特許第5990443号(P5990443)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5990443
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】地盤改良材の注入方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20160901BHJP
   E02D 3/10 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   E02D3/12 101
   E02D3/10 101
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-231334(P2012-231334)
(22)【出願日】2012年10月19日
(65)【公開番号】特開2014-84555(P2014-84555A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130362
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 嘉英
(72)【発明者】
【氏名】大川 尚哉
(72)【発明者】
【氏名】手塚 広明
(72)【発明者】
【氏名】林 幹朗
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇寛
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−158051(JP,A)
【文献】 特開昭61−237717(JP,A)
【文献】 特開2007−303270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/00〜 3/115
E02D 3/12
E02D 27/00〜 27/52
E02D 29/00〜 37/00
E02D 19/00〜 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揚水手段を用いて、改良対象となる地盤の地下水位を一旦低下させて、土粒子中の間隙水を排出する工程と、
注入手段を用いて、前記地盤中に地盤改良材を注入する工程と、
前記揚水手段を停止することにより、前記地盤の地下水位を回復させると共に、前記地盤中に地盤改良材を注入する工程を継続して、地下水位の回復に伴って前記間隙水が排出された土粒子の間隙中に前記地盤改良材を拡散充填する工程と、
を含むことを特徴とする地盤改良材の注入方法。
【請求項2】
前記地下水位を低下させる工程よりも前に、前記改良対象となる地盤において、地下水が流入してくる位置又は地盤改良材を拡散させたくない位置の少なくとも一方を囲う止水壁を設ける工程を実施することを特徴とする請求項1に記載の地盤改良材の注入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の液状化防止等のために地盤中に地盤改良材を注入する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
埋め立て地をはじめとして、地下水位が高い砂質地盤では、地震の震動により液状化現象が発生し、マンホールや下水管が押し上げられて地表面から突出したり、建造物が傾いたりする被害が発生している。このような液状化現象を未然に防止するためには、液状化が懸念される地盤に対して改良工事を行わなければならない。
【0003】
従来から行われている地盤の液状化防止方法には種々のものがある。例えば、深層混合処理工法により地盤中に地盤改良体を形成する方法(特許文献1参照)や、対象地盤に地盤硬化材を高圧注入して、地盤中に地盤硬化材注入層を造成する方法(特許文献2参照)等が知られている。
【0004】
特許文献1に記載された技術は、地盤に貫入した噴射管の噴射口から、空気を含む高圧流体ジェットを噴射して地盤を切削しつつ攪拌する工程と、噴射管を上昇させる工程とを行うことにより地盤改良体を形成するものである。
【0005】
特許文献2に記載された技術は、上下に段差をもって背向する対の重合噴射ノズルを有する注入ロッドを対象地盤に挿入し、上段ノズル及び下段ノズルから硬化材を高圧噴射して硬化材注入層を造成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−62616号公報
【特許文献2】特開2012−41794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、液状化防止の対象となる地盤は飽和地盤であり、地盤中に地下水が存在する。地盤中に地下水が存在する地盤に対して、特許文献1及び特許文献2に記載されたように、地盤中に硬化材等の地盤改良材を注入する技術を適用する場合には、圧力をかけて地盤改良材を注入しなければならない。また、地盤改良材の注入範囲が局所的(例えば2.0m程度の範囲)となるため、広範囲にわたって地盤改良を行うためには、地盤改良材を注入すべき箇所が増加する。このため、工期が長期にわたるばかりでなく、工費が嵩むという不都合があった。
【0008】
さらに、圧力をかけて地盤改良材を注入するため、改良対象となる地盤中の強度が均一でない場合、すなわち、地盤強度が弱い箇所が存在する場合には、地盤強度が強い箇所を避けて、地盤強度が弱い箇所のみに地盤改良材が浸入しやすくなる。このため、地盤改良材の注入範囲が不均一となり、改良対象となる地盤全体を均一に処理することができないこともあった。
【0009】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、改良対象となる地盤中に、確実かつ均一に地盤改良材を行き渡らせることが可能な地盤改良材の注入方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の地盤改良材の注入方法は、主要な工程として、地下水位の低下工程と、地盤改良材の注入工程と、地下水位の回復及び地盤改良材の拡散充填工程とを含んでいる。
【0011】
地下水位の低下工程は、揚水手段を用いて、改良対象となる地盤の地下水位を一旦低下させて、土粒子中の間隙水を排出する工程である。地盤改良材の注入工程は、注入手段を用いて、地盤中に地盤改良材を注入する工程である。地下水位の回復及び地盤改良材の拡散充填工程は、揚水手段を停止することにより、地盤の地下水位を回復させると共に、地盤中に地盤改良材を注入する工程を継続して、地下水位の回復に伴って間隙水が排出された土粒子の間隙中に地盤改良材を拡散充填する工程である。
【0012】
また、地下水位を低下させる工程よりも前に、改良対象となる地盤において、地下水が流入してくる位置又は地盤改良材を拡散させたくない位置の少なくとも一方を囲う止水壁を設ける工程を実施することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の地盤改良材の注入方法によれば、地盤中の地下水位を低下させた後に地盤改良材を注入し、地下水位の回復に伴って地盤改良材を地盤中に拡散充填する。このため、地盤全体にわたって同様な圧力で地盤改良材を注入することができるので、土粒子の間隙内に地盤改良材を均一に拡散充填して、均一な改良地盤を形成することが可能となる。
【0014】
また、揚水手段を停止すると、短期間で地下水位が回復するため、地盤改良材の拡散充填も短期間で実施することができ、従来工法と比較して工期が短縮され、工費も低減することが可能となる。
【0015】
また、止水壁を設けて、地下水位の低下工程及び地盤改良材の注入・拡散充填工程を実施することにより、改良範囲を限定することができる。したがって、改良対象となる地盤に対して、効率的に地盤改良材を注入できるだけでなく、地盤改良材を拡散させたくない範囲に地盤改良材が拡散することがないので、適切な地盤改良を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る地盤改良材の注入方法の説明図。
図2】本発明の実施形態に係る地盤改良材の注入方法において、地盤中に地盤改良材を注入して拡散充填する工程を示す模式図。
図3】本発明の実施形態に係る地盤改良材の注入方法で使用する揚水手段の一例を示す模式図。
図4】本発明の実施形態に係る地盤改良材の注入方法で使用する注入手段の一例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の地盤改良材の注入方法の実施形態を説明する。図1図4は本発明の実施形態に係る地盤改良材の注入方法を説明するもので、図1は地盤改良材の注入方法の説明図、図2は地盤中に地盤改良材を注入して拡散充填する工程を示す模式図、図3は揚水手段の一例を示す模式図、図4は注入手段の一例を示す模式図である。
【0018】
<地盤改良材の注入方法の概要>
我が国では、プレート境界型巨大地震の発生により地盤の液状化現象が発生し、これによる大規模な被害が予想されている。実際、東日本大震災では、埋立地、堤防や盛り土、護岸等で液状化現象が発生して、様々な被害をもたらした。このため、近い将来発生すると予測されている大規模地震に備えて、早急に液状化対策を行うことが望まれている。
【0019】
本発明の実施形態に係る地盤改良材の注入方法は、改良対象となる地盤中の地下水位を低下させた後に地盤改良材を注入し、地下水位の回復に伴って注入した地盤改良材を地盤中に拡散充填する方法であり、大規模な工事を行うことなく、適切かつ確実に地盤改良を行うことを可能としたものである。
【0020】
なお、以下に示す実施形態では、飽和地盤において地下水位を低下させて、一旦、地盤を不飽和化させ、この不飽和化地盤に地盤改良材を注入して、地下水位の回復(上昇)に伴って地盤改良材を地盤中に拡散充填し、液状化対策を行う工事を例にとって説明を行うが、本発明の地盤改良材の注入方法は、液状化対策工事にのみ適用されるものではなく、地盤改良材の注入を行う工事に対して広く適用することができる。
【0021】
<揚水手段>
本発明の実施形態に係る地盤改良材の注入方法では、図1及び図3に示すように、井戸10及び揚水を行うための地下水汲上ポンプ20が揚水手段として機能する。なお、揚水を行うための地下水汲上ポンプ20は、地盤中の地下水位を低下させることができれば、どのようなポンプを用いてもよい。例えば、井戸10の底部に設置された重力排水型の揚水ポンプを使用することもできるし、井戸10中に負圧を発生させて揚水を行う負圧ポンプを使用することもできる。
【0022】
なお、負圧ポンプを用いた場合の方が、より一層短時間で地下水位を低下させることができる。また、井戸10の数は、改良対象となる地盤の地質、地下水の湧出状況、改良範囲等に応じて、適宜変更して実施することができる。また、地下水汲上ポンプ20により揚水された地下水は、貯留タンク30に蓄えられ、適切な水質改善処理(例えば、濁水処理)を施した後に放流される。
【0023】
<注入手段>
本発明の実施形態に係る地盤改良材の注入方法では、図1及び図4に示すように、改良対象となる地盤中に注入管40を挿入し、注入管40に接続した注入装置(地盤改良材タンク50及び注入ポンプ60)を用いて、地盤中に地盤改良材を注入する。
【0024】
さらに具体的に説明すると、例えば、地盤改良材を地盤改良材タンク50に貯留し、この地盤改良材を注入ポンプ60により注入管40に送出し、地盤中に挿入された注入管40の先端部近傍に設けた注入口41から噴出させることにより、地盤中に地盤改良材を注入する。なお、地盤改良材を地盤中に広く行き渡らせるために、注入管40を引き抜きながら地盤改良材の注入を行ってもよい。また、注入管40の長さ方向の複数箇所に注入口41を設けて、地盤改良材を地盤中に広く行き渡らせることもできる。
【0025】
なお、注入手段は、地盤中に地盤改良材を注入できればとのような装置であってもよく、一般的に使用されている装置を使用し、あるいは注入する地盤改良材の種類に合わせて改良を施して使用することができる。一般的な注入手段としては、二重管ストレーナを用いて削孔及び薬材注入を行う装置、ケーシングを用いて削孔を行った後に孔内に注入管40を挿入して薬材注入を行う装置、曲がりボーリングを行って薬材注入を行う装置等、種々の装置が存在する。
【0026】
<地盤改良材>
本発明で使用する地盤改良材は、地盤中に浸透拡散させるため、ゲルタイムが長いということが条件となるが、この条件さえ満たせば、懸濁型、溶液型、高粘性材料等、どのような地盤改良材を用いてもよい。
【0027】
<地盤改良材の注入方法の工程>
本発明の実施形態に係る地盤改良材の注入方法では、図1(a)に示すように、飽和状態の地盤において、揚水手段(井戸10及び地下水汲上ポンプ20)を用いて地盤中の地下水を揚水し、図1(b)に示すように、地下水位を低下させる。地下水位が低下すると、それまで飽和状態だった地盤が不飽和化する。
【0028】
地下水位が所定の位置(深さ)まで低下したら、図1(c)に示すように、注入手段(注入管40及び注入ポンプ60)を用いて地盤中に地盤改良材を注入する。続いて、図1(d)に示すように、地下水汲上ポンプ20を停止して地下水位を回復させると共に、地下水位の回復(上昇)に伴って地盤改良材を地盤中に拡散充填する。なお、地下水汲上ポンプ20を停止した後も、地盤中に地盤改良材が行き渡るまで、地盤改良材の注入を継続することが好ましい。
【0029】
また、本発明の実施形態に係る地盤改良材の注入方法では、地下水位を低下させる工程よりも前に、改良対象となる地盤の少なくとも一部を囲う止水壁70を設ける工程を実施することが好ましい。この止水壁70は、例えば、図3及び図4に示すように、改良対象となる地盤を囲むように設置するが、改良対象となる地盤の全周囲を取り囲むのではなく、特に、地下水が流入してくる位置のみに止水壁70を設けたり、地盤改良材を拡散させたくない位置のみに止水壁70を設けたりすることができる。
【0030】
<地盤改良材の拡散充填>
本発明の実施形態に係る地盤改良材の注入方法で改良対象となる地盤には、図2(a)に示すように、土粒子80の間に間隙水90が存在する。そして、揚水手段を稼働して、改良対象となる地盤の地下水位を低下させると、図2(b)に示すように、土粒子80の間に存在する間隙水90が排出され、間隙100が生じる。この間隙100内には空気が存在する。
【0031】
そして、揚水手段を停止して、地盤の地下水位を回復させると、図2(c)に示すように、間隙水90が排出された間隙100に地盤改良材110が拡散充填される。これにより、地盤のせん断強度が大きくなり、過剰間隙水圧の発生が抑制されて、地盤の液状化強度が向上する。
【0032】
<従来技術との比較>
本発明の地盤改良材の注入方法は、改良対象となる地盤中に、圧力をかけて地盤改良材を強制的に注入する従来の地盤改良材の注入方法とはまったく異なる新たな発想に基づくものである。すなわち、本発明の地盤改良材の注入方法では、地盤の地下水位を一旦低下させて、土粒子80中の間隙水90を排出した後、地下水位を回復させることにより、地下水位の回復(上昇)に伴って地盤改良材を地盤中(土粒子の間隙中)に拡散充填する点に特徴がある。
【0033】
そして、本発明の地盤改良材の注入方法は、従来の薬液注入工法(地盤改良材の注入工法)を用いた種々の用途に適用可能であり、特に改良地盤の均一性が求められる液状化防止や、止水等の用途に適用すると、本発明の優れた効果を十分に発揮することができる。
【0034】
また、従来の地下水位低下技術や薬材注入技術を応用して、地盤中の地下水位を低下させて地盤改良材を注入し、その後、地下水位を回復させるだけでよいため、工期の短縮、工事費用の低減等、種々の優れた効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0035】
10 井戸
20 地下水汲上ポンプ
30 貯留タンク
40 注入管
41 注入口
50 地盤改良材タンク
60 注入ポンプ
70 止水壁
80 土粒子
90 間隙水
100 間隙
110 地盤改良材
図1
図2
図3
図4