(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の路面勾配推定装置およびエンジン制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
〔実施例1〕
まず、実施例1の構成を説明する。
図1は、実施例1のエンジン制御装置を示すシステム図である。エンジン1から入力された回転駆動力は、トルクコンバータ2を介してベルト式無段変速機3に入力され、所望の変速比によって変速された後、駆動輪4に伝達される。
エンジン1は、エンジン始動を行う始動装置1aを有する。具体的には、スタータモータが備えられ、エンジン始動指令に基づいてエンジンクランキングを行うと共に、燃料を噴射し、エンジン1が自立回転可能になると、スタータモータを停止する。
【0009】
エンジン1の出力側には、停車速域でトルク増幅を行うと共に、所定車速(例えば、14km/h程度)以上では、相対回転を禁止するロックアップクラッチを有するトルクコンバータ2が設けられている。トルクコンバータ2の出力側にはベルト式無段変速機3が接続されている。
ベルト式無段変速機3は、発進クラッチと、プライマリプーリおよびセカンダリプーリと、これら両プーリに掛け渡されたベルトとから構成され、プーリ溝幅を油圧制御によって変更することで所望の変速比を達成する。また、ベルト式無段変速機3内には、エンジン1によって駆動されるオイルポンプが設けられ、エンジン作動時には、オイルポンプを油圧源としてトルクコンバータ2のコンバータ圧やロックアップクラッチ圧を供給し、また、ベルト式無段変速機3のプーリ圧やクラッチ締結圧を供給する。
さらに、ベルト式無段変速機3には電動オイルポンプ3aが設けられており、エンジン自動停止によってオイルポンプによる油圧供給ができない場合には、電動オイルポンプ3aが作動し、必要な油圧を各アクチュエータに供給可能に構成されている。よって、エンジン停止時であっても、所望の変速比を達成し、また、クラッチ締結圧を維持することができる。
【0010】
エンジン1は、エンジンコントロールユニット(自動停止再始動制御手段)10によって作動状態が制御される。エンジンコントロールユニット10には、車両の前後方向加速度を検出する前後Gセンサ(加速度検出手段)11からの前後G信号、ドライバのアクセルペダル操作量を検出するアクセル開度センサ12からのアクセル信号、ブレーキペダル操作量に基づいて生じるマスタシリンダ圧検出するマスタシリンダ圧センサ13からのブレーキ操作量信号(マスタシリンダ圧)、各輪に備えられた車輪速センサ14からの車輪速信号、後述するCVTコントロールユニット15からのCVT状態信号、エンジン水温、クランク角やエンジン回転数等の信号を入力する。エンジンコントロールユニット10は、上記各種信号に基づいてエンジン1の始動もしくは自動停止を実施する。なお、マスタシリンダ圧センサ13に代えてブレーキペダルストローク量やブレーキペダル踏力を検出する踏力センサ、もしくはホイルシリンダ圧を検出するセンサ等の用い、これによりブレーキペダル操作量を検出しても良い。
【0011】
CVTコントロールユニット15は、エンジンコントロールユニット10との間でエンジン作動状態とCVT状態の信号を送受信し、これら信号に基づいてベルト式無段変速機3の変速比等を制御する。具体的には、走行レンジが選択されているときには、発進クラッチの締結を行うと共に、アクセルペダル開度と車速とに基づいて変速比マップから変速比を決定し、各プーリ油圧を制御する。また、車速が所定車速未満のときは、ロックアップクラッチを解放し、所定車速以上のときはロックアップクラッチを締結し、エンジン1とベルト式無段変速機3とを直結状態とする。さらに、走行レンジ選択中におけるエンジン自動停止時には、電動オイルポンプ3aを作動させ、必要な油圧を確保する。なお、CVTコントロールユニット15は、エンジンコントロールユニット10からの発進クラッチ締結/解放要求に応じて発進クラッチの締結/解放を行う。
【0012】
[コーストストップ制御]
実施例1では、車両走行中であっても、減速中であり、このまま車両停止する可能性が高いと判断したときは、エンジン1を停止するコーストストップ制御を行う。
コーストストップ制御の開始条件は、以下の5条件がすべて成立している場合であり、終了条件は、5条件のうちいずれか1つが不成立の場合とする。
1.ブレーキ操作量が所定操作量以上
2.アクセルペダル操作量がゼロ
3.走行レンジが選択されている
4.車速が基準車速(ロックアップクラッチを解放する車速)以下
5.路面勾配がコーストストップ許可勾配(所定勾配)以下
エンジンコントロールユニット10は、上記5条件がすべて成立している場合であっても、不整地(砂利道、草地等)走行時には、コーストストップ制御禁止フラグをセットし、この禁止フラグがセットされている間は、コーストストップ制御を禁止または解除する。なお、禁止フラグは、不整地を脱した場合にリセットされる。
【0013】
エンジンコントロールユニット10は、車両の前後Gを推定する前後G推定部(加速度検出手段)10aと、路面勾配および不整地を検出するための路面勾配推定装置(路面勾配推定手段)10bを備える。
前後G推定部10aは、前後Gセンサ11により検出された前後G(検出前後G)と車輪速センサ14により検出された各車輪速とを入力し、各車輪速から車速を演算してこれを微分することで前後加速度の推定値(推定前後G)を求める。
路面勾配推定装置10bは、推定前後Gを検出前後Gから減じた演算値を路面勾配推定値として出力する。
【0014】
ここで、瞬間的不整地(小石、枝や木片等の路上落下物、マンホール)を走行した場合、瞬間的な路面μ変化によって前後Gセンサ11や車輪速センサ14の検出値が一時的に大きく変動することがある。このとき、路面勾配推定値を検出前後Gと推定前後Gとから求めた場合、求めた路面勾配推定値は真値から大きく乖離し、実際の路面勾配はコーストストップ許可勾配以下であるにもかかわらず、演算した路面勾配推定値がコーストストップ許可勾配を超えることでコーストストップ制御が解除され、燃費向上効果が阻害されてしまう。
そこで、実施例1では、瞬間的不整地通過に伴う路面勾配の誤推定抑制を目的とし、以下に示すような路面勾配推定処理を実施する。
【0015】
[路面勾配推定処理]
図2は、実施例1の路面勾配推定装置10bで実行される路面勾配推定処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
ステップS1では、検出前後Gが変動しているか否かを判定する。YESの場合はステップS2へ進み、NOの場合はステップS7へ進む。ここでは、検出前後Gの単位時間当たりの変動幅が所定幅を超えた場合に変動していると判定する。
ステップS2では、路面勾配推定値を検出前後Gが変動する直前に検出前後Gと推定前後Gとから演算した値に固定(ホールド)する。
【0016】
ステップS3では、変動の収束が早いか否かを判定する。YESの場合はステップS4へ進み、NOの場合はステップS5へ進む。ここでは、所定の収束性判定区間(時間または走行距離)における検出前後Gの減衰率が所定減衰率以上である場合に変動の収束が早いと判定する。ステップS3は、瞬間的不整地判定手段である。
ステップS4では、瞬間的不整地と判定する。
ステップS5では、継続的不整地(砂利道、草地等、通常の不整地)と判定する。
ステップS6では、検出前後Gが収束するまでステップS2のホールドを継続する。
ステップS7では、検出前後Gから推定前後Gを減じた値を路面勾配推定値とする。
【0017】
次に、作用を説明する。
図3は、実施例1の路面勾配推定作用を示すタイムチャートで、(a)は瞬間的不整地を走行した場合、(b)は不整地(継続的不整地)を走行した場合を示す。
まず、(a)のシーンについて説明する。
時点t1では、コーストストップ制御の開始条件が成立したため、コーストストップ実施判定がなされ、エンジン1が自動停止される。
時点t2では、瞬間的不整地を通過する。
【0018】
時点t2からt3までの区間では、瞬間的不整地の通過に伴い検出前後Gは大きく変動するため、検出前後Gから推定前後Gを減じた値は破線のように振動するが、路面勾配推定値は、変動開始直前の値、すなわち、時点t2の値に固定される。このため、コーストストップ制御は解除されず、エンジン1の自動停止が継続されるため、瞬間的不整地通過に伴う路面勾配の誤推定による燃費改善効果の低下を抑制できる。
【0019】
時点t3では、所定の収束性判定区間(t2〜t3)における路面勾配推定値の減衰率が所定減衰率以上であったため、瞬間的不整地と判定される。同時に、検出前後Gが収束したため、路面勾配推定値の固定が解除される。
時点t4では、ドライバがブレーキペダルから足を離したため、コーストストップ制御が解除され、エンジン1が再始動される。
【0020】
次に、(b)のシーンについて説明する。
時点t1からt2までの区間は、(a)と同じであるため説明を省略する。
時点t2では、不整地に進入する。
時点t2からt3までの区間では、不整地進入に伴い検出前後Gは大きく変動するため、検出前後Gから推定前後Gを減じた値は振動するが、路面勾配推定値は、変動開始直前の値、すなわち、時点t2の値に固定されるため、コーストストップ制御は解除されず、エンジン1の自動停止が継続される。
【0021】
時点t3では、所定の収束性判定区間(t2〜t3)における路面勾配推定値の減衰率が所定減衰率未満であったため、継続的不整地と判定される。よって、路面勾配推定値の固定が解除され、検出前後Gから推定前後Gを減じた値が路面勾配推定値とされる。また、継続的不整地と判定されることでコーストストップ制御の禁止フラグがセットされるため、コーストストップ制御は解除され、エンジン1が再始動される。
【0022】
不整地走行中は路面勾配の推定精度が著しく低下し、かつ、舗装路と比較して路面μが低い可能性が高い、仮にコーストストップ制御を実施した場合、車両のずり下がりが生じるおそれがある。また、路面勾配推定値がコーストストップ許可勾配を跨いで変動することで制御ハンチングが生じるおそれがある。よって、不整地走行中はコーストストップ制御を禁止することで、車両のずり下がりや制御ハンチングを防止できる。
時点t4では、路面勾配推定値が収束したため、コーストストップ制御の禁止フラグはリセットされる。
【0023】
次に、効果を説明する。
実施例1にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(1) 検出前後Gを出力する前後Gセンサ11と、推定前後Gを演算する前後G推定部10aと、検出前後Gと推定前後Gとに基づき路面勾配推定値を演算する路面勾配推定装置10bと、を有する路面勾配推定装置において、走行路が瞬間的不整地か継続的不整地かを判定する瞬間的不整地判定手段(S3)を備え、路面勾配推定装置10bは、瞬間的不整地であると判定された場合、路面勾配推定値を当該判定直前の路面勾配推定値に固定する。
これにより、瞬間的不整地通過に伴う路面勾配の誤推定を抑制できる。
【0024】
(2) 瞬間的不整地判定手段は、検出前後Gの収束性(収束性判定区間における減衰率)に基づき瞬間的不整地か継続的不整地下を判定する。
不整地走行時、検出前後Gの波形は常に振動するのに対し、瞬間的不整地を通過したときの検出前後Gの波形は、通過直後から減衰を開始し、収束する。よって、検出前後Gの収束性を見ることで、瞬間的不整地の通過と通常の不整地(継続的不整地)走行とを精度良く判別できる。
【0025】
(3) 惰性走行時に路面勾配がコーストストップ許可勾配以下となる条件を含む所定の開始条件が成立するとエンジン1を自動停止させ、その後、路面勾配がコーストストップ許可勾配よりも大きくなる条件を含む所定の終了条件が成立するとエンジン1を再始動させるエンジンコントロールユニット10を有するエンジン制御装置において、路面勾配推定装置10bにより推定された路面勾配推定値に基づいてコーストストップ制御の実行の可否を判定する。
これにより、瞬間的不整地を走行した場合であってもコーストストップ制御が禁止または解除されないため、路面勾配の誤推定に伴う燃費改善効果の低下を抑制できる。
【0026】
(4) エンジンコントロールユニット10は、継続的不整地であると判定された場合、開始条件が成立したときでもエンジン1の自動停止を禁止する。
これにより、不整地走行中における車両のずり下がりや制御ハンチングを防止できる。
【0027】
〔実施例2〕
実施例2は、アイドリングストップに適用した例である。以下、実施例1と異なる点についてのみ説明する。
[アイドリングストップ制御]
実施例2のエンジンコントロールユニット(自動停止再始動制御手段)10は、車両停止時にエンジン1を停止するアイドリングストップ制御を行う。
アイドリングストップ制御の開始条件は、以下の5条件がすべて成立している場合とし、終了条件は、5条件のうちいずれか1つが不成立の場合とする。
1.ブレーキ操作量が所定操作量以上
2.アクセルペダル操作量がゼロ
3.走行レンジが選択されている
4.車速ゼロ
5.停車直前から停車時までの路面勾配がすべてアイドリングストップ許可勾配(所定勾配)以下
【0028】
エンジンコントロールユニット10は、上記5条件がすべて成立している場合であっても、不整地(砂利道、草地等)走行時には、アイドリングストップ制御禁止フラグをセットし、この禁止フラグがセットされている間は、アイドリングストップ制御を禁止または解除する。なお、禁止フラグは、不整地を脱した場合にリセットされる。
【0029】
次に、作用を説明する。
図4は、実施例2の路面勾配推定作用を示すタイムチャートで、(a)は瞬間的不整地を走行した場合、(b)は不整地を走行した場合を示す。
まず、(a)のシーンについて説明する。
時点t1では、瞬間的不整地を通過する。
時点t1からt2までの区間では、瞬間的不整地の通過に伴い検出前後Gは大きく変動するため、検出前後Gから推定前後Gを減じた値は破線のように振動するが、路面勾配推定値は、変動開始直前の値、すなわち、時点t2の値に固定される。このため、アイドリングストップ制御の禁止フラグはセットされない。
【0030】
時点t2では、所定の収束性判定区間(t1〜t2)における路面勾配推定値の減衰率が所定減衰率以上であったため、瞬間的不整地と判定される。同時に、検出前後Gが収束したため、路面勾配推定値の固定が解除される。
時点t3では、車両が停止、アイドリングストップ制御の開始条件が成立する。
時点t4では、アイドリングストップ制御が開始され、エンジン1が自動停止される。よって、停止直前に瞬間的不整地を通過した場合であっても、停止直後にアイドリングストップ制御を実施できるため、瞬間的不整地通過に伴う路面勾配の誤推定による燃費改善効果の低下を抑制できる。
【0031】
次に、(b)のシーンについて説明する。
時点t1では、不整地に進入する。
時点t1からt2までの区間では、不整地進入に伴い検出前後Gは大きく変動するため、検出前後Gから推定前後Gを減じた値は振動するが、路面勾配推定値は、変動開始直前の値、すなわち、時点t1の値に固定されるため、アイドリングストップ制御の禁止フラグはセットされない。
【0032】
時点t2では、所定の収束性判定区間(t1〜t2)における路面勾配推定値の減衰率が所定減衰率未満であったため、継続的不整地と判定される。よって、路面勾配推定値の固定が解除され、検出前後Gから推定前後Gを減じた値が路面勾配推定値とされる。また、継続的不整地と判定されることでアイドリングストップ制御の禁止フラグがセットされる。
【0033】
時点t3では、車両が停止する。
時点t3からt4までの区間では、アイドリングストップ制御の禁止フラグがセットされているため、アイドリングストップ制御は実施されない。
不整地停車中は路面勾配の推定精度が著しく低下し、かつ、舗装路と比較して路面μが低い可能性が高いため、仮にアイドリングストップ制御を実施した場合、車両のずり下がりが生じるおそれがある。よって、不整地停車中はアイドリングストップ制御を禁止することで、車両のずり下がりを防止できる。
時点t4では、車両が発進する。
【0034】
時点t5では、検出前後Gが収束した状態で車両が所定距離走行したため、アイドリングストップ制御の禁止フラグがリセットされる。停車中は不整地であっても検出前後Gは収束するため、仮に検出前後Gの収束をもってエンジン1の自動停止の禁止を解除した場合、車両が不整地を脱していないときには、車両のずり下がりが発生するおそれがある。よって、不整地を脱した可能性が高い場合に限り、エンジン1の自動停止を許可することで、車両のずり下がりを防止できる。
【0035】
次に、効果を説明する。
実施例2にあっては、実施例1の効果(1),(2),(4)に加え、以下に列挙する効果を奏する。
(5) 惰性走行時に路面勾配がアイドリングストップ許可勾配以下となる条件を含む所定の開始条件が成立するとエンジン1を自動停止させ、その後、路面勾配がアイドリングストップ許可勾配よりも大きくなる条件を含む所定の終了条件が成立するとエンジン1を再始動させるエンジンコントロールユニット10を有するエンジン制御装置において、路面勾配推定装置10bにより推定された路面勾配推定値に基づいてアイドリングストップ制御の実行の可否を判定する。
これにより、瞬間的不整地を走行した場合であってもアイドリングストップ制御が禁止されないため、路面勾配の誤推定に伴う燃費改善効果の低下を抑制できる。
【0036】
(6) エンジンコントロールユニット10は、継続的不整地であると判定された後、検出前後Gが収束した状態が所定走行距離継続した場合、エンジン1の自動停止の禁止を解除する。
これにより、不整地停車中における車両のずり下がりを防止できる。
【0037】
〔実施例3〕
実施例3は、コーストNアイドル制御に適用した例である。以下、実施例1と異なる点についてのみ説明する。
[コーストNアイドル制御]
実施例3のエンジンコントロールユニット(アイドル制御手段)10は、減速中であり、このまま車両停止する可能性が高いと判断したときは、CVTコントロールユニット15に対し発進クラッチ解放要求を出力してエンジン1を駆動輪4から切り離すと共に、エンジン1をアイドル運転するコーストNアイドル制御を行う。
コーストNアイドル制御の開始条件は、以下の5条件がすべて成立している場合であり、終了条件は、5条件のうちいずれか1つが不成立の場合とする。
1.ブレーキ操作量が所定操作量以上
2.アクセルペダル操作量がゼロ
3.走行レンジが選択されている
4.車速が基準車速(ロックアップクラッチを解放する車速)以下
5.路面勾配がコーストNアイドル許可勾配(所定勾配)以下
エンジンコントロールユニット10は、上記5条件がすべて成立している場合であっても、不整地(砂利道、草地等)走行時には、コーストNアイドル制御禁止フラグをセットし、この禁止フラグがセットされている間は、コーストNアイドル制御を禁止または解除する。なお、禁止フラグは、不整地を脱した場合にリセットされる。
【0038】
次に、作用を説明する。
図5は、実施例3の路面勾配推定作用を示すタイムチャートで、(a)は瞬間的不整地を走行した場合、(b)は不整地(継続的不整地)を走行した場合を示す。
まず、(a)のシーンについて説明する。
時点t1では、コーストNアイドル制御の開始条件が成立したため、コーストNアイドル実施判定がなされ、エンジン1と駆動輪4とが切り離され、エンジン1がアイドル運転される。
時点t2では、瞬間的不整地を通過する。
【0039】
時点t2からt3までの区間では、瞬間的不整地の通過に伴い検出前後Gは大きく変動するため、検出前後Gから推定前後Gを減じた値は破線のように振動するが、路面勾配推定値は、変動開始直前の値、すなわち、時点t2の値に固定される。このため、コーストNアイドル制御は解除されず、エンジン1のアイドル運転が継続されるため、瞬間的不整地通過に伴う路面勾配の誤推定による燃費改善効果の低下を抑制できる。
【0040】
時点t3では、所定の収束性判定区間(t2〜t3)における路面勾配推定値の減衰率が所定減衰率以上であったため、瞬間的不整地と判定される。同時に、検出前後Gが収束したため、路面勾配推定値の固定が解除される。
時点t4では、ドライバがブレーキペダルから足を離したため、コーストNアイドル制御が解除され、エンジン1と駆動輪4との接続により、エンジン回転数は上昇する。
【0041】
次に、(b)のシーンについて説明する。
時点t1からt2までの区間は、(a)と同じであるため説明を省略する。
時点t2では、不整地に進入する。
時点t2からt3までの区間では、不整地進入に伴い検出前後Gは大きく変動するため、検出前後Gから推定前後Gを減じた値は振動するが、路面勾配推定値は、変動開始直前の値、すなわち、時点t2の値に固定されるため、コーストNアイドル制御は解除されず、エンジン1のアイドル運転が継続される。
【0042】
時点t3では、所定の収束性判定区間(t2〜t3)における路面勾配推定値の減衰率が所定減衰率未満であったため、継続的不整地と判定される。よって、路面勾配推定値の固定が解除され、検出前後Gから推定前後Gを減じた値が路面勾配推定値とされる。また、継続的不整地と判定されることでコーストNアイドル制御の禁止フラグがセットされるため、コーストNアイドル制御は解除され、エンジン1と駆動輪4との接続によりエンジン回転数は上昇する。
【0043】
不整地走行中は路面勾配の推定精度が著しく低下し、かつ、舗装路と比較して路面μが低い可能性が高い、仮にコーストNアイドル制御を実施した場合、車両のずり下がりが生じるおそれがある。また、路面勾配推定値がコーストNアイドル許可勾配を跨いで変動することで制御ハンチングが生じるおそれがある。よって、不整地走行中はコーストNアイドル制御を禁止することで、車両のずり下がりや制御ハンチングを防止できる。
時点t4では、路面勾配推定値が収束したため、コーストNアイドル制御の禁止フラグはリセットされる。
【0044】
次に、効果を説明する。
実施例3にあっては、実施例1の効果(1),(2)に加え、以下に列挙する効果を奏する。
(7) 惰性走行時に路面勾配がコーストNアイドル許可勾配以下となる条件を含む所定の開始条件が成立するとエンジン1を駆動輪4から切り離してエンジン1をアイドル運転し、その後、路面勾配がコーストNアイドル許可勾配よりも大きくなる条件を含む所定の終了条件が成立するとエンジン1を駆動輪4と接続するエンジンコントロールユニット10を有するエンジン制御装置において、路面勾配推定装置10bにより推定された路面勾配推定値に基づいてコーストNアイドル制御の実行の可否を判定する。
これにより、瞬間的不整地を走行した場合であってもコーストNアイドル制御が禁止されないため、路面勾配の誤推定に伴う燃費改善効果の低下を抑制できる。
【0045】
(8) エンジンコントロールユニット10は、継続的不整地であると判定された場合、開始条件が成立したときでもエンジン1と駆動輪4との切り離しおよびエンジン1のアイドル運転を禁止する。
これにより、不整地走行中における車両のずり下がりや制御ハンチングを防止できる。
【0046】
(他の実施例)
以上、本発明に係るエンジンの自動停止再始動制御装置を、各実施例に基づいて説明したが、上記構成に限られず本発明の範囲を逸脱しない範囲で他の構成を取り得る。
例えば、実施例では、瞬間的不整地であると判定された場合、路面勾配推定値を当該判定直前の路面勾配推定値に固定する例を示したが、路面勾配推定値は、瞬間的不整地通過による影響を低減した値であれば良い。
【0047】
また、実施例では、前後G検出値の変動、収束性を見て瞬間的不整地か否か、継続的不整地を脱したかを判定する例を示したが、推定前後Gや前後Gから推定前後Gを減じた演算値を見て判定しても良い。