA、BPA異性体、トリスフェノール及び他の副生成物をフェノールおよびイソプロペニルフェノールに分解するために、高温、真空下で触媒量の塩基を添加し、続いてフェノールを回収するために真空下、高温で触媒量の酸を添加することを含む(米国特許番号6,191,316を参照)。
【0004】
また、BPAとBPA残留流からフェノール及びアセトンを回収するための方法を記述した多数の先行技術文献が存在する。そのような方法の一つは、超臨界または近超臨界温度および圧力で、水の存在下でBPA製造プロセスから除去されたBPA残基を加水分解することを含む(「超臨界水におけるBPAタールの加水分解によるフェノール回収」(“Phenol Recovery by BPA Tar Hydrolysis in Supercritical Water”)、Adschiri T., Shibata R., Arai, K., Sekiyu Gakkasishi, Vol 40, No. 4, 1997, p. 291 -297)。
【0005】
さらに、BPAとBPA残留物の加水分解は、アンモニア水溶液、アルカリ金属およびアルカリ土類金属水酸化物及び炭酸塩の存在下で、臨界未満の温度および圧力で起こり、回収可能なフェノールおよびアセトンを生成することが示されている(米国特許番号3,075,015を参照)。
【0006】
このプロセスでは、加水分解は、150 ℃〜320℃の温度、例えば、200℃〜300℃、5〜150気圧の圧力及び実施例の各々においてはヒドロキシルのヒドロキシフェニル基とのモル比が1:1で行われる。濃縮された重質物は、p、p-BPAおよび他の化合物をフェノールとアセトンに再変換するために、水酸化ナトリウム溶液または他の塩基性溶液と反応させる。アセトンは蒸留塔で回収され、フェノールは中和してそして続いて水蒸気蒸留されることで回収される。加水分解を用いたフェノールとアセトン収率は、水の不在下で触媒を用いて分解する方法に比べて大幅に改善されたが、苛性物の使用が大きい。
【0007】
本発明によれば、現在、BPAを含有する流れは、ヒドロキシ基とヒドロキシルフェニル基のモル比が1:1より大幅に少ない塩基性水酸化物の存在下で、効果的に加水分解されてフェノール及びアセトンに戻すことができ、そして比較的短い滞留時間で可能であることが判明した。また、アセトンおよびフェノールの回収率は、供給原料流中での水の、濃縮された重質物に対する比率の増加に伴い増大することがわかった。このように、苛性物の使用、ひいてはプロセスのコストを低減させることができる中で、プロセスの効率を最大化することができる。
【発明の概要】
【0008】
ある一の態様において、本発明は、ビスフェノールA及びその異性体を含む供給原料流からフェノールとアセトン回収する方法であって、前記方法は供給原料流を水とヒドロキシルイオンの供給源に、ビスフェノールAおよびその異性体の少なくとも一部をフェノールとアセトンに分解するのに効果的な条件下で接触させることを含み、その条件には約150℃から約300℃の温度、その温度において水を実質的に液相に保つために十分な圧力、及び残留物流中のヒドロキシルイオンのヒドロキシフェニル基に対するモル比が約0.3:1から約0.9:1であることを含む。
前記温度が180℃から約260℃であり、供給原料流中のヒドロキシルイオンのヒドロキシフェニル基に対するモル比は、約0.4:1〜約0.7:1であるのが好ましい。
このような接触は4時間未満、例えば、約2〜約3時間行われるのが好ましい。
ある実施の形態では、供給原料流は、ビスフェノールAの製造から得られる残留物流であり、未反応フェノール、BPA、BPA異性体、トリスフェノールおよびその他の重質芳香族化合物を含む。供給原料流中のBPA、BPA異性体、トリスフェノール及び他の芳香族重質物の合計に対する水の重量比は、2:1以上であり、例えば、約2:1から約10:1であるのが良い。
【0009】
さらなる態様において、本発明はビスフェノールAの製造方法に関し、前記方法は以下を含む:
(a)ビスフェノールA及びその異性体、未反応フェノール、トリスフェノールおよび他の重質芳香族化合物を含む生成物流を生成するための条件で、触媒の存在下で、アセトンを過剰モルのフェノールで縮合させること;
(b)前記生成物流からビスフェノールA及び未反応フェノールの一部を回収し、未反応フェノール、BPA、BPA異性体、トリスフェノール、及び他の重質芳香族化合物を含む残留物流を残すこと;
(c)約150℃から約300℃の温度及び前記温度において水を実質的に液相に保持するのに十分な圧力において、残留物流を水とヒドロキシルイオンの供給源に接触させ、そして、残留物流中のヒドロキシルイオンのヒドロキシフェニル基に対するモル比は約0.3:1から約0.9:1であり、そして前記接触させることにより残留物流を加水分解し、フェノールおよびアセトンを含む流出物流を生成し;及び
(d)流出物流からフェノールとアセトンを回収する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1は、実施例1における水性NaOH溶液でBPAの残留物流を処理するためのプロセスにおける、温度に対するフェノールとアセトン回収の重量%のグラフである。
図2は、実施例2におけるプロセスの、250℃の温度での滞留時間に対するフェノールとアセトン回収の重量%のグラフである。
図3は、実施例3におけるプロセスの、250℃の温度での重質物/水の重量比に対するフェノールとアセトン回収の重量%のグラフである。
図4は、実施例4におけるプロセスの、250℃の温度でのヒドロキシルイオンのヒドロキシフェニル基に対するモル比に対するフェノールとアセトン回収の重量%のグラフである。
【実施の態様の詳細な説明】
【0011】
本明細書に記載されている発明は、ビスフェノールA(BPA)の異性体を含む供給原料流からフェノールとアセトンを回復するための改良されたプロセスである。供給原料は、BPA製造工場で見られるBPA及び/又はその異性体を含む任意の供給流であっても良いが、ほとんどの場合供給原料は、BPA及び未反応フェノールの一部が、アセトンとフェノールを縮合させた流出物流から分離された後に残っている残留物流である。
【0012】
ビスフェノールA(BPA)の製造は、一般的に、酸触媒の存在下でアセトンを化学量論的に過剰なフェノールと反応させることを含む。フェノール/アセトンのモル比は、通常3〜30の範囲、典型的には5〜20である。この反応は典型的には、約50℃〜約100℃の温度で、大気圧から約600kPaの圧力の下で行われる。
【0013】
触媒としては、通常、強鉱酸又は硫黄含有アミン化合物で部分的に中和された樹脂を含む、スルホン酸系樹脂などの強酸性陽イオン交換樹脂が使用される。例えば、2−(4-ピリジル)エタンチオール、2-メルカプトエチルアミン、3 -メルカプトプロピルアミン、N、N-ジメチル-3-メルカプトプロピルアミン、N-N-ジ-n-ブチル-4-メルカプトブチルアミン、及び2,2、-ジメチルチアゾリジンの様なビスフェノールAの合成に使用される通常のプロモーターが、 硫黄含有アミン化合物として用いることができる。そのようなプロモーターは酸性イオン交換体中の酸基(スルホン酸基)に基づいて、通常2〜30モル%の量で、また5〜20モル%の量で使用される。
【0014】
フェノールとアセトンとの縮合反応は、典型的には固定床連続フローシステムまたは懸濁床バッチシステムで行われる。固定床フローシステムの場合には、反応器に供給される原材料の混合物の液体空間速度は、通常、0.2〜50hr-1である。懸濁床バッチシステムの場合には、使用される強酸性イオン交換樹脂の量は、反応温度および圧力に応じて変わるが、通常、原材料の混合物の20〜100重量%である。反応時間は通常0.5から5時間である。
【0015】
所望のビスフェノールAに加えて、縮合反応からの流出物は、反応生成水、未反応アセトン、未反応フェノール、および種々の望まれない副産物を含み、その副産物は、例えば、ビスフェノールA異性体(例えば、2-(4- ヒドロキシフェニル)-2-(2-ヒドロキシフェニル)プロパン又はo、p-BPA)、トリスフェノール(以下の式Iを参照)、イソプロペニルフェノール(IPP)二量体(以下の式IIa、IIb、及びIICを参照)およびヒドロキシフェニルクロマン(以下の式IIIa及びIIIbを参照)、置換キサンテン及び分子骨格に3以上のフェニル環を有するより高度に縮合した化合物である。総称して、IPPの二量体、ヒドロキシフェニルクロマン、インダン、キサンテン、より高度に縮合された化合物は「BPA重質物」と呼ばれる。
【式1】
【0016】

【0017】
水、フェノール及び未反応アセトンのみならず、これらの副産物は、ポリマーを製造するためのBPAの適合性を損なうため、縮合流出物から分離されなければならない。特にポリカーボネートの生産においては、原材料BPAについて高度な純度が要求される。
BPAの精製は、例えば、懸濁結晶化、溶融結晶化、蒸留および/または脱着のような多段階カスケード式の好適な精製プロセスによって実施される。BPA生成物を分離した後、これらのプロセスは、BPA、水、未反応フェノールおよび場合によっては未反応アセトン含み、および上記の副産物に富んでいる母液を残す。通常この母液流は縮合反応にリサイクルされる。酸性イオン交換体の触媒活性を維持するために、形成された水の全部または一部がまだ残っている未反応アセトンと共に事前に蒸留により除去される。このようにして得られた脱水された、母液は追加のフェノールとアセトンが補充されそして縮合ユニットに戻される。
【0018】
このような再循環の手順は、BPA生成の副産物が、循環流中で濃縮され、そして最終的なBPA生成物の純度に悪影響を与え、そして触媒系の非活性化につながる可能性があるという不利な点を有する。循環流中の副生成物の過度の濃縮を避けるために、母液混合物の一部はシステムから排出する必要がある。その排除は、典型的には、多くの場合、反応水、未反応アセトンおよび未反応フェノールの一部を除去するために蒸留した後、循環流から母液の一部を除去することによって行われる。この時点で、母液の組成物、及びそれに応じて排除される組成物には、典型的には60〜90重量%のフェノール、6〜20重量%のBPAおよび3〜15重量のBPA異性体および重質副産物を含む。この排出流はかなりの量のフェノール及び他の有用な生成物が含まれているため、この排出物は、さらに処理されるべき貴重なプロセス流である。
【0019】
排出流を更に処理する場合、通常は真空蒸留によって、まずフェノールの残留含有量を20重量%未満、例えば、10重量%未満、特に5重量%未満、更に1重量%未満の残留容量にし、そして、<10重量%のフェノール、約45から約55重量%のBPA、約45から55重量%のBPA重質物を含む重質残留物流とする。
【0020】
フェノールを除去した後、少なくとも一部の残留物流をフェノールとアセトンに分解するのに有効な条件下で、重質残留物流を水とヒドロキシルイオンの供給源と接触させる。残留物流の加水分解に好適な条件には、約150℃から約300℃の温度、例えば約180℃から約260℃の温度及び前記の温度で水を実質的に液相に保持するのに十分な圧力を含む。好適な圧力は、約2.6MPaから約4.2MPaである。
【0021】
加水分解反応に触媒作用を起こすために使用されるヒドロキシルイオン源としては、アンモニア及び/又はアルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物の水溶液であっても良く、水酸化ナトリウムが好ましい。残留物流に添加されるヒドロキシルイオン源の量は、残留物流中のヒドロキシルイオンのヒドロキシフェニル基に対するモル比が約0.3:1から約0.9:1、例えば、約0.4:1から約0.7:1になるように制御される。したがって、有利なフェノールおよびアセトンの回収を図るにはこれらの範囲で実施することができ、一方、ヒドロキシル/ヒドロキシフェニルのモル比をこれ以上に増加させても、回収率は殆ど又は全く改善されず、苛性アルカリ使用量が増加することが分かった。
【0022】
残留物流に添加される水の量は、通常、供給流中のBPA、BPA異性体、トリスフェノール及び他の芳香族重質物の合計に対する水の重量比が2:1より大きいか又は等しくなるように調整されるが、その理由は、水と重質物の比率が2未満の場合は、加水分解反応においてフェノールとアセトンの回収が減少することが判明したからである。通常、供給流中のBPA、BPA異性体、トリスフェノール及び他の芳香族重質物の合計に対する水の重量比は約2:1から約10:1である。
【0023】
加水分解反応の持続時間は、一般に、フェノールとアセトンの所望の回収率によって決定される。特に、70%を超える、さらに80%をも超える有利な回収率は、反応時間4時間未満、例えば約2から約3時間で達成できることが分かった。これらの値を超える滞留時間においては、一般に、フェノールおよびアセトン回収の増加には殆ど繋がらない。この点から、生成物の回収率は、供給原料中のフェノール環又はアセトン部分のモル数から生成物中のヒドロキシフェニル又はアセトン部分のモル数を引いたものを、原料中のヒドロキシフェニル又はアセトン部分のモル数で割ったものとして定義される。フェノールとアセトンの両方の回収率については、供給原料中のフェノールとアセトンのモル数は計算から除外される。
【0024】
本発明を、より具体的に、実施例を参照し及び添付の図面を用いて説明する。
【0025】
実施例1
残留物流は、BPA製造プラントから収集された以下の組成を有する、75重量%のフェノール、17重量%のビスフェノールAおよびその異性体、および8重量%の重質物である。
一連のサンプルは、重質/水の重量比が0.1及び水酸化物/ヒドロキシフェニルのモル比が0.6を有する複数の混合物を生成するように、35gの残留物流が105gの8重量%水酸化ナトリウムと水溶液中で混合して調製された。
結果として得られた混合物の最初のセットが、その後、2時間の間に190℃から250℃の範囲内の種々の温度に加熱され、フェノールとアセトンの回収%が測定された。結果を図1に示すが、フェノールとアセトンのそれぞれの回収は190℃の約40%から250℃の約90%まで増加していることを示している。
【0026】
実施例2
実施例1で製造されたサンプルの第二のセットを250℃で1〜3時間の間の種々の時間で加熱し、フェノールとアセトンの回収率を測定した。結果を図2に示すが、フェノールとアセトンのそれぞれの回収率は、1時間の滞留時間の約70%から、2時間の滞留時間の約80%まで増加することを示している。しかし、滞留時間を3時間に増加させた場合には、回収率は殆ど増加していないことが観測された。
【0027】
実施例3
さらなる一連のサンプルが、混合物が重質物/水の重量比が0.1から2.5の間の種々の異なる比率及び水酸化物/ヒドロキシフェニルのモル比が0.01から0.6である複数の混合物を生成するために、実施例1で用いた種々の量の残留物流が、種々の量の水酸化ナトリウムと水溶液中で混合され、調製された。
得られた混合物は250℃で2時間加熱され、フェノールとアセトンの%回収率が測定された。結果を図3に示すが、フェノールとアセトンのそれぞれの回収率は、混合物中の重質物/水の重量比が0.1の場合の約70〜80%から、重質物/水の重量比が1.5を超える場合の約50%未満に減少していることを示している。
【0028】
実施例4
さらなる一連のサンプルが、重質物/水の重量比が0.07から0.08の間及び水酸化物/ヒドロキシフェニルのモル比が0.1と1.4の間である複数の混合物を生成するために、実施例1で用いた60gの残留物流が、210gの種々の濃度の水酸化ナトリウムと水溶液中で混合され、調製された。得られた混合物は各々250℃で1時間加熱され、フェノールとアセトンの回収率%が測定された。結果を図4に示すが、各フェノールとアセトンの回収率は、水酸化物/ヒドロキシフェニルのモル比が0.3から約1の間の場合の混合物については約70〜80%と変わらないが、水酸化物/ヒドロキシフェニルのモル比がこれより大きい及びこれ未満の場合は、回収率は低下することを示している。
本発明は、特定の実施形態を参照して説明および図示していたが、当業者は、本発明は、必ずしも本明細書、図面に示されているとは言えない変形例においても実施することができることを理解しているであろう。このため、本発明の真の範囲を決定するためには、添付の特許請求の範囲の記載に基づくべきである。
図1
図2
図3
図4