特許第5990744号(P5990744)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5990744グリース組成物、転がり軸受およびインバータモータ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5990744
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】グリース組成物、転がり軸受およびインバータモータ
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/02 20060101AFI20160901BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20160901BHJP
   F16C 19/02 20060101ALI20160901BHJP
   H02K 5/16 20060101ALI20160901BHJP
   H02K 5/173 20060101ALI20160901BHJP
   C10M 105/18 20060101ALN20160901BHJP
   C10M 115/08 20060101ALN20160901BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20160901BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20160901BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20160901BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20160901BHJP
【FI】
   C10M169/02
   F16C33/66 Z
   F16C19/02
   H02K5/16 A
   H02K5/173 A
   !C10M105/18
   !C10M115/08
   C10N20:00 Z
   C10N20:02
   C10N40:02
   C10N50:10
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-68087(P2012-68087)
(22)【出願日】2012年3月23日
(65)【公開番号】特開2013-199567(P2013-199567A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2015年1月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098464
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 洌
(74)【代理人】
【識別番号】100149630
【弁理士】
【氏名又は名称】藤森 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100111279
【弁理士】
【氏名又は名称】三嶋 眞弘
(74)【代理人】
【識別番号】100110984
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 敬子
(72)【発明者】
【氏名】岩松 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】土井 理史
(72)【発明者】
【氏名】中野 圭策
(72)【発明者】
【氏名】黒住 誠治
(72)【発明者】
【氏名】従野 知子
【審査官】 古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−088085(JP,A)
【文献】 特開平09−003466(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/131743(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/049727(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/136386(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0027731(US,A1)
【文献】 国際公開第2009/125653(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/108489(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 169/02
C10M 105/18
C10M 115/08
C10N 50/10
C10N 40/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃における動粘度が40〜80mm2/sであるアルキルジフェニルエーテル油からなる基油、および
脂環式モノアミンおよび芳香族モノアミンからなる混合アミンをジイソシアネート化合物と反応させて得られるジウレア化合物であり、脂環式モノアミンと芳香族モノアミンとの混合モル比が60:40〜80:20であるジウレア化合物からなる増ちょう剤を含有し、
混和ちょう度が220〜295であるインバータモータ用転がり軸受に封入されるグリース組成物。
【請求項2】
請求項1記載のインバータモータ用転がり軸受に封入されるグリース組成物が封入されたインバータモータ用転がり軸受。
【請求項3】
請求項2記載のインバータモータ用転がり軸受を用いたインバータモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータモータ用転がり軸受に封入されるグリース組成物、該グリース組成物が封入されたインバータモータ用転がり軸受け、および該転がり軸受を用いたインバータモータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エアコンのファンモータとして、電圧および周波数の制御によりその回転軸の回転数や回転速度を高精度に調整することができるインバータモータが一般的に使用されている。
【0003】
このようなインバータモータは、インバータ回路からの高周波電流がインバータモータに設けられた軸受に流れ、軸受の外輪と内輪間に電位差(軸電圧)が発生し、軸電圧が軸受内部に封入されたグリース組成物の絶縁破壊電圧に達すると放電が起こり軸受内部を損傷する電食という現象が生じることが知られている。そして、電食が進行した場合、軸受内輪、軸受外輪または軸受転動体(ボール)に波状摩耗現象が発生して異常音の発生に至ることがあり、インバータモータにおける不具合の主要因の1つとなっている。
【0004】
これまで、電食を抑制するために、以下の対策が考えられている。
(1)軸受内輪と軸受外輪を導通状態にする。
(2)軸受内輪と軸受外輪を絶縁状態にする。
(3)軸電圧を低減する。
【0005】
上記(1)の具体的方法として、軸受内部に封入するグリース組成物を導電性グリース組成物とすることで、軸受内部での放電を防ぎ、電食を抑制する方法などが挙げられる。このような導電性グリース組成物として、所定のカーボンブラックや無機化合物の添加により、導電性を向上させたものが報告されている。例えば、特許文献1には所定のカーボンブラックを含有する導電性グリース組成物を深溝玉軸受の空隙部内に封入することで、電食が生じにくい軸受とすることが記載されている。
【0006】
しかしながら、このような導電性グリース組成物は、時間経過とともに導電性が悪化し、安定的に長期間、電食を抑制することができないという問題や、摺動信頼性に欠けるという問題がある。
【0007】
また、(1)の方法として、回転軸にブラシを設置し、導通状態にする方法も考えられるが、この方法もブラシ摩耗粉や、ブラシ設置のためのスペースが必要となるなどの課題がある。
【0008】
上記(2)の具体的方法としては、軸受内部の鉄ボールを非導電性のセラミックボールに変更することが挙げられる。この方法は、電食抑制の効果は非常に高いが、コストが高いという課題があり、汎用的なインバータモータには採用できない。
【0009】
また、特許文献2には、所定の動粘度を満たすエステル油を基油とし、リチウム石けんを増ちょう剤とするグリースを封入することで、電気絶縁性の油膜を厚くして軸受を電流が流れ難くなり、安価でありながらも電食による損傷を効果的に回避できることが記載されている。しかしながら、特許文献2記載のグリースは絶縁耐圧が充分ではなく、電食を安定的に長期間、抑制するという点では改善の余地がある。
【0010】
上記(3)の具体的方法として、インバータモータにおける固定子鉄心を導電性の金属製ブラケットや、大地アースされた接地部に接続することで、軸電圧を低減する方法が挙げられる。この方法による電食抑制の効果は高いが、新たな接続を設置するためのスペースが必要であり、モータの構造が制限される。
【0011】
一方、高温・高速・高荷重・振動環境など苛酷な環境で使用される自動車電装部品、エンジン補機などに用いられる軸受に、アルキルジフェニルエーテル油からなる基油、およびジウレア化合物からなる増ちょう剤を含有するグリース組成物を封入することが知られている。しかしながら、これらの使用環境においては、耐電食性および低トルク特性についての対策は考慮されない。特に低トルク特性および低温特性は求められないため、40℃における動粘度が100mm2/s以上のアルキルジフェニルエーテル油を使用することが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−180291号公報
【特許文献2】特開2006−153130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、電食を安定的に長期間、抑制することができ、さらに低トルク特性に優れたインバータモータ用転がり軸受に封入されるグリース組成物、該グリース組成物が封入されたインバータモータ用転がり軸受および該転がり軸受を用いたインバータモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のインバータモータ用転がり軸受に封入されるグリース組成物は、40℃における動粘度が40〜80mm2/sであるアルキルジフェニルエーテル油からなる基油、および脂環式モノアミンおよび芳香族モノアミンからなる混合アミンをジイソシアネート化合物と反応させて得られるジウレア化合物からなる増ちょう剤を含有し、混和ちょう度が220〜295である。
【0015】
また、本発明のインバータモータ用転がり軸受は、前記グリース組成物が封入されてなること特徴とする。
【0016】
さらに、本発明のインバータモータは、前記転がり軸受を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、所定の動粘度を有するアルキルジフェニルエーテル油からなる基油、および所定のジウレア化合物からなる増ちょう剤を含有し、混和ちょう度を220〜295とすることで、電食を安定的に長期間、抑制することができ、さらに低トルク特性に優れたインバータモータ用転がり軸受に封入されるグリース組成物、該グリース組成物が封入されたインバータモータ用転がり軸受および該転がり軸受を用いたインバータモータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るインバータモータの断面を示す概略図である。
図2】軸電圧測定試験および耐電食性試験で用いた試験用インバータモータの断面を示す概略図である。
図3】軸受損失性能試験で用いた装置の断面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明のインバータモータ用転がり軸受に封入されるグリース組成物(以下、単に本発明のグリース組成物ともいう)について説明する。
【0020】
本発明のインバータモータ用転がり軸受に封入されるグリース組成物は、アルキルジフェニルエーテル油からなる基油、およびジウレア化合物からなる増ちょう剤を含有する。
【0021】
前記アルキルジフェニルエーテル油は、エステル油や鉱物油などの他の基油に比べ、絶縁耐圧性能を向上させることができる。しかし、自動車電装部品などに用いられる軸受用のグリース組成物に使用されるアルキルジフェニルエーテル油は耐熱性能において優れるが、40℃における動粘度が100mm2/s以上であり、低トルク特性において劣るという問題がある。そこで、本発明においては40℃における動粘度が所定の範囲を満たすアルキルジフェニルエーテル油を使用することで、絶縁耐圧性および低トルク特性を向上させる。
【0022】
前記アルキルジフェニルエーテル油の40℃における動粘度は40mm2/s以上であり、50mm2/s以上であることが好ましく、60mm2/s以上であることがより好ましい。40℃における動粘度が40mm2/s未満の場合は、絶縁耐圧が低下する傾向、グリース組成物が軸受内から漏洩しやすくなる傾向がある。また、アルキルジフェニルエーテル油の40℃における動粘度は80mm2/s以下であり、75mm2/s以下であることが好ましい。40℃における動粘度が80mm2/sを超える場合は、低トルク特性が低下し、軸受損失が大きくなる傾向がある。
【0023】
前記ジウレア化合物は、脂環式モノアミンおよび芳香族モノアミンからなる混合アミンをジイソシアネート化合物と反応させて得られるジウレア化合物である。特に本発明は、混合アミンを構成するアミンを脂環式モノアミンおよび芳香族モノアミンとすることで、耐電食性能を向上させることができる。
【0024】
芳香族モノアミンとしては、アニリン、アルキルフェニルアミンなどが挙げられる。なかでも環境に対するやさしさ、入手性、分散性が好ましい点からアルキル基の炭素数が8〜16のアルキルフェニルアミンが好ましく、アルキル基の炭素数が10〜14のアルキルフェニルアミンがより好ましい。また、前記アルキルフェニルアミンのアルキル基は、直鎖状でも分枝状でもよく、フェニル基におけるアルキル基の置換位置はオルト位、メタ位およびパラ位のいずれでもよい。具体的には、例えばオクチルアニリン、デシルアニリン、ドデシルアニリン、ヘキサデシルアニリン、イソドデシルアニリンなどが挙げられる。特に分散性が良好な点からパラドデシルアニリンがより好ましい。
【0025】
脂環式モノアミンとしては、シクロヘキシルアミン、アルキルシクロヘキシルアミンなどが挙げられる。なかでも入手性において優れるという点からシクロヘキシルアミンが好ましい。
【0026】
脂環式モノアミンと芳香族モノアミンとの混合モル比(脂環式モノアミン:芳香族モノアミン)は、60:40〜80:20とすることが、分散性において優れるという点から好ましく、65:35〜75:25とすることが、さらに分散性において優れるという点からより好ましい。
【0027】
前記ジイソシアネート化合物としてはジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネートなどが挙げられる。なかでもジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネートが入手性において優れるという点から好ましく、さらに耐熱性に優れる点からジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートが好ましい。
【0028】
混合アミンとジイソシアネート化合物との反応は、種々の方法と条件下で行うことができるが、増ちょう剤の均一分散性が高いジウレア化合物が得られることから、基油中において行うことが好ましい。また、反応は混合アミンを溶解した基油中に、ジイソシアネート化合物を溶解した基油を添加して行ってもよく、また、ジイソシアネート化合物を溶解した基油中に、混合アミンを溶解した基油を添加して行ってもよい。
【0029】
前記反応における温度および時間は、特に限定されず、通常のこの種の反応と同様でよい。反応温度は混合アミンおよびジイソシアネートの溶解性、揮発性の点から、60〜170℃が好ましい。反応時間は混合アミンとジイソシアネートの反応を完結させるという点と製造時間短縮による効率化の点から0.5〜2.0時間が好ましい。また、混合アミンのアミノ基とジイソシアネート化合物のイソシアネート基の反応は定量的に進み、それらの割合は、混合アミン2モルに対してジイソシアネート化合物1モルとすることが好ましい。
【0030】
前記反応により得られるジウレア化合物は、ジイソシネート化合物の両イソシアネート基が混合アミン中の脂環式アミンと反応したジウレア化合物(a)、ジイソシネート化合物の両イソシアネート基が混合アミン中の芳香族アミンと反応したジウレア化合物(b)、およびジイソシアネート化合物のイソシアネート基の一方が脂環式アミンと、他方が芳香族アミンと反応したジウレア化合物(c)からなるジウレア化合物の混合物である。なお、本発明で用いるジウレア化合物には、前記のジウレア化合物(a)〜(c)をそれぞれ合成し、これらを混合することで得られるジウレア化合物も含まれる。
【0031】
前記増ちょう剤の含有量は、基油と増ちょう剤の合計量中13〜17質量%であることが好ましく、14〜16質量%であることがより好ましい。増ちょう剤の含有量が13質量%未満である場合は、グリース組成物の混和ちょう度を295以下とすることが困難となり、軟質なグリース組成物となるため軸受内から漏洩しやすくなる傾向がある。また、増ちょう剤の含有量が17質量%を超える場合は、グリース組成物の混和ちょう度を220以上とすることが困難となり、使用箇所のトルクが増大する傾向、流動性低下により焼付き寿命が低下する傾向がある。
【0032】
また、本発明のグリース組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で酸化防止剤、極圧剤、耐摩耗剤、染料、色相安定剤、増粘剤、構造安定剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤、防錆添加剤などの各種添加剤を適量含有してもよい。これらの各種添加剤を含有する場合、グリース組成物における含有量は基油と増ちょう剤との合計量100質量部に対して10質量部以下とすることができる。なお、導電性を付与する添加剤は含有しないことが好ましい。
【0033】
本発明のグリース組成物は、混和ちょう度が220〜295とすることを特徴とする。混和ちょう度が295を超える場合は、グリース組成物が軸受内から漏洩しやすくなる傾向がある。また、混和ちょう度が220未満の場合は使用箇所のトルクが増大する傾向、流動性低下により焼付き寿命が低下する傾向がある。特に好ましい混和ちょう度は、軸受損失と耐電食性のバランスにおいてさらに優れるという点から235〜265である。
【0034】
次に、本発明のインバータモータ用転がり軸受け、および該転がり軸受を用いたインバータモータの実施形態について添付の図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0035】
図1は本発明の一実施形態に係るインバータモータの断面を示す概略図である。図1に示すインバータモータ10は、回転軸11にロータ12が取り付けられており、ロータ12に対向してステータ13がケース14に固定されている。そして、本発明のインバータモータ用転がり軸受けは、ケース14のフランジ部に転がり軸受20Aおよび20Bとして固定されており、回転軸11をロータ12の両端部において回転自在に軸支する。
【0036】
また、転がり軸受20Aおよび20Bは、それぞれケース14に固定された外輪21、外輪の内面に対向するように設けられ、回転軸11が圧入された内輪22、および外輪21と内輪22との間に転送可能に複数設けられた転動体23を有する。そして、外輪21、内輪22および転動体23間の空間には本発明のグリース組成物が封入されている。なお、転がり軸受に封入するグリース組成物の量は、転がり軸受の形式や寸法等に応じて適宜変更することができるが、ほぼ従来と同程度でよい。
【0037】
本発明のインバータモータとしては、家庭用の電化製品などの各種モータが挙げられるが、電食を安定的に長期間、抑制することができ、さらに低トルク特性に優れ、軸受損失が少ないインバータモータであることから、エアコン用のファンモータとして用いることが好ましい。
【0038】
さらに、本願発明のインバータモータにおいて、固定子鉄心を導電性の金属製ブラケットや、大地アースされた接地部に接続することで、軸電圧を低減する方法を施すことで、より電食を安定的に長期間、抑制されたインバータモータとすることができる。
【0039】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は、何らこれら実施例に限定されるものではない。
【0040】
評価方法を以下に示す。
【0041】
<混和ちょう度の測定>
JIS K2220−7に準拠し、25℃の環境下で、ちょう度計に取り付けた円錐を試験用グリース組成物に落下させ、5秒間かけて進入した深さ(mm)を測定し、測定された値を10倍したものを混和ちょう度とする。
【0042】
<耐電食性試験>
図2に示すように試験用グリース組成物が封入された試験用転がり軸受200を試験用インバータモータ100に搭載し、モータを一定の回転数で一定時間駆動させ、電食による異常音の発生を評価する。評価結果は、電食による異常音が発生しないものを○、異常音が発生したものを×で表記する。
【0043】
耐電食性試験の詳細な条件を以下に示す。
試験軸受:単列深溝玉軸受(JIS呼び番号:608、内径8mm、外径22mm、幅7mm)
グリース封入量:軸受空間容積の約40%
試験用インバータモータ
室内エアコン用小型空調ファンモータ(インバータモータ)
運転条件
回転数:1000rpm
回転時間:5000時間
温度:25℃
【0044】
<軸受損失性能試験(低トルク特性試験)>
図3に示すように試験用グリース組成物が封入された2個の試験用転がり軸受200を回転軸300に圧入し、回転軸300を一定の回転速度で駆動させた時の軸受損失をトルク検出器により検出する。軸受損失はインバータモータの高効率化の要求に伴い、損失が小さいことが求められ、0.5W以下であることが好ましい。評価は0.5W以下のものを○、0.5Wを超えるものを×で表記する。なお、軸受損失が小さいということは、低トルク特性において優れることを示す。
【0045】
軸受損失性能試験の詳細な条件を以下に示す。
試験軸受:単列深溝玉軸受(JIS呼び番号:608、内径8mm、外径22mm、幅7mm)
グリース封入量:軸受空間容積の約40%
運転条件
回転数:1000rpm
温度:25℃
【0046】
<総合評価>
耐電食性試験および軸受損失性能試験の両評価が○のものを○、少なくともいずれかが×のものを×で表記する。総合評価が○のものは、電食を安定的に長期間、抑制することができ、さらに軸受損失性能(低トルク特性)に優れることを示す。
【0047】
本実施例では、以下の原料を使用した。
基油
ADE1:株式会社MORESCO製のアルキルジフェニルエーテル油、動粘度(40℃):100mm2/s
ADE2:株式会社MORESCO製のアルキルジフェニルエーテル油、動粘度(40℃):30mm2/s
ADE3:ADE1とADE2を質量比45:55で混合、動粘度(40℃):70mm2/s
ADE4:ADE1とADE2を質量比25:75で混合、動粘度(40℃):55mm2/s
ADE5:ADE1とADE2を95:5で混合、動粘度(40℃):40mm2/s
鉱油/PAO:Exxon Mobil Corporation製の精製鉱物油(動粘度(40℃):110mm2/s、粘度指数:96)とNeste Oil製の合成炭化水素油(動粘度(100℃):6mm2/s)とを質量比50:50で混合、動粘度(40℃):55mm2/s
エステル油:新日鉄化学株式会社製のジペンタエリスリトール油(動粘度(40℃):70mm2/s)と花王株式会社製のポリオールエステル油(動粘度(40℃):33mm2/s)を質量比70:30で混合、動粘度(40℃):55mm2/s
増ちょう剤
アミン
脂環式モノアミン:シクロヘキシルアミン(99.2g/mol)
芳香族モノアミン:パラドデシルアニリン(261.45g/mol)
脂肪族モノアミン:オクチルアミン(129.24g/mol)
ジイソシアネート化合物
ジイソシアネート:ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(250.25g/mol)
Li石けん
Li石けん:12−ヒドロキシステアリン酸リチウム
【0048】
実施例1〜5、比較例1〜9
表1および表2に示す配合に従い、基油、増ちょう剤および添加剤を原料として試験用グリース組成物を調製した。得られた試験用グリース組成物について前記の評価を行った。なお、比較例9は従来品として共同油脂株式会社製のマルテンプSRL(動粘度(40℃):25mm2/s)を使用し、評価を行った。結果を表1および表2に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【符号の説明】
【0051】
10 インバータモータ
11 回転軸
12 ロータ
13 ステータ
14 ケース
20A 転がり軸受
20B 転がり軸受
21 外輪
22 内輪
23 転動体
図1
図2
図3