(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
吸入室、吐出室、斜板室及びシリンダボアが形成されたハウジングと、前記ハウジングに回転可能に支持された駆動軸と、前記駆動軸の回転によって前記斜板室内で回転可能な斜板と、前記駆動軸と前記斜板との間に設けられ、前記駆動軸の回転軸心に直交する方向に対する前記斜板の傾斜角度の変更を許容するリンク機構と、前記シリンダボアに往復動可能に収納されたピストンと、前記斜板の回転により、前記傾斜角度に応じたストロークで前記ピストンを前記シリンダボア内で往復動させる変換機構と、前記傾斜角度を変更可能なアクチュエータと、前記アクチュエータを制御する制御機構とを備え、
前記ハウジングには、圧力調整室が形成され、
前記アクチュエータは、前記斜板室内で前記駆動軸に固定された固定体と、前記駆動軸に設けられ、前記回転軸心方向に移動して前記傾斜角度を変更可能な可動体と、前記固定体と前記可動体とにより区画され、前記吐出室内の冷媒の圧力により自身の容積を変更して前記可動体を移動させる制御圧室とを有し、
前記制御機構は、前記吐出室と前記圧力調整室と前記制御圧室とを連通する制御通路と、前記制御通路の開度を調整して前記可動体を移動可能に前記制御圧室内の圧力を変更可能な制御弁とを有し、
前記吐出室内の冷媒は、前記圧力調整室を介して前記制御圧室に流入し、
前記圧力調整室は、冷媒の脈動を低減するマフラとして機能し、
前記ハウジングは、前記シリンダボアが形成されるとともに、前記駆動軸を挿通する軸孔が形成されるシリンダブロックと、内部に前記吸入室及び前記吐出室が形成されるカバーとを有し、
前記圧力調整室は、前記カバーに少なくとも形成され、
前記圧力調整室は、前記軸孔を覆うように、前記カバーにおいて、前記吸入室及び前記吐出室よりも内周側に形成されていることを特徴とする容量可変型斜板式圧縮機。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を具体化した実施例1、2を図面を参照しつつ説明する。実施例1の圧縮機は容量可変型両頭斜板式圧縮機である。一方、実施例2の圧縮機は容量可変型片頭斜板式圧縮機である。これらの圧縮機は、いずれも車両に搭載されており、車両用空調装置の冷凍回路を構成している。
【0028】
(実施例1)
図1に示すように、実施例1の圧縮機は、ハウジング1と、駆動軸3と、斜板5と、リンク機構7と、複数のピストン9と、一対のシュー11a、11bと、アクチュエータ13と、
図2に示す制御機構15とを備えている。
【0029】
図1に示すように、ハウジング1は、圧縮機の前方に位置するフロントハウジング17と、圧縮機の後方に位置するリヤハウジング19と、フロントハウジング17とリヤハウジング19との間に位置する第1、2シリンダブロック21、23と、第1、2弁形成プレート39、41とを有している。
【0030】
フロントハウジング17には、前方に向かって突出するボス17aが形成されている。このボス17a内には軸封装置25が設けられている。また、フロントハウジング17内には、第1吸入室27a及び第1吐出室29aが形成されている。第1吸入室27aはフロントハウジング17の内周側に位置している。第1吐出室29aは環状に形成されており、フロントハウジング17において、第1吸入室27aの外周側に位置している。
【0031】
さらに、フロントハウジング17には、第1フロント側連通路18aが形成されている。この第1フロント側連通路18aは、前端側が第1吐出室29aに連通しており、後端側がフロントハウジング17の後端に開いている。
【0032】
リヤハウジング19には、上記の制御機構15が設けられている。また、リヤハウジング19には、第2吸入室27b、第2吐出室29b及び圧力調整室31が形成されている。圧力調整室31はリヤハウジング19の中心部分に位置している。第2吸入室27bは環状に形成されており、リヤハウジング19において、圧力調整室31の外周側に位置している。第2吐出室29bも環状に形成されており、リヤハウジング19において、第2吸入室27aの外周側に位置している。このリヤハウジング19が本発明におけるカバーに相当する。
【0033】
ここで、圧力調整室31がリヤハウジング19に形成されていることにより、この圧縮機において圧力調整室31は駆動軸3の後端に位置している。
【0034】
さらに、リヤハウジング19には、第1リヤ側連通路20aが形成されている。この第1リヤ側連通路20aは、後端側が第2吐出室29bに連通しており、前端側がリヤハウジング19の前端に開いている。
【0035】
第1シリンダブロック21と第2シリンダブロック23との間には、斜板室33が形成されている。この斜板室33は、ハウジング1における前後方向の略中央に位置している。
【0036】
第1シリンダブロック21には、複数個の第1シリンダボア21aが周方向に等角度間隔でそれぞれ平行に形成されている。また、第1シリンダブロック21には、駆動軸3を挿通させる第1軸孔21bが形成されている。この第1軸孔21b内には、第1滑り軸受22aが設けられている。なお、第1滑り軸受22aに換えて、転がり軸受を設けても良い。
【0037】
さらに、第1シリンダブロック21には、第1軸孔21bと連通して第1軸孔21bと同軸をなす第1凹部21cが形成されている。第1凹部21cは斜板室33と連通しており、斜板室33の一部となっている。第1凹部21cは、前端に向かって段状に縮径する形状とされている。第1凹部21cの前端には、第1スラスト軸受35aが設けられている。さらに、第1シリンダブロック21には、斜板室33と第1吸入室27aとを連通する第1連絡路37aが形成されている。また、第1シリンダブロック21には、後述する各第1吸入リード弁391aの最大開度を規制する第1リテーナ溝21eが凹設されている。
【0038】
さらに、第1シリンダブロック21には、第2フロント側連通路18bが形成されている。この第2フロント側連通路18bは、前端が第1シリンダブロック21の前端側に開いており、後端が第1シリンダブロック21の後端側に開いている。
【0039】
第2シリンダブロック23にも、第1シリンダブロック21と同様、複数個の第2シリンダボア23aが形成されている。各第2シリンダボア23aは、各第1シリンダボア21aと前後で対になっている。各第1シリンダボア21aと各第2シリンダボア23aとは同径に形成されている。
【0040】
また、第2シリンダブロック23には、駆動軸3を挿通させる第2軸孔23bが形成されている。第2軸孔23bは圧力調整室31と連通している。この第2軸孔23b内には、第2滑り軸受22bが設けられている。なお、第2滑り軸受22bに換えて、転がり軸受を設けても良い。上記の第1軸孔21b及び第2軸孔23bが本発明における軸孔に相当する。
【0041】
ここで、この圧縮機では、上記の圧力調整室31は、これらの第1、2軸孔21b、23bよりも大径に形成されている。これにより、この圧縮機では、第2弁形成プレート41を介して第2シリンダブロック23とリヤハウジング19とが接合することにより、圧力調整室31は、第2軸孔23bを覆う状態となる。
【0042】
また、第2シリンダブロック23には、第2軸孔23bと連通して第2軸孔23bと同軸をなす第2凹部23cが形成されている。第2凹部23cも斜板室33と連通しており、斜板室33の一部となっている。第2凹部23cは、後端に向かって段状に縮径する形状とされている。第2凹部23cの後端には、第2スラスト軸受35bが設けられている。さらに、第2シリンダブロック23には、斜板室33と第2吸入室27bとを連通する第2連絡路37bが形成されている。また、第2シリンダブロック23には、後述する各第2吸入リード弁411aの最大開度を規制する第2リテーナ溝23eが凹設されている。
【0043】
第2シリンダブロック23には、吐出ポート230と、合流吐出室231と、第3フロント側連通路18cと、第2リヤ側連通路20bと、吸入ポート330とが形成されている。吐出ポート230と合流吐出室231とは、互いに連通している。これらの吐出ポート230及び合流吐出室231は、第2シリンダブロック23の前端側寄りの位置に形成されており、ハウジング1の前後方向の略中央に位置している。合流吐出室231は、吐出ポート230を介して管路を構成する図示しない凝縮器と接続している。
【0044】
第3フロント側連通路18cは、前端側が第2シリンダブロック23の前端に開いており、後端側が合流吐出室231に連通している。この第3フロント側連通路18cは、第1シリンダブロック21と第2シリンダブロック23とが接合することで、第2フロント側連通路18bの後端側と連通する。
【0045】
第2リヤ側連通路20bは、前端側が合流吐出室231に連通しており、後端側が第2シリンダブロック23の後端に開いている。
【0046】
吸入ポート330は、第2シリンダブロック23の前端側寄りの位置に形成されており、ハウジング1の前後方向の略中央に位置している。この吸入ポート330を介して斜板室33は、管路を構成する図示しない蒸発器と接続している。
【0047】
第1弁形成プレート39は、フロントハウジング17と第1シリンダブロック21との間に設けられている。また、第2弁形成プレート41は、リヤハウジング19と第2シリンダブロック23との間に設けられている。
【0048】
第1弁形成プレート39は、第1バルブプレート390と、第1吸入弁プレート391と、第1吐出弁プレート392と、第1リテーナプレート393とを有している。第1バルブプレート390、第1吐出弁プレート392及び第1リテーナプレート393には、第1シリンダボア21aと同数の第1吸入孔390aが形成されている。また、第1バルブプレート390及び第1吸入弁プレート391には、第1シリンダボア21aと同数の第1吐出孔390bが形成されている。さらに、第1バルブプレート390、第1吸入弁プレート391、第1吐出弁プレート392及び第1リテーナプレート393には、第1吸入連通孔390cが形成されている。また、第1バルブプレート390及び第1吸入弁プレート391には、第1吐出連通孔390dが形成されている。
【0049】
各第1シリンダボア21aは、各第1吸入孔390aを通じて第1吸入室27aと連通している。また、各第1シリンダボア21aは、各第1吐出孔390bを通じて第1吐出室29aと連通している。第1吸入連通孔390cを通じて、第1吸入室27aと第1連絡路37aとが連通している。第1吐出連通孔390cを通じて、第1フロント側連通路18aと第2フロント側連通路18bとが連通している。
【0050】
第1吸入弁プレート391は、第1バルブプレート390の後面に設けられている。この第1吸入弁プレート391には、弾性変形により各第1吸入孔390aを開閉可能な第1吸入リード弁391aが複数形成されている。また、第1吐出弁プレート392は、第1バルブプレート390の前面に設けられている。この第1吐出弁プレート392には、弾性変形により各第1吐出孔390bを開閉可能な第1吐出リード弁392aが複数形成されている。第1リテーナプレート393は、第1吐出弁プレート392の前面に設けられている。この第1リテーナプレート393は、各第1吐出リード弁392aの最大開度を規制する。
【0051】
第2弁形成プレート41は、第2バルブプレート410と、第2吸入弁プレート411と、第2吐出弁プレート412と、第2リテーナプレート413とを有している。第2バルブプレート410、第2吐出弁プレート412及び第2リテーナプレート413には、第2シリンダボア23aと同数の第2吸入孔410aが形成されている。また、第2バルブプレート410及び第2吸入弁プレート411には、第2シリンダボア23aと同数の第2吐出孔410bが形成されている。さらに、第2バルブプレート410、第2吸入弁プレート411、第2吐出弁プレート412及び第2リテーナプレート413には、第2吸入連通孔410cが形成されている。また、第2バルブプレート410及び第2吸入弁プレート411には、第2吐出連通孔410dが形成されている。
【0052】
各第2シリンダボア23aは、各第2吸入孔410aを通じて第2吸入室27bと連通している。また、各第2シリンダボア23aは、各第2吐出孔410bを通じて第2吐出室29bと連通している。第2吸入連通孔410cを通じて、第2吸入室27bと第2連絡路37bとが連通している。第2吐出連通孔410dを通じて、第1リヤ側連通路20aと第2リヤ側連通路20bとが連通している。
【0053】
第2吸入弁プレート411は、第2バルブプレート410の前面に設けられている。この第2吸入弁プレート411には、弾性変形により各第2吸入孔410aを開閉可能な第2吸入リード弁411aが複数形成されている。また、第2吐出弁プレート412は、第2バルブプレート410の後面に設けられている。この第2吐出弁プレート412には、弾性変形により各第2吐出孔410bを開閉可能な第2吐出リード弁412aが複数形成されている。第2リテーナプレート413は、第2吐出弁プレート412の後面に設けられている。この第2リテーナプレート413は、各第2吐出リード弁412aの最大開度を規制する。
【0054】
この圧縮機では、第1フロント側連通路18a、第1吐出連通孔390d、第2フロント側連通路18b及び第3フロント側連通路18cによって、第1連通路18が形成されている。また、第1リヤ側連通路20a、第2吐出連通孔410d及び第2リヤ側連通路20bによって、第2連通路20が形成されている。
【0055】
また、この圧縮機では、第1、2連絡路37a、37b及び第1、2吸入連通孔390c、410cにより、第1、2吸入室27a、27bと斜板室33とが互いに連通している。このため、第1、2吸入室27a、27b内と斜板室33内とは、圧力がほぼ等しくなっている。そして、斜板室33には、吸入ポート330を通じて蒸発器を経た低圧の吸入冷媒が流入することから、斜板室33内及び第1、2吸入室27a、27b内の各圧力は、第1、2吐出室29a、29b内よりも低圧である。
【0056】
駆動軸3は、駆動軸本体30と第1支持部材43aと第2支持部材43bとで構成されている。この駆動軸本体30は、ハウジング1の前方側から後方側に向かって延びており、ボス17aから後方に向かって挿通されて、第1、2滑り軸受22a、22b内に挿通されている。これにより、駆動軸本体30、ひいては、駆動軸3は、回転軸心O周りで回転可能にハウジング1に軸支されている。駆動軸本体30の前端はボス17a内に位置しており、後端は圧力調整室31内に位置している。
【0057】
また、この駆動軸本体30には、斜板5とリンク機構7とアクチュエータ13とが設けられている。これらの斜板5とリンク機構7とアクチュエータ13とは、それぞれ斜板室33内に配置されている。
【0058】
第1支持部材43aは、駆動軸本体30の前端側に圧入されている。第1支持部材43aは、駆動軸3が回転軸心O周りで回転することにより、第1滑り軸受22a内を摺動する。また、この第1支持部材43aには、第1スラスト軸受35aと当接するフランジ430が形成されているとともに、後述する第2ピン47bが挿通される取付部(図示略)が形成されている。さらに、第1支持部材43aは、第1復帰ばね44aの前端が固定されている。この第1復帰ばね44aは、回転軸心O方向で、第1支持部材43a側から斜板室33側に向かって延びている。
【0059】
第2支持部材43bは、駆動軸本体30の後端側に圧入されている。第2支持部材43bは、駆動軸3が回転軸心O周りで回転することにより、第2滑り軸受22b内を摺動する。また、この第2支持部材43bには、第2スラスト軸受35bと当接するフランジ431が形成されている。このフランジ431は、第2スラスト軸受35bとアクチュエータ13との間に配置されている。
【0060】
斜板5は環状の平板形状をなしており、前面5aと後面5bとを有している。前面5aは、斜板室33内において圧縮機の前方に面している。また、後面5bは、斜板室33内において圧縮機の後方に面している。
【0061】
斜板5はリングプレート45に固定されている。このリングプレート45は環状の平板形状に形成されており、中心部に挿通孔45aが形成されている。斜板5は、斜板室33内において挿通孔45aに駆動軸本体30が挿通されることにより、駆動軸3に取り付けられている。
【0062】
リンク機構7はラグアーム49を有している。ラグアーム49は、斜板室33内において、斜板5よりも前方に配置されており、斜板5と第1支持部材43aとの間に位置している。ラグアーム49は、前端側から後端側に向かって略L字形状となるように形成されている。ラグアーム49は、
図3に示すように、回転軸心Oに対する斜板5の傾斜角度が最小になった時に第1支持部材43aのフランジ430と当接するようになっている。このため、この圧縮機では、ラグアーム49によって、斜板5の傾斜角度を最小値に維持することが可能となっている。また、ラグアーム49の後端側には、ウェイト部49aが形成されている。ウェイト部49aは、アクチュエータ13の周方向におよそ半周にわたって延びている。なお、ウェイト部49aの形状は適宜設計することが可能である。
【0063】
図1に示すように、ラグアーム49の後端側は、第1ピン47aによってリングプレート45の一端側と接続されている。これにより、ラグアーム49の前端側は、第1ピン47aの軸心を第1揺動軸心M1として、リングプレート45の一端側、すなわち斜板5に対し、第1揺動軸心M1周りで揺動可能に支持されている。この第1揺動軸心M1は、駆動軸3の回転軸心Oと直交する方向に延びている。
【0064】
ラグアーム49の前端側は、第2ピン47bによって第1支持部材43aと接続されている。これにより、ラグアーム49の
前端側は、第2ピン47bの軸心を第2揺動軸心M2として、第1支持部材43a、すなわち駆動軸3に対し、第2揺動軸心M2周りで揺動可能に支持されている。この第2揺動軸心M2は第1揺動軸心M1と平行に延びている。これらのラグアーム49、第1、2ピン47a、47bが本発明におけるリンク機構7に相当している。
【0065】
ウェイト部49aは、ラグアーム49の後端側、つまり、第1揺動軸心M1を基準として第2揺動軸心M2とは反対側に延在して設けられている。このため、ラグアーム49が第1ピン47aによってリングプレート45に支持されることで、ウェイト部49aはリングプレート45の溝部45bを通って、リングプレート45の後面、つまり斜板5の後面5b側に位置する。そして、斜板5が回転軸心O周りに回転することにより発生する遠心力が斜板5の後面5b側でウェイト部49aにも作用することとなる。
【0066】
この圧縮機では、斜板5と駆動軸3とがリンク機構7によって接続されることにより、斜板5は駆動軸3と共に回転することが可能となっている。また、ラグアーム49の両端がそれぞれ第1揺動軸心M1及び第2揺動軸心M2周りで揺動することにより、斜板5は傾斜角度を変更することが可能となっている。
【0067】
各ピストン9は、それぞれ前端側に第1頭部9aを有しており、後端側に第2頭部9bを有している。各第1頭部9aは各第1シリンダボア21a内を往復動可能に収納されている。これらの各第1頭部9aと第1弁形成プレート39とにより、各第1シリンダボア21a内にそれぞれ第1圧縮室21dが区画されている。各第2頭部9bは各第2シリンダボア23a内を往復動可能に収納されている。これらの各第2頭部9bと第2弁形成プレート41とにより、各第2シリンダボア23a内にそれぞれ第2圧縮室23dが区画されている。ここで、上記のように、第1シリンダボア21aと第2シリンダボア23aとが同径であることから、第1頭部9aと第2頭部9bとは同径に形成されている。
【0068】
また、各ピストン9の中央には係合部9cが形成されている。各係合部9c内には、半球状のシュー11a、11bがそれぞれ設けられている。これらのシュー11a、11bによって斜板5の回転がピストン9の往復動に変換されるようになっている。シュー11a、11bが本発明における変換機構に相当している。こうして、斜板5の傾斜角度に応じたストロークで、第1、2頭部9a、9bがそれぞれ第1、2シリンダボア21a、23a内を往復動することが可能となっている。
【0069】
ここで、この圧縮機では、斜板5の傾斜角度の変更に伴いピストン9のストロークが変化することで、第1頭部9aと第2頭部9bの各上死点位置が移動する。具体的には、
図1に示すように、斜板5の傾斜角度が最大であり、ピストン9のストロークが最大である場合には、第1頭部9aの上死点位置は第1弁形成プレート39に最も近接した位置となり、第2頭部9bの上死点位置は第2弁形成プレート41に最も近接した位置となる。一方、
図3に示すように、斜板5の傾斜角度が小さくなり、ピストン9のストロークが減少するにつれて、第2頭部9bの上死点位置は次第に第2弁形成プレート41から遠隔した位置となる。一方で、第1頭部9aの上死点位置は、ピストン9のストロークが最大である場合と殆ど変わることなく、第1弁形成プレート39に近接した位置を維持する。つまり、この圧縮機では、斜板5の傾斜角度が小さくなるに伴って、第1頭部9aの上死点位置よりも第2頭部9bの上死点位置が大きく移動することとなる。
【0070】
図1に示すように、アクチュエータ13は、斜板室33内に配置されている。アクチュエータ13は、斜板5よりも後方側に位置しており、第2凹部23c内に進入することが可能となっている。このアクチュエータ13は、可動体13aと固定体13bと制御圧室13cとを有している。制御圧室13cは、可動体13aと固定体13bとの間に形成されている。
【0071】
可動体13aは、本体部130と周壁131とを有している。本体部130は、可動体13aの後方に位置しており、回転軸心Oから離れる方向で径方向に延びている。周壁131は、本体部130の外周縁と連続し、前方から後方に向かって延びている。また、この周壁131の前端には、連結部132が形成されている。これらの本体部130、周壁131及び連結部132により、可動体13aは有底の円筒状を呈している。
【0072】
固定体13bは、可動体13aの内径とほぼ同径の円板状に形成されている。この固定体13bとリングプレート45との間には、第2復帰ばね44bが設けられている。具体的には、この第2復帰ばね44bの後端は、固定体13bに固定されており、第2復帰ばね44bの前端は、リングプレート45の他端側に固定されている。
【0073】
可動体13a及び固定体13bには、駆動軸本体30が挿通されている。これにより、可動体13aは、第2収納室23cに収納された状態で、斜板5を挟んでリンク機構7と対向した状態で配置されている。一方、固定体13bは、斜板5よりも後方で可動体13a内に配置されており、その周囲が周壁131によって取り囲まれた状態となっている。これにより、可動体13aと固定体13bとの間に制御圧室13cが形成されている。この制御圧室13cは、可動体13aの本体部130と周壁131と固定体13bとによって斜板室33から区画されている。
【0074】
また、これらの可動体13aの本体部130と周壁131と固定体13bとに加えて、駆動軸3と、リヤハウジング19と、第2シリンダブロック23とにより、圧力調整室31と制御圧室13cとは区画されている。
【0075】
この圧縮機では、駆動軸本体30が挿通されることにより、可動体13aは、駆動軸3と共に回転可能となっているとともに、斜板室33内において、駆動軸3の回転軸心O方向に移動することが可能となっている。一方、固定体13bは、駆動軸本体30に挿通された状態で、駆動軸本体30に固定されている。これにより、固定体13bは、駆動軸3と共に回転することのみ可能となっており、可動体13aのように移動することは不可能となっている。こうして、可動体13aは、回転軸心O方向に移動するに当たり、固定体13bに対して相対移動する。
【0076】
可動体13aの連結部132には、リングプレート45の他端側が第3ピン47cによって接続されている。これにより、リングプレート45の他端側、すなわち、斜板5は、第3ピン47cの軸心を作用軸心M3として、作用軸心M3周りで可動体13aに揺動可能に支持されている。この作用軸心M3は、第1、2揺動軸心M1、M2と平行に延びている。こうして、可動体13aは斜板5と連結された状態となっている。そして、この可動体13aは、斜板5の傾斜角度が最大になった時に第2支持部材43bのフランジ431と当接するようになっている。
【0077】
また、駆動軸本体30内には、後端から前方に向かって回転軸心O方向に延びる軸路3aと、軸路3aの前端から径方向に延びて駆動軸本体30の外周面に開く径路3bとが形成されている。軸路3aの後端は圧力調整室31に開いている。一方、径路3bは、制御圧室13cに開いている。これにより、制御圧室13cは、径路3b及び軸路3aを通じて、圧力調整室31と連通している。
【0078】
駆動軸本体30の先端にはねじ部3dが形成されている。このねじ部3dを介して駆動軸3は、図示しないプーリ又は電磁クラッチと接続されている。
【0079】
図2に示すように、制御機構15は、低圧通路15aと高圧通路15bと制御弁15cとオリフィス15dと、軸路3aと、径路3bとを有している。軸路3a及び径路3bは本発明における変圧通路に相当している。また、これらの低圧通路15a、高圧通路15b、軸路3a及び径路3bによって、本発明における制御通路が形成されている。
【0080】
低圧通路15aは、圧力調整室31と第2吸入室27bとに接続されている。この低圧通路15aと軸路3aと径路3bとによって、制御圧室13bと圧力調整室31と第2吸入室27bとは、互いに連通した状態となっている。高圧通路15bは、圧力調整室31と第2吐出室29bとに接続されている。高圧通路15bは、第2吐出室29b内の吐出冷媒が流通する。この高圧通路15bと軸路3aと径路3bとによって、制御圧室13bと圧力調整室31と第2吐出室29bとが連通している。また、高圧通路15bには、オリフィス15dが設けられている。
【0081】
そして、これらのように、第2吸入室27b及び第2吐出室29bと、圧力調整室31と、制御圧室13cとが接続されることにより、圧力調整室31は、第2吸入室27b及び第2吐出室29bと、制御圧室13cとの間に位置している。また、圧力調整室31は、低圧通路15a、高圧通路15b、軸路3a及び径路3bのいずれの通路断面積よりも大きな空間となるように形成されている。
【0082】
制御弁15cは低圧通路15aに設けられている。この制御弁15cは、第2吸入室27b内の圧力に基づき、低圧通路15aの開度を調整することが可能となっている。
【0083】
この圧縮機では、
図1に示す吸入ポート330に対して蒸発器に繋がる配管が接続されるとともに、吐出ポート230に対して凝縮器に繋がる配管が接続される。凝縮器は配管及び膨張弁を介して蒸発器と接続される。これらの圧縮機、蒸発器、膨張弁、凝縮器等によって車両用空調装置の冷凍回路が構成されている。なお、蒸発器、膨張弁、凝縮器及び各配管の図示は省略する。
【0084】
以上のように構成された圧縮機では、駆動軸3が回転することにより、斜板5が回転し、各ピストン9が第1、2シリンダボア21a、23a内を往復動する。このため、第1、2圧縮室21d、23dがピストンストロークに応じて容積変化を生じる。このため、この圧縮機では、第1、2圧縮室21d、23dにそれぞれ吸入冷媒を吸入する吸入行程と、第1、2圧縮室21d、23dにおいて吸入冷媒が圧縮される圧縮行程と、圧縮された吸入冷媒が第1、2圧縮室21d、23dから吐出冷媒として吐出される吐出行程等とが繰り返し行われることとなる。
【0085】
ここで、吸入行程時には、蒸発器から吸入ポート330によって斜板室33に吸入された吸入冷媒は、第1連絡路37aを経て第1吸入室27aに至る。そして、第1吸入室27aに至った吸入冷媒は、第1圧縮室21dと第1吸入室27aとの差圧により、第1吸入リード弁391aが第1吸入孔390aを開放することによって、第1圧縮室21dに吸入されることとなる。同様に、蒸発器から吸入ポート330によって斜板室33に吸入された吸入冷媒は、第2連絡路37bを経て第2吸入室27bに至る。そして、第2吸入室27bに至った吸入冷媒は、第2圧縮室23dと第2吸入室27bとの差圧により、第2吸入リード弁411aが第2吸入孔410aを開放することによって、第2圧縮室23dに吸入されることとなる。
【0086】
また、吐出行程時には、第1圧縮室21d内で圧縮された吸入冷媒が吐出冷媒として第1吐出室29aに吐出され、第1連通路18を経て合流吐出室231に至る。同様に、第2圧縮室23d内で圧縮された吸入冷媒が吐出冷媒として第2吐出室29bに吐出され、第2連通路20を経て合流吐出室231に至る。そして、合流吐出室231に至った吐出冷媒は、吐出ポート230から凝縮器に吐出される。
【0087】
そして、これらの吸入行程等が行われる間、斜板5、リングプレート45、ラグアーム49及び第1ピン47aからなる回転体には斜板5の傾斜角度を小さくするピストン圧縮力が作用する。そして、斜板5の傾斜角度が変更されれば、ピストン9のストロークの増減による容量制御を行うことが可能である。
【0088】
具体的には、制御機構15において、
図2に示す制御弁15cが低圧通路15aの開度を大きくすれば、圧力調整室31内の圧力、ひいては制御圧室13c内の圧力が第2吸入室27b内の圧力とほぼ等しくなる。このため、斜板5に作用するピストン圧縮力によって、
図3に示すように、アクチュエータ13では、可動体13aが斜板室33の前方側に向かって移動する。このため、この圧縮機では、可動体13aがラグアーム49に近接し、制御圧室13cの容積が減少する。
【0089】
これにより、第2復帰ばね44bの付勢力に抗しつつ、リングプレート45の他端側、すなわち、斜板5の他端側が作用軸心M3周りで時計回り方向に揺動する。また、ラグアーム49の後端が第1揺動軸心M1周りで時計回り方向に揺動するとともに、ラグアーム49の前端が第2揺動軸心M2周りで反時計回り方向に揺動する。このため、ラグアーム49が第1支持部材43aのフランジ430に接近する。これらにより、斜板5は、作用軸心M3を作用点とし、第1揺動軸心M1を支点として揺動する。このため、駆動軸3の回転軸心Oに対する斜板5の傾斜角度が減少し、ピストン9のストロークが減少する。このため、この圧縮機では、駆動軸3の1回転当たりの吐出容量が小さくなる。なお、
図3に示す斜板5の傾斜角度がこの圧縮機における最小傾斜角度である。
【0090】
ここで、この圧縮機では、ウェイト部49aに作用した遠心力も斜板5に付与される。このため、この圧縮機では、斜板5が傾斜角度を減少させる方向に変位し易くなっている。また、可動体13aが斜板室33の前方側に移動することで、可動体13aの前端がウェイト部49aの内側に位置する。これにより、この圧縮機では、斜板5の傾斜角度が減少した際、可動体13aの前端のおよそ半分がウェイト部49aによって覆われた状態となる。
【0091】
また、斜板5の傾斜角度が減少することにより、リングプレート45が第1復帰ばね44aの後端と当接する。これにより、第1復帰ばね44aが弾性変形し、第1復帰ばね44aの後端が第1支持部材43aに近接する。
【0092】
ここで、この圧縮機では、斜板5の傾斜角度が小さくなり、ピストン9のストロークが減少することにより、第2頭部9bの上死点位置が第2弁形成プレート41から遠隔する。このため、この圧縮機では、斜板5の傾斜角度がゼロ度に近づくことで、第1圧縮室21d側では僅かに圧縮仕事が行われる一方、第2圧縮室23d側では圧縮仕事が行われなくなる。
【0093】
一方、
図2に示す制御弁15cが低圧通路15aの開度を小さくすれば、圧力調整室31内の圧力が大きくなり、制御圧室13c内の圧力が大きくなる。このため、斜板5に作用するピストン圧縮力に抗して、アクチュエータ13では、
図1に示すように、可動体13aが斜板室33の後方側に向かって移動する。このため、この圧縮機では、可動体13aがラグアーム49から遠隔し、制御圧室13cの容積が増大する。
【0094】
これにより、作用軸心M3において、連結部132を通じて可動体13aが斜板5の下端側を斜板室33の後方側へ牽引する状態となる。これにより、斜板5の他端側が作用軸心M3周りで反時計回り方向に揺動する。また、ラグアーム49の後端が第1揺動軸心M1周りで反時計回り方向に揺動するとともに、ラグアーム49の前端が第2揺動軸心M2周りで時計回り方向に揺動する。このため、ラグアーム49が第1支持部材43aのフランジ430から離間する。これらにより、斜板5は、作用軸心M3及び第1揺動軸心M1をそれぞれ作用点及び支点とし、上述の傾斜角度が小さくなる場合と反対方向に揺動する。このため、駆動軸3の回転軸心Oに対する斜板5の傾斜角度が増大し、ピストン9のストロークが増大することで、駆動軸3の1回転当たりの吐出容量が大きくなる。なお、
図1に示す斜板5の傾斜角度がこの圧縮機における最大傾斜角度である。
【0095】
このように、この圧縮機では、制御圧室13c内の圧力が大きくなり、可動体13aと固定体13bとが遠隔することにより、制御圧室13cの容積が大きくなる。一方、
図3に示すように、制御圧室13c内の圧力が小さくなり、可動体13aと固定体13bとが近接することにより、制御圧室13cの容積が小さくなる。つまり、この圧縮機では、制御圧室13cの容積が大きくなるに連れて、駆動軸3の1回転当たりの吐出容量が大きくなる。反対に、制御圧室13cの容積が小さくなるに連れて、駆動軸3の1回転当たりの吐出容量が小さくなる。
【0096】
この圧縮機では、リヤハウジング19に形成された圧力調整室31が吐出冷媒や吸入冷媒の脈動を低減するマフラとして機能する。ここで、この圧縮機において、圧力調整室31の容積は、吐出容量が最小である場合の他、吐出容量が最小から一定の大きさとなるまでの間の制御圧室13cの容積よりも大きくなっている。
【0097】
そして、この圧縮機では、圧力調整室31が第2吸入室27b及び第2吐出室29bと、制御圧室13cとの間に配置されている。このため、この圧縮機では、第2吐出室29b内の吐出冷媒が圧力調整室31を介して制御圧室13cに流入する際、この吐出冷媒は、圧力調整室31において脈動が低減されつつ制御圧室13cに流入する。
【0098】
また、この圧縮機では、圧力調整室31により、第2吸入室27b内の吸入冷媒の脈動についても低減される。これらにより、この圧縮機では、斜板5の傾斜角度を変更するに際して、アクチュエータ13が吐出冷媒や吸入冷媒の脈動の影響を受け難くなっており、斜板5の傾斜角度を安定させることが可能となっている。
【0099】
ここで、圧力調整室31は、第1、2軸孔21b、23bよりも大径に形成されているとともに、低圧通路15a、高圧通路15b、軸路3a及び径路3bのいずれの通路断面積よりも大きく形成されていることから、十分な容積を有している。このため、この圧縮機では、圧力調整室31がマフラとして好適に機能し、吐出冷媒や吸入冷媒の脈動を十分に低減することが可能となっている。
【0100】
特に、この圧縮機では、斜板5の傾斜角度がゼロ度に近づくに連れて、制御圧室13cの容積が小さくなる。さらに、この圧縮機では、傾斜角度がゼロ度に近づくことにより、第2圧縮室23d側では圧縮仕事が行われない。これらのため、傾斜角度がゼロ度に近づくことにより、アクチュエータ13では吐出冷媒や吸入冷媒の脈動による影響が顕著となりなり易い。この点、この圧縮機では、上記のように圧力調整室31によって吐出冷媒等の脈動を低減できるため、制御圧室13cの容積が小さい場合、すなわち、吐出容量が小さい場合であっても斜板5の傾斜角度が安定する。
【0101】
したがって、実施例1の圧縮機は、好適な吐出容量で作動可能である。
【0102】
(実施例2)
図4に示すように、実施例2の圧縮機は、ハウジング201と、駆動軸203と、斜板205と、リンク機構207と、複数のピストン209と、複数対のシュー211a、211bと、アクチュエータ213と、
図5に示す制御機構16とを備えている。
【0103】
図4に示すように、ハウジング201は、圧縮機の前方に位置するフロントハウジング217と、圧縮機の後方に位置するリヤハウジング219と、フロントハウジング217とリヤハウジング219との間に位置するシリンダブロック221と、弁形成プレート223とを有している。
【0104】
フロントハウジング217は、前方で圧縮機の上下方向に延びる前壁217aと、前壁217aと一体化され、圧縮機の前方から後方に向かって延びる周壁217bとを有している。これらの前壁217aと周壁217bとにより、フロントハウジング217は有底の略円筒形状をなしている。また、これらの前壁217aと周壁217bとにより、フロントハウジング217内には斜板室225が形成されている。
【0105】
前壁217aには、前方に向かって突出するボス217cが形成されている。このボス217c内には、軸封装置227が設けられている。また、ボス217c内には、圧縮機の前後方向に延びる第1軸孔217dが形成されている。この第1軸孔217d内には第1滑り軸受229aが設けられている。
【0106】
周壁217bには、斜板室225と連通する吸入ポート250が形成されている。この吸入ポート250を通じて、斜板室225は図示しない蒸発器と接続されている。
【0107】
リヤハウジング219には、制御機構16の一部が設けられている。また、リヤハウジング219には、第1圧力調整室32aと、吸入室34と、吐出室36とが形成されている。第1圧力調整室32aは、リヤハウジング219の中心部分に位置している。吐出室36はリヤハウジング219の外周側に環状に位置している。また、吸入室34は、リヤハウジング219において、第1圧力調整室32aと吐出室36との間で環状に形成されている。吐出室36は図示しない吐出ポートと接続している。このリヤハウジング219も本発明におけるカバーに相当する。
【0108】
シリンダブロック221には、ピストン209と同数個のシリンダボア221aが周方向に等角度間隔で形成されている。各シリンダボア221aの前端側は斜板室225と連通している。また、シリンダブロック221には、後述する吸入リード弁61aの最大開度を規制するリテーナ溝221bが形成されている。
【0109】
さらに、シリンダブロック221には、斜板室225と連通しつつ、圧縮機の前後方向に延びる第2軸孔221cが貫設されている。第2軸孔221c内には第2滑り軸受229bが設けられている。上記の第1軸孔217d及び第2軸孔221cも本発明における軸孔に相当する。
【0110】
ここで、この圧縮機では、上記の第1圧力調整室32aは、これらの第1、2軸孔217d、221cよりも大径に形成されている。これにより、この圧縮機においても、弁形成プレート223を介してシリンダブロック221とリヤハウジング219とが接合することにより、第1圧力調整室32aは、第2軸孔221cを覆う状態となる。
【0111】
また、シリンダブロック221には、ばね室221dが形成されている。このばね室221dは、斜板室225と第2軸孔221cとの間に位置している。ばね室221d内には、復帰ばね237が配置されている。この復帰ばね237は、傾斜角度が最小になった斜板205を斜板室225の前方に向けて付勢する。また、シリンダブロック221には、斜板室225と連通する吸入通路239が形成されている。
【0112】
この圧縮機では、吸入通路239を通じて斜板室225と吸入室34とが連通している。このため、吸入室34b内と斜板室225内とは、圧力がほぼ等しくなっている。そして、斜板室225には、吸入ポート250を通じて蒸発器を経た低圧の吸入冷媒が流入することから、斜板室225内及び吸入室34内の各圧力は、吐出室36内よりも低圧である。
【0113】
弁形成プレート223は、リヤハウジング219とシリンダブロック221との間に設けられている。この弁形成プレート223は、バルブプレート60と、吸入弁プレート61と、吐出弁プレート63と、リテーナプレート65とからなる。
【0114】
バルブプレート60、吐出弁プレート63及びリテーナプレート65には、シリンダボア221aと同数の吸入孔60aが形成されている。また、バルブプレート60及び吸入弁プレート61には、シリンダボア221aと同数の吐出孔60bが形成されている。各シリンダボア221aは、各吸入孔60aを通じて吸入室34と連通しているとともに、各吐出孔60bを通じて吐出室36と連通している。さらに、バルブプレート60、吸入弁プレート61、吐出弁プレート63及びリテーナプレート65には、第1連通孔60cと第2連通孔60dとが形成されている。第1連通孔60cにより、吸入室34と吸入通路239とが連通している。
【0115】
吸入弁プレート61は、バルブプレート60の前面に設けられている。この吸入弁プレート61には、弾性変形により各吸入孔60aを開閉可能な吸入リード弁61aが複数形成されている。また、吐出弁プレート63は、バルブプレート60の後面に設けられている。この吐出弁プレート63には、弾性変形により各吐出孔60bを開閉可能な吐出リード弁63aが複数形成されている。リテーナプレート65は、吐出弁プレート63の後面に設けられている。このリテーナプレート65は、吐出リード弁63aの最大開度を規制する。
【0116】
駆動軸203は、ボス217c側からハウジング201の後方側に向かって挿通されている。駆動軸203は、前端側がボス217c内において軸封装置227に挿通されているとともに、第1軸孔217d内において第1滑り軸受229aによって軸支されている。また、駆動軸203の後端側が第2軸孔221c内において第2滑り軸受229bによって軸支されている。こうして、駆動軸203は、ハウジング201に対して回転軸心O周りで回転可能に支持されている。そして、第2軸孔221c内には、駆動軸203の後端との間に第2圧力調整室32bが区画されている。この第2圧力調整室32bは、第2連通孔60dを通じて第1圧力調整室32aと連通している。これらの第1、2圧力調整室32a、32bにより、圧力調整室32が形成されている。
【0117】
また駆動軸3の後端には、シールリング249a、249bが設けられている。圧力調整室32は、各シールリング249a、249bによって封止され、斜板室225と圧力調整室32とが非連通となっている。
【0118】
駆動軸203には、リンク機構207と、斜板205と、アクチュエータ213とが取り付けられている。リンク機構207は、ラグプレート251と、ラグプレート251に形成された一対のラグアーム253と、斜板205に形成された一対の斜板アーム205eとからなる。なお、同図では、ラグアーム253及び斜板アーム205eについて、それぞれ一方のみを図示している。
図6についても同様である。
【0119】
図4に示すように、ラグプレート251は、略円環状に形成されている。このラグプレート251は、駆動軸203に圧入されており、駆動軸203と一体で回転可能となっている。このラグプレート251は、斜板室225内の前端側に位置しており、斜板205よりも前方に配置されている。また、ラグプレート251と前壁217aとの間には、スラスト軸受255が設けられている。
【0120】
ラグプレート251には、ラグプレート251の前後方向に延びる円筒状のシリンダ室251aが凹設されている。このシリンダ室251aは、ラグプレート251の後端面から、ラグプレート251内においてスラスト軸受255の内側となる箇所まで延びている。
【0121】
各ラグアーム253は、ラグプレート251から後方に向かって延びている。また、ラグプレート251には、各ラグアーム253の間となる位置に摺動面251bが形成されている。
【0122】
斜板205は、環状の平板形状をなしており、前面205aと後面205bとを有している。前面205aには、斜板205の前方に向かって突出するウェイト部205cが形成されている。このウェイト部205cは、斜板205の傾斜角度が最大となった際にラグプレート251と当接するようになっている。また、斜板205の中心には、挿通孔205dが形成されている。この挿通孔205dに駆動軸203が挿通されている。
【0123】
各斜板アーム205eは、前面205aに形成されている。各斜板アーム205eは、前面205aから前方に向かって延びている。また、斜板205には、略半球状の凸部205gが前面205aに突設されており、前面205aと一体となっている。この凸部205gは、各斜板アーム
205e同士の間に位置している。
【0124】
この圧縮機では、各斜板アーム205eを各ラグアーム253の間に挿入することにより、ラグプレート251と斜板205とが連結している。これにより、斜板205は、ラグプレート251と共に斜板室225内で回転可能となっている。このように、ラグプレート251と斜板205とが連結することにより、各斜板アーム205eでは、先端側がそれぞれ摺動面251bに当接する。そして、各斜板アーム205eが摺動面251bを摺動することにより、斜板205は、回転軸心Oに直交する方向に対する自身の傾斜角度について、上死点位置Tをほぼ維持しつつ、同図に示す最大傾斜角度から、
図6に最小傾斜角度まで変更することが可能となっている。
【0125】
図4に示すように、アクチュエータ213は、ラグプレート251と、可動体213aと、制御圧室213bとからなる。ラグプレート251は、上記のようにリンク機構207を構成するとともに、本発明における固定体としても機能する。
【0126】
可動体213aは駆動軸203に挿通されており、駆動軸203に摺接しつつ回転軸心O方向に移動可能となっている。この可動体213aは駆動軸203と同軸の円筒状をなしており、スラスト軸受255よりも小径に形成されている。可動体213aは、後端側から前端側に向かって径が拡大するように形成されている。
【0127】
また、可動体213aの後端には、作用部234が一体で形成されている。作用部234は、回転軸心O側から斜板205の上死点位置T側に向かって垂直に延びており、凸部205gと点接触している。これにより、可動体213aは、ラグプレート251及び斜板205と一体回転可能となっている。
【0128】
可動体213aは、シリンダ室251a内に自身の前端側を進入させことにより、ラグプレート251に嵌合することが可能となっている。そして、可動体
213aの前端側がシリンダ室251a内に最も進入した状態では、可動体213aの前端がシリンダ室251a内において、スラスト軸受255の内側となる箇所まで至ることになる。
【0129】
制御圧室213bは、可動体
213aの前端側と、シリンダ室251aと、駆動軸203との間に形成されている。この制御圧室213bは、可動体
213a、ラグプレート251及び駆動軸203によって斜板室225から区画されているとともに、圧力調整室32から区画されている。
【0130】
駆動軸203内には、駆動軸203の後端から前端に向かって回転軸心O方向に延びる軸路203aと、軸路203aの前端から径方向に延びて駆動軸203の外周面に開く径路203bとが形成されている。軸路203aの後端は圧力調整室32に開いている。一方、径路203bは、制御圧室213bに開いている。これらの軸路203a及び径路203bにより、圧力調整室32と制御圧室213bとが連通している。
【0131】
また、駆動軸203は、先端に形成されたねじ部203eによって、実施例1の圧縮機と同様、図示しないプーリ又は電磁クラッチと接続される。
【0132】
各ピストン209は、各シリンダボア221a内にそれぞれ収納されており、各シリンダボア221a内を往復動可能となっている。これらの各ピストン209と弁形成プレート223とによって各シリンダボア221a内には圧縮室257が区画されている。
【0133】
また、各ピストン209には、係合部209aがそれぞれ凹設されている。この係合部209a内には、半球状のシュー211a、211bがそれぞれ設けられている。各シュー211a、211bは、斜板205の回転を各ピストン209の往復動に変換している。これらの各シュー211a、211bも本発明における変換機構に相当する。こうして、斜板205の傾斜角度に応じたストロークで、各ピストン209がそれぞれシリンダボア221a内を往復動することが可能となっている。
【0134】
図5に示すように、制御機構16は、低圧通路16aと高圧通路16bと制御弁16cとオリフィス16dと、軸路203aと、径路203bとを有している。軸路203a及び径路203bは本発明における変圧通路に相当している。また、これらの低圧通路16a、高圧通路16b、軸路203a及び径路203bによって、本発明における制御通路が形成されている。
【0135】
低圧通路16aは、圧力調整室32と吸入室34とに接続されている。この低圧通路16aと軸路203aと径路203bとによって、制御圧室213bと圧力調整室32と吸入室34とは、互いに連通した状態となっている。高圧通路16bは、圧力調整室32と吐出室36とに接続されている。高圧通路16bは、吐出室36内の吐出冷媒が流通する。この高圧通路16bと軸路203aと径路203bとによって、制御圧室213bと圧力調整室32と吐出室36とが連通している。また、高圧通路16bには、オリフィス16dが設けられている。
【0136】
そして、これらのように、吸入室34及び吐出室36と、圧力調整室32と、制御圧室213cとが接続されることにより、圧力調整室32は、吸入室34及び吐出室36と、制御圧室213cとの間に位置している。また、圧力調整室32は、低圧通路16a、高圧通路16b、軸路203a及び径路203bのいずれの通路断面積よりも大きな空間となるように形成されている。
【0137】
制御弁16cは低圧通路16aに設けられている。この制御弁16cは、吸入室34内の圧力に基づき、低圧通路16aの開度を調整することが可能となっている。
【0138】
この圧縮機では、
図1に示す吸入ポート250に対して蒸発器に繋がる配管が接続されるとともに、吐出ポートに対して凝縮器に繋がる配管が接続される。こうして、実施例1の圧縮機と同様、この圧縮機も蒸発器、膨張弁、凝縮器等と共に車両用空調装置の冷凍回路を構成している。
【0139】
以上のように構成された圧縮機では、駆動軸203が回転することにより、斜板205が回転し、各ピストン209が各シリンダボア221a内を往復動する。このため、圧縮室257がピストンストロークに応じて容積を変化させる。このため、蒸発器から吸入ポート250によって斜板室225に吸入された吸入冷媒は、吸入通路239から吸入室34を経て圧縮室257内で圧縮される。そして、圧縮室257内で圧縮された吸入冷媒は、吐出冷媒として吐出室36に吐出され、吐出ポートから凝縮器に吐出される。
【0140】
そして、実施例1の圧縮機と同様、この圧縮機では、斜板205の傾斜角度を変更してピストン209のストロークを増減させることにより、容量制御を行うことが可能である。
【0141】
具体的には、制御機構16において、
図5に示す制御弁16cが低圧通路16aの開度を大きくすれば、圧力調整室32内の圧力、ひいては制御圧室213c内の圧力が吸入室34b内の圧力とほぼ等しくなる。このため、斜板205に作用するピストン圧縮力によって、
図4に示すように、アクチュエータ213では、可動体213aが回転軸心O方向で斜板205側からラグプレート251側に向かってシリンダ室251a内を摺動することにより、制御圧室213bの容積が減少する。そして、可動体213aの前端側がシリンダ室251a内に進入する。
【0142】
また同時に、この圧縮機では、各斜板アーム
205eが回転軸心Oから遠隔するように、摺動面251bを摺動する。このため、斜板205では、上死点位置Tをほぼ維持しつつ、下死点側が時計回り方向に揺動する。こうして、この圧縮機では、駆動軸203の回転軸心Oに対する斜板205の傾斜角度が増大する。これにより、この圧縮機では、ピストン209のストロークが増大し、駆動軸203の1回転当たりの吐出容量が大きくなる。なお、
図4に示す斜板205の傾斜角度がこの圧縮機における最大傾斜角度である。
【0143】
一方、
図5に示す制御弁16cが低圧通路16aの開度を小さくすれば、圧力調整室32の圧力が大きくなり、制御圧室213c内の圧力が大きくなる。このため、
図6に示すように、可動体213aがラグプレート251から遠隔しつつ、斜板205側に向かって回転軸心O方向にシリンダ室251a内を摺動することから、アクチュエータ213では制御圧室213bの容積が増大する。
【0144】
これにより、この圧縮機では、作用部234が凸部205gを斜板室225の後方に向かって押圧する。このため、各斜板アーム
205eが回転軸心Oに近接するように、摺動面251bを摺動する。これにより、斜板205では、上死点位置Tをほぼ維持しつつ下死点側が反時計回り方向に揺動する。こうして、この圧縮機では、駆動軸203の回転軸心Oに対する斜板5の傾斜角度が減少する。これにより、この圧縮機では、ピストン209のストロークが減少し、駆動軸203の1回転当たりの吐出容量が小さくなる。なお、
図6に示す斜板205の傾斜角度がこの圧縮機における最小傾斜角度である。
【0145】
実施例1の圧縮機と同様、この圧縮機においても、圧力調整室32が吐出冷媒や吸入冷媒の脈動を低減するマフラとして機能する。ここで、この圧縮機において、圧力調整室32の容積は、吐出容量が最大である場合の他、吐出容量が最大から一定の大きさとなるまでの間の制御圧室213bの容積よりも大きくなっている。
【0146】
そして、この圧縮機では、圧力調整室32が吸入室34及び吐出室36と、制御圧室213bとの間に配置されている。このため、この圧縮機では、吐出室36内の吐出冷媒が圧力調整室32を介して制御圧室213bに流入する際、この吐出冷媒は、圧力調整室32において脈動が低減されつつ制御圧室213bに流入する。また、この圧縮機では、圧力調整室32により、吸入室34内の吸入冷媒の脈動についても低減される。これらにより、この圧縮機でも、斜板205の傾斜角度を変更するに際して、アクチュエータ213が吐出冷媒や吸入冷媒の脈動の影響を受け難くなっており、斜板205の傾斜角度を安定させることが可能となっている。
【0147】
また、この圧縮機では、第1圧力調整室32aと第2圧力調整室32bとによって圧力調整室32が形成されており、第1圧力調整室32aは、第1、2軸孔217d、221cよりも大径に形成されている。さらに、圧力調整室32は、低圧通路16a、高圧通路16b、軸路203a及び径路203bのいずれの通路断面積よりも大きく形成されている。これらのため、この圧縮機においても圧力調整室32が十分な容積を有している。これにより、この圧縮機でも圧力調整室32によって、吐出冷媒や吸入冷媒の脈動を十分に低減することが可能となっている。
【0148】
特に、この圧縮機では、斜板205の傾斜角度が大きくなるに連れて、制御圧室213bの容積が小さくなり、斜板205の傾斜角度が最大、すなわち、吐出容量が最大である時に制御圧室213bの容積が最小となる。このため、この圧縮機では、実施例1の圧縮機とは反対に、吐出容量が最大の状態から吐出容量が小さくなるように変化させる際、アクチュエータ213では、吐出冷媒や吸入冷媒の脈動による影響が顕著になり易い。しかし、この圧縮機でも、上記のように圧力調整室32によって吐出冷媒等の脈動を低減できるため、吐出容量が最大の状態から吐出容量の変化が開始する場合であっても斜板205の傾斜角度が安定する。この圧縮機における他の作用は、実施例1の圧縮機と同様である。
【0149】
以上において、本発明を実施例1、2に即して説明したが、本発明は上記実施例1、2に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0150】
例えば、実施例1の圧縮機における制御機構15について、高圧通路15bに対して制御弁15cを設けるとともに、低圧通路15aにオリフィス15dを設ける構成としても良い。この場合には、制御弁15cによって、高圧通路15b開度を調整することが可能となる。これにより、第2吐出室29b内の高圧によって制御圧室13bを迅速に高圧とすることができ、迅速な圧縮容量の減少を行うことが可能となる。実施例2の圧縮機における制御機構16についても同様である。
【0151】
また、実施例2の圧縮機において、各斜板アーム205eとラグアーム253とを連結ピン等によって揺動可能に連結することによって、ラグプレート251と斜板205とを連結しても良い。
【0152】
さらに、実施例1の圧縮機において、圧力調整室31はリヤハウジング19のみに形成されているが、これに限らず、リヤハウジング19及び第2シリンダブロック23に形成されていても良く、第2シリンダブロック23のみに形成されていても良い。
【0153】
また、実施例2の圧縮機において、圧力調整室32は、リヤハウジング219に形成された第1圧力調整室32aのみで構成されても良く、シリンダブロック221に形成された第2圧力調整室32bのみで構成されていても良い。