【実施例】
【0039】
(耐熱塗料組成物の作製)
まず、耐熱塗料組成物の作製方法について説明する。シリコーン樹脂ワニスには、ポリエステル変性シリコーン樹脂を樹脂固形分として60質量%含むポリエステル変性シリコーン樹脂ワニスを使用した。ポリエステル変性シリコーン樹脂ワニスには、溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMAC)と、沈殿防止剤とが含まれている。顔料には、酸化コバルト粉末とニッケル粉末とを含有する顔料、銅粉末とニッケル粉末とを含有する顔料、ニッケル粉末のみを含有する顔料の3種類を使用した。また、酸化コバルト粉末には、Co
3O
4粉末を用いた。
図3は、ポリエステル変性シリコーン樹脂ワニスと各顔料との配合比(質量比)を示す図である。
図3では、ポリエステル変性シリコーン樹脂ワニスと各顔料との合計質量を100としたときの各質量比を表している。
【0040】
実施例1、比較例1から3の耐熱塗料組成物では、酸化コバルト粉末とニッケル粉末とを含有する顔料を用いた。実施例1の耐熱塗料組成物では、37.5wt%のポリエステル変性シリコーン樹脂ワニスと、52.1wt%の酸化コバルト粉末と、10.4wt%のニッケル粉末とを混合したものを用いた。実施例1における顔料の配合比(質量比)は、酸化コバルト粉末が1に対してニッケル粉末が0.2である。
【0041】
比較例1の耐熱塗料組成物では、37.5wt%のポリエステル変性シリコーン樹脂ワニスと、41.7wt%の酸化コバルト粉末と、20.8wt%のニッケル粉末とを混合したものを用いた。比較例1における顔料の配合比(質量比)は、酸化コバルト粉末が1に対してニッケル粉末が0.5である。
【0042】
比較例2の耐熱塗料組成物では、37.5wt%のポリエステル変性シリコーン樹脂ワニスと、31.3wt%の酸化コバルト粉末と、31.3wt%のニッケル粉末とを混合したものを用いた。比較例2における顔料の配合比(質量比)は、酸化コバルト粉末が1に対してニッケル粉末が1である。
【0043】
比較例3の耐熱塗料組成物では、37.5wt%のポリエステル変性シリコーン樹脂ワニスと、12.5wt%の酸化コバルト粉末と、50.0wt%のニッケル粉末とを混合したものを用いた。比較例3における顔料の配合比(質量比)は、酸化コバルト粉末が1に対してニッケル粉末が4である。
【0044】
比較例4から7の耐熱塗料組成物では、銅粉末とニッケル粉末とを含有する顔料を用いた。比較例4の耐熱塗料組成物では、50.5wt%のポリエステル変性シリコーン樹脂ワニスと、41.3wt%の銅粉末と、8.3wt%のニッケル粉末とを混合したものを用いた。比較例4における顔料の配合比(質量比)は、銅粉末が1に対してニッケル粉末が0.2である。
【0045】
比較例5の耐熱塗料組成物では、50.5wt%のポリエステル変性シリコーン樹脂ワニスと、33.0wt%の銅粉末と、16.5wt%のニッケル粉末とを混合したものを用いた。比較例5における顔料の配合比(質量比)は、銅粉末が1に対してニッケル粉末が0.5である。
【0046】
比較例6の耐熱塗料組成物では、50.5wt%のポリエステル変性シリコーン樹脂ワニスと、24.8wt%の銅粉末と、24.8wt%のニッケル粉末とを混合したものを用いた。比較例6における顔料の配合比(質量比)は、銅粉末が1に対してニッケル粉末が1である。
【0047】
比較例7の耐熱塗料組成物では、50.5wt%のポリエステル変性シリコーン樹脂ワニスと、9.9wt%の銅粉末と、39.6wt%のニッケル粉末とを混合したものを用いた。比較例7における顔料の配合比(質量比)は、銅粉末が1に対してニッケル粉末が4である。
【0048】
比較例8から10の耐熱塗料組成物では、ニッケル粉末のみを含有する顔料を用いた。比較例8の耐熱塗料組成物では、45.0wt%のポリエステル変性シリコーン樹脂ワニスと、55.0wt%のニッケル粉末とを混合したものを用いた。比較例9の耐熱塗料組成物では、63.3wt%のポリエステル変性シリコーン樹脂ワニスと、36.7wt%のニッケル粉末とを混合したものを用いた。比較例10の耐熱塗料組成物では、81.7wt%のポリエステル変性シリコーン樹脂ワニスと、18.3wt%のニッケル粉末とを混合したものを用いた。
【0049】
次に、ポリエステル変性シリコーン樹脂ワニスと顔料とを混合し、これらの混合物をボールミル等に投入して練り込みを行った後に、塗布しやすいように粘度調整して各耐熱塗料組成物を作製した。
【0050】
(試験片の作製)
ブラスト処理した金属基板に各耐熱塗料組成物を塗布して試験片を作製した。金属基板には、ダクタイル鋳鉄であるFCD400と、ニッケル合金であるINCONEL713C(登録商標)とを用いた。
【0051】
(密着性試験)
各耐熱塗料組成物を塗布した試験片について、各耐熱塗料組成物で形成された被覆層の密着性試験を行った。密着性試験方法については、各耐熱塗料組成物を塗布した試験片を加熱炉に入れ、アルゴンガスによる不活性雰囲気下で、650℃、120時間保持し、被覆層の剥離の有無を評価した。
図4は、密着性試験結果を示す図である。
図4に示す密着性試験結果では、被覆層の剥離がないものを「剥離無」とし、被覆層の剥離が一部に生じたものを「一部剥離」、被覆層の剥離が全面に生じたものを「全面剥離」とした。
【0052】
実施例1の耐熱塗料組成物を塗布した試験片については、FCD400及びINCONEL713C(登録商標)ともに被覆層の剥離がなく、密着性に優れていた。これに対して、比較例1から3の耐熱塗料組成物を塗布した試験片については、FCD400及びINCONEL713C(登録商標)ともに被覆層の剥離が全面に生じた。すなわち、顔料の配合比(質量比)において、酸化コバルト粉末の割合が少なく、ニッケル粉末の割合が多いほど被覆層の密着性が低下し、酸化コバルト粉末の割合が多く、ニッケル粉末の割合が少ないほど被覆層の密着性が向上した。この結果から、酸化コバルト粉末とニッケル粉末とを含有する顔料では、酸化コバルト粉末が1に対してニッケル粉末が0.5以上の配合比(質量比)の場合には、被覆層の剥離が全面に生じ、酸化コバルト粉末が1に対してニッケル粉末が0より大きく0.5より小さい配合比(質量比)の場合には、被覆層の剥離が抑制されることがわかった。
【0053】
また、酸化コバルト粉末とニッケル粉末とを含有する顔料では、酸化コバルト粉末が1に対してニッケル粉末が0.2の配合比(質量比)の場合には、FCD400及びINCONEL713C(登録商標)ともに被覆層の剥離が無く密着性が優れていることから、少なくとも酸化コバルト粉末が1に対してニッケル粉末が0より大きく0.2以下の配合比(質量比)の場合には、被覆層の剥離が生じないようにすることが可能であることがわかった。
【0054】
比較例4、5の耐熱塗料組成物を塗布した試験片については、FCD400では被覆層が剥離したが、INCONEL713C(登録商標)では被覆層の剥離がなく密着性に優れていた。比較例6の耐熱塗料組成物を塗布した試験片については、FCD400では被覆層の剥離が一部に生じ、INCONEL713C(登録商標)では被覆層の剥離が全面に生じていた。比較例7の耐熱塗料組成物を塗布した試験片については、FCD400及びINCONEL713C(登録商標)ともに被覆層の剥離が全面に生じた。この結果から、銅粉末とニッケル粉末とを含有する顔料では、銅粉末が1に対してニッケル粉末が0.5以下の配合比(質量比)の場合に、INCONEL713C(登録商標)において被覆層の密着性が優れることがわかった。
【0055】
比較例8から10の耐熱塗料組成物を塗布した金属基板については、FCD400及びINCONEL713C(登録商標)ともに被覆層の剥離が全面に生じた。ニッケル粉末のみを含有する顔料では、FCD400及びINCONEL713C(登録商標)ともに被覆層の密着性が低下することがわかった。
【0056】
(固形物生成評価試験)
次に、各耐熱塗料組成物を塗布した試験片について固形物生成評価試験を行った。固形物生成評価試験を行う試験片については、密着性試験において密着性が優れていた実施例1、比較例4、5の耐熱塗料組成物を塗布した試験片とした。また、参考として、耐熱塗料組成物を塗布していない被覆無しの金属基板、Niメッキを施した金属基板、市販のシリコーン耐熱塗料(Al顔料を51.0質量%含有)を塗布した金属基板についても合わせて評価試験を行った。
【0057】
まず、固形物生成評価試験方法について説明する。固形物生成評価試験については、特開2011−7550号公報に記載された固形物生成の評価方法を用いた。
図5は、固形物生成評価試験装置20の構成を示す概略図である。固形物生成評価試験装置20は、気化部22と、気体供給部24と、供給管26と、加熱炉28と、排ガス処理部30と、を備えており、潤滑油や燃料油等の評価液体Lから固形物(無機炭素化合物等のデポジット)を生成して評価を行うための装置である。
【0058】
気化部22は、評価液体Lを貯留するフラスコ22aと、フラスコ22aを介して評価液体Lを加熱するヒータ22bとを有している。気体供給部24は、窒素やアルゴン等の不活性ガス、酸素または空気等のキャリアガスをフラスコ22a内に供給する機能を有しており、複数のボンベ24aやバルブ24b等で構成されている。供給管26は、気化部22から加熱炉28まで気化した評価液体Lを搬送する機能を有している。加熱炉28は、試験片Tを気化した評価液体Lに高温で曝露させるために加熱する機能を有しており、試験片Tが配置される管状体28aと、ヒータ28bと、を有している。排ガス処理部30は、排出された気化した評価液体Lを浄化する機能を有している。
【0059】
次に、固形物生成評価試験方法について説明する。気化部22で評価液体Lを気化させた後に、気体供給部24からキャリアガスを気化部22へ供給する。気化した評価液体Lは、キャリアガスと共に供給管26で搬送され、加熱炉28へ送られる。加熱炉28の管状体28a内には予め試験片Tが配置されており、試験片Tは、予め設定された加熱温度で保持されて、気化した評価液体Lに曝露される。
【0060】
評価液体Lには、潤滑油と燃料油とを8対2の混合比(質量比)で混合したものを用いた。潤滑油にはデーゼルエンジン油を使用し、燃料油にはC重油を使用した。キャリアガスにはアルゴンガスを使用し、その流量を200ml/minとした。また、加熱炉28における試験片Tの加熱温度を650℃とした。
【0061】
次に、固形物生成評価方法について説明する。固形物生成評価方法は、各耐熱塗料組成物を塗布した試験片のほかに、耐熱塗料組成物を塗布していない被覆無しのFCD400からなる金属基板をリファレンスとして同時に試験を行い、被覆無しのFCD400における固形物の堆積量に対する相対値で評価を行った。例えば、耐熱塗料組成物を塗布した試験片における固形物の堆積量(単位面積当たりの重量変化量)をAとし、被覆無しのFCD400における固形物の堆積量(単位面積当たりの重量変化量)をBとしたとき、耐熱塗料組成物を塗布した試験片における固形物の堆積率は、A/Bで算出される。
【0062】
また、耐熱塗料組成物を塗布した試験片における固形物の堆積量(単位面積当たりの重量変化量)Aについては次のように算出した。耐熱塗料組成物に含まれるポリエステル変性シリコーン樹脂は、加熱されると有機物が分解して加熱減量するので、耐熱塗料組成物を塗布した試験片における固形物の堆積量については、有機物の分解による加熱減量分を補正して算出した。すなわち、耐熱塗料組成物を塗布した試験片の試験前の単位面積当たりの重量をaとし、試験後の単位面積当たりの重量をbとし、有機物の分解による単位面積当たりの加熱減量分をcとしたとき、耐熱塗料組成物を塗布した試験片における固形物の堆積量(単位面積当たりの重量変化量)であるAは、A=b−a+cの式で算出される。なお、ポリエステル変性シリコーン樹脂における有機物の分解による加熱減量分については、予備試験を行って求めた。
【0063】
また、試験後の各耐熱塗料組成物を塗布した試験片について目視による外観観察を実施して、固形物の堆積の有無を評価し、外観観察により固形物の堆積がないと認められたものについては、更に、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)観察及びエネルギー分散X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectrometry)分析を行って固形物の堆積が無いことを確認し、その試験片における固形物の堆積量を0とした。
【0064】
図6は、固形物生成評価試験結果を示すグラフであり、
図6(a)は、金属基板にFCD400を用いた場合の固形物生成評価試験結果を示すグラフでああり、
図6(b)は、金属基板にINCONEL713Cを用いた場合の固形物生成評価試験結果を示すグラフである。
図6(a)及び
図6(b)のグラフでは、耐熱塗料組成物を塗布していない被覆無しのFCD400における固形物の堆積量を1としたときの各試験片における固形物の堆積比を棒グラフで表している。
【0065】
図6(a)に示すように、被覆無しのFCD400からなる試験片の堆積率を1.0としたとき、Niメッキした試験片の堆積率は0であり、市販の耐熱塗料(Al顔料)を塗布した試験片の堆積率は9.0であり、実施例1の耐熱塗料組成物を塗布した試験片の堆積率は0であった。この結果から、実施例1の耐熱塗料組成物を塗布した試験片は、被膜無しの試験片よりも固形物の堆積が低減されており、Niメッキした試験片と略同等の固形物生成の低減効果を有していた。
【0066】
図6(b)に示すように、被覆無しのFCD400からなる試験片の堆積率を1.0としたとき、被覆無しのINCONEL713Cからなる試験片の堆積率は0.1であり、Niメッキした試験片の堆積率は0.03であり、市販の耐熱塗料(Al顔料)を塗布した試験片の堆積率は2.3であり、実施例1の耐熱塗料組成物を塗布した試験片の堆積率は0であり、比較例5の耐熱塗料組成物を塗布した試験片の堆積率は6.1であり、比較例4の耐熱塗料組成物を塗布した試験片の堆積率は1.1であった。この結果から、実施例1の耐熱塗料組成物を塗布した試験片は、被膜無しの試験片よりも固形物の堆積が低減されており、Niメッキした試験片と略同等の固形物生成の低減効果を有していた。また、比較例4、5の耐熱塗料組成物を塗布した試験片では、被膜無しの試験片よりも固形物の堆積が増加しており、顔料に銅粉末とニッケル粉末とを含有するものについては、固形物生成の低減効果が得られなかった。
【0067】
図7は、実施例1の耐熱塗料組成物を塗布した試験片の固形物生成評価試験後における断面SEM観察結果を示す写真であり、
図7(a)は、試験片(FCD400基板)の断面SEM観察結果を示す写真であり、
図7(b)は、試験片(INCONEL713C基板)の断面SEM観察結果を示す写真である。なお、断面SEM観察については、試験後の試験片を埋込樹脂に埋め込んだ後に研磨して試料を作製した。
【0068】
実施例1の耐熱塗料組成物を塗装した試験片については、FCD400及びINCONEL713Cからなる金属基板ともに、断面SEM観察及びEDX分析の結果、固形物の堆積が認められなかった。更に、試験後においても、実施例1の耐熱塗料組成物で形成された被覆層は、FCD400及びINCONEL713Cからなる金属基板から剥離せずに密着しており、密着性に優れていることがわかった。
【0069】
また、ステンレス鋳鋼であるSCS13について、被覆無しの金属基板からなる試験片と、実施例1の耐熱塗料組成物を塗装した試験片について、上記と同様に固形物生成評価試験を行った結果、被覆無しのFCD400からなる試験片の堆積率を1.0としたとき、被覆無しのSCS13からなる試験片の堆積率は1.7であり、実施例1の耐熱塗料組成物を塗装した試験片の堆積率は0であった。実施例1の耐熱塗料組成物を塗布した試験片は、被膜無しの試験片よりも固形物の堆積が低減されており、固形物生成の低減効果を有していた。