(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加工対象物に雌ネジ部を有するネジ穴を形成する際には、基本的に、下穴の形成、雌ネジ部の形成、面取り加工という3工程が必要となるが、特許文献1や特許文献2に記載された工具を用いても、これら3工程のうちの雌ネジ部の形成または面取り加工を他の工具を用いて別途行う必要があり、ネジ穴の加工時間を短縮化することができない。また、特許文献3に記載の複合加工工具によれば、工具を交換することなく、1本の複合加工工具のみで、穴開け加工、ネジ切り加工および面取り加工を実行することができる。しかしながら、特許文献3に記載の複合加工工具を用いた場合、ネジ切り加工に際して当該工具の軸心をネジ穴の軸心からオフセットさせることが必要となり、面取り加工に際して工具の軸心をネジ穴の軸心から更に大きくオフセットさせることが必要となる。このため、特許文献3に記載の複合加工工具を用いても、結果的にネジ穴の加工時間を短縮化することができない。
【0005】
そこで、本発明は、単体で下穴、雌ネジ部および面取り部を形成可能とし、雌ネジ部と開口縁に形成された面取り部とを有するネジ穴の加工時間を短縮化することができる穴加工工具の提供を主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による穴加工工具は、上記主目的を達成するために以下の手段を採っている。
【0007】
本発明による穴加工工具は、
雌ネジ部と、開口縁に形成された面取り部とを有するネジ穴を加工対象物に形成する穴加工工具であって、
回転駆動されると共に軸方向に送られて前記加工対象物に下穴を形成するドリル部と、
前記ドリル部よりも送り方向における後方に配置され、前記ドリル部と一体に回転すると共に前記送り方向に一体に移動するタップと、
前記タップよりも前記送り方向における後方に配置され、前記ドリル部および前記タップと一体に回転可能であると共に、前記ドリル部および前記タップに対して前記送り方向に沿って移動可能な面取り刃と、
前記面取り刃を前記加工対象物に対して押し付けると共に、前記面取り刃に作用する切削抵抗に応じて該面取り刃が前記ドリル部および前記タップに対して前記送り方向に沿って移動することを許容する付勢手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
この穴加工工具により雌ネジ部と開口縁に形成された面取り部とを有するネジ穴を加工対象物に形成するに際しては、ドリル部を回転駆動しながら加工対象物に対して送り込んでいく。これにより、加工対象物には、まず、ドリル部によって下穴が形成されていく。また、ドリル部よりも送り方向における後方に配置されたタップは、当該ドリル部と一体に回転しながら送り方向に一体に移動する。これにより、タップは、ドリル部(穴加工工具)が加工対象物に対して送り込まれていくのに従って当該加工対象物に接触すると共に、ドリル部により形成された下穴に雌ネジを形成していく。更に、タップよりも送り方向における後方に配置された面取り刃は、ドリル部およびタップと一体に回転可能であると共にドリル部およびタップに対して送り方向に沿って移動可能である。このため、面取り刃は、ドリル部およびタップ(穴加工工具)が加工対象物に対して送り込まれていくのに従って当該加工対象物に接触し、付勢手段によって加工対象物に対して押し付けられながら、雌ネジ部の送り方向における後方に面取り部を形成していく。そして、面取り刃による面取り部の形成が進行し、面取り刃に作用する切削抵抗による力が付勢手段の付勢力に打ち勝つと、当該付勢手段は、面取り刃がドリル部およびタップに対して送り方向に沿って移動することを許容する。これにより、面取り刃に作用する切削抵抗が大きくなって付勢手段により面取り刃のドリル部およびタップに対する送り方向に沿った移動が許容された後には、ドリル部およびタップ(穴加工工具)が加工対象物に対して更に送り込まれても、面取り刃によって面取り部が形成されないようにすると共に、面取り刃に大きな負荷が加えられてしまうのを抑制することができる。この結果、この穴加工工具によれば、ドリル部等を回転させながら加工対象物に送り込んでいくだけで、工具を交換することなく、それ単体で下穴、雌ネジ部および面取り部を形成すると共に、雌ネジ部と開口縁に形成された面取り部とを有するネジ穴の加工時間を良好に短縮化することが可能となる。加えて、この穴加工工具によれば、ドリル部等の加工対象物への送り量を変更することにより、異なる深さのネジ穴を容易に形成することができる。
【0009】
また、前記付勢手段は、前記面取り刃を前記加工対象物に対して押し付ける付勢力を変更可能に構成されてもよい。これにより、付勢手段によって面取り刃のドリル部およびタップに対する送り方向に沿った移動が許容されるタイミングを変化させることができるので、穴加工工具の面取り刃による面取り量を任意に設定することが可能となり、加工対象物の材質や面取り刃の形状等が変わっても、所望寸法の面取り部を容易に形成することができる。
【0010】
更に、前記付勢手段は、同一極同士が前記送り方向に沿って間隔をおいて対向するように配置される少なくとも一対の磁石を含み、前記同一極間の反発力により前記面取り刃を前記加工対象物に対して押し付けると共に、前記面取り刃に作用する切削抵抗による力が前記同一極間の反発力に打ち勝った際に当該面取り刃が前記ドリル部および前記タップに対して前記送り方向に沿って移動することを許容するものであってもよい。このような付勢手段によれば、当該付勢手段によって面取り刃のドリル部およびタップに対する送り方向に沿った移動が許容されるタイミング、すなわち面取り刃による面取り量のバラつきを良好に抑制することが可能となる。そして、かかる付勢手段では、例えば一対の磁石同士の対向面積(送り方向における重なり面積)を変更できるようにすることで、面取り刃を加工対象物に対して押し付ける付勢力を容易に変更可能となる。
【0011】
また、前記付勢手段は、一端が前記ドリル部および前記タップに連結されると共に他端が前記面取り刃に連結されるバネを含み、前記バネの付勢力により前記面取り刃を前記加工対象物に対して押し付けると共に、前記面取り刃に作用する切削抵抗による力が前記バネの付勢力に打ち勝った際に該面取り刃が前記ドリル部および前記タップに対して前記送り方向に沿って移動することを許容するものであってもよい。このような付勢手段によっても、当該付勢手段によって面取り刃のドリル部およびタップに対する送り方向に沿った移動が許容されるタイミング、すなわち面取り刃による面取り量のバラつきを良好に抑制することが可能となる。そして、かかる付勢手段では、例えばバネの軸長を変更できるようにすることで、面取り刃を加工対象物に対して押し付ける付勢力を容易に変更可能となる。
【0012】
更に、前記穴加工工具は、前記ドリル部および前記タップと前記面取り刃とを一体回転可能に連結すると共に、前記面取り刃に作用する切削抵抗に応じて該面取り刃が前記ドリル部および前記タップに対して回転することを許容するクラッチ機構を備えてもよい。これにより、面取り刃に作用する切削抵抗が大きくなった段階で面取り刃をドリル部およびタップに対して回転(空転)させることが可能となり、その後にドリル部およびタップ(穴加工工具)が加工対象物に対して更に送り込まれても、面取り刃によって面取り部が形成されないようにすると共に、面取り刃に大きな負荷が加えられてしまうのを極めて良好に抑制することができる。
【0013】
また、前記クラッチ機構は、前記面取り刃を前記ドリル部および前記タップに対して回転させるクラッチ解放トルクを変更可能に構成されてもよい。これにより、面取り刃がドリル部およびタップに対して回転(空転)し始めるタイミングを変化させることができるので、穴加工工具の面取り刃による面取り量を任意に設定することができる。また、加工対象物の材質や面取り刃の形状等が変わっても、所望寸法の面取り部を容易に形成することが可能となる。
【0014】
更に、前記クラッチ機構は、異極同士が互いに引き付けあって前記ドリル部および前記タップの径方向に間隔をおいて対向するように配置される少なくとも一対の磁石を含む磁力クラッチ機構であってもよい。このような磁力クラッチ機構によれば、面取り刃がドリル部およびタップに対して空転し始めるタイミング、すなわち面取り刃による面取り量のバラつきを良好に抑制することが可能となる。そして、かかる磁力クラッチ機構では、例えば一対の磁石同士の対向面積(径方向における重なり面積)を変更できるようにすることで、クラッチ解放トルクを容易に変更可能となる。
【0015】
また、前記クラッチ機構は、バネを含むスリップクラッチ機構であってもよい。このようなスリップクラッチ機構によっても、面取り刃がドリル部およびタップに対して空転し始めるタイミング、すなわち面取り刃による面取り量のバラつきを良好に抑制することが可能となる。そして、かかるスリップクラッチ機構では、例えばバネの軸長を変更できるようにすることで、クラッチ解放トルクを容易に変更可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明による穴加工工具1を示す部分断面図である。同図に示す穴加工工具1は、例えば金属材料により形成された加工対象物Wに
図2に示すようなネジ穴100を形成するためのものであり、当該穴加工工具1を回転駆動すると共に軸方向すなわち送り方向(
図1における下向き)に沿って進退移動させる図示しない駆動装置に連結されて用いられる。なお、ネジ穴100は、
図2に示すように、加工対象物Wに形成された下穴101に雌ネジを形成(刻設)することにより形成される雌ネジ部102と、開口縁に形成された面取り部103とを有するものである。そして、穴加工工具1は、
図1に示すように、加工対象物Wに下穴101を形成すると共にネジ穴100の雌ネジ部102を形成するためのドリル付きタップ10と、ネジ穴100の面取り部103を形成するための切れ刃を有する複数(例えば2つ)の面取りチップ(面取り刃)20とを含む。
【0019】
ドリル付きタップ10は、比較的長尺のシャンク11を基端側に有すると共に、下穴101を形成するためのドリル部(ドリルビット)12を先端側に有し、かつ雌ネジ部102を形成するためのタップ15をシャンク11とドリル部12の間に有する。シャンク11、ドリル部12およびタップ15は、例えば超硬合金といった超硬材料により一体に形成されてもよく、これらの一部またはすべてが別体に形成された上で一体化されてもよい。ドリル部12は、比較的短尺に形成されており、複数の切れ刃を有する。また、タップ15は、雌ネジ部102に対応した雄ネジ状のネジ切り刃を有し、ドリル部12よりも穴加工工具1(ドリル付きタップ10)の送り方向における後方すなわちシャンク11側に配置される。更に、ドリル部12およびタップ15には、図示しない例えば螺旋状の切屑排出溝が複数形成されている。
【0020】
また、穴加工工具1は、ドリル付きタップ10を同軸に一体回転可能かつ軸方向すなわち送り方向に移動不能に保持する第1保持部材16と、複数の面取りチップ20を保持すると共に第1保持部材16によりドリル付きタップ10の軸心周りに回転自在かつ軸方向に(送り方向に沿って)移動可能に支持される第2保持部材21とを含む。第1保持部材16は、
図1に示すように、シャンク部17と、当該シャンク部17の中心部から軸方向に延出された筒状部18とを有する。第1保持部材16のシャンク部17には、上述の図示しない駆動装置に連結され、筒状部18には、ドリル付きタップ10のシャンク11が挿通・固定される。これにより、上記駆動装置により第1保持部材16を回転させながら加工対象物Wに対して移動させれば、第1保持部材16と同軸かつ一体に回転するドリル付きタップ10、すなわちドリル部12およびタップ15を加工対象物Wに対して送り込むことができる。なお、筒状部18の内周面には、ドリル部12やタップ15に冷却媒体を供給するための軸方向に延びる溝が複数形成されている。
【0021】
第2保持部材21は、有底筒状に形成されており、筒状部18を囲むように第1保持部材16に取り付けられる。筒状部18と第2保持部材21の内周面との間には、第1保持部材16に対する第2保持部材21の軸方向すなわち送り方向に沿った移動を許容すると共に当該第2保持部材21を径方向に支持する2つの軸受23,24が軸方向に間隔をおいて配置される。また、第1保持部材16は、シャンク部17と筒状部18との間から外方に延出された拡径部19を有する。当該拡径部19と第2保持部材21の
図1における上端部との周囲には、第1保持部材16に対する第2保持部材21の軸方向における(送り方向に沿った)移動を許容するようにスリーブ22が装着される。スリーブ22は、ドリル部12やタップ15側の端部(
図1における下端部)に第2保持部材21の第1保持部材16に対するドリル部12やタップ15側(
図1における下方)への移動を規制するストッパ部22sを有する。
【0022】
更に、第2保持部材21の底部(
図1における下端部)には、開口が形成されており、ドリル付きタップ10のドリル部12およびタップ15は、当該開口を介して第2保持部材21の外側に突出(露出)する。そして、複数の面取りチップ20は、第2保持部材21の底部にタップ15よりも上記送り方向における後方に位置するように装着される。複数の面取りチップ20は、スリーブ22のストッパ部22sにより移動が規制されて第2保持部材21が最もドリル部12やタップ15に近接した際(
図1に示すように最下側に位置した際)に、切れ刃(歯先)がタップ15のシャンク11側の端部に近接すると共に当該タップ15と干渉しないように周方向に間隔をおいて(等間隔に)配置される。
【0023】
また、穴加工工具1は、ドリル付きタップ10を保持する第1保持部材16と、複数の面取りチップ20を保持する第2保持部材21との間に配置されて当該第2保持部材21をシャンク部17側からドリル部12やタップ15側(
図1における下方)に向けて付勢可能な付勢機構25を含む。付勢機構25は、第1保持部材16の拡径部19に固定される複数(本実施形態では、6個)の第1磁石26と、第2保持部材21に対してドリル付きタップ10の軸心周りに回転可能であると共に当該第2保持部材21に対して回転不能かつ軸方向に移動不能に固定され得る磁石保持部材27と、当該磁石保持部材27に固定される第1磁石26と同数(複数)の第2磁石28とを有する。
【0024】
複数の第1磁石26は、本実施形態において、互いに同一の断面積を有する円柱状の永久磁石であり、ドリル付きタップ10や第1保持部材16の軸心を中心とする円周上に位置するように第1保持部材16の拡径部19に等間隔に配置される。また、複数の第1磁石26は、それぞれのドリル部12やタップ15側の端部における極性が同一となると共に、ドリル部12やタップ15側の端面が露出するように拡径部19に埋設される。また、複数の第2磁石28は、本実施形態において、それぞれ第1磁石26と同一の断面積を有する円柱状の永久磁石であり、第1磁石26が配列される円周と同心かつ同径の円周上に位置するように磁石保持部材27に等間隔に配置される。そして、複数の第2磁石28は、それぞれの拡径部19側の端部における極性が第1磁石26のドリル部12やタップ15側の端部における極性と同一となる(例えばN極同士あるいはS極同士となる)と共に、拡径部19側の端面が露出するように磁石保持部材27に埋設される。
【0025】
磁石保持部材27は、円環状に形成されており、拡径部19の
図1における下側の端面との間に一定の間隔をおいた状態で、第2保持部材21の
図1における上端部に形成された拡径部内に配置される。これにより、スリーブ22のストッパ部22sにより第2保持部材21の第1保持部材16に対するドリル部12やタップ15側への移動が規制された状態では、第1磁石26と第2磁石28とが1個ずつ互いに対向すると共に、互いに対向する第1および第2磁石26,28の端面同士の間隔Gが一定値G
0に保たれる。また、スリーブ22や第2保持部材21の磁石保持部材27を囲む部分には、図示しない開口が互いにオーバーラップ可能に形成されている。そして、本実施形態において、第2保持部材21および磁石保持部材27は、スリーブ22等の開口から磁石保持部材27にアクセスして当該磁石保持部材27を第2保持部材21に対してドリル付きタップ10等の軸心周りに回転させると共に、例えば止めネジ等を介して第2保持部材21に対して回転不能かつ軸方向に移動不能に固定できるように構成されている。
【0026】
これにより、付勢機構25では、
図3に示すように、互いに対をなす第1および第2磁石26,28が穴加工工具1等の軸方向に(
図1における下側からみて)完全に重なり合う状態で磁石保持部材27を第2保持部材21に対して回転不能かつ軸方向に移動不能に固定することができる。また、付勢機構25では、
図4に示すように、互いに対をなす第1および第2磁石26,28が軸方向に(
図1における下側からみて)完全に重なり合わないようにした上で磁石保持部材27を第2保持部材21に対して回転不能かつ軸方向に移動不能に固定することもできる。すなわち、本実施形態の付勢機構25では、互いに対向する一対の第1および第2磁石26,28同士の軸方向すなわち送り方向における重なり面積(対向面積)を変更することができる。
【0027】
上述のように構成される付勢機構25は、互いに対をなす第1および第2磁石26,28間(同一極間)の反発力により第2保持部材21すなわち各面取りチップ20をシャンク部17側からドリル部12やタップ15側(
図1における下方)に向けて付勢する。従って、第2保持部材21をドリル部12やタップ15側からシャンク部17側へと押圧する軸方向の推力が第1および第2磁石26,28間の反発力(トータルの反発力)よりも小さければ、第1および第2磁石26との間隔Gが一定値G
0に保たれ、付勢機構25は、第2保持部材21および各面取りチップ20が第1保持部材16およびドリル付きタップ10(ドリル部12およびタップ15)に対して軸方向に(送り方向に沿って)移動することを規制する。
【0028】
一方、第2保持部材21をシャンク部17側へと押圧する軸方向の推力が互いに対をなす第1および第2磁石26,28間の反発力に打ち勝つと、付勢機構25は、第1および第2磁石26との間隔Gが狭まること、すなわち第2保持部材21および各面取りチップ20が第1保持部材16およびドリル付きタップ10(ドリル部12およびタップ15)に対して軸方向に(送り方向に沿って)移動することを許容する。そして、本実施形態の付勢機構25では、上述のように、互いに対向する一対の第1および第2磁石26,28同士の軸方向(送り方向)における重なり面積(対向面積)を変更することができる。これにより、第1および第2磁石26,28間の反発力、すなわち第2保持部材21および各面取りチップ20をシャンク部17側からドリル部12やタップ15側(
図1における下方)に向けて付勢する力(付勢力)を容易に変更することができる。
【0029】
上述のような付勢機構25に加えて、本実施形態の穴加工工具1は、第1保持部材16と第2保持部材21とを一体回転可能に連結すると共に、第2保持部材21が第1保持部材16に対して回転することを許容するクラッチ機構30を含む。クラッチ機構30は、磁力クラッチとして構成されており、第1保持部材16の筒状部18に固定される複数(本実施形態では、例えば4個)の第1磁石31と、第1磁石31と同数(複数)の第2磁石32と、第2保持部材21により同軸に一体回転すると共に軸方向に移動自在となるように支持されると共に、複数の第2磁石32を保持する略円筒状の磁石保持部材35とを有する。
【0030】
複数の第1磁石31は、本実施形態において、互いに同一の軸長と同一の断面形状(例えば矩形状)を有する永久磁石であり、第1保持部材16の筒状部18の軸方向における配置位置が互いに同一となるように当該筒状部18の外周部に等間隔に配置される。また、複数の第1磁石31は、それぞれの第2保持部材21側(外側)の極性が同一となると共に、第2保持部材21の内周面側の表面が露出するように筒状部18に埋設される。また、複数の第2磁石32は、本実施形態において、第1磁石31と同一の軸長を有すると共に、互いに同一の断面形状(例えば矩形状)を有する永久磁石であり、第2保持部材21の軸方向における配置位置が同一となるように磁石保持部材35の内周部に等間隔に配置される。そして、複数の第2磁石32は、筒状部18側(内側)の極性が第1磁石31の第2保持部材21の内周面側の極性とは逆の極性となると共に、筒状部18側の表面が露出するように磁石保持部材35に埋設される。
【0031】
磁石保持部材35は、第2保持部材21と一体回転可能となるように当該第2保持部材21内に例えばスプライン嵌合される。また、磁石保持部材35と
図1中上方に位置する軸受23との間には、スプリング(コイルスプリング)33が配置されると共に磁石保持部材35と
図1中下方に位置する軸受24との間には、スプリング(コイルスプリング)34が配置される。これにより、磁石保持部材35は、2つのスプリング33,34の間で第2保持部材21の軸方向に移動可能となる。そして、筒状部18側の第1磁石31と磁石保持部材35側の第2磁石32とは、1個ずつ引き付け合って互いに対向し、一対の第1および第2磁石31,32の表面同士の間には、径方向の隙間(間隔)が形成される。また、第2保持部材21には、磁石保持部材35の外側に位置するように図示しない開口が形成されている。
【0032】
そして、本実施形態において、第2保持部材21および磁石保持部材35は、第2保持部材21の開口から磁石保持部材35にアクセスして当該磁石保持部材35を第2保持部材21に対して軸方向に移動させると共に、例えば止めネジ等を介して第2保持部材21に対して軸方向に移動不能に固定できるように構成されている。これにより、クラッチ機構30では、
図1に示すように、互いに対をなす第1および第2磁石31,32が第2保持部材21の径方向に(
図1における横方向からみて)完全に重なり合う状態で磁石保持部材35を第2保持部材21に対して回転不能かつ軸方向に移動不能に固定することができる。また、クラッチ機構30では、
図5に示すように、互いに対をなす第1および第2磁石31,32が径方向に完全に重なり合わないように磁石保持部材35をスプリング33,34の力に抗して第2保持部材21の軸方向に移動させた上で(第1および第2磁石31,32を軸方向にずらして)当該磁石保持部材35を第2保持部材21に対して回転不能かつ軸方向に移動不能に固定することもできる。すなわち、本実施形態のクラッチ機構30では、互いに対向する一対の第1および第2磁石31,32同士の径方向における重なり面積(対向面積)を変更することができる。
【0033】
上述のように構成されるクラッチ機構30は、互いに対をなす第1および第2磁石31,33(異極同士)の吸引力により第1保持部材16と第2保持部材21とを一体回転可能に連結する。これにより、第2保持部材21を第1保持部材16に対して回転させようとする力(回転トルク)が第1および第2磁石31,33の吸引力よりも小さければ、第1保持部材16と第2保持部材21との連結が維持され、それにより、第1保持部材16により保持されたドリル付きタップ10(ドリル部12およびタップ15)と、第2保持部材21により保持された各面取りチップ20とを一体に回転させることが可能となる。
【0034】
一方、第2保持部材21を第1保持部材16に対して回転させようとする力(回転トルク)が互いに対をなす第1および第2磁石31,32間の吸引力に打ち勝った際には、クラッチ機構30による第1保持部材16と第2保持部材21との連結が解除される。これにより、第2保持部材21により保持された各面取りチップ20が第1保持部材16により保持されたドリル付きタップ10(ドリル部12およびタップ15)に対して回転(空転)することが許容される。そして、本実施形態のクラッチ機構30では、上述のように、互いに対向する一対の第1および第2磁石31,32同士の径方向における重なり面積(対向面積)を変更することができる。従って、クラッチ機構30では、互いに対向する一対の第1および第2磁石31,32同の吸引力に抗して第2保持部材21すなわち各面取りチップ20を第1保持部材16すなわちドリル付きタップ10(ドリル部12およびタップ15)に対して回転させるクラッチ解放トルクを変更することが可能となる。
【0035】
次に、
図6等を参照しながら、上述のように構成される穴加工工具1を用いて加工対象物Wにネジ穴100を形成する手順について説明する。
【0036】
穴加工工具1を用いて加工対象物Wにネジ穴100を形成するに際しては、第1保持部材16のシャンク部17を図示しない駆動装置の回転駆動軸に連結した上で、
図6(a)に示すように、穴加工工具1すなわちドリル付きタップ10を軸心周りに回転駆動しながら当該軸心に沿って加工対象物Wに対して送り込んでいく。この際、各面取りチップ20には第2保持部材21をシャンク部17側へと押圧する軸方向の推力が実質的に作用しないことから、第1および第2磁石26との間隔Gは一定値G
0に保たれ、付勢機構25は、第2保持部材21および各面取りチップ20が第1保持部材16およびドリル付きタップ10(ドリル部12およびタップ15)に対して軸方向に(送り方向に沿って)移動することを規制する。また、この際、各面取りチップ20には第2保持部材21を第1保持部材16に対して回転させようとする力(回転トルク)が実質的に作用しないことから、クラッチ機構30は、第1保持部材16と第2保持部材21との連結を維持する。従って、第1保持部材16により保持されたドリル付きタップ10(ドリル部12およびタップ15)と、第2保持部材21により保持された各面取りチップ20とは、一体に回転しながら、加工対象物Wに対して一体に移動する。なお、
図6においてクラッチ機構30に付された網掛けは、当該クラッチ機構30により第1保持部材16と第2保持部材21との連結が維持されていることを示す。
【0037】
上述のようにしてドリル部12(穴加工工具1)が加工対象物Wに送り込まれていくと、まず、
図6(b)に示すように、加工対象物Wには、ドリル付きタップ10のドリル部12によって下穴101が形成されていく。また、ドリル部12よりも穴加工工具1の送り方向における後方に配置されたタップ15は、ドリル部12と同軸かつ一体に回転しながら送り方向に一体に移動する。これにより、タップ15は、ドリル部12(穴加工工具1)が加工対象物Wに対して送り込まれていくのに従って当該加工対象物Wに接触すると共に、
図6(c)に示すように、ドリル部12により形成された下穴101に雌ネジ部102を形成していく。
【0038】
更に、タップ15よりも送り方向における後方に配置された各面取りチップ20は、ドリル付きタップ10すなわちドリル部12およびタップ15と一体に回転しながらドリル付きタップ10と一体に送り方向に移動し、ドリル部12およびタップ15(穴加工工具1)が加工対象物Wに対して送り込まれていくのに従って当該加工対象物Wに接触する。こうして各面取りチップ20が加工対象物Wに接触した状態で穴加工工具1が当該加工対象物Wに対して送り込まれていくと、各面取りチップ20には、第2保持部材21をドリル部12やタップ15側からシャンク部17側へと押圧する軸方向の推力が作用する。ただし、当該推力が付勢機構25の第1および第2磁石26,28間の反発力よりも小さければ、当該付勢機構25は、第2保持部材21および各面取りチップ20が第1保持部材16およびドリル付きタップ10(ドリル部12およびタップ15)に対して軸方向に(送り方向に沿って)移動することを規制する。従って、各面取りチップ20は、付勢機構25によって加工対象物Wに対して押し付けられながら、
図6(d)に示すように、雌ネジ部102の送り方向における後方(開口縁)に面取り部103を形成していく。
【0039】
そして、各面取りチップ20による面取り部103の形成が進行して面取り量が概ね一定になると、各面取りチップ20に作用する切削抵抗が大きくなり、各面取りチップ20に作用する切削抵抗による軸方向の推力や、当該切削抵抗による第2保持部材21を第1保持部材16に対して回転させようとする力(回転トルク)が大きくなる。そして、各面取りチップ20に作用する切削抵抗による軸方向の推力が付勢機構25の付勢力すなわち第1および第2磁石26,28間の反発力に打ち勝つと、付勢機構25は、
図6(e)に示すように、第1および第2磁石26との間隔Gが一定値G
0未満になること、すなわち各面取りチップ20および第2保持部材21が送り方向に沿ってドリル部12およびタップ15から離間するように(
図6における上方に)移動することを許容する。また、各面取りチップ20による面取り量が概ね一定になり、切削抵抗による第2保持部材21を第1保持部材16に対して回転させようとする力がクラッチ機構30の第1および第2磁石31,32間の吸引力に打ち勝った際には、当該クラッチ機構30による第1保持部材16と第2保持部材21との連結が解除される。これにより、第2保持部材21により保持された各面取りチップ20が第1保持部材16により保持されたドリル付きタップ10(ドリル部12およびタップ15)に対して回転(空転)することが許容される。
【0040】
従って、各面取りチップ20よる面取り部103の加工が概ね完了して当該面取りチップ20に作用する切削抵抗が大きくなり、付勢機構25によって各面取りチップ20のドリル部12およびタップ15に対する送り方向に沿った移動(
図6における上方への移動)が許容されれば、その後にドリル部12およびタップ15(穴加工工具1)が加工対象物Wに対して更に送り込まれても、各面取りチップ20によって面取り部103が形成されないようにすると共に、各面取りチップ20に大きな負荷が加えられてしまうのを抑制することができる。同様に、クラッチ機構30により各面取りチップ20のドリル付きタップ10(ドリル部12およびタップ15)に対する回転(空転)が許容されれば、その後にドリル部12およびタップ15(穴加工工具1)が加工対象物Wに対して更に送り込まれても、各面取りチップ20によって面取り部103が形成されないようにすると共に、各面取りチップ20に大きな負荷が加えられてしまうのを抑制することができる。そして、各面取りチップ20によって面取り部103が形成されなくなった後、雌ネジ部102の寸法(軸長)が予め定められた値になるまで、穴加工工具1すなわちドリル付きタップ10を回転させながら加工対象物Wに送り込むことにより、
図2および
図6(e)に示すようなネジ穴100の形成が完了する。
【0041】
以上説明したように、雌ネジ部102と開口縁に形成された面取り部103とを有するネジ穴100を加工対象物Wに形成するための穴加工工具1は、下穴101を形成するためのドリル部12と雌ネジ部102を形成するためのタップ15とを有するドリル付きタップ10と、面取りチップ20と、付勢機構25とを含む。ドリル付きタップ10は、回転駆動されると共に軸方向(送り方向)に送られ、それによりドリル部12は加工対象物Wに下穴を形成する、また、タップ15は、ドリル部12よりも送り方向における後方に配置され、ドリル部12と同軸かつ一体に回転すると共に送り方向に一体に移動する。更に、面取りチップ20は、タップ15よりも送り方向における後方に配置され、ドリル部12およびタップ15と一体に回転可能であると共に、ドリル部12およびタップ15に対して送り方向に移動可能である。そして、付勢機構25は、ドリル付きタップ10を保持する第1保持部材16と面取りチップ20を保持する第2保持部材21との間、すなわちドリル部12およびタップ15と面取りチップ20との間に配置され、面取りチップ20を加工対象物Wに対して押し付けると共に、面取りチップ20に作用する切削抵抗に応じて当該面取りチップ20がドリル部12およびタップ15に対して送り方向に沿って移動することを許容する。
【0042】
このような穴加工工具1によれば、第1保持部材16を介してドリル付きタップ10を回転させながら加工対象物Wに送り込んでいくだけで、工具を交換することなく、それ単体で下穴101、雌ネジ部102および面取り部103を形成することができる。また、穴加工工具1によれば、穴加工工具1の送り量とドリル付きタップ10の回転量とを同期させるリジッドタップ加工を実行することができるので、雌ネジ部102と開口縁に形成された面取り部103とを有するネジ穴100の加工時間を大幅に短縮化することが可能となる。加えて、穴加工工具1によれば、ドリル部12等の加工対象物Wへの送り量を変更することにより、異なる深さのネジ穴100を容易に形成することができる。
【0043】
また、穴加工工具1の付勢機構25は、同一極同士が送り方向に間隔をおいて対向するように配置される少なくとも一対の第1および第2磁石26,28を含み、第1および第2磁石26,28間、すなわち同一極間の反発力により面取りチップ20を加工対象物Wに対して押し付ける。そして、付勢機構25は、面取りチップ20に作用する切削抵抗による軸方向の推力が第1および第2磁石26,28の間の反発力に打ち勝った際に当該面取りチップ20がドリル部12およびタップ15に対して送り方向に沿って移動することを許容する。このような付勢機構25によれば、当該付勢機構25によって面取りチップ20のドリル部12およびタップ15に対する送り方向に沿った移動が許容されるタイミング、すなわち面取りチップ20による面取り量のバラつきを良好に抑制することが可能となる。
【0044】
更に、付勢機構25は、面取りチップ20を加工対象物Wに対して押し付ける付勢力すなわち第1および第2磁石26,28間の反発力を変更可能に構成される。すなわち、付勢機構25では、一対の第1および第2磁石26,28の送り方向における重なり面積(対向面積)を変更可能であり、面取りチップ20を加工対象物Wに対して押し付ける付勢力を容易に変更することができる。これにより、付勢機構25によって面取りチップ20のドリル付きタップ10(ドリル部12およびタップ15)に対する送り方向に沿った移動が許容されるタイミングを変化させることができる。この結果、穴加工工具1の面取りチップ20による面取り量を任意に設定することが可能となり、加工対象物Wの材質や面取りチップ20の形状等が変わっても、所望寸法の面取り部103を容易に形成することができる。
【0045】
また、穴加工工具1は、ドリル付きタップ10すなわちドリル部12およびタップ15と面取りチップ20とを一体回転可能に連結すると共に、面取りチップ20に作用する切削抵抗に応じて当該面取りチップ20がドリル付きタップ10に対して回転することを許容するクラッチ機構30を含む。これにより、面取りチップ20に作用する切削抵抗が大きくなった段階で面取りチップ20をドリル付きタップ10すなわちドリル部12およびタップ15に対して回転(空転)させることができる。この結果、面取りチップ20がドリル付きタップ10に対して回転(空転)するようになった後にドリル部12およびタップ15(穴加工工具1)が加工対象物Wに対して更に送り込まれても、面取りチップ20によって面取り部103が形成されないようにすると共に、面取りチップ20に大きな負荷が加えられてしまうのを極めて良好に抑制することができる。
【0046】
更に、穴加工工具1のクラッチ機構30は、異極同士が互いに引き付けあってドリル付きタップ10(ドリル部12およびタップ15)の径方向に間隔をおいて対向する少なくとも一対の第1および第2磁石31,32を含む磁力クラッチとして構成される。このようなクラッチ機構30によれば、面取りチップ20がドリル部12およびタップ15に対して空転し始めるタイミング、すなわち面取りチップ20による面取り量のバラつきを良好に抑制することが可能となる。そして、クラッチ機構30は、一対の第1および第2磁石31,32同士の径方向における重なり面積(対向面積)を変更できるように構成されており、クラッチ機構30では、面取りチップ20をドリル付きタップ10(ドリル部12およびタップ15)に対して回転させるクラッチ解放トルクを変更することができる。これにより、面取りチップ20がドリル付きタップ10すなわちドリル部12およびタップ15に対して回転(空転)し始めるタイミングを変化させることができる。この結果、穴加工工具1の面取りチップ20による面取り量を任意に設定することが可能となり、加工対象物Wの材質や面取りチップ20の形状等が変わっても、所望寸法の面取り部103を容易に形成することができる。ただし、クラッチ機構30の機能には、付勢機構25の機能と共通するところがあることから、穴加工工具1からクラッチ機構30を省略してもよい。
【0047】
図7は、本発明の他の実施形態に係る穴加工工具1Bを示す部分断面図である。なお、穴加工工具1Bの構成要素のうち、上述の穴加工工具1と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0048】
図7に示す穴加工工具1Bは、上述の穴加工工具1において、付勢機構25の代わりに、一端が第1保持部材16を介してドリル付きタップ10すなわちドリル部12およびタップ15に連結されると共に他端が第2保持部材21を介して各面取りチップ20に連結されるスプリング(圧縮コイルスプリング)250を含む付勢機構25Bを採用したものに相当する。付勢機構25Bのスプリング250の一端(
図7における上端)は、第1保持部材16の拡径部19に形成された環状の凹部190内に嵌合され、スプリング250の他端(
図7における下端)は、第1保持部材16の筒状部18とスリーブ22との間にドリル付きタップ10等の軸方向に移動自在に配置されたスプリングシート251と当接する。スプリングシート251は、第2保持部材21の端面(
図7における上端面)や軸受23と当接する。
【0049】
このように構成される付勢機構25Bは、圧縮コイルスプリングであるスプリング250の付勢力により第2保持部材21すなわち各面取りチップ20をシャンク部17側からドリル部12やタップ15側(
図7における下方)に向けて付勢する。これにより、第2保持部材21をドリル部12やタップ15側からシャンク部17側へと押圧する軸方向の推力がスプリング250の付勢力よりも小さければ、付勢機構25Bは、第2保持部材21および各面取りチップ20が第1保持部材16およびドリル付きタップ10(ドリル部12およびタップ15)に対して軸方向に(送り方向に沿って)移動することを規制する。一方、各面取りチップ20に作用する切削抵抗が大きくなって当該切削抵抗による第2保持部材21をシャンク部17側へと押圧する軸方向の推力が互いに対をなすスプリング250の付勢力に打ち勝つと、付勢機構25Bは、第2保持部材21および各面取りチップ20が第1保持部材16およびドリル付きタップ10(ドリル部12およびタップ15)に対して軸方向に(送り方向に沿ってシャンク部17側に)移動することを許容する。
【0050】
従って、付勢機構25Bによっても、当該付勢機構25Bによって面取りチップ20のドリル部12およびタップ15に対する送り方向への移動が許容されるタイミング、すなわち面取りチップ20による面取り量のバラつきを良好に抑制することが可能となる。そして、付勢機構25Bでは、図示を省略するが、例えば、スプリングシート251を第2保持部材21に対してドリル付きタップ10等の軸方向に移動させた上で止めネジ等を介して第2保持部材21に対して軸方向に移動不能に固定できるようにするとよい。これにより、スプリング250の軸長を変更できるようになり、スプリング250により第2保持部材21および各面取りチップ20をシャンク部17側からドリル部12やタップ15側(
図1における下方)に向けて付勢する力、すなわち面取りチップ20を加工対象物Wに対して押し付ける付勢力を容易に変更可能となる。
【0051】
また、穴加工工具1Bでは、上述の穴加工工具1におけるクラッチ機構30の代わりに、圧縮バネである皿バネ300を含むスリップクラッチとして構成されたクラッチ機構30Bが採用されている。クラッチ機構30Bは、皿バネ300に加えて、複数のボール301と、それぞれ対応するボール301と係合可能な凹曲をもった複数の係合凹部302を有する環状体として構成されると共に第2保持部材21により軸方向に移動自在かつ当該第2保持部材21と一体に回転するように支持されるボール当接部材303と、略円筒状に形成されると共に第2保持部材21により軸方向に移動自在かつ当該第2保持部材21と一体に回転するように支持されるスライダ304とを含む。
【0052】
更に、第1保持部材16の筒状部18の外周面には、それぞれ対応するボール301と係合可能な複数の係合凹部180が同一円周上に等間隔に形成されている。また、第2保持部材21の内周面には、それぞれボール301を受容可能な受容凹部210が同一円周上に等間隔に形成されている。第2保持部材21の各受容凹部210は、スリーブ22のストッパ部22sにより第2保持部材21の第1保持部材16に対するドリル部12やタップ15側への移動が規制された状態で、対応する筒状部18の係合凹部180の側方に位置すると共に各係合凹部180よりもドリル部12やタップ15に近接するように(
図7における下側に)配接される。
【0053】
クラッチ機構30Bを構成する複数のボール301は、それぞれ対応する係合凹部180内に配置され、ボール当接部材303は、各係合凹部302が対応するボール301と係合するように配置され、ボール当接部材303の底面(
図6における下端面)は、皿バネ300の一端(
図6における上端)と当接する。また、皿バネ300の他端(
図6における下端)は、スライダ304と当接し、スライダ304と
図6における下側の軸受24との間には、スプリング34が配置される。なお、各ボール301の
図7における上方への移動は、
図6における上側のスプリング33により第2保持部材21に形成された段部に押し付けられる環状部材305により規制される。
【0054】
このように構成されるクラッチ機構30Bでは、ボール301が対応する係合凹部180とボール当接部材303の対応する係合凹部302との双方と係合することにより第1保持部材16と第2保持部材21とが一体回転可能に連結される。そして、第2保持部材21を第1保持部材16に対して回転させようとする力(回転トルク)が比較的小さければ、各ボールと対応する係合凹部180,302との係合が維持され、それにより、第1保持部材16と第2保持部材21とを連結して、ドリル付きタップ10(ドリル部12およびタップ15)と各面取りチップ20とを一体に回転させることが可能となる。
【0055】
一方、各面取りチップ20に作用する切削抵抗が大きくなって当該切削抵抗による第2保持部材21を第1保持部材16に対して回転させようとする力(回転トルク)が大きくなると、ボール当接部材303は、各ボール301を対応する係合凹部302から離脱させようとし、それに伴って各ボール301側から軸方向の反力がボール当接部材303を介して皿バネに印加される。そして、各ボール301側から軸方向の反力が皿バネ300の付勢力に打ち勝つと、
図8に示すように、皿バネ300が圧縮されることにより各ボール301がボール当接部材303の図中上端面に乗り上げて筒状部18の係合凹部180から離脱し、第2保持部材21の受容凹部210に受容される。これにより、クラッチ機構30Bによる第1保持部材16と第2保持部材21との連結が解除され、各面取りチップ20がドリル付きタップ10(ドリル部12およびタップ15)に対して回転(空転)することが許容される。
【0056】
従って、クラッチ機構30Bによっても、面取りチップ20がドリル部12およびタップ15に対して空転し始めるタイミング、すなわち面取りチップ20による面取り量のバラつきを良好に抑制することが可能となる。そして、かかるクラッチ機構30Bでは、例えば、スライダ304を第2保持部材21に対してドリル付きタップ10等の軸方向に移動させた上で止めネジ等を介して第2保持部材21に対して軸方向に移動不能に固定できるようにして皿バネ300の軸長を変更できるようにすれば、クラッチ解放トルクを容易に変更することが可能となる。また、クラッチ機構30Bにおいて、皿バネ300の代わりにコイルスプリングが用いられてもよい。ただし、クラッチ機構30Bの機能には、付勢機構25Bの機能と共通するところがあることから、穴加工工具1Bからクラッチ機構30Bを省略してもよい
【0057】
なお、上記実施形態における主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載された発明の主要な要素との対応関係は、実施形態が課題を解決するための手段の欄に記載された発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、実施形態はあくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一例に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
【0058】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。