【文献】
Journal of Microbiological Methods,2006年,Vol. 67,p. 373-380
【文献】
水環境学会誌 Journal of Japan Society on Water Environment,2009年,Vol. 32, No. 5,p. 267-272
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
(微生物固定方法)
本実施形態にかかる微生物固定方法は、微生物を含む溶媒を60℃以上で15秒間以上加熱する工程を含む。ここで、溶媒は、微生物の生息環境と同様の溶媒がよく、川等の淡水に生息する微生物を固定する場合、淡水と実質的に等しい浸透圧を有する溶媒(水でもよい)がよく、海水に生息する微生物を固定する場合、海水と実質的に等しい浸透圧を有する溶媒がよい。
【0015】
また、溶媒としては、緩衝液が好ましく、例えば、PBS(Phosphate Buffered Saline)、TBS(Tris Buffered Saline)であってもよいし、HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)等を用いた所謂GOOD Bufferであってもよい。
【0016】
加熱する温度は60℃以上であり、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上、さらに好ましくは90℃以上、さらに好ましくは99℃以上である。なお、好熱菌や超好熱菌といった、温泉や、熱水域等に生息する菌を固定する場合、122℃以上が好ましい。
【0017】
加熱する時間は15秒間〜1時間であり、好ましくは30秒間〜10分間、より好ましくは1分間〜5分間、さらに好ましくは1分間である。加熱する時間が15秒間未満であると、微生物の固定が十分に行われず、1時間を超えると、酸化が進行して細胞が破壊されてしまうおそれがある。したがって、加熱する時間は15秒間〜1時間(上記、加熱に適した温度(60℃以上)になってからの時間)が好ましい。例えば、99℃で1分間加熱することにより、土壌に生息する微生物や活性汚泥等の一般的な微生物を固定することが可能となる。
【0018】
このように、微生物を含む溶媒を加熱するだけといった簡易な構成で、微生物を、1分間程度といった短時間で確実に固定することができる。したがって、従来利用していたパラホルムアルデヒドを利用する必要がなくなり、ディスポーザルの手袋を着用したり、保護眼鏡をかけたりせずとも安全に微生物の固定を行うことが可能となる。また、パラホルムアルデヒドを含む廃液を処理する必要がなくなるため、廃液処理にかかる費用を削減することができる。
【0019】
なお、本実施形態にかかる微生物固定方法で固定可能な微生物は、原核生物であっても真核生物であってもよく、例えば、大腸菌、大腸菌群、ビブリオ属の菌、コレラ菌、赤痢菌、肺炎レンサ球菌、レジオネラ、フザリウム等のカビが挙げられる。また、微生物を含む活性汚泥や土壌、河川水、食品サンプル等が液体状である場合、溶媒に分散させず、そのまま加熱してもよい。
【0020】
(微生物検出方法)
続いて、かかる微生物固定方法を利用した微生物検出方法について説明する。
図1は、本実施形態にかかる微生物検出方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図1に示すように、微生物検出方法は、FISH法を用いた微生物検出方法であり、固定工程S110、濃縮工程S120、前処理工程S130、第1洗浄工程S140、ハイブリダイゼーション工程S150、第2洗浄工程S160、反応後処理工程S170、検体作成工程S180、定量工程S190とを含む。以下、各工程について詳述する。
【0021】
(固定工程S110)
固定工程S110は、上述した微生物固定方法を利用して微生物の固定を行う工程、すなわち、少なくとも検出目的の微生物を含む溶媒を60℃以上で15秒間以上加熱して検出目的の微生物を固定する工程である。このとき、微生物を含む溶媒が少量の場合、PCR(Polymerase Chain Reaction)用のサーマルサイクラーを利用してもよい。
【0022】
(濃縮工程S120)
濃縮工程S120は、固定後の微生物群(検出目的の微生物を含む)を含む溶媒を、フィルタで濾過し、微生物群(検出目的の微生物を含む)をフィルタ上に捕捉する工程である。捕捉後、微生物群を捕捉したフィルタを乾燥させ、乾燥後にエタノール(例えば、99.5%)に浸漬することで脱水し、再度乾燥させる。ここで、フィルタは、例えば、孔径が0.22μmのポリカーボネート製のフィルタが挙げられる。
【0023】
(前処理工程S130)
前処理工程S130は、40℃程度で溶解した状態の寒天溶液(例えば、0.1%)に、微生物群を捕捉したフィルタを浸漬し、微生物群がフィルタから剥がれ落ちないように寒天でカバーする工程である。
【0024】
(第1洗浄工程S140)
第1洗浄工程S140は、寒天カバー後のフィルタ(以下、単にフィルタサンプルと称する)を、後述するプローブを含まない溶媒で洗浄する工程である。かかる第1洗浄工程S140を行うことにより、後述する定量工程S190において、バックグラウンドの蛍光染色を低減することができる。
【0025】
(ハイブリダイゼーション工程S150)
ハイブリダイゼーション(FISH反応)工程S150は、フィルタサンプル(固定された微生物群(検出目的の微生物を含む))をプローブとともにインキュベートすることで、検出目的の微生物の核酸(例えば、rRNAやrRNAの前駆体)とプローブとを相補的に結合させる(ハイブリダイゼーション)工程である。
【0026】
ここでプローブは、検出目的の微生物の核酸と特異的に結合する、蛍光標識されたオリゴヌクレオチドプローブや、蛍光標識されたPNA(Peptide Nucleic Acid)プローブである。例えば、検出目的の微生物の16SrRNAと特異的に結合するプローブや、検出目的の微生物の23SrRNAと特異的に結合するプローブ、検出目的の微生物の5SrRNAと特異的に結合するプローブ、検出目的の微生物の18SrRNAと特異的に結合するプローブが挙げられる。
【0027】
また、検出目的の微生物のrRNAの前駆体と特異的に結合するプローブが挙げられる。ここで、rRNAの前駆体とは、例えば、rrnオペロンから転写された後であって、リボヌクレアーゼ(例えば、RNaseIII)で切断される前の状態のものを指す。rRNAの前駆体は、増殖期に多く存在するため、rRNAの前駆体と特異的に結合するプローブを利用することで、増殖している細胞(微生物)のみを検出することが可能となる。
【0028】
ここで、蛍光標識の色素は、Cy3、Cy5、FITC等を利用することができる。
【0029】
PNAプローブは、オリゴヌクレオチドプローブ中のリン酸基による負電荷の反発が解消されているため、対象となるrRNAやmRNAとより強くハイブリダイズする。したがって、PNAプローブを用いることにより、オリゴヌクレオチドプローブを用いる場合と比較して、ハイブリダイゼーション工程S150におけるインキュベート時間を短くすることができる。
【0030】
(第2洗浄工程S160)
第2洗浄工程S160は、プローブを含まない溶媒でフィルタサンプルを洗浄することにより、残存したプローブ(ハイブリダイズしなかったプローブ)をフィルタサンプルから除去する工程である。
【0031】
(反応後処理工程S170)
反応後処理工程S170は、第2洗浄工程S160後のフィルタサンプルをエタノール(例えば、99.5%)に浸漬することで脱水し、再度乾燥させる工程である。
【0032】
(検体作成工程S180)
検体作成工程S180は、反応後処理工程S170において乾燥させたフィルタサンプルを、微生物群を捕捉した面の裏面がスライドガラスに接触するように、スライドガラスにマウントし、微生物群を捕捉した面にカバーガラスを密着させて検体を作成する工程である。
【0033】
(定量工程S190)
定量工程S190は、検出目的の微生物の核酸と相補的に結合した(ハイブリダイズした)プローブを検出する工程である。具体的には、蛍光顕微鏡やフローサイトメータを用いて、プローブの蛍光色素を検出することで、プローブに結合した核酸を検出したとみなし、蛍光に染色された個体数をカウントする。
【0034】
以上説明したように、本実施形態にかかる微生物検出方法によれば、従来のパラホルムアルデヒドを用いた場合(1.5時間)と比較して、実質的に等しい微生物の固定を行うために要する時間を1分間といった短時間に短縮することができる。したがって、従来、最短で7時間かかっていた微生物の検出を、5.5時間に短縮することが可能となる。
【0035】
またプローブとして、PNAプローブを利用することで、オリゴヌクレオチドプローブを利用する場合と比較して、ハイブリダイゼーションの時間を2.5時間(オリゴヌクレオチドプローブ)から15分間(PNAプローブ)に短縮することができる。つまり、本実施形態にかかる微生物固定方法およびPNAプローブを利用することにより、従来7時間かかっていた微生物の検出を3.25時間、すなわち半分以下に短縮することが可能となる。
【0036】
また、本実施形態において、固定工程S110において、微生物を含む溶媒を加熱することで微生物を固定している、すなわち、微生物の細胞膜(脂質二重層)が適度に破壊されている。このため、ハイブリダイゼーション工程S150において、微生物の細胞内にプローブが浸透しやすくなっている。つまり、検出目的の微生物の核酸とハイブリダイズするプローブ数を増加させることができる。したがって、パラホルムアルデヒドを利用した従来の固定方法で固定した微生物と比較して、蛍光強度を上昇させることができ、定量工程S190において定量精度を向上させることが可能となる。
【0037】
(実施例1)
検出目的の微生物を含む微生物群をPBSに懸濁し、95℃で2分間インキュベートした(固定工程S110)。そして、固定後の微生物群を含む溶媒を、ポリカーボネート製のフィルタ(直径25mm、ろ過部分の直径16mm、孔径0.22μm)で濾過して、フィルタ上に微生物群を捕捉した。捕捉後、フィルタごと乾燥させ、99.5%エタノールに浸漬することで脱水し、再度乾燥させた(濃縮工程S120)。
【0038】
続いて、40℃で溶解した状態の寒天溶液(0.1%)に、微生物群を捕捉したフィルタを浸漬し、微生物群を捕捉した面の裏面がスライドガラスに接触するように、フィルタサンプルをスライドガラスに気泡が入らないように付着させ、乾燥させた(前処理工程S130)。
【0039】
そして、フィルタサンプルをスライドガラスから剥離し、検出目的の微生物の核酸と特異的に結合する蛍光標識されたオリゴヌクレオチドプローブ80pmol/μLを含むバッファーAに浸漬して、46℃で2時間インキュベートした(ハイブリダイゼーション工程S150)。ここでバッファーAは、0.9M NaCl、20mM Tris−HCl、35% ホルムアミド、2% Blocking reagent、0.02% SDSの水溶液を用いた。
【0040】
続いて、インキュベート後のフィルタサンプルを、バッファーBに浸漬し、48℃、15分間洗浄した(第2洗浄工程S160)。ここでバッファーBは、80mM NaCl、20mM Tris−HCl、5mM EDTA、0.01% SDSの水溶液を用いた。
【0041】
そして、洗浄後のフィルタサンプルを99.5%エタノールに1分間浸漬することで脱水し、乾燥させた(反応後処理工程S170)。
【0042】
続いて、乾燥後フィルタサンプルを、微生物群を捕捉した面の裏面がスライドガラスに接触するように、スライドガラスにマウントし、微生物群を捕捉した面にカバーガラスを密着させて検体を作成した(検体作成工程S180)。
【0043】
そして、蛍光顕微鏡で検出目的とする微生物(検出目的とする微生物に特異的に結合したオリゴヌクレオチドプローブ)の検出を行った(定量工程S190)。
【0044】
図2は、検出結果を説明するための図である。実施例1では、緑色励起で赤色蛍光を発する色素で標識したオリゴヌクレオチドプローブを利用したため、蛍光顕微鏡において緑色励起光で観察を行った。その結果、
図2(a)に示すように微生物が赤色(
図2(a)ではグレー)に染色されていることが分かった。
【0045】
(比較例1)
検出目的の微生物を含む微生物群をPBSに懸濁したのみで、固定工程を行わなかった。そして、この固定工程を行わないサンプルを上記実施例1と同様の方法で、濃縮工程S120、前処理工程S130、ハイブリダイゼーション工程S150、第2洗浄工程S160、反応後処理工程S170、検体作成工程S180、定量工程S190を順に行った。
【0046】
その結果、
図2(b)に示すように微生物が赤色(
図2(b)ではグレー)に染色されているものの、
図2(a)の固定工程S110を行った実施例1と比較して、比較例1の方が、蛍光強度が低いことが分かった。
【0047】
これにより、実施例1において、固定工程S110を行ったことにより、微生物の細胞膜が適度に破壊され、ハイブリダイゼーション工程S150において、微生物の細胞内にプローブが効率よく浸透し、蛍光強度が向上したことが分かった。
【0048】
(実施例2)
実施例1における固定工程S110、濃縮工程S120、前処理工程S130を行った後、フィルタサンプルをスライドガラスから剥離し、検出目的の微生物の核酸と特異的に結合する蛍光標識されたPNAプローブ80pmol/μLを含むバッファーAに浸漬して、46℃で15分間インキュベートした(ハイブリダイゼーション工程S150)。そして、実施例1と同様に、第2洗浄工程S160、反応後処理工程S170、検体作成工程S180を行った。
【0049】
そして、蛍光顕微鏡で検出目的とする微生物(検出目的とする微生物に特異的に結合したPNAプローブ)の検出を行った(定量工程S190)。
【0050】
図3は、検出結果を説明するための図である。実施例2では、青色励起で緑色蛍光を発する色素で標識したPNAプローブを利用したため、蛍光顕微鏡において青色励起光で観察を行った。その結果、
図3に示すように微生物が緑色(
図3ではグレー)に染色されていることが分かった。
【0051】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0052】
例えば、上述した実施形態において、前処理工程S130や、第1洗浄工程S140を省略してもよいし、第2洗浄工程S160を行った後、直ちに、検体作成工程S180、定量工程S190を行う場合、反応後処理工程S170を省略してもよい。
【0053】
また上述した実施形態において、微生物固定方法を利用する例としてFISH法を例に挙げて説明した。しかし、本実施形態にかかる微生物固定方法は、微生物を検出する様々な技術を利用することができる。例えば、本願発明者は、本実施形態にかかる微生物固定方法を行った後、微生物のDNAと特異的に結合するDAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole)を利用した全菌検査を行うことができたことを確認している。
【0054】
なお、本明細書の微生物検出方法の各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。