【実施例】
【0053】
実施例1:癌細胞株を使用したファージ抗体スクリーニング
(1)癌細胞に結合するファージ抗体のスクリーニング(肝癌細胞株HepG2)
まずHepG2細胞を15cm デイッシュで培養し、それを2mg/ml collagenase I(Gibco BRL)/cell dissociation buffer(Gibco BRL)でデイッシュから解離させた。解離させた細胞を冷却したPBSで洗い、遠心により回収した。回収された細胞4x10
7を使用した。これに1x10
13cfuのヒト抗体ファージライブラリー(特開2005−185281号公報、WO2008/007648号公報、WO2006/090750号公報を参照)を混ぜ、反応液の終濃度を1%BSA-0.1%NaN3/MEM、容積1.6mlとし、4℃にて4時間ゆっくり回転させて反応させた。反応終了後、反応液を二つに分け、それぞれを0.6mlの有機溶液(dibutyl phtalate cycloheximide 9:1)の上に重層し、マイクロ遠心機にて3000rpmの遠心力を2分間作用させ、細胞をチューブの底に沈降させた。それぞれのチューブについて、溶液を捨て、細胞を0.7mlの1%BSA/MEMで懸濁、0.7mlの有機溶媒の上に重層して遠心した。この操作をもう一度繰り返したのち、溶液を捨て、細胞を0.3mlのPBSで懸濁、液体窒素で凍結し、37℃で融解した。
【0054】
これをOD0.5の大腸菌DH12S 20mlに1時間感染させ、その一部をアンピシリンプレートに蒔いて回収されたファージのtiterを算出した。ファージ感染大腸菌は600mlの2xYTGA培地(2xYT, 200μg/ml ampicillin sulfate, 1% glucose)にて30℃で通夜培養した。この通夜培養10mlを2xYTA培地(2xYT, 200μg/ml ampicillin sulfate)200mlと混ぜ、37℃にて1.5時間培養後ヘルパーファージKO7を1x10
11入れ、37℃にて1時間培養したのち、800mlの2xYTGAK(2xYT, 200μg/ml ampicillin sulfate, 0.05% glucose, 50μg/ml kanamycin)を入れて30℃にて通夜培養した。これを8000rpmにて10分間遠心して上清1lを調製、それに200mlのPEG液(20% polyetyleneglycol 6000, 2.5M NaCl)を混ぜてよくかきまぜたのち、8000rpm 10分間の遠心を行いファージを沈殿させた。これを10mlのPBSに懸濁し、その一部を使用して大腸菌感染数を調べた。これが1stスクリーニングのファージである。
【0055】
2edスクリーニングには培養細胞2x10
7と1stファージ1x10
10を使用し、反応液の容積を0.8mlとした。反応液は1%BSA-0.1%NaN3/MEMで、全体のスケールを1stスクリーニングの半分で行った。
【0056】
3rdスクリーニングは2ndファージ1x10
9を使用する以外は2ndスクリーニングと同じ条件で行った。
【0057】
(2)ファージ抗体の抗体発現能力の解析
スクリーニングによって得られた大腸菌を希釈して、100μg/mlのampicillinの入った普通寒天培地に蒔き、得られるコロニーをピックアップして2xYTGA培地にて30℃通夜培養、クラボウのPI-50にてDNAを抽出、dideoxy法で塩基配列を決定した。また、この通夜培養0.05mlを1.2mlの2xYTAI(2xYT, 200μg/ml ampicillin sulfate,0.5mM IPTG)に植えて30℃にて通夜培養、マイクロ遠心機にて15000rpm 5分間遠心して上清をとった。
【0058】
抗体はcp3融合タンパクとして発現されるので、それを用いた発現検討を行った。即ち、まず得られた上清をMaxisorp(NUNC)に37℃にて2時間反応させたのち、液を捨て、5%BSAを37℃にて2時間反応させてブロッキングを行った。液を捨て、0.05%Tween/PBSで2000倍希釈したウサギ抗cp3抗体(株式会社医学生物学研究所)を室温にて1時間反応させたのちPBSで洗浄し、0.05%Tween/PBSで2000倍希釈したHRP標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(株式会社医学生物学研究所)を室温にて1時間反応させたのちPBSで洗浄し、100μlのOPD液を室温にて15分反応させ、2M硫酸アンモニウムにて反応を停止し、SPECTRAmax 340PC(Molecular Devices)にて492nmの吸光度を測定した。吸光度 0.5以上を陽性とした結果、1012種のクローンが陽性となった。
【0059】
(3)DNA配列の解析
上記(2)により抗体の発現の確認されたファージ1012種類に関して、既存法によりDNA配列を解析し、欠損領域を保持する不完全な抗体や配列が重複する抗体を排除し、独立した抗体配列を持つファージ抗体が410個を選別した。
【0060】
同様の手法により、下記の表1に示す21種類の癌細胞に関して、上記(1)〜(3)のスクリーニングにより、独立配列を有するファージ抗体として以下の合計1863個を確立した。
【0061】
【表1】
【0062】
実施例2:TfRの分泌型抗原を用いたELISA法による抗体の結合性評価試験
(1)TfR分泌細胞の調整
癌細胞#MIAPaCa2, SKOv3(TfR高発現株)より、常法によりTfR 細胞外ドメインのcDNAを調整したのち、 pCMV-Script(クロンテク社製)に挿入、TfR発現ベクターを作成した。この発現ベクターを細胞株#293T へ導入しTfRを分泌する発現細胞を作成した。
【0063】
(2)ELISA系の作成
TfR分泌細胞より得られたTfR抗原を用いて下記の要領でELISAによる結合活性評価を行った。Maxisorp immuno moduleに抗原を感作させた。具体的には10μg/mlの濃度で 50μl/well 37℃で2時間反応させた。その後、上清を捨て、ブロッキング操作に入った。具体的にはBlocking液(5% スキムミルク / 0.05% NaN
3 / PBS) 200μl/well 37℃で2時間反応させた。その後ブロッキング溶液を除き、リン酸バッファーで1回洗った。その後、一次抗体として上記にあるサンプル抗体の発現培養上清100μl/well 37℃で1時間反応させた。その後上清を除き、リン酸バッファーで5回洗った。次に二次抗体としてRabbit anti-cp3ポリクローナルをPBS/0.05%Tween20で5000倍希釈したものを100μl/well 37℃で1時間反応さえて上清を除き、リン酸バッファーで5回洗った。次に二次抗体として anti-rabbit IgG(H+L)-HRPをPBS/0.05%Tween20で2000倍希釈したものを 100μl/well 37℃で1時間反応させた。その後上清を除き、リン酸バッファーで5回洗った。その後、発色試薬として OPD in 0.1Mクエン酸リン酸Buffer pH5.1 0.01%H
2O
2 100μl/wellで加え室温で5分反応させた。その後 2N H
2SO
4 100μl/well で加えて発色反応を停止した。その後、SPECTRAmax 340PC(Molecular Devices)にて492nmの吸光度を測定した。
【0064】
(3)TfR固相ELISAによる、抗TfR抗体の選択
実施例1で得られたファージ抗体1863種類を、ELISA系で評価した結果、下記3種類の独立した配列を保持する抗体がヒトTfRに特異的反応性を示すことが確認された。ファージ抗体の遺伝子配列を読み、遺伝子配列から抗体PPAT-061-01, 抗体PPAT-061-02、抗体PPAT-061-03のCDRアミノ酸配列を得られた。
【0065】
抗体PPAT-061-01:
VH:
CDR1: SYGMH(配列番号1)
CDR2: VISFDGSSKYYADSVKG(配列番号2)
CDR3: DSNFWSGYYSPVDV(配列番号3)
VL:
CDR1:TRSSGSIASNSVQ(配列番号4)
CDR2:YEDTQRPS(配列番号5)
CDR3:QSYDSAYHWV(配列番号6)
【0066】
抗体PPAT-061-02
VH:
CDR1: TSGVGVG(配列番号7)
CDR2: LIYWDDDKHYSPSLKS(配列番号8)
CDR3: NGDYGIEFDY(配列番号9)
VL:
CDR1:GGNNIGSKSVH(配列番号10)
CDR2:YDSDRPS(配列番号11)
CDR3:QVWDSSSDHVV(配列番号12)
【0067】
抗体PPAT-061-03
VH:
CDR1: NYGMS(配列番号13)
CDR2: WISAYNGNTNYGEKLQG(配列番号14)
CDR3: DDYYGSGVDAFDI(配列番号15)
VL:
CDR1:GGNKIGSKSVH(配列番号16)
CDR2:YDRDRPS(配列番号17)
CDR3:QVWDSSSDVV(配列番号18)
【0068】
実施例3:TfR高発現細胞株結合性の評価(FACS)
単離した各種抗体クローンの各種細胞株に対する反応性を以下の通りFCMで確認した。実験操作は次の通りとした。まず、付着性細胞株については6穴プレート(Falcon 3516)において、ATL由来細胞株などの浮遊細胞株は浮遊培養フラスコ(70ml(スラントネック))において、培地(RPMI-1640:Sigma-Aldrich 社製、10%ウシ胎児血清、1%ペニシリンーストレプトマイシン溶液)を用い、CO
2インキュベーター内、37℃で培養したものを使用した。
【0069】
付着性細胞株は2mg/ml collagenase I(Gibco BRL)/cell dissociation buffer(Gibco BRL)で培養皿から解離させたのち、10%FBS/D MEMにて回収した。一方、浮遊系細胞の場合は一度培地を除くためにそのままの状態で遠心分離(400xg, 4℃, 2分)した。このような操作の後、各細胞を2.5%BSA, 0.05%NaN
3/PBS(BSA液)にて洗浄し、2.5% normal goat serum/BSA液100μlに懸濁して氷上に30分静置した後、10
6個/wellになるように分注し、遠心分離(400xg, 4℃, 2分)し上清を除いた。
【0070】
抗体を、5μg/mlになるように加えて、氷上に1時間静置した。これをBSA液にて一度洗浄したのち、抗cp3マウスモノクローナル抗体(株式会社医学生物学研究所)5μg/ml BSA液100μlにて懸濁し、氷上に1時間静置した。これをBSA液にて一度洗浄したのち、Alexa488結合抗マウスIgGヤギ抗体(Molecularprobe社製)5μg/ml BSA液100μlにて懸濁し、氷上に1時間静置した。これをBSA液にて二度洗浄したのち、BSA液500μlにて懸濁し、固定液(ホルムアル デヒド)50μlを添加し、10分静置した。その後PBS 150μl添加し、セルストレイナー(Becton Dickinson社製)にて処理したのち、Becton Dickinson社製FACScaliver(FCM)にて 細胞集団の蛍光強度を解析した。その結果、3種類の抗体は結合性評価を行ったTfR高発現をしている癌細胞株(A431、PANC1、KATOIII、MIAPaCa2)全てにおいて有意なピークシフトを示した。
【0071】
実施例4:IgG型抗体への変換
(IgG型抗体遺伝子の構築)
抗体医薬としての有効性を探るため、一部の抗体をIgG型へ変換した。
まず、scFVcp3型抗体のVH、VL遺伝子を用い、それをIgG1のFc領域と遺伝子の塩基配列内にクローニングする際必要な制限酵素サイトが無いことを確認した。抗体遺伝子を鋳型とし、H鎖とL鎖増幅用プライマーを用い、PCRを行った。増幅産物をIgG1 construction vectorのCMVプロモーター下流へライゲーションし、IgG型抗体遺伝子を含むプラスミドDNAを得た。
【0072】
(IgG型抗体の発現)
プラスミドDNAのCHO-K1細胞へのトランスフェクションにはGenePORTER Reagent( Gene Therapy Systems社:T201007)を使用した。まず、60mm培養皿にCHO-K1細胞が2×10
4cells/mlになるように、トランスフェクションの前日から準備しておいた(培地はα-MEM(Invitrogen:12561-056)に10%FCS(エキテック社:268-1)添加したものを使用)。
プラスミドDNA 8μgを250μLの血清非含有培地(Serum Free Medium、以下SFMと略す-(Invtrogen:12052-098 CHO-S-SFMII)に溶かし、0.22μmのフィルターにかけた。GenePORTER Reagent 40μLを250μLのSFMに加えた。
【0073】
SFMに溶かしたプラスミドDNAとGenePORTER Reagentをすばやく混ぜ、室温30min静置した。
細胞をSFM 2mlで2回洗い、プラスミドDNA-GenePORTER mixture (Transfection Medium)を細胞の入ったプレートにゆっくり加え、インキュベーター内、37℃、5時間培養した。
トランスフェクション用培地を吸引し、αMEM 10%FCSで2回洗った後、αMEM 10%FCSを5ml加え、インキュベーター内、37℃、48時間培養した。
【0074】
αMEM 10%FCS+700μg/ml G418(Sigma:G7034)の培地10mLに置き換え、セレクションを開始した(以後のmediumはαMEM 10%FCS+700μg/mL G418を使用)。37℃、48時間培養後、細胞をPBS 10mLにて洗浄し、0.25%Trypsin-EDTA(Sigma T4049)750μLにて処理後、αMEM 5mL加えプレートより剥離、回収し細胞数を測定した。その結果を元に限界希釈を10cells/200μL/well 96well 2platesの条件で行った。14日間培養後、各wellの培養上清を用いてELISAを行い、IgG型抗体の発現を確認した。
【0075】
(培養上清からの発現タンパク(IgG)の精製)
Protein G Sepharose 4 Fast Flow(amersham pharmacia biotech:17-0618-01) 1mLをカラムにつめ、5mLのPBSで平衡化した。培養上清をアプライ、流速1滴/2秒で送液し、発現タンパク(IgG)をカラムに結合させた。10mLのPBSを流速1滴/2秒で送液し、非吸着成分を洗浄後、6mLの溶出バッファー(0.2M グリシン-HCl,pH3)を流速1滴/秒で送液、溶出液を1mLずつ1.5mlチューブに回収した。回収チューブにはあらかじめ中和バッファー(3M Tris-HCl)400μLを添加、回収と同時に中和した。溶出液をまとめ750μLまで濃縮、溶液置換(PBS、complete、0.01%NaN
3)を行い、SDS−PAGEによって抗体タンパクの濃度を算出した。
【0076】
実施例5:標識抗体の作製
(1)抗体へのDesferrioxamine(DF)の結合
抗体を緩衝液(0.1M Na2CO3)に溶解し、抗体濃度を5mg/mLに調整した。一方で、p-scn-DF(Macrocyclics社製 B−705)を、DMSOに0.753mg/mLの濃度になるように溶解した。抗体とDFのモル比が1:3となるように混合、撹拌し、37℃で30分静置した。反応終了後、Sephadex G50(GEヘルスケア社製 17-0041-01)カラムでPBSを用いて精製した。使用抗体は、抗体PPAT-061-01である。
【0077】
(2)キレート導入率の確認
(1)で精製する前のキレート-抗体反応液(5μL)に1μL Ferric chloride(Fe-59、パーキンエルマーNEZ037)を加え、室温で30分静置した。脱塩カラム(PD−10、GEヘルスケア社製 17−0435−01)に1μLをアプライし、0.5mLのPBSで30画分取得した。ガンマカウンター(アロカ)で30画分を測定した。抗体画分とキレート画分の比より、キレート導入率を算出した。
【0078】
(3)
89Zr標識抗体の調製
(i)
89Zr標識
精製した抗体PPAT-061-01を4mg/mL PBSに調整し、
89Zr-oxalateを加えて室温で1時間静置した。
(ii)標識率の確認
標識反応液(0.5μL)を薄層クロマトグラフィー(メルク)を用いて標識率を確認した。展開溶媒をDTPA水(pH7)とし、イメージングプレート(富士フィルム)に5秒間露光し、イメージスキャナー(富士フィルム)で画像を取得した。付属ソフトウエアで抗体とDPTAのintensityを測定し、標識率を算出した。
【0079】
実施例6:腫瘍のイメージング
実施例5で作成した、
89Zr-DF抗TfR抗体を、ヒトTfRを高発現している腫瘍(MIA Paca-2、黄色矢頭)と、ヒトTfRを発現していない腫瘍(A4、水色矢頭)を皮下移植したヌードマウスに投与し、投与1日、2日、4日、6日後にPET撮像を行った。投与1日後から
89Zr-DF抗TfR抗体(抗体PPAT-061-01)のMIA Paca-2移植腫瘍への明瞭な集積を認め、その集積は投与6日後まで上昇した。一方、A4移植腫瘍への集積は低く、時間とともに徐々に減少していった。
89Zr-DF抗TfR抗体(抗体PPAT-061-01)は、TfRを発現している腫瘍の画像診断に適していることが示された。