特許第5991036号(P5991036)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5991036
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】受光素子および光学装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20160901BHJP
【FI】
   H01L31/10 A
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-134142(P2012-134142)
(22)【出願日】2012年6月13日
(65)【公開番号】特開2013-258328(P2013-258328A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000693
【氏名又は名称】特許業務法人ハートクラスタ
(74)【代理人】
【識別番号】100111936
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 征一
(72)【発明者】
【氏名】猪口 康博
(72)【発明者】
【氏名】稲田 博史
【審査官】 吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−206499(JP,A)
【文献】 特開2012−015170(JP,A)
【文献】 特開2003−234494(JP,A)
【文献】 特開2006−344681(JP,A)
【文献】 特開2002−289904(JP,A)
【文献】 特開平08−250759(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0272672(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
III−V族化合物半導体の基板に形成され、タイプII多重量子井戸構造からなる受光層を含む受光素子であって、
前記タイプII多重量子井戸構造においてタイプIの吸収が生じる波長域(タイプI波長域)の光を長波長側の波長域の光よりも大きく減少させるためのタイプI波長域減少手段が、前記受光層の位置よりも光入射側に位置しており、
前記タイプI波長域減少手段が、
タイプI波長域の光を吸収するエピタキシャル半導体層からなり、前記受光層から正孔の拡散長の50%以上の距離を離れて配置される吸収層、
または、
光入射面に付帯された、タイプI波長域の透過率を前記タイプI波長域より長波長側の波長域の透過率に比べて低くするコーティング膜
であることを特徴とする、受光素子。
【請求項2】
前記吸収層がInGaAs層またはInGaAsP層であることを特徴とする、請求項1に記載の受光素子。
【請求項3】
前記吸収層が前記基板と前記受光層との間に位置し、該吸収層と該受光層との間に、厚みが正孔の拡散長の50%以上のIII−V族化合物半導体からなる正孔消去層が配置されていることを特徴とする、請求項1又は2のいずれか1項に記載の受光素子。
【請求項4】
前記正孔消去層がInP層および/またはAlInAs層からなることを特徴とする、請求項3に記載の受光素子。
【請求項5】
前記コーティング膜が、誘電体多層膜であることを特徴とする、請求項1に記載の受光素子。
【請求項6】
前記基板がInP基板であり、前記受光層がタイプIIのInGaAs/GaAsSb多重量子井戸構造、またはタイプIIのGaInNAs/GaAsSb多重量子井戸構造であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の受光素子。
【請求項7】
前記InP基板がFeドープまたはノンドープであり、前記吸収層に接して配置されるグランド電極を有することを特徴とする、請求項6に記載の受光素子。
【請求項8】
前記受光層において前記タイプI波長域より長波長側の波長域の感度と、該タイプI波長域の感度との比がA(A<1)の場合、前記吸収層もしくは前記コーティング膜は、タイプI波長域の光の透過率が前記タイプI波長域より長波長側の波長域の透過率に対して0.8A以上1.2A以下となるように、材料および厚みが設定されていることを特徴とする、請求項6または7に記載の受光素子。
【請求項9】
前記タイプI波長域の代表波長を1.5μmとし、前記タイプI波長域より長波長側の波長域の代表波長を2.1μmとして、該波長2.1μmと1.5μmとの感度の比がA(A<1)であり、前記吸収層もしくは前記コーティング膜は、前記波長1.5μmの透過率を前記波長2.1μmの透過率に比べて、0.8A以上1.2A以下となるように、材料および厚みが設定されていることを特徴とする、請求項8に記載の受光素子。
【請求項10】
前記吸収層もしくは前記コーティング膜が前記基板の裏面に位置していることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の受光素子。
【請求項11】
III−V族化合物半導体の基板に形成され、タイプII多重量子井戸構造からなる受光層を含む受光素子であって、
前記タイプII多重量子井戸構造においてタイプIの吸収が生じる波長域(タイプI波長域)の光を長波長側の波長域の光よりも大きく減少させるためのタイプI波長域減少手段が、前記受光層の位置よりも光入射側に位置しており、
前記タイプI波長域減少手段がタイプI波長域の光を吸収する、エピタキシャル半導体層からなる吸収層であるとともに、
前記吸収層が前記基板と前記受光層との間に位置し、該吸収層と該受光層との間に、厚みが正孔の拡散長の50%以上のIII−V族化合物半導体からなる正孔消去層が配置されていることを特徴とする、受光素子。
【請求項12】
前記基板がInP基板であり、前記受光層がタイプIIのInGaAs/GaAsSb多重量子井戸構造、またはタイプIIのGaInNAs/GaAsSb多重量子井戸構造であることを特徴とする、請求項11に記載の受光素子。
【請求項13】
前記InP基板がFeドープまたはノンドープであり、前記吸収層に接して配置されるグランド電極を有することを特徴とする、請求項12に記載の受光素子。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の受光素子を用いたことを特徴とする光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外〜赤外域で動作する受光素子および光学装置に関し、より具体的には、上記の波長域で、波長による変動がそれほど大きくない、波長依存性が緩やかな感度を有する受光素子およびそれを用いた光学装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近赤外〜赤外域は、動植物などの生体や環境に関連した吸収スペクトル域に対応するため、受光層にIII−V族化合物半導体を用いた近赤外光の検出器の開発が進行中である。たとえばInGaAs/GaAsSbタイプII多重量子井戸構造(MQW:Multi-Quantum Well)を受光層としたプレーナ型受光素子が開示されている(特許文献1)。このプレーナ型受光素子では、選択拡散によって多重量子井戸構造にpn接合もしくはpin構造を形成する際、不純物が高濃度に多重量子井戸構造に分布して結晶性を劣化させないように、拡散濃度分布調整層を配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−288297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のInGaAs/GaAsSbタイプIIの多重量子井戸構造を受光層とするセンサーは波長2.5μm程度まで感度があるが、波長2.5μmも含めたこれより短波長側の対象波長域全体にわたって、感度は、波長に応じて大きく変動する。その理由は、InGaAs/GaAsSbタイプIIの多重量子井戸構造では、タイプIIの遷移とともにタイプIの遷移も生じ、このタイプIの遷移によって波長1μm〜1.7μmにおいて高い受光感度が形成される。すなわち波長1μm〜1.7μmがタイプI波長域である。
受光でのタイプI遷移では、多重量子井戸構造の同じ層内の価電子帯から伝導帯へと電子状態の遷移が生じる。InGaAsよりもGaAsSbのほうがエネルギバンドは伝導帯エネルギおよび価電子帯エネルギともに高いが、伝導帯エネルギと価電子帯エネルギとのエネルギ差(バンドギャップ)は、標準的な化学組成において、GaAsSbがEg=0.75eV(λ=1.65μm)であり、InGaAsがEg=0.74eV(λ=1.67μm)である。両者はほぼ同じである。これに対応して、上記のタイプI波長域1μm〜1.7μmの上限側が形成される。
一方、受光におけるタイプIIの遷移では、価電子帯エネルギの高いほうの層(GaAsSb層)から伝導帯エネルギの低いほうの層(InGaAs層)に電子の遷移が起きる。遷移のエネルギ差が小さい分、受光感度を長波長側に拡大できる。しかし、隣り合う層の間での遷移となるため、遷移確率は、タイプIよりも確実に低下する。この場合のタイプIIの遷移確率は、InGaAsの伝導帯で量子井戸内に閉じ込められた電子の波動関数と、その隣のGaAsSbの価電子帯で量子井戸内に閉じ込められた正孔の波動関数との重なり積分に比例する。この隣り合う場所での重なり積分(振幅の高い位置がずれている2つの波動関数の積分)は、タイプIの遷移確率における同じ場所でのInGaAs内またはGaAsSb内での積分(同一層内積分)に比べると、その値は確実に低くなる。
InGaAs/GaAsSbタイプIIの多重量子井戸構造では、上記のように、受光においてタイプIとタイプIIの両方の遷移が生じ、タイプIの遷移による受光が、タイプIIよりも高感度で生じる。この現象は、InGaAs/GaAsSbタイプIIの多重量子井戸構造では、避けることができない。すなわち波長1μm〜1.7μmの感度が、それより長波長側の光に対する感度よりも相当大きくなる。
さらに、上記したように、プレーナ型受光素子の場合、InGaAs拡散濃度分布調整層を配置すると、このInGaAs層が波長1μm〜1.7μmの光を受光(吸収)する。このため、タイプI波長域の感度が、それより長波長側の波長域よりも、さらに一層、高い感度を有するようになる。なお、本発明は、プレーナ型受光素子に限定されず、メサ構造の受光素子も対象とする。
【0005】
多重量子井戸構造を受光層とする場合に生じる上記の現象をより詳細に説明する。上記の現象により、受光感度は、波長1.7μm以下の短い波長域と1.7μmを超える長波長域の2つの波長域に分かれ、波長1.7μm以下の波長域では、波長1.5μm付近にピークをもつ山なりの感度特性を示す。この波長1.5μm付近の感度は、長波長側、たとえば波長2μmの感度の約2倍程度と、相当に大きい。
【0006】
このようなタイプIIMQWを受光層とする受光素子によってセンサーを構成した場合、次のような問題を生じる。センサーの信号は、増幅回路などを通して増幅して出力されるが、対象とする波長域にわたって感度の変動が大きいと、波長域に応じて最適な増幅率に変える必要がある。しかし、実際にはこれは容易ではない。このような感度の大きな変動を示す受光素子は、実用上、分光分析用の検出器には適用できない。
【0007】
本発明は、タイプIIの多重量子井戸構造の受光層をもつ受光素子において、タイプIの吸収が生じる波長域も含めて、対象とする波長域全体にわたって感度の変動が小さい受光素子および光学装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の受光素子は、III−V族化合物半導体の基板に形成され、タイプII多重量子井戸構造からなる受光層を含む。この受光素子は、タイプII多重量子井戸構造においてタイプIの吸収が生じる波長域の光を長波長側の波長域の光よりも大きく減少させるためのタイプI波長域減少手段が、受光層の位置よりも光入射側に位置していることを特徴とする。ここで、本発明の受光素子は、単一画素の受光素子でもよいし、一次元または二次元に画素が配列された受光素子でもよい。ここで、上記画素は、それぞれ上記受光層を含み、受光で発生した信号を、領域ごとに読み出すために設けられている。
これによって、タイプI波長域減少手段がない場合、タイプI波長域の感度が、それより長波長側の感度に比べて過度に大きかったのを、対象とする両方の波長域全体にわたってほぼ揃えることが可能になる。従来の受光素子では、読み出し回路等において、タイプI波長域の電気出力が飽和レベルを超えるためにゲインを増やす余地がなかった。しかし、本発明では、タイプI波長域減少手段によって均一化されるため(タイプI波長域は減らされるため)、対象波長全般においてゲインを増やす余地が生じる。この結果、読み出し回路のゲイン調整等によってタイプI波長域より長波長側も含めた対象波長域全体の感度を高めることができる。
なお、タイプI波長域減少手段は、タイプI波長域の光の光量もしくは光束を数十%(たとえば25%〜75%)減少させることができる構成(材料、厚みなど)であれば何でもよい。すなわち吸収率はたとえば25%〜75%、従って透過率は75%〜25%となる。
また、このタイプI波長域減少手段は、タイプI波長域より長波長側の光の照度に対しては、ほとんど減少させないか、減少させる場合でもタイプI波長域の減少割合の半分以下とするものである。
ここで、タイプI波長域より長波長側の波長域には、当然、タイプIIの遷移のみによって受光される波長域(タイプII波長域)の光も含まれる。
光の入射面は、半導体(たとえば半導体基板、エピタキシャル層)の表裏面の側に構成される。この場合、通常は、反射防止膜(ARfilm:Anti-Reflection film)が配置され、この反射防止膜の表面が、狭義の光の入射面となる。また、タイプI波長域減少手段の表面が光の入射面となってもよい。入射面は、本発明の趣旨に反しないように、文言に拘泥しないで解釈されるべきである。
【0009】
タイプI波長域減少手段を、タイプI波長域の光を吸収する、エピタキシャル半導体層からなる吸収層とすることができる。
これによって、たとえばタイプII多重量子井戸構造を形成しているペアの一方の層を選択し、厚み等を調整することで、吸収層とすることができる。この一方の層では、受光感度が過度に大きくて問題となっているタイプI波長域の光を、正に、タイプIの遷移により、受光層の入射面側で、吸収することになる。当然、この一方の層は、III−V族化合物半導体の基板に格子整合するエピタキシャル層である。また、この場合、タイプI波長域より長波長側の光は、その吸収層(一方の層)のバンドギャップエネルギよりエネルギが小さいため、その吸収層では吸収されない。
なお、吸収層は単層膜でも多層膜でもよい。しかし、タイプIIの多重量子井戸構造の受光層を含む受光素子で、タイプI波長域の光を吸収してそれより長波長側の光をほとんど吸収しないIII−V族化合物半導体は、上述の一方の層が、正に該当するので、厚みを調整することで、その単層膜を好適に用いることができる。
【0010】
吸収層を、受光層から正孔の拡散長の50%以上の距離、離すようにするのがよい。
吸収層での吸収(受光)によって生じる正孔/電子対のうち正孔は、画素電極がp側電極である場合、画素内の受光層側へと電場を受けて拡散する。仮に、この正孔が、受光層内に入ってしまうと、その正孔は受光層で受光されて生じた正孔と認識(カウント)されてしまう。この結果、対象波長にわたって感度を揃えることができず、吸収層は感度のアンバランスを、むしろ強調するようになる。上記のように、吸収層と受光層との間を、正孔の拡散長の50%以上の距離、またはより好ましくは拡散長以上、離すことで、多くの正孔は消滅して受光層内に届かない。この結果、対象波長にわたって感度を揃えることが可能になる。
受光層に形成した空乏層内で正規(普通)に、受光により生じた正孔であっても、多重量子井戸構造の価電子帯を画素電極にまで到達するのは容易ではなく、途中で消滅してしまう正孔も多い。このため、吸収層を、受光層から離す距離は、正孔の拡散長の50%程度以上でよい。
【0011】
吸収層をInGaAs層またはInGaAsP層とすることができる。
これによって、タイプI波長域の光を数十パーセント吸収する現実的な厚みとしながら、それより長波長側の波長域の光をほとんど吸収しない吸収層を実現することができる。しかも、InP基板等の基板に格子整合するので結晶性のよいエピタキシャル積層体を形成するのに貢献することができる。
上記したように、吸収層は、タイプII多重量子井戸構造を形成するペアのうちの一方の層を構成する材料が好適であり、InGaAsまたはInGaAsPはこれに該当する。GaAsSbもバンドギャップエネルギは適切であるが、アンチモン(Sb)がサーファクタント効果などを生じるため、非常に適切であるといえない。しかし、使用できないわけではない。
【0012】
吸収層が前記基板と前記受光層との間に位置し、該吸収層と該受光層との間に、厚みが正孔の拡散長の50%以上のIII−V族化合物半導体からなる正孔消去層が配置されているのがよい。
これによって、吸収層で生じた正孔が受光層に至って受光としてカウントされないようにできる。正孔消去層の厚みは、正孔の拡散長の半分以上であればよいが、好ましくは正孔の拡散長以上である。
【0013】
正孔消去層をInP層および/またはAlInAs層から構成するのがよい。
これによって、良好な格子整合を実現しながら、正孔を確実に消去する層を含ませながら良好な結晶性のエピタキシャル積層体を得ることができる。
【0014】
タイプI波長域減少手段を、光入射面に付帯された、タイプI波長域の透過率をタイプI波長域より長波長側の波長域の透過率に比べて低くするコーティング膜とすることができる。
これによって、タイプI波長域およびそれより長波長側の光の感度を均一にすることができる。上記のコーティング層は、非エピタキシャル層である。
【0015】
コーティング膜を、誘電体多層膜とすることができる。
たとえば、酸化珪素(SiO)、窒化珪素(SiN)、酸窒化珪素(SiON)等の多層膜によって、任意の適切な透過率の波長依存性を容易に設計することができる。とくにプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法による酸化珪素(SiO)および酸窒化珪素(SiON)を用いることで、500MPa以下という低応力で、かつ低ダメージの誘電体多層膜を形成することができる。
【0016】
基板がInP基板であり、受光層がタイプIIのInGaAs/GaAsSb多重量子井戸構造、またはタイプIIのGaInNAs/GaAsSb多重量子井戸構造であるようにできる。
これによって、波長2.5μm程度にまで感度の波長依存性をほぼ平坦にした、赤外受光素子を得ることができる。
【0017】
InP基板がFeドープまたはノンドープであり、吸収層または正孔消去層に接して配置されるグランド電極を有するのがよい。
InP基板をFeドープまたはノンドープとすることで、タイプI波長域よりも長波長側での透明性を向上させることができる。基板は、エピタキシャル層に比べて厚みが格段に大きいので、この透明性の向上は長波長側の光の感度を向上させる上で貴重である。また、タイプI波長域の透明性も高めることができる。しかし、FeドープまたはノンドープのInP基板は、半絶縁性なので、グランド電極をオーミック接触することは難しい。このため、高濃度に不純物をドープした吸収層または正孔消去層に、グランド電極を配置(オーミック接触)するのがよい。
【0018】
受光層においてタイプI波長域より長波長側の波長域の感度と、該タイプI波長域の感度との比がA(A<1)の場合、吸収層もしくはコーティング膜は、タイプI波長域の光の透過率がタイプI波長域より長波長側の波長域の透過率に対して0.8A以上1.2A以下となるように、材料および厚みを設定することができる。
これによって、対象とする全波長域にわたって、感度をほぼ±20%の範囲内に揃えることができる。
【0019】
タイプI波長域の代表波長を1.5μmとし、タイプI波長域より長波長側の波長域の代表波長を2.1μmとして、該波長2.1μmと1.5μmとの感度の比がA(A<1)の場合、吸収層もしくはコーティング膜は、波長1.5μmの透過率を波長2.1μmの透過率に比べて、0.8A以上1.2A以下となるように、材料および厚みを設定することができる。
これによって、対象となる波長域全体にわたって、たとえば近赤外域の波長1.0μm程度から波長2.5μm程度における感度をほぼ均されたものにすることができる。この結果、波長1.8μmを超える波長域での感度を向上することができ、たとえば微量たんぱく質等の有機物の物質同定ができるハイパースペクトルイメージングシステムの形成が可能になる。その他、波長1.0μm〜2.5μmの帯域を使用するハイパースペクトルイメージングにおいて、スペクトルの出力補正が簡便となり、PLS(Partial Least Squares)回帰分析が容易となる。
【0020】
吸収層もしくは前記コーティング膜を基板の裏面に位置させることができる。
これによって、吸収層の場合、基板は厚みが、正孔の拡散長以上、確実にあるので、正孔消去層を配置しなくてよい。ちなみに正孔の拡散長はほぼ1.6μm程度であり、基板はこの数十倍以上は確実にある。
吸収層は、上記したように単層膜でも多層膜でもよいが、吸収層を基板の裏面に配置する場合、エピタキシャル成長をあまり気にしなくてよいので、とくに多層膜とすることが容易である。
コーティング膜の場合、ほとんど受光素子の本体の製造手順に変更を加えることなく、最終的な工程で、コーティング層を形成すればよいという利点を得ることができる。さらに、製造し終わった受光素子に対してもコーティング膜を形成することができる。
【0021】
本発明の光学装置は、上記のいずれかの受光素子を用いたことを特徴とする。
これによって、対象とする波長域にわたって感度の変動が小さい受光素子を用いて高精度の光学装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、タイプIIの多重量子井戸構造の受光層をもつ受光素子において、タイプIの吸収が生じる波長域も含めて、対象とする波長域全体にわたって感度の変動が小さい受光素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施の形態1における受光素子を示す図である。
図2図1の受光素子の感度の波長依存性を、従来と比較して示す図である。
図3】タイプII多重量子井戸構造の受光層で生じる、タイプIおよびタイプIIの遷移を説明するための図である。
図4】InGaAs吸収層の厚みを設定するために用いる、厚み4.0μmのInGaAsの透過率を示す図である。
図5図1の受光素子を製造する方法を示し、(a)はInP基板の一方の主面にInGaAs吸収層を、他方の主面にSiN保護膜を形成した状態、(b)はSiN保護膜を除去した状態、(c)はSiN保護膜を除去したあとにタイプII多重量子井戸構造/InP窓層をエピタキシャル成長した状態、を示す図である。
図6】本発明の実施の形態2における受光素子を示す図である。
図7】本発明の実施の形態3における受光素子を示す図である。
図8】本発明の実施の形態4における受光素子を示す図である。
図9】本発明の実施の形態5における受光素子を示し、(a)は受光素子と読み出し回路とを組み合わせた光学装置(撮像装置など)、(b)は受光素子における単一画素の部分、を示す図である。
図10】本発明の実施の形態1〜5において得られる効果を示すために、入射光の照度と読み出し回路等の電気出力との関係を示し、(a)はタイプI波長域(波長1.8μm未満帯)の感度が、波長1.8μm以上帯に比べて過度に大きい場合、(b)は本発明の各実施の形態において対象波長全域の感度を均した場合、(c)は、(b)の状態でゲイン向上の余地を利用した場合、を示す図である。
図11】実施の形態5における誘電体多層膜の透過率と波長との関係を示す図である。
図12】実施の形態5における別の誘電体多層膜の透過率と波長との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における、受光素子10を示す図である。図1には、単一の画素のみが示されているが、一次元もしくは二次元に画素が配列されたなかの一つが示されているとみてもよく、むしろそのように見るべきである。すなわち、図1は、単一画素の受光素子10とみてもよいし、一次元もしくは二次元に画素が配列された受光素子10の一部分を例示しているとみてもよい。このあとのすべての実施の形態に示されるすべての受光素子に対して、このことは共通する(以後、繰り返さない)。
受光素子10におけるIII−V族化合物半導体のエピタキシャル積層構造は次のとおりである。
(n型InGaAs吸収層15/硫黄(S)ドープn型InP基板1/タイプII多重量子井戸構造(InGaAs/GaAsSb)の受光層3/InP窓層5)
受光層3は、多重量子井戸構造により形成されるので、以後の説明では、受光層3とともに、多重量子井戸構造3のように符合を用いる。InP基板1についても、導電性の異なるInP基板が示されるが、共通に符合「1」を用いる。
タイプII多重量子井戸構造3は、InGaAs(5nm)/GaAsSb(5nm)のペア数250であり、全厚み2.5μmである。またInP窓層5は厚み0.6μmである。InGaAs吸収層15の厚みについては、このあと図4を用いて詳細に説明する。
InP窓層5には選択拡散マスクパターン36の開口部から選択拡散された亜鉛(Zn)によるp型領域6が形成されている。p型領域6は、InP窓層5から受光層3内に届くように亜鉛が選択拡散されることで形成される。p型領域6にオーミック接触する画素電極であるp側電極11の周囲は、選択拡散マスクパターン36を含めてSiNパッシベーション膜37によって被覆されている。一方、n型InGaAs吸収層15にオーミック接触するグランド電極12は、n型InP基板1の裏面側に配置されている。p側電極11はAuZnなどで形成し、p側電極11が接触する部分のp型領域6のp型キャリア濃度は1E18cm−3以上にするのがよい。また、n側電極12はAuGeNiなどで形成し、このn側電極12が接触するn型InGaAs吸収層15のn型キャリア濃度は、やはり1E18cm−3以上にするのがよい。
n型InP基板1は、硫黄(S)ドープInP(100)基板である。光はこのInP基板1の裏面側から入射される。このため、n型InP基板1の裏面に積層されたn型InGaAs吸収層15の表面に、反射防止膜(AR:Anti-Reflection Film)35が配置される。
【0025】
受光の際には、pn接合9に逆バイアス電圧、すなわち画素電極11とグランド電極12との間に、グランド電極12の電位が画素電極11より高くなるように電圧を印加する。空乏層はタイプII多重量子井戸構造の受光層3内に広く拡がり、ここに到達した光によって電子正孔対が形成される。画素電極11はグランド電極12より電位が低いので正孔を集めるように正孔に電磁気力が作用して、画素電極11に集められ、読み出し回路(ROIC:Read-Out IC)に読み出された正孔の電荷量が画素における受光の情報を形成する。読み出し回路において、画素の電荷を所定の時間ピッチで読み出すことで、画像または測定信号の強度分布等を形成することができる。
【0026】
なお、上記のpn接合は、次のように、広く解釈されるべきである。受光層内において、受光層3内のpn接合9より基板側の領域(受光層の大部分を占める)における不純物濃度が、真性半導体とみなせるほど低い不純物領域(i領域)であってもよい。すなわち上記のpn接合は、pi接合またはni接合などであってもよく、さらに、これらpi接合またはni接合におけるp型不純物濃度またはn型不純物濃度が非常に低い場合も含むものである。このことは、選択拡散によって上記のpn接合が形成される場合だけでなく、このあとの実施の形態で説明するドーピングによってpn接合を形成する場合にも当てはまることである。
【0027】
受光素子10は、タイプIIの多重量子井戸構造(InGaAs/GaAsSb)を受光層3としている。タイプIIの多重量子井戸構造(InGaAs/GaAsSb)3は、何も対策をとらなければ、感度は、図2の太い実線に示すように、波長1.7μm以下のタイプI波長域と1.7μmを超える長波長域の2つの波長域に分かれ、タイプI波長域では、波長1.5μm付近にピークをもつ山なりの感度特性を示す。この波長1.5μm付近の感度は、波長2μmの感度の約2倍程度に達する。
その理由は、図3に示すように、多重量子井戸構造3を形成する、InGaAsにおける電子の波動関数ψeと、GaAsSbにおける正孔の波動関数ψhとの重なり積分値が、その位置がずれているため、小さいからである。図3に示すように、タイプIIの遷移(吸収)T2は隣り合うGaAsSb層とInGaAs層との間で生じる。一方、タイプIの遷移T1は、同じ層内で生じるので、重なり積分はタイプIIのそれより大きい値となる。この結果、タイプIの遷移T1の吸収は、タイプIIの吸収より相当に大きくなる。図3に示す遷移T1とT2とは、バンドの端どうしを結んでいるので、各遷移T1およびT2において生じる状態間のエネルギ差最低、または最長の波長、を表す。波長2.5μm以下のすべての光は、タイプIIの遷移T2を生じることができる。同様に、波長1.7μm程度以下のすべての光は、タイプIの遷移T1を生じることができる。
【0028】
受光素子が組み込まれたセンサーでは、センサー信号は、増幅回路などを通して増幅して出力される。対象とする波長域にわたって感度が大きく変動する場合には、波長域に応じて最適な増幅率を変える必要がある。しかし、実際にはこれは容易ではなく、このような波長域による感度の変動がある受光素子は、分光分析用の検出器には適用できない。増幅率を、波長1.7μmを超える波長域の感度に合わせて大きくすると、波長1.5μm付近の出力は振り切れて飽和してしまう。一方、その逆に、波長1.7μm以下の感度に増幅率を合わせると、波長1.7μmを超える波長域の出力が弱くなってしまう。
【0029】
<本発明のポイント>
本発明のポイントは次の点にある。すなわち、n型InGaAs吸収層15を、n型InP基板1の裏面に配置した点にある。この吸収層15は、タイプIIの多重量子井戸構造の対をなす一方の層にする必要はなく、タイプI波長域に吸収帯をもち、格子整合の条件を満たすIII−V族化合物半導体であれば何でもよい。しかし、タイプIIの多重量子井戸構造の対をなす一方の層にすれば、その一方の層のみで形成された吸収層15は、厚みさえ適当に設定すれば、感度の変動における波長域に正確に合わせて吸収をすることができる。すなわち吸収すべき波長域については、当該一方の層が感度の波長変動を生じていた物自体であるので、正確にその波長域の吸収を行う。
格子整合性については、図1の受光素子10の場合、InP基板1の裏面に配置する吸収層15なので、吸収層15の上にはAR膜35を配置するだけであり、エピタキシャル層を形成しないので、あまり重要ではない。しかし、グランド電極12を配置するので、n型InP基板1と格子整合しているほうが、バイアス電圧の印加などにおいて必要な外部電圧を小さくする点で好ましい。
【0030】
吸収の程度は、材料と厚みで決まる。材料については上記のとおりであるが、厚みについては次のように設定する。図4は、InPに格子整合した厚み4.0μmのInGaAs層の透過率を示す図である。縦軸の透過率の単位は、透過率100%を1としたときの割合であり、従って0.1は10%である。図4によれば、波長1.5μmの透過率は0.0264(2.64%)である。これより、α:吸収係数(cm−1)、t:厚み(cm)、(P/Po):透過率、として、(P/Po)=exp(−αt)、の(1)式に、厚みt=4E−4cm、(P/Po)=0.0264を代入すると、波長1.5μmでのα=9086cm−1と求めることできる。波長1.7μm以下、またはタイプI波長域の光の、受光層3に入る前の光量(光束)を、入射面での光量の40%〜60%に低下するには、上記のα=9086cm−1を用いて、上記の(1)式を用いればよい。厳密には、波長1.5μmでの吸収率αは、波長1.7μm以下のタイプI波長域にわたって同一ではないが、近似的に同じであるとみて概算してよい。40%の透過率の場合、0.4=exp(−9086t)より、厚みt=1.0μmと求めることができる。また60%の透過率の場合、0.6=exp(−9086t)より、厚みt=0.56μmと求めることができる。この結果より、InGaAs吸収層15の厚みtを0.56μm以上1.0μm以下の厚みとすることで、タイプI波長域の光量を、受光層3に入る前の段階で、入射面での光量から40%以上60%以下だけ減少させることができる。
【0031】
ここで、一つの注意点がある。吸収層で吸収されると、上記のように正孔・電子対が生成し、正孔は、逆バイアス電圧が印加されているので、受光層3の側へとドリフトする。仮にInGaAs吸収層15で発生した正孔が受光層3に届くと、InGaAs吸収層15で吸収されたにも拘わらず、受光層3で受光されたものとしてカウントされる。このような正孔は、読み出し回路に読み出されることで、タイプI波長域の受光感度を高めこそすれ、低下させることはない。これでは、意図したことに反する。このような吸収層で生成した正孔のカウントを防止するために、吸収層15と受光層3との間の距離を、正孔の拡散長の1/2もしくは拡散長だけ、あければよい。
本実施の形態においては、InGaAs吸収層15と受光層3との間には、正孔の拡散長の数十倍〜数百倍以上の厚みのInP基板1がある。このため、対策をとらなくても、上記の条件は、問題なく満たされている。
【0032】
上記のInGaAs吸収層15を配置することで、図2に示すように、タイプI波長域の感度は、破線で示すように低下して、タイプI波長域より長い波長域の感度とほぼ同一の高さに揃えることができる。この結果、分光分析用の検出器に用いることが可能になる。その結果、対象波長全般においてゲインを増やす余地が生じる。この結果、読み出し回路のゲイン調整等によってタイプI波長域より長波長側も含めた対象波長域全体の感度を高めることができる。これは、本実施の形態に限らずすべての実施の形態に当てはまることである。この点について、このあと図10(実施の形態5)により詳しく説明する。
【0033】
図5は、図1に示す受光素子10を製造する方法を説明するための図である。まず図5(a)に示すように、両面ミラーのInP基板1の一方の主面にSiNなどの保護膜41を形成し、他方の主面にn型InGaAs吸収層15をエピタキシャル成長する。成長法は何でもよいが、たとえば有機金属気相成長法(MOVPE法)で成長することができる。次いで、図5(b)に示すように、一方の主面のSiN保護膜41をフッ酸等で除去する。そのSiN保護膜41を除去したあとの面に、タイプIIの多重量子井戸構造の受光層3を含むエピタキシャル積層体を形成する。このあとは、InP窓層5に選択拡散マスクパターン36を形成し、既知の製造方法に従って製造すればよい。
【0034】
(実施の形態2)
図6は、本発明の実施の形態2における受光素子10を示す図である。この受光素子10は、次のIII−V族化合物半導体の積層構造を有する。
(硫黄(S)ドープn型InP基板1/n型InGaAs吸収層15/n型正孔消去層25/タイプII(InGaAs/GaAsSb)多重量子井戸構造の受光層3/InGaAs拡散濃度分布調整層4/InP窓層5)
この受光素子10は、図1に示す実施の形態1の受光素子と比べると、つぎの点で相違する。
(1)InGaAs吸収層15がInP基板1の受光層3側に配置されている。(2)InGaAs吸収層15と受光層3との間に、正孔消去層25が挿入されている。
(3)InP窓層5とタイプII多重量子井戸構造3との間に、InGaAs拡散濃度分布調整層4が配置されている。
上記の(1)InGaAs吸収層15がInP基板1の受光層3側にあるため、そのInGaAs吸収層15で生成した正孔が受光層3に届かないように、距離をとる必要がある。本実施の形態では、InGaAs吸収層15と受光層3との間に、厚みが正孔の拡散長の1/2以上の正孔消去層25を配置する。正孔の拡散長は、ほぼ1.6μmなので、厚み0.8μm以上とするのがよい。また、正孔消去層25の厚みは正孔の拡散長以上であってもよく、このほうが正孔を消去する上では好ましい。この場合、正孔消去層25の厚みは1.6μm以上とする。正孔消去層25には、格子整合性からInPまたはAlInAsを用いるのがよい。
【0035】
InGaAs拡散濃度分布調整層4は、選択拡散によって、過剰に高濃度の不純物が多重量子井戸構造3に導入されないように設けられている。当該InGaAs拡散濃度分布調整層4の中で、不純物が高濃度の領域(InP窓層側)から低濃度の領域(多重量子井戸構造側)へと急峻に濃度が変化する。このため、InGaAs拡散濃度分布調整層4は、大別して、不純物の高濃度領域、急峻に変化する領域、および低濃度領域を含んでいる。低濃度領域は電気抵抗が高くなるが、InGaAsは、窓層に通常用いられるInPよりも小さいバンドギャップエネルギを有するので、不純物濃度を低くしても電気抵抗増大の程度、または電気伝導度の低下の程度を小さくすることができる。この結果、上記のように電圧印加状態において応答速度の低下を抑制できる。InGaAs拡散濃度分布調整層4の厚み1.0μm程度とするのがよい。ただし、このInGaAs拡散濃度分布調整層4は、必須ではない。
【0036】
他の、実施の形態2の受光素子10に備えられる層は、材料、厚み等について、実施の形態1の場合と同様にすることができる。
図2で説明した吸収層15による感度の補正、図3で説明したタイプII多重量子井戸構造からなる受光層3で生じる遷移、図4を基にした吸収層の厚みの算出、などはそのまま、本実施の形態にも適用される。図5に説明した製造方法については、少し変更する必要があるが、修正をしながら既知の方法をアレンジして製造することができる。
【0037】
(実施の形態3)
図7は、本発明の実施の形態3における受光素子10を示す図である。この受光素子10は、次のIII−V族化合物半導体の積層構造を有する。
(鉄(Fe)ドープ半絶縁性InP基板1/n型InGaAs吸収層15/n型正孔消去層25/タイプII(InGaAs/GaAsSb)多重量子井戸構造の受光層3/InGaAs拡散濃度分布調整層4/InP窓層5)
InP窓層5の表面から選択拡散マスクパターン36の開口部を通して選択拡散された亜鉛(Zn)がp型領域6を形成して先端部に、上述した意味でのpn接合9が形成されている。
【0038】
図6に示す実施の形態2の受光素子と比べると、次の点で相違する。
(1)InP基板1が鉄(Fe)ドープの半絶縁性InP基板である。InP基板は、不純物の変更は別にして、共通して(100)基板である。
(2)グランド電極のn側電極12が、n型InGaAs吸収層15上に配置されている。
(3)受光素子の側部をメサエッチングすることで形成されたメサ構造を有する。
上記の(1)における鉄(Fe)ドープの半絶縁性InP基板1は、近赤外域における透明性が高い。このため、近赤外域の受光感度を全体的に向上させることができる。上記の(2)は、InP基板がFeドープの半絶縁性としたため、n側電極12を、そのFeドープInP基板1の裏面に配置できないための措置である。すなわち、n側電極12は、n型不純物濃度を高めたn型InGaAs吸収層15上にオーミック接触される。そして、この(2)における構造を実現するために、上記(3)メサ構造が用いられている。メサ構造については、他の大きな働きがあるが、そのことについては、次の実施の形態4において説明する。
【0039】
その他の、実施の形態1または2における受光素子10に備えられる層は、材料、厚み等について、実施の形態3においても実施の形態1または2の場合と同様にすることができる。
図2で説明した吸収層15による感度の補正、図3で説明したタイプII多重量子井戸構造からなる受光層3で生じる遷移、図4を基にした吸収層の厚みの算出、などはそのまま、本実施の形態にも適用される。製造方法についても、既知の方法をアレンジして製造することができる。
【0040】
(実施の形態4)
図8は、本発明の実施の形態4における、受光素子10を示す図である。この受光素子10は、次のIII−V族化合物半導体の積層構造を有する。
(鉄(Fe)ドープ半絶縁性InP基板1/InGaAs吸収層15/n型正孔消去層25/タイプII(InGaAs/GaAsSb)多重量子井戸構造の受光層3/p型InGaAs中間層4/p型InP窓層5)
図8では、図が分かりにくくなるので、pn接合は図示していないが、上述の意味のpn接合は存在する。しかし、本実施の形態では、選択拡散によってp型領域を形成してpn接合を形成するのではなく、エピタキシャル成長中にドーピングによって不純物を導入して、pn接合を形成する。pn接合は、いうまでもなく、上述した意味でのpn接合である。したがってpi接合なども含まれる。
【0041】
図8のp型InGaAs中間層4については、大別して、不純物の高濃度領域(InP窓層側)、急峻に変化する領域、および低濃度領域(多重量子井戸構造側)の3つの領域を含むように、ドーピングを行う。この結果、多重量子井戸構造3の中に高濃度の不純物が拡散してゆく危険を除きながら、InGaAsにおける小さいバンドギャップエネルギによって、電気抵抗増大の程度、または電気伝導度の低下の程度を小さくすることができる。
【0042】
本実施の形態では、ドーピングによって各画素のpn接合を形成するので、メサ構造によって、各画素の独立性を確保することが必須となる。実施の形態1の説明の最初に述べたように、図8の受光素子を、一次元もしくは二次元に画素が配列されたなかの一つの画素とみれば、このメサ構造とすることで、より高密度な画素配列を実現することができる。さらに、選択拡散による製造よりも、製造歩留まりを高め、製造コストを低減することなどが可能になる。
【0043】
また、n側電極12は、n型正孔消去層25上にオーミック配置されるので、n型不純物の濃度は5E18cm−3以上の高濃度とするのがよい。n型正孔消去層25をInPまたはAlInAsなどで形成すること、その厚みを0.8μm以上、より好ましくは1.6μm以上とすること、などは、実施の形態3と同様である。n側電極12が、n型正孔消去層25上に配置されるので、InGaAs吸収層15は、ノンドープでもよい。
【0044】
その他の、実施の形態4の受光素子10に備えられる層は、材料、厚み等について、実施の形態1または2の場合と同様にすることができる。
図2で説明した吸収層15による感度の補正、図3で説明したタイプII多重量子井戸構造からなる受光層3で生じる遷移、図4を基にした吸収層の厚みの算出、などはそのまま、本実施の形態にも適用される。製造方法についても、既知の方法をアレンジして製造することができる。
【0045】
(実施の形態5)
図9(a)は、本発明の実施の形態5における、受光素子10を用いた光学装置(撮像装置など)50を示す。受光素子10の画素電極(図示せず)は、読み出し回路40の読み出し電極(図示せず)と、バンプ19を介して導電接続されている。図9(b)は、受光素子10における単一画素の部分を示す図である。受光素子10におけるIII−V族化合物半導体のエピタキシャル積層構造は、次のとおりである。
(硫黄(S)ドープn型InP基板1/受光層3(InGaAs/GaAsSb)のタイプII多重量子井戸構造/InP窓層5)
本実施の形態では、Sドープn型InP基板1の裏面に、コーティング膜である誘電体多層膜18が配置されている点で、他の実施の形態と相違する。この誘電体多層膜18は、タイプI波長域の光を強く反射して透過率を低下させ、それより長波長側の光はほとんど反射しないでほとんど透過させるため透過率は高い。この誘電体多層膜18を、硫黄(S)ドープn型InP基板1の裏面に付帯させることで、図2に示すように、波長域1.0μm〜2.2μmの全域で感度が均される。
【0046】
上記の感度の平準化は、図9(a)に示すように、読み出し回路40と組み合わせて光学装置50を組み上げた場合、読み出し回路40における電気出力の飽和レベルに対して、ゲインの余地を生じる。図10は、本発明の実施の形態において得られる効果を示すための、入射光の照度と読み出し回路等の出力との関係を示す図である。ただし、図10(a)〜(c)に関する説明は、実施の形態5に限定されず、実施の形態1〜4にも当てはまる。まず、図10(a)は、タイプI波長域(波長1.8μm未満帯)の感度が、波長1.8μm以上帯に比べて過度に大きい、従来の受光素子における入射光の照度と出力との関係を示す図である。図10(a)において、2つの直線は、その波長域の光を示し、その光の照度の増大につれて電気出力が増大する傾向を示す。従来の受光素子では、直線が2本あることが問題である。すなわち波長1.8μm未満帯の電気出力が過度に高く、電気出力飽和レベルKに近い。これに比べて波長1.8μm以上帯の電気出力は、波長1.8μm未満帯より相当低く、電気出力飽和レベルKにはほど遠い。波長1.8μm未満帯の電気出力が、電気出力飽和レベルKに近いため、波長1.8μm以上帯の電気出力を上げたくても上げることができない。
図10(b)は、本実施の形態のように(実施の形態1〜4でも同様である)、波長1.8μm未満帯の照度を減少させて対象波長域を均一の感度とした場合の、照度と電気出力との関係を示す。過度に高い電気出力を示す波長帯がないため、全体的に、電気出力飽和レベルKに対して上げ代の余裕がある。このため、図10(c)に示すように、読み出し回路40の制御部は、この電気素子10から読み出した信号の電気出力を波長1.8μm以上帯の光も含めて全対象波長域にわたって向上させて、感度を向上させることができる。
【0047】
実施の形態5における受光素子の誘電体多層膜18の一例を製作した。この誘電体多層膜18は、つぎの構成を備える。
(1)構造:InP基板1の裏面/SiO(厚み172.5nm)/SiN(厚み603.2nm)/SiO(厚み34.6nm)
(2)製造方法:プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって、基板温度250℃で堆積した。
(3)性能(透過率の波長依存性):
図11は、実施の形態5における誘電体多層膜の一例の、透過率の波長依存性を示す図である。上記したように、波長1.5μmにおいて透過率50%であり、波長2.1μmにおいて透過率100%である。これらの間の波長域では、透過率は滑らかに連続している。この間の波長域での透過率−波長の曲線の形状は、誘電体多層18の構成を変えることで、どのようにも変えることが可能である。その結果、図2に示すような感度の波長依存性の平準化を実現することができる。そして、その結果、図10(c)に示すように、長波長側を含む全対象域のゲインを向上させることができる。
【0048】
さらに、受光素子の誘電体多層膜18の他の例を製作した。この誘電体多層膜18は、つぎの構成を備える。
(1)構造:InP基板1の裏面/SiN(厚み394.5nm)/SiO(厚み238.6nm)/SiN(厚み135.3nm)
(2)製造方法:プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって、基板温度250℃で堆積した。
(3)性能(透過率の波長依存性):
図12は、実施の形態5における別の誘電体多層膜の例における、透過率の波長依存性を示す図である。透過率が極小を示す波長は、やや短いほうにずれて波長1.4μmであり、その極小値は50%と図11のそれと同等である。極大値の波長2.1μm、およびその極大値100%も図11のそれと同等である。これによって感度の波長依存性の平準化、および全体の感度の向上(ゲインの増大)を実現できる点においては図11に示した誘電体多層膜18と同じである。
【0049】
上記において、本発明の実施の形態および実施例について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態および実施例は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、タイプIIの多重量子井戸構造の受光層をもつ近赤外〜赤外域用の受光素子の感度を対象波長にわたって同じレベルに揃えることで、高精度の分光分析用を実現することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 InP基板、3 タイプII多重量子井戸構造の受光層、4 InGaAs拡散濃度分布調整層またはInGaAs中間層、5 InP窓層、6 p型領域、9 pn接合、10 受光素子、11 画素電極、12 グランド電極、15 吸収層、18 誘電体多層膜、19 バンプ、25 正孔消去層、35 反射防止膜、36 選択拡散マスクパターン、37 パッシベーション膜、40 読み出し回路、41 SiN保護膜、Cb 伝導帯、K 電気出力の飽和レベル、Vb 価電子帯、T1 タイプIのエネルギ差最少の遷移、T2 タイプIIのエネルギ差最少の遷移。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12