【0019】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記必須成分および任意の添加剤を、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、一軸混練押出機、二軸混練押出機などの熱可塑性樹脂組成物の調製に一般的に使用されている混練機を使用して溶融混練することによって調製できる。溶融混練は、その生産性の高さから二軸混練押出機を使用して行うことが好ましい。本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法における、上記工程(1)〜(5)は、
工程(1)を実施するための第1の混練部、
工程(3)を実施するための第2の混練部、及び
工程(5)を実施するための第3の混練部、
を含む少なくとも3つの混練部と、
第1の混練部より押出方向上流側に位置する、ポリアミド及びエポキシ基含有ポリマーのための第1の供給口、
第1の混練部と第2の混練部の間に位置する、エチレン−ビニルアルコール共重合体及び変性エラストマーのための第2の供給口、及び
第2の混練部と第3の混練部の間に位置する、架橋剤のための第3の供給口、
を含む少なくとも3つの供給口と、
を有する二軸混練押出機を使用して実施することができる。
【実施例】
【0024】
以下に示す実施例及び比較例を参照して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
なお、ポリアミド樹脂をエポキシモノマーと予め反応させる従来の方法は、上記のとおり取扱性に劣るため、エポキシ基含有ポリマーを使用せず、変性エラストマー、エチレン−ビニルアルコール共重合体及びポリアミド樹脂を二軸混練押出機に同時に導入した例を比較例1とし、変性エラストマー、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリアミド樹脂及びエポキシ基含有ポリマーを二軸混練押出機に同時に導入した例を比較例2とした。比較例1〜2及び実施例1〜5は下記表1の配合(質量部)に従う。
【0025】
原材料
変性エラストマー:無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体(三井化学(株)製のタフマー(登録商標)MH7020)
EVOH:エチレン−ビニルアルコール共重合体(日本合成化学工業(株)製のソアノール(登録商標)H4815B)(エチレン単位含有量:48モル%、溶融温度:158℃)
ポリアミド樹脂:ナイロン6(宇部興産(株)製のUBEナイロン(登録商標)1022B)(溶融温度:225℃)
エポキシ基含有ポリマー:エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体(住友化学(株)製のボンドファスト(登録商標)CG5001)(溶融温度:100℃)
架橋剤1:トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(THEIC)(四国化成工業(株)製)
架橋剤2:3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(3,3’−DAS)(三井化学ファイン(株)製)
【0026】
比較例1の熱可塑性エラストマー組成物の調製
二軸混練押出機(日本製鋼所製のTEX44)を使用して、以下のようにして比較例1の熱可塑性エラストマー組成物を調製した。二軸混練押出機TEX44は、シリンダーが複数個のブロック(ブロックシリンダー)を連結して構成されたものであり、必要に応じて、シリンダー長を変えることができる。比較例1では、二軸混練押出機TEX44を、シリンダーが、押出方向上流側から順に配設された第1の混練部及び第2の混練部と、第1の混練部の押出方向上流側に配設された第1の供給口と、第1の混練部と第2の混練部の間に配設された第2の供給口とからを有するように構成した。第1の供給口を通じてシリンダー内に変性エラストマー、EVOH及びポリアミド樹脂を同時に導入し、温度230℃に設定された第1の混練部で溶融混練した。第2の供給口を通じてシリンダー内に架橋剤を導入し、架橋剤を第1の混練部から搬送されてきた溶融混練物と230℃に設定された第2の混練部において混練し、変性エラストマーを動的架橋させた。第1及び第2の混練部における混練時間の合計は3分間であった。得られた混練物を二軸混練押出機の吐出孔から連続的にストランド状に押出すことを試みたがストランドの吐出状態が極めて悪く、ストランドが頻繁に切れた。
【0027】
比較例2の熱可塑性エラストマー組成物の調製
比較例2の熱可塑性エラストマー組成物の調製には、比較例1の熱可塑性エラストマー組成物の調製に使用したものと同じシリンダー構成を有する二軸混練押出機を使用した。第1の供給口を通じてシリンダー内に変性エラストマー、EVOH、ポリアミド樹脂及びエポキシ基含有ポリマーを同時に導入し、温度230℃に設定された第1の混練部で溶融混練した。第2の供給口を通じてシリンダー内に架橋剤を導入し、架橋剤を第1の混練部から搬送されてきた溶融混練物と230℃に設定された第2の混練部において混練し、変性エラストマーを動的架橋させた。第1及び第2の混練部における混練時間の合計は3分間であった。得られた混練物を二軸混練押出機の吐出孔から連続的にストランド状に押出し、水冷カッターで切断することにより、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0028】
実施例1〜5の熱可塑性エラストマー組成物の調製
押出方向に沿って上流側から順に配設された第1の混練部、第2の混練部及び第3の混練部を有するシリンダーと、シリンダー内に配設された一対のスクリューと、第1の混練部より押出方向上流側に位置する第1の供給口、第1の混練部と第2の混練部との間に配設された第2の供給口及び第2の混練部と第3の混練部との間に配設された第3の供給口とを有する二軸混練押出機(日本製鋼所製のTEX44)を使用して、以下のようにして実施例1〜5の熱可塑性エラストマー組成物を調製した。第1の供給口を通じてシリンダー内にポリアミド樹脂及びエポキシ基含有ポリマーを導入し、温度230℃に設定された第1の混練部でポリアミド樹脂及びエポキシ基含有ポリマーを溶融混練してポリアミド樹脂とエポキシ含有ポリマーを反応させた。第2の供給口を通じてシリンダー内に変性エラストマー及びEVOHを導入し、変性エラストマー及びEVOHを第1の混練部から搬送されてきた溶融混練物と温度230℃に設定された第2の混練部において混練し、変性エラストマーとEVOHを溶融混合物中に分散させた。第3の供給口を通じてシリンダー内に架橋剤を導入し、架橋剤を第2の混練部から搬送されてきた溶融混練物と温度230℃に設定された第3の混練部において混練し、溶融混合物中の変性エラストマーを動的架橋させた。第1、第2及び第3の混練部における混練時間の合計は3分間であった。得られた混練物を二軸混練押出機の吐出孔から連続的にストランド状に押出し、水冷カッターで切断することにより、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0029】
熱可塑性エラストマー組成物の評価
比較例1〜2及び実施例1〜5の熱可塑性エラストマー組成物について、加工性(混練性及び押出成形性)及び動的疲労耐久性(耐クラック性)を評価した。
【0030】
(1)加工性
比較例1〜2及び実施例1〜5の熱可塑性エラストマー組成物のそれぞれについて、加工性の指標として混練性を評価した。
(a)混練性
比較例1〜2及び実施例1〜5の熱可塑性エラストマー組成物を二軸混練押出機から押出されたストランドを観察し、以下の基準で混練性を評価した。
1:ストランドの表面が滑らか。
2:ストランドの表面にわずかな粒状の欠陥もしくは荒れがあるか、または、わずかなストランドの脈動吐出が観察された。
3:ストランドの表面に荒れがあり、ストランドの顕著な吐出不良が観察された。
4:ストランドの吐出状態が極めて悪く、ストランドが頻繁に切れた。
(b)押出成形性
比較例2及び実施例1〜5の熱可塑性エラストマー組成物のそれぞれについて、加工性の別の指標として押出成形性を評価した。比較例1の熱可塑性エラストマー組成物は、混練性が悪く、押出成形性を評価するためのシート状に押出成形できなかった。
比較例1の熱可塑性エラストマー組成物はシート状に押出成形できなかったため、比較例2及び実施例1〜5の熱可塑性エラストマー組成物を、Tダイ押出成形装置(ダイ幅200mm及びφ40mmの単軸押出機、プラ技研製)を使用して、押出温度230℃で厚さ1mmのシート状に押出した。得られたシートの表面状態を観察し、観察結果を以下のような基準で等級づけすることにより押出成形性を評価した。
1:粒やフローマークがなく、シート表面が滑らかで、外観が良好であるもの。
2:わずかな粒状の凹凸及び表面荒れが観察されたもの。
3:多数の粒状の凹凸及び表面荒れが観察されたもの。
【0031】
(2)動的疲労耐久性
比較例1の熱可塑性エラストマー組成物はシート状に押出成形できなかったため、比較例2及び実施例1〜5の熱可塑性エラストマー組成物のそれぞれについて、動的疲労耐久性の指標として空気入りタイヤでの耐クラック性を評価した。
まず、熱可塑性エラストマー組成物を空気透過防止層としてタイヤ内面に貼り付けるための粘接着剤組成物を調製した。粘接着剤組成物は、下記表2に示す原料のペレットを二軸混練押出機(日本製鋼所製のTEX44)に導入し、120℃で3分間混練することにより調製した。得られた混練物を押出機から連続的にストランド状に押出し、水冷カッターで切断することにより、ペレット状の粘接着剤組成物を得た。
次に、得られたペレット状の粘接着剤組成物と、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物とを、インフレーション成形装置(プラコー製)を使用して、230℃で、熱可塑性エラストマー組成物が内側、粘接着剤組成物が外側になるように2層のチューブ状に押出し、空気を吹き込んで膨張させ、ピンチロールで折りたたみ、巻き取ることによって、チューブ状の積層体を得た。得られた積層体における熱可塑性エラストマー組成物層の厚さは100μmであり、粘接着剤組成物層の厚さは30μmであった。この積層体をインナーライナーとして、粘接着剤組成物層が外側(ドラムの反対側)になるようにタイヤ成形用ドラム上に配置し、その上に、未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次積層し、タイヤ成型用ドラムからグリーンタイヤを取り外した。次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫することにより195/65R15サイズのタイヤを作製した。作製したタイヤをリム15×6JJに装着し、内圧200kPa(空気)として、排気量1800ccのFF乗用車に装着し、実路上を30,000km走行した。その後、タイヤをリムから外し、タイヤの内面に配置された熱可塑性エラストマー層を目視観察し、クラックの個数を求め、観察結果を以下のような基準で等級づけした。クラック数が少ないほど、耐久性に優れる。結果を下記表1に示す。
1:クラックが存在しない。
2:クラック数が1〜5。
3:クラック数が6〜10。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
表2脚注:
*1:スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体のエポキシ化物(ダイセル化学工業(株)製のエポフレンドAT501)
*2:正同化学(株)製の酸化亜鉛3種
*3:日油(株)製のビーズステアリン酸
*4:大内新興化学工業(株)製のノクセラーTOT−N
*5:ヤスハラケミカル(株)製のYSレジンD105
【0035】
表1から、本発明の製造方法により製造された熱可塑性エラストマー組成物は、良好な加工性及び動的疲労耐久性を有することが判る。