特許第5990988号(P5990988)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5990988-アクチュエータ用セルフロック機構 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5990988
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】アクチュエータ用セルフロック機構
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/20 20060101AFI20160901BHJP
   F16D 59/00 20060101ALI20160901BHJP
   F16D 63/00 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   F16H25/20 H
   F16D59/00 Z
   F16D63/00 L
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-91104(P2012-91104)
(22)【出願日】2012年4月12日
(65)【公開番号】特開2013-217484(P2013-217484A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】酒井 俊行
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−213563(JP,A)
【文献】 特開2001−082570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/20
F16D 59/00
F16D 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動されるネジ部材と、
当該ネジ部材に螺合させた第1ナット部材および第2ナット部材と、
前記第1ナット部材と第2ナット部材とを互いに相対回転させる付勢部材と、
前記第1ナット部材および第2ナット部材を回転可能に保持するナットホルダとを備え、
前記ナットホルダは、前記付勢部材によって回転付勢された前記第1ナット部材の軸方向移動を規制する第1受部と、前記付勢部材によって回転付勢された前記第2ナット部材の軸方向移動を規制する第2受部とを有するアクチュエータ用セルフロック機構。
【請求項2】
前記ナットホルダにおいて、前記第1受部および前記第2受部のうち少なくとも何れか一方を位置調節可能に構成してある請求項1に記載のアクチュエータ用セルフロック機構。
【請求項3】
前記ナットホルダには、前記第1ナット部材の前記ナットホルダに対する回転角度を所定角度に規制する第1規制部と、
前記第2ナット部材の前記ナットホルダに対する回転角度を所定角度に規制する第2規制部とを備えている請求項1又は2に記載のアクチュエータ用セルフロック機構。
【請求項4】
前記第1ナット部材および前記第2ナット部材が、前記付勢部材によって前記ネジ部材の軸芯方向に沿って互いに離間する方向に付勢され、前記第1受部と前記第2受部とを前記ナットホルダの互いに対向する内壁面に各別に備えた請求項1〜3の何れか一項に記載のアクチュエータ用セルフロック機構。
【請求項5】
前記第1ナット部材および前記第2ナット部材が、前記付勢部材によって前記ネジ部材の軸芯方向に沿って互いに近接する方向に付勢され、前記第1受部と前記第2受部とを前記ナットホルダの壁部に各別に備えた請求項1に記載のアクチュエータ用セルフロック機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータ等により回転駆動されるネジ部材を用いたアクチュエータに関する。詳しくは、例えば、自動車のパワーウィンドウ、電動シート、電動コラム、電動パーキングブレーキなど、ネジ部材の回転によって対象部位を往復移動させる機構部に用いるものであり、対象部位の駆動状態と停止状態との切換を安定且つ確実に行わせるものである。
【背景技術】
【0002】
ネジ部材を駆動回転させる方式のアクチュエータにおいては、対象部位を滑らかに移動させることが重要である一方、非駆動状態においては、対象部位を確実に静止状態とすることが求められる。
従来から、この種のアクチュエータとしては、例えば特許文献1に示すような装置があった。
【0003】
このアクチュエータは、ハウジングに支持されモータ駆動される筒状の回転駆動部材と、
この回転駆動部材に対して同軸芯状態に係合し、左右何れの方向にも回転が伝達される回転被駆動部材と、ネジ部によって回転被駆動部材と螺合し、回転被駆動部材の回転に伴なってスラスト移動する長尺状の被駆動部とを備えている。つまり、モータの駆動回転方向を切り換えることで回転被駆動部材の回転方向が切り換わり、これに螺合する長尺状の被駆動部材が往復移動する。
【0004】
一方、モータの停止時には被駆動部材を安定して静止させるべく、この装置では、ハウジングと回転被駆動部材との間にローラー状の複数のコロを設けてある。このコロは、回転駆動部材が回転する際には、ハウジングと回転被駆動部材との間に噛み込まないように位置が調整される。しかし、回転駆動部材が駆動されず自由回転状態にある場合に被駆動部にスラスト方向の外力が作用すると、回転被駆動部材が所定の角度だけ回転し、その結果、ハウジングと回転被駆動部材との間にコロが噛み込まれて回転被駆動部材と被駆動部材との動作が阻止される。
【0005】
このアクチュエータは、例えば自動車のパーキングブレーキに使用される。明細書中の記載によれば、この構成によって被駆動部材への動力伝達を許容しつつ、被駆動部材からモータへの動力伝達を阻止できるため、モータの容量を小さくし省電力化が可能である等と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−84918
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記アクチュエータでは、コロ式ブレーキを用いてセルフロック機構が構成されているため、ハウジングとコロとの接触および回転被駆動部材とコロとの接触が線接触となる。このため、当該接触部分に作用する単位面積当たりの荷重が大きくなり、外部から作用する荷重の大きさによってはロック機能が十分に発揮されなかったり、場合によってはハウジングや回転被駆動部材が損傷するなどの不都合が生じるおそれがある。これを防止するためには、例えば部材の寸法を拡大したり、高強度の材料を使用するなどして部品の補強を図る必要がある。この結果、装置のサイズが拡大されたり、コストが上昇するなど合理性にかける装置となっていた。
【0008】
本発明はこれら不都合を解消するためのものであり、その主な目的は、駆動動作と停止動作とを安定的に実施できる信頼性の高いセルフロック機構を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔第1の特徴構成〕
本発明に係るアクチュエータ用セルフロック機構の第1特徴構成は、回転駆動されるネジ部材と、当該ネジ部材に螺合させた第1ナット部材および第2ナット部材と、前記第1ナット部材と第2ナット部材とを互いに相対回転させる付勢部材と、前記第1ナット部材および第2ナット部材を回転可能に保持するナットホルダとを備え、前記ナットホルダが、前記付勢部材によって回転付勢された前記第1ナット部材の軸方向移動を規制する第1受部と、前記付勢部材によって回転付勢された前記第2ナット部材の軸方向移動を規制する第2受部とを有する点にある。
【0010】
〔作用効果〕
本構成のごとく、付勢部材によって第1ナット部材と第2ナット部材とを反対方向に回転付勢することで、両ナット部材はネジ部材に対して互いに離間あるいは近接する。それに伴なって、第1ナット部材および第2ナット部材はナットホルダに設けた第1受部あるいは第2受部に当接するように構成してある。第1ナット部材および第2ナット部材が付勢回転方向に回転量を増すと、第1ナット部材および第2ナット部材とナットホルダとの間に接触加重が生じる。
つまり、両ナット部材は、当初、付勢部材の回転付勢によってネジ部材のピッチに応じて互いに反対方向に回転する。しかし、両ナット部材がナットホルダの受部と当接して接触加重が生じ始めると、両ナット部材はそれまでの回転が制限され、それに伴なってネジ部材の軸芯に沿った方向への移動が制限され始める。両ナット部材は、その後も暫くは同方向に回転し、接触加重が高まってナットホルダに対して相対回転不能となった時点で停止する。
【0011】
この所定量の回転の間には、ネジ部材の軸芯方向に沿った両ナット部材の移動が制限される一方、ナット部材の回転は暫く持続されるから、両ナット部材とネジ部材との螺合部位における摩擦力が増大する。付勢部材の付勢力とこれらの摩擦力とが均衡した時点で両ナット部材の回転は停止する。これにより、ナットホルダ・第1ナット部材・第2ナット部材・ネジ部材の夫々があたかも一体化した状態となる。この結果、ネジ部材が非駆動状態にあるときナットホルダ等に外力が作用したとしても、ネジ部材の回転が効果的に阻止される。よって、全ての部材は安定姿勢を維持することができ、信頼性の高いセルフロック機構を得ることができる。
【0012】
一方、ネジ部材を再駆動する場合には、第1ナット部材および第2ナット部材のうち何れか一方はネジ部材の回転によって摩擦力が弱められる方向に回転力を受ける。この結果、第1ナット部材と第2ナット部材との回転位相差が縮小され、これら両ナット部材とネジ部材、との間に生じている摩擦力が減少する。よって、ネジ部材を、非駆動である静止状態から駆動状態に円滑に移行させることができる。
【0013】
〔第2の特徴構成〕
本発明に係るアクチュエータ用セルフロック機構の第2の特徴構成は、前記ナットホルダにおいて、前記第1受部および前記第2受部のうち少なくとも何れか一方を位置調節可能に構成した点にある。
【0014】
〔作用効果〕
本構成のごとく、第1受部および第2受部のうち少なくとも何れか一方を位置調節可能に構成することで、第1ナット部材および第2ナット部材が当接すべきこれら受部どうしの間隔が変化する。これにより、第1ナット部材および第2ナット部材が静止状態となったときの両ナット部材の相対回転位相差を調節することができる。
【0015】
このことは、第1ナット部材および第2ナット部材の間に生じる付勢力の大きさを調節するのに便利である。つまり、両ナット部材どうしの回転位相角や距離を調節することで、付勢部材が発生させる付勢力を増減することができる。このことは、例えば、最初に当該セルフロック機構を組み立てる場合に便利である。
また、使用に伴なってナット部材の当接部やナットホルダの受部が摩耗した場合にも、第1ナット部材と第2ナット部材との相対位相角が変化する。この場合にも付勢力を改めて設定する必要がある。
このように第1受部や第2受部を位置調節可能に構成することで、第1ナット部材および第2ナット部材に作用させる付勢力を適切に設定することができ、セルフロック機構の組み立てを容易にし、その後の整備性を高めることができる。
【0016】
〔第3の特徴構成〕
本発明に係るアクチュエータ用セルフロック機構の第3の特徴構成は、前記ナットホルダには、前記第1ナット部材の前記ナットホルダに対する回転角度を所定角度に規制する第1規制部と、前記第2ナット部材の前記ナットホルダに対する回転角度を所定角度に規制する第2規制部とを備えた点にある。
【0017】
〔作用効果〕
第1規制部と第2規制部とは実質的に同じ仕組みであるから、ここでは、第1規制部について説明する。本構成のごとく、第1ナット部材が付勢部材によって回転付勢され、第1受部に対して接触加重を増大させつつ当接する場合、ネジ部材の再駆動のためには接触加重を所定の範囲に留めておく必要がある。例えば、第1ナット部材が第1受部に当接するとき、同時にネジ部材に突発的な外力が作用して、前記接触加重が高まる側に第1ナット部材を過回転させてしまう場合がある。この場合、第1ナット部材はネジ部材に対して過大な摩擦力を生じさせ、ネジ部材の円滑な再駆動を阻害する恐れが生じる。
【0018】
このため、本構成のごとく、第1ナット部材がナットホルダに対して余分に回転しないよう、両者間に規制部を備えておく。これにより、ネジ部材が駆動されない静止状態においては、第1ナット部材および第2ナット部材は適度な摩擦力によってネジ部材に対する静止状態が維持される。一方、ネジ部材を再駆動する場合には、上記摩擦力は障害とならない大きさであるから、アクチュエータの再駆動を円滑に行うことができる。
【0019】
〔第4の特徴構成〕
本発明に係るアクチュエータ用セルフロック機構の第4の特徴構成は、前記第1ナット部材および前記第2ナット部材が、前記付勢部材によって前記ネジ部材の軸芯方向に沿って互いに離間する方向に付勢され、前記第1受部と前記第2受部とを前記ナットホルダの互いに対向する内壁面に各別に備えた点にある。
【0020】
〔作用効果〕
本構成のごとく、第1ナット部材および第2ナット部材をナットホルダの内側に配置し、その内壁を受部として兼用することで、部品点数を少なく抑えたセルフロック機構を得ることができる。
また、ナットホルダのサイズを最大限に生かして第1ナット部材と第2ナット部材との距離を最長に設定することができる。よって、例えば特にネジ部材が非駆動のとき、ネジ部材に対するナットホルダの姿勢が安定し、不要なガタつきの発生などが防止される。
さらに、両ナット部材をナットホルダに内装することができるため、セルフロック機構を外部要因から保護して信頼性を高めることができる。
【0021】
〔第5の特徴構成〕
本発明に係るアクチュエータ用セルフロック機構は、前記第1ナット部材および前記第2ナット部材が、前記付勢部材によって前記ネジ部材の軸芯方向に沿って互いに近接する方向に付勢され、前記第1受部と前記第2受部とを前記ナットホルダの壁部に各別に備えて構成することもできる。
【0022】
〔作用効果〕
本構成であれば、例えば、第1ナット部材と第2ナット部材とを接触させるナットホルダの壁部を、これら第1ナット部材と第2ナット部材との間に一枚だけ設けることも可能となる。よって、セルフロック機構の構成をより簡単にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係るアクチュエータ用セルフロック機構の構造を示す側断面図
図2】本実施形態に係るアクチュエータ用セルフロック機構の要部を示す分解斜視図
図3】第1ナット部材および第2ナット部材の動作概要を示す斜視図
図4】別実施形態に係るアクチュエータ用セルフロック機構の構造を示す側断面図
【発明を実施するための形態】
【0024】
(概要)
本発明に係るアクチュエータ用セルフロック機構は、例えば、自動車のパワーウィンドウ、電動シート、電動コラムの駆動部を往復動作させるような対象部位に用いることができる。以下には、本発明に係る実施形態を図1乃至図3を用いて説明する。
【0025】
当該セルフロック機構Lは、モータ1等によって回転駆動されるネジ部材2や、このネジ部材2に螺合させた第1ナット部材N1および第2ナット部材N2を備える。これら第1ナット部材N1と第2ナット部材N2とは、付勢部材3によって互いに反対方向に相対回転するように付勢されている。これら第1ナット部材N1および第2ナット部材N2は、例えば箱状のナットホルダ4に内装してある。第1ナット部材N1および第2ナット部材N2はナットホルダ4の内部に設けた第1受部U1と第2受部U2とに夫々当接するように構成してある。これにより、ネジ部材2の非駆動時には、ネジ部材2に対してナットホルダ4をガタなく位置保持し、当該アクチュエータを備えた機構部の姿勢を安定させることができる。
【0026】
図1および図2に示すように、本実施形態のセルフロック機構Lは、直方体形状のナットホルダ4をネジ部材2が貫通するとともに、このネジ部材2に第1ナット部材N1と第2ナット部材N2とを螺合させてある。
ネジ部材2は、二つの軸受部5で両端部が軸支されている。ネジ部材2の一端側には駆動モータ1を接続する。
第1ナット部材N1および第2ナット部材N2は、付勢部材3によって互いに反対方向に捻り付勢される。本実施形態では、付勢部材3として第1ナット部材N1および第2ナット部材N2に亘って係合させたコイルスプリング3aを用いている。このコイルスプリング3aにより、第1ナット部材N1および第2ナット部材N2は互いに離間する方向に付勢され、静止状態では、夫々がナットホルダ4の内壁面に押し付けられる。
【0027】
図1に示すように、ナットホルダ4には移動対象としての移動台6を設けてある。この移動台6には、例えば、パワーウィンドウの駆動部を連結したり、パワーシートの座部を取り付けることができる。また、このような比較的大きな機構の他にも各種の往復移動させたい移動部を連結することができる。このような移動台6は、専用のガイドレール7で往復移動を案内すると良い。つまり、大きな荷重を受ける移動台6は強固なガイドレール7で案内する構造とし、本実施形態のアクチュエータは、特に移動台6の往復移動および静止状態の安定化を図るものとする。この結果、セルフロック機構Lそのものには大きな荷重が作用し難くなり、セルフロック機構Lをコンパクトに構成することができる。
なお、当然であるが、荷重に対してネジ部材2とセルフロック機構Lとが、十分な強度・剛性を有する場合には、移動台6のガイドレール7を必要以上に強固なものとする必要はない。
【0028】
(第1ナット部材および第2ナット部材)
図2に示すごとく、第1ナット部材N1および第2ナット部材N2は、ネジ部材2に螺合するよう中央に雌ネジ部を備える。ネジ部材2のピッチは本装置を適用する移動対象によって様々であるが、本セルフロック機構Lによれば、軸芯Xの方向に沿って移動台6に外力が作用した場合でも適切に制動効果が発揮される。よって、その分、ネジピッチを比較的大きく設定することを可能にする。
【0029】
第1ナット部材N1および第2ナット部材N2は、例えば、図2に示すように、軸芯Xを境にして半円筒状の部位と直方体の部位とを組み合わせた形状としている。両ナット部材が対向する側には、コイルスプリング3aを取り付ける際の位置決めが容易となるようボス部B1,B2を突出形成してある。また、その反対側、即ち、夫々のナット部材の外側には、ナットホルダ4の内壁面に押し付けられる円筒状の第1当接部T1および第2当接部T2を突出形成してある。これら第1当接部T1および第2当接部T2の突出長さは、ナットホルダ4の内壁面に設けた第1受部U1および第2受部U2に確実に押し付けるためのものであるから、僅かな突出量であっても構わない。
【0030】
なお、本実施形態においては、第1当接部T1と第1受部U1との当接および第2当接部T2と第2受部U2との当接、言い換えれば、第1当接部T1と第1受部U1との間および第2当接部T2と第2受部U2との間の接触荷重の発生によって、制動効果が発揮されるものであり、第1当接部T1と第1受部U1との間および第2当接部T2と第2受部U2との間に必ずしも摩擦力は必要ではない。第1当接部T1と第1受部U1との間および第2当接部T2と第2受部U2との間には、摩擦抵抗低減のためにスラストベアリング等を介装してもよい。
【0031】
また、夫々のナット部材における直方体の部分は、特に図2に示した夫々のナット部材の上側端面をナットホルダ4の天井面に当接可能としたものである。両ナット部材のこの部分は後述する規制部を構成する。
【0032】
第1ナット部材N1および第2ナット部材N2、ナットホルダ4、ネジ部材2などは、金属や樹脂など各種の材料で構成することができる。材料の選択は、当該セルフロック機構Lを採用する部位においてネジ部材2などに作用する外力あるいは求める耐久性などに応じて適宜設定する。
【0033】
(付勢部材)
図2に示すごとく、本実施形態では、第1ナット部材N1と第2ナット部材N2との互いに対向する内側面にコイルスプリング3aを係止させている。このコイルスプリング3aは、第1ナット部材N1と第2ナット部材N2とを図2に示した矢印の方向に捻り付勢している。ネジ部材2は一般に右ネジであるので、図2の場合、手前の第1ナット部材N1は反時計方向に回転しつつ手前側に螺進する。一方の奥側の第2ナット部材N2は、時計方向に回転しつつ奥側に螺進する。これにより、第1ナット部材N1の第1当接部T1は、ナットホルダ4の第1受部U1に押し付けられ、第2ナット部材N2の第2当接部T2は、ナットホルダ4の第2受部U2に押し付けられる。
【0034】
第1ナット部材N1および第2ナット部材N2は、当初、付勢部材3の回転付勢によってネジ部材2のピッチに応じて互いに反対方向に回転しつつ互いに離間する。しかし、両ナット部材がナットホルダ4の受部と当接して接触加重を発生し始めると、両ナット部材の回転が制限される。それに伴なって両ナット部材は、ネジ部材2の軸芯Xに沿った方向への移動が制限され始める。両ナット部材は、その後も暫くは回転を続け、コイルスプリング3aの捻り付勢力、両ナット部材とナットホルダ4との間の接触加重、および、両ナット部材N1,N2とねじ部材2との間の摩擦力が平衡状態となった時点で停止する。
【0035】
この所定量の回転に際しては、第1ナット部材N1および第2ナット部材N2がネジ部材2の軸芯Xの方向に沿って移動するほど、第1受部U1および第2受部U2からの反力が増大する。つまり、第1ナット部材N1および第2ナット部材N2は、ネジ部材2の軸芯Xの方向への移動に抵抗を受けつつ回転するから、ネジ部材2に対する摩擦力が次第に増大する。両ナット部材の回転が停止した状態では、第1ナット部材N1および第2ナット部材N2とネジ部材2との間に摩擦力が発生し、同時に、両ナット部材とナットホルダ4との間には接触加重が生じている。即ち、ナットホルダ4・第1ナット部材N1・第2ナット部材N2・ネジ部材2の夫々が一体化した状態となる。このため、ネジ部材2が非駆動状態にあり、ナットホルダ4等に外力が作用してネジ部材2が回転しようとする場合でも、両ナット部材N1,N2とネジ部材2との間の摩擦力がこれを阻止し、安定した静止状態を維持することができる。
【0036】
一方、ネジ部材2を再駆動する場合には、第1ナット部材N1および第2ナット部材N2のうち何れか一方はネジ部材2の回転によって摩擦力が弱められる方向に回転する。この結果、第1ナット部材N1と第2ナット部材N2との回転位相差が縮小されて、両ナット部材N1,N2とナットホルダ4との間の接触荷重が減少し、これら両ナット部材とネジ部材2との間に生じている摩擦力が減少する。よって、ネジ部材2を、非駆動である静止状態から駆動状態に円滑に移行させることができる。
【0037】
本実施形態のごとく、第1ナット部材N1および第2ナット部材N2が互いに離間する方向に付勢され、第1受部U1と第2受部U2とをナットホルダ4の互いに対向する内壁面に各別に備えた構成にすることで、ナットホルダ4の一部を兼用して前記受部を構成することができ、当該セルフロック機構Lの部品点数を少なくして構成を簡略化することができる。また、ナットホルダ4自身は箱状で剛性に優れているから、強度・剛性に優れたセルフロック機構Lを得ることができる。
【0038】
この実施形態では、第1ナット部材N1と第2ナット部材N2とをナットホルダ4の対向する内壁面に押し付ける構造であるから、双方のナット部材どうしの距離を最長に確保できる。このため、ナットホルダ4に外力が作用した場合でも、ネジ部材2に対するナットホルダ4の姿勢が安定する。この点は、特にネジ部材2が駆動されていない場合のナットホルダ4の姿勢安定化に寄与することとなる。
さらに、本構成であれば、両ナット部材をナットホルダ4に内装することができるため、セルフロック機構Lを外部要因から保護して信頼性を高めることができる。
【0039】
(第1ナット部材および第2ナット部材の取付け)
コイルスプリング3aを第1ナット部材N1および第2ナット部材N2に取り付けるには、前記摩擦力を有効に発揮させるために捻り力を適切に設定する必要がある。手順としてはまず、コイルスプリング3aを間に挟みつつ第1ナット部材N1と第2ナット部材N2とをネジ部材2に螺合させ、双方の距離がナットホルダ4にちょうど収まる程度に設定する。この距離でコイルスプリング3aが所定の捻り力を発揮できるように、第1ナット部材N1および第2ナット部材N2の内側面であってボス部B1,B2の周辺には、例えば、四箇所のコイルスプリング3aの係止穴8を設けておく。何れかの係止穴8にコイルスプリング3aを係止することでコイルスプリング3aの捻り力を最適に設定することができる。
尚、コイルスプリング3aは、図2に示すように巻き径を縮径させ、巻き広がる方向に付勢力を発生させることとすると、常時においてボス部B1,B2とのクリアランスが少なくなってコイルスプリング3aの姿勢が安定し易くなる。
【0040】
第1ナット部材N1および第2ナット部材N2に形成した直方体の部位は、これらナット部材がナットホルダ4に対して過回転しないように規制する部位として機能する。
第1ナット部材N1および第2ナット部材N2は、ネジ部材2のネジ溝に沿って螺進し、第1受部U1あるいは第2受部U2に押し付けられて停止する。このときナット部材N1,N2とネジ部材2との間に発生する摩擦力は、原則として付勢部材3によるねじり付勢力のみに起因する。ナット部材の通常の噛み込みが行われている場合には、ネジ部材2が再駆動されるときに、何れか一方のナット部材が噛み込みが解除される方向に僅かに回転し、ネジ部材2が滑らかに駆動する必要がある。つまり、付勢部材3の付勢力は、ネジ部材2の再駆動によってナット部材の噛み込みが容易に解除される程度に留める必要がある。しかし、アクチュエータの動作態様によっては、ネジ部材2に対して何らかの外力が作用し、ナット部材の噛み込み停止時に通常以上に強く噛み込んでしまう場合がある。
【0041】
本実施形態のセルフロック機構Lでは、第1ナット部材N1および第2ナット部材N2の過回転を防止するために、規制部Kを備えている。図3に、当該規制部Kの機能を示す。図3のうち左の図は両ナット部材の通常の噛み込み状態を示す図である。ここでは、第1ナット部材N1および第2ナット部材N2ともに、直方体をなす上面がナットホルダ4の天井面に対して平行となっている。図中、ナットホルダ4の天井9を示すラインを太い破線で示している。この状態では、第1ナット部材N1および第2ナット部材N2は、ナットホルダ4の天井9には当接せず、付勢部材3の付勢力によって適切にナットホルダ4に当接している。
【0042】
一方、図3の右図は、例えばネジ部材2の駆動停止時にネジ部材2に外力が作用して手前の第1ナット部材N1を過回転させた状態を示している。第1ナット部材N1の上面のうち右側の縁部がナットホルダ4の天井9に当接している。本実施形態ではこの右側の縁部が第1規制部K1となる。奥側の第2ナット部材N2においては、左側の縁部が第2規制部K2となる。この状態では、ナット部材N1,N2とネジ部材2との間に通常発生する摩擦力よりも大きな摩擦力が発生している。ただし、ネジ部材2の次回の回転駆動によって解除され得る程度の摩擦力に留められている。
【0043】
尚、規制部Kの構成は本実施形態に限られるものではない。例えば、第1ナット部材N1のうち第1当接部T1の何れかの箇所と、ナットホルダ4の第1受部U1の何れかの箇所とに亘って当接する構成としてもよい。また、第1ナット部材N1と第2ナット部材N2とが所定の位相角に達したときに互いに当接する構成であっても良い。要するに双方のナット部材の相対位相角差が一定以内に抑えられるものであれば何れの構成でも良い。
【0044】
上記のごとく所期の状態に第1ナット部材N1と第2ナット部材N2とをセッティングするには例えば以下のように行う。
図2に示すように、ナットホルダ4には、ネジ部材2の軸芯Xの方向に直角な第1開口部10と、前記軸芯Xの方向に平行な第2開口部とを設けてある。第1開口部10には第1蓋部材F1を装着可能であり、第2開口部11には第2蓋部材F2を装着可能である。第1蓋部材F1は、四つのコーナーの各々に於いて押しネジと引きネジとを用いてナットホルダ4に対して取付位置を調節可能に構成してある。第1蓋部材F1の内側面は第1ナット部材N1の第1当接部T1と当接する第1受部U1として機能する。これに対向するようにナットホルダ4の奥に設けられた面は、第2ナット部材N2の第2当接部T2と当接する第2受部U2として機能する。
【0045】
組み立ては、まず、ネジ部材2に第1ナット部材N1と第2ナット部材N2、コイルスプリング3aを取り付けて仮組みする。第1ナット部材N1と第2ナット部材N2との間隔は、予め設定してある第1受部U1と第2受部U2との間隔に合わせる。このとき、第1ナット部材N1と第2ナット部材N2とはコイルスプリング3aの付勢力に抗ってたとえば同じ位相に保持する。そのため、第1ナット部材N1と第2ナット部材N2とに亘って適宜の止め具を係合させると良い。仮組みしたネジ部材2等を第1開口部10から挿入する。ナットホルダ4の壁面に設けた孔部12はネジ部材2の外形よりも大きく、両者は非接触となる。第2ナット部材N2を奥の第2受部U2に当接するまで挿入し、続けて第1蓋部材F1を第1ナット部材N1に当接する位置まで押し込む。両者が当接している状態で、四隅の押しネジ13と引きネジ14とを調節して第1蓋部材F1固定する。この状態で上記止め具を外し、第1ナット部材N1と第2ナット部材N2とを夫々第1受部U1と第2受部U2とに接触させる。その様子を第2開口部11から確認する。このとき、第1ナット部材N1と第2ナット部材N2とは図3の左図または右図のようになっているのが望ましい。このようにしながら第1蓋部材F1を適切な位置に固定し、第2蓋部材F2によって第2開口部11を遮蔽する。
ただし、本実施形態においては、何れかのナット部材N1,N2がネジ部材2の回転に対して僅かに回転する必要があるため、第1規制部K1と第2規制部K2とが共にナットホルダ4の天井9に当接した状態で組み立ててはならない。
【0046】
〔別実施形態〕
付勢部材3としては、第1ナット部材N1とナットホルダ4とに亘って第1の付勢部材を設け、第2ナット部材N2とナットホルダ4とに亘って第2の付勢部材を設けてもよい。つまり、第1ナット部材N1と第2ナット部材N2とが反対方向に回転するように付勢するものであれば、種々の構成を選択自由である。
【0047】
付勢部材3の形状は上記実施形態のごとく捻り力を利用するコイルスプリング3aに限られるものではない。例えば、コイル状で長尺の引張スプリングや圧縮スプリングを用いることもできる。この場合、例えば、第1ナット部材N1の外周部と第2ナット部材N2の外周部とに亘って引張(圧縮)スプリングを接続し、両者を付勢することが可能である。
【0048】
第1ナット部材N1と第2ナット部材N2とは、互いに近接する方向に付勢するものであってもよい。例えば、図4において、ナットホルダ4を第1受部U1と第2受部U2とが設けられた壁部4aとし、これを第1ナット部材N1と第2ナット部材N2とで挟み込むように構成する。壁部4aの周囲には例えば筒状のフランジ部を形成して、双方のナット部材N1,N2の保護部を形成する。なお、第1ナット部材N1と第2ナット部材N2との位相を調節する際に、これらナット部材N1,N2をナットホルダ4から脱着自在にするために、フランジ部の一部4bを別体で構成すると良い。ナットホルダ4からフランジ部の一部4bを取り外すことで、ネジ部材2および双方のナット部材N1,N2を一度に取り外せるように、壁部4aには例えばスリットを形成しておく。このフランジ部の一部4bは、例えばビス4c等で壁部4aに固定する。
【0049】
なお、図示は省略するが、ナットホルダ4に対する第1ナット部材N1および第2ナット部材N2の相対位相の調節は、例えば、夫々のナット部材N1,N2と壁部4aとの間に所定の厚みのスペーサを挿入するなどで対処する。また、双方のナット部材およびコイルスプリング3a等を保護するカバー部材を別途設けると良い。
本構成であれば、双方のナット部材N1,N2を押し付ける部位として中央の壁部4aを一枚設けるだけでよいから、セルフロック機構の構成をより簡単にすることができる。
【0050】
ナット部材の当接部およびナットホルダ4の受部は、ナット部材の径方向外側の外周面とナットホルダ4の内壁面のうち軸芯と平行な面との間に設けても良い。この場合にも、ナット部材の外周面がナットホルダ4の内周面に接触荷重を発生させつつ当接するから、ナット部材は、ネジ部材2の軸芯X方向に沿った移動が弱められつつナットホルダ4に対して接触することとなる。つまり、この場合にも、第1ナット部材N1と第2ナット部材N2とにナットホルダ4が作用させる反力が次第に大きくなり、ナット部材の軸芯Xの方向への動きが徐々に制限されるという過程は上記実施形態と同じとなる。よって、駆動が滑らかで静止姿勢の安定したセルフロック機構Lを得ることができる。
【0051】
上記実施形態では、移動台6の荷重は専用のガイドレール7で受ける構成を示したが、両ナット部材N1,N2とネジ部材2とでナットホルダ4および移動台6の荷重を受ける構造であっても良い。
たとえは、第1ナット部材N1と第2ナット部材N2とに、互いに外向きのボス部を突出形成させ、これらのボス部を支持する凹部をナットホルダ4の対応壁面に設けておく。例えば、移動台6に作用する荷重が極めて小さく、その荷重が第1ナット部材N1とナットホルダ4との相対移動に影響しないのであれば、このような構成も可能である。この場合、ガイドレール7が省略できるのでより簡便なアクチュエータを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のアクチュエータ用のセルフロック機構Lは、例えば、自動車のパワーウィンドウや電動サンルーフ、電動シート、電動コラム、電動パーキングブレーキなどのほか往復駆動を行わせる機構部の一部として利用することができる。また、自動車の構成部品に限らず、各種工業製品の機構部に用いることができる。
【符号の説明】
【0053】
2 ネジ部材
3 付勢部材
4 ナットホルダ
4a 壁部
K1 第1規制部
K2 第2規制部
L セルフロック機構
N1 第1ナット部材
N2 第2ナット部材
U1 第1受部
U2 第2受部
X 軸芯
図1
図2
図3
図4