(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5991058
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】排気マニホールドガスケット
(51)【国際特許分類】
F16J 15/10 20060101AFI20160901BHJP
F16J 15/12 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
F16J15/10 W
F16J15/12 K
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-161921(P2012-161921)
(22)【出願日】2012年7月20日
(65)【公開番号】特開2014-20512(P2014-20512A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小松 明
【審査官】
竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】
実開平06−001927(JP,U)
【文献】
特開平07−019344(JP,A)
【文献】
特開平06−288474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00−15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのシリンダヘッドの排気ポート部と排気マニホールドのストレートポート部との間に介装される排気マニホールドガスケットであって、
ジルコニア系セラミックスからなる遮熱プレートと、対向する位置に互いに外側に凸となるようにビードが形成された一対の薄肉の鋼板を積層してなるビードプレートとを、両端面が前記ビードプレートになるように交互に積層し、
それらの積層された遮熱プレート及びビードプレートを一対のアウタープレートで挟持してなることを特徴とする排気マニホールドガスケット。
【請求項2】
前記排気マニホールドガスケットにおける排ガスの通路に面する側の側面を、薄肉の鋼板からなるセットプレートで覆うようにした請求項1に記載のガスケット。
【請求項3】
前記一対のアウタープレートの端部を折り曲げて、前記セットプレートで覆われた側面と反対側の側面に沿ってそれぞれ延伸させるとともに、その延伸させた部分の間に隙間を設けた請求項2に記載のガスケット。
【請求項4】
前記遮熱プレートにおける前記ビードプレートのビードと対向する表面に凸部を形成した請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排気マニホールドガスケットに関し、更に詳しくは、従来よりも遮熱性及びシール性を向上した排気マニホールドガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、内燃機関を使用する自動車エンジンや産業エンジンなどにおける排ガス規制は年々厳しくなっているが、それに加えて近年では、世界的な地球温暖化への対策の一つとして、厳しい燃費規制の導入も検討されている。それらに対応するために各自動車メーカでは、エンジン性能であるエンジン燃費改善及びエンジン排ガス低減を目的とした様々なデバイスの研究開発が進められている。
【0003】
前者の内燃機関の燃費改善には大きく分けて2つの手段がある。その1つはエンジン及び補機のフリクション低減であり、もう1つはエンジン本体の燃焼を改善することによる熱効率の向上である。フリクション低減については、吸排気バルブを停止してポンピングフリクションを低減するなどの非常に複雑なシステムが既に導入されている。また、熱効率の向上については、ハイブリッドシステムや排気エネルギー回収(ターボ、ターボコンパウンドや廃熱回収装置)などの技術が開発されている。このように近年ではエンジンの研究開発が進んでいるため、それぞれの手段は非常に高い領域に到達しており、今後選択できる燃費改善手段は非常に限られたものとなっている。
【0004】
後者のエンジンの排ガス低減にも大きく分けて2つの手段がある。その1つは、エンジン本体で排ガスの排出量を低減させる方法(例えば、EGRシステム)であり、もう1つは後処理装置を用いて排ガスを低減させる方法である。各自動車メーカ及び各車両の戦略により、いずれかの方法が選択されることになるが、上述したように近年の排ガス規制は非常に厳しいため、それら両方の方法を同時に使用するケースが一般的となっている。
【0005】
このように、厳しい排ガス規制に加えて燃費規制も導入されたことにより、燃費と排ガスを同時に改善しなければならなくなっている。しかし、燃費の改善を行うことは、燃焼効率の向上による排気損失の低減やエンジン燃料消費量の低減につながるため、結果としてエンジン排気温度の低下を招くことになる。エンジン排気温度が低下すると、エンジン後方に取り付けられた後処理において、排ガス温度の低下による排ガス浄化率が低減し、エンジンからの排ガスが増加してしまうことになる。すなわち、エンジンの燃費改善とエンジンの排ガス低減とは、トレードオフの関係にあり、それらを同時に改善することは技術的に非常に困難である。
【0006】
ところで、内燃機関であるエンジンの燃焼室では、燃焼により発生する燃焼ガス温度は非常に高い領域に到達する。この燃焼室の構成部品であるシリンダーヘッドには、その上方に吸排気バルブやそれらを駆動するカムシャフト及びロッカーアームなどの動弁系システムが一体的に取り付けられている。これらの作動部品については、潤滑のためのオイルが供給されるとともに、水を冷媒とする冷却により温度が管理されている。一般的なエンジンにおける水による冷却は、シリンダーヘッド内に成形された冷却水路であるウォータジャケット内に冷却水を循環させて、シリンダヘッド全体を冷却することにより行われる。このときのシリンダーヘッドの冷却温度は、エンジンの設計で設定された温度範囲内にコントロールされ、シリンダーヘッド及びそれに備えられた部品の耐久性を確保するようになっている。逆に言えば、エンジンの燃焼ガスが最高温度に到達するエンジンの最大負荷の馬力ポイントにおいても、シリンダーヘッドは、その最高温度に対して非常に低いレベルの温度まで冷却されているため、大きな冷却損失を生じていることになる。
【0007】
一方でエンジンには、上記のシリンダーヘッドで発生した燃焼ガスを収集してエンジン後方へ流す排気マニホールドが設けられている。この排気マニホールドの下流側には、ターボなどの排気エネルギー回収装置や排ガス浄化装置などのデバイスが配置されているのが一般的である。従って、排気マニホールドには、単に燃焼ガスを収集し後方へつなげる配管部品としての機能だけでなく、排ガスのエネルギー損失を防止してその温度低下を回避することにより、後方のデバイスの仕事量を十分に確保する(エネルギー保存する)機能も求められている。しかしながら、排気マニホールドの温度を実測すると、高温の燃焼ガスを導入する入口部の温度が出口部の温度よりも非常に低くなっていることが分かる。この事象は、上述したように、エンジンの運転負荷が増加し燃焼ガスの温度が上昇しても、エンジンのシリンダーヘッドは冷却されていることに起因するものである。
【0008】
以上のことから、エンジンにおいては2つのエネルギー損失が発生していることが分かる。1つ目は、高温である燃焼ガスのエネルギー利用が十分可能であるにもかかわらず、シリンダーヘッドの冷却によって排気マニホールドの入口部も冷却してしまうため、排ガス温度の低下を招いて、排気エネルギーの損失を生じさせていることである。2つ目は、高温状態を保ちたい排気マニホールドを冷却することで、熱交換を行った媒体であるエンジン冷却水の温度が上昇してしまうため、エンジンの無駄な冷却損失を増大させていることである。
【0009】
このようなエネルギー損失を改善する方策として、エンジンのシリンダーヘッドと排気マニホールドとの間に介装されるガスケットの遮熱性を向上することが考えられる。例えば、特許文献1は、低熱伝導度部材である軽量発泡コンクリートを金属板で挟持した排気マニホールドガスケットを提案している。
【0010】
しかしながら、上記の排気マニホールドガスケットは、軽量発泡コンクリートの強度が低いことを補うため、構成部品の接合部面の全体でシリンダーヘッド等と接触させることで接触面積を増加させているので、排ガスのシールに必要とされる面圧を十分に確保できないという問題がある。また、軽量発泡コンクリートの全体を金属板でカバーする構造であるため、その金属板が熱の通路となってしまい、軽量発泡コンクリートの遮熱性が損なわれるという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−004901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、従来よりも遮熱性及びシール性を向上した排気マニホールドガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成する本発明の排気マニホールドガスケットは、エンジンのシリンダヘッドの排気ポート部と排気マニホールドのストレートポート部との間に介装される排気マニホールドガスケットであって、ジルコニア系セラミックスからなる遮熱プレートと、
対向する位置に互いに外側に凸となるようにビードが形成された一対の薄肉の鋼板を積層してなるビードプレートとを、両端面が前記ビードプレートになるように交互に積層し、それらの積層された遮熱プレート及びビードプレートを一対のアウタープレートで挟持してなることを特徴とするものである。
【0015】
排気マニホールドガスケットにおける排ガスの通路に面する側の側面を、薄肉の鋼板からなるセットプレートで覆うことで、積層したプレート群が排ガスの通路に脱落するのを防止することができる。また、一対のアウタープレートの端部を折り曲げて、前述のセットプレートで覆われた側面と反対側の側面に沿ってそれぞれ延伸させるとともに、その延伸させた部分の間に隙間を設けることで、積層したプレート群が外部へ脱落するのを防止し、かつ遮熱性の低下を抑制することができる。
【0016】
遮熱プレートにおけるビードプレートのビードと対向する表面に凸部を形成することで、本発明の効果を更に高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の排気マニホールドガスケットによれば、ジルコニア系セラミックスからなる遮熱プレートと、表面にビードが形成されたビードプレートとを交互に積層するようにしたので、ジルコニア系セラミックスにより従来よりも熱伝導度及び熱膨張係数が低くなり、かつ機械的強度が高くなるとともに、ビードにより部材間の伝熱面積が小さくなるため、遮熱性及びシール性を従来よりも向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態からなる排気マニホールドガスケットの平面図の例である。
【
図2】本発明の実施形態からなる排気マニホールドガスケットを取り付けるディーゼルエンジンの一部断面図の例である。
【
図3】本発明の実施形態からなる排気マニホールドガスケットの断面図である。
【
図4】本発明の別の実施形態からなる排気マニホールドガスケットの断面図である。
【
図5】本発明の実施形態からなる排気マニホールドガスケットの別の例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、本発明の実施形態からなる排気マニホールドガスケットを示す。
【0021】
この排気マニホールドガスケット1は、排ガスが通過する通気穴2が中央部に形成された略楕円形のシール部3から構成されており、その両端部に形成されたボルト穴4に挿入される固定ボルトによりエンジンに取り付けられる。なお、
図1は、6気筒ディーゼルエンジン用の排気マニホールドガスケットの例であり、全体形状はこれに限定されるものではない。
【0022】
このような排気マニホールドガスケット1をディーゼルエンジンに取り付けた例を
図2に示す。
【0023】
このディーゼルエンジンは、シリンダブロック6の上面に固定されたシリンダヘッド7と、そのシリンダヘッド7に接続する排気マニホールド8とを備えている。シリンダブロック6の長手方向には、摺動可能なピストン9を収納する複数のシリンダ10が形成されている。また、シリンダヘッド7には、シリンダ10内で燃焼した排ガスが通過する排気ポート部11が形成されているとともに、その排気ポート部11を開閉する排気バルブ12が取り付けられている。排気マニホールド8は、集合部に通じる分岐通路であるストレートポート部13を介して排気ポート部11と接続しており、それらの排気ポート部11とストレートポート部13とにより排ガスの通路14が構成されている。なお、シリンダブロック6及びシリンダヘッド7には、それぞれ冷却水が流れるウォータジャケット15が形成されている。
【0024】
排気マニホールドガスケット1は、シリンダヘッド7の排気ポート部11と、排気マニホールド8のストレートポート部13との間にシール部3が介装されるようにして取り付けられる。
【0025】
この排気マニホールドガスケット1は、
図3に示すように、遮熱プレート16の両面にそれぞれ順に積層されたインナービードプレート17及びアウタービードプレート18と、それらの積層されたプレート群16、17、18を挟持する一対のアウタープレート19、19とから主に構成されている。なお、
図3は、
図2に示すX部に相当する排気マニホールドガスケット1の断面図である。
【0026】
遮熱プレート16は、ジルコニア系セラミックスの薄板から構成されている。ジルコニアの種類は特に限定するものではないが、温度変化に強いという観点から、安定化剤として希土類酸化物(例えば、酸化イットリウムなど)が添加された安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアを用いることが好ましい。ジルコニア系セラミックスは、従来のガスケットに用いられている軽量発泡コンクリートなどの遮熱材よりも、熱伝導度及び熱膨張係数が低く、かつ機械的強度が高いという特性を有している。
【0027】
インナービードプレート17及びアウタービードプレート18は、表面に環状に延びるビード20、21が形成された薄肉の鋼板からそれぞれ構成されており、対向するビード20、21が互いに外側へ凸となるように積層されている。これにより、遮熱プレート16及びアウタープレート19との間の伝熱面積が小さくなる。
【0028】
一対のアウタープレート19、19は、薄肉の鋼板から構成されており、エンジンに取り付けたときに排気ポート部11の端面及びストレートポート部13の端面にそれぞれ当接する。
【0029】
また、排気マニホールドガスケット1をエンジンに取り付けた際に排ガスの通路14に面する側面には、極薄肉の鋼板からなる笠状のセットプレート22が、一対のアウタープレート19、19の端部を挟持するようにして取り付けられており、積層されたプレート群16、17、18が排ガスの通路14へ脱落するのを防止している。更に、その反対側の側面においても、一対のアウタープレート19、19の端部を折り曲げて側面に沿ってそれぞれ延伸させることで、積層されたプレート群16、17、18が外部へ脱落するのを防止している。なお、それらの延伸部19a、19aは、伝熱経路とならないように、互いに接触することなく空隙23を形成している。
【0030】
このように、ジルコニア系セラミックスからなる遮熱プレート16と、表面にビード20、21が形成されたビードプレート17、18とを交互に積層するようにしたので、ジルコニア系セラミックスの優れた熱的及び機械的特性と、ビード20、21による部材間の伝熱面積の低下との相乗効果により、排気マニホールドガスケット1の遮熱性及びシール性を従来よりも向上できるのである。
【0031】
上記の効果を更に高めるには、
図4に示すように、遮熱プレート16におけるインナービードプレート17のビード20と対向する表面に凸部16aを形成することが考えられる。
【0032】
なお、
図3では、遮熱プレート16が1層である実施形態を示しているが、排気マニホールドガスケット1の遮熱性を更に向上するためには、
図5に示すように、遮熱プレート16とビードプレート17、18とを、両端面がアウタービードプレート18、18となるように複数積層することが望ましい。なお、
図5は遮熱プレート16を3層積層する例を示しているが、個々の遮熱プレート16の肉厚を薄くして数十層を積層することが効率的である。
【0033】
また、本発明の実施形態からなる排気マニホールドガスケット1の遮熱性をより向上するためには、排気ポート部11及びストレートポート部13の長さをそれぞれ従来よりも短く設定し、かつ排気マニホールドガスケット1の厚さを大きくすることが有効である。
【符号の説明】
【0034】
1 排気マニホールドガスケット
6 シリンダブロック
7 シリンダヘッド
11 排気ポート部
12 ストレートポート部
14 排ガスの通路
16 遮熱プレート
17 インナービードプレート
18 アウタービードプレート
19 アウタープレート
20、21 ビード
22 セットプレート
23 空隙