(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電性粉末を構成する金属種が、銀、銅、金、パラジウム、白金、スズ、アルミニウムおよびニッケルからなる群から選択されるいずれか1種または2種以上の元素を含む、請求項1または2に記載の導電性組成物。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している内容以外の技術的事項であって本発明の実施に必要な事項は、従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている技術内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0014】
ここで開示される導電性組成物は、典型的には、焼成することにより太陽電池用電極を形成するための導電性組成物である。この導電性組成物は、本質的に、従来のこの種の導電性組成物と同様に、導電性粉末と、ガラスフリットと、これらの構成要素を分散させるための有機ビヒクル成分(後述するが、有機バインダと分散剤との混合物)とを含んでいる。そして、このガラスフリットは、酸化物に換算したときの組成において、以下の基本成分の合計が、ガラスフリット全体の95mol%以上であることにより特徴づけられる。
【0015】
PbO 1mol%以上20mol%以下
TeO
2 35mol%以上90mol%以下
Bi
2O
3 0.1mol%以上10mol%以下
Li
2O 0.1mol%以上30mol%以下
ZnO 0mol%以上30mol%以下
MgO 0mol%以上20mol%以下
WO
3 0mol%以上30mol%以下
【0016】
すなわち、このガラスフリットは、PbO,TeO
2,Bi
2O
3およびLi
2Oの4つの成分を必須の構成成分として含んでいる。ここで、これらの成分は、ガラスフリットの軟化点が250℃以上600℃以下となる範囲において、TeO
2の割合が大きく、PbOの割合が小さくなるよう、Bi
2O
3およびLi
2Oの量が調整されている。
そして、必要に応じて、ZnO,MgOおよびWO
3の3つの成分が含まれる。
ガラスフリットにこれら以外の成分が含まれることは妨げないが、かかる成分の含有は、5mol%以下に制限されている。すなわち、ここに開示されるガラスフリットは、本質的には、以上の7つの基本成分により構成されるものとして把握することができる。
【0017】
TeO
2は、太陽電池用電極形成用の導電性組成物に含まれるガラスフリットにおいて、ネットワークフォーマーとして機能し、良好なオーミックコンタクトを実現するために欠かせない成分である。例えば導電性粉末が銀(Ag)を含む場合、焼成中の電極と太陽電池のシリコン基板との界面において良好なコンタクトを実現するために、ガラス相(ガラスフリット)へのAg固溶量を増大させることが望まれる。ここでガラス相にTeが存在することで、Ag固溶量を大きく増大させることができる。また焼成の降温時には、ガラス相に溶解していたAgがAg微粒子として析出し得る。ここでガラス相にTeが存在することで、焼成温度の変化に対してAgの析出が穏やかとされ、焼成温度の制御幅(マージン)を広げることができる。このような効果は、TeO
2が35mol%以上の割合で存在することで十分に発現され、TeO
2量が多くなるほどその効果が高められ得る。したがって、TeO
2はより多量であることが好ましく、例えば、TeO
2はこのガラスフリットの主成分(最大含有成分)であることが好ましい。TeO
2の含有量は、具体的には、40mol%以上であるのが好ましく、45mol%以上であるのがより好ましく、50mol%以上であるのが更に好ましい。しかしながらTeO
2の含有量が多すぎると、シリコン基板の浸食作用が抑制されてファイヤースルー特性が低下し、形成される電極の電気的特性が低下したり焼成マージンが逆に狭くなったりするために好ましくない。かかる観点から、TeO
2の含有量は90mol%以下に制限される。
【0018】
PbOは、ここに開示されるガラスフリットにおいてネットワークフォーマーとして機能するとともに、良好なファイヤースルー特性を発現し、形成される電極の電気的特性を向上させ得る点で好ましい成分である。そしてここに開示される技術においては、上記のTeO
2の多量の含有に伴い低減されるシリコン基板の侵食性を補うために、PbOが1mol%以上20mol%以下の割合で配合される。PbOは、2mol%以上であるのが好ましく、3mol%以上であるのがより好ましい。その一方で、PbOは近年の環境負荷の観点から、含有量を極力低減するのが好ましいとされる成分でもある。かかる観点から、PbOの含有量は15mol%以下であるのが好ましく、13mol%以下であるのがより好ましく、10mol%以下であるのが更に好ましく、8mol%以下であるのが特に好ましく、例えば5mol%以下とすることができる。
【0019】
Bi
2O
3は、TeO
2との2元系ではガラスを形成しないものの、上記PbOとともに良好なファイヤースルー特性を発現させる目的で含まれる成分である。Bi
2O
3は、焼成によりガラスフリットが溶融されたときに、このガラスフリットの粘性増加を抑制する効果がある点でも好ましい。Bi
2O
3の含有量が0.1mol%未満であると十分なファイヤースルー特性を発現させることが困難となり得るために好ましくない。したがって、Bi
2O
3の含有量は0.1mol%以上であるのが好ましく、0.5mol%以上であるのがより好ましく、1mol%以上であるのが特に好ましい。また、Bi
2O
3は含有量が10mol%を超過するとシリコン基板を過剰に侵食し易く電気的特性に悪影響を及ぼし得るために好ましくない。Bi
2O
3の含有量は8mol%以下であるのが好ましく、7mol%以下であるのがより好ましく、5mol%以下であるのが特に好ましい。
【0020】
Li
2Oは、シリコン基板のn
+層に対するドーパントとなり得る成分であり、ガラスフリットがLi
2Oを含有することで、この導電性組成物がn
+層のドナー補償作用を備えるものとなり得る。太陽電池用電極の形成用途では、他のアルカリ成分に見られるような電気的特性の低下の作用は見られず、軟化点を低下させ得ることから、必須の成分として含むようにしている。このような観点から、ここに開示される導電性組成物は、ドナー元素濃度が低く高シート抵抗となりやすいシャローエミッタ構造を採用する太陽電池用の電極形成用途に特に好適であり得る。Li
2Oの含有量が0.1mol%未満であると、ドーパントとしての作用や軟化点を低減する効果が十分に現れ難くなるために好ましくない。したがって、Li
2Oの含有量は、0.5mol%以上であるのが好ましく、1mol%以上であるのがより好ましく、5mol%以上であるのが特に好ましい。また、Li
2Oの含有量は30mol%を超過するとTeO
2の含有量が相対的に低くなるために好ましくない。Li
2Oの含有量は28mol%以下であるのが好ましく、25mol%以下であるのがより好ましく、22mol%以下であるのが特に好ましい。
【0021】
ZnOは、必須の成分ではないが、形成された電極の電気的特性を改善する効果があるために好ましく含むことができる。例えば、開放電圧や短絡電流を向上させることができる。また、ガラスの安定性を高めてガラス化範囲を広げ、焼成後のガラスフリットを結晶化させ難くする効果も有している。このようなZnOの含有量は、30mol%を超過するとTeO
2の含有量が相対的に低くなり、かえって電気的特性の低下を招き得るために好ましくない。
【0022】
MgOは、必須の成分ではないが、ガラスの溶解性を向上させて泡欠陥の発生を抑制したり、ガラスの軟化点を低下させて、ガラスの安定性を高めてガラス化範囲を広げ、焼成後のガラスフリットを結晶化させ難くする効果を有しているため好ましく含むことができる。このようなZnOの含有量は、20mol%を超過するとTeO
2の含有量が相対的に低くなり、かえって電気的特性の低下を招き得るために好ましくない。
【0023】
WO
3は、必須の成分ではないが、Te系ガラスにおいてネットワークフォーマーとして機能し、ガラス化範囲を安定的に拡大したり、ガラス相中でTeを安定化させたりする効果を有しているため好ましく含むことができる。またPbOが少ない配合において、WO
3は接着性を高める効果を発現し得る点でも好ましい成分であり得る。このようなWO
3の含有量は、30mol%を超過するとTeO
2の含有量が相対的に低くなり、かえって電気的特性の低下を招き得るために好ましくない。
【0024】
なお、任意の基本成分であるZnO,MgOおよびWO
3の3成分は、必ずしもこれに限定されるものではないが、TeO
2の含有量が相対的に低くなることを避けるために、合計で40mol%以下(好ましくは36mol%以下)とすることが好ましい。また、これら3成分は、ガラス相の安定性を高めるため、合計で5mol%以上(好ましくは7mol%以上、例えば10mol%以上)とすることが好ましい。
【0025】
なお、ガラスフリットは、その特性を損なわない範囲で他の種々のガラス構成成分や添加成分を含むことができる。例えば、Si,Al,Ba,B,Na,K,Rb,Ag,Zr,Sn,Ti,Fe,Co,Cs,Ge,Ga,In,Ni,Ca,S,Cu,Sr,Se,Mo,Y,As,La,Nd,C,Pr,Gd,Sm,Dy,Eu,Ho,Yb,Lu,Ta,V,Fe,Hf,Cr,Cd,Sb,F,I,Mn,P,CeおよびNbからなる群から選択された1種の元素を単独でまたは2種以上の元素を組み合わせて含まれていてもよい。しかしながら、不要な元素の含有は形成される電極の電気的特性を損ね得る。したがって、ここに開示される技術において、上記の7つの基本成分以外の成分は、合計で5mol%以下、好ましくは4mol%以下、より好ましくは3mol%以下、特に好ましくは2mol%以下、例えば1mol%以下とすることができる。あるいは、不可避的に混入する成分を除き、実質的に0mol%としてもよい。換言すると、実質的に上記の7つの基本成分で100mol%としてもよい。
【0026】
このようなガラスフリットは、導電性組成物において上記のとおりのファイヤーする特性を発現する機能の他、無機バインダとして機能し得る成分である。導電性粉末を構成する導電性粒子同士や、導電性粒子と基板(電極が形成される対象)との結合性を高める働きを有してもいる。
このようなガラスフリットは、下記に説明する導電性粉末と同等かそれ以下の大きさに調整されていることが好ましい。例えば、平均粒子径が3μm以下であることが好ましく、好適には2μm以下、典型的には0.1μm以上2μm以下程度であることがより好ましい。なお、ガラスフリットに関する平均粒子径Dは、空気透過法に基づき計測される比表面積Sと、ガラスフリットの真密度ρとに基づき次式:D=6/(ρS);で算出される球相当径を意味している。
【0027】
ガラスフリットを構成するガラスの軟化点は、特に限定されるものではないが、250〜600℃程度(例えば300〜400℃)であることが好ましい。一例として、下記の実施例に具体的に例示したガラスフリットは、軟化点が300℃以上600℃以下の範囲内に調整されたものである。このような軟化点を有するガラスフリットを含有する導電性組成物は、例えば、太陽電池素子の受光面電極を形成する際に用いると、良好なファイヤースルー特性を発現して高性能な電極形成に寄与するために好ましい。
【0028】
以下、ガラスフリット以外の他の構成成分について説明する。
ここに開示される導電性組成物の固形分の主体をなす導電性粉末としては、用途に応じた所望の導電性およびその他の物性等を備える各種の導電性材料からなる粉末を用いることができる。かかる導電性粉末を構成する材料の一例としては、例えば、金(Au),銀(Ag),銅(Cu),パラジウム(Pd),白金(Pt),スズ(Sn),ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),イリジウム(Ir),オスミウム(Os),ニッケル(Ni)およびアルミニウム(Al)等の金属およびそれらの合金等からなる粉末を考慮することができる。なかでも、太陽電池用電極の形成用途では、金,銀,白金,パラジウム等の貴金属の単体およびこれらの合金(Ag−Pd合金、Pt−Pd合金等)、およびニッケル,銅,スズ,アルミニウム、ならびにこれらの合金等からなるものが、特に好ましい導電性粉末を構成する材料として挙げられる。なお、比較的コストが安く、電気伝導度が優れている等の観点から、銀およびその合金からなる粉末(以下、単に「Ag粉末」という場合がある。)が特に好ましく用いられる。以下、本願発明の導電性組成物について、導電性粉末としてAg粉末を用いる場合を例として、説明を行う。
【0029】
Ag粉末その他の導電性粉末の粒径については特に制限はなく、用途に応じた種々の粒径のものを用いることができる。典型的には、レーザ・散乱回折法に基づく平均粒子径が5μm以下のものが適当であり、平均粒子径が3μm以下(典型的には1〜3μm、例えば1〜2μm)のものが好ましく用いられる。
【0030】
導電性粉末を構成する粒子の形状は特に限定されない。典型的には、球状、麟片状(フレーク状)、円錐状、棒状のもの等を好適に使用することができる。充填性がよく緻密な受光面電極を形成しやすい等の理由から、球状もしくは鱗片状の粒子を用いることが好ましい。使用する導電性粉末としては、粒度分布のシャープな(狭い)ものが好ましい。例えば、粒子径10μm以上の粒子を実質的に含まないような粒度分布のシャープな導電性粉末が好ましく用いられる。この指標としてレーザ散乱回折法に基づく粒度分布における累積体積10%時の粒径(D10)と累積体積90%時の粒径(D90)との比(D10/D90)が採用できる。粉末を構成する粒径が全て等しい場合はD10/D90の値は1となり、逆に粒度分布が広くなる程このD10/D90の値は0に近づくことになる。D10/D90の値が0.2以上(例えば0.2以上0.5以下)であるような比較的狭い粒度分布の粉末の使用が好ましい。
このような平均粒子径及び粒子形状を有する導電性粉末を用いた導電性組成物は、導電性粉末の充填性がよく、緻密な電極を形成し得る。このことは、細かい電極パターンを形状精度よく形成するにあたって有利である。
【0031】
なお、Ag粉末等の導電性粉末は、その製造方法等により特に限定されない。例えば、周知の湿式還元法、気相反応法、ガス還元法等によって製造された導電性粉末(典型的にはAg粉末)を必要に応じて分級して用いることができる。かかる分級は、例えば、遠心分離法を利用した分級機器等を用いて実施することができる。
【0032】
以上の導電性粉末およびガラスフリットを分散させるビヒクルとしては、所望の目的に応じて、従来よりこの種の導電性組成物に用いられている各種のものを特に制限はなく使用することができる。典型的には、ビヒクルは、種々の組成の有機バインダと有機溶剤とから構成され得る。かかる有機ビヒクル成分において、有機バインダは全てが有機溶剤に溶解していても良いし、一部のみが溶解または分散(いわゆるエマルジョンタイプの有機ビヒクルであり得る。)していても良い。
有機バインダとしては、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系高分子、ポリブチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等をベースとする有機バインダが好適に用いられる。特にセルロース系高分子(例えばエチルセルロース)が好ましく、特に良好なスクリーン印刷を行うことができる粘度特性を実現することができる。
【0033】
有機ビヒクルを構成する溶媒として好ましいものは、沸点がおよそ200℃以上(典型的には約200〜260℃)の有機溶媒である。沸点がおよそ230℃以上(典型的にはほぼ230〜260℃)の有機溶媒がより好ましく用いられる。このような有機溶剤としては、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート(BCA:ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート)等のエステル系溶剤、ブチルカルビトール(BC:ジエチレングリコールモノブチルエーテル)等のエーテル系溶剤、エチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ミネラルスピリット、ターピネオール、メンタノール、テキサノール等の有機溶媒を好適に用いることができる。特に好ましい溶剤成分として、ブチルカルビトール(BC)、ブチルカルビトールアセテート(BCA)、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート等が挙げられる。
【0034】
導電性組成物に含まれる各構成成分の配合割合は、電極の形成方法、典型的には印刷方法等によっても異なり得るが、概ね、従来より採用されている組成の導電性組成物に準じた配合割合とすることができる。一例として、例えば、以下の配合を目安に各構成成分の割合を決定することができる。
すなわち、導電性組成物中に占める導電性粉末の含有割合は、導電性組成物の全体を100質量%としたとき、およそ70質量%以上(典型的には70質量%〜95質量%)とすることが適当であり、より好ましくは80質量%〜90質量%程度、例えば85質量%程度とすることが好ましい。導電性粉末の含有割合を高くすることは、形状精度がよく緻密な電極のパターンを形成し得るとの観点から好ましい。一方、この含有割合が高すぎると、導電性組成物の取扱性や、各種の印刷性に対する適性等が低下することがあり得る。
【0035】
導電性粉末に対するガラスフリットの割合は、良好なファイヤースルー特性や基板との接着性を得るために、導電性粉末を100質量部としたとき、典型的には0.1質量部以上とすることができ、0.5質量部以上とするのが好ましく、1質量部以上とするのがより好ましい。なお、過剰な添加は形成される電極の抵抗を高めるために好ましくなく、典型的には12質量部以下とすることができ、10質量部以下とするのが好ましく、8質量部以下とするのがより好ましい。
【0036】
そして、有機ビヒクル成分のうち有機バインダは、導電性粉末の質量を100質量%としたとき、およそ15質量%以下、典型的には1質量%〜10質量%程度の割合で含有することが好ましい。特に好ましくは、導電性粉末100質量%に対して2質量%〜6質量%の割合である。なお、かかる有機バインダは、例えば、有機溶剤中に溶解している有機バインダ成分と、有機溶剤中に溶解していない有機バインダ成分とが含まれていても良い。有機溶剤中に溶解している有機バインダ成分と、溶解していない有機バインダ成分とが含まれる場合、それらの割合に特に制限はないものの、例えば、有機溶剤中に溶解している有機バインダ成分が4割〜10)を占めるようにすることができる。
なお、上記有機ビヒクルの全体としての含有割合は、導電性組成物に求められる性状(典型的には粘度,濃度等)に合わせて可変である。おおよその目安として、導電性組成物全体を100質量%としたとき、例えば5質量%〜30質量%となる量が適当であり、5質量%〜20質量%であるのが好ましく、5質量%〜15質量%(特に7質量%〜12質量%)となる量がより好ましい。
【0037】
また、ここに開示される導電性組成物は、本発明の目的から逸脱しない範囲において、上記以外の種々の無機添加剤及び/又は有機添加剤を含ませることができる。無機添加剤の好適例として、上記以外の金属酸化物粉末(例えば、NiO,ZnO
2、Al
2O
3等)、その他種々のフィラーが挙げられる。また有機添加剤の好適例として、例えば、界面活性剤、消泡剤、酸化防止剤、分散剤、粘度調整剤等の添加剤が挙げられる。
【0038】
以上の導電性組成物は、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷およびインクジェット印刷等に適用する印刷用組成物(ペースト、スラリーあるいはインク等という場合もある。)として好適である。たとえば、細線化および高アスペクト比化が求められる電極パターンの形成に際し、このような汎用の印刷手段を採用するときに特に好ましく用いることができる。そこで、結晶シリコン型太陽電池素子を例にし、この受光面上により微細なフィンガー電極を含む櫛型電極パターンをスクリーン印刷により形成する例を示しながら、ここに開示される太陽電池素子についての説明を行う。なお、太陽電池素子に関し、本発明を特徴付ける受光面電極の構成以外については、従来の太陽電池と同様であってよく、従来と同様の構成および従来と同様の材料の使用に関する部分については本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。
【0039】
図1および
図2は、本発明の実施により好適に製造され得る太陽電池素子(セル)10の一例を模式的に図示したものであり、単結晶若しくは多結晶或いはアモルファス型のシリコン(Si)からなるウェハを半導体基板11として利用する、いわゆるシリコン型太陽電池素子10である。
図1に示すセル10は、一般的な片面受光タイプの太陽電池素子10である。具体的には、この種の太陽電池素子10は、シリコン基板(Siウエハ)11のp−Si層(p型結晶シリコン)18の受光面側にpn接合形成により形成されたn−Si層16を備え、その表面にはCVD等により形成された酸化チタンや窒化ケイ素から成る反射防止膜14と、Ag粉末等を主体として含む導電性組成物から形成される受光面電極12,13とを備える。
【0040】
一方、p−Si層18の裏面側には、受光面電極12と同様に所定の導電性組成物(典型的には導電性粉末がAg粉末である導体性ペースト)により形成される裏面側外部接続用電極22と、いわゆる裏面電界(BSF;Back Surface Field)効果を奏する裏面アルミニウム電極20とを備える。アルミニウム電極20は、アルミニウム粉末を主体とする導電性組成物を印刷・焼成することによって裏面の略全面に形成される。この焼成時に図示しないAl−Si合金層が形成され、アルミニウムがp−Si層18に拡散してp
+層24が形成される。かかるp
+層24、即ちBSF層が形成されることによって、光生成されたキャリアが裏面電極近傍で再結合することが防止され、例えば短絡電流や開放電圧(Voc)の向上が実現される。
【0041】
図2に示すように、太陽電池素子10のシリコン基板11の受光面11A側には、受光面電極12,13として、数本(例えば、1本〜3本程度)の相互に平行な直線状のバスバー(接続用)電極12と、該バスバー電極12と交差するように接続する相互に平行な多数の(例えば、60本〜90本程度)筋状のフィンガー(集電用)電極13とが形成されている。
フィンガー電極13は、受光により生成した光生成キャリア(正孔および電子)を収集するため多数本形成されている。バスバー電極12はフィンガー電極13により収集されたキャリアを集電するための接続用電極である。このような受光面電極12,13が形成された部分は、太陽電池素子の受光面11Aにおいて非受光部分(遮光部分)を形成する。従って、かかる受光面11A側に設けられるバスバー電極12とフィンガー電極13(特に数の多いフィンガー電極13)をできるだけファインライン化することにより、これに対応した分の非受光部分(遮光部分)が低減され、セル単位面積あたりの受光面積が拡大される。これは、極めてシンプルに太陽電池素子10の単位面積あたりの出力を向上させるものとなり得る。
【0042】
このとき、細線化された電極の高さが高く均一であれば良いが、例えば、その一部にでもダレや凹みが発生すると、かかるダレや凹みの箇所は抵抗の増大を招き、集電にロスが生じてしまう。そしてまた、細線化された電極の一部にでも断線が生じると、かかる断線箇所を通じで発電電流を集電することは不可能となる(高抵抗の基板を流れる電流として、集電ロスが発生した状態で集電することとなる)。したがって、太陽電池素子の受光面電極の形成には、電気的な特性が高いことはもちろんのこと、印刷による形状安定性に優れた導電性組成物が求められる。
【0043】
このような太陽電池素子10は、概略的には、次のようなプロセスを経て製造される。
即ち、適当なシリコンウェハを用意し、熱拡散法やイオンプランテーション等の一般的な技法により所定の不純物をドープして上記p−Si層18やn−Si層16を形成することにより、上記シリコン基板(半導体基板)11を作製する。次いで、例えばプラズマCVD等の技法により窒化ケイ素等からなる反射防止膜14を形成する。
その後、上記シリコン基板11の裏面11B側に、先ず、所定の導電性組成物(典型的には導電性粉末がAg粉末である導電性組成物)を用いて所定のパターンにスクリーン印刷し、乾燥することにより、焼成後に裏面側外部接続用電極22(
図1参照)となる裏面側導体塗布物を形成する。次いで、裏面側の全面に、アルミニウム粉末を導体成分とする導電性組成物をスクリーン印刷法等で塗布(供給)し、乾燥することによりアルミニウム膜を形成する。
【0044】
次いで、上記シリコン基板11の表面側に形成した反射防止膜14上に、典型的には、スクリーン印刷法に基づいて
図2に示すような配線パターンで本発明の導電性組成物を印刷(供給)する。印刷する線幅は特に限定しないが、本発明の導電性組成物を採用することによって、線幅が70μm程度若しくはそれ以下(好ましくは50μm〜60μm程度の範囲、より好ましくは40μm〜50μm程度の範囲)のフィンガー電極を備える電極パターンの塗膜(印刷体)を形成する。次いで、適当な温度域(典型的には100℃〜200℃、例えば120℃〜150℃程度)で基板を乾燥させる。好適なスクリーン印刷法の内容に関しては後述する。
【0045】
このように両面にそれぞれペースト塗布物(乾燥膜状の塗布物)が形成されたシリコン基板11を、大気雰囲気中で例えば近赤外線高速焼成炉のような焼成炉を用い、適切な焼成温度(例えば700〜900℃)で焼成する。
かかる焼成によって、受光面電極(典型的にはAg電極)12,13および裏面側外部接続用電極(典型的にはAg電極)22とともに、焼成アルミニウム電極20が形成され、また同時に、図示しないAl−Si合金層が形成されるとともにアルミニウムがp−Si層18に拡散して上述したp
+層(BSF層)24が形成され、太陽電池素子10が作製される。
なお、上記のように同時焼成する代わりに、例えば受光面11A側の受光面電極(典型的にはAg電極)12,13を形成するための焼成と、裏面11B側のアルミニウム電極20および外部接続用電極22を形成するための焼成とを別々に実施してもよい。
【0046】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をこの実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
[ガラスフリットの作製]
以下の手順で下記の表1に示す例1〜例50の組成のガラスフリットを用意した。まず、Pb源としては鉛丹Pb
3O
4を、Te源としてはTeO
2を、Bi源としてはBi
2O
3を、Li源としては炭酸リチウムLi
2CO
3を、Zn源としてはZnOを、Mg源としてはMgOを、W源としてはWO
3を、Si源としてはSiO
2を、Mo源としてはMoO
3を、Na源としては炭酸ナトリウムNa
2CO
3を用いた。そしてこれらの原料を、目的のガラス組成となるように化学量論組成で配合し、坩堝に投入した後、900〜1100℃で加熱して溶融し、急冷することでガラス組成物を得た。
【0047】
次いで、このガラス組成物を遊星ミルを用いて粉砕し、必要に応じて分級することで、平均粒子径が0.3〜3μmの範囲のガラスフリットを得た。なお、ここでガラスフリットの平均粒子径は、空気透過法に基づき計測される比表面積と、ガラスフリットの真密度とに基づき算出される球相当径である。
また、表1の「基本成分の合計」の欄には、ここに開示されるガラスフリットの基本成分である7つの酸化物成分;PbO,TeO
2,Bi
2O
3,Li
2O,ZnO,MgOおよびWO
3;の合計の割合を示している。
【0048】
導電性粉末としては、平均粒子径が2μmで略球状の銀(Ag)粉末を用いた。有機ビヒクルとしては、エチルセルロース(EC)をテルピネオールに溶解したものを用いた。溶剤としては、テキサノールを用いた。そして銀粉末:ガラスフリット:有機ビヒクル:溶剤の割合が、質量比で、89:2:6:3となるよう秤量し、撹拌機等を用いて混合した後、例えば3本ロールミルで分散処理を行うことで例1〜50の導電性組成物を調製した。なお、本実施例では、後述の印刷性を概ね同等とするために、例1〜50の導電性組成物を粘度が180〜200Pa・s(20rpm,25℃)になるように調整した。
【0049】
[試験用太陽電池素子(受光面電極)の作製]
上記で得られた例1〜50の導電性組成物を用いて受光面電極(即ち、フィンガー電極とバスバー電極からなる櫛型電極)を形成することで、例1〜50の太陽電池素子を作製した。具体的には、まず、市販の156mm四方(6インチ角)の寸法の太陽電池用p型単結晶シリコン基板(板厚180μm)を用意し、その表面(受光面)をフッ酸および硝酸の混酸を用いてエッチングすることでダメージ層を除去するとともに、凹凸のテクスチャ構造面を形成した。次いで、上記テクスチャ構造面に対してリン含有溶液を塗布し、熱処理を施すことで、このシリコン基板の受光面に厚さ約0.5μmのn−Si層(n
+層)を形成した。そしてこのn−Si層上に、プラズマCVD(PECVD)法により厚みが約80nm程度の窒化ケイ素膜を製膜し、反射防止膜とした。
【0050】
次いで、シリコン基板の裏面側に、所定の銀電極形成用ペーストを用いてスクリーン印刷し、乾燥させることにより、裏面側電極パターンを形成した。この裏面側電極パターンは、後工程の焼成により裏面側外部接続用電極となるものである。そして、裏面側の全面にアルミニウム電極形成用ペーストをスクリーン印刷し、乾燥させることにより、アルミニウム膜を形成した。
その後、上記で用意した例1〜50の導電性組成物を反射防止膜の上にスクリーン印刷し、120℃で乾燥させることで、受光面電極(銀電極)用の電極パターンを形成した。印刷製版にはスクリーンメッシュ(SUS400製、線径18μm、乳剤厚15μm)を用い、グリッドラインの幅が45μmになるように印刷条件を設定した。
このように電極パターンを印刷した基板を、大気雰囲気中、近赤外線高速焼成炉を用いて焼成温度700〜800℃で焼成することで、例1〜50の評価用の太陽電池を作製した。
【0051】
[曲線因子(FF)]
例1〜50の太陽電池のI−V特性を、ソーラーシミュレータ(Beger社製、PSS10)を用いて測定し、得られたI−V曲線から曲線因子(Fill Factor:FF)を算出した。FFは、JIS C−8913に規定される「結晶系太陽電池セル出力測定方法」に基づいて算出した。FFの算出結果を、百分率の形式で表し、表1の「FF」の欄に示した。また、表1の「出力特性」の欄に、FFが76%以上であった場合に○を、FFが75%以上76%未満であった場合に△を、FFが75%未満であった場合に×を記入した。
【0052】
[接着強度]
次に、上記のとおり作製した例1〜50の太陽電池における、銀電極の接着強度を評価した。銀電極の接着強度(剥離強度)の評価は、
図3に示したような、剥離試験機300を用いて行った。
具体的には、剥離試験機300の固定治具40上に固定ねじ43及び係止板44を介してガラス基板41を固定し、そのガラス基板41上にエポキシ接着材42を介して、評価用の太陽電池10の受光面側を上にし、裏面側を下にして載置し、固着した。
こうしてガラス基板41上に固着した評価用の太陽電池の上面側に位置する銀電極12上に、タブ線35をハンダ層30を介してハンダ付けした。
そして、剥離試験機300を固定治具40の底面が180°の角度になるよう傾斜させ、タブ線35に予め形成されている延長部35eを鉛直上方に引っ張ることにより(矢印45参照)、タブ線35/ハンダ層30/銀電極12の接着強度を測定した。表1の「接着強度」の欄に、接着強度の測定結果が3N/mm以上の場合に○を、2N/mm以上3N/mm未満の場合に△を、2N/mm未満の場合に×を記入した。
【0054】
[評価]
本実施形態における例1〜50の導電性組成物は、いずれもTeO
2を主ガラス構成成分として含むガラスフリットを含んでいる。
例14〜例23は、TeO
2の含有量を大きく変化させた場合を示している。例16〜例22に示されるように、TeO
2量が35〜90mol%の範囲にあると、焼成時に銀粉末からガラス相へとAg成分を取り込む(固溶させる)とともに冷却時にAg微粒子として析出させて、電極と基板との良好なオーミックコンタクトを実現できたと考えられる。一方、例14および例15のように、TeO
2量が35mol%を下回ると、これらの作用が十分に発揮されず、出力特性および接着強度が十分に得られないことが確認できた。また、例23のようにTeO
2量が90mol%を超過すると、ファイヤースルー特性が十分に得られず、オーミックコンタクトが阻害されることがわかった。
【0055】
また、例1〜例13は、PbOの含有量を大きく変化させた場合を示している。PbOは従来技術からもわかるように、他の成分との関係で、20mol%を超えて多量に含むこともできる成分である。ここに開示される技術においては、例3〜例12に示されるように、PbO量がおおむね1〜20mol%の範囲に収めるようにしている。PbO量が1mol%であっても十分な出力特性および接着強度が得られることが確認できた。一方で、例1および例2に示されるように(特に例2と例3との比較から解るように)、PbO量が1mol%を下回ると、PbOによる出力向上の効果が十分に得られないために、出力特性が十分に得られないことが確認できた。また、例12と例13との比較から解るように、かかる系ではPbO量が20mol%を超過すると、出力特性は十分であるものの、基板との接着性が十分に得られ難くなることがわかった。
【0056】
例24〜例30は、Bi
2O
3の含有量を大きく変化させた場合を示している。ここに開示される技術においては、例えば例25〜例29に示されるように、Bi
2O
3量が0.1〜10mol%の範囲となるようにしている。例24に示されるように、Bi
2O
3量が0.1mol%を下回って含まれない場合は、ガラスフリットの軟化温度が十分に低下されず、出力特性が急激に劣ってしまうことがわかった。一方で、例30に示されるように、Bi
2O
3量が10mol%を超過すると、電気的特性が十分に得られ難い。
【0057】
例31〜例35は、Li
2Oの含有量を大きく変化させた場合を示している。ここに開示される技術においては、例えば例32〜例34に示されるように、Li
2O量が0.1〜30mol%の範囲となるようにしている。例31に示されるように、Li
2O量が含まれない場合は、Li
2Oのドーパントとしての作用や軟化点を低減する効果が得られず、出力特性が急激に劣ってしまう。一方で、例35に示されるように、Li
2O量が30mol%を超過すると、出力特性および接着強度が十分に得られ難いことが確認できた。
【0058】
また、例36〜例39は、ZnOの含有量を変化させた場合を示している。ここに開示される技術においては、例39に示されるように、ZnO量が30mol%を超過すると、出力特性および接着強度が十分に得られ難くなることが確認できた。
例40〜例43は、MnOの含有量を変化させた場合を示している。ここに開示される技術においては、例43に示されるように、MgO量が20mol%を超過すると、出力特性および接着強度が十分に得られ難くなることが確認できた。
例44〜例47は、WO
3の含有量を変化させた場合を示している。ここに開示される技術においては、例47に示されるように、WO
3量が20mol%を超過すると、出力特性が十分に得られ難くなることが確認できた。
【0059】
なお、例48〜例50は、上記の基本成分以外の成分(本実施形態では、SiO
2,MoO
3,Na
2O)を含む場合を示している。ここに開示される技術においては、これらの例に示されるように、上記以外の成分であっても、総量が少なければ(例えば5mol%以下の範囲)、出力特性および接着強度を損ねることなく含有できることが示された。
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。