(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
塗布材が充填された充填領域を有する充填部材と、前記充填部材に密接するように内挿されて前記充填領域の後端を構成する押出部を含む本体部と、を具備し、前記押出部の前進によって前記充填部材の先端側の吐出口から前記塗布材を吐出させる塗布具の製造方法であって、
前記充填部材の前側を後側よりも下方に位置させた状態で、当該充填部材の前記充填領域内に前記塗布材を後方から充填する工程と、
前記塗布材を充填した後、前記充填領域内の先端側に空間が形成されるように前記充填領域内へ前記吐出口から所定量のエアーを送り込む工程と、
前記エアーを送り込んだ後、前記本体部を前記充填部材に組み付ける工程と、を含むことを特徴とする塗布具の製造方法。
前記エアーを送り込む工程では、前記吐出口を気密空間内に位置させた状態で、前記塗布具周辺の前記気密空間の容積を縮小することにより、前記充填領域内へ前記エアーを送り込むことを特徴とする請求項1記載の塗布具の製造方法。
前記吐出口又は前記充填領域の先端側は、前記充填領域内に充填され溶融状態の前記塗布材が前記吐出口から流れ落ちない所定径を有することを特徴とする請求項1又は2記載の塗布具の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は一実施形態に係る塗布具の初期状態を示す縦断側面、
図2は塗布具において移動体の前進限の状態を示す縦断側面図、
図3は塗布具を一部断面化して示す分解斜視図、
図4は
図1の塗布具における要部を拡大して示す断面図である。なお、
図2では、
図1の縦断面位置を90°異なる位置とした縦断面図とされている。
図1〜3に示すように、本実施形態の塗布具100は、その内部に充填した塗布材Mを使用者の操作により適宜吐出する(押し出す)ものである。
【0015】
塗布材Mとしては、例えば、アイライナー、アイカラー、アイシャドウ、アイブロー、リップグロス、リップ、リップライナー、チークカラー、美容液、美容スティック、洗浄液、クレンジングオイル、ネールエナメル、ネールケア溶液、ネールリムーバー、マスカラ、アンチエイジング、ヘアーカラー、頭髪用塗布材、オーラルケア、マッサージオイル、角栓ゆるめ液、ファンデーション、コンシーラー、スキンクリーム、筆記用具等のインク、医薬品等を始めとした種々の液状、ゼリー状、ジェル(ゲル)状、ペースト状、軟質状、ムース状、練り状、泥状、半固形状、軟固形状、固形状等のものを用いることが可能である。また、塗布材Mに対し、顔料、油剤、ワックス等に加え、揮発性溶剤(例えば、シクロペンタシロキサン等のシリコン油や、イソドデカン、イソヘキサデカン等の炭化水素油)を配合することにより、その持ちのよさを高めることができる。塗布材Mに好適な一例として、例えばジェル状のアイライナー等のメイクアップ化粧料であって、揮発成分(揮発性溶剤)が配合され、ロングラスティング性の高いものを用いることができる。
【0016】
また、塗布材Mとしては、粘度又は硬度が高くて圧縮性が高いジェル状や半固形状のものを用いるのが好適であり、特に好ましいとして0.1N〜0.3N程度の硬度を有する塗布材Mを用いることが可能である。この塗布材Mの硬度は、化粧品において硬度を計るために使用される一般的な測定方法により求められる。ここでは、例えばFUDOH RHEO METER[RTC-2002D.D](株式会社レオテック社製)を測定器として用い、雰囲気温度25℃条件下にてφ3mmの鋼棒(アダプタ一)を6cm/minの速度で塗布材Mに深さ10mm程度挿入したときに当該塗布材Mに生じるピーク時の力(強度)を硬度(針入度)としている。
【0017】
この塗布具100は、塗布材Mが充填された充填領域1xを内部に備えた先筒である充填部材1と、その前半部に充填部材1の後半部を内挿して当該充填部材1を軸線方向(前後方向)及び軸線回り回転方向(以下、単に「回転方向」ともいう)に係合し一体となるように連結する本体筒2と、この本体筒2の後端部に相対回転可能にして軸線方向に連結する操作筒3と、を外形構成として具備している。なお、充填部材1及び本体筒2が容器前部を構成し、操作筒3が容器後部を構成する。また、「軸線」とは、塗布具100の前後に延びる中心線Gを意味し、「軸線方向」とは、軸線に沿った方向を意味する(以下、同じ)。また、ここでは、軸線方向における後述のペン先部材12側であって塗布材Mの繰出し方向を前方(前進する方向)とし、軸線方向における操作筒3側であって塗布材Mの繰戻し方向を後方(後退する方向)としている。
【0018】
また、この塗布具100は、その内部に、本体筒2(充填部材1でも可)及び操作筒3の相対回転により軸線方向に移動する移動体6と、移動体6の前端(先端)部に装着されると共に充填部材1に密接するように内挿されて充填領域1xの後端を構成(形成)する押出部としてのピストン7と、当該相対回転による移動体6の移動を可能にする螺合部材としての螺子筒4と、螺子筒4に対し一方向のみ相対回転可能なラチェット部材5と、を概略備えている。
【0019】
さらにまた、この塗布具100は、本体筒2及び操作筒3の相対回転を一方向のみ許容するラチェット機構8と、本体筒2及び操作筒3の一定回転量の相対回転毎に移動体6及びピストン7を一定ストローク内にて進退(前進及び後退)させるカム機構20と、を備えている。ここでのカム機構20は、突部20a及びガイド部20bを含む円筒カム機構であって、本体筒2と操作筒3との相対回転の回転力によって移動体6及びピストン7を一定ストローク進退させる。
【0020】
本体筒2は、円筒状に構成され、その軸線方向中央部の内周面に、充填部材1及び螺子筒4を回転方向に係合するためのものとして、周方向に多数の凹凸状が並設されて当該凹凸状が軸線方向に所定長延びるローレット2aを有している。また、本体筒2の先端部の内周面には、充填部材1を軸線方向に係合するための環状突部2bが設けられている。本体筒2の後部側の内周面には、操作筒3を軸線方向に係合するためのものとして、周方向に沿って延びる突部2cが形成されている。
【0021】
また、本体筒2の内周面において突部2cより前側には、螺子筒4を軸線方向に係合するためのものとして、周方向に沿って延びる突部2dが形成されている。また、
図4に示すように、この本体筒2の内周面は、後述の外側充填筒10の孔部10fにおける充填領域1x側とは反対側(充填領域1x外側)の開口10
outを、隙間を開けて覆う壁部(第2壁部)2xを構成する。壁部2xは、孔部10fから流出した塗布材Mの一部を後方へ案内させる機能を有する。
【0022】
図5及び
図6は、操作筒の一部を断面化して示す斜視図である。
図5及び
図6に示すように、操作筒3は、樹脂による射出成形品とされており、前方に開口する有底円筒状を呈している。操作筒3は、その前端側に外径が小径とされる前端筒部3aを備え、この前端筒部3aの外周面には、本体筒2の突部2cに軸線方向に係合するための環状溝部3bが設けられている。また、操作筒3の底部中央には、軸体3cが立設されている。軸体3cは、円柱体の外周面に軸線方向に延びる突条3dを複数有する横断面(軸線方向と直交する断面)非円形形状とされ、この突条3dは、移動体6の回止め部の一方を構成する。
【0023】
また、操作筒3は、その内周面に、底部から先端側に向かって延びる突条3eを周方向八等配の位置に備えている。突条3eの先端面3fは、軸線方向の直交面である横断面(以下、単に「横断面」という)に対し傾斜している。具体的には、先端面3fは、径方向視において周方向一方側に行くに従い後方へ傾斜している。換言すると、先端面3fは、ラチェット機構8により許容された相対回転方向(以下、「許容回転方向」という)に行くに連れ後方へ傾斜しており、後述の縦リブ5eの後端面5fと略平行とされている。
【0024】
また、操作筒3の前端筒部3aの外周面における後端には、OリングR1を装着するためのものとして、環状に延在するOリング用溝3gが設けられている。OリングR1は、本体筒2と操作筒3との相対回転の際に適度な回転抵抗を与えるためのものであり、当該相対回転に所定の回転抵抗力を発生させる環状弾性体として機能する。
【0025】
また、操作筒3は、その内周面における前端部に、カム機構20の一方を構成する一対(複数)の突部20aを有している。突部20aは、ガイド部20bと相対的に摺動しながら当該ガイド部20bにガイドされる。これにより、突部20aは、使用者が本体筒2と操作筒3とを相対回転した際の回転力を摺動によってガイド部20bへ伝達する原節として機能する。
【0026】
これら突部20aは、周方向二等配の位置に設けられ、径方向内側に所定長突出している。具体的には、操作筒3の内周面において前端筒部3aの中央から前端に亘る領域が拡径されて大径内周面3iとされ、一定高さの一対の突部20aが大径内周面3iの前端に互いに対向するよう形成されている。また、大径内周面3iにおいて突部20aの後側に連なる領域には、突部20aを成形するためのものとして、径方向に貫通する孔部3hが形成されている。孔部3hは、径方向から見て、突部20aと等しい周方向幅を有する矩形状とされている。
【0027】
図1及び
図5に示すように、この操作筒3は、その前端筒部3aから本体筒2に内挿され、その環状溝部3bが本体筒2の突部2cに係合することで、本体筒2に相対回転可能にして軸線方向に連結され装着されている。このとき、操作筒3のOリング用溝3gにOリングR1が嵌め込まれており、これにより、本体筒2と操作筒3との相対回転に適度な回転抵抗が付与されている。なお、生産コストを低減するためにOリングR1(及びOリング用溝3g)を設けない場合もある。
【0028】
このような操作筒3は、金型及びコアピンを用いて樹脂成形することができる。ここで、操作筒3は孔部3hを有していることから、金型において孔部3hを形成するための凸部分を利用することにより、突部20aを好適に成形することが可能となる。例えば、金型のスライドコア及びコアピンを互いに組み付けた際、スライドコアの凸部分とコアピンとにより、軸線方向と垂直方向に挟みこむようにして突部20aに対応する所定空間を画設することができる。その結果、成形後(つまり、所定空間に溶融樹脂が充填・固化されて突部20aが形成された後)にコアピンを取り外す際、スライドコアの凸部分を軸線と垂直方向にスライドさせることにより、突部20aの後方に形成されたアンダーカット部が開放され、コアピンを軸線方向に容易に引き抜くことが可能となる。
【0029】
図7は螺子筒を示す斜視図であり、
図8は
図7のVIII−VIII線に沿った断面図である。
図7及び
図8に示すように、螺子筒4は、樹脂による射出成形品とされており、段付き円筒状の外形を呈している。この螺子筒4は、前端筒部4xと、前端筒部4xよりも大径の外形を有する中央筒部4yと、中央筒部4yよりも小径の外形を有する後端筒部4zと、を前方から後方に向かってこの順に有している。一方、螺子筒4の内周面は、段差なく軸線方向に沿って真っ直ぐ延在している。
【0030】
前端筒部4xは、螺子筒4の前端部分を構成し、その内周面には、螺合部(押出機構)9の一方を構成する雌螺子4eが設けられている。ここでの螺合部9のピッチは、細ピッチが採用されており、例えば0.5mmとされている。前端筒部4xの外周面において前端部には、充填部材1(
図1参照)に近接して雌螺子4eの内径が拡がるのを阻止するための鍔部4aが設けられている。
【0031】
中央筒部4yは、螺子筒4の中央部分及び中央部分の前端寄りを構成し、その外周面において周方向の複数の位置には、本体筒2のローレット2aに回転方向に係合するための突条4cが形成されている。また、中央筒部4yの後端部の外周面には、本体筒2の突部2dに軸線方向に係合するための環状凸部4dが形成されている。また、前端筒部4xと中央筒部4yの前端部とには、径方向に貫通し且つ軸線方向に所定長延在するスリット4fが対向するように一対形成されている。
【0032】
後端筒部4zは、螺子筒4の後端部分及び中央部分の後端寄りを構成し、その後端面4bには、ラチェット機構8を構成するものとして、ラチェット部材5に係合するラチェット歯8aが周方向に沿って複数設けられている。ここでのラチェット歯8aは、後端面4bにおいて周方向四等配の位置に突設されている。
【0033】
これらラチェット歯8aは、周方向に沿って鋸歯状(楔状)を成して後端面4bから突出している。具体的には、ラチェット歯8aにおける周方向他方側(本体筒2と操作筒3とを一方向に相対回転したときにラチェット歯8aと当接する側)の側面8a1は、周方向に山型になるよう後端面4bに対し傾斜している。一方、ラチェット歯8bにおける周方向一方側(本体筒2と操作筒3とを他方向に相対回転したときにラチェット歯8aと当接する側)の側面8a2は、後端面4bに直交し軸線方向に沿って延在している。
【0034】
また、後端筒部4zは、その外周面に、カム機構20の他方を構成するガイド部20bを有している。ガイド部20bは、操作筒3の突部20aを相対的に摺動させながら当該突部20aの摺動をガイドする。このガイド部20bは、突部20aから摺動によって本体筒2と操作筒3との回転力が前後方向の直進力として伝達される従節として機能する。ガイド部20bの前側は、後端筒部4zの外周面に対し隆起する隆起部20cにより画成され、ガイド部20bの後側は、後端筒部4zの外周面に対し突出する突起としての複数のガイド片20dにより画成されている。
【0035】
隆起部20cは、径方向外側へ所定長隆起するように後端筒部4zの前端部に設けられている。隆起部20cの後面は、周方向に沿って鋸歯状(楔状)を成している。また、この隆起部20cの後面は、突部20aと摺動するものとして、横断面に対し傾斜(交差)するガイド面20eを含んで構成されている。
【0036】
複数のガイド片20dは、径方向外側へ所定長突出するように後端筒部4zの後端部に設けられている。これらガイド片20dは、隆起部20cの後方において、上記一定ストロークに対応する距離だけ離間して配置されている。また、複数のガイド片20dは、突部20aの周方向幅よりも広い隙間を空けて、周方向に沿って並置されている。ここでのガイド片20dは、周方向八等配の位置に設けられている。
【0037】
図1及び
図7に示すように、この螺子筒4は、本体筒2に内挿され、その環状凸部4dが本体筒2の突部2dに対し軸線方向に移動可能に係合すると共に、その突条4cが本体筒2のローレット2aに回転方向に係合する。また、螺子筒4は、その後端筒部4zが操作筒3に内挿される。これにより、螺子筒4は、本体筒2に回転方向に係合され、本体筒2に対し同期回転可能となるよう装着されると共に、本体筒2の突部2dと操作筒3の前端面との間で軸線方向に移動可能とされる。このとき、操作筒3の突部20aはガイド部20bにおける複数のガイド片20d間の隙間Dからガイド部20b内へ軸線方向に沿って進入され、これにより、突部20aがガイド部20bへと組み付けられてカム機構20が形成される。
【0038】
このような螺子筒4は、金型のスライドコア及びコアピンを用いて樹脂成形することができる。ここで周方向四分割可能な4方向スライドコア式の金型を用いており、これにより、周方向八等配の位置に設けられたガイド片20dのアンダーカット形状を無理なく形成することができる。
【0039】
図9はラチェット部材を示す斜視図、
図10はラチェット部材を示す平面図である。
図9及び
図10に示すように、ラチェット部材5は、樹脂による射出成形品とされており、略円筒状に構成されている。ラチェット部材5の前端面には、ラチェット機構8を構成するものとして、螺子筒4のラチェット歯8aに係合するラチェット歯8bが周方向に沿って複数設けられている。ここでのラチェット歯8bは、ラチェット部材5の前端面において周方向八等配の位置に突設されている。
【0040】
これらラチェット歯8bは、周方向に沿って鋸歯状(楔状)を成して前端面から突出している。具体的には、ラチェット歯8bにおける周方向一方側(本体筒2と操作筒3とを一方向に相対回転したときにラチェット歯8aの側面8a1と当接する側)の側面8b1は、周方向に山型になるよう前端面に対し傾斜している。一方、ラチェット歯8bにおける周方向他方側(本体筒2と操作筒3とを他方向に相対回転したときにラチェット歯8aの側面8a2と当接する側)の側面8b2は、前端面に直交し軸線方向に沿って延在している。
【0041】
このラチェット部材5の周壁において中央部から後端に至る部分には、略螺旋状のスリット5aが形成されている。これにより、ラチェット部材5は、ラチェット歯8bをラチェット歯8a側である前方へ向けて付勢するバネ部5bとしての機能を有する。また、ラチェット部材5の外周面の前端部には、操作筒3の突条3eに回転方向に係合するものとして、周方向に所定幅を有して軸線方向に延びる縦リブ5eが設けられている。
【0042】
この縦リブ5eは、ラチェット部材5の外周面の前端部において周方向八等配の位置に設けられている。縦リブ5eの後端面5fは、径方向視において、周方向他方側に行くに従い横断面に対し前方へ傾斜している。換言すると、後端面5fは、ラチェット部材5の許容回転方向に行くに連れて前方へ傾斜しており、上記操作筒3の突条3eの先端面3fと略平行とされている。
【0043】
図1及び
図9に示すように、このラチェット部材5は、その後方から操作筒3に内挿され、その縦リブ5eが操作筒3の突条3e,3e間に進入し、当該縦リブ5eが突条3eに回転方向に係合されている。これと共に、ラチェット部材5は、螺子筒4の後端側に突き当てられ、そのラチェット歯8bが螺子筒4のラチェット歯8aと係合可能とされている。これらにより、ラチェット部材5は、ラチェット歯8a,8bによって螺子筒4に対し許容回転方向のみ相対回転可能となるよう相対回転が規制された状態で、操作筒3に組み付けられる。
【0044】
また、ラチェット部材5は、螺子筒4の後端側と操作筒3の底面とにより軸線方向に挟み付けられ、そのバネ部5bによる付勢力(弾性力)が生じてラチェット歯8bが前方側へ付勢され、これにより、互いに係合したラチェット歯8a,8bがクリック係合の状態とされる。
【0045】
なお、縦リブ5eを突条3eに回転方向に係合させるべく突条3e,3e間に進入させる際において、これらの回転方向位置が互いにずれて縦リブ5eの後端面5f及び突条3eの先端面3fが互いに当接された場合、後端面5f及び先端面3fが上述の傾斜面となっていることから、許容回転方向へのラチェット部材5の相対回転が促される一方、許容回転方向と反対側へのラチェット部材5の相対回転は規制される。よってこの場合、ラチェット部材5が許容回転方向に相対回転され、縦リブ5eが突条3eに対し許容回転方向に移動されながら突条3e,3e間に進入することになる。その結果、縦リブ5eを突条3eに係合させるためにラチェット部材5が許容回転方向と反対側へ無理に相対回転されるのを抑制することができ、ひいては、無理な相対回転のためにラチェット歯8a,8bやその他の回転係合部が破損してしまうのを抑制することが可能なる。
【0046】
図1に戻り、移動体6は、円筒状に構成され、その前端部より後側から後端部に亘る外周面に、螺合部9の他方を構成する雄螺子6bを備えている。また、移動体6の内周面において周方向に六等配の位置には、移動体6の回止め部の他方を構成するものとして、径方向内側に突出し且つ軸線方向に延びる突条6cが設けられている。この移動体6は、操作筒3の軸体3cに外挿されると共に螺子筒4に内挿され、その雄螺子6bが螺子筒4の雌螺子4eと螺合している。これと共に、移動体6は、その突条6cが軸体3cの突条3d、3d(
図5参照)間に係合し、操作筒3に軸線方向移動可能にして回転方向に係合し装着されている。
【0047】
ピストン7は、塗布材Mの色調とは異なる色調(例えば、白色)を有するTPEE(ポリエステル系エラストマー)、TPU(ポリウレタン系エラストマー)、PP(ポリプロピレン)、HDPE(高密度ポリエチレン)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)等で成形されている。ピストン7は、外形が概略円柱状に形成されており、その前端面が軸線方向に直交する平面状を成すと共に、その後端面に凹部が凹設されている。つまり、ピストン7は、前面が平らとなっており、縦断面視で後方に開口するコの字形状を有している。凹部の内周面には、移動体6に対し軸線方向に所定長移動可能にして係合する環状突部7bが設けられている。
【0048】
また、ピストン7の外周面には、
図4に示すように、充填部材1に密着する領域として、充填部材1に当接(密接)し充填領域1xを気密化する凸部7cが設けられている。このようなピストン7は、移動体6の前端部に外挿され、その環状突部7bが移動体6に軸線方向に係合することで、移動体6に対し軸線方向移動可能(所定の範囲内を移動可能)にして装着されている。
【0049】
図11は、充填部材を示す分解斜視図である。
図1及び
図11に示すように、充填部材1は、例えば、揮発性溶剤の耐透過性に優れたポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCTA)、ポリプロピレン(PP)等の射出成形プラスチックで形成されており、外囲を構成する外側充填筒10と、この外側充填筒10の内側で充填領域1xを画設する内側充填筒11と、充填部材1の先端部を構成し塗布材Mを塗布するためのペン先部材12と、を含んで構成されている。
【0050】
図11に示すように、外側充填筒10は、着色材料(例えば、黒色)で形成されており、円筒状の本体部10aと、当該本体部10aの前側に連続するテーパ部10bと、を有している。本体部10aは、その外周面において軸線方向中央に、本体筒2の環状突部2bに軸線方向に係合する環状凹部10cを有している。また、本体部10aは、その外周面の環状凹部10cの前側に、本体筒2の前端面に当接する円環状の鍔部10dが設けられている。この本体部10aの外周面において後端部には、本体筒2のローレット2aに回転方向に係合するものとして、周方向に多数の凹凸状が並設されて当該凹凸状が軸線方向に所定長延びるローレット10eが設けられている。
【0051】
また、本体部10aは、空気及び塗布材Mの一部を通ずる通路部(第2通路部)として、且つ、塗布材Mの充填位置を確認すると共に内側充填筒11を係合するためのものとして、孔部10fを有している。孔部10fは、断面矩形状とされ、本体部10aの後端部の周壁において互いに対向する位置に一対形成されている。これら孔部10fは、径方向に延びて周壁の内外を貫通する。
図4及び
図11に示すように、この本体部10aの内周面の後端部は、その内径が拡がるように形成された拡大部を有している。拡大部は、後述の内側充填筒11の孔部11eにおける充填領域1x側とは反対側(充填領域1x外側)の開口11
outを、隙間を開けて覆う壁部(第1壁部)10xを構成する。壁部10xは、孔部11eから流出した塗布材Mの一部を後方へ案内させる機能を有する。
【0052】
テーパ部10bは、先細りの錐台筒状を呈し、横断面外形が扁平円形状とされている。テーパ部10bの前端部には、断面扁平円形状の開口10g(
図1参照)が形成されている。また、本体部10aの外周面における鍔部10dの前側には、環状に延在するOリング用溝10h(
図1参照)が設けられ、このOリング用溝10hには、後述のキャップC1内の気密性及び嵌合安定性を高める環状弾性体として機能するOリングR2が嵌め込まれて装着されている。
【0053】
内側充填筒11は、透明材料で形成され、その内部の充填領域1xにおける塗布材Mが透けて見えるような光透過性を有している。この内側充填筒11は、円筒状の本体部11aと、当該本体部11aの前側に連続するテーパ部11bと、当該テーパ部11bの前側に段差を介して連続する前端部11dと、を有している。
【0054】
本体部11aは、充填領域1x内の空気及び塗布材Mの一部を充填領域1x外へ通ずる通路部(第1通路部)として、孔部11eを有している。孔部11eは、本体部11aの後端部の周壁において互いに対向する位置に一対形成されていると共に、径方向に延びて周壁の内外を貫通する。また、これら孔部11eは、周方向において上記孔部10fと同位置に配置されている。孔部11eは、軸線方向に長尺の断面長円状、換言すると、軸線方向に所定長延在する断面トラック(track)状とされている。本体部11aの外周面における孔部11eの後側には、外側充填筒10の孔部10fに軸線方向に係合する凸部11fが設けられている。
【0055】
テーパ部11bは、横断面外形が扁平円形状とされた先細りの錐台筒状を呈している。前端部11dは、横断面外形が扁平円形状とされた筒状を呈している。
図1に示すように、この内側充填筒11は、外側充填筒10に対し内挿されて装着されている。このとき、内側充填筒11の前端と外側充填筒10との間には隙間11hが形成されており、当該隙間11hは、後述の栓C2を係合するための係合溝を構成する。
【0056】
図12(a)は
図1の塗布具におけるペン先部材を示す正面図、
図12(b)は
図1の塗布具におけるペン先部材を示す底面図である。
図12に示すように、ペン先部材12は、塗布材Mを塗布するためのものであり、軟質材で形成されている。軟質材としては、例えば、加硫により加熱し成形する熱硬化性の一般的なゴムや、プラスチックの一種であって熱により可塑化させ金型に流し込んで成形する熱可塑性エラストマーを用いることができる。
【0057】
一般ゴムとしては、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、シリコンゴム(Si)が主として挙げられる。その中でも、特にニトリルゴムは、前述の揮発性溶剤に対する耐油性に優れている。また、熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル系エラストマー(TPEE)、オレフィン系エラストマー(TPO)、ウレタン系エラストマー(TPU)が主として挙げられる。中でも、ウレタン系エラストマーにおいては、ハードセグメントがポリウレタンでソフトセグメントがポリエステルタイプ又はポリエーテルタイプの2種類の何れを用いることができ、塗布材Mに対しては、ソフトセグメントがポリエーテルタイプのものが特に適している。
【0058】
また、ペン先部材12は、好ましいとして、JIS K 6253で規定されているタイプAデュロメータによる硬さが40〜80とされている。このペン先部材12としては、軟質ペン先等あらゆる塗布部を使用することができる。図示するように、ペン先部材12は、先端側に尖形のペン先13と、ペン先13の基端側に段差部14を介して連続する基端部16と、を含んでいる。
【0059】
ペン先13は、横断面外形が扁平円で且つ側方視において刃状に形成されている。ここでの横断面外形の扁平円は、
図12(a)の上下方向が長軸方向とされていると共に、
図12(b)の上下方向が短軸方向とされている。このペン先13では、その先端面により、使用者の肌等の塗布対象に当接される塗布面Sが構成されている。塗布面Sは、前側に膨み且つ前後に細長の扁平円状曲面とされ、その先端には、頂点Pが形成されている。なお、頂点Pを小さい球状頂点として丸めることにより(頂点Pが小さい半径(R)の球面を有することにより)、被塗布部である肌50への当たりを和らげるように調整することも可能である。
【0060】
また、ペン先13の両側面において塗布面Sの外縁から所定長基端側に亘る領域には、塗布面S側に先細りとなるよう傾斜するテーパ面17が形成されている。ペン先13の軸線位置には、軸線方向に沿って延在する断面円形の貫通孔18が形成されている。貫通孔18における塗布面Sの開口部分は、塗布材Mを吐出するための吐出口18aを形成する。この吐出口18aは、充填領域1x内に充填され溶融状態の塗布材Mが当該吐出口18aから流れ落ちない程度に小さくされており、ここでは所定径を有している。
【0061】
基端部16は、その横断面外形がペン先13よりも大径とされた扁平円形状の筒状を呈している。この基端部16の外周面において前端から中央に亘る領域には、上記外側充填筒10のテーパ部10bに係合するものとして、先細りとなるよう傾斜するテーパ面19が形成されている。
【0062】
図1,
図11及び
図12に示すように、このペン先部材12は、その基端部16が内側充填筒11の前端部11dに外挿され、内側充填筒11に対し回転方向に係合されて密着されている。この状態で、ペン先部材12は、そのペン先13が外側充填筒10の開口10gに内挿され、外側充填筒10に対し回転方向に係合されて装着されている。つまり、ペン先部材12を内側充填筒11に組み付け、これを外側充填筒10に組み付けることで、外側充填筒10、内側充填筒11及びペン先部材12が充填部材1として互いに装着されている。また、このペン先部材12は、その段差部14が外側充填筒10の前端部に軸線方向に係合されていると共に、その基端部16の後端面が内側充填筒11に軸線方向に係合され、これにより、外側充填筒10及び内側充填筒11により軸線方向に挟持され保持されている。
【0063】
そして、充填部材1は、その後部側から本体筒2に内挿され、その外側充填筒10の環状凹部10cが本体筒2の環状突部2bに係合すると共に、その外側充填筒10のローレット10eが本体筒2のローレット2aに係合することで、本体筒2に対し軸線方向及び回転方向に係合されて装着され、当該本体筒2と一体化されている。これと共に、下記に詳説するように、塗布材Mが充填された充填部材1にあっては、その内側充填筒11の後端部にピストン7が気密に密着するように内挿されて装着されている。
【0064】
また、充填部材1のペン先部材12の吐出口18aには、栓C2が嵌挿されて着脱可能に取り付けられ、これにより、充填領域1xが密閉(気密化)される。さらに、この充填部材1の外側充填筒10には、OリングR2を介してキャップC1がネジ嵌合され(着脱可能に取り付けられ)、これにより、キャップC1内が気密状態とされる。なお、充填部材1の外側充填筒10の内面に対し螺子筒4の鍔部4a(
図7参照)が近接するように螺子筒4が内挿されており、これにより、雌螺子4eの内径が拡がることが阻止される。また、キャップC1内に円筒状の内キャップを取り付け、キャップC1内の空間を少なくすることで、塗布材Mの揮発をさらに抑えることもできる。
【0065】
次に、上記塗布具100における塗布材Mの充填及び組付け(塗布具100の製造方法)の一例を、詳細に説明する。
【0066】
図13及び
図14は、塗布具の塗布材充填を説明するための断面図である。
図13(a)に示すように、充填領域1x内に塗布材Mを充填するに際し、まず、充填治具50を用意する。充填治具50は、上方に開口する断面円形の凹部51aが形成されたシリンダ51と、凹部51aに上方から摺動可能に内挿された円筒状のピストン52と、含んで構成されている。凹部51aの底面の中央部には、ピストン52に内挿された凸部51bが形成されている。凸部51bは、円柱外形を呈して上方に突設されて成り、その側面には、ピストン52に対し摺動可能で且つ気密に当接する環状凸部51cが形成されている。
【0067】
続いて、シリンダ51の凹部51aの底面とピストン52の下端との間に所定の隙間が形成された状態、つまり、環状凸部51cがピストン52の下端部に当接されるようピストン52に凸部51bが内挿された状態において、当該ピストン52内に充填部材1を上方から内挿する。このとき、充填部材1は、先端が下方に位置する立姿勢とされ(前側が後側よりも下方に位置され)、当該先端がピストン52の中央下方寄りに位置するよう配置される。そして、充填部材1のOリングR2がピストン52の上部内面に気密状態で接し、充填部材1がピストン52の上端部に固定される。
【0068】
続いて、
図13(b)に示すように、80℃程度の温度に上昇させて溶解させた塗布材Mを、ノズル53を介して内側充填筒11の後方から当該内側充填筒11内に定量注入する。これにより、充填領域1x内に塗布材Mが充填されると共に、ピストン52内において充填部材1(塗布具100)の周囲には、吐出口18aが位置する気密空間Vが形成される。なお、塗布材Mの粘性に起因した流動遅れを考慮し、塗布材Mを充填した直後に所定時間放置してもよい。この場合、充填領域1x内で塗布材Mを確実に行き亘らせることができる。
【0069】
続いて、
図14(a)に示すように、シリンダ51に対しピストン52を下方へ摺動させて相対移動させる。具体的には、充填部材1が固定されたピストン52を、当該ピストン52の下端がシリンダ51の凹部51aの底面に当接するまで下方へ押し込む。これにより、気密空間Vの容積が縮小されて、気密空間V内が加圧される。その結果、気密空間V内のエアーが吐出口18aを介して充填領域1x内へと所定量進入し、これに伴って、充填領域1x内の塗布材Mが上方へ押し上げられる。すなわち、充填領域1x内における先端側(吐出口18a側)に空間Oが形成されるように、充填領域1x内へ吐出口18aから一定量のエアーが送り込まれることとなる。
【0070】
なお、塗布材Mの粘性に起因した流動遅れを考慮し、ピストン52を押し込んだ直後に所定時間放置してもよい。この場合、充填領域1x内において空間Oを確実に形成させることができる。ちなみに、ここでは、一定量の空間Oが形成されるよう充填領域1x内へエアーが送り込まれた結果、例えば、軸線方向で孔部11eの途中(中央)に至るまで塗布材Mが上昇されている。一定量は、仕様等に応じて適宜設定でき、また、例えば周囲温度や気圧の変化と塗布材Mの膨張率との相関等に基づいても適宜設定できる。
【0071】
続いて、
図14(b)に示すように、本体筒2、操作筒3、螺子筒4、ラチェット部材5、移動体6及びピストン7が互いに組み付けられた本体部55を、充填部材1に後方から装着する。具体的には、
図15(a)に示すように、内側充填筒11の後方からピストン7を前進させていき、ピストン7の凸部7cが内側充填筒11の内周面に当接するようにしてピストン7を内側充填筒11に内挿し装着する。
【0072】
ここで、
図15(b)に示すように、ピストン7の前端面が孔部11eにおける開口11
inの後端E
Rに差し掛かったとき以降、塗布材Mとピストン7との間の空気Aは、孔部11eを介して充填領域1x外へと積極的に押し出される。すなわち、ピストン7の前端が開口11
inの後端E
Rよりも前方に配置される状態となったときから、塗布材M及びピストン7間の空気Aが孔部11eを通じて充填領域1x外へと積極的に流出(排気)される。そして、例えば孔部11eを通った空気Aの少なくとも一部は、壁部10xに案内されて内側充填筒11及び外側充填筒10間を後方へ流れ、孔部10fをさらに通じて充填部材1外へと積極的に流出される。
【0073】
また、
図16(a)に示すように、ピストン7の前端面が軸線方向において開口11
inの途中に至り、ピストン7が塗布材Mに接触したとき以降、塗布材Mは、孔部11eを介して充填領域1x外へと積極的に押し出される。すなわち、塗布材M及びピストン7間に空気Aが介在しない状態となったときから、塗布材Mが孔部11eを通じて充填領域1x外へと積極的に流出される。そして、例えば孔部11eを通った塗布材Mは、壁部10xに案内されて内側充填筒11及び外側充填筒10間を後方へ流れる。
【0074】
後方へ流れた塗布材Mの一部は、螺子筒4のスリット4f(
図7参照)を介して螺子筒4内に流れ込み、螺合部9に達すると共に、当該塗布材Mの他部は、孔部10fをさらに通じて充填部材1外へと積極的に流出される。孔部10fを通った塗布材Mは、壁部2xに案内されて外側充填筒10及び本体筒2間を後方へ流れ、この塗布材Mの一部についても、螺子筒4のスリット4fを介して螺子筒4内に流れ込み、螺合部9に達する。
【0075】
また、ピストン7の凸部7cが開口11
inを越えた前方に配置され、内側充填筒11の内周面において開口11
inよりも前側に凸部7cが当接し密着したとき以降、充填領域1xと孔部11xとが非連通になり、これにより、充填領域1xの後端部が一層気密化される。
【0076】
以上により、
図16(b)に示すように、ピストン7の装着が完了し、初期状態としてピストン7が後退限(移動可能な範囲のうち最も後方位置)に位置されたときには、塗布材Mの一部が孔部11eを通って充填領域1x外へ流出されることとなる。ここでは、塗布材Mの一部は、容器内において、孔部11e,10fと、充填筒10,11間と、本体筒2及び充填部材1間と、螺合部9周辺と、に少なくとも存在している。
【0077】
以上、本実施形態では、塗布材Mが充填された充填領域1x内へ吐出口18aからエアーが送り込まれた後、本体部55が充填部材1に組み付けられる。これにより、充填領域1x内の先端側に一定量の空間Oを確実に確保することができ、塗布材Mが温度変化や気圧の変化で膨張等したとしても、意図せずに吐出口18aから塗布材Mが漏れるのを一定量の空間Oによって確実に防止することが可能となる。その結果、例えば50℃の周囲環境下で塗布材Mの漏出の有無を判定する製品試験についても、確実に合格することが可能となる。
【0078】
なお、塗布材Mを充填領域1x内に充填する従来方法としては、ペン先部材12を離脱状態にした充填部材1と本体部55とを予め組み付け、後端側を下側にした立姿勢で先端側から充填領域1xに塗布材Mを充填し、その後、ペン先部材12を装着する方法もある。しかしこの場合、充填領域1xの先端側に形成される空間が大きくなり過ぎ、初期使用時にピストン7を大きく前進させなければならず、煩雑となる。これに対し、本実施形態による塗布具100では、充填領域1xの先端側に適度な空間Oを確保できる。
【0079】
ちなみに、ペン先部材12を塗布部として具備するペン先型の塗布具100や、繊維を束ねたブラシを塗布部として具備するブラシ型の塗布具は、その構造上、充填領域1xの先端側に空間Oを形成するのは困難である。この点、本実施形態では、これらのタイプの塗布具においても(塗布具のタイプによらず)、充填領域1x内の先端側に一定量の空間Oを確実に確保できる。
【0080】
また、本実施形態では、上述したように、充填領域1x内に塗布材Mを充填するに際して充填治具50を用い、塗布具100周辺の気密空間Vの容積を縮小することによって充填領域1x内へエアーを送り込んでいる。これにより、充填領域1x内へ吐出口18aからエアーを送り込む上記工程を、好適に実現することができる。
【0081】
また、本実施形態の吐出口18aは、上述したように、溶融状態の塗布材Mが吐出口18aから流れ落ちない所定径を有している。よって、充填領域1x内に塗布材Mを確実に充填できる。また、吐出口18aから塗布材Mが流れ落ちない状態となっているため、当該吐出口18aからエアーを送り込む上でも、かかる構成は特に有効である。
【0082】
また、本実施形態では、充填領域1xから塗布具100内における充填部材1外へ通ずる通路部としての孔部10f,11eを備えている。よって、上述したように、ピストン7を充填部材1に組み付ける際、例えば塗布材Mの一部が充填領域1x外に孔部10f,11eを介して流出されるに至らしめるまで、塗布材Mとピストン7との間の空気Aを充填領域1x外へ孔部10f,11eを介して確実に排出させながら、充填部材1にピストン7が内挿され装着される。従って、塗布材Mとピストン7との間に空気Aが介在することをより確実に抑制できる。
【0083】
その結果、温度変化等により充填領域1xの内圧が顕著に高まるのを抑制し、塗布材Mが吐出口18aから自然漏出することを一層防止可能となる。これと共に、塗布材Mの押出し時に空気Aがクッションとなってタイムラグが発生することを抑制可能となる。さらには、孔部10f,11eから流出された塗布材Mについては、その油分を利用し、塗布具100内における螺合部9等の摺動部の潤滑材として機能させることも可能となる。また、孔部10f,11eから余分な塗布材Mが排出されることにもなるため、塗布材Mの充填量ばらつきを吸収できると共に、容器寸法や組付けの誤差等による充填領域1xの容積ばらつきを吸収できる。
【0084】
ところで、ピストン7を充填部材1に組み付ける際に塗布材Mとピストン7との間の空気Aを充填領域1x外へ排気しない一般的な充填方法では、充填開口からピストン7まで距離があることから、特に粘性が高い塗布材Mを充填する場合、ピストン7付近にエアーが絡んでしまい、塗布材Mの充填が困難となり易い。この点においても、本実施形態による上記作用効果は顕著である。
【0085】
図17は、
図1の塗布具において塗布材充填後を示すX線写真である。
図17に示すように、本実施形態により製造された塗布具100では、初期状態において、塗布材Mが充填された充填領域1x内の先端側に一定量の空間Oが確実に確保されているのを確認することができる。
【0086】
図18は、
図1の塗布具の一部を示すX線写真である。
図18に示すように、本実施形態により製造された塗布具100では、ピストン7が後退限に位置する初期状態において、塗布材Mの一部が孔部11eから充填領域1x外へ流出され、ひいては、螺合部9に至っており、塗布材M及びピストン7間における空気Aの介在が確実に抑制されているのを確認することができる。
【0087】
なお、本実施形態では、以下の作用効果も奏される。
【0088】
すなわち、本実施形態では、上述したように、孔部11eの開口11
outが壁部10xで覆われ、孔部11eから流出された塗布材Mが後方へ案内されるように構成されている。また、孔部10fの開口10
outが壁部2xで覆われ、孔部10fから流出された塗布材Mが後方へ案内されるように構成されている。よって、塗布具100内の摺動部の潤滑材として塗布材Mを機能させる上記作用効果を、積極的且つ効果的に発揮させることが可能となる。
【0089】
また、上述したように、後退限に位置するピストン7の少なくとも一部は、孔部11eにおける内側の開口11
inの後端E
Rに対し、前方に配置されている。よって、ピストン7を充填部材1に組み付ける際、塗布材Mとピストン7との間の空気Aを、充填領域1x外へ孔部11eを介して一層確実に排出できる。
【0090】
また、上述したように、ピストン7が後退限に位置する状態のとき、ピストン7の凸部7cが孔部11eの開口11
inを越えた前方に配置されている。よって、充填領域1xの気密性を確実に確保することが可能となる。かかる効果は、本実施形態のように塗布材Mが揮発性を有する場合、その塗布材Mの揮発を好適に抑制できるために特に有効である。
【0091】
また、上述したように、ピストン7の前端面が平面状とされており、これにより、ピストン7が塗布材Mとの間の空気A及び塗布材Mを孔部11eから押し出す際、空気A及び塗布材Mをスムーズに流通させる(ピストン7形状に起因して流通が阻害されるのを抑制する)ことができ、塗布材Mとピストン7との間に空気Aが介在することをより一層確実に抑制することが可能となる。
【0092】
また、本実施形態では、孔部11eが軸線方向に長尺状に形成されていることから、内側充填筒11において孔部11eの開口11
inの途中まで塗布材Mを充填する場合に、その充填量の許容範囲を大きくすることができ、塗布材Mを容易に注入することができる。つまり、塗布材Mの充填量がばらつく場合であっても、孔部11eの開口11
inの途中まで塗布材Mを確実に充填することが可能となる。
【0093】
また、本実施形態のような塗布材Mは、一般的にジャータイプのガラス容器に充填し、化粧用筆で使用される。しかしこの場合、広口のジャータイプの容器では、例えば塗布材Mの揮発が早くて塗布材Mが変化してしまい易い、及び筆先が固まって使用し難い、という問題がある。この点、本実施形態は、開放部分が少なくバリア性の高い樹脂製素材によって塗布材Mを2重及び3重に密閉し保議できるため、揮発成分を多く含む塗布材Mを使用する場合に有利なものとなる。
【0094】
ここで、以上のように構成され
図1に示す初期状態の塗布具100にあっては、使用者によりキャップC1及び栓C2が取り外され、本体筒2と操作筒3とが繰出し方向である一方向に相対回転されると、螺子筒4の雌螺子4e及び移動体6の雄螺子6bから成る螺合部9と操作筒3の突条3d及び移動体6の突条6cから成る回止め部との協働により、移動体6及びピストン7が前進し、充填部材1の充填領域1xに満たされた塗布材Mがペン先部材12の吐出口18aから吐出される(
図2参照)。
【0095】
また、このように本体筒2と操作筒3とが一方向に相対回転されたとき、ラチェット部材5のバネ部5bの弾性力でラチェット歯8bが軸線方向前側に付勢されることから、ラチェット機構8におけるラチェット歯8a,8bの係合及び係合解除(噛合及び噛合解除)が繰り返される。すなわち、ラチェット歯8aの側面8a1(
図7参照)がラチェット歯8bの側面8b1(
図9参照)に回転方向に係合し、ラチェット歯8aがラチェット歯8bの側面8b1を駆け上がるように摺動する。そして、ラチェット歯8aがラチェット歯8bを乗り越えて当該係合が解除された後、再び側面8a1が側面8b1に回転方向に係合する。その結果、ラチェット歯8a,8bの係合及び係合解除の度に、使用者にクリック感が付与される。ここでは、本体筒2と操作筒3とが一方向に相対的に1/8回転(45°)されたときにクリック感が1度生じるようになっている。
【0096】
他方、本体筒2と操作筒3とが繰戻し方向である他方向に相対回転しようとしても、ラチェット歯8aの側面8a2(
図7参照)がラチェット歯8bの側面8b2(
図9参照)に当接して回転方向に係止され、螺子筒4とラチェット部材5とが相対回転しないようにこれらの相対回転が規制される。その結果、本体筒2と操作筒3とが他方向に相対回転されないこととなる。
【0097】
また、
図6及び
図7に示すように、塗布具100は、上記カム機構20を備えている。カム機構20は、一方向における本体筒2及び操作筒3の一定回転量の相対回転により、移動体6及びピストン7を一定ストローク前進させた後に一定ストローク後退させる。ここでは、本体筒2と操作筒3とが1/8回転相対回転される毎に(クリック感が1度生じる毎に)、移動体6及びピストン7を1.2mm進退させる。このカム機構20は、上記のように、突部20aと、隆起部20c及びガイド片20dで構成されたガイド部20bとを備えており、突部20aがガイド部20bにより相対的にガイドされ、サインカーブに沿った相対軌跡に沿って突部20aが相対移動する。
【0098】
このカム機構20は、本体筒2及び操作筒3が一定回転量相対回転される毎に、相対回転の回転力を軸線方向に沿った直進力へ変換し、移動体6及びピストン7を一定ストローク進退させる。具体的には、本体筒2及び操作筒3が一方向に相対回転されると、まず、突部20aが周方向一方側へと相対移動し、突部20aの後側摺動面20a2がガイド片20dのガイド面20fと当接して摺動する。これにより、ガイド片20d(螺子筒4)は本体筒2に対し軸線方向に移動可能で回転方向に係合していることから、ガイド片20dが突部20aにより後方へと押しやられ、ガイド片20dが後退する。従って、螺子筒4が後退し、螺子筒4に螺合部9で螺合されている移動体6が後退し、ひいてはピストン7が後退することとなる。その結果、充填領域1xが拡張されて、充填領域1xの内圧が自動的に減圧される。
【0099】
引き続き一方向に相対回転されると、突部20aが周方向一方側へと引き続き相対移動し、螺子筒4、移動体6及びピストン7が引き続き後退し、そして、ガイド面20fの周方向一方側の縁部に接する位置まで突部20aが相対移動したとき、突部20aのガイド面20fとの摺動が終了し、螺子筒4、移動体6及びピストン7がカム機構20における最後方位置に達する。このとき(カム機構20の最後方位置に達したとき)、ラチェット歯8aがラチェット歯8bを乗り越え、ラチェット歯8a,8bが係合解除及び係合され、クリック感が発生する(
図1参照)。
【0100】
また、引き続き一方向に相対回転されると、突部20aが周方向一方側へと相対移動し、突部20aの前側摺動面20a1が隆起部20cのガイド面20eと当接して摺動する。これにより、隆起部20cが突部20aにより前方へと押しやられ、隆起部20cが前進する。従って、螺子筒4が前進し、移動体6及びピストン7が前進する。その結果、充填領域1xが収縮され、充填領域1x内の塗布材Mが押し出されて吐出口18aから吐出される。
【0101】
さらに引き続き一方向に相対回転されると、突部20aが周方向一方側へと引き続きさらに相対移動し、螺子筒4、移動体6及びピストン7が引き続き前進し、そして、ガイド面20eの周方向一方側の縁部に接する位置まで突部20aが相対移動したとき、突部20aのガイド面20eとの摺動が終了し、螺子筒4、移動体6及びピストン7がカム機構20における最前進位置に達する。以上により、移動体6及びピストン7が一定ストローク進退されることになる。
【0102】
従って、本実施形態の塗布具100では、次の作用効果をさらに奏する。すなわち、本体筒2及び操作筒3を一方向に一定回転量相対回転し、移動体6及びピストン7をカム機構20によって一定ストローク進退させることで、塗布材Mを吐出させるだけでなく、充填領域1x内を自動的に減圧させることができる。このように充填領域1x内を自動的に減圧させることができるため、塗布材Mの漏出、つまり、例えば時間の経過によって塗布材Mが吐出口18aから垂れてしまうことを、容易且つ確実に抑制することができる。また、圧力による塗布材Mの変化を抑制することが可能となる。
【0103】
特に、塗布具100では、上述したように、バネ等の弾性体の付勢力によらず、カム機構20が相対回転の回転力のみによって移動体6及びピストン7を進退させることができる。移動体6及びピストン7を進退させるのに必要な力に対し、弾性体の付勢力は不十分となる場合があるため、このような本実施形態によれば、塗布材Mの漏出を一層確実に抑制することができる。また、充填領域1xを画成するピストン7をカム機構20によって進退できるため、充填領域1xを直接的且つ好適に減圧させることができる。
【0104】
また、塗布具100では、上述したように、本体筒2及び操作筒3を相対回転させてクリック感が1度生じるたびに、移動体6及びピストン7が一定ストロークだけ進退する。そのため、クリック感により、相対回転の度合いや塗布材Mの吐出の度合いを使用者に感知させるだけでなく、移動体6及びピストン7の一定ストロークの進退をも感知させることができる。
【0105】
また、塗布具100では、上述したように、ラチェット機構8により、他方向における本体筒2及び操作筒3の相対回転を規制し、一方向における本体筒2及び操作筒3の相対回転のみを許容することが可能となる。
【0106】
また、塗布具100では、上述したように、クリック感が生じたときにおいて、螺子筒4がカム機構20の最後方位置に位置され、充填領域1x内が最大限に減圧されている。よって、通常、使用者はクリック感を基準に相対回転を停止する(使用を終える)ことから、使用後の塗布具100は、その充填領域1x内が減圧された状態とされ易いものとなる。この点、使用後の保管時に吐出口18aから塗布材Mが特に漏出し易い実情から、使用後の塗布具100の充填領域1x内を最大限に減圧可能な本実施形態は、有益なものといえる。
【0107】
なお、塗布具100では、内側充填筒11を透明にし、外側充填筒10の一部(ピストン7が移動体6の前進限である
図2に示す位置に在るときに当該ピストン7を視認可能な位置)に窓を形成してもよい。この場合、販売時や使用時にキャップC1を取り外すことにより、充填された塗布材Mの色調や有無を確認することが可能となる。例えば、ピストン7を白色で形成することにより、塗布材Mが最後まで押し出されてピストン7が外側充填筒10に形成された窓の位置まで到達すると、この窓から視認される色が塗布材Mの色から白色に変化するため、残量が無いことを認識可能であり、使い終わりの合図となる。また、ペン先13の色を塗布材Mの色と異なるものにすることで、塗布材Mの使用状況を視認によって容易に認識可能となる。
【0108】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0109】
例えば、上記実施形態では、溶融状態の塗布材Mが吐出口18aから流れ落ちない所定径を吐出口18aが有しているが、充填領域1x(充填部材1)の先端側(出口側)が絞られて所定径を有していてもよく、例えば内側充填筒11の前端部11dが所定径の筒孔を有していてもよい。この場合、吐出口18aが所定径を有する必要がなくなるため、当該吐出口18aを使用性のよい形状にすることができる。
【0110】
また、上記実施形態では、ピストン52内の気密空間Vの容積を縮小することによりエアーを吐出口18aを介して充填領域1x内へと送り込んだが、これに限定されるものではない。例えば気密空間Vに外部から圧縮空気(加圧空気)を供給することにより、エアーを吐出口18aを介して充填領域1x内へ送り込んでもよい。
【0111】
また、上記実施形態では、説明の便宜上、1つの塗布具100を製造する場合を例示したが、複数の塗布具100を同時並列的に製造してもよい。この場合、充填治具50は、凹部51aが複数形成されたシリンダ51と、各凹部51aに摺動可能に内挿された複数のピストン52と、を備えることとなる。
【0112】
また、上記実施形態では、通路部として長円形状の孔部11eを一対備えているが、通路部は、円(真円)形状や多角形状のものとしてもよいし、1つ又は3つ以上備えていてもよい。また、通路部は、内側充填筒11の周壁を貫通する孔部に限定されず、内側充填筒11の内周面に形成されて当該内側充填筒11の後端面に開口するよう延びる溝部(凹部)であってもよい。この場合、溝部の底面は、上記壁部10xが有する機能(すなわち、塗布材Mを後方へ案内する機能)を発揮できる。また、通路部は、孔部と溝部とを含む構成としてもよい。
【0113】
また、上記実施形態では、充填領域1xに空間Oが形成された状態において、内側充填筒11内における孔部11eの開口11
inの途中まで塗布材Mが充填されることになるが、内側充填筒11における孔部11eの開口11
inを越えた後方まで塗布材Mが充填されてもよいし、当該開口11
inに至らない前方まで塗布材Mが充填されてもよい。
【0114】
また、上記実施形態では、押出機構として螺合部9による回転式のものを採用しているが、これに限定されず、例えばノック式等の機械的な押出機構や、スクイーズ式の押出機構を採用することも可能である。また、移動体6及びピストン7を前進させることにより塗布材Mを押し出すのに代えて若しくは加えて、移動体6及びピストン7を後退させることにより塗布材Mを引き戻す(後退させる)場合もある。また、上記実施形態では、前端面が平面状のピストン7を押出部として用いているが、前方に向けて先細りとされた釣り鐘形状のピストンを用いてもよく、種々の押出部を用いることができる。また、上記実施形態では、カム機構20として円筒カム機構を採用しているが、他のカム機構を採用することも勿論可能である。
【0115】
また、上述した雄螺子及び雌螺子は、螺子山や螺子溝だけでなく、間欠的に配される突起群、又は螺旋状且つ間欠的に配される突起群のように螺子山や螺子溝と同様な働きをするものであってもよい。また、上記実施形態では、バネ部5bがラチェット部材5と一体に設けられているが、このバネ部5bは、ラチェット部材5と別体に設けられていてもよい。なお、上記において、ラチェット機構8がクリック機構を兼用しており、ラチェット歯8a,8bが一対のクリック突起(クリック歯)に対応する。また、上記実施形態のラチェット歯8a,8bについては、容器前部と容器後部との相対回転1回転で8回のクリック感が生じるクリック数に設定されているが、より細かく塗布材Mを吐出させるために、相対回転1回転で12回又は18回等のクリック感が生じるクリック数へ増やしてもよい。
【0116】
また、上記実施形態では、本発明を塗布具100の製造方法として説明したが、本発明は塗布具100に塗布材Mを充填する充填方法、又は塗布具100を組付ける組付方法として捉えることもできる。さらには、本発明は、上記製造方法により製造された塗布具100として捉えることもできる。