特許第5990717号(P5990717)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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5990717シアン含有廃水用処理剤およびそれを用いるシアン含有廃水の処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5990717
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】シアン含有廃水用処理剤およびそれを用いるシアン含有廃水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/76 20060101AFI20160901BHJP
   C02F 1/72 20060101ALI20160901BHJP
   C02F 1/58 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   C02F1/76 BZAB
   C02F1/72 A
   C02F1/58 N
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-48486(P2016-48486)
(22)【出願日】2016年3月11日
【審査請求日】2016年4月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】505112048
【氏名又は名称】ナルコジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】村上 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 達彦
【審査官】 ▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−055774(JP,A)
【文献】 特表2015−501307(JP,A)
【文献】 特表2004−531579(JP,A)
【文献】 特開2014−176799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/72
C02F 1/58
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−クロロスルファマートおよび/またはN−ブロモスルファマートを含有する水溶液であることを特徴とするシアン含有廃水用処理剤。
【請求項2】
前記N−クロロスルファマートおよびN−ブロモスルファマートが、スルファミン酸と、次亜塩素酸および/または次亜臭素酸との反応生成物である請求項1に記載のシアン含有廃水用処理剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシアン含有廃水用処理剤を、シアン含有廃水中に存在させ、該廃水中のシアンを分解させて該廃水からシアンを除去することを特徴とするシアン含有廃水の処理方法。
【請求項4】
前記シアン含有廃水中のシアン含有量に対して、前記シアン含有廃水用処理剤を、N−クロロスルファマートおよびN−ブロモスルファマートの合計の有効ハロゲン濃度が0.2モル当量以上になるように存在させる請求項3に記載のシアン含有廃水の処理方法。
【請求項5】
前記シアン含有廃水が、チオシアン酸およびその塩ならびにアンモニウムイオンから選択される1種以上の共存物質を含有する廃水である請求項3または4に記載のシアン含有廃水の処理方法。
【請求項6】
前記シアン含有廃水が、pH6〜11に調整された廃水である請求項3〜5のいずれか1つに記載のシアン含有廃水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来よりも薬剤添加量を極力抑え、簡便な操作で安全に廃水中のシアンを除去し得るシアン含有廃水用処理剤およびそれを用いるシアン含有廃水の処理方法に関する。
本発明では、各種形態で廃水中に含有するすべてのシアン、特にシアン化物イオンを簡便な操作で処理することができる。
【背景技術】
【0002】
シアンは生態系に強い悪影響を及ぼすため、シアン含有廃水(「シアン廃水」ともいう)を自然界にそのまま放出することはできない。シアンについては水質汚濁防止法に基づき排水基準が定められており、この基準(1mg/L以下)を満たすようにシアン除去処理を行い、無害化した廃水でなければ下水などに排出できないことになっている。また、地域によっては、条例により、上記の排水基準値よりもさらに低い上乗せ排水基準が定められている。
シアンは、廃水の由来にも因り、含有量の多少はあるが、難分解性シアン錯体、易分解性シアン錯体およびシアン化物イオンの3種の形態で廃水中に存在している。
【0003】
従来からシアン含有廃水中のシアンの除去処理として様々な方法が提案され、実用化されているが、いずれも一長一短があり、廃水の状況に応じて使い分けられている。
例えば、(1)シアン含有廃水をアルカリ性に調整した後、塩素を注入してシアンを酸化分解するアルカリ塩素法、(2)強力なオゾンの酸化力でシアンを窒素ガスと炭酸水素塩に酸化分解するオゾン酸化法および(3)非溶解性の電極を用いてシアンを電気分解し、酸化反応を行なう電解酸化法(電解法)などの酸化分解法;(4)シアン含有廃水中に、鉄イオンの供給化合物として、例えば硫酸第一鉄を添加し、難溶性のフェリ/フェロシアン化物を生成させ、これを沈殿除去する紺青法、(5)塩化亜鉛と還元剤とを添加し、生成した不溶錯体を沈殿除去する亜鉛白法および(6)2価の銅塩と還元剤とを添加し、生成した不溶錯体を沈殿除去する還元銅塩法などの不溶錯体法;(7)シアンに対して馴養させた微生物(シアン分解菌)にシアンを分解させる生物処理法;(8)シアン含有廃水を高温に保持してシアン化合物をアンモニアと蟻酸に加水分解させ、共存する重金属類を単体または酸化物として析出させる熱加水分解法および(9)シアンの分解以外に有機汚濁物をも酸化分解させる湿式酸化法などの熱水反応などがある。
【0004】
また、本発明の出願人は、次のようなシアン含有廃水の処理方法を提案してきた。
(A)シアン含有廃水に、次亜塩素酸塩および水に可溶であり、水中でマンガンイオンを形成し得るマンガン化合物を添加し、生成した水不溶性のマンガン塩を廃水から除去して、廃水中のシアンを除去するシアン含有廃水の処理方法(特許第4106415号公報:特許文献1参照)
(B)シアン化合物含有廃水に含有シアン化合物量の1.4モル以上に相当する量のホルムアルデヒドを添加して第1段の反応を行った後、次いで実質的に有効反応量の過酸化水素を含有シアン化合物量の3.0モル以上添加し、pH7.0以上で第2段の反応を行うシアン化合物含有廃水の処理方法(特開平02−35991号公報:特許文献2参照)
【0005】
しかしながら、上記の先行技術では、煩雑な工程や操作が必要であり、それに伴い複数の反応槽が必要となる場合もある。また、チオシアン酸イオンやアンモニウムイオンが存在する廃水など、廃水の種類によってはシアン除去の効果が十分でなく、処理後の廃水のシアン濃度を排水基準(1mg/L以下)にすることができず、処理廃水をそのまま下水などに排出することができない場合もある。
また、水質汚濁防止法に基づき水素イオン濃度(pH)の排水基準は、海域では5.0〜9.0、海域外では5.8〜8.6と定められている。上記の先行技術において、廃水のpHを酸性やアルカリ性に調整した場合には、下水などに排出する前に、廃水のシアン濃度だけではなく、pHも排水基準範囲内に調整する中和処理が必要になる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4106415号公報
【特許文献2】特開平02−35991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
例えば、上記の特許文献1の方法(A)では、シアン含有廃水に対して過剰量の薬剤を添加すれば、シアン濃度を規定値以下にすることができるが、薬剤添加量を極力抑えて、より安全なシアン処理を行うことが求められている。
そこで、本発明は、シアンを含有する廃水、特にチオシアン酸イオンやアンモニウムイオンなどの共存化合物が存在するシアン含有廃水に対して、従来よりも薬剤添加量を極力抑え、簡便な操作で安全に廃水中のシアンを除去し得るシアン含有廃水用処理剤およびそれを用いるシアン含有廃水の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、共存物質が存在するシアン含有廃水に、N−クロロスルファマートおよび/またはN−ブロモスルファマートを存在させることにより、意外にも、従来よりも薬剤添加量を極力抑え、簡便な操作で安全に廃水中のシアンを除去し得る事実を見出し、本発明を完成するに到った。
【0009】
かくして、本発明によれば、N−クロロスルファマートおよび/またはN−ブロモスルファマートを含有する水溶液であることを特徴とするシアン含有廃水用処理剤が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、上記のシアン含有廃水用処理剤を、シアン含有廃水中に存在させ、該廃水中のシアンを分解させて該廃水からシアンを除去することを特徴とするシアン含有廃水の処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、シアンを含有する廃水、特にチオシアン酸イオンやアンモニウムイオンなどの共存化合物が存在するシアン含有廃水に対して、従来よりも薬剤添加量を極力抑え、簡便な操作で安全に廃水中のシアンを除去し得るシアン含有廃水用処理剤およびそれを用いるシアン含有廃水の処理方法を提供することができる。
すなわち、本発明によれば、各種形態で廃水中に含有するすべてのシアン、特にシアン化物イオンを、従来よりも薬剤添加量を極力抑え、簡便な操作で処理することができる。
よって、本発明の方法で処理した廃水をそのまま自然界に放出しても、環境に対する影響が非常に少なくできることから、本発明の方法は産業上極めて有用である。
【0012】
本発明のシアン含有廃水用処理剤は、N−クロロスルファマートおよびN−ブロモスルファマートが、スルファミン酸と、次亜塩素酸および/または次亜臭素酸との反応生成物である場合に、上記の効果をさらに発揮する。
【0013】
また、本発明のシアン含有廃水の処理方法は、次の条件:
(1)シアン含有廃水中のシアン含有量に対して、シアン含有廃水用処理剤を、N−クロロスルファマートおよびN−ブロモスルファマートの合計の有効ハロゲン濃度が0.2モル当量以上になるように存在させる、
(2)シアン含有廃水が、チオシアン酸およびその塩ならびにアンモニウムイオンから選択される1種以上の共存物質を含有する廃水である、および
(3)シアン含有廃水が、pH6〜11に調整された廃水である
のいずれか1つを満たす場合に、上記の効果をより発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(A)シアン含有廃水用処理剤
本発明のシアン含有廃水用処理剤は、N−クロロスルファマートおよび/またはN−ブロモスルファマートを含有する水溶液であることを特徴とする。
【0015】
本発明のシアン含有廃水用処理剤のシアン処理の有効成分であるN−クロロスルファマートおよびN−ブロモスルファマートは、公知の方法、例えば、特表2003−503323号、特開2006−022097号、特表平11−506139号、特表2001−501869号、特表2003−507326号及び特開2014−101251号などに記載の方法により調製することができる。
本発明では、スルファミン酸と、次亜塩素酸および/または次亜臭素酸との反応生成物を好適に用いることができる。
【0016】
本発明のシアン含有廃水用処理剤の形態は水溶液であり、シアン含有廃水用処理剤としての有効成分濃度、すなわちN−クロロスルファマートおよびN−ブロモスルファマートの合計の有効ハロゲン濃度は、0.5mg/L以上である。
高濃度のシアン含有廃水用処理剤を用いる場合には、使用時に適宜、工業用水などの水で希釈すればよい。また、その場で有効成分を反応生成させる場合には、反応後の濃度がその処理条件に合うように、反応前の各化合物の水溶液濃度を適宜設定すればよい。
また、本発明のシアン含有廃水用処理剤のpHは12以上であるのが好ましいが、その場で有効成分を反応生成させる場合にはこの限りではなく、スルファミン酸およびその塩の酸性を中和し得るアルカリ量であればよい。
【0017】
(シアン含有廃水)
本発明において処理対象となるシアン含有廃水としては、製鉄工場、化学工場、メッキ工場、コークス製造工場、金属表面処理工場などから排出される金属のシアン化合物、シアン化物イオン、シアン錯体、シアノ錯イオンなどを含むシアン含有廃水、放射能汚染水の処理工程において排出されるシアン含有廃水、土壌の処理装置から排出されるシアン含有廃水が挙げられる。特に、本発明のシアン含有廃水の処理方法は、コークス炉廃水のような、緩衝作用の強いシアン含有廃水、すなわちチオシアン酸およびその塩ならびにアンモニウムイオンを含有するシアン含有廃水の処理に好適である。
【0018】
シアン含有廃水には、様々な共存物質、例えば、酸化剤と容易に反応し、ばっ気処理などにおいても反応すると考えられる、硫化物イオン、亜硫酸イオン、亜硝酸イオン、チオ硫酸イオン、ヒドラジン、第一鉄などの還元物質、ある一定以上の酸化力を有する酸化剤でなければ反応しないと考えられる、シアン化物イオン、チオシアン酸イオン、アンモニウムイオン、有機物(ホルムアルデヒド、アミノ酸、たんぱく質、微生物)などの難分解性物質が含まれている。
【0019】
これらの物質やイオンは、酸化力の強い酸化剤と反応すると考えられるが、本発明のシアン含有廃水用処理剤のシアン処理の有効成分であるN−クロロスルファマートおよびN−ブロモスルファマートは、酸化力が弱く、シアン化物イオン(「フリーシアン」または「遊離シアン」ともいう)のような容易に酸化される物質のみに優先的に反応するものと考えられ、安定化ハロゲン系酸化剤ともいう。
また、本発明のシアン含有廃水用処理剤の有効成分が、安定化ハロゲン系酸化剤として優先的にシアン化物イオンと反応して本発明の効果を発揮すると共に、ORP(酸化還元電位)の上昇や、シアン含有廃水中に多量のハロゲンが残存することによる装置内の配管母材の腐食の発生や塩の析出リスクの低減をも期待できる。
【0020】
したがって、本発明のシアン含有廃水用処理剤は、チオシアン酸およびその塩ならびにアンモニウムイオンから選択される1種以上の共存物質を含有するシアン含有廃水の処理についても、好適に用いることができる。
【0021】
シアン含有廃水は、シアンの除去効果の点でpH6以上であればよく、好ましくはpH6〜11、より好ましくはpH6〜9である。
シアン含有廃水がpH6未満では、有害なシアン化水素ガスが気散する危険性がある。一方、シアン含有廃水がpH11を超えると、アルカリ薬剤のコストが嵩む課題があり、またpH9を超えると、廃水基準を超えるため、pH調整が必要となる。
処理対象のシアン含有廃水は、通常、このような中性域からアルカリ性域にあるが、この範囲外にある場合には、本発明の効果を阻害しない酸またはアルカリ、例えば硫酸または水酸化ナトリウムを処理廃水に添加してpHを調整すればよい。
【0022】
(B)シアン含有廃水の処理方法
本発明のシアン含有廃水の処理方法は、本発明のシアン含有廃水用処理剤を、シアン含有廃水中に存在させ、該廃水中のシアンを分解させて該廃水からシアンを除去することを特徴とする。
【0023】
本発明の発明者らは、「廃水中のシアンの分解」は、添加されたN−クロロスルファマートおよび/またはN−ブロモスルファマートによりシアンが酸化され、さらに生成されたシアン酸が加水分解により炭酸水素アンモニウムを生成することによるものと考えている。
【0024】
本発明のシアン含有廃水の処理方法は、シアン含有廃水にN−クロロスルファマートおよび/またはN−ブロモスルファマートを存在させる方法であれば、特に限定されない。例えば、アルカリ剤およびグリシン、α−アラニン、グルタミン酸ナトリウム、アスパラギン酸ナトリウム、メチオニンおよびリジン塩酸塩などのアミノ酸類、スルファミン酸、コハク酸イミド、カプロラクタム、マレインイミドなどのアミド類、タウリンから選択される安定化剤を含有する水溶液と、次亜塩素酸および/または次亜臭素酸を含有する水溶液とを同時または別々に添加する方法や、アルカリ剤、スルファミン酸および臭化ナトリウムを含有する水溶液と、次亜塩素酸を含有する水溶液とを同時または別々に添加する方法等が挙げられる。
【0025】
(スルファミン酸)
本発明において用いられるスルファミン酸は、水中でスルファミン酸を生成して次亜塩素酸および次亜臭素酸と反応し得る化合物を水に溶解することにより得ることができる。例えば、スルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウムなどのスルファミン酸のアルカリ金属塩;メチルスルファミン酸、メチルスルファミン酸ナトリウム、メチルスルファミン酸カリウム、メチルスルファミン酸アンモニウム、フェニルスルファミン酸、フェニルスルファミン酸ナトリウム、フェニルスルファミン酸カリウム、フェニルスルファミン酸アンモニウムなどの有機スルファミン酸またはその塩が挙げられる。特に、スルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウムは工業的に入手し易く、本発明において好適に用いられる。
【0026】
(次亜塩素酸および次亜臭素酸)
本発明において用いられる次亜塩素酸および次亜臭素酸は、水中でそれぞれ次亜塩素酸および次亜臭素酸を生成してスルファミン酸と反応し得る化合物を水に溶解することにより得ることができる。例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸マグネシウム、次亜臭素酸ナトリウム、次亜臭素酸カリウム、次亜臭素酸カルシウム、次亜臭素酸マグネシウムなどの次亜塩素酸および次亜臭素酸のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩が挙げられる。特に、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜臭素酸ナトリウム、次亜臭素酸カリウムは工業的に入手し易く、本発明において好適に用いられる。また、食塩水や海水を電解槽で電解することによって得られる次亜塩素酸塩であってもよい。
【0027】
(アルカリ剤)
本発明において用いられるアルカリ剤は、スルファミン酸およびその塩の酸性を中和し、かつその水溶液のpHをアルカリ性にし、かつ次亜ハロゲン酸とスルファミン酸との反応生成物であるN−クロロスルファマート水溶液またはN−ブロモスルファマート水溶液の安定性に寄与する機能を有する。アルカリ剤は、このような機能を発揮し得る化合物であれば特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。特に、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムは工業的に入手し易く、本発明において好適に用いられる。
【0028】
本発明のシアン含有廃水用処理剤へのN−クロロスルファマートおよび/またはN−ブロモスルファマートの添加量(シアン含有廃水中に存在させる量)は、シアン含有廃水に含まれるシアンの種類およびその濃度のほかに、シアン含有廃水に含まれる他の金属イオンの種類およびその濃度などの影響を受けるので、これらの添加量は条件に応じて適宜決定すればよい。具体的には、処理前のシアン含有廃水のシアン濃度などを予め測定しておき、この測定値に基づいて、各添加剤の添加量を決定すればよい。
【0029】
本発明のシアン含有廃水用処理剤の添加量は対象となるシアン含有廃水中に含まれるシアンの含有量により異なるが、シアン含有廃水に、その中のシアン含有量に対して、N−クロロスルファマートおよびN−ブロモスルファマートの合計量の有効ハロゲン濃度が0.2モル当量以上になるように存在させるのが好ましい。より好ましくは、シアン含有廃水中のシアン含有量に対して、その有効ハロゲン濃度として1モル当量以上である。
その有効ハロゲン濃度が0.2モル当量未満では、シアン化物イオンとの反応が十分に起こらないため、シアン除去の効果が不十分になることがある。また、シアン含有廃水用処理剤の添加量の上限は特にないが、10モル当量程度であれば、十分なシアン除去効果が得られる。
【0030】
本発明において処理対象となるシアン含有廃水におけるシアンの含有量は、特に限定されないが、上記のシアン含有廃水は、一般に全シアン濃度で2〜500mg/L程度である。このようなシアン含有廃水を処理する場合には、シアン含有廃水に対して、アルカリ剤を0.6〜2000mg/L、好ましくは1〜600mg/L、スルファミン酸化合物を0.05〜1000mg/L、好ましくは0.08〜300mg/L、次亜塩素酸塩および次亜臭素酸塩を合計で3〜10000mg/L、好ましくは5〜3000mg/Lとなるように、シアン含有廃水に添加すればよい。
【0031】
(シアン含有廃水)
処理対象のシアン含有廃水は、(A)シアン含有廃水用処理剤で説明したとおりであり、チオシアン酸およびその塩ならびにアンモニウムイオンから選択される1種以上の共存物質を含有する廃水であるのが好ましい。
また、処理対象のシアン含有廃水は、pH6〜11であるのが好ましく、この範囲外にある場合には、酸またはアルカリで調整された廃液であるのが好ましい。
【0032】
(撹拌)
上記の各化合物の添加時、およびこれらの添加された化合物とシアンとの反応時には、シアンの除去効果の点で、混合溶液を撹拌するのが好ましい。この撹拌は、各化合物の添加毎に実施するのが好ましい。
また、撹拌時の反応を促進する意味で、混合溶液は、添加した化合物が分解されない、ある程度加温された状態であるのが好ましく、その液温は20〜60℃程度である。
さらに、撹拌時の反応に要する時間は、シアン含有廃水の量、シアンの種類およびその濃度、処理装置の形態およびその規模などにより異なるが、シアンと添加した化合物とが十分に接触するように適宜決定すればよい。通常、撹拌時間は10分以上であればよく、20〜60分とするのがより好ましい。
【0033】
(処理および沈殿分離)
化合物の添加、撹拌混合、沈降分離、水不溶性塩の除去などの一連の操作には、添加剤槽、反応処理槽、シックナーおよび除濁沈殿池などの公知の装置を用いることができ、既設の装置を転用してもよい。
本発明のシアン含有廃水の処理方法では、本発明の効果を阻害しない範囲で、防錆剤、腐食防止剤、スケール分散剤、スライムコントロール剤などの公知の薬剤を併用してもよい。
また、沈降分離においては、本発明の効果を阻害しない範囲で、界面活性剤や凝集剤を添加してもよい。
ここで、本発明において「水不溶性」とは、化合物(塩)が20℃における水100gに対して1g以下の溶解度を有し、その化合物は、沈降分離や濾別により液相と分離可能であることを意味する。
【0034】
以上の処理により、シアンを含有する廃水、特にチオシアン酸イオンやアンモニウムイオンなどの共存化合物が存在するシアン含有廃水に対して、従来よりも薬剤添加量を極力抑え、簡便な操作で安全に廃水中のシアンを除去し、処理前のシアン濃度(全シアン含有量(mg/L))を排水基準値以下に顕著に低減させることができ、処理後の廃水を中和処理なしに、そのまま下水などに排出または再利用することができる。
本発明の方法において、処理排水をそのまま放流する場合には、全シアン濃度を排水基準値以下に低下させるのに必要な量の化合物を添加すればよいが、処理排水を他の排水で希釈して放流する場合には、希釈後の排水が上記の排水基準値以下になるように化合物を添加すればよい。
通常、工場などにおいては、処理排水を他の排水で希釈して放流する場合が多く、費用に対する効果を考慮して、各有効成分の添加量をコントロールするのが好ましい。
よって、処理後の全シアン濃度が1mg/L以下にならない場合、概ね5mg/L以下になる場合も本発明に含まれる処理であることが理解される。
【実施例】
【0035】
本発明を試験例により具体的に説明するが、本発明はこれらの試験例により限定されるものではない。
【0036】
下記の試験例1では、表1に示す水質を有するように調製した合成水(pH8.2)に、遊離シアン(F−CN)、チオシアン酸イオン(SCN-)およびアンモニウムイオン(NH4+)が表3に示す含有量になるように調製した合成シアン含有廃水Aを用いた。
上記の合成シアン含有廃水の調製には、フェロシアン化カリウム水溶液、シアン化カリウム水溶液、チオシアン酸カリウム水溶液、塩化カルシウム2水和物水溶液、塩化ナトリウム水溶液、硫酸ナトリウム水溶液、塩化アンモニウム水溶液および炭酸水素ナトリウム水溶液を用いた。
【0037】
【表1】
【0038】
下記の試験例2では、某製鉄所のコークス炉廃水ラインより採取した、表2に示す水質を有するシアン含有廃水B(pH8.6)を用いた。
【0039】
【表2】
【0040】
(製剤例1:N−クロロスルファマートの調製)
容量500mLのビーカーに、それぞれ純水を48.8g、スルファミン酸を23.8g、48%水酸化ナトリウム水溶液を47.0g、10.6%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を130.5g添加し、撹拌してN−クロロスルファマート水溶液(有効塩素濃度5.5%)を得た。
【0041】
(製剤例2:N−ブロモスルファマートの調製)
容量500mLのビーカーに、それぞれ10.6%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を172g、48%水酸化ナトリウム水溶液を35g、臭化ナトリウムを40g添加し、50℃のウォーターバスで2時間撹拌して黄色透明水溶液を得た。また、これとは別に容量200mLのビーカーに、それぞれ純水を64.0g、スルファミン酸を31.2g、48%水酸化ナトリウム水溶液を27g添加し、撹拌して透明水溶液を得た。上述の黄色透明水溶液と透明水溶液を室温下で混合してN−ブロモスルファマート水溶液(有効臭素濃度10.2%)を得た。
【0042】
(試験例1)
容量100mLのビーカーに、それぞれシアン含有廃水Aを100mL分注し、表3に示す濃度になるようにN−クロロスルファミン酸ナトリウム、N−ブロモスルファミン酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウムおよび次亜臭素酸ナトリウムから選択される1種をそれぞれ添加して試験水を得た。
一部の試験水には、硫酸水溶液または水酸化ナトリウム水溶液を添加して、試験水のpHが表3に示す値になるように調整した。
次いで、得られた試験水を、撹拌装置(アズワン株式会社製、マグネチックスターラー、型式:RS−4AR、撹拌子:プレーン形、最長辺30mm)を用いて回転数250rpmで15分間撹拌した。
次いで、試験水(処理液)中の全シアン濃度(T-CN)を、全シアン検定器(株式会社共立理化学研究所製、型式:WA−CNT)を用いてピクリン酸法により測定し、各試験水におけるシアン化合物の除去効果を評価した。
この試験においては、薬剤を添加しないブランク試験(比較例4)を同時に行った。
得られた結果を、添加化合物とその添加量および試験水のpHと共に表3に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
表3の試験結果から次のことがわかる。
・本発明のシアン含有廃水用処理剤で処理した場合には、十分なシアン除去効果を有すること(実施例1〜11)
・共存物質(SCN-、NH4+)を含むシアン含有廃水を、本発明のシアン含有廃水用処理剤で処理した場合にも、十分なシアン除去効果を有すること(実施例8〜10)
・共存物質(SCN-、NH4+)を含むシアン含有廃水を、次亜塩素酸ナトリウムまたは次亜臭素酸ナトリウムを含有するシアン含有廃水用処理剤で処理した場合には、十分なシアン除去の効果が得られないこと(比較例1〜3)
・共存物質(SCN-)を含むシアン含有廃水を、次亜臭素酸ナトリウムを含有するシアン含有廃水用処理剤で処理した場合には、過剰量の次亜臭素酸ナトリウムを用いても十分なシアン除去効果が得られないこと(比較例2)
【0045】
(試験例2)
容量100mLのビーカーに、それぞれシアン含有廃水Bを100mL分注し、表4に示す濃度になるようにN−クロロスルファミン酸ナトリウムおよび次亜塩素酸ナトリウムから選択される1種をそれぞれ添加して試験水を得た。
一部の試験水には、硫酸水溶液または水酸化ナトリウム水溶液を添加して、試験水のpHが表4に示す値になるように調整した。
次いで、得られた試験水を、撹拌装置(アズワン株式会社製、マグネチックスターラー、型式:RS−4AR、撹拌子:プレーン形、最長辺30mm)を用いて回転数250rpmで15分間撹拌した。
次いで、試験水(処理液)中の全シアン濃度(T-CN)をJIS K0102に準拠して測定し、各試験水におけるシアン化合物の除去効果を評価した。
この試験においては、薬剤を添加しないブランク試験(比較例6)を同時に行った。
得られた結果を、添加化合物とその添加量および試験水のpHと共に表4に示す。
【0046】
【表4】
【0047】
表4の試験結果から次のことがわかる。
・本発明のシアン含有廃水用処理剤で処理した場合には、十分なシアン除去効果を有すること(実施例12〜13)
・共存物質(SCN-、NH4+)を含むシアン含有廃水を、次亜塩素酸ナトリウムを含有するシアン含有廃水用処理剤で処理した場合には、十分なシアン除去の効果が得られないこと(比較例5)
【要約】
【課題】シアンを含有する廃水、特にチオシアン酸イオンやアンモニウムイオンなどの共存化合物が存在するシアン含有廃水に対して、従来よりも薬剤添加量を極力抑え、簡便な操作で安全に廃水中のシアンを除去し得るシアン含有廃水用処理剤およびそれを用いるシアン含有廃水の処理方法を提供することを課題とする。
【解決手段】N−クロロスルファマートおよび/またはN−ブロモスルファマートを含有する水溶液であることを特徴とするシアン含有廃水用処理剤により、上記の課題を解決する。
【選択図】なし